説明

制振建物、制振システム、制振方法

【課題】剛性の異なる2つの構造物の間を制振部材で連結することにより制振する制振建物において、風荷重などの静的な荷重が作用する場合であっても低剛性の構造物に大きな変形が生じないようにする。
【解決手段】制振建物10は、異なる固有周期を有する外部構造20及び内部構造30と、一以上の高さ位置において内部構造30と外部構造20とを連結するように設置され、内部構造30と外部構造20との相対変位に応じて、変形することにより振動エネルギーを吸収する制振ダンパー41と、制振ダンパー41の変形を許容した状態と、制振ダンパー41の変形を拘束した状態とを実現しうるロック手段42と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固有周期の異なる複数の構造系を制振ダンパーにより連結することにより構成された制振建物及びこのような制振建物における制振システム及び制振方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、地震力や風荷重による大きな水平力が入力されると、それに応じて、大きな変位が生じるため、柱や梁の本数を増やす、柱や梁の断面積を大きくする、又は柱梁架構内に耐震壁を設けるなどの方法により、耐震性を向上している。しかしながら、これらの方法では、建物内の平面計画の障害となるなどの問題があった。
【0003】
そこで、本願出願人らは、建物を構成するラーメン架構を有する外部建物内に、剛性が高く振動特性の異なる耐震壁やラーメン架構などの独立部材要素を独立して設け、この外部建物と独立部材要素との間を制振ダンパーにより接続した制振構造を提案している。このような制振構造によれば、外部建物と独立部材要素とが変形モードが異なることを利用して、制振ダンパーにより効率よく振動エネルギーを吸収することができ、これにより外部建物の剛性を高くしなくても耐震性を向上できるので、上記のような問題を解消できる(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006―241783号公報
【特許文献2】特開2005―180089号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、建物に作用する外力としては上記のような地震荷重のような振動荷重以外にも、台風や強風などの風荷重が作用する。このような風荷重は、地震荷重と異なり、作用方向や大きさがあまり変化しない静的な荷重である。このため、上記のように外部建物の剛性を低くしてしまうと、大きな台風などによる風荷重が作用した際に、外部建物が大きく変形してしまうという問題がある。
【0006】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、固有周期の異なる2つの構造物の間を制振部材で連結することにより制振する建物において、風荷重などの静的な荷重が作用する場合であっても低剛性の構造物に大きな変形が生じないようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の制振建物は、異なる固有周期を有する複数の構造系と、複数の高さ位置において前記複数の構造系のうち隣り合う構造系を連結するように設置され、前記隣り合う構造系の相対変位に応じて、変形することにより振動エネルギーを吸収する制振ダンパーと、前記制振ダンパーの変形を許容した状態と、前記制振ダンパーの変形を拘束した状態とを実現し得る拘束手段と、前記複数の構造系に作用すると予測される風荷重に関する風荷重予測情報の入力を受け付ける入力受付手段と、前記入力部に入力された風荷重予測情報に基づき、前記拘束手段により前記制振ダンパーの変形を許容した状態と、前記制振ダンパーの変形を拘束した状態とを切り替える制御手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
ここで、前記制御手段は、常時は、前記拘束手段を前記制振ダンパーの変形を許容した状態とし、前記入力受付手段に入力された風荷重予測情報に基づき、前記複数の構造系が風荷重を受けると予測される場合には、風荷重の大きさに応じて、最も低い位置の前記制振ダンパー、又は、最も低い位置から、最も高い位置以外の所定の高さ位置までの各高さ位置の前記制振ダンパーを前記拘束手段により変形が拘束された状態としてもよい。
【0009】
また、前記制振ダンパーは、外部からの制御信号に応じて減衰係数が可変であるように設けられてもよく、前記制御手段は、常時は、前記拘束手段を前記制振ダンパーの変形を許容した状態とし、前記入力受付手段に入力された風荷重予測情報に基づき、前記複数の構造系が風荷重を受けると予測される場合には、風荷重の大きさに応じて、最も低い位置の前記制振ダンパー、又は、最も低い位置から、最も高い位置以外の所定の高さ位置までの各高さ位置の前記制振ダンパーを前記拘束手段により変形が拘束された状態とし、他の制振ダンパーの減衰係数を前記複数の構造系のうち少なくも一つの構造系の周波数伝達関数のピークにおける周期が所定の値となるように調整してもよい。
【0010】
また、本発明の制振システムは、異なる固有周期を有する複数の構造系からなる建物を制振する制振システムであって、複数の高さ位置において前記複数の構造系のうち隣り合う構造系を連結するように設置され、前記隣り合う構造系の相対変位に応じて、変形することにより振動エネルギーを吸収する制振ダンパーと、外部からの制御信号により、前記制振ダンパーの変形を許容した状態と、前記制振ダンパーの変形を拘束した状態とを実現し得る拘束手段と、前記建物に作用すると予測される風荷重に関する風荷重予測情報の入力を受け付ける入力受付手段と、前記入力部に入力された風荷重予測情報に基づき、前記拘束手段により前記制振ダンパーの変形を許容した状態と、前記制振ダンパーの変形を拘束した状態とを切り替える制御手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
ここで、前記制御手段は、常時は、前記拘束手段を前記制振ダンパーの変形を許容した状態とし、前記入力受付手段に入力された風荷重予測情報に基づき、前記建物が風荷重を受けると予測される場合には、風荷重の大きさに応じて、最も低い位置の前記制振ダンパー、又は、最も低い位置から、最も高い位置以外の所定の高さ位置までの各高さ位置の前記制振ダンパーを前記拘束手段により変形が拘束された状態としてもよい。
【0012】
また、前記制振ダンパーは、外部からの制御信号に応じて減衰係数が可変であるように設けられてもよく、前記制御手段は、常時は、前記拘束手段を前記制振ダンパーの変形を許容した状態とし、前記入力受付手段に入力された風荷重予測情報に基づき、前記建物が風荷重を受けると予測される場合には、風荷重の大きさに応じて、最も低い位置の前記制振ダンパー、又は、最も低い位置から、最も高い位置以外の所定の高さ位置までの各高さ位置の前記制振ダンパーを前記拘束手段により変形が拘束された状態とし、他の制振ダンパーの減衰係数を前記複数の構造系のうち少なくも一つの構造系の周波数伝達関数のピークにおける周期が所定の値となるように調整してもよい。
【0013】
また、本発明の制振方法は、異なる固有周期を有する複数の構造系と、複数の高さ位置において前記複数の構造系のうち隣り合う構造系を連結するように設置され、前記隣り合う構造系の相対変位に応じて、変形することにより振動エネルギーを吸収する制振ダンパーと、前記制振ダンパーの変形を許容した状態と、前記制振ダンパーの変形を拘束した状態とを実現し得る拘束手段とを備える制振建物における制振方法であって、前記制振建物に作用すると予測される風荷重に関する風荷重予測情報に基づき、前記拘束手段により前記制振ダンパーの変形を許容した状態と、前記制振ダンパーの変形を拘束した状態とを切り替えることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の制振方法は、異なる固有周期を有する複数の構造系と、複数の高さ位置において前記複数の構造系のうち隣り合う構造系を連結するように設置され、前記隣り合う構造系の相対変位に応じて、変形することにより振動エネルギーを吸収する制振ダンパーと、前記制振ダンパーの変形を許容した状態と、前記制振ダンパーの変形を拘束した状態とを実現し得る拘束手段とを備える制振建物における制振方法であって、常時は、前記拘束手段を前記制振ダンパーの変形を許容した状態とし、前記制振建物に作用すると予測される風荷重に関する風荷重予測情報に基づき、前記制振建物が風荷重を受ける場合には、風荷重の大きさに応じて、最も低い位置の前記制振ダンパー、又は、最も低い位置から、最も高い位置以外の所定の高さ位置までの各高さ位置の前記制振ダンパーを前記拘束手段により変形が拘束された状態とすることを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明の制振方法は、異なる固有周期を有する複数の構造系と、複数の高さ位置において前記複数の構造系のうち隣り合う構造系を連結するように設置され、前記隣り合う構造系の相対変位に応じて、変形することにより振動エネルギーを吸収する、減衰係数が可変である制振ダンパーと、前記制振ダンパーの変形を許容した状態と、前記制振ダンパーの変形を拘束した状態とを実現し得る拘束手段とを備える制振建物における制振方法であって、常時は、前記拘束手段を前記制振ダンパーの変形を許容した状態とし、前記制振建物に作用すると予測される風荷重に関する風荷重予測情報に基づき、前記制振建物が風荷重を受ける場合には、風荷重の大きさに応じて、最も低い位置の前記制振ダンパー、又は、最も低い位置から、最も高い位置以外の所定の高さ位置までの各高さ位置の前記制振ダンパーを前記拘束手段により変形が拘束された状態とし、他の制振ダンパーの減衰係数を前記複数の構造系のうち少なくとも一つの構造系の周波数伝達関数のピークにおける周期が所定の値となるように調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、静的な荷重が作用する場合に、制振ダンパーの変形を拘束することにより、制振ダンパーにより連結された2つの構造物が一体となって風荷重に抵抗するため、建物に生じる変形を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(A)は、制振建物の構成を示す鉛直断面図であり、(B)は、(A)における制振ダンパーが取り付けられた高さにおける水平断面図である。
【図2】非常に大きな静的な外力が作用することが予想される場合における制振建物の様子を示す垂直断面図である。
【図3】中程度の大きさの静的な外力が作用することが予想される場合における制振建物の様子を示す垂直断面図である。
【図4】2つの構造物を制振ダンパーにより連結した場合の周波数応答関数の一例を示すグラフである。
【図5】制振システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の制振建物の一実施形態を図面を参照しながら説明する。
図1(A)は、本実施形態の制振建物10の構成を示す鉛直断面図であり、(B)は、(A)における制振ダンパー41が取り付けられた高さにおける水平断面図である。同図(A)に示すように、本実施形態の制振建物10は、内部に鉛直方向に延びるボイド空間21を有する外部構造20と、外部構造20のボイド空間21内に構築された内部構造30と、複数の高さ位置において外部構造20と、内部構造30とを連結する制振ダンパー41と、各制振ダンパー41の変形を拘束可能なロック手段42と、を備える。
【0019】
外部構造20は、水平断面矩形に構築された構造物であり、その内部に上下方向に延びるボイド空間21を有する。外部構造20としては、例えば、鉄骨造、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造などを採用することができる。なお、外部構造20は構造耐力を負担する構造要素として利用してもよいし、建物として利用してもよい。
【0020】
内部構造30は、外部構造20と同様に、例えば、鉄骨造、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造などを採用することができる。内部建物30も外部構造20と同様に構造耐力を負担する構造要素として利用してもよいし、建物として利用してもよい。また、内部構造30は、外部構造20に比べて高い剛性を有するように構築されている。このため、内部構造20は、外部建物30に比べて固有周期が短く、制振建物10に地震などによる外力が作用した場合には、内部構造20と外部構造30とは異なる振動モードで振動することとなる。
【0021】
制振ダンパー41は、オリフィスの面積を調整可能な可変油圧ダンパーからなり、オリフィスの面積を調整することにより減衰係数を変更することができる。なお、図1(B)に示す例では、制振ダンパー41は、内部構造30の各外周面より略垂直に四方に延び、外部構造20のボイド空間21の対向する位置に接続されているが、制振ダンパー41の接続の仕方は、これに限らず、外部構造20と内部構造30の何れの方向の相対変位に対しても、何れかの制振ダンパー41が変形するようになっていればよい。
【0022】
ロック手段42は、内部構造30と外部構造20との間の隙間の幅に合わせて形成され、一端が外部構造20に回動自在に取り付けられた拘束部材43からなる。拘束部材43は、水平方向に回動されることにより、他端が内部構造30に突き当てられて、内部構造30と外部構造20とを接続した状態(以下、ロック状態という)と、上向き又は下向きに回動されることにより、内部構造30と外部構造20との接続を解除された状態(以下、アンロック状態という)とをとることができる。拘束部材43をロック状態とすることにより、内部構造30と外部構造20との間隔を一定に維持して、制振ダンパー41の変形を拘束することができ、また、拘束部材43をアンロック状態とすることにより、制振ダンパー41の変形を許容することができる。なお、本実施形態では、拘束部材43の一端を外部構造20に回動自在に取り付ける構成としたが、これに限らず、拘束部材43の一端を内部構造30に回動自在に取り付け、拘束部材43を水平方向に回動させ、他端を外部構造20に突き当てることによりロック状態とし、拘束部材43を上向き又は下向きに回動させることによりアンロック状態としてもよい。
【0023】
以下、上記の制振建物10における制振方法を説明する。
常時は、ロック手段42をアンロック状態として制振ダンパー41の変形が許容された状態とする。この状態で制振建物10に地震などの振動力が作用すると、上記のように内部構造30と外部構造20とは固有周期が異なるため、これらは異なる振動モードで振動する。このため、内部構造30と外部構造20との間隔が振動的に変化し、これに応じて、制振ダンパー41が繰り返し伸縮変形することにより、効率よく制振建物10の振動エネルギーを吸収して、高い制振効果を得ることができる。
【0024】
また、台風などによる大きな風荷重が作用することは、地震荷重と異なり、天気予報などにより事前に予測することができる。そして、上述したように、風荷重は向きや大きさがあまり変化しない静的な荷重であるため、制振ダンパー41によるエネルギー吸収効果は期待できず、制振建物10の変形が大きくなってしまう。そこで、大きな風荷重が作用することが予測される場合には以下のように制振ダンパー41の変形を拘束する。
まず、例えば、100年期待値レベルの大きな台風により大きな風過重が作用することが予測される場合には、図2に示すように、全てのロック手段42をロック状態とし、制振ダンパー41の変形を拘束する。これにより、外部構造20と内部構造30とが、一体となって風荷重に対して抵抗することができ、制振建物10の変形を抑えることができる。
【0025】
また、例えば、10年期待値レベルの大きな台風による中程度の大きさの風荷重が作用することが予測される場合には、図3に示すように、最下層のロック手段42Aをロック状態として最下層の制振ダンパー41Aの変形を拘束する。これにより、制振建物10の下部において、内部構造30と外部構造20とが一体となって風加重に対して抵抗するため、制振建物10に生じる変形を抑えることができるとともに、制振建物10に風荷重による自励振動などの振動が生じた場合であっても、最下層以外の制振ダンパー41により振動エネルギーを吸収して、制振建物10を制振することができる。なお、この際、最下層の制振ダンパー41Aの変形を拘束することにより、内部構造30と外部構造20の固有周期が変化する。そこで、以下に説明するように、最下層以外の階層の制振ダンパー41の変形に対する抵抗を、内部構造30及び外部構造20の固有周期が定点理論により決定した所定の周期となるように調整するとよい。
【0026】
図4は、2つの構造物を制振ダンパーにより連結した場合の周波数伝達関数の一例を示すグラフである。同図に示すように、定点理論によれば、制振ダンパーの減衰係数にかかわらず、夫々の建物の周波数伝達関数は所定の点(同図における点P及び点Q)を必ず通過する。このため、2つの構造物を連結する制振ダンパーの減衰力を0とした(すなわち、互いに独立に振動可能とした)場合及び無限大とした(すなわち、2つの構造物を一体とした)場合における各構造物の周波数伝達関数を求め、この関数の交点を求めることにより上記の所定の点P及び点Qにおける周期を求めることができる。そして、構造物20、30の周波数伝達関数のピークにおける周期が、この求めた周期となるように制振ダンパー41の減衰係数の大きさを調整することにより、内部構造30及び外部構造20の振動を最小限に抑えることができる。ただし、実際には、構造物20、30の上記周期を求められた点P及び点Qの周期に完全に一致するように調整することは難しいので、求めた周期の近傍の値となるように調整すればよい。
【0027】
このようにして、定点定理により内部構造30及び外部構造20の固有周期を決定し、内部構造30及び外部構造20の固有周期が上記決定した固有周期となるように、最下層以外の階層の制振ダンパー41のオリフィスの面積を変更し、減衰係数を調整する。なお、内部構造30及び外部構造20の固有周期が上記決定した固有周期となるような各制振ダンパー41の減衰係数は、予め、数値シミュレーションなどを行うことにより求めておくものとする。このように制振ダンパー41の減衰係数を調整することにより、最下層のロック手段42Aをロック状態とした場合であっても、自励振動などにより制振建物10に生じる振動エネルギーを効率よく吸収して、制振建物10を制振することができる。なお、本実施形態では、内部構造30及び外部構造20の周波数伝達関数のピークにおける周期が所定の値になるように制振ダンパー41の減衰係数を調整しているが、これに限らず、変形の大きな外部構造20の周波数伝達関数のピークにおける周期のみが所定の値となるように調整してもよい。また、最下層の制振ダンパー41のみならず、最下層から複数層の制振ダンパー41をロック状態とし、他の制振ダンパー41の減衰係数を調整することとしてもよく、この場合、予測される風の大きさに応じて、最下層からどの層までの制振ダンパー41をロック状態とするか定めるようにしてもよい。
【0028】
以上説明したように、本実施形態の制振建物10によれば、地震動などの動的な外力に対しては、振動モードの異なる内部構造30と外部構造20との間を連結する制振ダンパー41により振動エネルギーを効率よく吸収でき、風荷重などの静的な外力に対しては、ロック手段42により制振ダンパー41の変形を拘束することにより、内部構造30と外部構造20とが一体となってこの外力に抵抗するため、剛性の低い外部構造20に大きな変形が生じるのを防止することができる。
【0029】
また、上記のように、中程度の風荷重が作用する場合には、最下層の制振ダンパー41をロック状態とし、それ以外の制振ダンパー41の抵抗の大きさを、内部構造20及び外部構造30の周波数伝達関数のピークにおける周期が、定点理論により決定した周期又はその近傍の値となるように調整することにより、このようなロック状態であっても、風により制振建物10に生じた自励振動の振動エネルギーを効率よく吸収することができる。
【0030】
ところで、上記の制振方法を自動システム化することも可能である。図5は、上記の制振方法を自動化した実施形態である制振システム100を示す。なお、同図において、図1における制振建物10と同様の構成の部材については同じ符号を付して説明を省略する。制振システム100において、制振ダンパー141は、入力された制御信号に応じて減衰係数を調整可能である。また、ロック手段142は、モータ等により拘束部材43を回動するように構成され、入力された制御信号に応じて、ロック状態と、アンロック状態とを切り替え可能である。そして、制振システム100は、制振ダンパー141及びロック手段142と電気的に接続され、制振ダンパー141及びロック手段142に夫々制御信号を送る制御部50と、台風情報等に基づいて予測される風荷重の作用する時期及びその大きさに関する風荷重予測情報の入力を受け付ける風荷重予測入力部51と、を備える。
【0031】
制御部50は、風荷重予測入力部51に入力された風荷重予測情報に基づき、ロック手段142に制御信号を送信し、ロック手段142をロック状態からアンロック状態に切り替えることができ、また、制振ダンパー141に制御信号を送信し、制振ダンパー141の減衰係数を変更することができる。
【0032】
常時は、制御部50は、ロック手段42をアンロック状態として制振ダンパー41の変形が許容された状態とする。この状態で制振建物10に地震などの振動力が作用すると、上記の場合と同様に、内部構造30と外部構造20とが異なる振動モードで振動し、効率よく制振建物10の振動エネルギーを吸収するため、高い制振効果を得ることができる。
【0033】
風荷重予測入力部51に大きな風荷重が作用することが予測される旨の風荷重予測情報が入力されると、風荷重が作用すると予測される時刻以前に、制御部50がロック手段142に制御信号を送信し、ロック手段142をロック状態とし、制振ダンパー41の変形を拘束する。これにより、上記の場合と同様に、外部構造20と内部構造30とが、一体となって風荷重に対して抵抗することができ、制振建物10の変形を抑えることができる。
【0034】
また、風荷重予測入力部51に中程度の大きさの風荷重が作用することが予測される旨の風荷重予測情報が入力されると、風荷重が作用すると予測される時刻以前に、制御部50が最下層のロック手段142に制御信号を送信し、最下層のロック手段142をロック状態とする。また、これと同時に、制御部50が最下層以外の制振ダンパー41に制御信号を送信し、最下層以外の制振ダンパー41の減衰係数を、内部構造30及び外部構造20の周波数伝達関数のピークにおける周期が定点理論により決定された周期となるように調整する。これにより、上記の場合と同様に、自励振動などにより制振建物10に生じる振動エネルギーを効率よく吸収して、制振建物10を制振することができる。
【0035】
なお、上記の各実施形態において、風荷重が弱まった旨の風荷重予測情報が入力されると、再び、ロック手段42、142をアンロック状態としてもよい。
また、上記の各実施形態では、内部構造30が外部構造20に比べて剛性が高い場合について説明したが、これに限らず、外部構造20が内部構造30に比べて剛性が高い場合であっても、本発明を適用することが可能である。
【0036】
また、上記の各実施形態では、内部構造30に対して外部構造20が高い場合について説明したが、これに限らず、外部構造20に対して、内部構造30が高い場合や外部構造20と内部構造30が略等しい高さである場合であっても本発明を適用することができる。
【0037】
また、上記の各実施形態では、制振建物10を内部にボイド空間21を有する外部構造20と、ボイド空間21内に構築された内部構造30との間を制振ダンパー41で連結することにより構成したが、これに限らず、二つの並設された構造物の間を制振ダンパー41により連結する構成としてもよい。
また、上記の各実施形態では、内部構造30と外部構造20とからなる建物を制振ダンパー41により接続することにより制振する場合について説明したが、これに限らず、本発明は、複数の構造物からなり、隣り合う構造物を制振ダンパーにより連結することにより制振を行う場合であれば適用することができる。さらに、本発明は、複数の構造物が下層において建物などにより連結されており、各構造物の連結されている部分よりも上部が異なる固有周期で振動するような建物であっても適用することができる。
【0038】
また、上記の各実施形態では、内部構造30と外部構造20とを複数の高さ位置において制振ダンパー41により連結する場合について説明したが、これに限らず、一の高さ位置のみで制振ダンパー41により連結する構成とすることも可能である。この場合、常時は、ロック手段42をアンロック状態とし、風荷重が作用することが予測される場合には、ロック手段42をロック状態とすればよい。
【0039】
なお、上記の各実施形態では、制振ダンパー41として油圧ダンパーを用いた場合について説明したが、これに限らず、摩擦ダンパー、粘性ダンパー、粘弾性ダンパー、履歴型ダンパー又はこれらを組み合わせたものを用いることができる。
【0040】
また、上記の各実施形態では、ロック手段42として拘束部材43を設ける構成としたが、制振ダンパー41としてオリフィスを備え、油、空気、水などの流体がオリフィスを通過する際の抵抗によりエネルギーを吸収する流体圧ダンパーを用いる場合には、ロック手段として流体圧ダンパーのオリフィスを開放した状態と閉塞状態とを切り替える機構を採用することができ、この場合、オリフィスを閉塞することにより流体圧ダンパーの変形を拘束し、オリフィスを開放することにより流体圧ダンパーの変形を許容することができる。また、制振ダンパー41として摩擦ダンパーを用いる場合には、ロック手段42として、摩擦材を介装する一対の部材が相対変位できないようにこれらの部材を固定するロックピンなどを採用することができる。要するに制振ダンパー41の変形を許容した状態と、変形を拘束した状態とを実現できる構成であればよい。
【0041】
また、上記の各実施形態では、予め、風荷重が作用する場合にロック手段42により制振ダンパー41の変形を拘束することとしたが、これに限らず、内部構造30と外部構造20との間の幅を監視しておき、地震荷重や風荷重により制振建物10が変形し、内部構造30と外部構造20との隙間が所定の大きさまで小さくなった場合に、ロック手段42をロック状態として、制振ダンパー41の変形を拘束することとしてもよい。このような方法によれば、内部構造20と外部構造30とが衝突することを防ぐことができる。
【符号の説明】
【0042】
10 制振建物
20 外部構造
21 ボイド空間
30 内部構造
41、41A、141 制振ダンパー
42、42A、142 ロック手段
43 拘束部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる固有周期を有する複数の構造系と、
複数の高さ位置において前記複数の構造系のうち隣り合う構造系を連結するように設置され、前記隣り合う構造系の相対変位に応じて、変形することにより振動エネルギーを吸収する制振ダンパーと、
前記制振ダンパーの変形を許容した状態と、前記制振ダンパーの変形を拘束した状態とを実現し得る拘束手段と、
前記複数の構造系に作用すると予測される風荷重に関する風荷重予測情報の入力を受け付ける入力受付手段と、
前記入力部に入力された風荷重予測情報に基づき、前記拘束手段により前記制振ダンパーの変形を許容した状態と、前記制振ダンパーの変形を拘束した状態とを切り替える制御手段と
を備えることを特徴とする制振建物。
【請求項2】
前記制御手段は、
常時は、前記拘束手段を前記制振ダンパーの変形を許容した状態とし、
前記入力受付手段に入力された風荷重予測情報に基づき、前記複数の構造系が風荷重を受けると予測される場合には、風荷重の大きさに応じて、最も低い位置の前記制振ダンパー、又は、最も低い位置から、最も高い位置以外の所定の高さ位置までの各高さ位置の前記制振ダンパーを前記拘束手段により変形が拘束された状態とすることを特徴とする請求項1に記載の制振建物。
【請求項3】
前記制振ダンパーは、外部からの制御信号に応じて減衰係数が可変であるように設けられており、
前記制御手段は、
常時は、前記拘束手段を前記制振ダンパーの変形を許容した状態とし、
前記入力受付手段に入力された風荷重予測情報に基づき、前記複数の構造系が風荷重を受けると予測される場合には、風荷重の大きさに応じて、最も低い位置の前記制振ダンパー、又は、最も低い位置から、最も高い位置以外の所定の高さ位置までの各高さ位置の前記制振ダンパーを前記拘束手段により変形が拘束された状態とし、他の制振ダンパーの減衰係数を前記複数の構造系のうち少なくも一つの構造系の周波数伝達関数のピークにおける周期が所定の値となるように調整することを特徴とする請求項1に記載の制振建物。
【請求項4】
異なる固有周期を有する複数の構造系からなる建物を制振する制振システムであって、
複数の高さ位置において前記複数の構造系のうち隣り合う構造系を連結するように設置され、前記隣り合う構造系の相対変位に応じて、変形することにより振動エネルギーを吸収する制振ダンパーと、
外部からの制御信号により、前記制振ダンパーの変形を許容した状態と、前記制振ダンパーの変形を拘束した状態とを実現し得る拘束手段と、
前記建物に作用すると予測される風荷重に関する風荷重予測情報の入力を受け付ける入力受付手段と、
前記入力部に入力された風荷重予測情報に基づき、前記拘束手段により前記制振ダンパーの変形を許容した状態と、前記制振ダンパーの変形を拘束した状態とを切り替える制御手段と
を備えることを特徴とする制振システム。
【請求項5】
前記制御手段は、
常時は、前記拘束手段を前記制振ダンパーの変形を許容した状態とし、
前記入力受付手段に入力された風荷重予測情報に基づき、前記建物が風荷重を受けると予測される場合には、風荷重の大きさに応じて、最も低い位置の前記制振ダンパー、又は、最も低い位置から、最も高い位置以外の所定の高さ位置までの各高さ位置の前記制振ダンパーを前記拘束手段により変形が拘束された状態とすることを特徴とする請求項4に記載の制振システム。
【請求項6】
前記制振ダンパーは、外部からの制御信号に応じて減衰係数が可変であるように設けられており、
前記制御手段は、
常時は、前記拘束手段を前記制振ダンパーの変形を許容した状態とし、
前記入力受付手段に入力された風荷重予測情報に基づき、前記建物が風荷重を受けると予測される場合には、風荷重の大きさに応じて、最も低い位置の前記制振ダンパー、又は、最も低い位置から、最も高い位置以外の所定の高さ位置までの各高さ位置の前記制振ダンパーを前記拘束手段により変形が拘束された状態とし、他の制振ダンパーの減衰係数を前記複数の構造系のうち少なくも一つの構造系の周波数伝達関数のピークにおける周期が所定の値となるように調整することを特徴とする請求項4に記載の制振システム。
【請求項7】
異なる固有周期を有する複数の構造系と、
複数の高さ位置において前記複数の構造系のうち隣り合う構造系を連結するように設置され、前記隣り合う構造系の相対変位に応じて、変形することにより振動エネルギーを吸収する制振ダンパーと、
前記制振ダンパーの変形を許容した状態と、前記制振ダンパーの変形を拘束した状態とを実現し得る拘束手段とを備える制振建物における制振方法であって、
前記制振建物に作用すると予測される風荷重に関する風荷重予測情報に基づき、前記拘束手段により前記制振ダンパーの変形を許容した状態と、前記制振ダンパーの変形を拘束した状態とを切り替えることを特徴とする制振方法。
【請求項8】
異なる固有周期を有する複数の構造系と、
複数の高さ位置において前記複数の構造系のうち隣り合う構造系を連結するように設置され、前記隣り合う構造系の相対変位に応じて、変形することにより振動エネルギーを吸収する制振ダンパーと、
前記制振ダンパーの変形を許容した状態と、前記制振ダンパーの変形を拘束した状態とを実現し得る拘束手段とを備える制振建物における制振方法であって、
常時は、前記拘束手段を前記制振ダンパーの変形を許容した状態とし、
前記制振建物に作用すると予測される風荷重に関する風荷重予測情報に基づき、前記制振建物が風荷重を受ける場合には、風荷重の大きさに応じて、最も低い位置の前記制振ダンパー、又は、最も低い位置から、最も高い位置以外の所定の高さ位置までの各高さ位置の前記制振ダンパーを前記拘束手段により変形が拘束された状態とすることを特徴とする制振方法。
【請求項9】
異なる固有周期を有する複数の構造系と、
複数の高さ位置において前記複数の構造系のうち隣り合う構造系を連結するように設置され、前記隣り合う構造系の相対変位に応じて、変形することにより振動エネルギーを吸収する、減衰係数が可変である制振ダンパーと、
前記制振ダンパーの変形を許容した状態と、前記制振ダンパーの変形を拘束した状態とを実現し得る拘束手段とを備える制振建物における制振方法であって、
常時は、前記拘束手段を前記制振ダンパーの変形を許容した状態とし、
前記制振建物に作用すると予測される風荷重に関する風荷重予測情報に基づき、前記制振建物が風荷重を受ける場合には、風荷重の大きさに応じて、最も低い位置の前記制振ダンパー、又は、最も低い位置から、最も高い位置以外の所定の高さ位置までの各高さ位置の前記制振ダンパーを前記拘束手段により変形が拘束された状態とし、他の制振ダンパーの減衰係数を前記複数の構造系のうち少なくとも一つの構造系の周波数伝達関数のピークにおける周期が所定の値となるように調整することを特徴とする制振方法。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−68076(P2013−68076A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−255251(P2012−255251)
【出願日】平成24年11月21日(2012.11.21)
【分割の表示】特願2007−172399(P2007−172399)の分割
【原出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】