説明

制振材用ウレタン樹脂の製造方法および制振材用ウレタンプレポリマー

【課題】接着性が良好であり、損失係数(tanδ)が大きくて制振性に優れるとともに、弾性率と損失係数のバランスが良く、且つ伸びも良好である制振材用ウレタン樹脂を製造できる方法を提供する。
【解決手段】ポリオール(A)とポリイソシアネート化合物(B)とを反応させて得られるイソシアネート基末端プレポリマーを、湿気硬化させて制振材用ウレタン樹脂を製造する方法であって、前記ポリオール(A)が、触媒(x)の存在下で、開始剤(a)に対して、ポリカルボン酸無水物(b)およびアルキレンオキシド(c)を共重合して得られるポリエステルエーテルポリオール(A1)を含むことを特徴とする制振材用ウレタン樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振性を有する制振材用ウレタン樹脂の製造方法、該方法に用いられる制振材用プレポリマー、制振材用一液湿気硬化型組成物および制振材用二液硬化型システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の住宅建築物などにおける高気密化・高断熱化の要求に伴い、建具及び外壁などの防音・遮音性能の向上に関する様々な研究が行われてきた。このように建具及び外壁などの防音・遮音性能が改善されたことにより、建物の外部から室内に伝搬する騒音は大きく低減し、室内の騒音はかなりの低レベルになってきている。また、室内で発生する騒音や、壁、床、天井を介して伝達する他室の騒音などの対策としては、間仕切り壁等の構造を工夫することにより、室内ドアの開閉音、壁面衝撃音、歩行音、会話などの生活音を防ぐ検討が成されている。
【0003】
しかし、上記の方法では空気中を伝搬する音を防ぐことはできても、壁、床、天井等の固体表面を通して伝わる音、すなわち固体伝搬音を防ぐことはできない。そこで、かかる固体伝搬音による騒音・振動の対策として防振ゴムなどの防振材を使用することが検討されている。防振材とは、一般に、振動のエネルギーを防振材中に拡散させることで、振動が伝達することを防ぐものである。防振材の防振性を発揮させるためには防振材の厚さと使用面積を大きくする必要がある。また防振材では、固体を伝搬する振動は抑制できても、固体の表面を通して拡散する振動を防ぐことはできない。
【0004】
これに対して、制振材は振動エネルギーを熱エネルギーに変換して振動吸収をおこなうものであり、薄くても充分に性能が発揮されるため、制振材を床材・壁材等に貼付して、固体伝播音の発生を防止する方法が考えられている。
制振材による振動吸収能は、一般に損失弾性率と貯蔵弾性率の比(損失弾性率/貯蔵弾性率)で表される損失係数(tanδ)で表される。このtanδが大きい場合に、振動エネルギーが熱エネルギーに変換されて消費されることにより、振動吸収が生じて制振性が発揮されると考えられる。
【0005】
制振材は、壁材・床材等の被着体の貼り合わせ層として用いられることが多い。したがって制振材は良好な接着力を有することが要求される。
また被着体に制振材が貼付された構造全体における振動吸収能は、被着体と制振材の貯蔵弾性率比と損失係数の積で表される。一般的に壁材、床材等の被着体の材料としては、木・繊維質系の材料または石・コンクリート系の材料など、制振材に用いられる樹脂系の材料に比べて貯蔵弾性率が高い材料が用いられる。このため、被着体に制振材が貼付された構造全体における振動吸収能を大きくするためには、高い貯蔵弾性率を持つ材料を制振材として用いることが好ましい。
また、貯蔵弾性率が高くなるほど、「損失弾性率/貯蔵弾性率」で表される損失係数(tanδ)は小さくなってしまうため、貯蔵弾性率と損失係数のバランスが良好となるように設計することが好ましい。
【0006】
特許文献1には、2枚の建築用板を貼り合わせる制振性接着剤としてアクリルエマルジョン系接着剤が記載されている。
しかしながら、従来から使用されているアクリルエマルジョン系接着剤は伸びが良くないため、熱収縮率が互いに異なる被着体の貼り合わせに用いると、被着体の熱膨張・収縮によって被着体と接着剤層との界面に応力が集中し、剥がれが生じやすい。
【0007】
また、特許文献2には、ポリエーテルポリオールにポリカルボン酸無水物とモノエポキシドを反応させて製造したポリエステルエーテルポリオール、鎖伸長剤、およびポリイソシアネート化合物を触媒などの助剤の存在下に反応させてポリウレタンを製造する方法が記載されている。制振材については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−203153号公報
【特許文献2】特許第3097854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記した問題点に鑑みてなされたもので、接着性が良好であり、損失係数が大きくて制振性に優れるとともに、弾性率と損失係数のバランスが良く、且つ伸びも良好である制振材用ウレタン樹脂を製造できる制振材用ウレタン樹脂の製造方法、該方法に用いられる制振材用プレポリマー、制振材用一液湿気硬化型組成物および制振材用二液硬化型システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等の知見では、従来のポリエーテルポリオール(具体的にはポリオキシアルキレンポリオール)とポリイソシアネート化合物とを反応させて製造されるポリウレタン樹脂は、ポリエステルポリオールを使用した場合に比べて接着強度が劣る。また−40℃以下の低温においてtanδがピークとなり、該ピークを常温付近に調整するには、官能基数やイソシアネートの使用部数を増やす必要がある。それでも大きいtanδを得ることは困難であり、得られる弾性率にも限界がある。一方、ポリエステルポリオールを用いたポリウレタン樹脂はポリエーテルポリオールを用いたものに比べて、接着性は良好であり、高い弾性率を得やすいが、結晶性であるため大きいtanδを得ることができない。
そして、本発明者等はさらに鋭意研究を重ねた結果、ポリイソシアネート化合物(B)と反応させる成分として、ポリエステルエーテルポリオール(A1)を用いることにより、従来の問題点を解決できる制振材用ウレタン樹脂が得られることを見出して本発明に至った。
【0011】
すなわち本発明の制振材用ウレタン樹脂の製造方法は、ポリオール(A)とポリイソシアネート化合物(B)とを反応させて得られるイソシアネート基末端プレポリマーを、湿気硬化させて制振材用ウレタン樹脂を製造する方法であって、前記ポリオール(A)が、触媒(x)の存在下で、開始剤(a)に対して、ポリカルボン酸無水物(b)およびアルキレンオキシド(c)を共重合して得られるポリエステルエーテルポリオール(A1)を含むことを特徴とする。
【0012】
また本発明は、ポリオール(A)とポリイソシアネート化合物(B)とを反応させて得られるイソシアネート基末端プレポリマーからなり、前記ポリオール(A)が、触媒(x)の存在下で、開始剤(a)に対して、ポリカルボン酸無水物(b)およびアルキレンオキシド(c)を共重合して得られるポリエステルエーテルポリオール(A1)を含む制振材用ウレタンプレポリマーを含有する、制振材用一液湿気硬化型組成物を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、接着性が良好であり、損失係数が大きくて制振性に優れるとともに、弾性率と損失係数のバランスが良く、且つ伸びも良好である制振材用ウレタン樹脂が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[開始剤(a)]
ポリエステルエーテルポリオール(A1)を製造する際に使用する開始剤(a)としては、1分子あたり2〜8個の活性水素原子を有する化合物を用いることが好ましい。例えば、多価アルコール類、ポリアミン類、アルカノールアミン類、フェノール類が挙げられる。
好ましい具体例としては、エチレングルコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、および1,4−ブタンジオールなどの2価アルコール類;トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、およびグリセリンなどの3価アルコール類;ペンタエリスリトールなどの4価アルコール類;ソルビトール、およびジペンタエリスリトールなどの6価アルコール類;およびショ糖などの8価アルコール類などの多価アルコール類;エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンおよびトリレンジアミンなどのポリアミン類;モノエタノールアミン、プロパノールアミン、およびジエタノールアミンなどのアルカノールアミン類;ビスフェノールAなどのフェノール類が挙げられる。
【0015】
またこれらの多価アルコール類、ポリアミン類、アルカノールアミン類、フェノール類にアルキレンオキシドを付加して得られる水酸基あたりの水酸基価換算分子量が150〜1500のポリエーテルポリオール(水酸基価37〜374mgKOH/g)も開始剤(a)として使用できる。
また、水酸基あたりの水酸基価換算分子量が150〜1500(水酸基価37〜374mgKOH/g)の、ポリオキシテトラメチレンポリオール、ポリエステルポリオール、およびポリカーボネートポリオールなども開始剤(a)として使用できる。該ポリエステルポリオールとしては、多価アルコール類と多価カルボン酸とを縮合反応させて得られるものや多価アルコール類を開始剤として、ラクトンモノマーを開環重合させて得られるものが挙げられる。
開始剤(a)としては多価アルコール、または多価アルコールを開始剤としてアルキレンオキシドを付加した水酸基あたりの水酸基価換算分子量が150〜1500(水酸基価37〜374mgKOH/g)のポリエーテルポリオールが好ましい。このポリエーテルポリオールは、特にポリエステルエーテルポリオール(A1)を製造する際に触媒(x)として複合金属シアン化物錯体触媒を用いる場合に好ましい。
本発明において、ポリオールの水酸基価換算分子量はJIS K1557に準拠した方法により測定した水酸基価を用い、下記の式を用いて計算した値をいう。
水酸基価換算分子量=(56100/水酸基価)×ポリオールの水酸基数。
【0016】
ポリエステルエーテルポリオール(A1)の水酸基数は、開始剤(a)の1分子あたりの活性水素原子数に一致するとみなすものとする。本発明において、上記開始剤(a)として、1分子あたり2〜3個の活性水素原子を有する化合物を使用することがより好ましく、本発明におけるポリエステルエーテルポリオール(A1)の水酸基数は2〜3がより好ましい。
開始剤(a)の使用割合は、ポリエステルエーテルポリオール(A1)の合成に用いた全原料の仕込み量の合計に対して、1〜60質量%が好ましく10〜60質量%がより好ましい。開始剤(a)の使用割合が上記範囲の下限値以上であると開始剤の特性が現れやすく、上記範囲の上限値以下であるとポリエステルエーテルポリオール中のポリカルボン酸無水物の量が多いため、得られる制振性ウレタン樹脂の機械物性、制振性が優れる。
【0017】
[ポリカルボン酸無水物(b)]
本発明におけるポリカルボン酸無水物(b)としては、例えば、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸などが挙げられる。特に、芳香族のポリカルボン酸無水物は極めて凝集力や極性が高いので、各種被着体への接着性に大きく寄与するため好ましい。無水フタル酸が特に好ましい。
上記ポリカルボン酸無水物(b)の使用割合は、ポリエステルエーテルポリオール(A1)の合成に用いた全原料の仕込み量の合計に対して、10〜50質量%が好ましく、15〜40質量%が特に好ましい。ポリカルボン酸無水物(b)の上記使用割合を10質量%以上とすることにより、最終的に得られる制振材用ウレタン樹脂のガラス転移温度(以下、Tgと略すこともある。)を室温付近に調整することができる。一般に、樹脂の損失係数(tanδ)はガラス転移温度付近で大きくなるため、制振材用ウレタン樹脂のTgが室温付近であると、室温での制振性を効率良く向上できる。
さらにポリカルボン酸無水物(b)の上記使用割合が10質量%以上であると、機械強度および接着性が良好である。また該使用割合を50質量%以下とすることにより、得られるポリエステルエーテルポリオール(A1)の粘度を低く抑えることができる。
【0018】
[アルキレンオキシド(c)]
開始剤(a)に、ポリカルボン酸無水物(b)とともに重合させるアルキレンオキシド(c)としては、炭素数2〜4のアルキレンオキシドが好ましい。具体例としては、プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、2,3−ブチレンオキシド、およびエチレンオキシドなどが挙げられる。アルキレンオキシドは1種のみを用いても、2種以上を併用してもよい。本発明においては、エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドの使用が好ましく、プロピレンオキシドのみの使用が特に好ましい。
【0019】
アルキレンオキシド(c)の使用量はポリカルボン酸無水物(b)に対しモル比(c/b)で50/50〜95/5が好ましく、50/50〜80/20がより好ましい。アルキレンオキシド(c)のモル比を上記範囲の下限値以上とすることでポリエステルエーテルポリオール(A1)中にポリカルボン酸無水物(b)の未反応物が残るのを抑え、ポリエステルエーテルポリオール(A1)の酸価を低くすることができる。また上記範囲の上限値以下とすることで、得られる制振材用ポリウレタン樹脂の制振性、機械強度が優れる。
【0020】
[触媒(x)]
本発明におけるポリエステルエーテルポリオール(A1)は、上記開始剤(a)に、ポリカルボン酸無水物(b)およびアルキレンオキシド(c)を付加重合させることにより製造できるが、重合反応の速度を速める点で、この重合反応に触媒(x)を使用する。
該触媒(x)としては、開環付加重合触媒が好適に用いられる。具体例としては水酸化カリウム、水酸化セシウム等のアルカリ触媒;複合金属シアン化物錯体触媒;およびホスファゼン触媒等が挙げられる。
Mw/Mnの値がより小さいポリエステルエーテルポリオール(A1)が得られることから、複合金属シアン化物錯体触媒を使用することが特に好ましい。
複合金属シアン化物錯体としては、亜鉛ヘキサシアノコバルテート錯体に有機配位子が配位したものが好ましい。有機配位子としてはエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類や、tert−ブチルアルコールのようなアルコール類が好ましい。
触媒(x)の使用割合は、生成物であるポリエステルエーテルポリオール(A1)に対して0.0001〜0.1質量%が好ましく0.003〜0.03質量%がより好ましい。触媒(x)の使用割合が上記範囲の下限値以上であると重合が確実に起こり、上記範囲の上限値以下であると残存触媒の悪影響が少ない。
【0021】
[ポリエステルエーテルポリオール(A1)]
ポリエステルエーテルポリオール(A1)は、触媒(x)の存在下で、開始剤(a)に対して、ポリカルボン酸無水物(b)およびアルキレンオキシド(c)を共重合して得られる。
ポリエステルエーテルポリオール(A1)は以下の方法で調製できる。まず開始剤(a)、ポリカルボン酸無水物(b)、および触媒(x)を予め反応容器に投入しておき、そこへアルキレンオキシド(c)をゆっくり加えながら反応させる。その際に、アルキレンオキシド(c)より、ポリカルボン酸無水物(b)の方が開環反応が速く、ポリカルボン酸無水物(b)は連続付加反応しないので、ポリカルボン酸無水物(b)とアルキレンオキシド(c)が1モルづつ交互に付加した共重合鎖を有する共重合体を得ることができる。
アルキレンオキシド(c)を過剰に添加して、末端にアルキレンオキシド(c)のみをブロックで付加させることにより、得られるポリエステルエーテルポリオール(A1)の酸価を低減することができる。ポリエステルエーテルポリオール(A1)の酸価は2.0mgKOH/g以下が好ましく、1.0mgKOH/g以下がより好ましく、ゼロでもよい。ポリエステルエーテルポリオール(A1)の酸価が上記の上限値以下であるとイソシアネートとの反応性が良く、また得られる制振材用ウレタン樹脂の耐加水分解性が優れるため好ましい。
ポリエステルエーテルポリオール(A1)において、ポリカルボン酸無水物(b)とアルキレンオキシド(c)とが1モルづつ交互に付加している部分は、両者の比率が一定なので、開始剤(a)の分子量と末端のアルキレンオキシド(c)の付加量で全体の構造が設計される。
【0022】
なお、フタル酸系ポリエステルポリオールとポリイソシアネート化合物とを反応させて得られるプレポリマーと、ポリエーテルポリオールとポリイソシアネート化合物とを反応させて得られるプレポリマーを混合しても均一な混合物は得られない。
またポリエステルポリオールとポリエーテルポリオールとを先に混合し、これらの混合物にポリイソシアネート化合物を反応させても相溶性が不十分であり、得られた液で製膜しようとしても均一なシートが得られない。
【0023】
ポリエステルエーテルポリオール(A1)の水酸基価は11〜112mgKOH/gが好ましく、22〜80mgKOH/gが特に好ましい。すなわち水酸基あたりの水酸基価換算分子量は500〜5000であることが好ましく、700〜2500が特に好ましい。水酸基あたりの水酸基価換算分子量が500以上であると、得られる制振材用ウレタン樹脂の制振性、機械物性が優れ、また被接着基材への接着性が優れたものとなる。また水酸基あたりの水酸基価換算分子量が5000以下であると、得られる制振材用ウレタン樹脂の機械物性が優れ、低粘度化も達成できる。
該ポリエステルエーテルポリオール(A1)の水酸基価換算分子量の調整は、開始剤(a)に対して重合させるポリカルボン酸無水物(b)およびアルキレンオキシド(c)のモル数を適宜調整することによって容易に行うことができる。
【0024】
また、ポリエステルエーテルポリオール(A1)は、その水酸基価換算分子量から開始剤(a)の分子量を除いた残りの分子量を開始剤(a)の官能基数で割った値(M’)が、100〜3000であることが好ましく、200〜2000であることが特に好ましい。
ここで、上記の「水酸基価換算分子量から開始剤の分子量を除いた残りの分子量を開始剤の官能基数で割った値(M’)」は、ポリカルボン酸無水物(b)およびアルキレンオキシド(c)の共重合によって形成される共重合鎖1つあたりの平均分子量を意味している。
前記値(M’)が3000以下であると、得られるポリエステルエーテルポリオール(A1)の粘度が高くなり過ぎず、前記値(M’)が100以上であると、良好な接着性を発現させることができる。前記値(M’)の調整は、上記水酸基価換算分子量の調整と同様に、開始剤(a)に対して重合させるポリカルボン酸無水物(b)およびアルキレンオキシド(c)のモル数を適宜調整することによって容易に行うことができる。
【0025】
ポリエステルエーテルポリオール(A1)は1種でもよく、2種以上でもよい。ガラス転移温度(Tg)が互いに異なる2種以上を併用することにより、得られる制振材用ウレタン樹脂のtanδの値が高くなる温度(ピーク温度)の範囲を広げることができる。
具体的には、ポリエステルエーテルポリオール(A1)に含まれ、ガラス転移温度が−60℃〜−30℃の範囲である第1のポリエステルエーテルポリオール(A11)と、ポリエステルエーテルポリオール(A1)に含まれ、ガラス転移温度が−45℃〜−15℃の範囲である第2のポリエステルエーテルポリオール(A12)とを、該第1のポリエステルエーテルポリオール(A11)と第2のポリエステルエーテルポリオール(A12)のガラス転移温度の差が15℃〜40℃の範囲となるように組み合わせて併用することが好ましい。かかる(A11)と(A12)を併用することにより、常温付近で高いtanδを有する制振材用ウレタン樹脂が得られる。
ポリエステルエーテルポリオール(A1)のガラス転移温度(Tg)は、該(A1)を調製する際に使用するポリカルボン酸無水物(b)の使用割合を適宜調整することにより所望の温度に調節することができる。例えば、ポリカルボン酸無水物(b)を含有しないポリオキシプロピレングリコールのガラス転移温度(Tg)は約−70℃であるのに対して、ポリカルボン酸無水物(b)を10質量%以上使用して共重合体(ポリエステルエーテルポリオール(A1))とすると、ガラス転移温度を−60℃以上に調節できる。
上記(A11)と(A12)を併用する場合、両者の使用量の質量比(A11/A12)は5/95〜95/5の範囲が好ましく、20/80〜80/20がより好ましい。
【0026】
[ポリオール(A)]
ポリオール(A)は、上記ポリエステルエーテルポリオール(A1)を含む。
ポリオール(A)の全量中におけるポリエステルエーテルポリオール(A1)の含有量は30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上がより好ましい。実質的に100質量%がポリエステルエーテルポリオール(A1)であることが最も好ましい。
ポリオール(A)の水酸基価は、10〜300mgKOH/gであることが好ましく、11〜112mgKOH/gがより好ましく、22〜80mgKOH/gが特に好ましい。すなわち、水酸基あたりの水酸基価換算分子量が187〜5610が好ましく、500〜5000がより好ましく、700〜2500が特に好ましい。
【0027】
ポリオール(A)に含まれる、上記ポリエステルエーテルポリオール(A1)以外の他のポリオール(A2)としては、1分子あたりの活性水素原子数が2〜8個である化合物を開始剤として、アルキレンオキシドを開環付加重合して得られる、ポリオキシプロピレンポリオール、ポリオキシエチレンポリオール、ポリオキシエチレンプロピレンポリオール;多価アルコール類と多価カルボン酸とを縮合反応させて得られるポリエステルポリオール;多価アルコール類を開始剤としてラクトンモノマーを開環重合させて得られるポリエステルポリオール;ポリオキシテトラメチレンポリオール;ポリカーボネートポリオールなどが挙げられる。該他のポリオール(A2)は水酸基数2〜8個のポリオールであることが好ましく、2〜3個のポリオールが好ましい。他のポリオール(A2)の水酸基価は10〜300mgKOH/gが好ましく、11〜112mgKOH/gがより好ましく、22〜80mgKOH/gが特に好ましい。すなわち、水酸基あたりの水酸基価換算分子量が187〜5610が好ましく、500〜5000がより好ましい、700〜2500が特に好ましい。
ポリオール(A)の全量中における他のポリオール(A2)の含有量は70質量%以下であることが好ましく、50質量%以下がより好ましく、ゼロでもよい。
【0028】
[ポリイソシアネート化合物(B)]
本発明において使用しうるポリイソシアネート化合物(B)(単に、ポリイソシアネート(B)ということもある。)は、特に限定されないが、例えばジフェニルメタンジイソシアネート、ポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、および2,6−トリレンジイソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネート化合物;キシリレンジイソシアネート、メタテトラメチルキシレンジイソシアネートなどのアラルキルポリイソシアネート化合物;ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネート化合物;イソホロンジイソシアネートおよび4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)などの脂環族ポリイソシアネート化合物;ならびに、前記ポリイソシアネート化合物から得られるウレタン変性体、ビュレット変性体、アロファネート変性体、カルボジイミド変性体、およびイソシアヌレート変性体などが挙げられる。
ポリオール(A)との反応性に優れていること、および得られる制振材用ウレタン樹脂の粘度が低くなりやすいことから、ポリイソシアネート化合物(B)としては芳香族ジイソシアネートおよびこれらの変性体が好ましい。なかでもジフェニルメタンジイソシアネート、ポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、および2,6−トリレンジイソシアネート、ならびにこれらの変性体が好ましい。
ポリイソシアネート化合物(B)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
[制振材用ウレタン樹脂の製造方法]
本発明の制振材用ウレタン樹脂は、上記ポリオール(A)とポリイソシアネート化合物(B)を用いて製造される。好ましい製造方法としては下記の3通りの方法が挙げられる。
第1の製造方法:ポリオール(A)とポリイソシアネート化合物(B)と必要に応じて鎖延長剤および/または硬化剤を反応させて制振材用ウレタン樹脂を製造する方法。
第2の製造方法:ポリオール(A)とポリイソシアネート化合物(B)とを反応させてイソシアネート基末端プレポリマーを得、次いで該プレポリマーを湿気硬化させて制振材用ウレタン樹脂を製造する方法。
第3の製造方法:ポリオール(A)とポリイソシアネート化合物(B)とを反応させてイソシアネート基末端プレポリマーを得、該プレポリマーからなる主剤成分と硬化剤成分とを反応させて制振材用ウレタン樹脂を製造する方法。
【0030】
(第1の製造方法)
上記第1の製造方法では、イソシアネート基/水酸基がモル比で1.2〜0.7となるように、好ましくは1.1〜0.9となるようにポリオール(A)とポリイソシアネート(B)と必要に応じ鎖延長剤および/または硬化剤とを反応させて制振材用ウレタン樹脂(硬化物)を製造する。
本方法はワンショット法として公知の手法を適用して実施できる。ワンショット法とは、反応器にポリオール(A)と、ポリイソシアネート化合物(B)と、必要に応じて鎖延長剤および/または硬化剤を同時に加えてポリウレタンを製造する方法であり、触媒も一緒に使用できる。
【0031】
本方法において、前記反応器に、前記ポリオール(A)およびポリイソシアネート化合物(B)のほかに、該ポリオール(A)とポリイソシアネート化合物(B)のいずれとも反応しない他のポリマーを同時に加えてもよい。
上記他のポリマーは、イソシアネート基および水酸基の一方または両方と反応する官能基を有しないものであればよい。具体例としてはスチレン−イソプレンゴム等の従来公知のスチレン系(共)重合体、アクリル系共重合体、エチレン―アクリル共重合体、変成シリコーン樹脂等が挙げられる。これらは1種で用いても良く、2種以上混合しても良い。
上記他のポリマーの使用割合は、ポリオール(A)とポリイソシアネート化合物(B)と他のポリマーの合計に対して200質量%以下が好ましく、100質量%以下がより好ましい。ゼロでもよい。
【0032】
鎖延長剤および/または硬化剤としては、公知の鎖伸長剤および/または硬化剤を用いることができる。一般に、鎖伸長剤とはイソシアネート基と付加反応しうる官能基を1分子中に2個有する比較的低分子量の化合物をいい、硬化剤とはイソシアネート基と付加反応しうる官能基を1分子中に3個以上有する比較的低分子量の化合物をいう。両者の分子量は1122以下のものが好ましく、1000以下がより好ましく、600以下のものが特に好ましい。
鎖伸長剤および/または硬化剤の化学構造は特に限定されないが、具体的には以下のものが挙げられる。
鎖伸長剤としては、ジオール類、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、および1,4−ジヒドロキシシクロヘキサン等を挙げることができる。これらのうち、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、および1,6−ヘキサンジオールが好ましく、1,4−ブタンジオールが特に好ましい。
また鎖伸長剤としては、アミン鎖伸長剤を用いることもできる。特に好ましいアミン鎖伸長剤としては、芳香族アミン、たとえばトルエンジアミンの各種異性体および誘導体、ならびにメチレンジアニリンが挙げられる。特に電子または立体効果によりイソシアネート基との付加反応が比較的遅い、置換基を有する芳香族アミン、たとえば、4,4’−メチレンビス(2−クロロアニリン)、4,4’−メチレンビス(3−クロロ−2,6−ジエチルアニリン)、ジエチルトルエンジアミン、およびメチレンジアニリンが挙げられる。
硬化剤としては、グリセリン、トリメチロールプロパン、ジエタノールアミン、およびトリエタノールアミン等の多官能ポリオールおよびポリアミン等を挙げることができる。
【0033】
本方法において、ポリオール(A)とポリイソシアネート(B)とを反応させる系に必要に応じて充填材および各種添加剤を加えてもよい。具体的にはポリオール(A)と必要に応じて選択された充填材および各種添加剤とを混合し、該混合物にポリイソシアネート(B)を添加して反応させる。
充填材としては、従来公知の充填材を広く使用できるが、例えば、通常の炭酸カルシウム、カーボンブラック、クレー、タルク、酸化チタン、生石灰、カオリン、ゼオライト、珪藻土、塩化ビニルペーストレンジ、ガラスバルーン、塩化ビニリデン樹脂バルーン、アクリロニトリル・メタクリロニトリル樹脂バルーン等が挙げられ、単独または混合して使用できる。
充填材の配合割合は特に限定されないが、ポリマー成分100質量部に対して、50〜1000質量部が好ましく、100〜500質量部がより好ましい。
【0034】
さらに粘度、物性を調整するために必要に応じて、可塑剤、接着付与剤、粘着付与剤、安定剤、ワックス、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、揺変剤、着色剤等の各種添加剤を配合することができる。
接着付与剤として、シランカップリング剤、カルボジイミド化合物等、安定剤としてヒンダードフェノール系化合物、トリアゾール系化合物等が用いられる。着色剤としては、チタンホワイト、カーボンブラック、ベンガラ等が挙げられる。
粘着付与剤としては、例えば、ロジンエステル樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、石油樹脂(脂肪族系、芳香族系、脂環族系、共重合系、クマロンインデン樹脂系)、アルキルフェノール樹脂、キシレン樹脂等が挙げられる。
粘着付与剤としては、例えば、ロジンエステル樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、石油樹脂(脂肪族系、芳香族系、脂環族系、共重合系、クマロンインデン樹脂系)、アルキルフェノール樹脂、キシレン樹脂等が挙げられる。
【0035】
(第2の製造方法)
上記第2の製造方法では、イソシアネート基/水酸基がモル比で1.3〜5.0となるように、好ましくは1.8〜4.5となるようにポリオール(A)とポリイソシアネート(B)とを反応させてイソシアネート基末端プレポリマーを得る。該イソシアネート基末端プレポリマーは雰囲気中の水分と反応して硬化し、制振材用ウレタン樹脂(硬化物)が得られる。
好ましくは、該イソシアネート基末端プレポリマーを含有する制振材用一液湿気硬化型組成物を、水分の入らない条件下で製造し、密閉容器に入れ保存し、使用時に容器から出し、被接着基材に塗布し、大気中に曝すことにより湿気硬化させて制振材用ウレタン樹脂を製造する。該一液湿気硬化型組成物は、塗布型の制振性接着剤として用いることができる。
【0036】
上記イソシアネート基末端プレポリマーを調製する際、上記イソシアネート基/水酸基のモル比が1.3以上であると、得られるプレポリマーの分子量が適度に小さく抑えられて、粘度が低くなるため、作業性、湿気硬化性の点で好ましい。一方5.0以下であると未反応のポリイソシアネート(B)の残存が少なく、最終的に得られる制振材用ウレタン樹脂の機械物性が良好となる。
本方法で用いられるイソシアネート基末端プレポリマーは、イソシアネート基含有量が0.5〜10質量%であることが好ましく、1〜7質量%であることがより好ましい。該イソシアネート基含有量が0.5質量%以上であるとプレポリマーの貯蔵安定性および湿気硬化後の制振性ウレタン樹脂の機械物性が優れ、10質量%以下であると湿気硬化後の制振性ウレタン樹脂の伸び、制振性が優れる。
【0037】
前記一液湿気硬化型組成物には、ポリオール(A)とポリイソシアネート(B)とを反応させてなるイソシアネート基末端プレポリマー以外の他のポリマーを含有させてもよい。該他のポリマーとして前記イソシアネート基末端プレポリマーとはガラス転移温度が異なるポリマーを用いることが好ましく、これにより得られる制振材用ウレタン樹脂のtanδの値が高くなる温度(ピーク温度)の範囲を広げることができる。
該他のポリマーは、前記イソシアネート基末端プレポリマー中のイソシアネート基と反応する官能基を含まないものであればよい。具体例としては、前記第1の製造方法における他のポリマーの例と同様のものが挙げられる。
該他のポリマーの使用割合は、イソシアネート基末端プレポリマーと他のポリマーの合計に対して200質量%以下が好ましく、100質量%以下がより好ましい。ゼロでもよい。
また、前記一液湿気硬化型組成物には、必要に応じて前記充填材および各種添加剤を配合することができる。
【0038】
(第3の製造方法)
本発明におけるポリオール(A)とポリイソシアネート化合物(B)とを反応させてイソシアネート基末端プレポリマーは、前記第2の製造方法のように、雰囲気中の水分と反応させて湿気硬化させることができるほか、前記第3の製造方法のように硬化剤成分と反応させて硬化させることもできる。
すなわち、前記第3の製造方法では、イソシアネート基/水酸基がモル比で1.3〜5.0となるように、好ましくは1.8〜4.5となるようにポリオール(A)とポリイソシアネート(B)とを反応させてイソシアネート基末端プレポリマーを得、該イソシアネート基末端プレポリマーを主剤成分とし、硬化剤成分と反応させることにより制振材用ウレタン樹脂(硬化物)が得られる。
好ましくは、該イソシアネート基末端プレポリマーを含有する主剤組成物および硬化剤成分を含有する硬化組成物を別々に有する制振材用二液硬化型システムを製造し、使用に際して、主剤組成物と硬化組成物を混合し、該混合物を被接着基材に塗布し、常温で、または必要に応じて加熱して硬化させることにより制振材用ウレタン樹脂を製造する。該二液硬化型システムは、塗布型の制振性接着剤として用いることができる。
主剤組成物は、水分の入らない条件下で製造し、密閉容器に入れ保存し、使用時に容器から出して硬化組成物と混合することが好ましい。また硬化反応時は密閉容器中や窒素等の不活性ガス流通化等で大気中の水分を吸収しないような条件で行うのが好ましい。
【0039】
上記イソシアネート基末端プレポリマーを調製する際、上記イソシアネート基/水酸基のモル比が1.3以上であると、得られるプレポリマーの分子量が適度に小さく抑えられて、粘度が低くなるため、作業性、硬化性の点で好ましい。一方5.0以下であると未反応のポリイソシアネート(B)の残存が少なく、最終的に得られる制振材用ウレタン樹脂の機械物性が良好となる。
本方法で用いられるイソシアネート基末端プレポリマーは、イソシアネート基含有量が0.5〜10質量%であることが好ましく、1〜7質量%であることがより好ましい。該イソシアネート基含有量が0.5質量%以上であると得られる制振材用ウレタン樹脂の機械物性が優れ、10質量%以下であると得られる制振材用ウレタン樹脂の伸びおよび制振性が優れる。
【0040】
硬化剤成分としては、公知の鎖伸長剤および/または硬化剤を用いることができ、前記第1の方法における鎖伸長剤および/または硬化剤と同様のものを用いることができる。
特に、熱可塑性の制振材用ウレタン樹脂を製造する場合は、鎖伸長剤のみを用い硬化剤を用いないことが好ましいが、熱可塑性を維持できる範囲で少量の硬化剤を併用してもよい。
硬化剤成分の使用量は、(主剤成分中のイソシアネート基)/(硬化剤中の水酸基)のモル比が0.7〜1.2となる範囲が好ましく、0.9〜1.1となる範囲がより好ましい。この比率の範囲内であると、充分に架橋し、得られる制振材用ウレタン樹脂の機械物性が良好となる。
【0041】
前記二液硬化型システムの主剤組成物または硬化剤組成物には、ポリオール(A)とポリイソシアネート(B)とを反応させてなるイソシアネート基末端プレポリマー以外の他のポリマーを含有してもよい。該他のポリマーとして前記イソシアネート基末端プレポリマーとはガラス転移温度が異なるポリマーを用いることが好ましく、これにより得られる制振材用ウレタン樹脂のtanδの値が高くなる温度(ピーク温度)の範囲を広げることができる。
該他のポリマーは、前記イソシアネート基末端プレポリマー中のイソシアネート基と反応する官能基を含まないものであればよい。具体例としては、前記第1の製造方法における他のポリマーの例と同様のものが挙げられる。
該他のポリマーの使用割合は、イソシアネート基末端プレポリマーと他のポリマーの合計に対して200質量%以下が好ましく、100質量%以下がより好ましい。ゼロでもよい。
また、前記二液硬化型システムの主剤組成物または硬化剤組成物には、必要に応じて前記充填材および各種添加剤を配合することができる。
【0042】
本発明の方法によれば、ポリイソシアネート化合物(B)と反応させる成分として、特定のポリエステルエーテルポリオール(A1)を用いることにより、後述の実施例に示されるように、接着性が良好であり、広い温度範囲においてtanδが大きくて制振性に優れるとともに、弾性率も高くて弾性率とtanδのバランスが良く、且つ伸びも良好である制振材用ウレタン樹脂が得られる。
具体的には、10〜50℃の範囲でtanδ(損失係数)が0.1以上であるような良好な制振性を有する制振材用ウレタン樹脂が得られる。このように、広い温度範囲でtanδが大きいと、制振材を室内・屋外で使用する場合に様々な温度条件にさらされても良好な制振性が安定して得られる。
特に、ポリエステルエーテルポリオール(A1)としてガラス転移温度(Tg)が互いに異なる2種以上を併用することにより、得られる制振材用ウレタン樹脂のtanδの値が高くなる温度(ピーク温度)の範囲を広げることができ、例えば、10〜50℃の常温の範囲でtanδ(損失係数)が0.2以上、より好ましくは0.3以上であるような優れた制振性を有する制振材用ウレタン樹脂を得ることができる。
【0043】
また本発明の方法により得られる制振材用ウレタン樹脂は、接着性が良好であり、制振性接着剤として好適である。例えば石膏ボード、合板、パーティクルボード、繊維板、木毛セメント板、フレキシブル板、ケイ酸カルシウム板、コンクリート、スレート、ALC板、鋼板等を貼り合わせる接着剤として用いることができ、これらを貼り合わせてなる建築用複合板に制振性能を付与することができる。
特に、上記一液湿気硬化型組成物または二液硬化型システムを用いて制振材用ウレタン樹脂を製造する形態とすれば、該組成物またはシステムを塗布型の制振性接着剤として適用することができ、作業性が良い。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の例において、特に断りのない限り「部」は「質量部」を示す。
[製造例1:ポリエステルエーテルジオール(A1―1)の調製]
本例では、触媒(x)として亜鉛ヘキサシアノコバルテート−tert−ブチルアルコール錯体、開始剤(a)としてポリオキシプロピレンジオール、ポリカルボン酸無水物(b)として無水フタル酸、アルキレンオキシド(c)としてプロピレンオキシドを用いてポリエステルエーテルジオール(A1−1)を製造した。
【0045】
すなわち、撹拌機および窒素導入管を備えた耐圧反応器内に、ポリオキシプロピレンジオール2000gを投入した。次いで、無水フタル酸(PA)の800g(5.4モル)を上記反応容器内に投入して撹拌した。次いで、亜鉛ヘキサシアノコバルテート−tert−ブチルアルコール錯体(DMC−TBA錯体)の0.4gを加え、さらにプロピレンオキシド(PO)の1200g(20.6モル)をゆっくり加えながら、窒素雰囲気下、130℃で7時間反応させた。その後、反応容器内圧の低下が止まった事を確認した後、反応容器から生成物を抜き出し、ポリオキシプロピレンジオールの末端に無水フタル酸およびプロピレンオキシドが重合したポリエステルエーテルジオール(A1−1)(水酸基価:58.3mgKOH/g)を得た。このポリエステルエーテルジオール(A1−1)のH−NMRの測定結果から、このジオール(A1−1)が無水フタル酸およびプロピレンオキシドの重合鎖を有することが確認された。
【0046】
本例における、開始剤(a)の水酸基価、(a)、(b)、(c)、(x)の各成分の使用量(仕込み質量)および(c)/(b)のモル比、ならびに得られたポリエステルエーテルジオール(A1−1)における(b)の含有量、水酸基価、水酸基換算分子量、「水酸基価換算分子量から開始剤の分子量を除いた残りの分子量を開始剤の官能基数で割った値(M’)」、ガラス転移温度、酸価および粘度の各値を表1に示す。
粘度の値は、JIS K1557(1970年版)に準処する方法により、E型粘度計を用いて25℃の条件で測定して得られる値(単位:mPa・s)である。
ガラス転移温度(Tg)は、示差熱分析機(DSC:SII社製、製品名:EXSTAR-DSC-6200)装置を用い−100℃まで冷却した後に5℃/minで昇温する条件で測定した。
【0047】
[製造例2〜4:ポリエステルエーテルジオール(A1―2〜4)の調製]
開始剤(a)の水酸基価、および(a)、(b)、(c)、(x)の各成分の使用量を表1の通りに変更した以外は、製造例1と同様にしてポリエステルエーテルジオール(A1−2〜4)を得た。
製造例1と同様に、開始剤(a)の水酸基価、(a)、(b)、(c)、(x)の各成分の使用量および(c)/(b)のモル比、ならびに得られたポリエステルエーテルジオール(A1−2〜4)における各物性値等を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
[実施例1:制振材用ウレタンプレポリマー(P1)の製造]
ポリオール(A)とポリイソシアネート化合物(B)とを反応させてイソシアネート基末端プレポリマー(制振材用ウレタンプレポリマー)を製造した。
1Lのガラス製の撹拌翼付き反応槽に、製造例1で製造したポリエステルエーテルジオール(A1−1)の100質量部を投入した。また該反応槽にポリイソシアネート化合物(B)として4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業社製、商品名:ミリオネートMT、イソシアネート基含有量33.6質量%;以下、MDIという。)の32.6質量部を投入した。
反応槽内を窒素で置換した後、内容物を毎分100回転で撹拌しながら反応槽を90℃に昇温し、4時間90℃を保った。反応後の内容物の一部を取り出してイソシアネート基(以下、NCOと省略することがある。)含有量を測定し、理論的に計算された含有量以下であることを確認して反応を終了して、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(P1)を得た。
プレポリマー調製時の配合(単位:質量部)、イソシアネート基/水酸基のモル比、ならびに得られたプレポリマー(P1)におけるイソシアネート基含有量を表2に示す。
【0050】
[実施例2〜5:制振材用ウレタンプレポリマー(P2〜5)の製造]
製造例2〜4で製造したポリエステルエーテルジオール(A1−2〜4)を用いてイソシアネート基末端プレポリマー(制振材用ウレタンプレポリマー)を製造した。
すなわち、実施例1において、ポリエステルエーテルポリオール(A1)の種類、ポリイソシアネート化合物(B)であるMDIの配合量を表2に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様にしてイソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(P2〜5)を得た。
プレポリマー調製時のイソシアネート基/水酸基のモル比、および得られたプレポリマー(P2〜5)におけるイソシアネート基含有量を表2に示す。
【0051】
[比較例1、2]
実施例1において、ポリエステルエーテルジオール(A1−1)に代えて、比較例1では、開始剤としてプロピレングリコールを用い触媒としての水酸化カリウムの存在下でプロピレンオキシドを付加重合して得た数平均分子量2000のポリオキシプロピレンジオール(ガラス転移温度:−70℃)を用いた。比較例2ではポリブチレンアジペート(日本ポリウレタン工業社製、製品名:ニッポラン4010、水酸基数2、数平均分子量2000)を用いた。またポリイソシアネート化合物(B)であるMDIの配合量を表2に示す通りに変更した。その他は、実施例1と同様にしてイソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(Q1、2)を得た。
プレポリマー調製時のイソシアネート基/水酸基のモル比、および得られたプレポリマー(Q1、2)におけるイソシアネート基含有量を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
[制振材用ウレタン樹脂の製造および評価]
実施例1〜5および比較例1,2で得たイソシアネート基末端プレポリマー(P1〜P5およびQ1、Q2)を2軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPPフィルム)上に塗布して、厚み100μmの未硬化の塗膜を形成した。そして、該未硬化の塗膜を温度20℃、相対湿度60%の環境下に一週間放置し、空気中の水分によって塗膜を硬化させることにより、ウレタン樹脂フィルムを得た。
【0054】
比較例3では、塗布型制振材組成物として市販されているアクリルエマルジョン系接着剤(製品名:HC−025、セメダイン社製、フィラー含有。)をOPPフィルム上に塗布して、厚み100μmの塗膜を形成した。そして該塗膜を温度20℃、相対湿度60%の環境下に一週間放置し、塗膜中の水分を揮発させて硬化フィルムを得た。
【0055】
上記実施例1〜5および比較例1,2で得られた各ウレタン樹脂フィルム、および比較例3で得られた硬化フィルムの各フィルムを、打抜きカッターで所定形状に切断した後OPPフィルムからはがして評価サンプルを作成し、表3に示す物性を測定した。すなわちJISK 6253(1997年版)に準処する方法で評価サンプルを積み重ねてA硬度を測定した。ダンベル3号の評価サンプルを用い、JIS K7311(1995年版)に従って引張試験をおこない、伸び100%時の引張弾性率(100%M、単位:MPa)、伸び300%時の引張弾性率(300%M、単位:MPa)、引張強度(Ts、単位:MPa)および破断伸び(単位:%)を測定した。ガラス転移温度を測定した。結果を表3に示す。
また制振性を評価するために、上記実施例1〜5および比較例1,2で得られた各ウレタン樹脂フィルム、および比較例3で得られた硬化フィルムの各フィルム(厚さ100μm)を長さ20mm、幅10mmの矩形状に切断し、OPPフィルムから剥がして評価サンプルを作成した。動的粘弾性測定装置(SII社製、製品名:EXSTAR DMS6100)により、引張モードで損失係数(tanδ)測定した。損失係数は1Hzの周波数で−100〜120℃の範囲で測定し、温度依存性について評価した。10〜50℃における測定結果を表3に示す。
さらに、上記各フィルムについて、上記損失係数と同様の評価サンプルを用いて動的粘弾性測定装置により、25℃における貯蔵弾性率(単位:Pa)を測定した。結果を表3に示す。
【0056】
接着性を評価するために、実施例1〜5および比較例1,2で得たイソシアネート基末端プレポリマー(P1〜P5およびQ1、Q2)および比較例3で使用したアクリルエマルジョン系接着剤をそれぞれ用いて、木材からなる2枚の試験片を貼り合わせた。
すなわち、上記プレポリマー(P1〜P5およびQ1、Q2)およびアクリルエマルジョン系接着剤をそれぞれ、木材からなる試験片の上に縦×横×厚さが25mm×25mm×1mmになるように塗布した。塗布後に幅が25mmの木材からなる試験片を載せ、手で軽く押し付けた。これを温度が23℃、相対湿度が60%の槽内に1週間放置して上記プレポリマーおよびアクリルエマルジョン系接着剤を硬化させた。
こうして得られた試料における接着力を以下のせん断試験により評価した。せん断試験は、引張試験機(東洋ボードウィン社製、製品名:テンシロンVTM−III−200)を用い、引張速度50mm/分の条件で、せん断剥離強度を測定した。せん断剥離強度の測定値を接着力(単位:N/m)として表3に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
一般的に制振効果があると考えられるのは、損失係数(tanδ)が0.1以上とされており、損失係数が0.1以上となる温度範囲が広いものほど温度依存性が小さく良好な制振性を有するといえる。
実施例1〜5で得られたフィルムは、いずれも10〜50℃の広い温度範囲にわたって損失係数0.1以上を維持しており良好な制振性を示すとともに、25℃の貯蔵弾性率がいずれも1×10Pa以上と高く、弾性率とtanδのバランスが良い。破断伸びも良好であった。また実施例1〜5のプレポリマーの硬化物(制振材用ウレタン樹脂)によって木材の試験片を接着した場合の接着力も良好であった。
これに対して、ポリエーテルポリオールとポリイソシアネート化合物と反応させて得られた比較例1のフィルムは損失係数が低くて制振性が不充分であった。
ポリエステルポリオールとポリイソシアネート化合物と反応させて得られた比較例2のフィルムは、損失係数が低く破断伸びも劣っていた。フィルムの破断伸びが良くないと、熱収縮率が互いに異なる被着体の貼り合わせに用いたときに剥がれが生じやすい。
アクリルエマルジョン系接着剤を用いた比較例3は接着性、貯蔵弾性率およびtanδはいずれも良好であるものの、破断伸びが劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール(A)とポリイソシアネート化合物(B)とを反応させて得られるイソシアネート基末端プレポリマーを、湿気硬化させて制振材用ウレタン樹脂を製造する方法であって、
前記ポリオール(A)が、触媒(x)の存在下で、開始剤(a)に対して、ポリカルボン酸無水物(b)およびアルキレンオキシド(c)を共重合して得られるポリエステルエーテルポリオール(A1)を含むことを特徴とする制振材用ウレタン樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記触媒(x)が複合金属シアン化物錯体である、請求項1に記載の制振材用ウレタン樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記ポリオール(A)が前記ポリエステルエーテルポリオール(A1)を2種以上含み、かつ該2種以上のポリエステルエーテルポリオール(A1)はガラス転移温度が互いに異なっている、請求項1または2に記載の制振材用ウレタン樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記ポリオール(A)が、前記ポリエステルエーテルポリオール(A1)であってガラス転移温度が−60℃〜−30℃の範囲である第1のポリエステルエーテルポリオール(A11)と、前記ポリエステルエーテルポリオール(A1)であってガラス転移温度が−45℃〜−15℃の範囲である第2の前記ポリエステルエーテルポリオール(A12)を含み、かつ該第1のポリエステルエーテルポリオール(A11)と第2のポリエステルエーテルポリオール(A12)のガラス転移温度の差が15℃〜40℃の範囲である、請求項3記載の制振材用ウレタン樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記制振材用ウレタン樹脂の損失係数が、10〜50℃の範囲で0.1以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の制振材用ウレタン樹脂の製造方法。
【請求項6】
ポリオール(A)とポリイソシアネート化合物(B)とを反応させて得られるイソシアネート基末端プレポリマーからなり、前記ポリオール(A)が、触媒(x)の存在下で、開始剤(a)に対して、ポリカルボン酸無水物(b)およびアルキレンオキシド(c)を共重合して得られるポリエステルエーテルポリオール(A1)を含む制振材用ウレタンプレポリマーを含有する、制振材用一液湿気硬化型組成物。

【公開番号】特開2013−79407(P2013−79407A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−21788(P2013−21788)
【出願日】平成25年2月6日(2013.2.6)
【分割の表示】特願2007−277805(P2007−277805)の分割
【原出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】