説明

制震壁におけるその動作を解析する方法及びそのプログラム並びにそれを記録した記録媒体及びそれを実施する解析装置

【課題】制震壁における実際の挙動に即したその動作を解析する方法及びそのプログラム並びにそれを記録したコンピュータで読み取り可能な記録媒体及び及びそれを実施する解析装置を提供すること。
【解決手段】解析対象としての制震壁1は、一対の側壁2及び3、一対の横壁4及び5並びに底壁6を有した容器7と、容器7のの側壁2及び3に夫々隙間dをもって対面していると共に側壁2及び3、一対の横壁4及び5並びに底壁6に対して水平方向Hに可動に容器6内に配された抵抗板8と、隙間dを満たして容器7内に配されていると共に面積Sをもって抵抗板8の側壁2及び3の水平方向Hの面に接する温度tの粘性体9とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器とこの容器内に配された抵抗板と容器内に配されている粘性体とを具備した制震壁におけるその動作を解析する方法及びそのプログラム並びにそれを記録したコンピュータで読み取り可能な記録媒体及びそれを実施する解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特開2000−81363号公報
【特許文献2】特開2007−133697号公報
【特許文献3】特開2009−7916号公報
【特許文献4】特開2010−250566号公報
【特許文献5】特開2011−21315号公報
【0003】
この種の制震壁においては、設計値から予めその性能、特に容器に対する抵抗板の変位と当該変位での抵抗板に生じる抵抗力との関係である減衰力を地震波に対して計算により求めて、斯かる設計値が要求される減衰力を満たしているかどうかを解析し、満たしている場合には、その設計値に基づいてその実際の製造がなされる一方、満たしていない場合には、その設計値に変更が加えられて、再度、解析が行われ、設計値が要求される減衰力を満たすまでこの解析が繰り返される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、斯かる制震壁では、最近の建物の高層化に伴い高層での地震の容器に対する抵抗板の変位が大きくなると共に小型化のために容器と抵抗板との間の隙間が小さく設定されるために、当該隙間に配される粘性体が抵抗板の変位速度に追従できなくなる上に、振動エネルギの吸収の結果としての発熱により当該粘性体に無視できない温度上昇が生じ、斯かる粘性体の非追従性及び温度上昇をも考慮しないと、解析結果において、設計値が要求される減衰力を仮に満たしていたとしても、その設計値に基づいて実際に製造された制震壁は、要求される減衰力を満たさなくなり、多くの場合には、粘性体の非追従性及び温度上昇により、要求される減衰力に対して小さな減衰力しか得られない虞を有することになる。
【0005】
本発明は、前記諸点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、粘性体の非追従性及び温度上昇を考慮して、容器に対する抵抗板の変位が大きくなると共に小型化のために容器と抵抗板との間の隙間が小さく設定されても、実際の減衰力をほぼ正確に推定できて、低層用は勿論のこと高層用であっても、また、容器と抵抗板との間の隙間の大小に拘らず、制震壁における実際の挙動に即したその動作を解析する方法及びそのプログラム並びにそれを記録したコンピュータで読み取り可能な記録媒体及び及びそれを実施する解析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
粘性体を収容すると共に一対の側壁を有した容器と、この容器の一対の側壁に隙間dをもって対面していると共に容器の一対の側壁に対して横方向に可動に容器内に配された抵抗板と、隙間dを満たして容器内に配されていると共に面積Sをもって抵抗板に接する温度tの粘性体とを具備した制震壁における、容器に対する抵抗板の速度Vでの横方向の移動における抵抗板の横方向の静止位置からの各変位Dと当該各変位Dでの抵抗板に生じる抵抗力Fとの関係についてのその動作を解析する本発明の方法は、時間の経過と共に変化する容器に対する抵抗板の横方向の静止位置からの変位Dを示す振動波から一の時刻における速度Vと当該一の時刻及び一の時刻前における最大変位DISPMAXに基づいて決定された最大変位依存係数αと面積Sと温度tとに基づいて、これら速度V、最大変位依存係数α、面積S及び温度tを変数として歪速度V/dの範囲毎に予め設定された抵抗力Fの関係式から当該一の時刻における変位Dでの抵抗力Fとを求めることを含んでいる。
【0007】
制震壁におけるその動作を解析する本発明の方法によれば、時間の経過と共に変化する容器に対する抵抗板の横方向の静止位置からの変位Dを示す振動波から一の時刻における速度Vと一の時刻以前における最大変位DISPMAXに基づいて決定された最大変位依存係数αと面積Sと温度tとに基づいて、これら速度V、最大変位依存係数α、面積S及び温度tを変数として歪速度V/dの範囲毎に予め設定された抵抗力Fの関係式から当該一の時刻における変位Dでの抵抗力Fとを求めるために、容器に対する抵抗板の大きな変位による粘性体の非追従性及び温度上昇を補正でき、而して、容器に対する抵抗板の変位が大きくなると共に小型化のために容器と抵抗板との間の隙間が小さく設定されても、実際の減衰力をほぼ正確に推定でき、制震壁における実際の挙動に即したその動作を解析することができる。
【0008】
本発明では、歪速度V/dの各範囲について互いに異なる予め設定された抵抗力Fの関係式から一の時刻における変位Dでの抵抗力Fを求めてもよく、このように歪速度V/dの範囲にしたがって予め設定された抵抗力Fの関係式から変位Dでの抵抗力Fを求めると、実際の減衰力をより正確に推定できる。
【0009】
また、本発明では、先行の最大変位DISPMAXとこの先行の最大変位DISPMAXにすぐ続く後続の最大変位DISPMAXとを比較して、先行の最大変位DISPMAXに対して後続の最大変位DISPMAXが小さい場合には、先行の最大変位DISPMAXに基づいて決定された最大変位依存係数αを維持して予め設定された抵抗力Fの関係式から一の時刻における変位Dでの抵抗力Fを求めてもよく、更に、先行の最大変位DISPMAXとこの先行の最大変位DISPMAXにすぐ続く後続の最大変位DISPMAXとを比較して、先行の最大変位DISPMAXに対して後続の最大変位DISPMAXが大きい場合には、先行の最大変位DISPMAXに基づいて決定された最大変位依存係数αを、後続の最大変位DISPMAXに基づいて決定された最大変位依存係数αに変更し、この変更後の最大変位依存係数αに基づいて予め設定された抵抗力Fの関係式から一の時刻における変位Dでの抵抗力Fを求めてもよく、更にまた、振動波の初期において先行の最大変位DISPMAXが存在しない場合には、予め設定された最大変位依存係数αに基づいて予め設定された抵抗力Fの関係式から一の時刻における変位Dでの抵抗力Fを求めてもよく、このように最大変位DISPMAXに基づいて最大変位依存係数αを維持若しくは変更させ又は予め設定された値とすることにより、容器に対する抵抗板の大きな変位にしたがって実際の減衰力をほぼ正確に推定でき、制震壁における実際の挙動に即したその動作を解析することができる。
【0010】
本発明では、一の時刻の変位Dとこの一の時刻の直前の時刻の変位Dとから求められた速度Vに基づいて予め設定された抵抗力Fの関係式から一の時刻における変位Dでの抵抗力Fを求めてもよく、また、一の時刻での速度Vとこの一の時刻の直前の時刻の速度Vとの正負の符号の変化で最大変位DISPMAXを求め、この求めた最大変位DISPMAXに基づて予め設定された抵抗力Fの関係式から一の時刻における変位Dでの抵抗力Fを求めてもよく、これらの場合、一の時刻とこの一の時刻の直前の時刻との間隔は、一つの例では、10msであるが、本発明は、これに限定されず、より細かく精度よく変位Dと抵抗力Fとの関係を求める場合には、10ms以下としてもよい。
【0011】
本発明の好ましい例では、抵抗力Fの関係式は、以下の通りである。
V/d<1の場合、
F=α×4.12×exp(−0.043×t)×S×(V/d)1.00
V/d=1又は1<V/d<10の場合、
F=α×4.12×exp(−0.043×t)×S×(V/d)0.59
V/d=10又は10<V/d<100の場合、
F=α×6.37×exp(−0.043×t)×S×(V/d)0.40
ここで、上記の通り、Fは、抵抗力(減衰力)(N)、Sは、面積(cm)、dは、隙間(cm)、tは、温度(℃)、Vは、速度(kine)及びV/dは、歪速度(1/s)であって、最大変位依存係数αは、最大変位DISPMAXに基づいて決定される値である。
【0012】
斯かる例において、最大変位依存係数αは、隙間d=2mmの場合には、実験によれば、以下の式で表される値であるとよい。
α=[1/{a×(DISPMAX/d)+1}]
ここで、
a=2×10−6、b=4、c=0.45である。
【0013】
本発明において、コンピュータで読み取り可能な記録媒体は、磁気的記録媒体、光学的記録媒体、電気的記録媒体等のいずれであってもよい。
【0014】
上記の制震壁におけるその動作を解析する方法を実施する本発明の解析装置は、時刻と共に変化する容器に対する抵抗板の横方向の静止位置からの変位Dを示す解析用の振動波の時刻毎の変位Dn(n=1、2、3・・・)を離散的に発生する振動波発生装置と、解析用の振動波に対しての制震壁におけるその動作を解析する上記のプログラムを記録した記憶装置と、振動波発生装置から入力される振動波の時刻毎の変位Dnから記憶装置に記録されたプログラムに基づいて制震壁におけるその動作の解析を実行する実行装置と、実行装置において解析された結果を表示する表示装置と、実行装置に命令及び初期値を与える入力装置とを含んでいる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、粘性体の非追従性及び温度上昇を考慮して、容器に対する抵抗板の変位が大きくなると共に小型化のために容器と抵抗板との間の隙間が小さく設定されても、実際の減衰力のほぼ正確な値を推定できて、低層用は勿論のこと高層用であっても、また、容器と抵抗板との間の隙間の大小に拘らず、制震壁における実際の挙動に即したその動作を解析する方法及びそのプログラム並びにそれを記録したコンピュータで読み取り可能な記録媒体及びそれを実施する解析装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明による解析対象である制震壁の一例の一部断面説明図である。
【図2】図2は、図1に示す例のII−II線矢視断面説明図である。
【図3】図3は、本発明による方法を実施する解析装置の一例の説明図である。
【図4】図4は、本発明による方法における振動波の一例の時刻−変位説明図である。
【図5】図5は、本発明による方法のフローチャートの説明図である。
【図6】図6は、本発明による方法で解析された例の変位−抵抗力説明図である。
【図7】図7は、本発明による解析対象である制震壁の他の例の図2に相当する断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に本発明の実施の形態を、図に示す好ましい例に基づいて更に詳細に説明する。なお、本発明はこれら例に何等限定されないのである。
【0018】
図1及び図2において、本発明の解析対象としての制震壁1は、一対の側壁2及び3、一対の側壁2及び3に固着された一対の横壁4及び5並びに一対の側壁2及び3並びに一対の横壁4及び5に固着された底壁6を有した容器7と、容器7の一対の側壁2及び3に夫々隙間dをもって対面していると共に当該一対の側壁2及び3、一対の横壁4及び5並びに底壁6に対して横方向、即ち水平方向Hに可動に容器7内に配された抵抗板8と、隙間dを満たして容器7内に配されていると共に面積Sをもって抵抗板8の側壁2及び3の水平方向Hの面に接する温度tの粘性体9とを具備している。
【0019】
制震壁1は、底壁6が例えば高層の建物の特定の階の床梁に固着される一方、抵抗板8の上縁10が当該階の天井梁に固着されて、床梁に対する天井梁の水平方向Hの振動で容器7に対して抵抗板8が同じく水平方向Hに振動するようになっており、斯かる抵抗板8の容器7に対する水平方向Hの振動でこれら容器7の側壁2及び3と抵抗板8とに接触する粘性体9が剪断されて、この粘性体9の剪断で床梁に対する天井梁の水平方向の振動エネルギを吸収するようになっている。
【0020】
制震壁1の動作の解析は、図3に示すように、時刻Tと共に変化する容器7に対する抵抗板8の横方向である水平方向Hの静止位置D=0からの変位Dを示す解析用の振動波W(図4参照)の時刻Tn(n=1、2、3・・・、但し、Tn−T(n−1)=ΔT=10ms)毎の変位Dn(n=1、2、3・・・)を離散的に発生する振動波発生装置15と、解析用の振動波Wに対しての制震壁1におけるその動作を解析するプログラムを記録した磁気ディスク等の記録媒体としての記憶装置16と、振動波発生装置15から入力される振動波Wの時刻Tn毎の変位Dnから記憶装置16に記録された解析プログラムに基づいて制震壁1におけるその動作の解析を実行するコンピュータ等の実行装置17と、実行装置17において解析された結果を表示するLEDディスプレイ等の表示装置18と、実行装置17に分析開始等の命令及び粘性体9の温度t等の初期値等を与えるキーボード等の入力装置19とからなる解析装置20によって行われる。
【0021】
実行装置17は、入力装置19からの隙間dと温度tとの入力に加えて解析開始命令により(ステップ100)、記憶装置16に記憶された解析プログラムに基づいて、時刻T0での振動波発生装置15からの変位Dとして変位D0=0を読み込んでこれを認識して抵抗力F=0とし、次に、その次の時刻T1において振動波発生装置15からの変位Dとして変位D1を認識し(ステップ101)、この変位D1から時刻T1での速度Vとして速度V1=(D1−D0)/ΔT=D1/ΔTを計算し、この速度V1と時刻T0における速度V0=0との正負の符号の比較を行い、時刻T1では符号に変化がないと決定し(ステップ102)、時刻T0と時刻T1との間には最大変位DISPMAXが存在しなく、時刻T0での最大変位DISPMAXの絶対値と時刻T1での最大変位DISPMAXの絶対値との比較においては時刻T0での最大変位DISPMAXの絶対値よりも時刻T1での最大変位DISPMAXの絶対値が大きくないとし(ステップ103)、最大変位依存係数αを初期の最大変位依存係数α0=1とする(ステップ104)一方、計算した速度V1と入力された隙間dとから時刻T1での歪速度V/dとして比=V1/dを計算し、比=V1/d<1の場合には、下式(1)により、比=V1/d=1又は1<V1/d<10の場合には、下式(2)により、比=V1/d=10又は10<V1/d<100の場合には、下式(3)により、夫々計算して、時刻T1での抵抗力FとしてF1を求め、この時刻T1での抵抗力F1を表示装置18に出力する(ステップ105)。
【0022】
F1=α0×4.12×exp(−0.043×t)×S×(V1/d)1.00 ・・・(1)
F1=α0×4.12×exp(−0.043×t)×S×(V1/d)0.59 ・・・(2)
F1=α0×6.37×exp(−0.043×t)×S×(V1/d)0.40 ・・・(3)
【0023】
式(1)、(2)及び(3)は、実験により求められたものである。
【0024】
表示装置18は、実行装置17からの抵抗力F1を図6に示すように画面上に表示する。
【0025】
次に、実行装置17は、記憶装置16に記憶された解析プログラムに基づいて、その次の時刻T2において振動波発生装置15からの変位Dとして変位D2を認識し(ステップ101)、この変位D2から時刻T2での速度Vとして速度V2=(D2−D1)/ΔTを計算し、この速度V2と時刻T1における速度V1との正負の符号の比較を行い、時刻T2では符号に変化がない場合には、時刻T2と時刻T1との間では符号に変化がないと決定し(ステップ102)、時刻T1と時刻T2との間には最大変位DISPMAXが存在しなく、時刻T1での最大変位DISPMAXの絶対値と時刻T2での最大変位DISPMAXの絶対値との比較においては時刻T1での最大変位DISPMAXの絶対値よりも時刻T2での最大変位DISPMAXの絶対値が大きくないとし(ステップ103)、最大変位依存係数αを最初の最大変位依存係数α0=1に維持する(ステップ104)一方、計算した速度V2と隙間dとから時刻T2での比V/dとして比=V2/dを計算し、比=V2/d<1の場合には、式(1)により、比=V2/d=1又は1<V2/d<10の場合には、式(2)により、比=V2/d=10又は10<V2/d<100の場合には、式(3)により、夫々比=V1/dを比=V2/dに置き換えて計算して、時刻T2での抵抗力FとしてF2を求め、この時刻T2での抵抗力F2を表示装置18に出力する(ステップ105)。
【0026】
以後、実行装置17は、記憶装置16に記憶された解析プログラムに基づいて、時刻T2に続く時刻T3、T4・・・において、以上の振動波発生装置15からの変位Dとして変位D3、D4・・・を認識し(ステップ101)、速度V3=(D3−D2)/ΔT、速度V4=(D4−D3)/ΔT・・・を計算し(ステップ102)、速度Vについて符号の変化がない場合には(ステップ103)、最初の最大変位依存係数α0=1を維持して(ステップ104)、計算した速度V3=(D3−D2)/ΔT、速度V4=(D4−D3)/ΔT・・・を用いて式(1)、(2)又は(3)により抵抗力F3、F4・・・を計算し、この計算結果の抵抗力F3、F4・・・を表示装置18に出力し、表示装置18の画面上に表示させる(ステップ105)。
【0027】
次に、記憶装置16に記憶された解析プログラムに基づいて実行装置17は、例えば、時刻T8における速度V8=(D8−D7)/ΔTの計算に基づく抵抗力F8の計算、表示後、時刻T9における速度V9=(D9−D8)/ΔTの計算で、速度V8の正の符号に対して速度V9の符号が負となると、時刻T8と時刻T9との間には最大変位DISPMAX1が存在すると推定し、最大変位DISPMAX1=(D9+D8)/2を計算し(ステップ102)、この最大変位DISPMAX1の絶対値と時刻T9前における最大変位DISPMAXの絶対値とを比較し、時刻T9前における最大変位DISPMAXが存在しない場合には、時刻T9前における最大変位DISPMAXの絶対値よりも時刻T9における最大変位DISPMAX1の絶対値が大きいと判断して(ステップ103)、この最大変位DISPMAX1に基づいて下式(4)から最大変位依存係数αとしての最初の最大変位依存係数α1を計算する(ステップ106)。
【0028】
α1=[1/{a×(DISPMAX1/d)+1}]・・・(4)
ここで、
a=2×10−6、b=4、c=0.45である。
【0029】
本式(4)もまた、実験により求められたものである。
【0030】
計算された最初の最大変位依存係数α1に基づいて実行装置17は、記憶装置16に記憶された解析プログラムにより、時刻T9での比V/dとして計算した速度V9と隙間dとから時刻T9での比V/dとして比=V9/dを計算し、比=V9/d<1の場合には、式(1)により、比=V9/d=1又は1<V9/d<10の場合には、式(2)により、比=V9/d=10又は10<V9/d<100の場合には、式(3)により、夫々比=V1/dを比=V9/dに、最大変位依存係数α0を最大変位依存係数α1に夫々置き換えて計算して、時刻T9での抵抗力FとしてF9を求め、この時刻T9での抵抗力F9を表示装置18に出力する(ステップ105)。
【0031】
以後、記憶装置16に記憶された解析プログラムにより、実行装置17は、時刻T10以後の各時刻Tで計算した速度Vと隙間dとから各時刻Tの比=V/dを計算し、最大変位DISPMAX1の絶対値よりも各時刻Tにおける最大変位DISPMAXの絶対値が大きいと判断されない限り、各時刻Tの比=V/dを各時刻Tの一つ前の各時刻Tの比=V/dに、最大変位依存係数α0を最大変位依存係数α1に夫々置き換えて、各時刻Tにおいて、比=V/d<1の場合には、式(1)により、比=V/d=1又は1<V/d<10の場合には、式(2)により、比=V/d=10又は10<V/d<100の場合には、式(3)により、夫々計算して、各時刻Tでの抵抗力Fを求め、この各時刻Tでの抵抗力Fを表示装置18に出力する(ステップ105)。
【0032】
そして、実行装置17は、記憶装置16に記憶された解析プログラムにより、例えば、時刻T21における速度V21=(D21−D20)/ΔTの計算に基づく抵抗力F21の計算、表示後、時刻T22における速度V22=(D22−D21)/ΔTの計算で、速度V21の負の符号に対して速度V22の符号が正となると、時刻T21と時刻T22との間には最大変位DISPMAX2が存在すると推定し、最大変位DISPMAX2=(D21+D22)/2を計算し(ステップ102)、この最大変位DISPMAX2の絶対値と時刻T22前において計算に使用されている最大変位DISPMAX1の絶対値とを比較し(ステップ103)、最大変位DISPMAX1の絶対値よりも最大変位DISPMAX2の絶対値が小さい場合には、最大変位DISPMAX1をそのままとして最大変位依存係数α1を維持して(ステップ104)、比=V22/d<1の場合には、式(1)により、比=V22/d=1又は1<V22/d<10の場合には、式(2)により、比=V22/d=10又は10<V22/d<100の場合には、式(3)により、比=V1/dを比=V22/dに、最大変位依存係数α0を最大変位依存係数α1に夫々置き換えて、夫々計算して、時刻T22での抵抗力FとしてF22を求め、この時刻T22での抵抗力F22を表示装置18に出力する(ステップ105)。
【0033】
以後、記憶装置16に記憶された解析プログラムにより、実行装置17は、時刻T22以後の各時刻Tで計算した速度Vと隙間dとから各時刻Tの比=V/dを計算し、最大変位DISPMAX1の絶対値よりも各時刻Tにおける最大変位DISPMAXの絶対値が大きいと判断されない限り、各時刻Tの一つ前の比=V/dを各時刻Tの比=V/dに、最大変位依存係数α0を最大変位依存係数α1に夫々置き換えて、各時刻Tにおいて、比=V/d<1の場合には、式(1)により、比=V/d=1又は1<V/d<10の場合には、式(2)により、比=V/d=10又は10<V/d<100の場合には、式(3)により、夫々計算して、各時刻Tでの抵抗力Fを求め、この各時刻Tでの抵抗力Fを表示装置18に出力する(ステップ105)。
【0034】
更に、実行装置17は、記憶装置16に記憶された解析プログラムにより、例えば、時刻T29における速度V29=(D29−D28)/ΔTの計算に基づく抵抗力F29の計算、表示後、時刻T30における速度V30=(D30−D29)/ΔTの計算で、速度V29の正の符号に対して速度V30の符号が負となると、時刻T29と時刻T30との間には最大変位DISPMAX3が存在すると推定し、最大変位DISPMAX3=(D29+D30)/2を計算し(ステップ102)、この最大変位DISPMAX3の絶対値と時刻T30前において維持された最大変位DISPMAX1の絶対値とを比較し(ステップ103)、最大変位DISPMAX1よりも最大変位DISPMAX3が大きい場合には、最大変位DISPMAX1を最大変位DISPMAX3とし(ステップ106)、式(4)において最大変位DISPMAX1を最大変位DISPMAX3に入れ替えて計算して新たな最大変位依存係数α3を求め、比=V30/d<1の場合には、式(1)により、比=V30/d=1又は1<V30/d<10の場合には、式(2)により、比=V30/d=10又は10<V30/d<100の場合には、式(3)により、比=V1/dを比=V30/dに、最大変位依存係数α0を最大変位依存係数α3に夫々置き換えて、夫々計算して、時刻T30での抵抗力FとしてF30を求め、この時刻T30での抵抗力F30を表示装置18に出力する(ステップ105)。
【0035】
以後、記憶装置16に記憶された解析プログラムにより、実行装置17は、時刻T30以後の各時刻Tで計算した速度Vと隙間dとから各時刻Tの比=V/dを計算し、最大変位DISPMAX3の絶対値よりも各時刻Tにおける最大変位DISPMAXの絶対値が大きいと判断れない限り、各時刻Tの一つ前の各時刻Tの比=V/dを各時刻Tの比=V/dに、最大変位依存係数α0を最大変位依存係数α3に夫々置き換えて、各時刻Tにおいて、比=V/d<1の場合には、式(1)により、比=V/d=1又は1<V/d<10の場合には、式(2)により、比=V/d=10又は10<V/d<100の場合には、式(3)により、夫々計算して、各時刻Tでの抵抗力Fを求め、この各時刻Tでの抵抗力Fを表示装置18に出力する(ステップ105)。
【0036】
実行装置17は、以後、記憶装置16に記憶された解析プログラムにより、振動波Wの消滅まで、以上の解析動作を行い、表示装置18に、振動波Wの解析結果に対応しないが、参考として図6に示すような、変位D−抵抗力曲線31を表示させ、振動波Wの消滅で解析動作を終了する(ステップ107)。
【0037】
このように制震壁1におけるその動作を解析する本例の方法は、時刻Tと共に変化する容器7に対する抵抗板8の水平方向Hの静止位置D0からの変位Dを示す振動波Wから予め設定された時刻Tn(n=1、2、3・・・)毎において先行の時刻Tn−1の変位Dn−1とこの先行の時刻Tn−1にすぐ続く後続の時刻Tnの変位Dnとから時刻Tnでの速度Vnを求め、先行の速度Vn−1とこの先行の速度Vn−1にすぐ続く後続の時刻Tnでの速度Vnとの正負の符号の変化が生じない場合であって、振動波Wの初期において時刻Tn前の最大変位DISPMAXが存在しない場合には、予め設定された最大変位依存係数α、先行の速度Vn−1とこの先行の速度Vn−1にすぐ続く後続の時刻Tnでの速度Vnとの正負の符号の変化が生じない場合であって、時刻Tn前において最大変位DISPMAXが存在する場合には、時刻Tn前において最大変位DISPMAXに基づいて式(4)で計算された最大変位依存係数α、先行の速度Vn−1とこの先行の速度Vn−1にすぐ続く後続の時刻Tnでの速度Vnとの正負の符号の変化が生じた場合には、時刻Tnでの最大変位DISPMAXを求め、斯かる符号の変化が生じた場合であって、振動波Wの初期において時刻Tn前の最大変位DISPMAXが存在しない場合には、時刻Tnでの最大変位DISPMAXに基づいて式(4)で計算された最大変位依存係数α、時刻Tn前に最大変位DISPMAXが存在する場合には、時刻Tnでの最大変位DISPMAXの絶対値と時刻Tn前の最大変位DISPMAXの絶対値とを比較して、時刻Tnでの最大変位DISPMAXの絶対値が時刻Tn前の最大変位DISPMAXの絶対値以下である場合には、時刻Tn前での最大変位DISPMAXに基づいて式(4)で計算された最大変位依存係数α、又は時刻Tnでの最大変位DISPMAXの絶対値が時刻Tn前の最大変位DISPMAXの絶対値よりも大きい場合には、時刻Tnでの最大変位DISPMAXに基づいて式(4)で計算された最大変位依存係数αと面積Sと温度tとに基づいて、これら速度Vn、最大変位依存係数α、面積S及び温度tを変数として歪速度Vn/dの各範囲について互いに異なる予め設定された抵抗力Fnの関係式である式(1)、(2)及び(3)から当該時刻Tnにおける変位Dnでの抵抗力Fnを求めるようになっている。
【0038】
而して、制震壁1におけるその動作を解析する斯かる方法によれば、時間Tの経過と共に変化する容器7に対する抵抗板8の水平方向Hの静止位置D0からの変位Dを示す振動波Wから時刻Tnにおける速度Vnと時刻Tn以前における最大変位DISPMAXに基づいて決定された最大変位依存係数αと面積Sと温度tとに基づいて、これら速度Vn、最大変位依存係数α、面積S及び温度tを変数として歪速度Vn/dの範囲毎に予め設定された抵抗力Fnの関係式である式(1)、(2)及び(3)から当該時刻Tnにおける変位Dnでの抵抗力Fnを求めるために、容器7に対する抵抗板8の大きな変位Dによる粘性体9の非追従性及び温度上昇を補正でき、而して、容器7に対する抵抗板8の変位Dが大きくなると共に小型化のために容器7と抵抗板8との間の隙間dが小さく設定されても、実際の減衰力をほぼ正確に推定でき、制震壁1における実際の挙動に即したその動作を解析することができる。
【0039】
上記例において、入力装置19、振動波発生装置15及び表示装置18と実行装置17とは、解析装置20の設置場所でケーブルを用いて直接的に接続される代わりに、インターネット等の通信回線を用いて遠隔的に接続してもよく、表示装置18は、LEDディスプレイ等に代えて、X−Yプロッタ等の印刷装置でもよい。
【0040】
上記例においては、解析対象として一枚の抵抗板8を具備した制震壁1について説明したが、本発明は、斯かる一枚の抵抗板8を具備した制震壁1に限らないのであって、複数枚の抵抗板8、例えば図7に示すような2枚の抵抗板8を具備していると共に共用した側壁3に加えて側壁11を有した容器7を具備した制震壁1についても適用されてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 制震壁
2、3 側壁
4、5 横壁
6 底壁
7 容器
8 抵抗板
9 粘性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘性体を収容すると共に一対の側壁を有した容器と、この容器の一対の側壁に隙間dをもって対面していると共に容器の一対の側壁に対して横方向に可動に容器内に配された抵抗板と、隙間dを満たして容器内に配されていると共に面積Sをもって抵抗板に接する温度tの粘性体とを具備した制震壁における、容器に対する抵抗板の速度Vでの横方向の移動における抵抗板の横方向の静止位置からの各変位Dと当該各変位Dでの抵抗板に生じる抵抗力Fとの関係についてのその動作を解析する方法であって、時間の経過と共に変化する容器に対する抵抗板の横方向の静止位置からの変位Dを示す振動波から一の時刻における速度Vと当該一の時刻及び一の時刻前における最大変位DISPMAXに基づいて決定された最大変位依存係数αと面積Sと温度tとに基づいて、これら速度V、最大変位依存係数α、面積S及び温度tを変数として歪速度V/dの範囲毎に予め設定された抵抗力Fの関係式から当該一の時刻における変位Dでの抵抗力Fとを求めることを含む制震壁におけるその動作を解析する方法。
【請求項2】
歪速度V/dの各範囲について互いに異なる予め設定された抵抗力Fの関係式から一の時刻における変位Dでの抵抗力Fを求めることを含む請求項1に記載の制震壁におけるその動作を解析する方法。
【請求項3】
先行の最大変位DISPMAXとこの先行の最大変位DISPMAXにすぐ続く後続の最大変位DISPMAXとを比較して、先行の最大変位DISPMAXに対して後続の最大変位DISPMAXが小さい場合には、先行の最大変位DISPMAXに基づいて決定された最大変位依存係数αを維持して予め設定された抵抗力Fの関係式から一の時刻における変位Dでの抵抗力Fを求めることを含む請求項1又は2に記載の制震壁におけるその動作を解析する方法。
【請求項4】
先行の最大変位DISPMAXとこの先行の最大変位DISPMAXにすぐ続く後続の最大変位DISPMAXとを比較して、先行の最大変位DISPMAXに対して後続の最大変位DISPMAXが大きい場合には、先行の最大変位DISPMAXに基づいて決定された最大変位依存係数αを、後続の最大変位DISPMAXに基づいて決定された最大変位依存係数αに変更し、この変更後の最大変位依存係数αに基づいて予め設定された抵抗力Fの関係式から一の時刻における変位Dでの抵抗力Fを求めることを含む請求項1から3のいずれか一項に記載の制震壁におけるその動作を解析する方法。
【請求項5】
振動波の初期において先行の最大変位DISPMAXが存在しない場合には、予め設定された最大変位依存係数αに基づいて予め設定された抵抗力Fの関係式から一の時刻における変位Dでの抵抗力Fを求めることを含む請求項1から4のいずれか一項に記載の制震壁におけるその動作を解析する方法。
【請求項6】
一の時刻の変位Dとこの一の時刻の直前の時刻の変位Dとから求められた速度Vに基づいて予め設定された抵抗力Fの関係式から一の時刻における変位Dでの抵抗力Fを求めることを含む請求項1から5のいずれか一項に記載の制震壁におけるその動作を解析する方法。
【請求項7】
一の時刻での速度Vとこの一の時刻の直前の時刻の速度Vとの正負の符号の変化で一の時刻での最大変位DISPMAXを求め、この求めた最大変位DISPMAXに基づいて予め設定された抵抗力Fの関係式から一の時刻における変位Dでの抵抗力Fを求めることを含む請求項1から6のいずれか一項に記載の制震壁におけるその動作を解析する方法。
【請求項8】
抵抗力Fの関係式は、以下の通りである、請求項1から7のいずれか一項に記載の制震壁におけるその動作を解析する方法。
V/d<1の場合、
F=α×4.12×exp(−0.043×t)×S×(V/d)1.00
V/d=1又は1<V/d<10の場合、
F=α×4.12×exp(−0.043×t)×S×(V/d)0.59
V/d=10又は10<V/d<100の場合、
F=α×6.37×exp(−0.043×t)×S×(V/d)0.40
ここで、最大変位依存係数αは、最大変位DISPMAXに基づいて決定される値である。
【請求項9】
最大変位依存係数αは、以下の式で表される値である、請求項1から8のいずれか一項に記載の制震壁におけるその動作を解析する方法。
α=[1/{a×(DISPMAX/d)+1}]
ここで、
a=2×10−6、b=4、c=0.45である。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の制震壁におけるその動作を解析する方法を実行するためのプログラム。
【請求項11】
請求項10に記載のプログラムを記録したコンピュータで読み取り可能な記録媒体。
【請求項12】
請求項1から9のいずれか一項に記載の制震壁におけるその動作を解析する方法を実施する解析装置であって、時刻と共に変化する容器に対する抵抗板の横方向の静止位置からの変位Dを示す解析用の振動波の時刻毎の変位Dn(n=1、2、3・・・)を離散的に発生する振動波発生装置と、解析用の振動波に対しての制震壁におけるその動作を解析する請求項10に記載のプログラムを記録した記憶装置と、振動波発生装置から入力される振動波の時刻毎の変位Dnから記憶装置に記録されたプログラムに基づいて制震壁におけるその動作の解析を実行する実行装置と、実行装置において解析された結果を表示する表示装置と、実行装置に命令及び初期値を与える入力装置とを含む解析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−242182(P2012−242182A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110822(P2011−110822)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)