説明

副生炭混合成形炭およびその製造方法

【課題】石炭を溶剤で抽出して無灰炭を製造した際の副生物である副生炭を有効利用した石炭との混合炭について、扱い易い成形物とし、さらに強度に優れて壊れ難く粉塵が発生し難い副生炭混合成形炭を提供する。
【解決手段】副生炭と、その1/4以下の重量の石炭と、を混合して成形した副生炭混合成形炭であって、前記石炭の90%以上が径3mm以下、5%以上が径1mm以下の粒状に粉砕され、水の含有量が2〜13質量%となるように水分を調整されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭を溶剤で抽出処理することで生じる残渣を用いた副生炭混合成形炭およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭は、資源の有効利用のために改質された改質炭として利用されることがあり、特に近年は、燃料としての高効率利用の観点で、いわゆる無灰炭(ハイパーコール)の開発が活発に進められている。無灰炭とは、石炭から灰分の大半を除去したもので、実質的に灰分を含まず(目標200質量ppm以下)、構造的には縮合芳香環が2、3環の比較的低分子量の成分から5、6環程度の高分子量成分まで広い分子量分布を有する。そのため、加熱下で高い流動性を示し、熱流動性に優れる。石炭の中には粘結炭のように約400℃の高温で熱可塑性を示すものもあるが、無灰炭は一般的に原料石炭の品位に関わらず200〜300℃で溶融する(軟化溶融性がある)。そこで、この特性を生かしてコークス製造用バインダーとしての応用開発が進められており、また、近年においては、この無灰炭を原料として用いることで炭素材料を製造することが試みられている。
【0003】
無灰炭は、石炭を当該石炭と親和性の高い溶剤で、高温下で抽出することで、溶剤に溶けない灰分が残渣として沈降し、上澄液として分離された抽出物(液部)から溶剤を除去することによって、製造される(例えば、特許文献1〜3参照)。一方、抽出物を分離した残部(非液部)は、蒸留法や蒸発法により溶剤を回収され(例えば、特許文献2参照)、灰分等の溶剤に不溶な成分からなる残渣が副生物として生じる。この副生物は副生炭と称され、灰分を多く含有するが、無灰炭の製造過程にて水分は除去されて、発熱量を十分に有しているため、各種の燃料用としたり、また、原料石炭よりも炭素含有率が高く、コークス原料の配合炭の一部として使用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3198305号公報
【特許文献2】特許第4061351号公報
【特許文献3】特許第4708463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
副生炭は、前記したような燃料や配合炭材料とする場合、所望する配合炭等の成分に応じて石炭や無灰炭と混合される。この混合物は、保管や運搬等の取り扱いや利便性の観点から、所定の形状の塊に成形されていることが望ましい。しかしながら、粉状または粒状の副生炭およびこの副生炭に所定量混合されるために同じく粒状に粉砕された石炭は、いずれも塊としてまとまりに優れず、これらの混合物は、成形しても、塊として強度が低いために運搬時等に崩れ易く、保管時においても表層が剥離、剥脱し易く、粉塵が発生するという問題がある。
【0006】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、その課題は、無灰炭の副生物である副生炭をいっそう有効に活用するべく、副生炭を混合した混合炭について、粉塵の発生を抑制でき、かつ十分な強度を有して取り扱いや利便性に優れた成形物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明に係る副生炭混合成形炭は、石炭から溶剤に可溶な成分を除去した副生炭と、粒状の石炭とを混合して成形したものであって、前記粒状の石炭は、前記副生炭の1/4以下の重量であり、90%以上が径3mm以下、5%以上が径1mm以下である。さらに副生炭混合成形炭は、水の含有量が2〜13質量%であることを特徴とする。また、前記粒状の石炭は、90%以上が径2mm以下であることが好ましく、60%超が径1mm以下であることがさらに好ましい。
【0008】
このように、成形物としてまとまり難い石炭を所定の大きさの粒状とし、かつ所定比に規定し、さらに所定の水分量に調整されることでまとまりが強固となり、副生炭混合成形炭の表層が剥離や剥脱し難くなり、粉塵の発生が抑制され、さらに副生炭混合成形炭の強度が向上する。
【0009】
また、本発明に係る副生炭混合成形炭の製造方法は、副生炭を製造する副生炭製造工程と、石炭を粉砕して90%以上を径3mm以下の粒状に、5%以上を径1mm未満の粒状にする石炭粉砕工程と、前記副生炭と、前記副生炭の1/4以下の重量の前記粒状にした石炭とを混合し、水を2〜13質量%含有する混合物となるように水分を調整する混合工程と、前記混合物を成形する成形工程と、を行う。前記副生炭製造工程は、石炭を溶剤で抽出して、抽出液と残渣とを分離し、前記抽出液から溶剤を除去することにより、前記石炭における前記溶剤に可溶な成分からなる無灰炭を製造する工程において、前記残渣から前記溶剤を除去して副生炭を製造することを特徴とする。さらに前記成形工程において、前記混合物の温度が30〜120℃であることが好ましい。
【0010】
このような手順で行うことで、石炭を所定の大きさの粒状に粉砕し、かつ所定比に規定することで副生炭と好適に混合することができ、水を所定の含有量に調整することで成形する際のまとまりが強固となる。さらに、成形時に混合物を所定温度とすることで、前記の水が調整した含有量を保持するため好適に成形され、かつ副生炭混合成形炭の強度が向上し、表層が剥離や剥脱し難くなる。また、無灰炭を製造する工程で副生物として副生炭が得られ、コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る副生炭混合成形炭によれば、強度に優れて、壊れ難く粉塵の発生を抑制でき、保管や運搬に好適な燃料や配合炭材料を得ることができる。また本発明に係る副生炭混合成形炭の製造方法によれば、副生炭を有効利用することができるため、経済性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る副生炭混合成形炭の原料とする副生炭を製造するための改質炭製造装置を模式的に示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明に係る副生炭混合成形炭およびその製造方法について詳細に説明する。
〔副生炭混合成形炭〕
本発明に係る副生炭混合成形炭(以下、混合成形炭)は、石炭を副生炭に混合し、所定の立体形状の塊に成形して得られ、石炭や副生炭のそれぞれ単独の場合と同様に燃料やコークス原料の配合炭の一部として利用される。混合成形炭の形状および大きさは特に規定されず、用途に応じて設計される。以下、混合成形炭の原料である副生炭および石炭について説明する。
【0014】
(副生炭)
副生炭は、石炭から無灰炭を製造する過程で生じる副生物である。無灰炭は、石炭を、当該石炭と親和性の高い溶剤で抽出することで、灰分等の不溶な成分を分離した抽出液を得て、この抽出液から溶剤を蒸発法等によって除去して製造される。一方、残渣として分離された不溶な成分は、さらに溶剤を十分に除去して副生炭となる。したがって、副生炭は、原料石炭に対して、溶剤に可溶な軟化溶融性がある有機物が無灰炭となって除去されているため、軟化溶融性は低く、また、溶剤に不溶な灰分が原料石炭から濃縮されて10〜20質量%程度の高濃度になる。ただし、副生炭は、その主成分は原料石炭と同様に炭素(C)であり、また、抽出、分離前の石炭と溶剤の混合物(スラリー)の状態で脱水されているので、水分が0.2〜3質量%程度に減少していて、発熱量を十分に有している。なお、石炭における灰分とは、石炭を815℃に加熱して灰化したときの残留無機物を指し、ケイ酸、アルミナ、酸化鉄、石灰、酸化マグネシウム、アルカリ金属酸化物等である。また、副生炭を得るための原料石炭については、品質を問わない。副生炭の製造方法の詳細については、無灰炭の製造工程の一環として後記する。また、副生炭は、混合成形炭の強度を高くするためにできるだけ小さい粒状であることが好ましく、具体的には径(最大長さ)1mm以下とすることが好ましい。
【0015】
(石炭:副生炭の重量の1/4以下)
石炭については、その種類(品位、品質)は特に規定しないが、改質することなく燃料として好適に利用することのできる瀝青炭の中で、高価になり過ぎない中流動性以下のものが好ましい。本発明においては、副生炭のみを成形するよりもある程度の石炭が混在する混合成形炭の方が強度が高いことから、石炭は、乾燥炭(水分が実質0)に換算して副生炭の重量の1/50以上配合されることが好ましい。一方、石炭は、粒同士の接着性が悪いため、乾燥炭に換算して副生炭の重量の1/4以下とする。なお、石炭は、風乾等により乾燥炭としてもよいが、水分を含んだ状態で副生炭と混合、成形されてもよい。
【0016】
(石炭の粒径:90%以上が径3mm以下、5%以上が径1mm以下)
石炭は、90%以上が径3mm以下の粒状に、5%以上が径1mm以下の粒状に粉砕されたものが、副生炭と混合される。なお、本明細書において粒径とは粒の最大長さを指し、石炭の90%以上が径3mm以下の粒であるとは、石炭を目の大きさが3mmの篩にかけたとき、90%以上が目を通るという意味である。径3mmを超える石炭の粒が10%を超えて存在する、または径1mm以下の石炭の粒が5%未満では、混合成形炭のまとまりが悪くなる。本発明に係る混合成形炭において、石炭は粒径が小さいほど混合成形炭の強度を高くすることができ、好ましくは90%以上が径2mm以下の粒状であり、さらに好ましくは60%超が径1mm以下の粒状である。ただし、石炭は粒度を一様にする必要はなく、また、石炭の全部を微細に粉砕しようとすると生産性が低下する。石炭は、90%以上が径3mm以下の粒であれば、例えば5〜20%程度が径1mm以下の粒として混在することで、混合成形炭の強度を十分に高くすることができる。
【0017】
(水:2〜13質量%)
水は、副生炭や石炭の粒同士を接着して塊に成形するためのいわゆるつなぎ(バインダー)であり、混合成形炭の強度を向上させ、また粉塵の発生を抑える。したがって、液体であれば水以外でも成形することはできるが、水は、安価かつ入手容易であり、また石炭自体にも付着、含浸して2〜8質量%程度含まれている。混合成形炭において、水は、石炭に、さらに副生炭に含まれる分も含めて、2質量%以上13質量%以下となるように、不足分があれば成形前に添加して調整する。なお、混合成形炭の成形前における水分量は、混合成形炭に成形された後においてもほぼ同等であるので、副生炭および石炭の混合時に水分量を調整すればよい。このような水は、特に規定されるものではなく、水道水等の一般的に用いられる水を用いることができる。水は、混合成形炭すなわち副生炭と石炭と当該水との合計において2質量%未満では、副生炭および石炭をまとめるには不十分であり、また、混合成形炭の強度が低下し、粉塵が発生し易くなる。反対に、水が13質量%を超えると、副生炭や石炭の粒の表面に水膜を形成して互いに接着し難くなる。さらに、水は4〜9質量%であることが好ましい。
【0018】
〔副生炭混合成形炭の製造方法〕
本発明に係る副生炭混合成形炭の製造方法は、石炭から副生炭を製造する副生炭製造工程と、石炭を粉砕して粒状にする石炭粉砕工程と、前記副生炭と前記石炭を混合して混合物を得る混合工程と、前記混合物を成形する成形工程と、を行う。以下、各工程について説明する。
【0019】
(副生炭製造工程)
副生炭製造工程は、石炭を溶剤で抽出し、前記溶剤に可溶な成分および前記溶剤を除去して副生炭を製造する。前記した通り、副生炭は、石炭から無灰炭を製造する過程で生じる副生物である。そこで、本実施形態では、副生炭製造工程について、無灰炭を製造することを前提として説明する。なお、同等の成分であれば、無灰炭の製造における副生物として得られたものでなくてもよい。無灰炭を製造する方法は、公知の方法を用いることができる(例えば、特許文献1〜3参照)。以下に、図1に示す無灰炭および副生炭を得ることができる改質炭製造装置の一例を参照して説明する。
【0020】
図1に示すように、改質炭製造装置10は、溶剤貯蔵槽1と、撹拌機を備えるスラリー調製槽2と、予熱器3と、撹拌機を備える抽出槽4と、重力沈降槽5と、固形分濃縮液受器6と、上澄液受器7と、を備え、さらにポンプや後記するような図示しない蒸留手段や冷却機構等を備える。以下、副生炭製造工程として、改質炭製造装置10を用いた無灰炭のおよび副生炭の製造方法を説明する。
【0021】
初めに、石炭(原料石炭)と、溶剤貯蔵槽1からポンプによって溶剤とが、それぞれ所定量スラリー調製槽2に供給される。スラリー調製槽2においては、備えられた撹拌機で石炭と溶剤を混合して、スラリーを調製する。このとき、図示しない脱水手段で石炭の水分を除去することが好ましい。スラリーは、所定量が予熱器3で加熱され、さらに抽出槽4で所定時間撹拌されることで、石炭を構成する分子間の結合が緩み、緩和な熱分解を生じて抽出が進行し、抽出された溶剤可溶成分が溶解した溶剤(抽出液)と溶剤に不溶な成分(固形分、残渣)とに分離した状態となって、重力沈降槽5へ供給される。
【0022】
抽出液と残渣とを分けて取り出す方法としては、各種の濾過方法や遠心分離による方法が一般的に知られているが、無灰炭の製造においては、流体の連続操作が可能であり、低コストで大量の処理にも適している重力沈降法を用いることが好ましい。すなわち、重力沈降槽5において上澄液として抽出液が取り出され、必要に応じてフィルターユニットを介して上澄液受器7に供給される。上澄液受器7で、抽出液は溶剤を除去されて無灰炭となる。一方、重力沈降槽5の下部に沈降した残渣を含む部分(固形分濃縮液)は、固形分濃縮液受器6に排出され、固形分濃縮液受器6で溶剤を除去されて副生炭(副生炭)となる。
【0023】
固形分濃縮液受器6および上澄液受器7においては、蒸留法、あるいはスプレードライ法等の蒸発法のような公知の方法により、抽出液や固形分濃縮液から溶剤を除去することができる。溶剤を除去して得られた溶質(無灰炭)や固形分(副生炭)は、径0.2〜1.0mm程度の粉状の粒子であり、あるいはこの粒子を一次粒子として凝集した、最大で径50mm程度の二次粒子が混在する場合もある。一方、固形分濃縮液受器6および上澄液受器7でそれぞれ除去された溶剤(回収溶剤)は回収され、必要に応じて再生処理をして、スラリー調製槽2や溶剤貯蔵槽1に供給されて再使用されてもよい。以下、それぞれの作業における条件等を説明する。
【0024】
無灰炭および副生炭の原料とする石炭は、種類(品位、品質、銘柄)を問わず、また、混合成形炭に混合する石炭と同じ種類である必要はない。したがって、抽出率(無灰炭回収率)の高い瀝青炭を使用してもよいし、より安価な劣質炭(亜瀝青炭、褐炭)を使用してもよい。また、石炭は、抽出を進行し易くし、無灰炭の収率を高くするために、改質炭製造装置10(スラリー調製槽2)に投入する前にできるだけ小さい粒子に粉砕しておくことが好ましく、粒径(最大長さ)1mm以下とすることが好ましい。
【0025】
溶剤は、石炭と親和性の高いすなわち石炭を溶解する溶媒である。このような溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の1環芳香族化合物や、N−メチルピロリドン(NMP)やピリジン等の極性溶剤等が挙げられるが、無灰炭(および副生炭)の製造においては、2環芳香族化合物を主とする非水素供与性溶剤(芳香族溶剤)を使用することが好ましい。したがって、本実施形態における副生炭製造工程では、溶剤として芳香族溶剤を使用するとして説明する。
【0026】
非水素供与性溶剤である芳香族溶剤は、主に石炭の乾留生成物から精製した、2環芳香族を主とする溶剤である石炭誘導体である。この芳香族溶剤は、加熱状態でも安定であり、石炭との親和性に優れているため、溶剤に抽出される石炭の可溶成分の割合(抽出率)が十分に高く、その結果、無灰炭の収率が高く、同時に、副生物として可溶成分が極力残存しない副生炭が得られる。また、芳香族溶剤は、蒸留等の方法で抽出液等から容易に回収可能である上、回収した溶剤はそのまま循環させて再使用することができる(図1参照)。芳香族溶剤の主たる成分としては、2環芳香族化合物であるナフタレン、メチルナフタレン、ジメチルナフタレン、トリメチルナフタレン等が挙げられ、その他の成分としては、脂肪族側鎖を有するナフタレン類、アントラセン類、フルオレン類、またこれにビフェニルや長鎖脂肪族側鎖を有するアルキルベンゼンが含まれる。
【0027】
一方、水素供与性溶剤は、石炭の種類にかかわらずより高い抽出率を実現することができるため、無灰炭の収率がいっそう高くなる。水素供与性溶剤としては、テトラリンやテトラヒドロキノリン等の部分水素化芳香族化合物、あるいは石炭の水添液化油等が挙げられる。ただし、水素供与性溶剤は、一般的に芳香族溶剤よりも高価である上、一度、抽出に使用されると水素供与能力の殆どが失われるため、回収後、再生処理(水素化処理)をしないと再使用することができず、さらにコストが高くなる。したがって、水素供与性溶剤は芳香族溶剤による抽出率が低い石炭に対して使用する等、溶剤は石炭の種類等や使用用途の原料としての設計を鑑みて、適宜選択される。また、例えば、芳香族溶剤と水素供与性溶剤を併用することで、コストを抑えつつ無灰炭の収率を高くすることもできる(特許文献3参照)。
【0028】
溶剤に混合する石炭の量は、原料石炭の種類にもよるが、乾燥炭基準で溶剤との合計に対して10〜50質量%の範囲が好ましく、20〜35質量%の範囲がより好ましい。石炭が10質量%未満では、溶剤に対して抽出する石炭成分の量が少なく、生産性に劣る。一方、石炭が溶剤と同量すなわち50質量%を超えると、調製したスラリーが高粘度になって流動性が悪くなり、処理系(槽)間の移動や抽出液と残渣との分離が困難になる場合がある。
【0029】
スラリーは高温に加熱されることで、石炭を構成する分子間の結合が緩んで緩和な熱分解がなされ、抽出が進行する。スラリーの温度が300℃未満では、石炭を構成する分子間の結合を弱くするためには不十分で、抽出が十分に進行しない。一方、スラリーの温度が450℃を超えると、石炭の熱分解反応が非常に活発になり、生成した熱分解ラジカルの再結合が起こるため、却って抽出率が高くなり難く、また石炭が変質し難くなる。したがって、スラリーの加熱温度は、300〜450℃の範囲とすることが好ましく、300〜400℃の範囲がさらに好ましい。
【0030】
スラリーの溶剤が揮発して液相に閉じ込められないと抽出することができないため、スラリーの加熱(予熱)〜抽出においては、加熱温度において溶剤が揮発しないように、当該温度における溶剤の蒸気圧よりも高圧とする。一方、過剰に高圧とすると、改質炭製造装置10に高密閉性等の高価な機器を要し、運転コストも高くなる。具体的には、抽出時の温度や溶剤の蒸気圧にもよるが、1.0〜2.0MPaの範囲が好ましい。また、抽出が高温下で行われるため、溶剤、および石炭成分、特に溶剤に可溶な成分は、酸素に接触すると発火する危険性があるので、スラリーの加熱(予熱)〜抽出は窒素等の不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。
【0031】
抽出時間(スラリーの加熱温度範囲内における時間)は、溶解平衡に達するまでが規準であるが、実現しようとすると生産性が低下する。したがって、抽出率の上昇が見かけ上停止し、あるいは相当に緩やかになった時点で抽出を完了することが好ましい。このような好ましい抽出時間は、石炭の粒径、溶剤の種類等の条件によって異なるが、通常は10〜60分間程度である。抽出時間が10分間未満では抽出が十分に進行していない場合が多く、一方、60分間を超えてもそれ以上は抽出が進行し難いため、生産性に劣る。
【0032】
(石炭粉砕工程)
石炭粉砕工程は、混合成形炭に混合される石炭を、常法で粒状に粉砕する。石炭の粒径は、前記の混合成形炭についての説明の通りである。また、副生炭についても、前記したような粗大な二次粒子が混在する場合等は、同様に粉砕したり、石炭と副生炭とを前記で規定した配合で混合して、一緒に粉砕してもよい。
【0033】
(混合工程)
混合工程は、常法により、副生炭、石炭、さらに必要に応じて水を混合して混合物を得る。副生炭と石炭との配合、および水の含有量は、それぞれ前記の混合成形炭についての説明の通りであり、特に水は、前記した通り、石炭や副生炭の水分量を勘案して、不足分を添加して調整する。例えば公知のミキサーに、副生炭および予め粉砕した石炭をそれぞれホッパーから投入して、スプレー等で水を添加しながら攪拌することにより、副生炭の二次粒子が容易に粉砕される上、副生炭が副生炭製造工程で製造された直後、すなわち溶剤の除去のために200℃程度に加熱された直後であっても、適度に冷却される。このような副生炭が高温の状態で水分を調整する場合は、後続の成形工程までに蒸発する分も勘案して水を添加し、水分の調整時において混合物が120℃以下であることが好ましい。混合物の温度が120℃を超えていると、水分が即時に蒸発するため、成形前に水分が不足した状態となって、まとまりが悪くなる場合がある。
【0034】
(成形工程)
成形工程は、前記混合物を所定の立体形状の塊に成形して混合成形炭とする。混合物の成形は、例えば無灰炭等の炭素材料の成形においても適用されている、成形機を使用した公知の圧縮成形や2ロール式タブレット成形によってすることができる。成形のために混合物にかける圧力は特に規定されず、成形機等に応じて設定すればよい。
【0035】
混合物は、成形時において水を所定の含有量とするために、120℃以下であることが好ましいが、一方、室温よりもある程度高い方が、成形が容易で、強度がいっそう向上した混合成形炭が得られる。具体的には混合物が30℃以上であることが好ましく、60〜90℃の範囲であることがさらに好ましい。このような温度は、成形用の金型に混合物が充填された時点におけるものとする。したがって、副生炭等、混合物の温度が低い場合は、成形時の温度が30℃以上となるように、予めヒーター等で混合物あるいは混合前の副生炭等を加熱してから金型に充填する等して成形してもよく、例えば混合物の調整と同時に加熱してもよく、あるいは成形しながら加熱してもよい。
【実施例】
【0036】
次に、本発明に係る副生炭混合成形炭およびその製造方法について、実施例、比較例を挙げて具体的に説明する。
【0037】
〔混合成形炭の作製〕
(副生炭の製造)
まず、以下の方法により、副生炭を製造した。
オーストラリア産瀝青炭を原料石炭とし、この原料石炭5kg(乾燥炭に換算)と、4倍量(20kg)の溶剤(1−メチルナフタレン(新日鉄化学社製))を混合してスラリーを調製した。このスラリーを、窒素を導入して1.2MPaに加圧して、内容積30Lのバッチ式オートクレーブ中370℃で1時間の抽出処理をした後、同一温度、圧力を維持した重力沈降槽内で上澄液と固形分濃縮液とに分離した。固形分濃縮液から蒸留法で溶剤を分離・回収して、副生炭を得た。得られた副生炭の水分は1.5質量%であった。この副生炭1kgを、粒径(最大長さ)が1mm以下になるように粉砕した。
【0038】
(混合、成形)
副生炭と混合する石炭として、水分6.7質量%のオーストラリア産瀝青炭を風乾せずに適用した。この石炭を表1に示す粒径に粉砕して、表1に示す配合比(%)で副生炭(室温)と混合し、さらに水分量が5質量%となるように水を加えて、Vミキサーで10分間混合して混合物を調整した。なお、瀝青炭の水分は、石炭JIS(JIS M8812)に準じて測定した値である。
【0039】
次に、この混合物を直径20mmの金型に1個あたり6gを充填して、80℃に加熱しながら2トン/cm2の圧力をかけて、円柱形状のタブレットに成型し、混合成形炭の試料とした。なお、成形後の混合成形炭中の水分量も、成形前の混合物と同様に5質量%であった。また、評価基準として、石炭を含有しない成形副生炭の試料(No.0)を作製した。得られたタブレットについて、以下の評価を行った。
【0040】
〔評価〕
(圧壊試験)
強度の指標として圧壊試験を行った。タブレットの円柱形状の軸に垂直の方向(径方向)に圧縮荷重をかけて、破壊に至る荷重を測定した。測定した荷重を圧壊荷重として、表1に示す。強度の合格基準は、圧壊荷重が30kg以上とした。
【0041】
(アブレージョン試験)
粉塵発生の抑制の指標としてアブレージョン試験を行った。まず、直径250mmの円筒容器にタブレット20個を収容し、30RPMで10分間回転させた。次に、円筒容器から出したタブレッドを目開き5.66mmの篩で選別して、目を通った分を秤量した。この、目を通った分(粉体)のタブレット全体に対する重量比(%)を算出し、粉体発生率として表1に示す。粉塵発生抑制の合格基準は、粉体発生率が10%以下とした。
【0042】
【表1】

【0043】
表1に示すように、試料No.1,5は、本発明の範囲を満たす実施例であり、石炭を含有しない試料No.0と比較して、十分な強度を有し、壊れ難くかつ粉体の発生が少なかった。特に、石炭の90%以上を径2mm以下に粉砕した試料No.5は、石炭を含有しない成形副生炭の試料(No.0)よりも強度に優れていた。
【0044】
一方、試料No.2,3は、石炭が過剰であり、石炭の配合が多いほど強度が低下し、壊れ易く、粉体も多く発生した。試料No.4は、石炭が、粒径が3mmを超えるものが過剰で、かつ粒径が1mm以下のものが不足した(ない)ために、強度が特に低かった。
【0045】
以上、本発明について、実施の形態および実施例を示して詳細に説明したが、本発明の趣旨は前記した内容に限定されることなく、その権利範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈しなければならない。なお、本発明の内容は、前記した記載に基づいて広く改変・変更等することができることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0046】
10 改質炭製造装置
1 溶剤貯蔵槽
2 スラリー調製槽
3 予熱器
4 抽出槽
5 重力沈降槽
6 固形分濃縮液受器
7 上澄液受器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭から溶剤に可溶な成分を除去した副生炭と、粒状の石炭と、を混合して成形した副生炭混合成形炭であって、
前記粒状の石炭は、前記副生炭の1/4以下の重量であり、90%以上が径3mm以下、5%以上が径1mm以下であり、
水の含有量が2〜13質量%であることを特徴とする副生炭混合成形炭。
【請求項2】
前記粒状の石炭は、90%以上が径2mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の副生炭混合成形炭。
【請求項3】
前記粒状の石炭は、60%超が径1mm以下であることを特徴とする請求項2に記載の副生炭混合成形炭。
【請求項4】
石炭を溶剤で抽出して、抽出液と残渣とを分離し、前記抽出液から前記溶剤を除去して、前記石炭における前記溶剤に可溶な成分からなる無灰炭を製造する工程において、前記残渣から前記溶剤を除去して副生炭を製造する副生炭製造工程と、
石炭を粉砕して、90%以上を径3mm以下の粒状に、5%以上を径1mm以下の粒状にする石炭粉砕工程と、
前記副生炭と、前記副生炭の1/4以下の重量の前記粒状にした石炭と、を混合し、水を2〜13質量%含有する混合物となるように水分を調整する混合工程と、
前記混合物を成形する成形工程と、を行うことを特徴とする副生炭混合成形炭の製造方法。
【請求項5】
前記成形工程において、前記混合物の温度が30〜120℃であることを特徴とする請求項4に記載の副生炭混合成形炭の製造方法。

【図1】
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