説明

加熱炉の温度測定部構造

【課題】
熱電対を交換してもその測定部の位置ずれを生じない温度測定部構造の提供。
【解決手段】
炉壁で囲われた加熱室を外装体の内部に設けた加熱炉の該加熱室内の温度を測定するための温度測定部構造である。外装体及び炉壁を貫通させて加熱炉の外部と加熱室とを連通させる測定孔を設け、先端部に測定部を有する桿体からなる熱電対体を測定孔に挿入させて加熱室内の温度を測定する。外装体の測定孔の開口から所定距離だけ外方へ離間した位置に外装体と対向する固定板を固設するとともに、熱電対体の桿体の先端部から所定長さ位置に基準フランジ部を設け、固定板の固定平面と基準フランジ部の当接平面とを合わせた上で互いに固着させ熱電対体を加熱炉に固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱炉の加熱室内における所定位置の温度を熱電対で測定するための温度測定部構造に関し、特に、炉壁で囲われた加熱室内における所定位置の温度を熱電対で測定するための温度測定部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
工業用の加熱炉では、その加熱室内の温度を制御するために該加熱室内における所定位置の温度を熱電対によって測定し、かかる所定位置の温度を基準に加熱室内の温度分布を予測し、例えば、抵抗加熱炉であればヒータの電流値を増減させて炉内温度を制御している。また、容積の大きい加熱室を有する大型加熱炉では、加熱室内の複数の位置の温度をそれぞれ熱電対によって測定し、これによって加熱室内の温度分布を予測し、例えば、分割ヒータであればそれぞれのヒータの電流値を増減させて、炉内温度を制御している。かかる熱電対は酸化などによる断線や熱電対金属の経時変化によって計測不能又は計測誤差を生じるため、交換を必要とする場合がある。
【0003】
ところで、熱電対自体は温度校正をなされ、仮に、熱電対を交換したとしても、正確に温度を測定できる。しかしながら、上記したような加熱炉の制御において、加熱室内には温度分布が生じるため、熱電対を交換したとしても毎回、同じ位置の温度を測定していなければ、加熱室内の温度分布を該熱電対の交換の前後で正確に一定して制御できない。特に、炉壁で囲われた加熱室を外装体の内部に設けた加熱炉では、外装体及び炉壁を貫通する貫通孔を設け、かかる貫通孔から加熱室内に熱電対を挿入しなければならず、測定部である熱電対先端部の加熱室内での位置を確認することが難しい。そこで、一般的には、熱電対はアルミナなどのセラミックスや金属などの保護管の内部に収容されてその袋状の先端部近傍に測定部を配置するようにして「熱電対体」に組まれた上で、貫通孔に挿入される。保護管による桿体構造により、加熱室内において熱電対が下方向に垂れ下がってしまったりせずその位置を安定させ得るのである。
【0004】
例えば、特許文献1では、ガラスからなる保護管の内部に収容されてその袋状の先端部近傍に熱電対の測定部を配置するようにした桿体からなる熱電対体において、加熱炉の加熱室内での位置ずれを防止するための機構が開示されている。詳細には、熱輻射による影響を受けない外装体(熱遮蔽部)及び炉壁(断熱材)を貫通する貫通孔を設け、かかる貫通孔から加熱室内に熱電対体を挿入する。桿体には先端部から後方へ向けて外径を大とするような段差部が設けられ、かかる段差部を炉壁の外周面であって貫通孔の周囲に押しつけるようにして、桿体と外装体との間にスプリングを介在させている。かかる構造により、昇降温度を頻繁に繰返しても、熱電対体を固定する取り付け部品の熱膨張の変化を防止できて、熱電対の加熱室内での位置ずれを防止できる、と述べている。
【0005】
更に、特許文献2では、複数の熱電対を保護管の内部に収容して、保護管の袋状の先端部から後方へ向けて各熱電対の測定部をずらして配置させた桿体からなる熱電対体において、加熱室内への保護管の挿入長について加熱炉の壁体の挿入孔に形成した凹状被係止部で行うことを開示している。かかる構造により、保護管に対するその内部の熱電対の測定部の位置が一定であれば、加熱室内における保護管の伸張方向(向き)を固定して、複数の測定部を加熱室内の同じ位置に常に配置させ得ると述べている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07−077389号公報
【特許文献2】特開2000−031062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、炉壁で囲われた加熱室を外装体の内部に設けた加熱炉では、外装体及び炉壁を貫通する貫通孔を設け、かかる貫通孔から加熱室内に熱電対体の先端部を挿入し、その後端部近傍において加熱炉と熱電対体とを相対的に固定する。この場合、長手の桿体の先端部、すなわち測定部は、貫通孔への挿入方向の位置ずれとともに上下左右方向にも位置ずれを生じ易い。
【0008】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、炉壁で囲われた加熱室を外装体の内部に設けた加熱炉の該加熱室内の温度を熱電対にて測定する場合において、熱電対を交換してもその測定部の位置ずれを生じない温度測定部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による加熱炉の温度測定部構造は、炉壁で囲われた加熱室を外装体の内部に設けた加熱炉の該加熱室内の温度を測定するための温度測定部構造であって、前記外装体及び前記炉壁を貫通させて前記加熱炉の外部と前記加熱室とを連通させる測定孔を設け、先端部に測定部を有する桿体からなる熱電対体を前記測定孔に挿入させて前記加熱室内の温度を測定する温度測定部構造において、前記外装体の前記測定孔の開口から所定距離だけ外方へ離間した位置に前記外装体と対向する固定板を固設するとともに、前記熱電対体の前記桿体の前記先端部から所定長さ位置に基準フランジ部を設け、前記固定板の固定平面と前記基準フランジ部の当接平面とを合わせた上で互いに固着させ前記熱電対体を前記加熱炉に固定することを特徴とする。
【0010】
かかる発明によれば、外装体から所定距離だけ外方へ離間し対向する固定板と貫通孔とで桿体の長手の方向付けをするとともに、固定板の固定平面と基準フランジ部の当接平面とを合わせた上で互いに固着させることで、長手の桿体の延びる方向を確定しつつ、貫通孔への挿入方向の長さを確定し、熱電対(体)を交換してもその測定部の位置ずれを生じないのである。
【0011】
上記した発明において、前記固定板には切り欠きを有する固定孔を設けるとともに、前記熱電対体には前記桿体の前記基準フランジ部から前記先端部側において外方に向けて突出する係止片を設け、前記固定孔を介して前記熱電対体を前記測定孔に挿入し前記係止片を前記固定板の表側から前記切り欠きを通過させて前記固定板の裏側に移動させ前記フランジ部の前記当接平面を前記固定板の表側の前記固定平面に当接させつつ前記熱電対体を回転させて前記係止片を前記固定板の裏側の面に係止させることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、熱電対(体)の外装体から外方へ離間する方向への位置ずれを更に確実に抑制できるのである。
【0012】
上記した発明において、前記熱電対体が前記加熱炉に固定されたことを前記係止片に当接して検出する検出スイッチを前記固定板の裏側に与えたことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、係止片と検出スイッチが当接することで熱電対(体)の固定を確認できるとともに、係止片と検出スイッチの当接が解除されることで、熱電対(体)の位置ずれの可能性を検出できる。また、多くの熱電対(体)の交換時にあっても、その確認を容易に出来るのである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明による温度測定部構造を含む加熱炉の図である。
【図2】本発明による温度測定部構造の要部の断面図である。
【図3】本発明による温度測定部構造の要部の側面図である。
【図4】本発明による温度測定部構造の要部の正面図及び側面図である。
【図5】本発明による温度測定部構造の要部の正面図である。
【図6】本発明による温度測定部構造の要部の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明による加熱炉の温度測定部構造について、図1乃至図6を用いてその詳細を説明する。
【0015】
図1に示すように、加熱炉1は金属などからなる筐体としての外装体1aを有し、その内部には耐火煉瓦などからなる炉壁2で囲われた加熱室2aを有する。加熱室2aの内部には、図示しないヒータが設置されており、開閉扉1bから被加熱物が加熱室2aの内部に収容されて加熱される。ヒータは、加熱室2a内の1若しくは複数箇所に設けられた温度測定部10による温度モニターに従って、所定の制御がなされる。
【0016】
図2を併せて参照すると、温度測定部10では、加熱炉1の側面において(図1を併せて参照)外装体1a及び炉壁2を貫通して設けられた測定孔11から桿体である熱電対体20の保護管21を挿入して、炉壁2から所定距離Xだけ内側における加熱室2a内の所定位置の温度を測定するのである。
【0017】
更に、図3を併せて参照すると、熱電対体20は、アルミナなどのセラミックスからなる保護管21の内部に熱電対22を収容した桿体である。保護管21の先端部21aは袋状に閉じており、かかる先端部21a近傍に熱電対22の接合部が配置される。すなわち熱電対体20の測定部は先端部21a近傍となる。保護管21の後方端部には、キャップ23が取り付けられている。キャップ23には、熱電対22の電極23aが設けられ、所定の計測器24に電気的に接続される。また、キャップ23には後述するように面を付き合わせて締結具30が固定されている。
【0018】
更に、図4を併せて参照すると、締結具30は外径の異なる太径部31と細径部32とが連続する段差部を有する略管状のブロック体である。中心孔33には保護管21が挿通されて、太径部31の後方端面31aとキャップ23の前方端面23bとが互いに当接して、キャップ23と締結具30とが図示しないねじで互いに固定される。かかる状態において、太径部31と細径部32との接続部である基準フランジ部(段差部)の当接平面34が中心孔33の延びる方向に対して垂直な面となる。細径部32の基準フランジ部(段差部)から離間した位置には、舌状に外方へ向けて突出形成された板状の係止片35が設けられている。
【0019】
一方、図2に図5を併せて参照すると、加熱炉1の温度測定部10には、屈曲成形された金属板からなる取付部材41が外装体1aにボルト42で固定されている。これにより、取付部材41の固定板41aは外装体1aと所定距離だけ離間しつつ対向して配置される。また、固定板41aには、貫通孔である取付孔43があって、外装体1a及び炉壁2を貫通して設けられた測定孔11の軸線上に位置している。円形の取付孔43の一部には、切り欠き部43aが設けられている。固定板41aの外装体1aとの対向面Aには、プッシュスイッチ44が固定されており、接点44aを取付孔43の周囲においてその円周方向に沿った方向に向けている。プッシュスイッチ44は、接点44aを押し込むことによりオンとなり、モニター装置45でこれを検知できる。
【0020】
次に、熱電対体20の加熱炉1への取付及び取外しの方法について説明する。
【0021】
図2及び図5に示すように、熱電対体20は、保護管21の先端部21aと締結具30の基準フランジ部(段差部)の当接平面34との距離を常に一定になるように組み立てられる。なお、保護管21が長手方向に真っ直ぐであるならば、比較的長さのある中心孔33に保護管21を挿入することで、当接平面34に対して保護管21が垂直に延びることになる。
【0022】
熱電対体20は、保護管21の先端部21aから取付部材41の取付孔43を介し、測定孔11へと挿入される。このとき、締結具30の係止片35は、取付孔43の切り欠き部43aの内部を通過し、固定板41aの固定平面B側から外装体1aとの対向面A側へと移動する。そして固定板41aの固定平面Bと当接平面34との面を付き合わせるのである。かかる状態において、図6に示すように、熱電対体20を保護管21の長手方向周り、すなわち、桿体の軸線周りに回転させると、係止片35が固定板41aの対向面Aの表面に沿って移動し、当接平面34と係止片35の側部とで固定板41aをその両面から挟み込む。これにより熱電対体20の桿体長手方向への移動が規制され、加熱炉1に固着するのである。また、当接平面34と保護管21とは常に垂直なため、保護管21の先端部の測定部は、加熱室2a内の同じ場所に常に位置するのである。
【0023】
一方、熱電対体20を桿体の軸線周りに回転させることで係止片35がプッシュスイッチ44の接点44aを押し込む。これによりプッシュスイッチ44がオンとなって、熱電対体20が固定されたことをモニター装置45を介して確認できるのである。
【0024】
熱電対体20を取り外すときにあっては、これとは逆に、熱電対体20を桿体の軸線周りに回転させて、係止片35を固定板41aの対向面Aの表面に沿って移動させる。係止片35が切り欠き部43aに一致したところで、熱電対体20を測定孔11から引き抜くことができる。
【0025】
上記した実施例によれば、加熱炉1の外装体1aから所定距離だけ外方へ離間し対向する固定板41aと測定孔11とで熱電対体20の長手の桿体の方向付けをするとともに、固定板41aの固定平面Bと締結具30の当接平面34とを突き合わせた上で互いに固着させて、熱電対体20の桿体の延びる方向を確定させつつ、測定孔11への保護管21の挿入方向の長さを確定し、熱電対体20を交換してもその測定部の位置ずれを生じさせないのである。
【0026】
また、上記した実施例では、熱電対体20を取付孔43に挿入し係止片35を固定板41aの表側の固定平面Bから切り欠き部43aを通過させて固定板41aの裏側の対向面Aに移動させ、当接平面34を固定板41aの表側の固定平面Bに当接させつつ熱電対体20を回転させて係止片35を固定板41aの裏側の対向面Bに係止させるのである。これにより、熱電対体20にあっては、加熱炉1の外装体1aから外方へ離間する方向への位置ずれを更に確実に抑制できるのである。
【0027】
また、上記した実施例では、熱電対体20が加熱炉1に固定されたことを係止片35に当接して検出するプッシュスイッチ44を固定板41aの裏側に与えている。これにより係止片35とプッシュスイッチ44の接点44aが当接してプッシュスイッチ44がオンとなることで、熱電対体20が固定されたことをモニター装置45で確認できる。また、接点44aの当接が解除されることで、プッシュスイッチ44がオフとなり、モニター装置45で、熱電対体20の位置ずれの可能性を確認できる。かかるモニター装置45によれば、多くの熱電対体20を交換する時にあっても、その確認が容易に出来るのである。
【0028】
以上、本発明による代表的実施例を説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した請求項の範囲を逸脱することなく種々の代替実施例及び改変例を見出すことができるだろう。
【符号の説明】
【0029】
1 加熱炉
1a 外装体
10 温度測定部
20 熱電対体
21 保護管
22 熱電対
23 キャップ
30 締結具
34 当接平面
35 係止片
41 取付部材
41a 固定板
44 プッシュスイッチ
45 モニター装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉壁で囲われた加熱室を外装体の内部に設けた加熱炉の該加熱室内の温度を測定するための温度測定部構造であって、
前記外装体及び前記炉壁を貫通させて前記加熱炉の外部と前記加熱室とを連通させる測定孔を設け、先端部に測定部を有する桿体からなる熱電対体を前記測定孔に挿入させて前記加熱室内の温度を測定する温度測定部構造において、
前記外装体の前記測定孔の開口から所定距離だけ外方へ離間した位置に前記外装体と対向する固定板を固設するとともに、前記熱電対体の前記桿体の前記先端部から所定長さ位置に基準フランジ部を設け、前記固定板の固定平面と前記基準フランジ部の当接平面とを合わせた上で互いに固着させ前記熱電対体を前記加熱炉に固定することを特徴とする加熱炉の温度測定部構造。
【請求項2】
前記固定板には切り欠きを有する固定孔を設けるとともに、前記熱電対体には前記桿体の前記基準フランジ部から前記先端部側において外方に向けて突出する係止片を設け、前記固定孔を介して前記熱電対体を前記測定孔に挿入し前記係止片を前記固定板の表側から前記切り欠きを通過させて前記固定板の裏側に移動させ前記フランジ部の前記当接平面を前記固定板の表側の前記固定平面に当接させつつ前記熱電対体を回転させて前記係止片を前記固定板の裏側の面に係止させることを特徴とする請求項1記載の加熱炉の温度測定部構造。
【請求項3】
前記熱電対体が前記加熱炉に固定されたことを前記係止片に当接して検出する検出スイッチを前記固定板の裏側に与えたことを特徴とする請求項2記載の加熱炉の温度測定部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−96929(P2013−96929A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241966(P2011−241966)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】