説明

動作解析システム、動作解析装置及びプログラム

【課題】片側測定を行うシステムであっても、被験者の左右両側の動きに関連したパラメータの算出を適正に行う。
【解決手段】被験者の左右両側のうち、何れか一方の側に配設され、被験者の一方の側に取り付けられた動作測定用マーカ及び反対足の踵に取り付けられた合成基準マーカを撮像する撮像装置と、被験者の左右各々の足の床反力を測定する床反力測定装置と、動作解析を行うデータ処理装置3とを備える動作解析システムであって、データ処理装置は、被験者の左右片側ずつ、当該被験者の歩行動作に従って一方の側の動作に関連した片側動作情報を測定するとともに、撮像装置から出力された合成基準マーカの基準画像情報を含む動画像情報に基づいて、各々測定された被験者の左右の動作情報を合成して、当該被験者の左右両側の動きに関連した両側関連動作情報を算出するCPU36を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療分野等における被験者の動作をモーションキャプチャして解析する動作解析システム、動作解析装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リハビリテーション医学や体育・スポーツ医学等の医療分野などでは、被験者の運動時の関節の動作を関節モーメントとして三次元座標で捉えて分析することなどが行われている。
かかる三次元座標の測定システムとして、三角測量の原理に基づいてマーカの三次元座標(x,y,z)を測定する三次元動作解析システム(モーションキャプチャシステム)が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
この三次元動作解析システムは、例えば、被験者の左右の各側にて、所定の水平距離を離して配置された少なくとも2台の撮像カメラにより、当該被験者の各部位に取り付けられたマーカを撮像してその三次元座標(x,y,z)を測定するようになっている。即ち、被験者の左右の各側にて、マーカの位置を頂点とし2台の撮像カメラ間の距離を底辺とした三角形を形成して、各撮像カメラ位置とマーカの位置とにより形成される2辺の内角θa,θbとした場合に頂点であるマーカの三次元座標(x,y,z)を算出するようになっている。
【0003】
また、上述の医療分野では、被験者の動作解析として、関節モーメントだけでなく、歩行動作の解析も行われている。
この歩行動作の解析としては、具体的には、片足毎に足が地面に接している立脚期や、足が地面から離れている遊脚期等、並びに、両足が接地している両脚支持期や、片足だけ接地している単脚支持期等を測定するようになっている。
立脚期は、踵が接地する踵接地から爪先が接地する前までの踵接地時期と、踵が接地した状態で爪先も接地する足底接地から踵が離れる踵離地までの立脚中期と、踵離地から爪先が離れる足尖離地(爪先離地)までの踏み切り時期とがあり、これらの各期間の長さ等から被験者の異常の発見や、被験者のリハビリの成果等を判断することができる。
【0004】
ここで、踵接地、足底接地、踵離地、爪先離地(足尖離地)等の測定には、床反力測定装置等が用いられるようになっている。
床反力測定装置は、例えば、被験者が乗る水平な略矩形板状のフォースプレートと、その四隅部分にそれぞれ配置された三分力ロードセルとを備える構造となっている。三分力ロードセルの各々は、フォースプレートに作用する反力のX軸、Y軸及びZ軸方向の分力を検出するX軸方向分力検出器、Y軸方向分力検出器及びZ軸方向分力検出器を備えている。
そして、三分力ロードセルの各分力検出器からの検出結果や、各軸回りのモーメントの情報により、運動時における体重配分、駆動力や制動力、体重の移行性、捻転力、歩行時の歩幅や歩行速度等を測定できるようになっている。
【0005】
ところで、三次元動作解析システムは、上記のように、被験者の左右に少なくとも2台の撮像カメラ、即ち、少なくとも合計4台の撮像カメラが配設されるようになっている。このため、三次元動作解析システムの設置には、ある程度広いスペースが必要となり、小さい病院等の施設によっては設置スペースを確保することができずに、当該システムを導入することができないといった問題がある。
【0006】
そこで、被験者の左右のうち、何れか一方の側にのみ2台の撮像カメラを配置して、当該被験者の歩行動作を左右の片側ずつに分けて解析する片側測定システムが提案されている。
この片側測定システムの場合、両側に撮像カメラを配設するものに比べて設置スペースをほぼ半分にすることができ、さらに、撮像カメラ等のシステム構成装置の数を少なくすることもできるので、システムの価格を下げることができるといった利点もある。
【特許文献1】特開2004−344418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の片側測定システムの場合、被験者の左側と右側とに分けて歩行動作の解析を行うため、被験者の左右両側の動きに関連した所定のデータ、例えば、歩行動作時の骨盤角度等に関わる回転データの測定をすることができないといった問題がある。
【0008】
そこで、本発明の課題は、片側測定を行うシステムであっても、被験者の左右両側の動きに関連したパラメータの算出を適正に行うができる動作解析システム、動作解析装置及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明の動作解析システム(例えば、図1の三次元動作解析システム100等)は、
被験者(例えば、図1の被験者S等)の左右両側のうち、何れか一方の側に配設され、前記被験者の前記一方の側に取り付けられた動作測定用マーカ(例えば、図2の動作測定用マーカMA等)を撮像する撮像装置(例えば、図1の撮像カメラ1等)と、
前記被験者の動作に従って当該被験者の前記動作測定用マーカが取り付けられた前記一方の側の動作に関連した片側動作情報を測定する片側動作情報測定手段(例えば、図3のCPU36等)と、
前記片側動作情報測定手段により各々測定された前記被験者の左右両側に係る片側動作情報を合成して、当該被験者の左右両側の動きに関連した両側関連動作情報を算出する両側関連動作情報算出手段(例えば、図3のCPU36等)と、
前記動作測定用マーカが取り付けられた前記一方の側の足と反対側となる反対足の所定位置に取り付けられ、前記両側関連動作情報算出手段による前記片側動作情報の合成の基準となる合成基準マーカ(例えば、図2の合成基準マーカMB等)と、を備え、
前記撮像手段は、前記動作測定用マーカの撮像の際に、前記合成基準マーカの撮像を行って基準画像情報を出力し、
前記両側関連動作情報算出手段は、前記撮像装置から出力された前記基準画像情報に基づいて、前記左右両側に係る片側動作情報を同期させて合成することを特徴としている。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の動作解析システムにおいて、
前記合成基準マーカは、前記反対足の踵に取り付けられていることを特徴としている。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の動作解析システムにおいて、
前記片側動作情報測定手段は、
前記撮像装置と、前記被験者の左右各々の足の床反力を測定する床反力測定手段(例えば、図1の床反力測定装置2等)を備え、前記動作測定用マーカの撮像に基づいて前記撮像手段から出力された動画像情報、及び前記床反力測定手段により測定された前記床反力に基づいて、前記片側動作情報を測定することを特徴としている。
【0012】
請求項4に記載の発明は、
被験者(例えば、図1の被験者S等)の左右両側のうち、何れか一方の側に配設され、前記被験者の前記一方の側に取り付けられた動作測定用マーカ(例えば、図2の動作測定用マーカMA等)を撮像する撮像装置(例えば、図1の撮像カメラ1等)とともに動作解析システム(例えば、図1の三次元動作解析システム100等)を構成する動作解析装置(例えば、図1のデータ処理装置3等)であって、
前記撮像装置は、前記動作測定用マーカが取り付けられた前記一方の側の足と反対側となる反対足の所定位置に取り付けられた合成基準マーカ(例えば、図2の合成基準マーカMB等)を撮像し、
前記被験者の動作に従って当該被験者の前記動作測定用マーカが取り付けられた前記一方の側の動作に関連した片側動作情報を測定する片側動作情報測定手段(例えば、図3のCPU36等)と、
前記片側動作情報測定手段により各々測定された前記被験者の左右両側に係る片側動作情報を合成して、当該被験者の左右両側の動きに関連した両側関連動作情報を算出する両側関連動作情報算出手段(例えば、図3のCPU36等)と、を備え、
前記両側関連動作情報算出手段は、前記撮像装置により前記動作測定用マーカとともに撮像され当該撮像装置から出力された前記合成基準マーカの基準画像情報に基づいて、前記左右両側に係る片側動作情報を同期させて合成することを特徴としている。
【0013】
請求項5に記載の発明のプログラムは、
被験者(例えば、図1の被験者S等)の左右両側のうち、何れか一方の側に配設され、前記被験者の前記一方の側に取り付けられた動作測定用マーカ(例えば、図2の動作測定用マーカMA等)及び前記動作測定用マーカが取り付けられた前記一方の側の足と反対側となる反対足の所定位置に取り付けられた合成基準マーカ(例えば、図2の合成基準マーカMB等)を撮像する撮像装置(例えば、図1の撮像カメラ1等)とともに動作解析システム(例えば、図1の三次元動作解析システム100等)を構成する動作解析装置(例えば、図1のデータ処理装置3等)に、
前記被験者の動作に従って当該被験者の前記動作測定用マーカが取り付けられた前記一方の側の動作に関連した片側動作情報を測定する機能と、
前記動作測定用マーカの撮像の際に前記撮像装置から出力された前記合成基準マーカの基準画像情報に基づいて、各々測定された前記被験者の左右両側に係る片側動作情報を合成して、当該被験者の左右両側の動きに関連した両側関連動作情報を算出する機能と、
を実現させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、被験者の左右片側ずつ片側動作情報を測定した後、反対足の所定位置に取り付けられた合成基準マーカを基準として、被験者の左右両側の片側動作情報を同期させて合成することができ、これにより、当該被験者の左右両側の動きに関連した両側関連動作情報を算出することができる。
従って、被験者の左右両側の動作解析を同時に行うことができずに片側ずつ測定を行うシステムであっても、被験者の左右両側の動きに関連したパラメータの算出を適正に行うができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明について、図面を用いて具体的な態様を説明する。ただし、発明の範囲は、図示例に限定されない。
図1は、本発明を適用した好適な一実施形態として例示する三次元動作解析システム100を模式的に示した図である。
なお、以下の説明にあっては、被験者Sの進行方向をX軸方向とし、このX軸方向に直交する一方向(左右方向)をY軸方向とし、X軸方向及びY軸方向の双方に直交する方向(上下方向)をZ軸方向とする。
【0016】
本実施形態の三次元動作解析システム100は、被験者Sの左右のうち、何れか一方の側(例えば、図1における手前側)にのみ所定数(例えば、2台)の撮像カメラ1を配置して、当該被験者Sの歩行動作を左右の片側ずつに分けて解析するシステムである。
具体的には、例えば、図1に示すように、三次元動作解析システム100は、被験者Sに取り付けられたマーカを撮像する撮像カメラ1と、左右何れか一方の側の足の床反力を測定する床反力測定装置2と、撮像カメラ1及び床反力測定装置2から出力されたデータを処理するデータ処理装置(動作解析装置)3と、各種データを印刷するプリンタ4等を備えている。
【0017】
先ず、撮像カメラ1は、例えば、被験者Sの図1における手前側に2台所定間隔を空けて配設され、被験者Sの身体に取り付けられたマーカ(図2参照)を撮影するものである。
この撮像カメラ1としては、例えば、CCDカメラ等が適用され、所定のフィルタが取り付けられることで赤外線カメラとして機能するようにしても良い。また、撮像カメラ1に、例えば、赤外LED等の照明装置(図示略)を設けるようにしても良く、これにより、赤外線照明装置を別に設置しなくとも、赤外線撮影が行うことができることとなる。
【0018】
ここで、被験者Sのマーカの取付位置について図2を参照して説明する。
図2は、右側測定処理(後述)の際に被験者Sにマーカが取り付けられた状態を模式的に示した図である。
なお、以下の説明では、右側測定処理の際のマーカ取付位置について説明するが、左側測定処理(後述)にあっては、マーカは右側測定処理における取付位置に対して略左右対称となる位置に取り付けられるようになっており、その詳細な説明は省略する。
【0019】
図2に示すように、マーカは、例えば、被験者Sの歩行動作の際に右側の動作を測定するための動作測定用マーカMAとして、右肩上部の肩峰(マーカM1)、胴体の腰部右側の腸骨稜(マーカM2)、右腕の肘の部分の肘関節点(マーカM3)、右腕の手首の手首関節点(マーカM4)、右脚の膝の膝関節点(マーカM5)、右脚の足首(踝)の足関節点(マーカM6)、右足の爪先の横(小指の付け根当り)の中足骨(マーカM7)、及び右足の踵(マーカM8)に取り付けられるようになっている。
【0020】
また、マーカは、左右の測定結果を合成するデータ合成処理の基準となる合成基準マーカMBとして、右足の踵の動作測定用マーカM8に対応させて左足(反対足)の踵に取り付けられるようになっている。
【0021】
ここで、合成基準マーカMBの取付位置は、踵に限られるものではなく、撮像カメラ1にて撮像可能であり、接地した際に足の進行方向に対する移動量が略0「ゼロ」となる位置であれば如何なる位置であっても良い。即ち、足の接地状態と離地状態との判別を画像情報を用いて適正に行うことができる位置であれば良い。具体的には、例えば、脚の膝から下であれば良く、踝から下であればより好ましい。
さらに、合成基準マーカMBの離脱を防止する上では、歩行動作の際に右脚の一部が接触しないような位置が好ましい。
【0022】
床反力測定装置2は、例えば、被験者Sが乗る水平な矩形板状のフォースプレート21と、この四隅部分にそれぞれ配置されて支持する三分力ロードセル(図示略)等を備えて構成されている。
三分力ロードセルは、例えば、図示は省略するが、フォースプレート21に作用する反力のフォースプレート21上面の面方向に沿ってほぼ直交する二軸(以下、X軸及びY軸とする)の各方向の分力を検出するX軸方向分力検出器とY軸方向分力検出器と、フォースプレート21上面に対して垂直な軸(以下、Z軸とする)方向の分力を検出するZ軸方向分力検出器とを備えている。
【0023】
また、床反力測定装置2は、例えば、アンプ2Aを介してデータ処理装置3と接続され、被験者Sの歩行動作に基づいて三分力ロードセルにより測定された床反力に係る所定の信号をアンプ2Aにより増幅してデータ処理装置3に出力するようになっている。
【0024】
次に、データ処理装置3について図3を参照して説明する。
図3は、データ処理装置3の要部構成を示すブロック図である。
データ処理装置3は、例えば、パーソナル・コンピュータ等から構成され、具体的には、図3に示すように、操作入力部31と、外部データ入力部32と、表示部33と、ROM34と、RAM35と、CPU36等を備えている。
【0025】
操作入力部31は、例えば、数値、文字等を入力するためのデータ入力キーや、データの選択、送り操作等を行うための上下左右移動キーや各種機能キー等によって構成されるキーボードを備え、ユーザにより押下されたキーの押下信号をCPU36に出力するようになっている。
【0026】
外部データ入力部32は、例えば、撮像カメラ1や床反力測定装置2等の外部装置から出力されるデータが入力されるインタフェースボード(図示略)等を備えている。そして、外部データ入力部32に入力されたデータは、CPU36に対して出力されるようになっている。
なお、外部装置がデータをアナログ信号で出力するものの場合、インタフェースボードにアナログ・デジタル変換部を設けることによりデータをデジタル信号に変換するようにしても良い。
【0027】
表示部33は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)、CRT(Cathode Ray Tube)等のディスプレイから構成され、CPU36の制御下にて、入力された各種データを表示するようになっている。具体的には、表示部33は、例えば、右側測定処理の結果G1(図4参照)、左側測定処理の結果G2(図5参照)、データ合成処理の結果G3(図7参照)、右側の骨盤角度の測定結果G4(図8参照)、左側の骨盤角度の測定結果G5(図9参照)等を表示するようになっている。
【0028】
CPU(Central Processing Unit)36は、例えば、ROM34に記憶されているデータ処理装置3としての機能に関る各種プログラムを読み出してRAM35の作業領域に展開し、当該プログラムに従って各種処理を実行するものである。
【0029】
RAM(Random Access Memory)35は、例えば、書き換え可能なメモリであり、ROM34から読み出されたプログラムや入力データ等の格納領域や作業領域等を構成している。
【0030】
ROM(Read Only Memory)34は、例えば、読み出し専用のメモリであり、CPU36の制御下にて実行される各種のプログラム並びに各プログラムの処理に係るデータ及びテーブル等を記憶している。具体的には、ROM34は、片側動作情報測定プログラム34a、両側関連動作情報算出プログラム34b等を記憶している。
【0031】
片側動作情報測定プログラム34aは、例えば、被験者Sの動作に従って当該被験者Sの左右各々の側について個別に右側測定処理及び左側測定処理に係る機能をCPU36に実現させるためのプログラムである。
具体的には、右側測定処理は、例えば、動作測定用マーカMA(マーカM1〜M8)を被験者Sの右側の所定位置に取り付けて、当該被験者Sの歩行動作に関連して右足の動作測定用マーカ位置の変化、右足の床反力の時間変化、歩行特性値(後述)等の右側動作情報(片側動作情報;図4参照)を測定する処理である。
即ち、被験者Sの歩行動作の際に、撮像カメラ1により動作測定用マーカMAを撮像するとともに、床反力測定装置2により右足の床反力を測定する。そして、CPU36は、片側動作情報測定プログラム34aを実行して、撮像カメラ1から出力された動画像情報に基づいて、時系列順に並んだ複数のフレーム毎の画像データの各々について動作測定用マーカMAの三次元座標を算出して、その時間変化を検出するとともに、床反力測定装置2から出力された右足の床反力に係る情報に基づいて右足のX軸、Y軸及びZ軸方向の床反力の時間変化を検出し、さらに、これらの情報を基に所定の演算を行って歩行特性値等を算出するようになっている。
【0032】
また、右側測定処理にあっては、撮像カメラ1にて反対足(右側の足と反対側となる)の踵に取り付けられた合成基準マーカMBも撮像されるようになっており、撮像カメラ1は、当該合成基準マーカMBに係る基準画像情報を含む動画像情報をCPU36に出力するようになっている。
【0033】
なお、図4にあっては、右足の動作測定用マーカMA(マーカM1、M2、M5〜M8)の位置を●(黒丸)で示し、その変化及び右足のX軸、Y軸及びZ軸方向の床反力の時間変化を実線で示し、立脚期を一点鎖線で示すものとする。また、反対足(左足)の合成基準マーカMBは○(白丸)で示すものとする。
【0034】
また、左側測定処理は、例えば、右側測定処理と略同様に、動作測定用マーカMA(マーカM1〜M8)を被験者Sの左側の所定位置に取り付けて、当該被験者Sの歩行動作に関連して左足の動作測定用マーカ位置の変化、左足の床反力の時間変化、歩行特性値(後述)等の左側動作情報(片側動作情報;図5参照)を測定する処理である。
なお、図5にあっては、左足の動作測定用マーカMA(マーカM1、M2、M5〜M8;)の位置を○(白丸)で示し、その変化及び左足の床反力の時間変化を実線で示し、立脚期を二点鎖線で示すものとする。また、反対足(右足)の合成基準マーカMBは●(黒丸)で示すものとする。
【0035】
このように、CPU36は、撮像カメラ1及び床反力測定装置2と協働して片側動作情報を測定する片側動作情報測定手段を構成している。
【0036】
また、片側測定処理は、例えば、左右片側のそれぞれについて複数回ずつ行われるようになっており、これらから平均値を算出するようになっている。
【0037】
なお、歩行特性値としては、例えば、平均歩行速度(cm/s)、ケーデンス(s/m)等の距離因子や、歩行周期(s)、立脚期(s)、遊脚期(s)、制動期(s)、駆動期(s)、Foot Flat(s)、Heal Off(s)等の時間因子等が挙げられる。
ここで、ケーデンスとは、1分間当たりの歩数のことであり、立脚期とは、足が地面に接している期間のことであり、遊脚期とは、足が地面から離れている期間のことであり、制動期とは、足が接地してから脚の駆動を停止させるまでの期間であり、駆動期とは、停止した脚を駆動させてから離地するまでの期間のことである。
また、Foot Flatとは、足が踵から爪先まで接地している時間のことであり、Heal Offとは、Foot Flatから踵が離地するまでの時間のことである。
【0038】
両側関連動作情報算出プログラム34bは、例えば、片側測定処理にて各々測定された被験者Sの右側動作情報及び左側動作情報を合成して、当該被験者Sの左右両側の動きに関連した両側関連動作情報を算出するデータ合成処理に係る機能をCPU36に実現させるためのプログラムである。
【0039】
ここで、データ合成処理における合成アルゴリズムについて図6(a)〜図6(c)を参照して説明する。
先ず、CPU36は、撮像カメラ1から出力された動画像情報の基準画像情報に基づいて、左足(反対足)の踵の合成基準マーカMBの進行方向(X軸方向)の動き(移動量)が略0「ゼロ」となる時刻t1(図6(a)参照)、即ち、左足の接地時刻t1を算出する。
次に、CPU36は、右側測定処理にて測定された右側動作情報のうち、右足の床反力の時間変化の中で左足の接地時刻t1に対応する時刻t2(図6(b)参照)を算出する。そして、CPU36は、対応時刻t2と左足の接地時刻t3(図6(c)参照)とが重なるように、左側測定処理にて測定された左側動作情報のうち、左足の床反力の時間変化と右足の床反力の時間変化とをずらして合成する。
【0040】
続けて、CPU36は、動作測定用マーカMAの三次元座標系の補正を行う。
即ち、CPU36は、左足(反対足)の踵が接地した時刻t1における合成基準マーカMBの水平面の座標を(Xc、Yc)とし、重ねる左足の動作測定用マーカMAのうち、左踵のマーカ(マーカM8)の座標を(X、Y)とすると、補正のための平行移動量は、
ΔX=Xc−X、ΔY=Yc−Y
となり、
計測座標の基準座標に対する回転を考慮して、以下の計算式を満たす値を算出して、左右の動作測定用マーカ位置を重ねる。
【数1】

ここで、上記計算式において、Xin、Yinは測定座標値を、Xout、Youtは補正座標値を、θは基準座標系に対する計測座標系の回転量(例えば、約180°)を表している。
【0041】
上記の演算を、左右の動作情報に基づいて、左右交互に測定したデータ分繰り返すことにより、再構成された両側測定データを算出する(図7参照)。
なお、図7にあっては、右足の動作測定用マーカMA(マーカM1、M2、M5〜M8;●(黒丸))の位置の時間変化及び右足のX軸、Y軸及びZ軸方向の床反力の時間変化を実線で示し、右足の立脚期を一点鎖線で示し、左足の動作測定用マーカMA(マーカM1、M2、M5〜M8;○(白丸))の位置の時間変化及び左足の床反力の時間変化を実線で示し、左足の立脚期を二点鎖線で示すものとする。
【0042】
また、CPU36は、合成された両側測定データに基づいて、被験者Sの左右両側の動きに関連した両側関連動作情報を算出する処理を行う。即ち、CPU36は、両側測定データの左右両足の動作測定用マーカ位置の変化及び床反力の時間変化、並びに歩行特性値等に基づいて、歩幅(cm)や左右重複歩幅(cm)等の距離因子、片足だけ接地している期間である単脚支持期(s)や両足が接地している期間である両脚支持期(s)等の時間因子、並びに被験者Sの歩行動作時における左右の骨盤角度に関わる回転データ等の両側関連動作情報を算出する。
ここで、両側関連動作情報として、被験者Sの左右の骨盤角度を算出する場合について説明する。即ち、CPU36は、例えば、歩行周期(立脚期と遊脚期)の所定タイミングにおける左右の骨盤角度を算出して、所定タイミングの平均値及びその偏差の変化をグラフ化するようになっている(図8及び図9参照)。
図8(a)は、前額面(YZ平面)に投影した場合の右骨盤角度であり、図8(b)は、水平面(XY平面)に投影した場合の右骨盤角度である。また、図9(a)は、前額面(YZ平面)に投影した場合の左骨盤角度であり、図9(b)は、水平面(XY平面)に投影した場合の左骨盤角度である。
なお、図8及び図9にあっては、骨盤角度の最大値を▲で示し、その最小値を▼で示し、これらの出現時の歩行周期比を()内の数字で表している。
【0043】
次に、本実施形態における動作解析処理について図10を参照して説明する。
図10は、動作解析処理に係る動作の一例を示すフローチャートである。
【0044】
図10に示すように、先ず、CPU36の制御下にて、右側測定処理を行う(ステップS1)。即ち、被験者Sの右側の所定位置に動作測定用マーカMAを取り付けるとともに左足(反対足)の踵に合成基準マーカMBを取り付けた後、床反力測定装置2上にて右足の歩行動作を行い、CPU36による片側動作情報測定プログラム34aの実行下にて、歩行動作の際に撮像カメラ1にて取得された動画像情報及び床反力測定装置2にて取得された床反力に基づいて、動作測定用マーカ位置の変化及び床反力の時間変化を測定する(図4参照)。
当該右側測定処理は、所定回数繰り返される。
【0045】
続いて、CPU36の制御下にて、左側測定処理を行う(ステップS2)。即ち、被験者Sの左側の所定位置に動作測定用マーカMAを取り付けるとともに右足(反対足)の踵に合成基準マーカMBを取り付けて、右側測定処理と略同様の処理を行う(詳細省略;図5参照)。
【0046】
そして、CPU36は、両側関連動作情報算出プログラム34bの実行に基づいて、右側測定処理にて取得した右側動作情報及び左側測定処理にて取得した左側動作情報を用いてデータ合成処理を行う(ステップS3)。即ち、CPU36は、反対足の踵の合成基準マーカMBを基準として、右足の床反力の時間変化と左足の床反力の時間変化とをずらして合成する(ステップS31)。
その後、CPU36は、動作測定用マーカMAの三次元座標系の補正をして、左右の動作測定用マーカ位置を重ねる(ステップS32)。
これらの処理を左右の動作情報に基づいて、左右交互に測定したデータ分繰り返すことにより、再構成された両側測定データを算出する(ステップS33;図8参照)。
【0047】
続けて、CPU36は、算出された両側測定データに基づいて、被験者Sの両側関連動作情報を算出する(ステップS34;図8及び図9参照)。
【0048】
以上のように、本実施形態の三次元動作解析システム100によれば、被験者Sの歩行動作を解析する際に、被験者Sの左右片側ずつ片側動作情報を測定した後、当該片側動作測定情報の測定に係る側の足と反対の反対足の踵に取り付けられた合成基準マーカMBを基準として、被験者Sの左右両側の片側動作情報を同期させて合成することができる。
即ち、反対足の接地時間t1に基づいて右側測定処理にて測定された右足の床反力の時間変化と左側測定処理にて測定された左足の床反力の時間変化とを所定位置で重ねて合成することができる。また、互いに対応する位置に取り付けられた合成基準マーカMBと動作測定用マーカM8に基づいて、右足の動作測定用マーカ位置の変化と左足の動作測定用マーカ位置の変化を重ねることができる。
このようにして両側測定データを算出することができ、当該両側測定データに基づいて、歩行動作の際の被験者の骨盤角度、並びに、歩幅や左右重複歩幅等の距離因子、単脚支持期や両脚支持期等の時間因子といった当該被験者の左右両側の動きに関連した両側関連動作情報を算出することができる。
従って、被験者Sの左右両側の動作解析を同時に行うことができずに片側ずつ測定を行う三次元動作解析システム100、即ち、被験者Sの左右何れか一方の側にのみ撮像カメラ1を配置するとともに、左右何れか一方の側の足の床反力を測定する一の床反力測定装置2を備える構成のシステムであっても、被験者Sの左右両側の動きに関連したパラメータの算出を適正に行うができる。
【0049】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良並びに設計の変更を行っても良い。
データ合成処理にて、右側動作情報及び左側動作情報の合成を左足の合成基準マーカMBを基準として行うようにしたが、これに限られるものではなく、例えば、右足の合成基準マーカMBを基準としても良い。
【0050】
また、反対足のつま先に当該つま先の接地及び離地タイミングを測定するためのつま先用マーカを取り付けるようにしても良い。これにより、両脚支持期等の歩行特性値の算出を行うことができる。
【0051】
また、上記実施形態における動作測定用マーカMAの数、形状等は一例であって、これに限られるものではないのは勿論のことである。
さらに、本実施形態の動作測定用マーカMAの取付パターンは一例であって、これに限られるものではなく、適宜所定の動作測定用マーカMAを取り付けたり外すことにより様々な取付パターンを適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明を適用した好適な一実施形態として例示する三次元動作解析システムを模式的に示した図である。
【図2】図1の三次元動作解析システムにおける被験者にマーカが取り付けられた状態を模式的に示した図である。
【図3】図1の三次元動作解析システムを構成するデータ処理装置の要部構成を示すブロック図である。
【図4】図1の三次元動作解析システムによる右側測定処理の結果を模式的に示した図である。
【図5】図1の三次元動作解析システムによる左側測定処理の結果を模式的に示した図である。
【図6】図1の三次元動作解析システムによるデータ合成処理を説明するための図である。
【図7】図6のデータ合成処理の結果を模式的に示した図である。
【図8】図6のデータ合成処理に基づいて算出された右側の骨盤角度の変化を表すグラフである。
【図9】図6のデータ合成処理に基づいて算出された左側の骨盤角度の変化を表すグラフである。
【図10】図1の三次元動作解析システムによる動作解析処理に係る動作の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0053】
100 三次元動作解析システム
1 撮像カメラ(片側動作情報測定手段)
2 床反力測定装置(片側動作情報測定手段)
21 フォースプレート
3 データ処理装置(動作解析装置)
36 CPU(片側動作情報測定手段、両側関連動作情報算出手段)
4 プリンタ
S 被験者
MA 動作測定用マーカ
MB 合成基準マーカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の左右両側のうち、何れか一方の側に配設され、前記被験者の前記一方の側に取り付けられた動作測定用マーカを撮像する撮像装置と、
前記被験者の動作に従って当該被験者の前記動作測定用マーカが取り付けられた前記一方の側の動作に関連した片側動作情報を測定する片側動作情報測定手段と、
前記片側動作情報測定手段により各々測定された前記被験者の左右両側に係る片側動作情報を合成して、当該被験者の左右両側の動きに関連した両側関連動作情報を算出する両側関連動作情報算出手段と、
前記動作測定用マーカが取り付けられた前記一方の側の足と反対側となる反対足の所定位置に取り付けられ、前記両側関連動作情報算出手段による前記片側動作情報の合成の基準となる合成基準マーカと、を備え、
前記撮像手段は、前記動作測定用マーカの撮像の際に、前記合成基準マーカの撮像を行って基準画像情報を出力し、
前記両側関連動作情報算出手段は、前記撮像装置から出力された前記基準画像情報に基づいて、前記左右両側に係る片側動作情報を同期させて合成することを特徴とする動作解析システム。
【請求項2】
前記合成基準マーカは、前記反対足の踵に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の動作解析システム。
【請求項3】
前記片側動作情報測定手段は、
前記撮像装置と、前記被験者の左右各々の足の床反力を測定する床反力測定手段を備え、前記動作測定用マーカの撮像に基づいて前記撮像手段から出力された動画像情報、及び前記床反力測定手段により測定された前記床反力に基づいて、前記片側動作情報を測定することを特徴とする請求項1又は2に記載の動作解析システム。
【請求項4】
被験者の左右両側のうち、何れか一方の側に配設され、前記被験者の前記一方の側に取り付けられた動作測定用マーカを撮像する撮像装置とともに動作解析システムを構成する動作解析装置であって、
前記撮像装置は、前記動作測定用マーカが取り付けられた前記一方の側の足と反対側となる反対足の所定位置に取り付けられた合成基準マーカを撮像し、
前記被験者の動作に従って当該被験者の前記動作測定用マーカが取り付けられた前記一方の側の動作に関連した片側動作情報を測定する片側動作情報測定手段と、
前記片側動作情報測定手段により各々測定された前記被験者の左右両側に係る片側動作情報を合成して、当該被験者の左右両側の動きに関連した両側関連動作情報を算出する両側関連動作情報算出手段と、を備え、
前記両側関連動作情報算出手段は、前記撮像装置により前記動作測定用マーカとともに撮像され当該撮像装置から出力された前記合成基準マーカの基準画像情報に基づいて、前記左右両側に係る片側動作情報を同期させて合成することを特徴とする動作解析装置。
【請求項5】
被験者の左右両側のうち、何れか一方の側に配設され、前記被験者の前記一方の側に取り付けられた動作測定用マーカ及び前記動作測定用マーカが取り付けられた前記一方の側の足と反対側となる反対足の所定位置に取り付けられた合成基準マーカを撮像する撮像装置とともに動作解析システムを構成する動作解析装置に、
前記被験者の動作に従って当該被験者の前記動作測定用マーカが取り付けられた前記一方の側の動作に関連した片側動作情報を測定する機能と、
前記動作測定用マーカの撮像の際に前記撮像装置から出力された前記合成基準マーカの基準画像情報に基づいて、各々測定された前記被験者の左右両側に係る片側動作情報を合成して、当該被験者の左右両側の動きに関連した両側関連動作情報を算出する機能と、
を実現させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−319347(P2007−319347A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−151934(P2006−151934)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(000101558)アニマ株式会社 (13)
【Fターム(参考)】