説明

動物用首輪およびその加工方法

【課題】動物の害虫忌避方法として、薬剤スプレー、シャンプー、蚊取り線香、超音波発振等の方法がある。しかし、これらは薬効成分の無駄、洗剤による地球環境への負荷増大、人や動物が薬効成分を不用意に吸入すること、有効範囲が狭い等の不都合があった。
【解決手段】本発明は、上記した従来技術の問題点を、薬効成分を担持した多孔質材料を構造の一部とした動物用首輪を提供することで解決した。すなわち、動物や人がその薬効成分を不用意に吸引することなく、しかも犬、猫などの愛玩動物に危害を及ぼす害虫であるダニ、シラミ、蚊、ハエ、ブユ、アブの進入を防ぐため薬効成分を合成皮革や布等に含浸担持させた首輪である。併せて、薬効をより効果的にかつ持続性を持たせるための多孔質材料への加工方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、犬や猫などの愛玩動物に発生する害虫による被害を防止するための害虫忌避用品およびその加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、犬、猫などの愛玩用動物に対するダニやノミなどによる疾病、そのダニやノミなどに起因する人への危害、蚊を媒介とした犬の疾病等を防止するために様々な方法が用いられてきた。
【0003】
例えば、動物は毛の間あるいは皮膚に付着しているダニやノミのような吸汁性の害虫が繁殖すると、その痒みのために引っ掻き行動を起こす。その時の傷が原因となって様々な病気を発症し、その疾病による神経症なども併発していた。これらに対して、従来は防虫剤のスプレー噴霧、防虫シャンプーによる清浄化の対策が行われてきた。
【0004】
また、蚊やアブのような吸血性の害虫は、動物が野外に居るときに飛来し、吸血する。そのため、当該害虫類を寄せ付けないようにするために、蚊取り線香、殺虫剤のスプレー噴霧(例えば特許文献1及び特許文献2参照)、超音波発振(例えば特許文献3参照)等の害虫忌避方法によって対策が行われてきた。
【特許文献1】特許第3048653号公報
【特許文献2】特開2002−119167号公報
【特許文献3】実用新案登録第2582466号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、防虫剤のスプレーは、動物の周囲に噴霧されるため、毛以外の大気にそのほとんどが流出し、スプレー成分の無駄が生じていた。また、その操作を行う人が、スプレーの成分を不用意に吸入するという不都合もあった。
【0006】
シャンプーの場合は、その都度、動物類に対して実施する手間や、それによる排水の発生など、地球環境への負荷を増大するという好ましくない問題点を有している。
【0007】
蚊取り線香や殺虫剤のスプレーは、人や動物がその成分を不用意に必要以上に吸入することによって呼吸器系統の障害を生じる危険性があり、また、超音波発振方式のものは効果を示す範囲が狭いという欠点があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みてなされたものである。すなわち、動物や人がその薬効成分を吸入することによる障害を無くし、また薬効を持続させる手法としての動物用首輪とその加工方法を提供するものである。
【0009】
本発明の動物用首輪は、犬、猫などの愛玩動物に危害を及ぼす害虫であるダニ、シラミ、蚊、ハエ、ブユ、アブの進入を防ぐための薬効成分を担持させた多孔質材料を首輪の構造の一部として有することを特徴としている。そして、前記多孔質材料は繊維材料、合成皮革、天然皮革、布、あるいはこれらを1種以上含有する複合材料の何れかで構成される。
【0010】
さらに、本発明の動物用首輪は以下の方法で加工される。動物用首輪の構成部分である多孔質材料を亜臨界または超臨界流体に接触させることによって、多孔質材料内に残留する水分や油脂分などの不純物を除去し、その後、薬効成分原料と混合し、さらに、亜臨界または超臨界流体に接触させることによって、多孔質材料の内部まで均一に薬効成分を含浸担持させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明における多孔質材料は、薬効成分原料との混合物に、亜臨界または超臨界流体を接触させることにより、薬効成分原料から抽出された薬効成分を微細孔内部にまで含浸担持させることができる。また、超臨界流体の優れた浸透効果により、平滑面は勿論のこと複雑な形状の面全体にも薬効成分を含浸担持させることができる。
【0012】
このため、例えばユーカリの芳香成分を含浸担持させた木製の数珠形状の動物用首輪を50℃の恒温試験槽に6ヶ月間放置し、その重量減を確認した結果約2%の重量減しかなく、依然として薬効成分を保持しているなど、薬効成分の徐放性に優れ、長期間薬効を持続させることができる。
【0013】
また、本発明では、水あるいは有機溶剤等を多量に用いることがないため、薬効成分含浸担持処理後、製品の乾燥等を実施する必要がない。すなわち多孔質材料への薬効成分含浸担持処理工程では廃液が発生しないため、地球環境への負荷が小さい技術を完成したといえる。さらに、薬効成分が放散してしまった首輪に対しては、その形状を壊すことなく薬効成分の再含浸担持処理をすることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。請求項1〜請求項4の発明の動物用首輪としての特徴は、犬、猫などの愛玩動物に危害を及ぼす害虫であるダニ、シラミ、蚊、ハエ、ブユ、アブの進入を防ぐための薬効成分を含浸担持させた多孔質材料を首輪の構造の一部として有することである。そして、前記多孔質材料は繊維材料、合成皮革、天然皮革、布、あるいはこれらを1種以上含有する複合材料の何れかで構成される。
【0015】
図1は、ベルト形状の動物用首輪の概略図である。当該首輪のベルト部分の多孔質材料は牛革であり、これに防ダニ等の効果を有する薬効成分を含浸担持させており、犬用として使用される。
図2は、薬効成分含浸担持処理品と非処理品とを接合したベルト形状の動物用首輪の概略図である。当該首輪は、前記と同様ベルトの形状をしているものであるが、ベルト部分が牛革の表面部材と牛革の裏面部材の2枚を接合した構造になっている。そして、表面部材すなわちベルトを装着した場合に動物の体に接触しない面に、防ダニ等の効果を有する薬効成分を含浸担持させている。前記同様犬用として使用される。
図3は、数珠形状の動物用首輪の概略図である。当該首輪の数珠玉は木製であり、これに、防ダニ等の効果を有する薬効成分を含浸担持させている。この数珠形状の動物用首輪は主として猫や小型犬用として使用される。
図4に、犬が本発明の動物用首輪を装着した状態を示している。
【0016】
次に、請求項5に記載した本発明の動物用首輪の加工方法について説明する。本発明を実施するための装置として図5にその装置の一例を示したが、装置の構成はこれに限定されるものではない。先ず、多孔質材料1を、高圧セル6に封入する。続いて、恒温槽4を目的の温度に設定し、さらに、恒温層4内にセットした高圧セル6に接続した背圧弁5の解放圧力を、目的の圧力に設定した後、例えば二酸化炭素9を、高圧ポンプ10を用いて高圧セル6に導入し昇圧する。
二酸化炭素は、温度20〜70℃(臨界温度)、圧力40〜90atm(臨界圧力)以上の温度と圧力の条件下で、超臨界流体となるため、多孔質材料1の熱による劣化を防止することができる。また、毒性がなくしかも不燃性であるため、使用し易いガスである。
【0017】
高圧セル6の温度と圧力が所定の値に到達した後、所定の時間、連続的に二酸化炭素を流通して、多孔質材料内部に残留する不純物を除去し洗浄する。本洗浄工程では、最初に、超臨界状態の二酸化炭素が多孔質材料1の微細孔部分に浸透し、水分や油脂分などの不純物を溶解する。続いて、連続的に二酸化炭素を流すことによって、当該不純物を溶解した二酸化炭素を押し出して、多孔質材料1の空孔部分の容積を拡大させる。そして、背圧弁5を解放して減圧し洗浄を完了する。
【0018】
引き続き、高圧セル6に、洗浄浄化済みの多孔質材料1とともに薬効成分原料3を仕込み、微細孔内部への薬効成分の含浸担持処理を行う。詳細は前記洗浄工程と同様である。この薬効成分含浸担持処理では、薬効成分原料3から薬効成分を抽出するために通常超臨界流体を用いるが、操作温度が臨界温度以下、あるいは操作圧力が臨界圧力以下の、亜臨界流体を用いることもできる。本薬効成分含浸担持処理では、最初に、超臨界状態の二酸化炭素によって、薬効成分原料3から、薬効成分が抽出され、続いて、超臨界二酸化炭素と薬効成分の混合流体が、多孔質材料1の微細孔内部に浸透する。
所定の時間放置することによって、多孔質材料1の微細孔内部にまで薬効成分が浸透した後、背圧弁5を解放して減圧する。圧力低下によって超臨界二酸化炭素が元の気体の状態に戻り、多孔質材料1から自然に放散除去される。薬効成分は、微細孔全域で吸着補足され、多孔質材料1に残留する。
【0019】
請求項6の発明は、多孔質材料内部への薬効成分の含浸担持処理に適した超臨界流体を特定するものであり、前記した二酸化炭素の他に、亜酸化窒素、トリフルオロメタンの何れかが使用される。薬効成分の抽出含浸効果を挙げる方法として、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコール、あるいはアセトン、クロロホルム等の有機溶剤を、超臨界流体に対して数%程度添加するのもよい。また、薬効成分原料としては、ユーカリ、除虫菊、ヨモギ、オオバコなどの防虫成分を含有する全ての天然原料を用いることが出来る。これら薬草の成分は従来から、防虫効果が証明されているものである。要はダニ、ノミ、シラミのような吸汁性の害虫、あるいは蚊、アブ、ブユのような吸血性の害虫に対する防虫効果を有しているものであればよい。
【実施例1】
【0020】
以下、本発明の実施例について説明する。多孔質材料として、木製の数珠20gと、薬効成分原料として、ユーカリの乾燥葉10gを、内容積50mlのステンレス製高圧セルに封入した。続いて、温度50℃、圧力30MPaに設定し、3時間薬効成分の含浸担持処理を実施した。薬効成分を浸透させた後、背圧弁を解放し圧力を低下させることによって超臨界二酸化炭素を気体の状態に戻し、多孔質材料から放散除去した。処理後重量を測定した結果、5%の重量増加が認められ、薬効成分が担持した木製の数珠の形状を有する動物用首輪を得ることができた。
【実施例2】
【0021】
多孔質材料として、40gの牛革製のベルト用帯と、薬効成分原料としてユーカリを20g、内容積300mlのステンレス製高圧セルに封入した。なお、本実施例の操作条件は、前記実施例1と同じである。処理後重量を測定した結果、7%の重量増加が認められ、薬効成分が担持した革ベルトを得ることができた。
【実施例3】
【0022】
多孔質材料として、20gの木製数珠を予め超臨界二酸化炭素による洗浄処理を行った。洗浄処理条件は、温度50℃、圧力20MPaで、2時間保持し、続いて5ml/minの速度で3時間二酸化炭素を流通させ、不純物を除去した。この結果、元の重量に対して2%の重量減があり、さらに、除去成分も油脂成分であることが確認できた。なお、その後薬効成分の含浸担持処理を前記実施例1及び実施例2と同じ条件で処理した。処理後重量を測定した結果、7%の重量増加が認められ、薬効成分が担持した数珠形状の動物用首輪を得ることができた。すなわち、実施例1よりも多くの薬効成分を担持させることができた。
洗浄処理は多孔質材料の内部まで全体にかつ均一に薬効成分が深く浸透し易いため、担持成分の薬効を長時間持続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ベルト形状の動物用首輪の概略図である。
【図2】薬効成分含浸担持処理品と非処理品を接合したベルト形状の動物用首輪の概略図である。
【図3】数珠形状の動物用首輪の概略図である。
【図4】犬が本発明の動物用首輪を装着した状態を示す図である。
【図5】本実施例の動物用首輪を加工する装置の概略図である。
【符号の説明】
【0024】
1 多孔質材料
2 首輪
3 薬効成分原料
4 恒温槽
5 背圧弁
6 高圧セル
7 高圧ポンプ
8 圧力計
9 二酸化炭素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物に危害を及ぼす害虫の進入を防ぐための薬効成分を多孔質材料の内部まで全体にかつ均一に担持させ、担持させた薬効成分の徐放性を発揮できる前記多孔質材料が首輪の全部もしくは一部を構成することを特徴とする動物用首輪。
【請求項2】
前記、害虫が、ダニ、シラミ、蚊、ハエ、ブユ、アブであることを特徴とする請求項1に記載の動物用首輪。
【請求項3】
前記、動物が、犬、猫などの愛玩動物であることを特徴とする請求項1及び請求項2に記載の動物用首輪。
【請求項4】
前記、多孔質材料が繊維質材料、合成皮革、天然皮革、布、あるいはこれらを1種以上含有する複合材料の何れかであることを特徴とする請求項1〜請求項3に記載する動物用首輪。
【請求項5】
多孔質材料を亜臨界または超臨界流体と接触させて、多孔質材料内に残留する水分や油脂分などの不純物を除去する第1工程と、次いで薬効成分原料と混合し、さらに、亜臨界または超臨界流体を接触させる第2工程により、多孔質材料の内部まで全体にかつ均一に薬効成分を担持させることを特徴とする請求項1に記載の動物用首輪の加工方法。
【請求項6】
前記、亜臨界または超臨界流体が、二酸化炭素、亜酸化窒素、トリフルオロメタンの何れかであることを特徴とする請求項5に記載の動物用首輪の加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2005−52063(P2005−52063A)
【公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−285751(P2003−285751)
【出願日】平成15年8月4日(2003.8.4)
【出願人】(301069971)株式会社アシュラ (1)
【Fターム(参考)】