説明

化学物質の屈折率予測方法

【課題】既知および未知化学物質の屈折率を予測するシステムを提供する。

【解決手段】化学物質を部分構造ごとのフラグメントに分解し、重回帰解析により屈折率を予測する式を決定し、その式を用いて化学物質の屈折率を算出する方法であって、
化学物質の屈折率の予測式が、下記〔数式1〕であることを特徴とする化学物質の屈折率予測方法。
【数1】


式中miは化学物質に含まれるフラグメントiの個数を表し、niFはフラグメントiの屈折率指数を表し、Vmolは化学物質のモル体積を表し、aおよびbは定数を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学物質の屈折率を予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学材料の設計を行う上で既知化学物質あるいは新規化学物質について、その屈折率を知ることは非常に重要である。実測が困難な化学物質の屈折率、あるいはまだ分子設計段階で現物が得られていない新規物質の屈折率は予測するしか方法がない。
化学物質の屈折率を予測する方法として、記憶装置に格納された分子集合体モデルに関する情報に基づき、該分子集合体モデル内に存在する原子間結合の種類および原子間結合の方向を算出し、得られた原子間結合の種類によって決まる結合分極率パラメータを算出し、ここに得られた原子間結合の種類と、原子間結合の方向と、結合分極率パラメータとから、前記分子集合体モデルの分極率を算出し、次いで、得られた分子集合体モデルの分極率に基づき、前記分子集合体モデルの屈折率を算出する方法がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−281642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし上記特許文献1に記載の方法では、原子間結合の方向、結合分極率パラメータ、などの計算に非経験的分子軌道法計算を行う必要があり、これを行うには高性能なコンピュータおよび特殊な計算ソフトウエアが必要であった。
本発明は、上記従来技術の問題点を解決し、汎用パソコンおよび汎用計算ソフトウエアを用いて、既知および未知化学物質の屈折率を予測するシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明者は鋭意検討を行った結果、化学物質を部分構造ごとのフラグメントに分解して相関関係のある屈折率予測の関係式を導くことも可能であるが、化学物質を部分構造ごとのフラグメントに分解するのに加えて、化学物質のモル体積(Vmol)を導入した関係式にすることにより非常に高い相関関係で化学物質の屈折率を予測できることが可能なことを見出し、以下に示す本発明を完成した。
【0006】
〔1〕化学物質を部分構造ごとのフラグメントに分解し、重回帰解析により屈折率を予測する式を決定し、その式を用いて化学物質の屈折率を算出する方法であって、
化学物質の屈折率の予測式が、下記〔数式1〕であることを特徴とする化学物質の屈折率予測方法。
【数1】

式中mは化学物質に含まれるフラグメントiの個数を表し、niFはフラグメントiの屈折率指数を表し、Vmolは化学物質のモル体積を表し、aおよびbは定数を表す。

【0007】
ここで、数式1は以下に示す数式2のように書き換えることができる。
【数2】

式中、nFAはフラグメントAに対応するフラグメント屈折率指数、mは化学物質中のフラグメントAの個数を表し、nFBはフラグメントBに対応するフラグメント屈折率指数、mは化学物質中のフラグメントBの個数を表し、nFCはフラグメントCに対応するフラグメント屈折率指数、mは化学物質中のフラグメントCの個数を表し、以下同様にフラグメントの屈折率指数およびフラグメントの数を表す。aおよびbは定数を表す。
【0008】
〔2〕あらかじめ選定した複数の化学物質を、部分構造ごとのフラグメントに分解し、フラグメントの個数(m)、化学物質のモル体積(Vmol)および化学物質の屈折率(n)について請求項1に記載の〔数式1〕を用いて重回帰解析することにより、それぞれのフラグメントに対応するフラグメント屈折率指数(niF)、定数aおよび定数bの値を算出することを特徴とする前記〔1〕記載の化学物質の屈折率予測方法。
【0009】
〔3〕化学物質を部分構造ごとに分解したフラグメントに含まれる炭素原子の数が1以下であるようにフラグメントを分解することを特徴とする前記〔1〕または〔2〕に記載の化学物質の屈折率予測方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、屈折率が求められていない既知および未知化学物質の屈折率をより精度良く予測することが可能になった。特に実測が困難な化学物質、既知で合成が困難な化学物質、あるいはまだ分子設計段階で現物が得られていない新規物質の屈折率を予測するのに有効である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施携帯に係る屈折率予測方法が実行される屈折率計算装置を示す図である。
【図2】屈折率予測回帰式の作成方法の基本的な処理を示すフローチャートである。
【図3】未知化学物質の屈折率を予測する基本的な処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明によれば、化学物質の屈折率は前記〔数式1〕により算出することが可能であるが、そのためには予め複数の化学物質を選定し、それぞれの化学物質を部分構造ごとのフラグメントに分解し、そのフラグメントの種類とフラグメント毎の個数(m)、その化学物質のモル体積(Vmol)および屈折率(n)のデータを入手し、あらかじめ選定した複数の化学物質の前記データを用いてを前記数式1で重回帰解析することにより、それぞれのフラグメントに対応するフラグメント屈折率指数(niF)、定数aおよび定数bの値をまず算出する。
【0013】
本発明システムの化学物質のフラグメントに分解する手法は任意であるが、予測システムの汎用性を高くするためにはフラグメントを小さくする方が好ましく、フラグメントに含まれる炭素原子の数が1のフラグメントもしくはヘテロ原子のみのフラグメントに分解する手法がより好ましい。
【0014】
例えば、メチル基(−CH)、sp3メチレン基(−CH−)、sp3メチン基(−CH<)、sp3四級炭素(>C<)、spメチレン基(CH=)、spメチン基(−CH=)、sp四級炭素(>C=)、spメチン基(CH≡)、sp四級炭素(−C≡)、フッ素(−F)、塩素(−Cl)、臭素(−Br)、ヨウ素(−I)、水酸基(−OH)、エーテル基(−O−)、ホルミル基(−CHO)、カルボニル基(>C=O)、カルボキシル基(−COOH)、オキシカルボニル基(−COO−)、一級アミノ基(−NH)、二級アミノ基(−NH−)、三級アミノ基(−N<)、sp窒素(−N=)、シアノ基(−CN)、ニトロ基(−NO)、メルカプト基(−SH)、スルフィド基(−S−)、スルホキシド基(−SO−)、スルホン基(−SO−)、第二アミド基(−CONH−)、第三アミド基(−CON<)などに分解するのが好ましい。
【0015】
また、リン、ケイ素、ホウ素を含む場合のフラグメントへの分解は、ホスフィン基(−P<)、ホスホリル基(−PO<)、ケイ素原子(>Si<)、ホウ素原子(−B<)などのように分解するのが好ましい。
【0016】
更に、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、ジルコニウム(Zr)、スズ(Sn)、等の金属原子を含む場合は、その原子単位をフラグメントにするのが好ましい。
【0017】
化学物質のモル体積(Vmol)の求め方は任意であるが、密度既知の化学物質であれば分子量を密度で除して求めることができる。化学物質の密度は、たとえば文献(J.A.Riddick, W.B.Bunger and T.K.Sakano, 1986,John Wiley & Sons,Techniques of Chemistry Volume II Organic Solvents)および試薬カタログ(アルドリッチ社試薬カタログ)、に収録されたデータを用いることができる。
【0018】
密度未知の化学物質であれば化学物質のモル体積は分子力場計算あるいは半経験的分子軌道法計算で求めることができる。分子力場計算および半経験的分子軌道法計算は、CambridgeSoft社製ChemDrawやフリーの3D分子モデル作成ソフトFacioなどで行うことができる。
【0019】
このようにして得られた化学物質のモル体積(Vmol)と化学物質の屈折率(n)との相関関係式は以下のようにして解析できる。
【0020】
すなわち、まずあらかじめ選定された複数の化学物質について、それらの化学物質を部分構造ごとのフラグメントに分解し、そのフラグメントの種類とフラグメント毎の個数(m)、その化学物質のモル体積(Vmol)および屈折率(n)のデータを入手し、それらのデータを用いて、前記数式1で示された相関関係式による重回帰解析することにより、それぞれのフラグメントに対応するフラグメント屈折率指数(n)、定数aおよび定数bの値を算出する。
【0021】
複数の化学物質の選定は、予測する化学物質と同じフラグメントを有する化学物質を複数含むことが好ましい。
【0022】
化学物質の屈折率(n)は、たとえば文献(J.A.Riddick, W.B.Bunger and T.K.Sakano, 1986,John Wiley & Sons,Techniques of Chemistry Volume II Organic Solvents)または試薬カタログ(アルドリッチ社試薬カタログ)、に収録されたデータを用いることができる。
【0023】
次いで、これらの算出されたフラグメント屈折率指数(n)、定数aおよび定数bを上記の相関関係式に入力して相関関係式を決定する。
【0024】
次に、屈折率を予測したい化学物資の屈折率を算出する方法について説明する。
【0025】
まず最初に、化学物質の化学式を決定し、対象となる化学物質を部分構造ごとのフラグメントに分解することにより、フラグメントの種類とフラグメント毎の個数(m)のデータを求め、対象となる化学物質について前記のようにして求めたモル体積(Vmol)と共に前記決定した相関式により演算して演算値を求めることにより、対象となる化学物質の屈折率(n)を求めることができる。
【0026】
更に、本発明の化学物質の屈折率予測方法は、以下に示すように化学物質の屈折率予測システムとすることもできる。
【0027】
すなわち、情報処理装置において、(A)あらかじめ選定した複数の化学物質を部分構造ごとのフラグメントに分解するステップと、(B)あらかじめ選定した複数の化学物質のモル体積(Vmol)および化学物質の屈折率(n)について上記関係式 数1で重回帰解析することにより、それぞれのフラグメントに対応するフラグメント屈折率指数(niF)、定数aおよび定数bの値を算出するステップと、(C)対象となる化学物質を部分構造ごとのフラグメントに分解するステップと、(D)ステップBで算出されたフラグメント屈折率指数(niF)、定数aおよび定数bの値を上記の関係式に入力して決定された相関関係式に基づいて、対象となる化学物質のモル体積(Vmol)から演算値を求めることにより、対象となる化学物質の屈折率(n)を決定するステップ、を有する屈折率予測システムである。
【0028】
前記屈折率予測システムについて更に詳細に説明する。
図1に、本実施形態に係る屈折率予測方法が実行される屈折率計算装置10を示す。屈折率予測装置10は、具体的には、ワークステーションやパーソナルコンピューター等の情報処理装置である。屈折率予測装置10は、例えば中央演算処理装置(CPU)や内部メモリ等のハードウェアにより構成されており、これらの構成要素が動作することにより後述する屈折率予測装置10としての機能が発揮される。なお、本実施形態に係る屈折率予測方法を情報処理装置に対して実行させるプログラムが屈折率予測装置10において実行されることにより、本方法が行われてもよい。
【0029】
屈折率予測装置10は、化学物質情報部11と、化学物質選定部12と、フラグメント分解部13と、重回帰分析部14と、回帰式作成部15と、判断部16と、未知化学物質情報部17と、屈折率予測部18と出力部19とを備えて構成される。また、屈折率予測装置10は、外部装置20と接続されており、外部装置20から情報が入力される。
【0030】
化学物質情報部11は、化学物質の構造式、屈折率、分子量、比重、モル体積などの情報を蓄積する。情報の入力は外部装置20から行われる。化学物質選定部12は、化学物質情報部11の中から複数の化学物質を選定する。フラグメント分解部13は、化学物質選定部12で選定された化学物質をフラグメントに分解しフラグメントの種類および個数のデータを求める。重回帰分析部14は、化学物質選定部12で選定された化学物質の屈折率、モル体積、およびそれらの化学物質についてフラグメント分解部13で求められたフラグメントの種類および個数のデータを重回帰分析する。回帰式作成部15は、重回帰分析部14で分析した結果を回帰式として出力および記憶する。
【0031】
判断部16は、重回帰分析部14で重回帰分析した結果があらかじめ設定された条件を満足するか否かを判断して、満足していると判断されたら当該回帰式を回帰式作成部15に出力および記憶させ、満足していないと判断されたら上記化学物質の選定および/またはフラグメント分解を変更して再度重回帰解析をして回帰式を求める。
【0032】
未知化学物質情報部17は、屈折率を予測する化学物質の構造式、分子量、比重、モル体積などの情報を蓄積し、化学物質情報部11と同一の部でも良い。屈折率予測部18は、回帰式作成部15より出力および記憶された回帰式に、未知化学物質情報部17の屈折率を予測する化学物質の情報および屈折率を予測する化学物質についてフラグメント分解部13で求められたフラグメント種類および個数のデータを代入して予測屈折率を算出する。出力部19は、屈折率予測部18で算出された予測屈折率を出力する。
【0033】
上記の各構成要素の処理は、全て情報処理として行われる。それぞれの処理の具体的内容については、より詳細に後述する。
【0034】
以下、本実施形態に係る屈折率予測方法(屈折率予測装置10において実行される処理)を説明する。まず、屈折率予測回帰式の作成方法の基本的な処理を第一の処理として図2のフローチャートを用いて説明する。
【0035】
まず化学物質選定部12が、化学物質情報部11に蓄積された化学物質から複数の化学物質を選定する(S01)。選定は、重回帰解析を統計的に有意のものにするために後述するフラグメント分解ステップで設定される各フラグメントが5つ以上の化学物質に含まれるように化学物質を選定することが好ましい。選定される化学物質の総数は特に制限がないが、少なすぎると回帰式の精度が悪くなり好ましくない。化学物質の総数は多い方が精度の上では好ましいが、多すぎると計算時間が長くなりすぎる。上記を考慮して、フラグメントの種類が30程度の場合は選定される化学物質の総数が150〜250程度が好ましい。
【0036】
次いでフラグメント分解部13が、選定した複数の化学物質をフラグメントに分解しフラグメントの種類および個数のデータを求める(S02)。化学物質のフラグメントの分解方法はあらかじめ設定しておく。化学物質をフラグメントに分解する手法は任意であるが、予測システムの汎用性を高くするためにはフラグメントを小さくする方が好ましく、フラグメントに含まれる炭素原子の数が1のフラグメントもしくはヘテロ原子のみのフラグメントに分解する手法がより好ましい。
【0037】
次いで重回帰解析部14が、化学物質選定部12で選定された化学物質の屈折率、モル体積、およびそれらの化学物質についてフラグメント分解部13で求められたフラグメントの種類および個数のデータを〔数式1〕を用いて重回帰解析することにより、それぞれのフラグメントに対応するフラグメント屈折率指数(niF)、定数aおよび定数bの値を算出する(S03)。
【数1】

式中mは化学物質に含まれるフラグメントiの個数を表し、niFはフラグメントiの屈折率指数を表し、Vmolは化学物質のモル体積を表し、aおよびbは定数を表す。
【0038】
重回帰の手法はあらかじめ設定しておく。重回帰の手法は任意であるが、最小二乗法が好ましい。
【0039】
上記の処理(S01〜S03)が終了すると判断部16が、回帰式があらかじめ設定された条件を満足しているか否かを判断する(S05)。あらかじめ設定された条件は例えば重相関係数の自乗が下限閾値以上というものである。この閾値はあらかじめ判断部に記憶されている。
【0040】
判断部16が条件を満たしていないと判断した場合は、判断部16は、化学物質選定部12に再度化学物質の選定を行うように制御がなされる(S04)。化学物質選定部12が再度化学物質情報部11に蓄積された化学物質から複数の化学物質を選定し、一連の処理(S01〜S03)が行われる。
【0041】
判断部16が条件を満たしていると判断した場合は、重回帰解析結果を回帰式として回帰式作成部15に出力および記憶させるよう制御がなされる(S05)。
【0042】
次に、未知化学物質の屈折率を予測する基本的な処理を第二の処理として図3のフローチャートを用いて説明する。
【0043】
フラグメント分解部13が、未知化学物質情報部17に蓄積された屈折率を予測する化学物質をフラグメントに分解しフラグメントの種類および個数のデータを求める(S11)。化学物質のフラグメントの分解方法はS02の分解方法と同一にする。
【0044】
次いで、屈折率予測部18が、S05において出力および記憶された回帰式に、未知化学物質情報部17の屈折率を予測する化学物質の情報、およびS11において屈折率を予測する化学物質についてフラグメント分解部13で求められたフラグメント種類および個数のデータを代入して予測屈折率を算出する(S12)。
【0045】
次いで、出力部19が、S12で算出された予測屈折率を出力する(S13)。出力部19は、屈折率予測部18で算出された予測屈折率を出力する。出力は、ユーザが予測屈折率の情報を参照できるように、例えば、屈折率予測装置10が備えるディスプレイ等の表示装置に表示することにより行われる。それ以外でも、別の装置への出力が行われてもよい。また、予測屈折率の出力の際に、併せて当該予測屈折率の算出の対象となった化学物質の構造に関する情報が出力されてもよい。
【実施例】
【0046】
本実施形態に係る屈折率予測方法により、化学物質の屈折率を予測した実施例を示す。本実施例は、図1に示した本実施形態に係る屈折率予測方法が実行される屈折率計算装置10にて図2および図3に示したフローチャートに従って行った。
【0047】
179種の化学物質を選定して屈折率計算装置に入力した。選定した179種の化学物質をフラグメントへの分解した結果は、メチル基(−CH)、sp3メチレン基(−CH−)、sp3メチン基(−C<)、sp3四級炭素(>C<)、spメチレン基(CH=)、spメチン基(−C=)、sp四級炭素(>C=)、spメチン基(CH≡)、sp四級炭素(−C≡)、フッ素(−F)、塩素(−Cl)、臭素(−Br)、ヨウ素(−I)、水酸基(−OH)、エーテル基(−O−)、ホルミル基(−CHO)、カルボニル基(>C=O)、カルボキシル基(−COOH)、一級アミノ基(−NH)、二級アミノ基(−NH−)、三級アミノ基(−N<)、sp窒素(−N=)、シアノ基(−CN)、ニトロ基(−NO)、メルカプト基(−SH)、スルフィド基(−S−)、スルホキシド基(−SO−)、スルホン基(−SO−)の29種のフラグメントであった。各々の化学物質に対するフラグメントの種類および数がデータとして得られた。179種の化学物質について上記の式 数2で前記に記載の方法によって重回帰解析した。その結果、数式3
【数3】

式中mは化学物質に含まれるフラグメントiの個数を表し、niFはフラグメントiの屈折率指数を表し、Vmolは化学物質のモル体積を表し、nは解析した化学物質の数を表し、Rは重相関係数を表す。
で示される相関関係式が決定された。
【0048】
フラグメント屈折率指数の一部を表1に示す。
【表1】

【0049】
次いで、相関関係式 数式3を用いて重回帰解析の対象としていない化学物質、4−メチル−5−ビニル−1,3−チアゾールの屈折率の予測を行った。4−メチル−5−ビニル−1,3−チアゾールをフラグメントに分解された結果は、メチル基(−CH)1個、spメチレン基(CH=)1個、spメチン基(−C=)2個、sp四級炭素(>C=)2個、sp窒素(−N=)1個、スルフィド基(−S−)1個となった。分子量125.19および密度1.093から計算されるモル体積は114.54mL/molであり、これらの数値を上記相関関係式 数式3に代入して計算した結果は、
= [(0.3751×1+0.9337×1+3.2952×2+5.2051×2+2.4906×1+9.8991×1−4.692)/114.54)] +1.346=1.5727
と求められた。4−メチル−5−ビニル−1,3−チアゾールの屈折率の文献値1.568と比べ誤差は約0.3%に過ぎなかった。
【0050】
同様に、トリフルオロ酢酸の屈折率は1.2898と計算され、文献値1.285と比べ誤差は約0.4%に過ぎなかった。
〔比較例〕
【0051】
実施例1と同じ179種の化学物質を選定して屈折率計算装置10に入力した。選定した179種の化学物質をフラグメントへの分解した結果は、実施例1と同様であった。179種の化学物質について化学物質のモル体積Vmolを含まない式 数式4
【数4】

式中mは化学物質に含まれるフラグメントiの個数を表し、niFはフラグメントiの屈折率指数を表し、bは定数を表す。
で重回帰解析した。
【0052】
その結果、数式5
【数5】

式中mは化学物質に含まれるフラグメントiの個数を表し、niFはフラグメントiの屈折率指数を表し、nは解析した化学物質の数を表し、Rは重相関係数を表す。
で示される相関関係式が決定された。
【0053】
数式5で4−メチル−5−ビニル−1,3−チアゾールの屈折率の予測を行うと1.6350と計算され、文献値1.568と比べ誤差は約4.3%であった。同様に、トリフルオロ酢酸の屈折率は1.3034と計算され、文献値1.285と比べ誤差は約1.4%であった。
【0054】
以上の実施例と比較例の結果から、本発明の実施例の化学物質のモル体積(Vmol)を導入した屈折率予測関係式はR2=0.966であり、比較例のモル体積(Vmol)を導入しない屈折率予測関係式のR2=0.939より良好な相関性を示した。また本発明の実施例の屈折率予測関係式を元に、重回帰解析の対象としていない屈折率既知の化学物質の屈折率予測を行うと、屈折率の文献値が1.568の4−メチル−5−ビニル−1,3−チアゾールの予測屈折率は1.5727で誤差は約0.3%、屈折率の文献値が1.285のトリフルオロ酢酸の予測屈折率は1.2898で誤差は約0.4%に過ぎなかったのに対し、比較例の屈折率予測式を元に予測を行うと、4−メチル−5−ビニル−1,3−チアゾールでは1.6350で誤差は約約4.3%、トリフルオロ酢酸では1.3034で誤差は約1.4%であり、本発明の実施例のモル体積(Vmol)を導入した屈折率予測関係式のほうが優れた予測性を示した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学物質を部分構造ごとのフラグメントに分解し、重回帰解析により屈折率を予測する式を決定し、その式を用いて化学物質の屈折率を算出する方法であって、
化学物質の屈折率の予測式が、下記〔数式1〕であることを特徴とする化学物質の屈折率予測方法。
【数1】

式中mは化学物質に含まれるフラグメントiの個数を表し、niFはフラグメントiの屈折率指数を表し、aおよびbは定数を表す。
【請求項2】
あらかじめ選定した複数の化学物質を、部分構造ごとのフラグメントに分解し、フラグメントの個数(m)、化学物質のモル体積(Vmol)および化学物質の屈折率(n)について請求項1に記載の〔数式1〕を用いて重回帰解析することにより、それぞれのフラグメントに対応するフラグメント屈折率指数(niF)、定数aおよび定数bの値を算出することを特徴とする請求項1記載の化学物質の屈折率予測方法。
【請求項3】
化学物質を部分構造ごとに分解したフラグメントに含まれる炭素原子の数が1以下であるようにフラグメントを分解することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の化学物質の屈折率予測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−7629(P2011−7629A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−151401(P2009−151401)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)