説明

化粧料含浸皮膚被覆シートおよびその製造方法

【課題】皮膚にあてたときにチクチクしない、良好な触感の化粧料含浸皮膚被覆シートを提供する。
【解決手段】 潜在捲縮性繊維を含む繊維ウェブを、水流交絡処理に付した後、ウェブを加熱して、立体捲縮を発現させて、不織布を得、この不織布に液体化粧料を含浸させて、化粧料含浸皮膚被覆シートを得る。湾曲部が好ましくは閉曲線を形成している、高度に発現した立体捲縮が、繊維表面に存在することにより、繊維の端部が、繊維表面から突出しにくい構成となり、良好な触感を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保湿成分、クレンジング成分、制汗成分、香り成分、美白成分、血行促進成分、紫外線防止成分、または痩身成分等を含有する化粧料を含浸させ、人体の皮膚等に貼付して使用する化粧料含浸皮膚被覆シートおよびその製造方法に関する
【背景技術】
【0002】
化粧料を含浸したフェイスマスク等の化粧料含浸皮膚被覆シートは、既に広く使用されている。化粧料を含浸したシートとしては、コットン(木綿)またはレーヨンを主成分とした不織布が一般に用いられている。コットンまたはレーヨンが使用されるのは、吸水性があって化粧料を含浸させるのに好適であること、天然繊維または天然材料に由来する繊維であり、肌着等、皮膚に接触する製品に汎用されてきた実績があること、ならびに、コシがあって手で持ったときにしっかりとした感触があり、高級感があること等による。
【0003】
本出願人も、液体を含浸させて使用するシートとして、コットンおよびレーヨン等を使用する三層構造のシートを提案している(特許文献1、2)。また、コットン以外の繊維を使用して、化粧料を含浸させるシートも、提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−7062号公報
【特許文献2】特開2005−177176号公報
【特許文献3】特許第3804784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コットンまたはレーヨンを含み、コットンまたはレーヨンが表面に存在する不織布は、化粧料を含浸させて皮膚に当てたときに、チクチクとした触感を与える。その原因を調べるために、コットンまたはレーヨンのみから成り、水流交絡処理により繊維同士を交絡させた不織布の表面および断面を、顕微鏡で拡大して観察したところ、次のことが認められた。
・不織布の表面に、繊維の端部が多く存在する。
・繊維自体は、完全に真っ直ぐではなく、湾曲部を有しているところ、湾曲部が鋭角的である。
これらのことが、チクチクした触感の原因であると考えられた。
【0006】
そのようなチクチクした触感を与えやすいにもかかわらず、市場においては、コットンまたはレーヨンを使用したシートが、多く用いられている。また、特許文献3に記載されたシートは、コットンおよびレーヨンを積極的に使用するものではないものの、凸部が多数設けられており、フェイスマスクのように、シートを皮膚に密着させて覆う用途には適していない。本発明は、これらの事情に鑑みてなされたものであり、より良好な触感を有し、かつ、皮膚への密着性に優れた、化粧料含浸皮膚被覆シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、
立体捲縮を有する立体捲縮繊維を含む不織布と、
当該不織布に含浸された化粧料と
を含み、
不織布の少なくとも皮膚と接する側の表面に立体捲縮が存在している、
化粧料含浸皮膚被覆シートを提供する。本発明の化粧料含浸皮膚被覆シート(以下単に「皮膚被覆シート」と呼ぶことがある)は、その表面において、立体捲縮が発現した繊維が存在するために、繊維の端が表面に現れにくい構成のものとなる。よって、本発明の皮膚被覆シートは、良好な触感を有する。
【0008】
本発明の皮膚被覆シートにおいて、少なくとも一部の立体捲縮は、その投影が、閉曲線を描き得る形状を有することが好ましい。即ち、多数存在する立体捲縮を個々に見て、その形状を観察したときに、観察したもののうち、少なくとも一部は、その投影が閉曲線を描き得る形状を有することが好ましい。そのような形状の立体捲縮を有する繊維が、シート表面に存在することにより、シートの触感がより良好となる。
【0009】
立体捲縮の形状は、その影を映す、即ち、「投影」により二次元的に把握される。投影は、立体捲縮の湾曲部の影が、最も大きく映されるように、得る。「閉曲線を描き得る」とは、立体捲縮の湾曲部が閉曲線を描くもののほか、閉曲線を描いていなくても、立体捲縮の湾曲部の始端および終端を仮想的に延長させたときに、延長線が交わるものも含む意味である。
【0010】
本発明の皮膚被覆シートにおいて、立体捲縮繊維は25質量%以上含まれることが好ましい。立体捲縮性繊維の割合が25質量%以上であると、上記立体捲縮を有する繊維を含むことによる効果が、より有効に発揮される。
【0011】
本発明の皮膚被覆シートにおいて、立体捲縮繊維は、潜在捲縮性繊維において捲縮が発現したことにより形成されていることが好ましい。潜在捲縮性繊維は、例えば加熱することにより、立体捲縮を発現しやすく、また、得られた立体捲縮は、上述のように、その投影が閉曲線を描き得るものとなりやすい。
【0012】
本発明の皮膚被覆シートは、顔の一部または全部を覆う形状を有することが好ましい。即ち、本発明の皮膚被覆シートは、フェイスマスクとして用いられることが好ましい。顔に当てて使用する皮膚被覆シートには、特に良好な触感が求められることによる。
【0013】
本発明はまた、前記本発明の皮膚被覆シートを製造する方法として、
1)潜在捲縮性繊維を含む繊維ウェブを、繊維交絡処理に付すこと、
2)繊維交絡処理後の繊維ウェブを加熱して、立体捲縮を発現させて、不織布を得ること、および
3)当該不織布に、化粧料を含浸させること
を含む、製造方法を提供する。この方法によれば、立体捲縮を有する繊維が、繊維同士の交絡によって一体化された、良好な触感および風合いを有する皮膚被覆シートを、簡易に製造することができる。繊維交絡処理は好ましくは水流交絡処理である。水流交絡処理によれば、表面が緻密で平坦な不織布が製造されるので、皮膚被覆シートの触感がより良好となる。
【0014】
本発明の皮膚被覆シートの製造方法は、上記2)の後、即ち、立体捲縮を発現させた後に、フラットロールまたはフラットプレス板で、プレス加工を施すことを含んでよい。プレス加工を施すことにより、不織布の表面の平坦性が向上し、触感がより良好な不織布を得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の皮膚被覆シートは、皮膚と接する面に、立体捲縮を有する繊維が配されていることを特徴とする。この特徴により、本発明の皮膚被覆シートは、柔らかい触感を有し、皮膚と接したときにチクチク感を与えない。また、立体捲縮を有する繊維は、一般に、合成繊維であって、コットンよりも吸水性が小さいので、本発明の皮膚被覆シートに化粧料を含浸させたときに、繊維自体による吸液量が小さくなる。そのため、本発明の皮膚被覆シートは、使用時に皮膚とシートとの間に化粧料の膜を形成しやすく、この膜は、繊維が直接皮膚に当たることを、ある程度防止して、繊維のチクチク感をより緩和する。よって、本発明の皮膚被覆シートは、敏感な部位、特に、顔および首筋等に当てて使用するのに特に適している。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】好ましい立体捲縮の一例の投影図である。
【図2】好ましい立体捲縮の別の例の投影図である。
【図3】好ましい立体捲縮のさらに別の例の投影図である。
【図4】立体捲縮を示す模式図である。
【図5】閉曲線を形成しない立体捲縮の一例の投影図である。
【図6】圧縮応力および回復応力を測定するのに使用した治具の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
本発明の皮膚被覆シートは、
立体捲縮を有する立体捲縮繊維を含む不織布と、
当該不織布に含浸された化粧料と
を含み、
不織布の少なくとも皮膚と接する側の表面に立体捲縮が存在している。
【0018】
「立体捲縮」という用語は、スパイラル状の湾曲またはカール、およびスタッフィングボックス型クリンパー等によって付与される捲縮の屈曲部分(通常、実質的に鋭角である)が変形して丸みを帯びるにいたった部分を指し、スタッフィングボックス型クリンパー等によってのみ付与された捲縮(「機械捲縮」ともいう)と区別するために使用される。
【0019】
本発明においては、前述のとおり、立体捲縮は、その投影が閉曲線を描き得る形状を有することが好ましい。そのような立体捲縮の例を、図1〜図3に示す。図1は、図4に示すスパイラル状(コイル状)の立体捲縮が形成された繊維から取り出した、一つの立体捲縮の投影である。図示した投影は、湾曲部が最大となるように得たものであり、図4において、矢印Xで示す方向の投影である。図示した投影は、閉曲線を描いている。
【0020】
図2は、別の立体捲縮の投影である。図示した立体捲縮は、図1に示すようなスパイラルではなく、湾曲部R1の端部は、閉曲線を形成する前に、別の湾曲部R2およびR3(曲線の極大または極小)を形成している。この場合、湾曲部R1の端部が、別の湾曲部R2を形成していないと仮定して、仮想の延長線を引き、仮想の延長線が交差して、閉曲線を形成すれば、閉曲線を描き得る湾曲部とみなす。例えば、図3に示すような、ヘアピン状の湾曲部も閉曲線を描き得るものとみなすことができる。いずれの場合も、仮想の延長線は、湾曲部R1の任意の点の接線方向に延びるものである。
【0021】
図1〜図3に示す立体捲縮は、丸みを強く帯びていて(即ち、強くカールしていて)肌に良好な触感を与える。また、このような立体捲縮を有すると、繊維の端部が、不織布表面から外側に向かって突出しにくい。一方、閉曲線を描かない立体捲縮は、投影が、例えば、図5に示すようなものである。図示する立体捲縮の投影は、湾曲のいずれの点の接線方向に仮想の延長線を引いても、閉曲線が形成されない。このような立体捲縮は、丸みの度合い(カールの強さが)小さいために、図1〜図3に示すものと比較して、良好な触感を与えにくい。
【0022】
投影が閉曲線を描き得る立体捲縮は、全立体捲縮の少なくとも一部を占めていることが好ましい。具体的には、そのような立体捲縮を少なくとも1つ有する立体捲縮繊維が、不織布の10質量%以上を占めていることが好ましく、30質量%以上を占めていることがより好ましい。特に、シート表面において上記立体捲縮繊維を10質量%以上含むことがより好ましい。
【0023】
立体捲縮は、好ましくは、立体捲縮を、例えば加熱により発現する、潜在捲縮性繊維の潜在捲縮が発現したことにより、形成されたものであることが好ましい。潜在捲縮性繊維それ自体は当該分野において既に公知である。本発明においては、公知の潜在捲縮性繊維から1種または複数種を選択し、選択した潜在捲縮性繊維で皮膚被覆シートの一部または全部を構成するようにする。潜在捲縮性繊維は、例えば、融点の異なる2つの樹脂成分から成り、断面構造が並列型断面または偏心芯鞘型断面である複合繊維である。樹脂成分の組み合わせとして、例えば、ポリエチレンテレフタレート/変性ポリエステル、ポリプロピレン/エチレン−プロピレン共重合体、ポリプロピレン/線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、およびポリエステル/ポリアミドが挙げられる。
【0024】
潜在捲縮性繊維は、構成樹脂および断面形態に応じて、所定の寸法および数の立体捲縮を発現する性質(捲縮能)を有する。捲縮能は、皮膚被覆シートの適用部位等に応じて適宜選択される。本発明において、立体捲縮繊維となる潜在捲縮性繊維は、自由な状態で捲縮を発現させたときに、JIS 1015に準じて測定される捲縮数が1インチあたり25個以上、好ましくは30個以上となる立体捲縮を発現する捲縮能を有することが好ましく、例えば、170℃で、自由な状態で加熱したときに、90個〜100個の立体捲縮を発現するものである。
【0025】
潜在捲縮性繊維の繊度は、皮膚被覆シートの適用部位等に応じて適宜選択される。一般に、繊度が小さいほど、シートの触感はより良好となる。一般的に、潜在捲縮性繊維の繊度は、0.5〜4.4dtex程度とすることが好ましく、0.9〜3.3dtexとすることがより好ましく、0.9〜2.5dtexとすることがさらにより好ましい。本発明においては、繊度の異なる潜在捲縮性繊維を2種以上使用してもよい。
【0026】
潜在捲縮性繊維は、繊維同士を、後述するように水流交絡処理またはニードルパンチ処理により交絡させる場合には、繊維長が10〜150mmのステープル繊維であることが好ましい。ステープル繊維の繊維長は、より好ましくは20〜120mmであり、さらにより好ましくは30〜100mmである。ステープル繊維の繊維長が10mm未満であると、繊維の脱落が多くなり、また、工程性も劣る。ステープル繊維の繊維長が200mmを越えると、ニードルパンチ処理または水流交絡処理による交絡性が低下する。また、繊維長が200mmを越えると、工程性が低下する傾向にある。
【0027】
本発明の皮膚被覆シートにおいて、立体捲縮を有する立体捲縮繊維は、25質量%以上含まれることが好ましく、35質量%以上含まれることがより好ましく、50質量%以上含まれることがさらにより好ましい。また、シート表面において立体捲縮繊維は、50質量%以上含まれることが好ましく、80質量%以上含まれることがより好ましい。立体捲縮繊維の割合が25質量%未満であると、立体捲縮がシート表面に存在する数が少なくなり、良好な触感が得られない。また、立体捲縮繊維の割合が少ないと、シートの弾力性が小さくなり、厚さ方向のクッション性が低下することがある。立体捲縮を有する立体捲縮繊維が、潜在捲縮性繊維の捲縮の発現により得られる場合には、ここに挙げた好ましい割合は、捲縮を発現させる前の潜在捲縮性繊維が、繊維ウェブまたはシート(例えば不織布)中に占める好ましい割合に等しい。
【0028】
本発明の皮膚被覆シートは、立体捲縮繊維以外の繊維を含んでよい。例えば、シートの吸液性および/または保液性を高めるために、親水性繊維を含んでよい。親水性繊維としては、パルプ、コットン、麻、シルク、およびウールなどの天然繊維、ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン、および溶剤紡糸セルロース繊維などの再生繊維、ならびに合成繊維に親水化処理を施したもの等を挙げることができる。
【0029】
後述のように、水流交絡処理により繊維同士を交絡させる場合には、親水性繊維は、交絡性の点から、ビスコースレーヨンまたはパルプであることが好ましい。ビスコースレーヨンは、ステープル繊維の形態で使用することが可能であり、したがって不織布の使用中に脱落繊維を少なくできることから、特に好ましく用いられる。
【0030】
あるいは、立体捲縮繊維以外の繊維は、合成繊維であってよい。合成繊維は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン−1およびエチレン−プロピレン共重合体のようなポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートのようなポリエステル樹脂、ナイロン6およびナイロン66のようなポリアミド樹脂から選択される、1又は複数の樹脂を用いて構成された、単一繊維または複合繊維であってよい。
【0031】
親水性繊維または合成繊維を使用する場合、その繊度は、例えば、0.5〜6.6dtexであることが好ましい。また、その繊維長は、繊維同士をニードルパンチ処理または水流交絡処理により交絡させる場合には、好ましくは10〜150mmであり、より好ましくは20〜120mmであり、さらにより好ましくは30〜100mmである。
【0032】
本発明の皮膚被覆シートは、立体捲縮繊維のみ又はこれと他の繊維とから成る、単層構造のシートであってよく、あるいは、立体捲縮繊維のみ又はこれと他の繊維とから成る層と、他の繊維から成る層との積層構造のシートであってよい。単層構造であると、シートの内部に立体捲縮を有する立体捲縮繊維が存在することとなり、シートの嵩高性が大きくなり、弾力性も高くなり、手で持ったときにしっかりとした感触を与え、また、クッション性が高い。
【0033】
本発明の皮膚被覆シートが積層構造である場合、シートは、立体捲縮繊維のみ又はこれと他の繊維とから成る層(以下、この層を「立体捲縮繊維層」とも呼ぶ)は、皮膚と接する面に配置される。積層構造の皮膚被覆シートは、立体捲縮繊維層と他の繊維層とから成る二層構造であってよく、または2つの立体捲縮繊維層の間に他の繊維層が位置する三層構造であってよい。他の繊維層は、親水性繊維を含む又は親水性繊維のみから成る繊維層であってよい。
【0034】
本発明の皮膚被覆シートは、単層構造及び積層構造のいずれであっても、繊維同士が交絡により一体化されて、シート形状を維持しているものである。繊維同士の交絡は、例えば、ニードルパンチ処理、または水流交絡処理によるものであってよく、好ましくは後者である。水流交絡処理により繊維同士を交絡したシートは、緻密であり、また、その表面がより平坦であって、滑らかであることによる。
【0035】
本発明の皮膚被覆シートは、全体として、好ましくは30〜250g/mの目付を有し、より好ましくは40〜120g/mの目付を有する。目付が小さすぎると、含浸させ得る液体の絶対量が少なくなり、また、手で持ったときの感じがしっかりとしたものにならない。また、目付が小さいと、弾力性(特に、厚さ方向のクッション性)が小さくなることに起因して、皮膚にあてたときに良好な着け心地を得られないことがある。また、目付が小さいと、シート製造工程性が低下する、および/または地合いが低下する傾向にある。目付が大きすぎると、厚くなりすぎて、取り扱いにくくなり、また、コスト高となる。
【0036】
本発明の皮膚被覆シートが、積層構造を有する場合、全体の目付が上記範囲内にあり、かつ立体捲縮繊維層の目付が10〜150g/mであり、他の繊維層の目付が10〜150g/mであることが好ましい。積層構造において、立体捲縮繊維層の目付が小さいと、シートの弾力性(特に、厚さ方向のクッション性)が小さくなって、良好な触感を得られないことがある。立体捲縮層の目付が大きすぎると、他の繊維層を設けることによる機能(例えば、親水性繊維の層を設ける場合の化粧料保持機能)を十分に得られないことがある。
【0037】
次に、本発明の皮膚被覆シートの製造方法の一例を説明する。本発明の皮膚被覆シートは、
1)潜在捲縮性繊維を含む繊維ウェブを、繊維交絡処理に付すこと、
2)繊維交絡処理後の繊維ウェブを加熱して、立体捲縮を発現させて、不織布を得ること、および
3)当該不織布に、化粧料を含浸させること
を含む、製造方法によって製造できる。
【0038】
潜在捲縮性繊維を含む繊維ウェブの形態は特に限定されない。例えば、繊維ウェブは、パラレルウェブ、クロスウェブ、クリスクロスウェブ、セミランダムウェブおよびランダムウェブ等のカードウェブ、エアレイウェブ、湿式抄紙ウェブ、ならびにスパンボンドウェブ等から選択されるいずれの形態であってもよい。繊維ウェブは、繊維同士を水流交絡処理により交絡させる場合には、交絡性を考慮すると、カードウェブであることが好ましい。また、繊維ウェブは、繊維同士をニードルパンチ処理により交絡させる場合には、目付と得られる不織布の縦横の物性のバランスを考慮すると、クロスウェブまたはクリスクロスウェブであることが好ましい。
【0039】
次に、繊維ウェブは、交絡処理に付される。本発明の皮膚被覆シートの製造において、交絡処理は水流交絡処理であることが好ましい。水流交絡処理によれば、繊維同士が緻密に交絡し、均一で表面の平坦なシートを得ることができるからである。
【0040】
水流交絡処理は、支持体に積層体を載せて、柱状水流を噴射することにより実施する。支持体は、不織布表面が平坦となり、かつ凹凸を有しないように、1つあたりの開孔面積が0.2mmを超える開孔を有さず、また、突起またはパターンが形成されていないものであることが好ましい。例えば、支持体は、80〜100メッシュの平織の支持体であることが好ましい。
【0041】
水流交絡処理は、孔径0.05mm以上0.5mm以下のオリフィスが0.3mm以上1.5mm以下の間隔で設けられたノズルから、水圧1MPa以上15MPa以下の水流を、積層体の表裏面にそれぞれ1〜5回ずつ噴射することにより実施してよい。水圧は、好ましくは、1MPa以上10MPa以下であり、より好ましくは、1MPa以上7MPa以下である。
【0042】
水流交絡法に代えて又はそれとともに、ニードルパンチ法を交絡処理方法として採用してよい。ニードルパンチ法を用いると、より嵩高な不織布を得ることができる。ニードルパンチ処理は、通常のニードルパンチ機を用いて実施することができる。ニードルパンチ処理は、例えば、36〜42番手の針を用いて、針深度を3〜20mmとし、30〜500本/cm2の密度で打ち込みをして実施するとよい。
【0043】
次に、交絡処理後の繊維ウェブを熱処理して、潜在捲縮性繊維において立体捲縮を発現させる。熱処理は、捲縮が十分に発現するように、機械方向(MD方向)において、繊維ウェブ(または不織布)をオーバーフィード(過供給)して実施することが好ましい。即ち、熱処理機へ送り出すウェブ(または不織布)の速度よりも、熱処理機のウェブの搬送速度を小さく設定することが好ましい。具体的には、下記の式で表されるオーバーフィード率を、30〜200%に設定することが好ましい。
【数1】

【0044】
熱処理はまた、横方向(CD方向)の寸法を制御して、実施してよい。例えば、熱処理は、潜在捲縮繊維において捲縮が十分に発現するように、横方向に繊維ウェブが収縮することを確保するように、実施してよい。具体的には、繊維ウェブを、熱風を吹き付ける方法で熱処理する場合には、熱処理によって繊維ウェブの横方向の寸法が小さくなったときに、張力が過度に加わらないように、ピンテンターを使用して、熱処理機を通過している間に、ウェブの横方向の寸法を漸減させてよい。
【0045】
熱処理温度および熱処理時間は、立体捲縮が発現するように、潜在捲縮性繊維を構成する樹脂に応じて選択される。例えば、潜在捲縮性繊維が、ポリエチレンテレフタレート/変性ポリエステル(融点170℃以上)の組み合わせから成る複合繊維である場合、熱処理温度は120〜145℃であることが好ましく、熱処理時間は10〜60秒であることが好ましい。
【0046】
熱処理は、好ましくは熱風吹き付け法(エアースルー法)により実施される。この方法によれば、立体捲縮がつぶれにくい。熱処理は、熱ロールを用いる方法によって実施してもよい。
【0047】
交絡処理が水流交絡処理である場合には、立体捲縮を発現させるための熱処理の前に、水分を除去する、または少なくするための熱処理を先に実施してよい。そのような熱処理は、熱処理温度を50〜100℃程度として、例えば、ドラム型乾燥機を用いて実施される。
【0048】
捲縮を発現させた後、必要に応じて、フラットロールまたはフラットプレス板で、不織布にプレス加工を施してよい。それにより、表面がより平坦であり、滑らかな触感を有するシートを得ることができる。プレス加工は、発現した立体捲縮がつぶれないような圧力および温度を選択して実施する。例えば、潜在捲縮性繊維が、ポリエチレンテレフタレート/変性ポリエステル(融点170℃以上)の組み合わせから成る複合繊維である場合、プレス温度は50〜100℃、プレス圧力は0より大きく、10MPa以下程度とすることが好ましい。
【0049】
このようにして得た不織布に、通常液体である化粧料を含浸させて、本発明の皮膚被覆シートを得る。化粧料は、通常の方法でシートに含浸させることができ、例えば、ディッピング法、またはダイコータもしくはリバースコータを用いた塗布含浸法等により含浸させることができる。
【0050】
皮膚被覆シートは、化粧料含浸前の不織布100質量部に対して、液体の化粧料が100質量部以上1500質量部以下、好ましくは400質量部以上700質量部以下の範囲で含浸されてなる。化粧料の量をこの範囲とすることによって、十分量の有効成分を皮膚に供給するとともに、液だれ等の使用時の不便を回避することができる。最適な化粧料の量は、被覆シートの性質、特に吸水性によって適宜決定する。好ましい態様においては、設定された使用時間中、被覆シートの飽和量以上の化粧料が存在するように、化粧料の量が調整される。
【0051】
化粧料は、有効成分として、例えば、保湿成分、クレンジング成分、制汗成分、香り成分、美白成分、血行促進成分、紫外線防止成分、または痩身成分等を含むことが好ましい。化粧料の有効成分は、これらに限定されず、皮膚に対して特定の作用を奏することが期待される任意の成分を含んでよい。
【0052】
本発明の皮膚被覆シートは、好ましくは、人の顔を被覆するフェイスマスクである。フェイスマスクは、化粧料を含浸させる前の不織布を、顔を被覆するのに適した形状に加工して作製される。フェイスマスクには、例えば、目、鼻および口に相当する部分に、必要に応じて打ち抜き部又は切り込み部が設けられる。あるいは、フェイスマスクは、顔の一部分(例えば、目元、口元、鼻または頬)のみを覆う形状のものとして提供してよい。あるいはまた、フェイスマスクは、2またはそれよりも多い部分を別々に覆うシートのセットとして提供してよい。そのような2以上のシートから成るセットは、顔全体をシートで被覆する作業を容易にする。
【0053】
本発明の皮膚被覆シートは、顔以外の部位を覆うために使用してよい。例えば、保湿成分を含む液体化粧料を含浸させた本発明の皮膚被覆シートを、首、肘または踵に貼付して使用してよい。あるいは、痩身成分を含む液体化粧料を含浸させた本発明の皮膚被覆シートを、腹部または大腿部に貼付して使用してよい。
【0054】
本発明の皮膚被覆シートは、立体捲縮を有する立体捲縮繊維を含むために、良好な触感を有するとともに、嵩高であり、手で持ったときにしっかりとした感じ(手持ち感)およびボリューム感を与える。また、立体捲縮がスプリングの役割をして、シートに適度な弾力性を与えるので、本発明の皮膚被覆シートは、厚さ方向で良好なクッション性を有し、回復応力(シートが厚さ方向に圧縮した後、回復するときに生じる応力)が高い。そのような皮膚被覆シートは、シートを手で押し付けながら皮膚に当てた後、手を離すと、回復し易いので、皮膚にまとわりつくような重い装着感を与えにくいと考えられる。
【0055】
本発明の皮膚被覆シートが有する特長である、手持ち感およびボリューム感は、化粧料を含浸させる前の不織布の厚み、密度、圧縮応力、回復応力を測定することで推定することができる。本発明の皮膚被覆シートは、変位が8mmのとき応力が4N以下となるような、圧縮応力を有することが好ましい。また、本発明の皮膚被覆シートは、変位が8mmのとき、応力が好ましくは1.2N以上であり、より好ましくは2N以上であるような、回復応力を有することが好ましい。化粧料を含浸させる前の不織布の圧縮応力および回復応力のいずれもがこの数値範囲内にあることにより、良好な手持ち感がもたらされるといえる。
【0056】
本発明の皮膚被覆シートにおける立体捲縮が、潜在捲縮性繊維の捲縮が発現して形成されたものであるときには、シートは、その製造過程において緻密化されることとなる。そのため、得られる皮膚被覆シートは、均一で粗密が少なく、そのことによっても、良好な触感が確保される。また、繊維の捲縮発現の過程において、繊維が機械方向および横方向の両方の方向で収縮するため、シートにおいて、繊維の配列が、比較的均一になる(即ち、繊維の配向の一方向への偏りが小さい)。繊維の配列が均一であると、皮膚被覆シートは、方向の違いによる、柔らかさの差が小さく、凹凸を有する顔面に特にフィットさせやすいものとなる。
【0057】
この特長、即ち、立体捲縮繊維で構成されているために、繊維が均一に配列しており、シートが柔らかく、肌にフィットしやすいという特長は、化粧料を含浸させる前の不織布のハンドルオメータ値によって、表される。本発明の皮膚被覆シートにおいて、ハンドルオメータ値は、縦方向(機械方向)については、2〜15g、横方向については、2〜10gであることが好ましい。より好ましいハンドルオメータの値は、縦方向については、3〜10gであり、横方向については、2〜9gであることが好ましい。また、縦方向/横方向の比率(縦横比)は、0.5〜2であることが好ましい。化粧料を含浸させる前の不織布のハンドルオメータの値がこの数値範囲内にあることにより、本発明の不織布において、優れた柔軟性が確保され、また、縦横のバランスが良いので、肌へのフィット性が高いといえる。
【実施例】
【0058】
本発明の皮膚被覆シートを、実施例によって、詳細に説明する。化粧料を含浸させる前の不織布の厚さ、引張強さ、引張伸度、10%および50%応力、圧縮応力および回復応力、ならびに剛軟度は、下記のようにして測定または評価した。
【0059】
[厚さ]
厚み測定機(商品名:THICKNESS GAUGE モデルCR−60A (株)大栄科学精器製作所製)を用い、試料1cmあたり2.94cNの荷重を加えた状態で測定した。
【0060】
[引張強さおよび引張伸度]
JIS L 1096 6.12.1 A法(ストリップ法)に準じて、定速緊張形引張試験機を用いて、試料片の幅5cm、つかみ間隔10cm、引張速度30±2cm/分の条件で引張試験に付し、切断時の荷重値および伸長率を測定し、それぞれ引張強度および引張伸度とした。引張試験は、シートの機械方向(MD方向)および横方向(CD方向)のそれぞれについて実施した。
【0061】
[圧縮応力および回復応力]
試料を、機械方向および横方向の寸法が10cm×10cmとなるように、正方形にカットした。カットした試料を、厚さが20mmになるまで重ねた。押し付け面が円形の治具を、定速緊張形引張試験機のヘッドに取り付け、重ねた試料のセンター部に接触させた。それから、ヘッドスピード20mm/分の速度で、10mm迄降下させた。その際、ヘッドが1mm降下するごとに(即ち、圧縮量1mmごとに)、試料の圧縮応力を測定した。それから、ヘッドスピードを20mm/分の速度で上昇させて、試料の回復応力を測定した。図6に治具の側面を模式的に示す。治具は、円錐台形部を有する円柱形状であり、押し付け面の直径rが7mm、高さhが60mm、全体の直径sが8mm、円錐台形の高さtが1mmのものであった。
【0062】
[剛軟度]
ハンドルオメータ(型式HOM−200 (株)大栄科学精器製作所製)を用いて、測定した。より具体的には、機械方向×横方向が20cm×17.5cmである試験片を、幅10mmのスリット上にスリットと直角になるようにセットし、試験片の辺から6.7cm(試験幅の1/3)の位置をペネトレーターのブレードにて8mm押しこみ、このときの抵抗値を剛軟度として評価した。剛軟度は、1つの試料につき、機械方向および横方向について測定した。下記表1に示す、剛軟度は、表および裏それぞれについて測定した剛軟度の平均値である。
【0063】
[試料1]
潜在捲縮性繊維として、芯/鞘がポリエチレンテレフタレート(融点250℃)/変性ポリエステル(融点230℃)である偏心芯鞘型複合繊維(商品名T−81、ユニチカ(株)製)を用意した。本実施例では、繊度2.2dtex、繊維長44mmのものを使用した。この潜在捲縮性繊維は、170℃にて、15分間、自由な状態で熱処理したときに、投影が図1〜図3に示すようなものである、90〜100個の立体捲縮を発現するものであった。
【0064】
この潜在捲縮性繊維のみを使用し、セミランダムカード機を用いて、目付40g/mのセミランダムカードウェブを作製した。次いで、このウェブの一方の面に、孔径0.13mmのオリフィスが1.0mm間隔で設けられたノズルを用いて、水圧2.5MPaの柱状水流を2回噴射し、その後、他方の面に孔径0.13mmのオリフィスが1.0mm間隔で設けられたノズルを用いて、水圧2.5MPaの柱状水流を2回噴射して、繊維同士を交絡させた。それから、60℃に設定したドラム乾燥機を用いて、繊維ウェブを乾燥させた。
【0065】
次に、水流交絡後の繊維ウェブを、エアスルー熱処理機を用いて熱処理した。熱処理の間、繊維ウェブはピンテンターを用いて搬送し、熱処理機の入口での幅に対して、熱処理後の出口での幅が約87%となるようにした。熱処理温度は、140℃、熱処理時間は30秒とした。オーバーフィード率は85.4%とした。この熱処理により、潜在捲縮性繊維の立体捲縮を発現させて、皮膚被覆シート用の不織布を得た。得られた不織布の目付は、80.9g/mであり、熱処理により、面積が約50%収縮した。
【0066】
[試料2]
コットンのみを使用して目付約58g/mのセミランダムカードウェブを作製した。次いで、このウェブの一方の面に、孔径0.13mmのオリフィスが1.0mm間隔で設けられたノズルを用いて、水圧3MPaの柱状水流を2回噴射し、その後、他方の面に孔径0.13mmのオリフィスが1.0mm間隔で設けられたノズルを用いて、水圧3MPaの柱状水流を2回噴射して、繊維同士を交絡させた。それから、140℃に設定したドラム乾燥機を用いて、繊維ウェブを乾燥させて、皮膚被覆シート用の不織布を得た。
【0067】
[試料3]
試料1の作製に使用した潜在捲縮性繊維を用いて、目付45g/mのセミランダムカードウェブを作製したことを除いては、試料1を作製するときに採用した手順と同様の手順で不織布を作製した。得られた不織布は、熱処理後の目付が88.0g/mとなっており、熱処理により、面積が49%収縮した。
【0068】
[試料4]
試料1の作製に使用した潜在捲縮性繊維を用いて、目付50g/mのセミランダムカードウェブを作製したことを除いては、試料1を作製するときに採用した手順と同様の手順で不織布を作製した。得られた不織布は、熱処理後の目付が99.0g/mとなっており、熱処理により、面積が49%収縮した。
【0069】
[試料5]
潜在捲縮性繊維として、芯/鞘がポリプロピレン(融点165℃)/エチレン−プロピレン共重合体(融点140℃,エチレン含有量3質量%)である偏心芯鞘型複合繊維(商品名CPP、ダイワボウポリテック(株)製)を用意した。本実施例では、繊度2.2dtex、繊維長51mmのものを使用した。この潜在捲縮性繊維は、170℃にて、15分間、自由な状態で熱処理したときに、投影が図1〜図3に示すようなものである、90〜100個の立体捲縮を発現するものであった。
【0070】
この潜在捲縮性繊維80質量%と、ポリプロピレン繊維20質量%を混合して、セミランダムカード機を用いて、目付約70g/mのセミランダムカードウェブを作製した。これを、ニードルパンチ処理に付して、皮膚被覆シート用の不織布を作製した。ニードルパンチ処理は、40番手の針を用いて、針深度を5mmとし、100本/cmの密度で実施した。次いで、エアスルー熱処理機を用いて熱処理した。熱処理の間、繊維ウェブはピンテンターを用いて搬送し、熱処理機の入口での幅に対して、熱処理後の出口での幅が約10%となるようにした。この熱処理により、潜在捲縮性繊維の立体捲縮を発現させて、皮膚被覆シート用の不織布を得た。得られた不織布の目付は、100.2g/mであった。
【0071】
[試料6]
試料1の作製に使用した潜在捲縮性繊維と、繊度2.2dtex、繊維長51mmのポリエチレンテレフタレート/高密度ポリエチレンの組み合わせから成る、8分割型複合繊維とを使用した。両者の混合比(質量比)を85:15(潜在捲縮性繊維:分割型複合繊維)として、目付約20g/mのパラレルカードウェブを第1繊維ウェブとして2枚作製した。親水性繊維として、繊度1.7dtex、繊維長40mmのレーヨン(商品名コロナ、ダイワボウレーヨン(株)製)を用意した。このレーヨンのみを用いて、目付約30g/mのパラレルカードウェブを第2繊維ウェブとして作製した。
【0072】
第2繊維ウェブの両面に第1繊維ウェブを配置して、三層構造の積層体を形成し、これに水流交絡処理を施した。水流交絡処理は、孔径0.1mmのオリフィスが0.6mm間隔で設けられたノズルを用いて、積層体の一方の面に水圧3MPaの柱状水流を1回噴射し、他方の面に水圧3MPaの柱状水流を1回噴射して実施した。それにより、分割型複合繊維が分割された極細繊維が形成されるとともに、繊維同士が交絡した。
【0073】
次いで、積層体を、エアスルー熱処理機を用いて熱処理した。熱処理温度は、140℃、熱処理時間は12秒とした。熱処理により、潜在捲縮性繊維において立体捲縮を発現させるとともに、高密度ポリエチレンにより、繊維同士を熱接着させ、積層不織布を得た。
【0074】
[試料7]
試料1の作製に使用した潜在捲縮性繊維70質量%と、繊度1.7dtex、繊維長40mmのレーヨンを混合し、目付35g/mのパラレルカードウェブを作製した。次いで、このウェブの両面に、孔径0.1mmのオリフィスが0.6mm間隔で設けられたノズルを用いて、水圧2.5MPaの柱状水流を1回ずつ噴射して、繊維同士を交絡させた。
【0075】
次に、水流交絡後の繊維ウェブを、ピンテンター熱処理機を用いて熱処理した。熱処理の間、繊維ウェブはピンテンターを用いて搬送し、熱処理機の入口での幅に対して、熱処理後の出口での幅が約90%となるようにした。熱処理温度は、140℃、熱処理時間は12秒とした。オーバーフィード率は30%とした。この熱処理により、潜在捲縮性繊維の立体捲縮を発現させて、皮膚被覆シート用の不織布を得た。得られた不織布の目付は、55.0g/mであり、熱処理により、面積が36%収縮した。
【0076】
試料1〜7で得た不織布の目付、厚さ、引張強度、引張り伸度、および試料1〜2で得た不織布の剛軟度を表1に示し、試料1〜2で得た不織布の圧縮応力および回復応力を表2に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【0079】
試料1、3〜7は、試料2と比較して少なくとも10%応力が、タテ方向(機械方向)およびヨコ方向とも小さく、また、50%応力(特にタテ方向)も概して小さく、僅かな力で変形しやすく、柔軟であった。また、試料1は、試料2と比較して、剛軟度(試料1のみ)の差が、試料2よりもいずれも小さく、繊維の方向が、一方向に偏っていないと考えられた。試料1はまた、試料2と比較して、圧縮量が大きいとき(特に8mm、9mm)の回復応力が大きかった。このことは、試料1の厚さ方向の弾力性が大きく、クッション性が高いことを示している。
【0080】
さらに、試料1〜7の不織布を人の顔の形に合わせてカットし、市販の化粧料を、不織布100質量部に対して、500質量部含浸させて、フェイスマスクを作製した。作製したフェイスマスクをモニターに装着してもらったところ、試料1および試料3〜7についてはチクチク感がなく、良好な触感を有していると評価され、試料2については、チクチク感があると評価された。また、試料1は伸長応力が小さいため、引張り気味にして顔に装着するときに、試料2よりもスムーズに顔に装着させることができた。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の皮膚被覆シートは、顔に装着するためのフェイスマスク、ならびに首筋および大腿部に化粧料の有効成分を浸透させるためのシート等として、有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体捲縮を有する立体捲縮繊維を含む不織布と、
当該不織布に含浸された液体化粧料と
を含み、
不織布が単層構造であり、かつその目付が40〜120g/mであり、
不織布の少なくとも皮膚と接する側の表面に立体捲縮が存在しており、
少なくとも一部の立体捲縮は、その投影が、閉曲線を描き得る形状を有し、
液体化粧料が化粧料含浸前の不織布100質量部に対して400質量部以上1500質量部以下の量で含浸されており、
化粧料含浸前の不織布のハンドルオメータ値が縦方向について2〜15gであり、横方向について2〜10gであり、かつハンドルオメータ値の縦方向/横方向の比率が0.5〜2である、
化粧料含浸皮膚被覆シート。
【請求項2】
不織布の目付が40〜99g/mである、請求項1に記載の化粧料含浸皮膚被覆シート。
【請求項3】
厚さが0.99mm以下である、請求項1または2に記載の化粧料含浸皮膚被覆シート。
【請求項4】
立体捲縮繊維を、25質量%以上含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の化粧料含浸皮膚被覆シート。
【請求項5】
立体捲縮が潜在捲縮性繊維において捲縮が発現したことにより形成されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の化粧料含浸皮膚被覆シート。
【請求項6】
潜在捲縮性繊維が自由な状態で捲縮を発現させたときに、捲縮数が1インチあたり25個以上である捲縮能を有する、請求項5に記載の化粧料含浸皮膚被覆シート。
【請求項7】
化粧料を含浸させる前の不織布の圧縮応力が、変位が8mmのとき、4N以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の化粧料含浸皮膚被覆シート。
【請求項8】
化粧料を含浸させる前の不織布の回復応力が、変位が8mmのとき、1.2以上である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の化粧料含浸皮膚被覆シート。
【請求項9】
顔の一部または全部を覆う形状を有するフェイスマスクである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の化粧料含浸皮膚被覆シート。
【請求項10】
請求項1に記載の化粧料含浸皮膚被覆シートを製造する方法であって、
1)潜在捲縮性繊維を含む繊維ウェブを、繊維交絡処理に付すこと、
2)繊維交絡処理後の繊維ウェブを加熱して、立体捲縮を発現させて、不織布を得ること、および
3)当該不織布に、液体化粧料を不織布100質量部に対して400質量部以上1500質量部以下の量で含浸させること
を含み、
繊維交絡処理が、水流交絡処理、または36〜42番手の針を用いて、針深度を3〜20mmとし、30〜500本/cmの密度で打ち込みをする、ニードルパンチ処理である、
化粧料含浸皮膚被覆シートの製造方法。
【請求項11】
2)における熱処理が、繊維ウェブを、30〜200%のオーバーフィード率でオーバーフィードしながら熱処理機に送り出すことを含む、請求項10に記載の化粧料含浸皮膚被覆シートの製造方法。
【請求項12】
2)の後に、フラットロールまたはフラットプレス板で、プレス加工を施すことを含む、請求項10または11に記載の化粧料含浸皮膚被覆シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−32382(P2013−32382A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−234838(P2012−234838)
【出願日】平成24年10月24日(2012.10.24)
【分割の表示】特願2007−130690(P2007−130690)の分割
【原出願日】平成19年5月16日(2007.5.16)
【出願人】(000002923)ダイワボウホールディングス株式会社 (173)
【出願人】(300049578)ダイワボウポリテック株式会社 (120)
【Fターム(参考)】