説明

化粧料用二酸化チタン顔料及びその製造方法

【課題】化粧料に配合して用いると、形状及び表面状態に由来したマイルドな隠蔽性と良好な感触をもち、肌から分泌される皮脂を適度に吸収して肌への密着性が持続する球状アナタース型二酸化チタン顔料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】硫酸チタニルを170℃以上の温度下、かつ、該温度の飽和蒸気圧以上の圧力下で加水分解して球状含水二酸化チタンを得、次いで、該球状含水二酸化チタンを600〜800℃の温度で焼成することにより、球状アナタース型二酸化チタンを得る。得られた球状アナタース型二酸化チタンは、平均粒子径が0.1〜5μmであって、窒素吸着法で測定した細孔分布における細孔直径のピークが5〜50nmにあり、しかも、細孔容積が0.05〜0.3cm/gの範囲である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化チタン白色顔料に関する。さらに詳しくは、配合した化粧料に対して、マイルドで自然な隠蔽性と塗布時の伸び、感触性及び塗布後の化粧効果の持続性を与える二酸化チタン白色顔料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ファンデーション、コンシーラー、白粉、頬紅、アイシャドー、アイブロウ、口紅等のメークアップ化粧料においては、塗布時に肌上での伸展性に優れること、感触が良好であること、肌への密着性が良好で、塗布後に自然な仕上がりとなって、それが持続し化粧崩れの少ないこと等が要求されている。しかしながら、従来の二酸化チタン白色顔料は0.2〜0.3μmの不定形粒子であり、塗料やプラスチック中では高い隠蔽性を発揮するが、化粧料中では凝集力が強く、塗布時に伸展性を阻害し、白浮きして仕上がりが不自然となる傾向があった。
【0003】
そこで、このような問題に対し、例えば、塗布時に肌上での伸展性に優れた効果のある酸化チタン白色顔料として、特許文献1には、0.5〜2.0μmの一次粒径を有する粒子状二酸化チタンが開示されている。また、例えば、化粧料に配合した際に優れたすべり性を有する二酸化チタンとして、特許文献2には、平均一次粒子径が0.01〜0.07μmの二酸化チタンの小球状粒子から形成される0.1〜3μmの球状二酸化チタン集合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2004/052786公報
【特許文献2】特開2000−191325公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記の特許文献1に記載の二酸化チタンは、一次粒径が0.5〜2.0μmと大きいために凝集力が弱く、塗布時の伸展性や仕上がりが改善されるが、粒子表面が平滑であるために、化粧料中の油性成分や肌から分泌される皮脂によるべたつきや、肌からの脱離、いわゆる化粧崩れ等の問題を解決できるものではない。また、特許文献2に記載の球状二酸化チタン集合体は、粒子サイズが大きいことによる肌上での伸展性の改善の他、小球状粒子の隙間への油性成分の浸透によるベタツキ改善が期待できるものの、隙間の大きさが制御されておらず効果が不十分であったり、化粧料の機能を損なうほど油分を吸収したり、また、集合体が壊れて単独の小球状粒子となったものが伸展性や隠蔽性の効果を阻害したりする恐れのあるものであった。
【0006】
つまり、これまでに改良されてきた二酸化チタン白色顔料は、塗布時の伸び、感触性には優れているものの、化粧料の高機能化、多様化のニーズに対して必ずしも満足のいくものではなく、塗布時の密着性や塗布後の仕上がり及びそれらの効果の持続性の改良が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者らは、かかる課題を解決するため、鋭意研究の結果、窒素吸着法で測定した細孔分布のピークが5〜50nmにあり、しかも、細孔容積が0.05〜0.3cm/gの範囲であり、平均粒子径が0.1〜5μmの球状アナタース型二酸化チタンを化粧料に配合したときに、塗布時の伸展性、感触、密着性、及び塗布後の自然な仕上がりや効果の持続性が大きく改善されることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
また、前記の球状アナタース型二酸化チタンは、従来既知の加水分解方法、即ち、硫酸チタニルを170℃以上の温度下、かつ、該温度の飽和蒸気圧以上の圧力下で加水分解する方法で球状含水二酸化チタンを得、次いで、600〜800℃の温度で焼成したり、前記の球状含水二酸化チタンを塩酸中に浸漬した後に400〜600℃の温度で焼成したりして製造できること等を見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)平均粒子径が0.1〜5μmの球状アナタース型二酸化チタンであって、窒素吸着法で測定した細孔分布における細孔直径のピークが5〜50nmにあり、しかも、細孔容積が0.05〜0.3cm/gの範囲である化粧料用二酸化チタン顔料、
(2)硫酸チタニルを170℃以上の温度下、かつ、該温度の飽和蒸気圧以上の圧力下で加水分解して球状含水二酸化チタンを得、次いで、該球状含水二酸化チタンを600〜800℃の温度で焼成する前記(1)の化粧料用二酸化チタン顔料の製造方法、
(3)硫酸チタニルを170℃以上の温度下、かつ、該温度の飽和蒸気圧以上の圧力下で加水分解して球状含水二酸化チタンを得、次いで、該球状含水二酸化チタンを塩酸中に浸漬した後に400〜600℃の温度で焼成する前記(1)の化粧料用二酸化チタン顔料の製造方法、等である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、窒素吸着法で測定した細孔分布における細孔直径のピーク、細孔容積が特定の範囲であり、しかも、特定の平均粒子径を有する球状アナタース型二酸化チタン顔料であって、化粧料に配合して用いると、形状及び表面状態に由来したマイルドな隠蔽性と良好な感触をもち、肌から分泌される皮脂を適度に吸収して肌への密着性が持続することから、様々な化粧料の顔料として使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の二酸化チタン顔料は、化粧料に配合して用いられるものであって、アナタース型結晶を有する。また、球状の粒子形状を有し、その平均粒子径は0.1〜5μmであり、好ましくは0.1〜1μm、より好ましくは0.3〜0.5μmである。平均粒子径が5μmより大きいと、粒子の粒度分布幅が広くなり、形状係数が小さくなるため望ましくなく、0.1μmより小さいと各粒子が凝集して不定形になりやすく、形状係数が小さくなるため望ましくない。また、球状形状は電子顕微鏡写真で観察して大まかに略球状であればよいが、その形状係数は0.7〜1.0が好ましく、0.9〜1.0である真球状がより好ましい。形状係数が前記範囲より小さいと粒子形状が真球状とはいいがたく望ましいものではない。
【0012】
本発明において、二酸化チタン顔料の結晶形はX線回折で確認し、粒子形状は電子顕微鏡写真で確認する。また、本発明において、平均粒子径、形状係数は次のようにして具体的に求める。まず、得られた二酸化チタン顔料の透過型電子顕微鏡写真(倍率20000倍)を、ニレコ社製画像解析装置で画像解析し、粒子約100個のそれぞれの面積と最大粒子径(L)を測定する。次に、得られた粒子の面積の値を基に、該粒子を真円と仮定した場合の直径(D)を求める。この直径(D)の個数平均値を粒子の平均粒子径(MD)とする。また、前記の直径(D)と最大粒子径(L)の比(D/L)の平均値を粒子の形状係数とする。
【0013】
本発明の二酸化チタン顔料は、多孔性状を有し、直径5〜50nmの範囲のメソ細孔を持ち、具体的には、5〜50nmの範囲に窒素吸着法で測定した細孔分布における細孔直径のピークを有する。しかも、その細孔容積は0.05〜0.3cm/gの範囲である。このような多孔性状を有することにより、化粧料に配合して使用した際に、粒子が肌に適度な強さで付着することで均一で滑らかな仕上がりとなり、また、適度な油分を吸収してベタツキや化粧崩れが改善される等、優れた効果を有する。
【0014】
細孔直径のピークは10〜30nmの範囲にあることが好ましく、その細孔容積は0.05〜0.15cm/gの範囲がより好ましい。細孔直径や細孔容積が小さすぎると、即ち粒子表面は滑らかとなり、肌への付着力が弱くなり、化粧ムラができる等して白浮きの原因となる他、油分の吸収がなくなって、ベタツキや化粧崩れ改善効果を発揮しなくなる。一方、細孔直径や細孔容積が大きすぎると、化粧料の機能として必要な油分を多量に吸収してしまい、化粧料の機能を損なったり増粘を引き起こしたりするほか、粒子表面が粗く塗布時の感触が悪くなる。
【0015】
この細孔直径のピーク、細孔容積は、窒素吸着法(BET法)で比表面積を測定するとともに、測定された吸着等温線からBJH解析によりメソ細孔の分布、直径のピーク、容積等を算出する。窒素吸着法(BET法)で測定した比表面積は、10〜100m/g程度が好ましく、10〜70m/g程度がより好ましい。
【0016】
なお、本発明のアナタース型二酸化チタン顔料は、従来の二酸化チタン顔料と同程度の白色を有しているが、鉄、銅、セリウム、バナジウム、アンチモン、クロム、タングステン、マンガン、コバルト等の金属の化合物を含有してもよく、この場合、種々の色相を有する。特に、酸化鉄等の鉄化合物を含有する場合には、化粧料には好ましいベェージュ色となる。また、二酸化チタン顔料の粒子内部に、アルミニウム、亜鉛、リン、鉄等の金属の化合物を含有してもよく、この場合、二酸化チタン特有の酸化活性や光活性が抑制されるので、好ましい。
【0017】
本発明の二酸化チタン顔料の粒子表面には、ケイ素酸化物及び/又はアルミニウム酸化物が被覆されているのが好ましい。ケイ素酸化物、アルミニウム酸化物としては、例えば、ケイ素、アルミニウムの無水酸化物、含水酸化物、水和酸化物から選ばれる少なくとも1つの化合物等が挙げられ、その被覆の様態は、多孔質であっても、緻密であってもよく、適宜選択できる。また、それぞれを単独で被覆することも、これらを積層したり、混合して被覆する等して、組み合わせて用いることもできる。特に、二酸化チタンの粒子表面にケイ素酸化物を被覆した後、更にその表面にアルミニウム酸化物を被覆すると、より好ましい。
【0018】
これらの好ましい被覆量は、TiO換算の二酸化チタン粒子の重量基準に対し、ケイ素酸化物がSiO換算で0〜10重量%の範囲であり、アルミニウム酸化物がAl換算で1〜10重量%の範囲である。より好ましくは、それぞれの被覆量は、TiO換算の二酸化チタン粒子の重量基準に対し、2〜5重量%、1〜6重量%の範囲である。
【0019】
本発明では、ケイ素酸化物、アルミニウム酸化物に加え、更に、これら以外の無機化合物を被覆してもよい。無機化合物としては、例えば、ジルコニウム、スズ、チタン、アンチモン等の酸化物、水酸化物、リン酸塩等が挙げられる。
【0020】
また、本発明の二酸化チタン顔料の粒子表面には、シリコーン化合物及び/又はフッ素界面活性剤が被覆されているのが好ましい。シリコーン化合物としては、メチルハイドロジェンポリシロキサン、トリメチルシロキシケイ酸、フルオロアルキル・ポリオキシアルキレン共変性シリコーン等が挙げられる。また、フッ素界面活性剤としては、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルカルボン酸塩等が挙げられる。シリコーン化合物、フッ素界面活性剤の被覆量は、TiO換算の二酸化チタン粒子の重量基準に対し、0.1〜5重量%の範囲が好ましく、0.1〜2重量%の範囲が更に好ましい。
【0021】
本発明では、シリコーン化合物、フッ素界面活性剤に加え、更に、これら以外の有機化合物を被覆してもよい。有機化合物としては、例えば、ポリオール化合物(トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ジトリメチロールプロパン、トリメチロールプロパンエトキシレート、ペンタエリスリトール等)、アルカノールアミン化合物(モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン等)及びその誘導体(酢酸塩、シュウ塩、酒石酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩等)等が挙げられる。中でも、ポリオール化合物は、分散性を向上させる効果が高いので好ましく、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンであれば更に好ましい。シリコーン化合物、フッ素界面活性剤やその他の有機化合物は、ケイ素酸化物、アルミニウム酸化物等の無機化合物の被覆上に被覆するのがより好ましい。
【0022】
本発明の二酸化チタン顔料は、硫酸チタニルを170℃以上の温度下、かつ、該温度の飽和蒸気圧以上の圧力下で加水分解して球状含水二酸化チタンを得、次いで、該球状含水二酸化チタンを600〜800℃の温度で焼成して製造することができる。また別の方法として、前記の方法で加圧加水分解して得られた球状含水二酸化チタンを塩酸中に浸漬した後に400〜600℃の温度で焼成して製造することができる。以下、各工程について詳細を説明する。
【0023】
まず、硫酸チタニルを170℃以上の温度下、かつ、該温度の飽和蒸気圧以上の圧力下で加水分解して球状含水二酸化チタンを製造する。
【0024】
硫酸チタニルの溶液は、精製した硫酸チタニル溶液のほか、チタン鉱石を硫酸で浸出した硫酸鉄等の不純物を含む溶液、硫酸チタニルをアルカリで中和する等して得られたメタチタン酸または含水二酸化チタンを硫酸で溶解した溶液等である。
【0025】
この硫酸チタニルの溶液を耐圧容器に入れ、容器を密閉状態にした後、所定の温度に加熱し、加水分解する。硫酸チタニルの濃度はTiO2 基準に換算して0.05〜5mol/l程度、好ましくは0.5〜3mol/lである。また、必要に応じて、硫酸チタニルの濃度を調整する際、遊離硫酸の濃度を50〜800g/l程度、好ましくは150〜400g/lに調整してもよい。
【0026】
加水分解時の温度は、170℃以上、望ましくは180℃〜300℃の温度である。前記温度が170℃より低い場合、所望の大きさ、形を有する球状含水二酸化チタンが得られ難くなる。
【0027】
加水分解時の圧力は、前記温度の飽和蒸気圧程度または飽和蒸気圧以上の圧力、望ましくは前記温度の飽和蒸気圧より0〜10Kg/cm 程度高い圧力である。加水分解時の温度が300℃より高い場合や、加水分解時の圧力が飽和蒸気圧より大幅に高い場合、使用できる装置が限られるので好ましくない。
【0028】
加水分解の反応時間は0.5〜10時間が適当である。このように加水分解した後、適当な温度になるまで冷却し、分別し、必要に応じて、洗浄し、乾燥して球状含水二酸化チタンを得る。
【0029】
次いで、このようにして得られた球状含水二酸化チタンを、600〜800℃の温度で焼成して、平均粒子径が0.1〜5μmの球状アナタース型二酸化チタンであって、窒素吸着法で測定した細孔分布における細孔直径のピークが5〜50nmにあり、しかも、細孔容積が0.05〜0.3cm/gの範囲である、化粧料用の二酸化チタン顔料を製造することができる。
【0030】
焼成の温度が800℃より高い場合、細孔直径が大きくなりすぎたり、また、粒子間焼結等により形状係数が小さくなったり、ルチル型二酸化チタンが一部生成して形状が変わったりして望ましくない。また、600℃より低い場合、細孔直径が小さくなりすぎたり、細孔容積が多くなりすぎるため望ましくない。
【0031】
また、本発明の二酸化チタン顔料は、硫酸チタニルを加圧加水分解して得られた前記の球状含水二酸化チタンを塩酸中に浸漬した後に400〜600℃の温度で焼成して製造することができる。球状含水二酸化チタンは、硫酸根を多く含んでいるが、塩酸中に浸漬すると置換反応により硫酸根の残留量を減少させることができる。このため、塩酸中に浸漬しない場合に比べて低温度で焼成することができる。
【0032】
具体的には、塩酸中に浸漬した後、必要に応じて、洗浄し、乾燥して得た球状含水二酸化チタンを、400〜600℃の温度で焼成して、平均粒子径が0.1〜5μmの球状アナタース型二酸化チタンであって、窒素吸着法で測定した細孔分布における細孔直径のピークが5〜50nmにあり、しかも、細孔容積が0.05〜0.3cm/gの範囲である化粧料に配合して用いる二酸化チタン顔料を製造することができる。
【0033】
焼成の温度が600℃より高い場合、細孔直径が大きくなりすぎたり、また、粒子間焼結等により形状係数が小さくなったり、ルチル型二酸化チタンが一部生成して形状が変わったりして望ましくない。また、400℃より低い場合、細孔直径が小さくなりすぎたり、細孔容積が多くなりすぎるため望ましくない。
【0034】
上記の焼成の時間は0.5〜10時間程度が適当である。焼成に使用する装置は、回転炉等の一般的な焼成炉が使用できる。焼成して得られる本発明の球状アナタース型二酸化チタン顔料は、焼成時の粒子間焼結がほとんど認められず、球状含水二酸化チタンの形状を保持している。本発明のアナタース型二酸化チタン顔料は、用途に応じて、擂潰機等で解砕又は粉砕が可能である。
【0035】
また、必要に応じて、球状アナタース型二酸化チタン顔料の粒子表面を、ケイ素酸化物やアルミニウム酸化物で被覆する。それにはまず、球状アナタース型二酸化チタン顔料を水中に分散させて、好ましくは、縦型サンドミル、横型サンドミル等を用いて湿式粉砕を行い、水性スラリーを調製する。この際、水性スラリーのpHを9以上に調整すると、球状アナタース型二酸化チタン顔料が水中に安定して分散するので好ましい。また、必要に応じて、例えば、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム等のリン酸化合物、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等のケイ酸化合物等の分散剤を用いてもよい。水性スラリー中の球状アナタース型二酸化チタン顔料の固形分濃度は、50〜800g/lの範囲であり、好ましくは100〜500g/lの範囲である。
【0036】
その後、水性スラリー中に、ケイ素化合物、アルミニウム化合物を添加した後、中和剤を添加したり、あるいは、ケイ素化合物、アルミニウム化合物と中和剤とを同時に添加すれば、ケイ素酸化物、アルミニウム化合物が被覆される。ケイ素化合物の塩としては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等が挙げられる。アルミニウム化合物の塩としては、アルミン酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム等が挙げられる。また、中和剤としては、塩基性化合物であれば、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の水酸化物や炭酸塩等、アンモニア等のアンモニウム化合物、アミン類等が、酸性化合物であれば、硫酸、塩酸等の無機酸、酢酸、ギ酸等の有機酸等が挙げられる。
【0037】
球状アナタース型二酸化チタン顔料の粒子表面に被覆するケイ素酸化物は、多孔質処理と緻密処理が知られており、前記の方法では多孔質ケイ素酸化物の被覆が得られる。緻密ケイ素酸化物を被覆するのであれば、特開昭53−33228号公報等に記載されている公知の方法を応用できる。特開昭53−33228号公報に記載の方法を用いるのであれば、球状アナタース型二酸化チタン顔料のスラリー80〜100℃の範囲の温度に維持しながら、好ましくは、スラリーのpHを9〜10.5の範囲に維持しながら、ケイ酸ナトリウムを急速に添加した後、9〜10.5のpHで中和し、その後、80〜100℃の範囲の温度を50〜60分間保持する。あるいは、ケイ酸化合物を30分間以上かけて中和する方法を用いることもできる。この方法では、中和は1時間以上かけて行うのが更に好ましい。中和pHは4〜7.5の範囲に、また、中和時の水性スラリーの温度が80℃以上であれば、より緻密な被覆が形成され易いので好ましい。より好ましい中和pHの範囲は4.5〜7であり、中和温度は90℃以上である。
【0038】
また、必要に応じて、球状アナタース型二酸化チタン顔料の粒子表面を、シリコーン化合物及び/又はフッ素界面活性剤で被覆する。例えば、球状アナタース型二酸化チタン顔料とシリコーン化合物及び/又はフッ素界面活性剤とを乾式粉砕機や高速撹拌機を用い、両者を撹拌、混合して被覆することができる。特に、乾式粉砕機を用いる方法は、球状アナタース型二酸化チタン顔料の粉砕と有機化合物の被覆とを同時に行うことができるので好ましい。乾式粉砕機としては、粉砕効率が良く、混合性に優れたジェットミル等の気流式粉砕機を用いるが好ましい。また、球状アナタース型二酸化チタン顔料の水性スラリーにシリコーン化合物及び/又はフッ素界面活性剤を添加して、被覆することもできる。
【0039】
本発明では、球状アナタース型二酸化チタン顔料の粒子表面にケイ素酸化物、アルミニウム酸化物以外の無機化合物を被覆する場合には、ケイ素酸化物、アルミニウム酸化物の被覆と同様の方法を用いることができる。また、球状アナタース型二酸化チタン顔料の粒子表面にシリコーン化合物、フッ素界面活性剤以外の有機化合物を被覆する場合にも、シリコーン化合物、フッ素界面活性剤の被覆と同様の方法を用いることができる。球状アナタース型二酸化チタン顔料の粒子表面に有機化合物を被覆するのであれば、ケイ素酸化物やアルミニウム酸化物を被覆後の球状アナタース型二酸化チタン顔料と、乾式粉砕機や高速撹拌機を用い、両者を撹拌、混合するのが好ましい。ケイ素酸化物、アルミニウム酸化物等の無機化合物、シリコーン化合物、フッ素界面活性剤等の有機化合物を被覆した球状アナタース型二酸化チタン顔料を、脱水してスラリーから固液分離して乾燥し、必要に応じて乾式粉砕を行うことができる。脱水には、例えば、フィルタープレス、ロールプレス等を用いることができる。乾燥には、例えば、バンド式ヒーター、バッチ式ヒーター等を用いることができる。乾式粉砕には、例えば、ハンマーミル、ピンミル等の衝撃粉砕機、解砕機等に摩砕粉砕機、ジェットミル等の気流粉砕機、スプレードライヤー等の噴霧乾燥機等を用いることができる。
【0040】
本発明の球状アナタース型二酸化チタン顔料は、化粧料に配合して用いる。化粧料への配合量は、化粧料の剤型や、より具体的な目的を鑑みた他の配合成分との兼ね合いにより、一概に規定できるものではないが、概ね化粧料全体の0.1〜60.0重量%が好ましく、1.0〜40.0重量%であることが特に好ましい。0.1重量%未満では、十分な効果が得られないことがあり、また60.0重量%を超えると使用性が悪くなることがある。
【0041】
化粧料には、本発明の球状アナタース型二酸化チタン顔料の他に、効果を損なわない範囲において、通常化粧品や医薬品等に用いられる他の成分、例えば、その他の粉末成分、液体油脂、固体油脂、ロウ、炭化水素、高級アルコール、エステル、シリコーン、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、保湿剤、水溶性高分子、増粘剤、皮膜剤、紫外線吸収剤、金属イオン封鎖剤、低級アルコール、多価アルコール、糖、アミノ酸、有機アミン、高分子エマルジョン、pH調整剤、皮膚栄養剤、ビタミン、酸化防止剤、酸化防止助剤、香料、水等を必要に応じて適宜配合し、目的とする剤形に応じて常法により製造することができる。
【0042】
化粧料は、外皮に適用される化粧品、医薬品、及び医薬部外品に広く適用することが可能である。その剤型は任意であり、溶液系、可溶化系、乳化系、粉末分散系、水−油二層系、水−油−粉末三層系、ゲル、エアゾール、ミスト、及びカプセル等、任意の形態で提供されることができる。また、化粧料の製品形態も任意であり、化粧水、乳液、クリーム、パック等のフェーシャル化粧料;ファンデーション、おしろい、頬紅、口紅、アイシャドー、アイライナー、マスカラ、サンスクリーン等のメーキャップ化粧料;ボディー化粧料;芳香化粧料;メーク落とし、洗顔料、ボディーシャンプー等の皮膚洗浄料;ヘアーリンス、シャンプー等の毛髪化粧料;軟膏;浴用剤;あぶら取り紙等、従来化粧料に用いるものであればいずれの形で適用することもできる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の好適な実施例についてさらに詳しく説明する。なお、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0044】
実施例1
TiO換算で150g/dmの濃度の硫酸チタニル水溶液をオートクレーブに仕込み、加水分解用核剤を添加し、100kg/cmの飽和蒸気圧以上の圧力下、250℃の温度下で、4時間かけて加水分解させた後、濾過、洗浄、乾燥して、球状含水二酸化チタン乾燥粉末を得た。この乾燥粉末を700℃で焼成して、平均粒子径が380nm、窒素吸着法で測定した細孔分布における細孔直径のピークが12nmであり、しかも、細孔容積が0.19cm/gの多孔質球状アナタース型二酸化チタン粒子(a)を得た。この粒子の比表面積は27m/gであり、形状係数は0.95であった。
なお、試料の粒子形状は、透過型電子顕微鏡写真(倍率20000倍)を観察し、確認した。また、平均粒子径、形状係数は透過型電子顕微鏡写真(倍率20000倍)をニレコ社製画像解析装置で粒子約100個を画像解析して算出した。
また、結晶形はX線回折により確認した。比表面積、細孔直径のピーク、細孔容積の測定には、日本ベル社製のBELSOPR−miniIIを使用した。
【0045】
実施例2
実施例1において、焼成温度を620℃とすること以外は実施例1と同様にして、平均粒子径が400nm、窒素吸着法で測定した細孔分布における細孔直径のピークが5.2nmであり、しかも、細孔容積が0.12cm/gの多孔質球状アナタース型二酸化チタン粒子(b)を得た。この粒子の比表面積は47m/gであり、形状係数は0.96であった。
【0046】
実施例3
実施例1において、焼成温度を780℃とすること以外は実施例1と同様にして、平均粒子径が350nm、窒素吸着法で測定した細孔分布における細孔直径のピークが40nmであり、しかも、細孔容積が0.13cm/gの多孔質球状アナタース型二酸化チタン粒子(c)を得た。この粒子の比表面積は16m/gであり、形状係数は0.93であった。
【0047】
実施例4
TiO換算で150g/dmの濃度の硫酸チタニル水溶液をオートクレーブに仕込み、加水分解用核剤を添加し、100kg/cmの飽和蒸気圧以上の圧力下、250℃の温度下で、4時間かけて加水分解させた後、濾過、洗浄、乾燥して、球状含水二酸化チタン乾燥粉末を得た。この乾燥粉末150gを7%塩酸500cmに懸濁させ、60℃に加温して1時間撹拌した後、20%水酸化ナトリウム水溶液で中和して濾過・洗浄した。得られた洗浄ケーキを500℃で焼成して、平均粒子径が400nm、窒素吸着法で測定した細孔分布における細孔直径のピークが12nmであり、しかも、細孔容積が0.14cm/gの多孔質球状アナタース型二酸化チタン粒子(d)を得た。この粒子の比表面積は28m/gであり、形状係数は0.97であった。
【0048】
実施例5
実施例4において、焼成温度を420℃とすること以外は実施例4と同様にして、平均粒子径が400nm、窒素吸着法で測定した細孔分布における細孔直径のピークが6.1nmであり、しかも、細孔容積が0.07cm/gの多孔質球状アナタース型二酸化チタン粒子(e)を得た。この粒子の比表面積は51m/gであり、形状係数は0.94であった。
【0049】
実施例6
実施例4において、焼成温度を580℃とすること以外は実施例4と同様にして、平均粒子径が390nm、窒素吸着法で測定した細孔分布における細孔直径のピークが38nmであり、しかも、細孔容積が0.10cm/gの多孔質球状アナタース型二酸化チタン粒子(f)を得た。この粒子の比表面積は14m/gであり、形状係数は0.95であった。
【0050】
実施例7
実施例4で得られた二酸化チタン粒子(d)をTiO濃度200g/dmの水性スラリーに調整し、二酸化チタン重量に対して、ヘキサメタリン酸ナトリウムをPとして0.4重量%加え、ビーズミルにて湿式粉砕し、200メッシュで粗粒分離し、二酸化チタンスラリーを得た。粗粒分離後のスラリーを200g/dmに調整し、70℃に昇温し、TiO分に対してSiO2換算で3重量%のケイ酸ナトリウム水溶液を、30分かけて添加し、85℃に昇温した。30分撹拌後、希硫酸を40分かけてゆっくり滴下しpH7.0 に中和した。
続いて、前記の二酸化チタンスラリーを70℃に冷却し、希硫酸でpH5.5に調整し、TiO分に対してAl換算で1重量%のアルミン酸ナトリウム水溶液を、30分かけて添加した。30分撹拌の後、希硫酸でpH5.5に再調整して濾過洗浄し、120℃で乾燥し、気流粉砕をして、多孔質球状アナタース型二酸化チタン粒子(g)を得た。この粒子は、平均粒子径が400nm、窒素吸着法で測定した細孔分布における細孔直径のピークが8.0nmであり、しかも、細孔容積が0.09cm/gであった。また、この粒子の比表面積は25m/gであり、形状係数は0.96であった。
【0051】
比較例1
実施例1において、焼成温度を400℃とすること以外は実施例1と同様にして、平均粒子径が400nm、窒素吸着法で測定した細孔分布における細孔直径のピークが2.4nmであり、しかも、細孔容積が0.08cm/gの多孔質球状アナタース型二酸化チタン粒子(h)を得た。この粒子の比表面積は105m/gであり、形状係数は0.96であった。
【0052】
比較例2
実施例1において、焼成温度を900℃とすること以外は実施例1と同様にして、平均粒子径が200nm、窒素吸着法で測定した細孔分布における細孔直径のピークが72nmであり、しかも、細孔容積が0.07cm/gの多孔質球状アナタース型二酸化チタン粒子(i)を得た。この粒子の比表面積は5m/gであり、形状係数は0.77であった。
【0053】
比較例3
TiO換算で200g/dmの濃度の硫酸チタニル水溶液に加水分解用核剤を添加し、大気圧下105℃で熱加水分解した。沈殿物を濾過洗浄したケーキに、TiO分に対してAl換算で0.2重量%の硫酸アルミニウム溶液、KCO換算で0.4重量%の水酸化カリウム溶液、そしてZnO換算で0.4重量%になるよう亜鉛華を添加して混合し、蒸発乾固した。乾燥物をサンプルミルで粉砕し、980℃で焼成することにより粒径1μmのルチル形不定形状二酸化チタン粒子(j)が得られた。この二酸化チタン粒子については、窒素吸着法による細孔分布測定を行っても、細孔の存在を示すデータが得られなかった。この粒子の比表面積は2m/gであり、形状係数は0.52であった。
【0054】
比較例4
TiO換算で200g/dmの濃度の硫酸チタニル水溶液に過酸化水素水をH換算でTiO分に対して5重量%を添加し、20kg/cmの圧力下、220℃の温度下で、4時間かけて加水分解させた。得られた反応液を40℃まで放冷した後、反応液中から沈殿物を濾過し、洗浄し、乾燥することで、平均粒子径が500nm、窒素吸着法で測定した細孔分布における細孔直径のピークが3.2nmであり、しかも、細孔容積が0.35cm/gの球状二酸化チタン集合体(k)を得た。この粒子の比表面積は370m/gであり、形状係数は0.92であった。
【0055】
評価例
実施例1〜7、比較例1〜4で得られた二酸化チタンを用いて、クリームファンデーションを作製した。下記の油相成分と水相成分をそれぞれ70℃で加熱混合した後、70℃に保った水相に油相をゆっくり注いでからホモミキサーで乳化した。次いで、撹拌しながら室温まで冷却して化粧品を得た。
<油相>
NIKKOL Decaglyn 5-HS 2.0重量%
NIKKOL Hexaglyn PR-15 0.6重量%
NIKKOL スクワラン 2.0重量%
NIKKOL CIO 8.0重量%
NIKKOL IPM-EX 4.0重量%
デカメチルシクロペンタシロキサン 19.0重量%
酸化鉄 1.0重量%
二酸化チタン 10.0重量%
<水相>
グリセリン 5.0重量%
硫酸マグネシウム・7水和物 MgSOとして0.5重量%
精製水 残部
【0056】
5名のパネラーにて、クリームファンデーションの感触(きしみのないこと、伸展性が良いこと)、仕上がりの自然さ、強すぎず弱すぎないマイルドな隠蔽力、化粧持ちを評価し、各評価項目において優れていると判断したパネラーの数から、下記に示す分類によって評価を行った。評価結果を表1に示す。
◎:4人以上、 ○:2〜3人、△:1人、×:0人
【0057】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の二酸化チタン顔料は、多孔質球状アナタース型二酸化チタンであり、化粧料に配合して用いると、形状及び表面状態に由来したマイルドな隠蔽性と良好な感触をもち、肌から分泌される皮脂を適度に吸収して肌への密着性が持続することから、様々な化粧料の顔料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が0.1〜5μmの球状アナタース型二酸化チタンであって、窒素吸着法で測定した細孔分布における細孔直径のピークが5〜50nmにあり、しかも、細孔容積が0.05〜0.3cm/gの範囲である化粧料用二酸化チタン顔料。
【請求項2】
細孔直径のピークが10〜30nmにあり、しかも、細孔容積が0.05〜0.15cm/gである請求項1に記載の化粧料用二酸化チタン顔料。
【請求項3】
形状係数が0.9〜1.0である請求項1又は2に記載の化粧料用二酸化チタン顔料。
【請求項4】
粒子表面に、ケイ素酸化物及び/又はアルミニウム酸化物が被覆されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の化粧料用二酸化チタン顔料。
【請求項5】
粒子表面に、シリコーン化合物及び/又はフッ素界面活性剤が被覆されている請求項1〜4のいずれか一項に記載の化粧料用二酸化チタン顔料。
【請求項6】
硫酸チタニルを170℃以上の温度下、かつ、該温度の飽和蒸気圧以上の圧力下で加水分解して球状含水二酸化チタンを得、次いで、該球状含水二酸化チタンを600〜800℃の温度で焼成する請求項1〜3のいずれか一項に記載の化粧料用二酸化チタン顔料の製造方法。
【請求項7】
硫酸チタニルを170℃以上の温度下、かつ、該温度の飽和蒸気圧以上の圧力下で加水分解して球状含水二酸化チタンを得、次いで、該球状含水二酸化チタンを塩酸中に浸漬した後に400〜600℃の温度で焼成する請求項1〜3のいずれか一項に記載の化粧料用二酸化チタン顔料の製造方法。

【公開番号】特開2013−28563(P2013−28563A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166117(P2011−166117)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【Fターム(参考)】