説明

医療用フィルム

【課題】 本発明は、優れた滑り性を有し且つ薬剤の変質を生じることのない医療用フィルムを提供する。
【解決手段】 本発明の医療用フィルムは、ポリエチレン系樹脂中に薄片化黒鉛が含有されていることを特徴とするので、優れた滑り性、導電性及び熱融着性を有しており、様々な医療用途に容易に加工することができる。更に、本発明の医療用フィルムは優れた透明性を有しており、薬剤の包装袋などに用いた場合には、内部に収納した薬剤の状態を容易に視認することができ好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から点滴などに用いられる液状の薬剤は合成樹脂フィルムから形成された包装袋内に充填された上で保管されている。従って、包装袋内に保管された薬剤が包装袋を構成している合成樹脂フィルムによって変質しないことが要求される。
【0003】
又、薬剤の包装袋は、例えば、平面矩形状の合成樹脂フィルムを二つ折りした上で四方外周縁部を加熱することによって熱融着させて形成されている。包装袋は、合成樹脂フィルムを連続的に巻き出しながら上述の要領で製造されるが、合成樹脂フィルムの滑り性が悪いと、合成樹脂フィルムが製造装置を構成しているロールなどの部品との間において引っ掛かりを生じ、その結果、合成樹脂フィルムが製造装置内において滞留を生じて製造トラブルを生じる虞れがある。
【0004】
そこで、特許文献1には、熱可塑性ポリマーフィルム中に破砕型シリカ粒子と球状の有機ポリマー粒子とが含まれている熱可塑性ポリマーフィルムが開示されている。
【0005】
この熱可塑性ポリマーフィルムは、二種類のシリカ粒子を含有させており、このシリカ粒子によって熱可塑性樹脂ポリマーフィルムの表面に凹凸を形成してフィルム同士を重ね合わせた際にフィルム同士の接触面積を低減させて滑り性を向上させるように構成している。
【0006】
しかしながら、上記熱可塑性ポリマーフィルムは、破砕型シリカ粒子を含有させていることから、熱可塑性ポリマーフィルムの表面に形成される凸部の先端部がやや尖った状態となる虞れがあり、その結果、熱可塑性ポリマーフィルムの凸部同士が互いに引っ掛かり、熱可塑性ポリマーフィルムの滑り性がかえって低下するといった問題を生じる虞れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−241521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、優れた滑り性を有し且つ薬剤の変質を生じることのない医療用フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の医療用フィルムは、ポリエチレン系樹脂中に薄片化黒鉛が含有されていることを特徴とする。
【0010】
医療用フィルムを構成しているポリエチレン系樹脂は、特に限定されず、例えば、低密度ポリエチレン系樹脂、中密度ポリエチレン系樹脂、高密度ポリエチレン系樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂、直鎖状中密度ポリエチレン系樹脂、直鎖状高密度ポリエチレン系樹脂などが挙げられ、直鎖状低密度ポリエチレンが好ましい。なお、ポリエチレン系樹脂は単独で用いられても併用されてもよい
【0011】
そして、ポリエチレン系樹脂中には薄片化黒鉛が含有されている。この薄片化黒鉛は、複数のグラフェンシートの積層体である。薄片化黒鉛は、黒鉛化合物を剥離処理して得られるものであり、原料となる黒鉛化合物よりも厚みの薄いグラフェンシートの積層体、即ち、原料となる黒鉛化合物のグラフェンシートの積層数よりも少ない積層数を有するグラフェンシートの積層体である。本発明において、グラフェンシートとは炭素六角網平面からなる1枚のシート状物をいう。
【0012】
なお、黒鉛化合物としては、黒鉛、膨張化黒鉛の何れであってもよいが、グラフェンシート間から剥離し易いので、膨張化黒鉛が好ましい。なお、黒鉛に官能基が化学的に結合してしても、或いは、黒鉛に官能基が弱い相互作用により疑似的に結合していてもよい。なお、本発明において、膨張化黒鉛とは、原料となる黒鉛に層間物質が挿入され、グラフェンシート間の間隔が広げられたものをいう。
【0013】
薄片化黒鉛におけるグラフェンシートの積層数は、原料となる黒鉛化合物の積層数よりも少なければよいが、2〜200層である。薄片化黒鉛は、薄いグラフェンシートが複数枚、積層されており、アスペクト比が比較的大きい鱗片状の形態を有する。
【0014】
薄片化黒鉛におけるグラフェンシートの積層数は、150層以下が好ましく、60層以下がより好ましく、30層以下が更に好ましく、10層以下が特に好ましく、5層以下が最も好ましい。なお、薄片化黒鉛におけるグラフェンシートの積層数は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定することができ、各薄片化黒鉛におけるグラフェンシートの積層数の相加平均値をいう。
【0015】
更に、薄片化黒鉛のアスペクト比は20以上が好ましく、50以上がより好ましく、100以上が特に好ましく、200以上が最も好ましいが、高すぎると、薄片化黒鉛の割れが発生することがあるので、5000以下が好ましい。なお、薄片化黒鉛のアスペクト比は、各薄片化黒鉛についてグラフェンシートの面方向における最大寸法を厚みで除したアスペクト比を算出し、各薄片化黒鉛のアスペクト比の相加平均値をいう。
【0016】
ここで、薄片化黒鉛におけるグラフェンシートの面方向における最大寸法とは、薄片化黒鉛の面積が最も大きくなる方向から見た時の薄片化黒鉛の最大寸法をいう。薄片化黒鉛の厚みとは、薄片化黒鉛の面積が最も大きくなる方向から見た時の薄片化黒鉛の表面に対して直交する方向の薄片化黒鉛の最大寸法をいう。
【0017】
なお、薄片化黒鉛にてグラフェンシートの面方向における最大寸法は、FE−SEMを用いて測定することができる。又、薄片化黒鉛の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)又はFE−SEMを用いて測定することができる。
【0018】
医療用フィルム中における薄片化黒鉛の含有量は、少ないと、医療用フィルムの表面に形成される凹凸が不十分となり、医療用フィルムの滑り性が低下することがあり、多いと、医療用フィルムの熱融着性又は透明性が低下することがあるので、0.005〜2重量%が好ましく、0.01〜0.5重量%がより好ましい。
【0019】
本発明の医療用フィルムは、医療用フィルムに接触する薬剤が変質しないように薄片化黒鉛以外の添加剤は一切含有されていない。従って、医療用フィルム中における薄片化黒鉛を除いた残余部分はポリエチレン系樹脂から構成されている。従って、医療用フィルム中におけるポリエチレン系樹脂の含有量は、98〜99.995重量%が好ましく、99.5〜99.99重量%がより好ましい。なお、上記添加剤としては、例えば、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤などが挙げられる。
【0020】
薄片化黒鉛は、上述のように、黒鉛化合物を剥離処理して得られたものであって、アスペクト比が比較的大きい鱗片状の形態を有し、薄片化黒鉛はその多くがグラフェンシートの主面を医療用フィルムの表裏面に沿わせた状態に含有されており、医療用フィルムの表面における薄片化黒鉛によって形成される凸部の頂部が尖っているようなことはなく、図1に示したように、薄片化黒鉛の一部がその主面を医療用フィルムAの表面に向けた状態にて医療用フィルムAの表面A1から突出した状態にてポリエチレン系樹脂中に含有され、医療用フィルムAの表面A1には断面略台形状の凸部A2が略均一に散在した状態にて形成されている。なお、グラフェンシートの主面とは最も面積の大きい面をいう。
【0021】
従って、医療用フィルムA、A同士が擦れ合った場合に、医療用フィルムA、Aの表面A1に形成された凸部A2、A2同士が引っ掛かるようなことはなく、医療用フィルムA、A同士は円滑に擦れ合い、医療用フィルムAは優れた滑り性を有している。
【0022】
更に、薄片化黒鉛はその比表面積が大きいので主面を医療用フィルムの表裏面に沿わせた状態に配向されており、薄片化黒鉛によって医療用フィルムAの表面になだらかな凹凸が形成され易く、医療用フィルムAに優れた滑り性を発現させるために必要な薄片化黒鉛の含有量を低く抑えることができ、本発明の医療用フィルムは優れた透明性を有しており、医療用フィルムで被覆された薬剤などの視認性を確保することができる。
【0023】
そして、薄片化黒鉛は、複数のグラフェンシートの積層体であることから、有機化合物などからなる添加剤と異なり、医療用フィルムに接触した薬剤を変質させるようなことがないと共に、人体に対しても無害であるので患者の健康面においても問題がない。
【0024】
又、上記医療用フィルムは、その表面に、不織布、織布、編布などの布状体、他の熱可塑性樹脂フィルム、金属箔などを積層一体化させてもよい。
【0025】
次に、医療用フィルム中に含有されている薄片化黒鉛の製造方法について説明する。薄片化黒鉛は、黒鉛化合物を剥離処理して製造され、薄片化黒鉛の製造方法としては特に限定されないが、下記の方法によって薄片化黒鉛を製造することが好ましい。
【0026】
先ず、黒鉛シートまたは膨張化黒鉛シートを作用極とし、該作用極をPtなどからなる対照極とともに、酸性電解質水溶液中に浸漬し、電気化学処理する。それによって、黒鉛シート、即ち、層状黒鉛のグラフェンシート間に酸性電解質イオンをインターカレートすることができ、グラフェンシート同士の間隔を広げることができる。
【0027】
具体的には、図2に示すように、黒鉛または膨張化黒鉛からなるシート1を用意する。このシート1に、図2に示すように、複数本のスリット1a、1bを形成する。シート1は、模式的に示すように、複数のグラフェンシートGの積層体である。このグラフェンシートGの面方向に垂直方向である、シート1の厚み方向に貫通する、上記複数本のスリット1a、1bを形成する。スリット1a、1bの形成は、機械的切削加工、或いは、レーザー光の照射などによって行い得る。なお、スリットの数は特に限定されない。
【0028】
次に、スリット1a、1bに、電極2の一部を挿入する。電極2は、スリット1a、1bにそれぞれ挿入される挿入片2a、2bと、挿入片2a、2bを連結している連結部2cとを有する。電極2は、本実施形態では、Ptからなるが、適宜の金属により形成することができる。
【0029】
上記電極2の挿入片2a、2bをスリット1a、1bに挿入する。その結果、図3に示すようにシート1に電極2の一部が挿入された構造を得ることができる。この構造を図4に示すように、電解質水溶液中に浸漬する。
【0030】
上記電解質溶液6としては、硝酸水溶液、硫酸水溶液などを用いることができる。それによって、硝酸イオンや硫酸イオンなどをグラフェンシート間に挿入することができる。
【0031】
上記電解質溶液6に浸漬されたシート1を作用極とし、電解質溶液6中にPtなどの金属からなる対極7と、Ag/AgClからなる参照極8とを浸漬し、対極7とシート1との間に直流電圧を印可して電気化学処理を行う。それによって、シート1のグラフェンシート間に電解質溶液6中の電解質イオンがインターカレートされる。また、シート1のグラフェンシート間の隙間が広がることとなる。
【0032】
上記電気化学的処理に際しては、対極7とシート1との間に、好ましくは0.3〜10Vの直流電圧を1時間以上で且つ500時間未満に亘って印加する。直流電圧の範囲が、この範囲内にあれば、黒鉛化合物のグラフェンシート間に硝酸イオンや硫酸イオンなどの電解質イオンをより確実にインターカレートすることができ、膨張化黒鉛をより確実に得ることができる。なお、直流電圧印加時間が、1時間以上であればよいが、長すぎると、膨張化黒鉛の生産性が低下し且つ電解質イオンをインターカレートする効果も飽和する。従って、直流電圧の印加時間は500時間未満とすればよい。
【0033】
電解質溶液6の濃度は特に限定されないが、水溶液の場合は、10〜80重量%が好ましい。この範囲内であれば、電解質イオンをより一層確実にグラフェンシート間にインターカレートすることができる。
【0034】
又、上記電気化学処理に際しての電解質溶液6の温度は特に限定されないが、水溶液の場合は5〜100℃程度の温度とすればよい。
【0035】
より好ましくは、黒鉛化合物からなる上記シート1にスリット1a、1bを形成するに先立ち、より密度の低いシート1を用意することが好ましい。このようなより密度が低いシート1を用意するには、例えば以下の方法を用いることができる。先ず、黒鉛化合物の原料粉末を予備的にシート成型して予備成型シートを得る。図5に示すように、予備成型シート11を、ロール12、13間に供給して圧延する。それによって、予備成型シート11よりも厚みの薄いシート1を得ることができる。この場合、圧延倍率を調整することにより、シート1の密度を調整することができる。即ち、圧延倍率を低くすることにより、相対的に密度の低いシート状の黒鉛化合物を得ることができる。
【0036】
上記のようにして、黒鉛化合物からなる密度が低いシート1を用いた場合、層間物質としての電解質イオンが黒鉛化合物のグラフェンシート間により均一にインターカレートされ、グラフェン間の層間をより確実に広げることができる。
【0037】
上述のようにして得られた膨張化黒鉛は、硝酸イオンなどがインターカレートされてグラフェンシートの主面同士がなす角度の均一性や各グラフェンシート間での層間物質の挿入量の均一性に優れている。従って、得られた膨張化黒鉛に剥離力を加えることにより、膨張化黒鉛のグラフェンシート同士を容易に剥離することができる。膨張化黒鉛のグラフェンシート間での層間物質の挿入量にばらつきがある場合、特に熱による剥離力を加えたときはグラフェンシート同士を剥離し得ない部分が存在する。これに対して、上述のようにして得られた膨張化黒鉛は、グラフェンシート間での層間物質の挿入量の均一性に優れているため、グラフェンシート同士を剥離するための剥離力を加えた場合、殆どのグラフェンシート間において、グラフェンシートを他のグラフェンシートから確実に剥離することができる。よって、上述の製造方法によって得られた膨張化黒鉛にグラフェンシート同士を剥離させる剥離力を加えることによって薄片化黒鉛を容易に得ることができる。
【0038】
なお、膨張化黒鉛から薄片化黒鉛を得るための剥離工程は、加熱、機械的剥離力、超音波などからなる群から選択された一種のエネルギー付加工程を実施することにより行うことができる。
【0039】
一例を挙げると、膨張化黒鉛を300〜1200℃に加熱することにより、好ましくは300〜600℃に加熱することにより、膨張化黒鉛から薄片化黒鉛を得ることができる。
【0040】
次に、本発明の医療用フィルムの製造方法について説明する。医療用フィルムの製造方法は、公知の方法が用いられ、例えば、(1)ポリエチレン系樹脂と薄片化黒鉛とを押出機に供給して溶融混練し、押出機の先端に取り付けたサーキュラダイから円筒状体を押出し、この円筒状体の中心部から圧縮空気を送って一定の大きさまで膨張させると共に、円筒状体の外面に冷却空気を吹き付けて冷却した後、円筒状体を所定箇所から切断して展開することによって医療用フィルムを製造するインフレーションフィルム成形方法、(2)ポリエチレン系樹脂と薄片化黒鉛とを押出機に供給して溶融混練し、押出機の先端に取り付けたTダイから押出して医療用フィルムを製造するTダイ法などが挙げられる。
【0041】
上述のようにして医療用フィルムを製造するにあたって、薄片化黒鉛はサーキュラダイ又はTダイを通過する際に押出方向に剪断力が加わり、グラフェンシートの主面が医療用フィルムの表面に対向した状態に配向させられる。よって、得られる医療用フィルムAは、その内部に薄片化黒鉛がそのグラフェンシートの主面を医療用フィルムAの表面A1に略沿った状態に含有されており、薄片化黒鉛の一部が医療用フィルムAの表面A1に突出して医療用フィルムAの表面A1には断面略台形状の凸部A2が略均一に散在した状態にて形成されている。
【0042】
なお、上記では薄片化黒鉛を押出機に供給した場合を説明したが、薄片化黒鉛の代わりに或いは薄片化黒鉛と共に、膨張化黒鉛を押出機に供給し、押出機内において膨張化黒鉛に剥離力を加えて、膨張化黒鉛のグラフェンシート同士を剥離させて薄片化黒鉛を押出機内にて製造し、この薄片化黒鉛をポリエチレン系樹脂と共にサーキュラダイ又はTダイから押出して医療用フィルムを製造してもよい。
【0043】
次に、医療用フィルムの使用方法の一例を説明する。医療用フィルムは、種々の医療用途に用いることができ、例えば、薬剤を保存するための包装袋の製造に用いることができる。
【0044】
医療用フィルムを用いて包装袋を製造する方法としては、特に限定されず、例えば、医療用フィルムを平面矩形状に切断し、この医療用フィルムを二つ折りした後、医療用フィルムの四方外周縁部を熱融着することによって包装袋を製造することができる。
【0045】
医療用フィルムは薄片化黒鉛を含有し、薄片化黒鉛は導電性を有していることから、医療用フィルムは優れた帯電防止性を有しており、医療用フィルムの製造後の保管や医療用フィルムの加工中に医療用フィルムの表面に静電気に起因して粉塵などの異物が付着するようなことはなく、本発明の医療用フィルムは医療用途に好適に用いることができる。
【0046】
そして、医療用フィルム中に含有されている薄片化黒鉛は優れた熱伝導性を有していることから、上述のように医療用フィルム同士を熱融着させる場合にあっても、医療用フィルムの表面に加えた熱が薄片化黒鉛を介して医療用フィルムの内部にまで確実に伝達されて医療用フィルムの熱融着部分を医療用フィルムの内部を含めて全体的に加熱することができる。従って、医療用フィルムの熱融着に際してそれ程高い温度に加熱することなく医療用フィルムの熱融着を行うことができ、製造コストの低減及び製造効率の向上を図ることができる。
【0047】
又、医療用フィルム同士を熱融着させる場合に、医療用フィルム同士の対向面のそれぞれには薄片化黒鉛に起因した凸部A2が形成され、凸部A2、A2間には空隙部が形成されており、この空隙部を通じて医療用フィルムAの対向面間に存在する空気を円滑に外部に排出して、医療用フィルムA、A同士を強固に且つ確実に熱融着一体化することができる。
【発明の効果】
【0048】
本発明の医療用フィルムは、ポリエチレン系樹脂中に薄片化黒鉛が含有されていることを特徴とするので、優れた滑り性、導電性及び熱融着性を有しており、様々な医療用途に容易に加工することができる。
【0049】
そして、本発明の医療用フィルムは優れた透明性を有しており、薬剤の包装袋などに用いた場合には、内部に収納した薬剤の状態を容易に視認することができ好ましい。更に、本発明の医療用フィルムは、複数のグラフェンシートの積層体である薄片化黒鉛を含有しているにすぎないことから、医療用フィルムに接触する薬剤の変質や人体への悪影響を招来するようなことはない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の医療用フィルムを示した模式断面図である。
【図2】電極を黒鉛に挿入する工程を説明するための模式的斜視図である。
【図3】電極が黒鉛に挿入された状態を示す模式的斜視図である。
【図4】電気化学的処理を行う工程を説明するための模式図である。
【図5】原料となる黒鉛からなるシートを圧延し、シート状の黒鉛を得る工程を示した模式図である。
【図6】黒鉛シートに電気化学処理で電圧を印加する際の電圧印加パターンを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
次に本発明の実施例を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1〜5、比較例1、2)
黒鉛粉末を予備的にシート成型して予備成型シートを製造した。この予備成型シートを図5に示すようにロール12、13間に供給して圧延し密度が密度0.7g/cm3、厚み1mmの低密度黒鉛シートを用意した。
【0053】
上記のようにして得られた密度0.7g/cm3の黒鉛シートを一辺が3cmの平面正方形状に切断し、電極材料としての黒鉛シートを得た。この黒鉛シートに、図2に示したように、2本のスリットを、スリットの長さが1cm、幅が1cmとなるようにカッターナイフにより切削し、形成した。上記2本のスリットが形成された黒鉛シートに、図2に示したPtからなる電極2を挿入した。このようにして用意した黒鉛シートを作用極(陽極)として、Ptからなる対照極(陰極)及び、Ag/AgClからなる参照極とともに60重量%濃度の硝酸水溶液中に浸漬し、直流電圧を印加し電気化学処理を行った。電気化学処理に際しては、図6に示す電圧を2時間印加した。このようにして、陽極に作用極として用いた黒鉛を膨張化黒鉛とした。
【0054】
得られた膨張化黒鉛を一辺が1cmの平面正方形状に切断して切断片を製造し、切断片をカーボンるつぼに入れて電磁誘導加熱処理を行った。誘導加熱装置はSKメディカル社から商品名「MU1700D」にて市販されている装置を用い、アルゴンガス雰囲気下で最高到達温度550度となるように10Aの電流量で行った。電磁誘導加熱により膨張化黒鉛を薄片化して薄片化黒鉛を得た。
【0055】
表1に示した量の直鎖状低密度ポリエチレン(プライムポリマー社製 商品名「モアテック0248Z」)及び上記薄片化黒鉛を押出機に供給して180〜200℃にて溶融混練し、押出機の先端に取り付けたサーキュラダイから円筒状体を押出し、この円筒状体の中心部から圧縮空気を送って一定の大きさまで膨張させると共に、円筒状体の外面に20℃の冷却空気を吹き付けて冷却した後、円筒状体を所定箇所から切断して展開することによって医療用フィルムを製造した。
【0056】
実施例1〜5にて得られた医療用フィルムの両面には薄片化黒鉛に起因して断面略台形状の凸部が略均一に散在した状態にて形成されており、全体的に微細な凹凸が形成されていた。比較例2で得られた医療用フィルムは透明性が低下していた。
【0057】
得られた医療用フィルムの引張強度及び引張伸度を押出方向(MD)及び押出方向に直交する方向(TD)について下記の要領で測定し、その結果を表1に示した。又、得られた医療用フィルムの摩擦係数(tanθ)、表面粗度Ra及び透明性を下記の要領で測定し、その結果を表1に示した。
【0058】
(引張強度)
得られた医療用フィルムの引張強度をJIS K7127に準拠して測定した。
【0059】
(引張伸度)
得られた医療用フィルムの引張伸度をJIS K7127に準拠して測定した。
【0060】
(摩擦係数(tanθ))
得られた医療用フィルムの摩擦係数をJIS K7125:1987に準拠して測定した。
【0061】
(表面粗度Ra)
得られた医療用フィルムの表面粗度RaをJIS B0601に準拠して測定した。
【0062】
(透明性)
得られた医療用フィルムのヘイズ値をJIS K7136に準拠して測定した。
【0063】
【表1】

【符号の説明】
【0064】
1a スリット
1 シート
2 電極
2a 挿入片
2c 連結部
6 電解質溶液
7 対極
8 参照極
11 予備成型シート
12 ロール
A 医療用フィルム
A1 表面
A2 凸部
G グラフェンシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレン系樹脂中に薄片化黒鉛が含有されていることを特徴とする医療用フィルム。
【請求項2】
薄片化黒鉛を0.005〜2重量%含有し且つ残余がポリエチレン系樹脂からなることを特徴とする医療用フィルム。
【請求項3】
ポリエチレン系樹脂が直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の医療用フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−192038(P2012−192038A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58215(P2011−58215)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(596111276)積水フイルム株式会社 (133)
【Fターム(参考)】