説明

半導体ウエハの加工方法

【課題】エキスパンド工程において、半導体ウエハの分断時のチップ反りを低減し、ピックアップ工程でのチップ反りによるチップ認識不良を低減することが可能な半導体ウエハの加工方法を提供する。
【解決手段】裏面がウエハ加工用テープに貼合されており、チップ単位にダイシングあるいは切断の起点が形成された半導体ウエハのパターン面に、表面保護テープを貼合する工程を備えることを特徴とする半導体ウエハの加工方法を用いる。その後、前記ウエハ加工用テープの下面より突き上げ部材を上昇させることで、前記ウエハ加工用テープを引き伸ばすとともに、前記半導体ウエハを半導体チップに分断するエキスパンド工程と、を備えることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エキスパンド工程を有する半導体装置の製造工程において使用する半導体ウエハの加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年開発された新しい技術による半導体装置の製造工程では、半導体ウエハに伸縮性のあるウエハ加工用テープを貼り付けた後、半導体ウエハをチップ単位でダイシングする工程、ウエハ加工用テープをエキスパンドする工程、さらにダイシングされたチップをピックアップする工程、さらにダイボンディング工程が実施される。
【0003】
上記半導体装置の製造工程に使用されるウエハ加工用テープとして、基材フィルム上に粘着剤層が設けられたウエハ加工用テープや、粘着剤層の上にさらに接着剤層が積層された構造を有するウエハ加工用テープが提案され、既に実用化されている
一般的な半導体ウエハのダイシング工程、エキスパンド工程、及びピックアップ工程について図6を参照して説明する。図6(a)に示すように、まず、基材フィルム93aとその上に形成された粘着剤層93bと接着剤層94がこの順に積層されているウエハ加工用テープ90に、半導体ウエハ91とリングフレーム92とを貼り合わせる。ここで、リングフレーム92は粘着剤層93bに貼り合わされ、半導体ウエハ91は接着剤層94に貼り合わされる。
【0004】
次に、図6(b)に示すように、吸着ステージ96により、ウエハ加工用テープ90を基材フィルム93a側から吸着支持する。そして、ダイシングブレード95によって半導体ウエハ91と接着剤層94を半導体チップ97単位にダイシングして個片化する。
【0005】
その後、図6(c)に示すように、ダイシングされた半導体チップ97及び接着剤層94を保持したウエハ加工用テープ90をリングフレーム92の径方向および周方向に引き伸ばすエキスパンド工程を実施する。具体的には、ダイシングされた複数の半導体チップ97及び接着剤層94を保持した状態のウエハ加工用テープ90に対して、中空円筒形状の突き上げ部材98を、ウエハ加工用テープ90の下面側から上昇させ、ウエハ加工用テープ90をリングフレーム92の径方向および周方向に引き伸ばす。エキスパンド工程により、チップ同士の間隔を広げ、CCDカメラ等によるチップの認識性を高めるとともに、ピックアップの際に隣接するチップ同士が接触することによって生じるチップ同士の再接着を防止することができる。
【0006】
エキスパンド工程を実施した後、ウエハ加工用テープ90をエキスパンドした状態のままで、半導体チップ97及び接着剤層94をピックアップするピックアップ工程を実施する。
【0007】
また、半導体ウエハの分断方法として、レーザー加工装置を用いて、非接触でウエハを分断する方法が提案されている。
【0008】
例えば、特許文献1には、ダイボンド樹脂層(接着剤層)を介在させたシートウエハ加工用テープが貼り付けられた半導体基板の内部に焦点を合わせてレーザー光を照射することにより、半導体基板の内部に多光子吸収による改質領域を形成し、この改質領域で分断予定部を形成する工程と、シートをエキスパンドさせることにより、分断予定部に沿って半導体基板及びダイボンド樹脂層を分断する工程とを備えた半導体基板の分断方法が開示されている。
【0009】
特許文献1の半導体基板の分断方法では、レーザー光の照射とウエハ加工用テープのエキスパンドによって、非接触で半導体ウエハとダイボンド樹脂層(接着剤層)を分断することができるので、ダイシングブレードを用いる場合のようなチッピングを発生させることなく半導体ウエハの分断が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−338467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、エキスパンド工程は、ダイシングブレードによって個片化された半導体チップ(以下、チップという)同士の間隔を広げるため、あるいは、レーザー光の照射された半導体ウエハ及び接着剤層をチップ単位に分断するために実施される。しかしながら図6において説明したようなウエハ加工用テープのエキスパンドにおいて、個片化されたチップは蒸着されている酸化膜などを起因としたパターン面側の応力によりチップ反りが発生し、ピックアップ工程においてCCDカメラ等によるチップ認識不良を生じ、チップをピックアップする際に隣接するチップ同士が接触することによるチップの破損が生じるという問題があった。
【0012】
そこで、本発明は、以上のような問題点を解決するためになされたもので、エキスパンド工程において、半導体ウエハの分断により個片化されたチップの反りを防止することが可能で、チップを良好にピックアップするために十分なチップ認識性を得ることが可能な半導体ウエハの加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、
(1)半導体ウエハの裏面にウエハ加工用テープが貼合されており、チップ単位にダイシングあるいは切断の起点が形成された半導体ウエハのパターン面に、チップ単位にハーフカットまたは切断の起点が形成された表面保護テープを貼合する工程と、前記ウエハ加工用テープの下面より突き上げ部材を上昇させることで、前記ウエハ加工用テープを引き伸ばすとともに、前記半導体ウエハを半導体チップに分断し、同時に前記表面保護テープを分断するエキスパンド工程と、を備えることを特徴とする半導体ウエハの加工方法、
(2)半導体ウエハの裏面にウエハ加工用テープが貼合されており、チップ単位にダイシングあるいは切断の起点が形成された半導体ウエハのパターン面に、表面保護テープを貼合する工程と、前記ウエハ加工用テープの下面より突き上げ部材を上昇させることで、前記ウエハ加工用テープと前記表面保護テープを引き伸ばすとともに、前記半導体ウエハを半導体チップに分断するエキスパンド工程と、を備えることを特徴とする半導体ウエハの加工方法、
(3)半導体ウエハのパターン面に、表面保護テープを貼合する工程と、前記半導体ウエハの裏面を研削する工程と、前記ウエハ加工用テープに、研削した前記半導体ウエハの裏面とリングフレームを貼着する工程と、前記表面保護テープを剥離せずに、前記半導体ウエハをチップ単位にダイシングする工程と、前記表面保護テープを剥離せずに、前記ウエハ加工用テープの下面より突き上げ部材を上昇させることで、前記ウエハ加工用テープを引き延ばすとともに、前記半導体ウエハを半導体チップに分断するエキスパンド工程と、を備えることを特徴とする半導体ウエハの加工方法、
(4)前記ウエハ加工用テープが、基材フィルムと粘着剤層と接着剤層を有し、前記粘着剤層によりリングフレームの下面に貼付されており、前記半導体ウエハの裏面は、前記接着剤層に接着されていることを特徴とする(1)ないし(3)のいずれか1項に記載の半導体ウエハの加工方法、
(5)前記表面保護テープが基材フィルムと粘着剤層を積層してなり、前記粘着剤層が単層または複層からなり、前記粘着剤層の少なくとも1層が放射線硬化型であることを特徴とする(1)ないし(4)のいずれか1項に記載の半導体ウエハの加工方法、
(6)リングフレームの下面に貼合されたウエハ加工用テープを、半導体ウエハのパターン面に貼合する工程と、チップ単位に前記半導体ウエハにダイシングあるいは切断の起点を形成する工程と、前記ウエハ加工用テープの下面より突き上げ部材を上昇させることで、前記ウエハ加工用テープを引き延ばすとともに、前記半導体ウエハを半導体チップに分断するエキスパンド工程と、を備えることを特徴とする半導体ウエハの加工方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、エキスパンド工程において、半導体ウエハの分断時のチップ反りを低減し、ピックアップ工程でのチップ反りによるチップ認識不良を低減することが可能な半導体ウエハの加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)〜(c)第1の実施形態に係る半導体ウエハの加工方法を説明する概略断面図。
【図2】リングフレームに固定された半導体ウエハの斜視図。
【図3】(a)〜(b)第1の実施形態に係る半導体ウエハの加工方法の別の例を説明する概略断面図。
【図4】(a)〜(e)第2の実施形態に係る半導体ウエハの加工方法を説明する概略断面図。
【図5】(a)〜(b)第3の実施形態に係る半導体ウエハの加工方法を説明する概略断面図。
【図6】(a)〜(c)半導体ウエハのダイシング工程、エキスパンド工程、及びピックアップ工程を説明する概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下図面に基づいて、本発明に係る実施形態を詳細に説明する。尚、以下の説明および図面において、略同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略することにする。
【0017】
(第1の実施形態)
最初に、図1〜3を参照しながら、本発明に係る半導体ウエハの加工方法の第1の実施形態について説明する。
図1は、第1の実施形態に係る半導体ウエハの加工方法を示す概略断面図、図2は、リングフレーム13に固定された半導体ウエハ1の斜視図、図3は、第1の実施形態に係る半導体ウエハの加工方法の別の例を示す図である。
【0018】
本発明に係る半導体ウエハ1は、回路などが形成されたパターン面3を一方に有するシリコンウエハなどであり、既に裏面研削(バックグラインド)工程と、ダイシング工程が完了しており、半導体ウエハの薄層化と、チップ単位に個片化あるいは、切断の起点となる部位の形成がされている。
【0019】
半導体ウエハ1のパターン面3の裏面には、ウエハ加工用テープ11の接着剤層9が貼合されており、ウエハ加工用テープ11の粘着剤層7は、リングフレーム13の下面に貼合されている。リングフレーム13は、環状の平板であり、金属製や樹脂製、特にステンレス製である。
【0020】
ウエハ加工用テープ11は、基材フィルム5の上に粘着剤層7と接着剤層9をこの順で積層してなる。
【0021】
(基材フィルム)
基材フィルム5を構成する材料としては、従来公知のものであれば特に制限することなく使用することができるが、後述するように、本実施形態においては、粘着剤層7として、エネルギー硬化性の材料のうち放射線硬化性の材料を使用することから、放射線透過性を有するものを使用する。なお、放射線としては紫外線を用いることが好ましく、基材フィルム5は紫外線透過性を有し、粘着剤層7として紫外線硬化性の材料を使用することが好ましい。
【0022】
例えば、その材料として、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリブテン−1、ポリ−4−メチルペンテン−1、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、アイオノマーなどのα−オレフィンの単独重合体または共重合体あるいはこれらの混合物、ポリウレタン、スチレン−エチレン−ブテンもしくはペンテン系共重合体、ポリアミド−ポリオール共重合体等の熱可塑性エラストマー、およびこれらの混合物を列挙することができる。また、基材フィルム5はこれらの群から選ばれる2種以上の材料が混合されたものでもよく、これらが単層又は複層化されたものでもよい。基材フィルム5の厚さは、特に限定されるものではなく、適宜に設定してよいが、50〜200μmが好ましい。
【0023】
(粘着剤層)
粘着剤層7は、基材フィルム5上に粘着剤を塗工して製造することができる。粘着剤層7としては特に制限はなく、例えば、図1(a)に示すウエハ加工用テープ11の場合は、エキスパンドの際に、接着剤層9が剥離しない程度の保持性や、ピックアップの際に、粘着剤層7と接着剤層9との間で剥離するため、接着剤層9との剥離容易性を有するものであればよい。ピックアップ性を向上させるために、粘着剤層7は放射線硬化性のものが好ましく、放射線硬化後、接着剤層9との剥離が容易な材料であることが好ましい。
【0024】
一方、接着剤層9を有さないウエハ加工用テープの場合、エキスパンドの際に、ダイシングされて個片化された半導体チップが剥離しない程度の保持性や、ピックアップの際に、半導体チップとの剥離容易性を有するものであればよい。ピックアップ性を向上させるために、粘着剤層7は放射線硬化性のものが好ましく、放射線硬化後、半導体チップとの剥離が容易な材料であることが好ましい。
【0025】
なお、粘着剤層7は、ダイシングされて個片化された半導体チップを接着固定する接着剤層9の機能を兼ねることもできる。すなわち、ダイシングされて個片化された半導体チップと粘着剤層7とが一体としてピックアップされた後、粘着剤層7が加熱され、半導体チップを所定の位置に固定する接着剤として機能させることもできる。
【0026】
例えば、主鎖に対して、少なくとも放射線硬化性炭素−炭素二重結合含有基、水酸基及びカルボキシル基を含有する基をそれぞれ有するアクリル系共重合体を主成分とし、かつゲル分率が60%以上であることが好ましい。さらには、分子中にヨウ素価0.5〜20の放射線硬化性炭素−炭素二重結合を有する化合物(A)と、ポリイソシアネート類、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂、およびエポキシ樹脂から選ばれた少なくとも1種の化合物(B)を付加反応させてなるポリマーを含有していることが好ましい。
【0027】
粘着剤層7の主成分の1つである化合物(A)について説明する。化合物(A)の放射線硬化性炭素−炭素二重結合の好ましい導入量はヨウ素価で0.5〜20、より好ましくは0.8〜10である。ヨウ素価が0.5以上であると、放射線照射後の粘着力の低減効果を得ることができ、ヨウ素価が20以下であれば、放射線照射後の粘着剤の流動性が十分で、延伸後の素子間隙を十分得ることができるため、ピックアップ時に各素子の画像認識が困難になるという問題が抑制できる。さらに、化合物(A)そのものに安定性があり、製造が容易となる。
【0028】
上記化合物(A)は、ガラス転移点(以下、Tgという)が−70℃〜0℃であることが好ましく、−66℃〜−28℃であることがより好ましい。Tgが−70℃以上であれば、放射線照射に伴う熱に対する耐熱性が十分であり、0℃以下であれば、表面状態が粗い半導体ウエハにおけるダイシング後の素子の飛散防止効果が十分得られる。
【0029】
上記化合物(A)はどのようにして製造されたものでもよいが、例えば、アクリル系共重合体またはメタクリル系共重合体などの放射線硬化性炭素−炭素二重結合を有し、かつ、官能基をもつ化合物((1))と、その官能基と反応し得る官能基をもつ化合物((2))とを反応させて得たものが用いられる。
【0030】
このうち、前記の放射線硬化性炭素−炭素二重結合および官能基を有する化合物((1))は、アクリル酸アルキルエステルまたはメタクリル酸アルキルエステルなどの放射線硬化性炭素−炭素二重結合を有する単量体((1)−1)と、官能基を有する単量体((1)−2)とを共重合させて得ることができる。粘着剤二重結合量については加熱乾燥された粘着剤約10gに含まれる炭素−炭素二重結合量を真空中暗所における臭素付加反応による重量増加法により定量測定できる。
【0031】
単量体((1)−1)としては、炭素数6〜12のヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレート、デシルアクリレート、または炭素数5以下の単量体である、ペンチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルアクリレート、またはこれらと同様のメタクリレートなどを列挙することができる。
【0032】
単量体((1)−1)として、炭素数の大きな単量体を使用するほどガラス転移点は低くなるので、所望のTgのものを作製することができる。また、Tgの他、相溶性と各種性能を上げる目的で酢酸ビニル、スチレン、アクリロニトリルなどの炭素−炭素二重結合をもつ低分子化合物を配合することも単量体((1)−1)の総質量の5質量%以下の範囲内で可能である。
【0033】
単量体((1)−2)が有する官能基としては、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、環状酸無水基、エポキシ基、イソシアネート基などを挙げることができ、単量体((1)−2)の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、ケイ皮酸、イタコン酸、フマル酸、フタル酸、2−ヒドロキシアルキルアクリレート類、2−ヒドロキシアルキルメタクリレート類、グリコールモノアクリレート類、グリコールモノメタクリレート類、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、アリルアルコール、N−アルキルアミノエチルアクリレート類、N−アルキルアミノエチルメタクリレート類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水フマル酸、無水フタル酸、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基の一部を水酸基またはカルボキシル基および放射線硬化性炭素−炭素二重結合を有する単量体でウレタン化したものなどを列挙することができる。
【0034】
化合物(2)において、用いられる官能基としては、化合物(1)、つまり単量体((1)−2)の有する官能基が、カルボキシル基または環状酸無水基である場合には、水酸基、エポキシ基、イソシアネート基などを挙げることができ、水酸基である場合には、環状酸無水基、イソシアネート基などを挙げることができ、アミノ基である場合には、エポキシ基、イソシアネート基などを挙げることができ、エポキシ基である場合には、カルボキシル基、環状酸無水基、アミノ基などを挙げることができ、具体例としては、単量体((1)−2)の具体例で列挙したものと同様のものを列挙することができる。
【0035】
化合物(1)と化合物(2)の反応において、未反応の官能基を残すことにより、酸価または水酸基価などの特性に関して、本発明で規定するものを製造することができる。
【0036】
上記の化合物(A)の合成において、反応を溶液重合で行う場合の有機溶剤としては、ケトン系、エステル系、アルコール系、芳香族系のものを使用することができるが、中でもトルエン、酢酸エチル、イソプロピルアルコール、ベンゼンメチルセロソルブ、エチルセロソルブ、アセトン、メチルエチルケトンなどの、一般にアクリル系ポリマーの良溶媒で、沸点60〜120℃の溶剤が好ましく、重合開始剤としては、α,α’−アゾビスイソブチルニトリルなどのアゾビス系、ベンゾイルペルオキシドなどの有機過酸化物系などのラジカル発生剤を通常用いる。この際、必要に応じて触媒、重合禁止剤を併用することができ、重合温度および重合時間を調節することにより、所望の分子量の化合物(A)を得ることができる。また、分子量を調節することに関しては、メルカプタン、四塩化炭素系の溶剤を用いることが好ましい。なお、この反応は溶液重合に限定されるものではなく、塊状重合、懸濁重合など別の方法でも差し支えない。
【0037】
以上のようにして、化合物(A)を得ることができるが、化合物(A)の重量平均分子量は、30万〜100万程度が好ましい。30万未満では、放射線照射による凝集力が小さくなって、半導体ウエハをダイシングする時に、チップのずれが生じやすくなり、画像認識が困難となることがある。このチップのずれを、極力防止するためには、重量平均分子量が、40万以上である方が好ましい。また、重量平均分子量が100万を越えると、合成時および塗工時にゲル化する可能性がある。なお、本発明における重量平均分子量とは、ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0038】
なお、化合物(A)が、水酸基価5〜100となる水酸基を有すると、放射線照射後の粘着力を減少することによりピックアップミスの危険性をさらに低減することができるので好ましい。また、化合物(A)が、酸価0.5〜30となるカルボキシル基を有することが好ましい。
【0039】
ここで、化合物(A)の水酸基価が低すぎると、放射線照射後の粘着力の低減効果が十分でなく、高すぎると、放射線照射後の粘着剤の流動性を損なう傾向がある。また酸価が低すぎると、テープ復元性の改善効果が十分でなく、高すぎると粘着剤の流動性を損なう傾向がある。
【0040】
つぎに、粘着剤層7のもう1つの主成分である化合物(B)について説明する。化合物(B)は、ポリイソシアネート類、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂、およびエポキシ樹脂から選ばれる化合物であり、単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。この化合物(B)は架橋剤として働き、化合物(A)または基材フィルム5と反応した結果できる架橋構造により、化合物(A)および(B)を主成分とした粘着剤の凝集力を、粘着剤塗布後に向上することができる。
【0041】
ポリイソシアネート類としては、特に制限がなく、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート、4,4’−〔2,2−ビス(4−フェノキシフェニル)プロパン〕ジイソシアネート等の芳香族イソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチル−ヘキサメチレンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジントリイソシアネート等が挙げられる。具体的には、コロネートL(日本ポリウレタン株式会社製、商品名)等を用いることができる。
【0042】
また、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂としては、具体的には、ニカラックMX−45(三和ケミカル株式会社製、商品名)、メラン(日立化成工業株式会社製、商品名)等を用いることができる。さらに、エポキシ樹脂としては、TETRAD−X(三菱化学株式会社製、商品名)等を用いることができる。
【0043】
(B)の添加量としては、化合物(A)100質量部に対して0.1〜10質量部、好ましくは0.4〜3質量部の割合となるよう、選択することが必要である。この範囲内で選択することにより、適切な凝集力とすることができ、急激に架橋反応が進行することはないので、粘着剤の配合や塗布等の作業性が良好となる。
【0044】
また、粘着剤層7には、光重合開始剤(C)が含まれていることが好ましい。粘着剤層7の含まれる光重合開始剤(C)に特に制限はなく、従来知られているものを用いることができる。例えば、ベンゾフェノン、4,4’−ジメチルアミノベンゾフェノン、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、アセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン等のアセトフェノン類、2−エチルアントラキノン、t−ブチルアントラキノン等のアントラキノン類、2−クロロチオキサントン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジル、2,4,5−トリアリ−ルイミダゾール二量体(ロフィン二量体)、アクリジン系化合物等を挙げることができ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。(C)の添加量としては、化合物(A)100質量部に対して0.1〜10質量部とすることが好ましく、0.5〜5質量部とすることがより好ましい。
【0045】
さらに、放射線硬化性の粘着剤には必要に応じて粘着付与剤、粘着調整剤、界面活性剤など、あるいはその他の改質剤等を配合することができる。また、無機化合物フィラーを適宜加えてもよい。粘着剤層7の厚さは少なくとも5μm、より好ましくは10μm以上であることが好ましい。なお、粘着剤層7は複数の層が積層された構成であってもよい。
【0046】
(接着剤層)
接着剤層9は、半導体ウエハが貼り合わされ分断された後、チップをピックアップする際に、分断された接着剤層9が粘着剤層7から剥離してチップに付着しており、チップをパッケージ基板やリードフレームに固定する際のボンディングフィルムとして機能するものである。
【0047】
接着剤層9としては、特に限定されるものではないが、接着フィルムとして一般的に使用されるフィルム状接着剤を好適に使用することができ、ポリイミド系接着剤、アクリル系粘接着剤、エポキシ樹脂/フェノール樹脂/アクリル樹脂/無機フィラーのブレンド系粘接着剤等が好ましい。その厚さは適宜設定してよいが、5〜100μm程度が好ましい。
【0048】
ウエハ加工用テープ11は、予め円形形状にカットされた接着剤層9としての接着フィルムを、粘着剤層7上に、室温または加熱して圧力をかけてラミネートすることによって形成することができる。
【0049】
また、ウエハ加工用テープ11は、半導体ウエハ1枚分毎に切り分けられた形態と、これが複数形成された長尺のフィルムをロール状に巻き取った形態とを含む。
【0050】
(表面保護テープ)
表面保護テープ19は、基材フィルム15と粘着剤層17とからなり、基材フィルム15は、基材フィルム5に使用される材料と同様の材料を使用することができ、粘着剤層17は、粘着剤層7に使用される材料と同様の材料を使用することができる。また、粘着剤層は単層または複層からなり、少なくとも1層が放射線硬化型である。
【0051】
(ウエハ加工方法の説明)
次に、図1〜図3を用いて、第1の実施形態に係る半導体ウエハの加工方法を説明する。
まず、裏面研削した半導体ウエハ1の裏面を、ウエハ加工用テープ11の接着剤層9に接着する。ウエハ加工用テープ11は、予めリングフレーム13の下面に貼着されており、半導体ウエハ1は、リングフレーム13に固定される。リングフレーム13に固定された半導体ウエハ1の斜視図を、図2に示す。
続いて、フルカットダイシングもしくはレーザーグルービングによるウエハダイシングまたはステルスダイシング法によりウエハへの切断の起点となる部位の形成をした図1(a)に示す半導体ウエハ1を得る。
【0052】
続いて、図1(b)に示すように、半導体ウエハ1のパターン面3に表面保護テープ19を貼り合わせる。ここで、表面保護テープは、図1(b)に示すようなリングフレーム13の部分を覆う状態まで貼合されている状態に限定されず、ウエハ1のみ、もしくはウエハ1と接着剤層9、ウエハ加工用テープ11上の部分に貼合されている状態でもよい。
【0053】
なお、半導体ウエハ1をダイシングする工程に先立って、表面保護テープ19の貼り合わせを実施してもよい。ステルスダイシング法などを用いればレーザー光が表面保護テープ19を透過し、表面保護テープ19を切断することなく、ウエハ1のみに切断の起点となる部位の形成を行なうことができる。
【0054】
その後、図1(c)に示すように、中空円柱形状の突き上げ部材21がウエハ加工用テープ11の下面より上昇し、ウエハ加工用テープ11をリングフレーム13の周方向に引き伸ばすエキスパンド工程を行う。エキスパンド工程において、表面保護テープ19はあらかじめチップ単位にハーフダイシング等により切断の起点となる部位が形成されている。このような表面保護テープ19を半導体ウエハ1に貼合し、表面保護テープ19の切断の起点と合わせて、半導体ウエハ1にチップ単位に切断の起点となる部位を形成する。表面保護テープ19は、引き伸ばされることで、半導体チップ23とともに分断される。
【0055】
エキスパンド工程によりチップ同士の間隔を広げ、CCDカメラ等によるチップの認識性を高めるとともに、ピックアップの際に隣接するチップ同士が接触することによって生じるチップ同士の再接着を防止することができる。
【0056】
エキスパンド工程を実施した後、ウエハ加工用テープ11をエキスパンドした状態のままで、半導体チップ23及び接着剤層9をピックアップするピックアップ工程を実施する。
【0057】
また、図3(a)と図3(b)に示すとおり、第1の実施形態の別の例では、表面保護テープ19が高い伸縮性を有し、エキスパンド工程において、半導体チップ23は分断されるが、表面保護テープ19が分断されることはなく、伸びるだけである。この後、表面保護テープ側からUV照射し、転写テープなどで剥離することができる。
【0058】
第1の実施の形態によれば、反りの発生しやすい半導体ウエハのパターン面が表面保護テープで保護されているため、エキスパンド工程においても、パターン面の反りを防止することができる。
【0059】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。以下の実施形態で第1の実施形態と同一の様態を果たす要素には同一の番号を付し、重複した説明は避ける。
図4は、第2の実施形態に係る半導体ウエハの加工方法を示す図である。
【0060】
第2の実施形態においては、裏面研削工程で用いる表面保護テープを、裏面研削工程後に剥離することなく、エキスパンド工程まで貼付したままにし、反り防止目的のテープとして使用することが特徴である。
【0061】
表面保護テープ19の粘着剤17は、紫外線により硬化する特性を有することが好ましい。これにより、紫外線を照射することで表面保護テープの粘着力が低下し、エキスパンド分断後のチップからの剥離が容易となる。
【0062】
図4(a)に示すように、半導体ウエハ1のパターン面3に表面保護テープ19を貼付する。その後、図4(b)に示すように、半導体ウエハ1の裏面を研削ホイール25により研削し、裏面研削工程を行う。
【0063】
図4(c)に示すように、裏面研削工程により、半導体ウエハ1を薄くする。例えば、元の厚さ750μmの半導体ウエハ1を、200μm以下まで薄くする。
【0064】
その後、図4(d)に示すように、半導体ウエハ1の裏面をウエハ加工用テープ11に貼着し、半導体ウエハ1をリングフレーム13に固定する。
【0065】
その後、図4(e)に示すように、ダイシング工程を行い、表面保護テープ19、半導体ウエハ1、接着剤9を切断し、半導体チップ単位に個片化する。あるいは、ステルスダイシングの場合は、半導体チップ単位に切断の起点となる部位の形成を行ない、あらかじめチップ単位にハーフダイシング等により切断の起点となる部位を形成した保護テープ19を貼合する。
【0066】
その後は、第1の実施形態と同様、突き上げ部材21を用いて、エキスパンド工程を行い、半導体チップ23とともに分断される。
【0067】
第2の実施形態によれば、反りの発生しやすいパターン面が表面保護テープ19と貼合しているため、エキスパンド工程においても、パターン面に反りが発生しない。
【0068】
また、第2の実施形態によれば、バックグラインド工程終了後、表面保護テープを剥離することなく、エキスパンド工程を行うことができるため、表面保護テープの剥離時に半導体ウエハが損傷することを防ぐことができる。
【0069】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。
図5は、第3の実施形態に係る半導体ウエハの加工方法を示す図である。
【0070】
第3の実施形態においては、図5(a)に示すとおり、半導体ウエハ1を、パターン面3を下向きにし、ウエハ加工用テープ11に貼合することで、リングフレーム13に固定する。その後、半導体ウエハ1をダイシングし、半導体ウエハ1と接着剤層9をチップ単位に切断し、図5(a)に示す半導体ウエハ1を得る。
【0071】
続いて、図5(b)に示すとおり、第1の実施形態と同様にエキスパンド工程を行う。
【0072】
第3の実施形態によれば、反りの発生しやすいパターン面がウエハ加工用テープ11と貼合しているため、表面保護テープを使用することなく、エキスパンド工程においても、パターン面の反りを防止することができる。
【0073】
以上、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0074】
1………半導体ウエハ
3………パターン面
5………基材フィルム
7………粘着剤層
9………接着剤層
11………ウエハ加工用テープ
13………リングフレーム
15………基材フィルム
17………粘着剤層
19………表面保護テープ
21………突き上げ部材
23………半導体チップ
25………研削ホイール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ウエハの裏面にウエハ加工用テープが貼合されており、
チップ単位にダイシングあるいは切断の起点が形成された半導体ウエハのパターン面に、
チップ単位にハーフカットまたは切断の起点が形成された表面保護テープを貼合する工程と、
前記ウエハ加工用テープの下面より突き上げ部材を上昇させることで、前記ウエハ加工用テープを引き伸ばすとともに、前記半導体ウエハを半導体チップに分断し、同時に前記表面保護テープを分断するエキスパンド工程と、
を備えることを特徴とする半導体ウエハの加工方法。
【請求項2】
半導体ウエハの裏面にウエハ加工用テープが貼合されており、チップ単位にダイシングあるいは切断の起点が形成された半導体ウエハのパターン面に、表面保護テープを貼合する工程と、
前記ウエハ加工用テープの下面より突き上げ部材を上昇させることで、前記ウエハ加工用テープと前記表面保護テープを引き伸ばすとともに、前記半導体ウエハを半導体チップに分断するエキスパンド工程と、
を備えることを特徴とする半導体ウエハの加工方法。
【請求項3】
半導体ウエハのパターン面に、表面保護テープを貼合する工程と、
前記半導体ウエハの裏面を研削する工程と、
前記ウエハ加工用テープに、研削した前記半導体ウエハの裏面とリングフレームを貼着する工程と、
前記表面保護テープを剥離せずに、前記半導体ウエハをチップ単位にダイシングする工程と、
前記表面保護テープを剥離せずに、前記ウエハ加工用テープの下面より突き上げ部材を上昇させることで、前記ウエハ加工用テープを引き延ばすとともに、前記半導体ウエハを半導体チップに分断するエキスパンド工程と、
を備えることを特徴とする半導体ウエハの加工方法。
【請求項4】
前記ウエハ加工用テープが、基材フィルムと粘着剤層と接着剤層を有し、前記粘着剤層によりリングフレームの下面に貼付されており、
前記半導体ウエハの裏面は、前記接着剤層に接着されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の半導体ウエハの加工方法。
【請求項5】
前記表面保護テープが基材フィルムと粘着剤層を積層してなり、
前記粘着剤層が単層または複層からなり、
前記粘着剤層の少なくとも1層が放射線硬化型であること
を特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の半導体ウエハの加工方法。
【請求項6】
リングフレームの下面に貼合されたウエハ加工用テープを、半導体ウエハのパターン面に貼合する工程と、
チップ単位に前記半導体ウエハにダイシングあるいは切断の起点を形成する工程と、
前記ウエハ加工用テープの下面より突き上げ部材を上昇させることで、前記ウエハ加工用テープを引き延ばすとともに、前記半導体ウエハを半導体チップに分断するエキスパンド工程と、
を備えることを特徴とする半導体ウエハの加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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