説明

半導体レーザ装置

【課題】半導体レーザ装置の高温特性を向上させる。
【解決手段】活性層3の上部には、光を活性層3に閉じ込めるための光ガイド層4が形成されており、光ガイド層4の上部には、MgやZnをドーパントとして含むp型クラッド層5が形成されている。光ガイド層4は、アンドープAlGaInPからなる第1光ガイド層4aと、SiドープAlGaInPからなるSiドープ層4bと、アンドープAlGaInPからなる第2光ガイド層4cとをこの順に積層した3層構造で構成されている。Siドープ層4bは、p型クラッド層5内のp型ドーパント(Mg、Zn)が活性層3に拡散するのを抑える拡散防止層であり、その膜厚は2nm〜20nm、Si濃度は2×1017cm−3〜1×1018cm−3である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ装置に関し、特に、半導体レーザ装置の高温特性の向上に適用して有効な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、活性層を挟んで導電型が互いに異なるクラッド層を設けるダブルヘテロ接合構造の半導体レーザ装置においては、クラッド層内のドーパントが活性層へ拡散することに起因する閾値電流の上昇や信頼性の低下が問題視されていた。
【0003】
その対策として、特許文献1(特許第3146501号)は、活性層の上部に形成されるp型AlGaInPクラッド層内のp型ドーパント(Zn)が活性層に拡散するのを抑えるために、p型クラッド層と活性層との間にSiドープAlGaInP拡散防止層(膜厚=30nm)を設ける技術を開示している。
【0004】
特許文献2(特開平04−100288号公報)は、p型AlGaInPクラッド層と活性層との間にSiドープAlGaInPバリア層(Si濃度=5×1017cm−3〜1×1018cm−3、膜厚=10nm〜300nm)を設けると共に、p型クラッド層のドーパントをZnからMgに置き換える技術を開示している。
【0005】
特許文献3(特開平04−199587号公報)は、p型InPクラッド層から活性層へのp型ドーパント(Zn)の拡散を抑えるために、活性層の上部にGaInAsP光ガイド層を介してSiドープInP拡散抑制層(Si濃度=6×1018cm−3、膜厚=300nm)を設ける技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3146501号
【特許文献2】特開平04−100288号公報
【特許文献3】特開平04−199587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
レーザープリンター用光源などに利用されている赤色半導体レーザは、近年、小型プロジェクタ用赤色光源などへの応用が進められている。
【0008】
赤色半導体レーザをプロジェクタ用光源として用いる場合には、プロジェクタの高輝度化に対応した高温・高出力動作、あるいは短波長化による視感度の向上が要求される。また、赤色半導体レーザに対しては、従来より携帯機器用途や車載用途に向けた高温動作対応の要求もある。
【0009】
半導体レーザの高温特性は、活性層の上部に形成されるp型クラッド層内のp型ドーパントプロファイルによって左右され、p型ドーパントの濃度を活性層直上まで高くすることで特性が向上することが知られている。しかし、このようにした場合は、p型クラッド層内のp型ドーパントが熱履歴によって活性層に拡散し易くなるので、閾値電流が上昇して消費電流が増加したり、信頼性が低下したりする。
【0010】
p型ドーパントが活性層に拡散するのを防止する技術として、前述した特許文献1〜3のように、活性層の上部にn型ドーパントであるSiを含んだ半導体層(Siドープ層)を設ける技術が知られているが、これらの特許文献に開示されたSiドープ層は、Si濃度が比較的高く、膜厚も大きいという特徴がある。
【0011】
そのため、この技術を適用した場合は、p型クラッド層内におけるp型ドーパントの効果がn型ドーパント(Si)によって打ち消され、p型クラッド層内のキャリア濃度が低下してしまうので、高温特性の改善効果が得られなくなってしまう。
【0012】
本発明の目的は、消費電流の増加や信頼性の低下を引き起こすことなく、半導体レーザ装置の高温特性を向上させる技術を提供することにある。
【0013】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0015】
本願発明の好ましい一態様は、半導体基板の主面上に少なくともn型クラッド層、活性層、光ガイド層、およびp型クラッド層がこの順に積層された半導体レーザ装置であって、前記光ガイド層は、アンドープの半導体層からなる第1光ガイド層と、Siをドーパントとして含むSiドープ層と、アンドープの半導体層からなる第2光ガイド層とをこの順に積層した3層構造で構成されているものである。
【発明の効果】
【0016】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0017】
活性層直上のp型ドーパントの濃度を高くしても、p型ドーパントが活性層に拡散するのを防止することが可能となるので、半導体レーザ装置の高温・高出力特性の改善と高い信頼性とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態である半導体レーザ装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】SIMS分析法による本発明の半導体レーザ装置の活性層と第1光ガイド層との界面近傍におけるp型ドーパントのプロファイルを示すグラフである。
【図3】SIMS分析法による比較例の半導体レーザ装置の活性層と第1光ガイド層との界面近傍におけるp型ドーパントのプロファイルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なときを除き、同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0020】
本実施の形態は、640nmの発振波長を有するAlGaInP系の赤色半導体レーザ装置に適用したものであり、図1は、この半導体レーザ装置の概略構成を示す断面図である。
【0021】
例えばn型GaAsからなる基板1の主面上には、n型クラッド層2が形成されており、n型クラッド層2の上部には、活性層3が形成されている。n型クラッド層2は、Siをドーパントとして含むAlGaInP層(またはAlInP層)で構成されており、活性層3は、例えばアンドープAlGaInPからなる障壁層とアンドープGaInP(またはAlGaInP)からなる井戸層とを交互に5層程度積層した多重量子井戸(Multi Quantum Well:MQW)構造で構成されている。
【0022】
上記活性層3の上部には、光を活性層3に閉じ込めるための光ガイド層4が形成されており、光ガイド層4の上部には、MgまたはZnをドーパントとして含むp型クラッド層5が形成されている。
【0023】
上記光ガイド層4は、主としてアンドープAlGaInPで構成されているが、中間層として、Siをドーパントとして含むAlGaInPからなるSiドープ層4bを有している。言い換えると、光ガイド層4は、アンドープAlGaInPからなる第1光ガイド層4aと、SiドープAlGaInPからなるSiドープ層4bと、アンドープAlGaInPからなる第2光ガイド層4cとをこの順に積層した3層構造で構成されている。
【0024】
光ガイド層4の中間層である上記Siドープ層4bは、p型クラッド層5内のp型ドーパント(Mg、Zn)が活性層3に拡散するのを抑える拡散防止層であり、その膜厚は、2nm〜20nm、好ましくは2nm〜10nmであり、Si濃度は、2×1017cm−3〜1×1018cm−3である。
【0025】
上記Siドープ層4bの膜厚が2nm未満である場合は、p型クラッド層5内のp型ドーパント(Mg、Zn)が活性層3に拡散するのを抑えることが困難となり、素子の閾値電流が上昇して消費電流が増加したり、信頼性が低下したりする恐れがある。一方、Siドープ層4bの膜厚が20nmを超えた場合は、p型クラッド層5から活性層3の直上に拡散するp型ドーパント(Mg、Zn)の効果がSiドープ層4b内のn型ドーパント(Si)によって打ち消され、活性層3の直上のp型キャリア濃度が低下してしまうので、高温特性の改善効果を得ることが困難となる。
【0026】
また、上記Siドープ層4bの膜厚が2nm〜20nmの範囲であっても、Siドープ層4bのSi濃度が2×1017cm−3未満の場合は、p型クラッド層5内のp型ドーパントが活性層3に拡散するのを抑えることが困難となる。一方、Si濃度が1×1018cm−3を超えた場合は、活性層3の直上におけるp型ドーパントの効果がSiドープ層4b内のn型ドーパントによって打ち消され、活性層3の直上のp型キャリア濃度が低下してしまう。
【0027】
上記Siドープ層4bと活性層3との間に介在するアンドープの第1光ガイド層4aは、活性層3の直上にSiをできるだけ含まない領域を設け、活性層3の直上のp型キャリア濃度を確保するために形成される。
【0028】
従って、第1光ガイド層4aの膜厚は、少なくとも5nm以上必要であり、Siは拡散係数の小さい材料であるが、5nm未満ではSiドープ層4bから第1光ガイド層4aに拡散するSiの影響によってp型ドーパントの効果が打ち消され、活性層3の直上のp型キャリア濃度が低下してしまう。一方、第1光ガイド層4aの膜厚が15nmを超えると、p型クラッド層5から第1光ガイド層4aに拡散するp型ドーパント(Mg、Zn)が活性層3の直上まで到達するのが困難となり、この場合も活性層3の直上のp型キャリア濃度が低下してしまう。従って、第1光ガイド層4aの膜厚は、5nm〜15nmとするのが好ましい。
【0029】
上記Siドープ層4bの上部の第2光ガイド層4cの膜厚は、第1光ガイド層4a、Siドープ層4bおよび第2光ガイド層4cの3層を合計した膜厚が光ガイド層4として必要な条件を満たし、かつ、p型クラッド層5内のp型ドーパント(Mg、Zn)が活性層3の直上まで到達し得る膜厚とする。具体的には、第1光ガイド層4aおよびSiドープ層4bのそれぞれの膜厚が前述の範囲内である場合、第2光ガイド層4cの膜厚は、5nm〜100nm程度とするのが好ましい。
【0030】
光ガイド層4の上部に形成されたp型クラッド層5は、MgやZnをドーパントとして含むAlGaInPからなり、Mg濃度は5×1017cm−3〜1.5×1018cm−3である。
【0031】
p型クラッド層5の上部には、エッチングストッパ層6が形成されており、エッチングストッパ層6の上部には、凸形の断面形状を有し、図1の紙面に垂直な方向に沿ってストライプ状に延在するリッジ部(リッジ導波路)7が形成されている。
【0032】
上記エッチングストッパ層6およびリッジ部7は、MgやZnをドーパントとして含むp型AlGaInP層(またはp型AlInP層)で構成されているが、エッチングストッパ層6は、p型AlGaInP層(またはp型AlInP層)をエッチングしてリッジ部7を形成する際にエッチングストッパとして機能できるよう、リッジ部7とは異なる組成のAlGaInP層で構成されている。
【0033】
なお、p型AlGaInP層(またはp型AlInP層)のエッチング条件を良好に制御できる場合は、エッチングストッパ層6を省略してもよい。すなわち、この場合は、p型クラッド層5をエッチングしてその一部にリッジ部7を形成する。
【0034】
上記リッジ部7の上面には、1×1019cm−3以上の不純物濃度が比較的容易に得られ、より良好なコンタクト抵抗を得ることができるZnをドーパントとして含むGaAsからなるp型コンタクト層8が形成されており、リッジ部7およびp型コンタクト層8のそれぞれの側壁と、リッジ部7の両側の平坦部(エッチングストッパ層6の上面)とには、酸化シリコンからなるパッシベーション膜9が形成されている。
【0035】
上記した各半導体層(n型クラッド層2、活性層3、第1光ガイド層4a、Siドープ層4b、第2光ガイド層4c、p型クラッド層5、エッチングストッパ層6、リッジ部7、p型コンタクト層8)は、MOCVD法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属成長法)を用いて基板1の主面上に順次堆積される。また、パッシベーション膜9は、p型コンタクト層8が形成された基板1上にCVD法で酸化シリコン膜を堆積した後、p型コンタクト層8の上部の酸化シリコン膜を選択的にエッチングし、p型コンタクト層8の上面を露出させることによって形成される。なお、プロセス中の熱履歴により、MgやZnが拡散して来るため、最終構造の第1光ガイド層4a、Siドープ層4b、第2光ガイド層4cは、MgやZnが含まれた層となる。
【0036】
パッシベーション膜9の上部には、p型コンタクト層8に電気的に接続されるp側電極10が形成されており、基板1の裏面にはn側電極11が形成されている。p側電極10およびn側電極11は、例えばTi膜の上部にPt膜およびAu膜を順次積層した金属膜からなる。
【0037】
図2は、SIMS分析法(二次イオン質量分析法:Secondary Ion Mass Spectrometry)による活性層3と第1光ガイド層4aとの界面近傍におけるp型ドーパント(Mg)のプロファイルを示すグラフであり、Mg−1は、光ガイド層4の中間にSiドープ層4bを設けた本実施の形態のプロファイルを示し、Mg−2は、光ガイド層4をアンドープAlGaInPのみで構成した比較例のプロファイルを示している。なお、本実施の構造について、第1光ガイド層4aの膜厚は10nmであり、Siドープ層4bの膜厚は2nm、Si濃度は3×1017cm−3であり、第2光ガイド層4cの膜厚は13nmである。
【0038】
図2に示すように、本実施の形態によれば、活性層3内のp型ドーパント(Mg)の拡散深さが比較例に比べて20nm程度浅くなることが判る。これは、光ガイド層4の中間にSiドープ層4bを設けることにより、活性層3へのp型ドーパントの拡散が抑制されるので、閾値電流の上昇(=消費電流の増加)や信頼性の低下が抑制されることを意味している。
【0039】
図3は、SIMS分析法による活性層3と第1光ガイド層4aとの界面近傍におけるp型ドーパント(Mg)のプロファイルを示すグラフであり、Mg−3は、実施の形態であるMg−1とp型ドーパント(Mg)の拡散深さが同等になるように、p型ドーパント(Mg)のドーピングの深さを調整した比較例である。
【0040】
図3に示すように、本実施例の形態によれば、活性層直上(活性層への入り口から10nm手前)のp型ドーパント(Mg)の濃度が8×1017cm−3であり、比較例の5×1017cm−3に比べて高いことが判る。これは、光ガイド層4の中間にSiドープ層4bを設けることにより、活性層3の直上のp型キャリア濃度がより高濃度になるので、高温特性が向上することを意味している。
【0041】
このように、活性層3とその上部のp型クラッド層5との間に、アンドープAlGaInPからなる第1光ガイド層4aと、SiドープAlGaInPからなるSiドープ層4bと、アンドープAlGaInPからなる第2光ガイド層4cとをこの順に積層した3層構造の光ガイド層4を設けることにより、p型クラッド層5内のp型ドーパントが活性層3に拡散するのを抑制しつつ、活性層3の直上のp型キャリア濃度を高くすることができる。
【0042】
これにより、p型ドーパントが活性層3に拡散することに起因する閾値電流の上昇(消費電流の増加)や信頼性の低下を引き起こすことなく、半導体レーザ装置の高温特性を向上させることが可能となる。
【0043】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0044】
例えば前記実施の形態では、AlGaInP系の赤色半導体レーザ装置に適用したが、AlGaAs系やInP系のより長波長の発振波長を有するダブルヘテロ接合構造の半導体レーザ装置、あるいはGaN系のより短波長の発振波長を有するダブルヘテロ接合構造の半導体レーザ装置に適用することもできる。
【0045】
また、前記実施の形態では、凸状のリッジ部を有するシングルモード(単一横モード)の半導体レーザ装置に適用したが、マルチモード(多重横モード)の半導体レーザ装置に適用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、半導体レーザ装置の高温特性の向上に適用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 基板(半導体基板)
2 n型クラッド層
3 活性層
4 光ガイド層
4a 第1光ガイド層
4b Siドープ層
4c 第2光ガイド層
5 p型クラッド層
6 エッチングストッパ層
7 リッジ部(リッジ導波路)
8 p型コンタクト層
9 パッシベーション膜
10 p側電極
11 n側電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板の主面上に少なくともn型クラッド層、活性層、光ガイド層、およびp型クラッド層がこの順に積層された半導体レーザ装置であって、
前記光ガイド層は、アンドープの半導体層からなる第1光ガイド層と、Siをドーパントとして含むSiドープ層と、アンドープの半導体層からなる第2光ガイド層とをこの順に積層した3層構造で構成されていることを特徴とする半導体レーザ装置。
【請求項2】
前記Siドープ層の膜厚は、2nm〜20nmであり、Si濃度は、2×1017cm−3〜1×1018cm−3であることを特徴とする請求項1記載の半導体レーザ装置。
【請求項3】
前記第1光ガイド層の膜厚は、5nm〜15nmであることを特徴とする請求項2記載の半導体レーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−41960(P2013−41960A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177505(P2011−177505)
【出願日】平成23年8月15日(2011.8.15)
【出願人】(301005371)日本オクラロ株式会社 (311)
【Fターム(参考)】