説明

半導体発光素子およびその製造方法

【課題】良好な発光特性を有する半導体発光素子およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】ZnOからなる成長基板を用いて成長した、Inを含むAlGaInN系材料からなり、成長面が窒素極性面を有する緩衝層と、前記緩衝層上に形成され、Inを含むAlGaInN系材料からなり、成長面がIII族極性面を有する活性層と、を備える。また、ZnOからなる成長基板上に、Inを含むAlGaInN系材料からなり、成長面が窒素極性面を有する緩衝層を成長する緩衝層形成工程と、前記緩衝層上に、Inを含むAlGaInN系材料からなり、成長面がIII族極性面を有する活性層を成長する活性層形成工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体発光素子等に使用するための結晶品質の良いInGaN層(InN層を含む)を実現する方法として、ZnO基板上に、500℃未満の温度でInGaN層を成長する技術が開示されている(特許文献1参照)。特許文献1によれば、上記技術を用いることによって、結晶成長時にZnOとInGaNとの界面反応が起こらないようにすることができるので、ZnO基板と格子整合した、結晶品質の良いInGaN層を実現できるとされている。
【0003】
また、結晶品質の良いInGaN層を実現する他の方法として、窒素極性表面を有するInGaN層を用いる方法が開示されている(特許文献2参照)。特許文献2によれば、上記方法を用いることによって、より高い成長温度で結晶成長を行うことができるので、結晶品質の良いInGaN層を実現できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−053640号公報
【特許文献2】特開2004−140339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らが、ZnO基板上に500℃未満の温度でInGaN層を成長し、その発光特性を評価したところ、発光スペクトルの半値幅が広く、十分な強度の発光が得られないという問題があることを見出した。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、良好な発光特性を有する半導体発光素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る半導体発光素子は、ZnOからなる成長基板を用いて成長した、Inを含むAlGaInN系材料からなり、成長面が窒素極性面を有する緩衝層と、前記緩衝層上に形成され、Inを含むAlGaInN系材料からなり、成長面がIII族極性面を有する活性層と、を備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る半導体発光素子は、上記の発明において、前記成長基板の主表面の面方位がc面であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る半導体発光素子は、上記の発明において、前記成長基板の主表面はc面から微傾斜した微傾斜面であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る半導体発光素子は、上記の発明において、前記成長基板の主表面は酸素極性面であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る半導体発光素子は、上記の発明において、端面発光型レーザ素子または発光ダイオードであることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る半導体発光素子は、上記の発明において、前記緩衝層は、前記成長基板を用いて成長した、ZnMgBeCdO系材料からなる低屈折率層と高屈折率層とが交互に積層した構造からなる多層膜反射鏡の直上に成長したものであり、当該半導体発光素子は面発光レーザ素子であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る半導体発光素子は、上記の発明において、前記成長基板を支持基板として備えることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る半導体発光素子の製造方法は、ZnOからなる成長基板上に、Inを含むAlGaInN系材料からなり、成長面が窒素極性面を有する緩衝層を成長する緩衝層形成工程と、前記緩衝層上に、Inを含むAlGaInN系材料からなり、成長面がIII族極性面を有する活性層を成長する活性層形成工程と、を含むことを特徴とする。
【0015】
た、本発明に係る半導体発光素子の製造方法は、上記の発明において、前記活性層形成工程において、前記緩衝層形成工程における前記緩衝層の成長温度よりも高い温度で前記活性層を成長することを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る半導体発光素子の製造方法は、上記の発明において、前記緩衝層形成工程において、500℃より低い温度で前記緩衝層を成長し、前記活性層形成工程において、500℃より高い温度で前記活性層を成長することを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る半導体発光素子の製造方法は、上記の発明において、前記緩衝層形成工程から前記活性層形成工程への昇温時において、III族及び窒素ラジカルの供給を停止することを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る半導体発光素子の製造方法は、上記の発明において、前記緩衝層形成工程において、始めに窒素ラジカルを供給し、次いでIII族元素を供給して、前記緩衝層を成長することを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る半導体発光素子の製造方法は、上記の発明において、前記活性層形成工程において、始めにIII族元素を供給し、次いで窒素ラジカルを供給して、前記活性層を成長することを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係る半導体発光素子の製造方法は、上記の発明において、前記緩衝層形成工程において、III族元素に対して窒素ラジカルが1:1の比よりも過剰になるように供給して、前記緩衝層を成長することを特徴とする。
【0021】
また、本発明に係る半導体発光素子の製造方法は、上記の発明において、前記活性層形成工程において、窒素ラジカルに対してIII族元素が1:1の比よりも過剰になるように供給して、前記活性層を成長することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、良好な発光特性を有する半導体発光素子を実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、実施の形態1に係る半導体発光素子の模式的な断面図である。
【図2】図2は、AlGaInN系材料の結晶格子のa軸方向の格子定数(a)とバンドギャップエネルギーとの関係を示す図である。
【図3】図3は、AlGaInN系材料の格子定数(a)と屈折率との関係を示す図である。
【図4】図4は、比較例1に係る半導体発光素子の模式的な断面図である。
【図5】図5は、実施例1に係る半導体発光素子の模式的な断面図である。
【図6】図6は、ABF-STEM法を用いて得られた、実施例1の半導体発光素子の発光層と活性層とを含むInGaN層の像を示す図である。
【図7】図7は、ABF-STEM法を用いて得られた、実施例1の半導体発光素子の緩衝層の像を示す図である。
【図8】図8は、比較例1に係る半導体発光素子の発光スペクトルを示す図である。
【図9】図9は、実施例1に係る半導体発光素子の発光スペクトルを示す図である。
【図10】図10は、実施の形態2に係る半導体発光素子の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、図面を参照して本発明に係る半導体発光素子およびその製造方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0025】
(実施の形態1)
はじめに、本発明の実施の形態1に係る半導体発光素子について説明する。本実施の形態1に係る半導体発光素子は、レーザ発振波長が530nmの端面発光型のレーザ素子である。
【0026】
図1は、本実施の形態1に係る半導体発光素子の模式的な断面図である。図1に示すように、本実施の形態1に係る半導体発光素子100は、基板1と、基板1上に順次形成された、緩衝層2と、下部コンタクト層3と、下部クラッド層4と、活性層5と、上部クラッド層6と、上部コンタクト層7と、パッシベーション膜8と、下部電極9と、上部電極10とを備えている。なお、パッシベーション膜8は絶縁性であり、保護膜として半導体発光素子100の表面を覆っているが、上部コンタクト層7の表面上と、下部コンタクト層3の表面のうち下部クラッド層4が形成されている領域以外の一部領域とにそれぞれ開口部を有している。下部電極9および上部電極10は、それぞれの開口部を介して、下部コンタクト層3または上部コンタクト層7にオーム性接触をしている。
【0027】
また、この半導体発光素子100は、紙面奥行き側と紙面手前側とに、互いに平行な端面が劈開等によって形成されている。これらの端面のうち光出射側端面には反射率がたとえば10%以下の低反射率膜が形成されており、光反射側端面には反射率がたとえば90%以上の高反射率膜が形成されている。これらの高反射率膜と低反射率膜は活性層5を挟んだ光共振器を構成している。
【0028】
以下、各構成要素について具体的に説明する。まず、支持基板かつ成長基板としての基板1は、ウルツ鉱型結晶構造を有するII−VI族化合物半導体であるZnOの単結晶からなり、結晶格子のc面を主表面とする。ここで、基板の主表面とは、半導体層を成長させる主表面を意味する。このように、成長基板となる基板1の主表面をc面とすることで、基板1上に成長させる半導体層と基板1とをほぼ格子整合することができる。なお、基板1が、その主表面がc面からm軸の方向にオフ角度が±1度程度で微傾斜した微傾斜基板であれば、この主表面上に平坦な半導体層を成長させることが容易であり、好ましい。また、基板1の主表面は、特に酸素極性面である−c(000_1)面が好ましい。基板1の主表面を酸素極性面とすることで、より主表面上に平坦な半導体層を成長させることが容易となり、さらに好ましい。
【0029】
つぎに、基板1上に成長した緩衝層2から上部コンタクト層7までの各半導体層の組成について具体的に説明する。これらの半導体層は、いずれもウルツ鉱型結晶構造を有するIII−V族化合物半導体であり、AlGaInN系材料であるInGaNからなるが、その組成比については、半導体層ごとに設定されている。
【0030】
図2は、AlGaInN系材料の結晶格子のa軸方向の格子定数(a)とバンドギャップエネルギーとの関係を示す図である。また、図3は、AlGaInN系材料の格子定数(a)と波長530nmにおける屈折率との関係を示す図である。以下、格子定数(a)とはa軸方向の格子定数を意味するものとする。
【0031】
図2、3において、黒丸はそれぞれAlN、GaN、InNの格子定数(a)とバンドギャップエネルギーまたは屈折率との関係を示すデータ点である。また、窒化ガリウム(GaN)の格子定数(a)は3.189オングストローム(Å、1Åは0.1nm)であり、窒化インジウム(InN)の格子定数(a)は3.548Åであり、窒化アルミニウム(AlN)のa軸方向の格子定数は3.112Åである。AlGaInN系材料の場合は、各組成の組成比に応じて、この黒丸を結んだ三角形の実線の辺上または内部にデータ点が存在する。また、線L1は、基板1を構成するZnOの格子定数(a)である3.2407Åの位置を示している。
【0032】
活性層5は、In組成が30%程度のInGaNからなり、図2、3において線L2で示す格子定数(a)を有している。したがって、活性層5のバンドギャップエネルギーは、図2におけるGaNおよびInNを示すデータ点を結ぶ実線と、線L2との交点の位置のバンドギャップエネルギーである2.34eVであり、光の波長に換算すると、この半導体発光素子100のレーザ発振波長である530nmとなる。また、活性層5の屈折率は、図3におけるGaNおよびInNを示す2点を結ぶ実線と、線L2との交点の屈折率となる。
【0033】
また、図2、3の線L1、L2が示すように、基板1の格子定数(a)と活性層5の格子定数(a)とは、GaNの格子定数(a)とInNの格子定数(a)との間の、互いに近い値を有している。
【0034】
緩衝層2、下部コンタクト層3、下部クラッド層4、上部クラッド層6、および上部コンタクト層7は、基板1とほぼ格子整合しており、そのバンドギャップエネルギーおよび屈折率は、図2、3におけるGaNおよびInNを示す2点を結ぶ実線と、線L2との交点の値となる。従って、これらの半導体層のバンドギャップエネルギーは、いずれも活性層5のバンドギャップエネルギーよりも高くなっている。また、これらの半導体層の屈折率は、いずれも活性層5の屈折率よりも低くなっている。したがって、これらの半導体層によって、活性層5に光およびキャリアを閉じ込めることができる。
【0035】
また、下部コンタクト層3および下部クラッド層4は、n型の導電型を有している。一方、上部クラッド層6および上部コンタクト層7はp型の導電型を有している。
【0036】
さらに、緩衝層2は、その成長面の一部または全面が窒素極性面である。一方、緩衝層2の上に形成されている下部コンタクト層3、下部クラッド層4、活性層5、上部クラッド層6、および上部コンタクト層7は、いずれもその成長面の全面がIII族極性面である。
【0037】
また、パッシベーション膜8は、たとえばSiO、ZrO等の誘電体からなる。また、下部電極9は、たとえばTi/Al構造やTi/Pt/Au構造を有する。上部電極10は、たとえばNi/Au構造やPd/Pt/Au構造を有する。
【0038】
つぎに、この半導体発光素子100の動作について説明する。上部電極10と下部電極9との間に電圧を印加し、活性層5に電流を注入すると、活性層5は波長530nmを含む光を発生する。発生した光は、導波路である活性層5を導波しながら活性層5により光増幅され、低反射率膜と高反射率膜とが構成する光共振器の作用によって、波長530nmでレーザ発振する。レーザ光は低反射率膜側の端面から出射されるため、この半導体発光素子100は端面発光型の半導体レーザ素子となる。
【0039】
ここで、この半導体発光素子100は、上述したように、緩衝層2の成長面の一部または全面が窒素極性面を有しており、緩衝層2の上に形成されている下部コンタクト層3、下部クラッド層4、活性層5、上部クラッド層6、および上部コンタクト層7の成長面がいずれもIII族極性面を有している。これによって、この半導体発光素子100は、活性層5が十分な発光強度と狭い半値幅の発光スペクトルとを有するという効果を奏し、極めて良好な発光特性を有するレーザ素子となる。
【0040】
以下、本実施の形態1において得られる効果を、本発明の実施例、比較例を用いて説明する。まず、比較例1として、図4に模式的な断面を示す半導体発光素子200を製造した。この半導体発光素子200は、特許文献1に開示されるような500℃より低い低温での結晶成長によって、主表面がc面のZnOからなる基板11上に、InGaNからなる緩衝層12と、単一量子井戸構造を有する活性層13aを含むInGaNからなる発光層13とを順次成長させて製造したものである。活性層13aのIn組成は、発光中心波長が530nmになるように設定した。なお、この比較例1に係る半導体発光素子の製造中および製造後に同軸型直衝突イオン散乱分光法(CAICISS)により表面状態を調べたところ、緩衝層12および発光層13のいずれも成長面が窒素極性面を有するものであった。
【0041】
つぎに、実施例1として、図5に模式的な断面を示す半導体発光素子300を製造した。この半導体発光素子300は、特許文献1に開示されるような低温での結晶成長によって、主表面がc面のZnOからなる基板11上に、InGaNからなる緩衝層12を成長させた後に、500℃以上の高温において、単一量子井戸構造を有する活性層14aを含むInGaNからなる発光層14を成長させて製造したものである。活性層14aのIn組成は、比較例1と同様に発光中心波長が530nmになるように設定した。なお、この実施例1に係る半導体発光素子の製造中および製造後にCAICISSにより表面状態を調べたところ、緩衝層12の成長面は窒素極性面を有し、発光層14の成長面はIII族極性面を有するものであった。
【0042】
緩衝層12と発光層14の成長面をより詳しく調べるために、実施例1において製造した半導体発光素子300をABF-STEM法(環状明視野―走査透過電子顕微鏡法)を用いて観察した。ABF-STEM法はTEM(透過電子顕微鏡)を用いる方法の一種であり、通常のHAADF−STEM(高角度散乱暗視野走査透過電子顕微鏡)では観察が難しい窒素原子の位置を確認することが可能である。図6は、ABF-STEM法を用いて得られた、実施例1の半導体発光素子300の発光層14と活性層14aとを含むInGaN層の像を示す図である。白丸はGaまたは窒素の原子の位置を示す。図6には、Ga極性面の模式的な原子配置も示している。図6に示すように、発光層14と活性層14aとを含むInGaN層の表面はIII族極性を有していることが確認できる。
【0043】
図7は、ABF-STEM法を用いて得られた、実施例1の半導体発光素子300の緩衝層12の像を示す図である。白丸はGaまたは窒素の原子の位置を示す。図7には、窒素極性面の模式的な原子配置も示している。図7に示すように、緩衝層12の表面は、一部は極性が異なるものの大部分は窒素極性からなっていることが確認できる。このように本ABF−STEM法を用いることにより、製造された半導体発光素子の面極性を判別することが可能である。また、図6の方が図7に比べABF−STEM像における原子の位置が明確である。これは異種材料であるZnO基板にInGaN活性層を直接成長させるよりも、緩衝層12を導入した方が活性層の結晶性を良くすることが出来ることを表している。
【0044】
つぎに、実施例1、比較例1に係る半導体発光素子に励起光を照射し、そのPL(フォトルミネッセンス)特性を測定した。図8は、比較例1に係る半導体発光素子の発光スペクトルを示す図である。なお縦軸の光強度は相対値である。また、波長380nmの発光ピークは基板を構成するZnOの発光である。
【0045】
図8に示すように、比較例1に係る半導体発光素子からは、強度が弱いブロードな発光スペクトルが観測された。この発光スペクトルのピーク波長は540nmであり、活性層の組成から期待される波長とは異なっていたので、結晶中の不純物や固有欠陥からの発光であると考えられる。
【0046】
一方、図9は、実施例1に係る半導体発光素子の発光スペクトルを示す図である。なお縦軸の光強度は相対値であるが、図8の縦軸とその尺度が一致するようにしている。図9に示すように、実施例1に係る半導体発光素子からは、比較例1のピークの約25倍ものピーク強度の発光スペクトルが観測された。この発光スペクトルのピーク波長は略530nmであり、活性層の組成から期待される波長であった。また、この発光スペクトルのピークのスペクトル半値幅は十分に狭いため、活性層の結晶品質が良好であると考えられる。
【0047】
すなわち、この実施例1のように、ZnOからなる基板上に成長した、成長面が窒素極性面を有するInGaNからなる緩衝層と、この緩衝層の上に成長した、成長面がIII族極性を有するInGaNからなる活性層とを備える半導体発光素子によって、発光強度が高く、発光特性が極めて良好な半導体発光素子を実現できることが確認された。
【0048】
以上説明したように、本実施の形態1に係る半導体発光素子100は、活性層5が十分な発光強度を有するという効果を奏し、極めて良好な発光特性を有するレーザ素子となる。
【0049】
なお、レーザ発振波長として青色より長い波長(約480nm以上)、特に青色から緑色の波長(約480〜550nm)を実現するために、活性層を高In組成のInGaNとした場合、以下の問題が発生する。すなわち、相分離が生じて活性層中のIn組成が不均一になりやすくなり、発光効率が低下するおそれがある。また、InGaNの場合、結晶構造に起因して内部にピエゾ電界が発生するが、高In組成の場合はピエゾ電界が大きくなり、発光再結合確率が低下し、発光効率が低下するおそれがある。また、ピエゾ電界が大きくなると、電流注入した際に活性層の発光波長がシフトするという問題も発生する。
【0050】
これに対して、本実施の形態1に係る半導体発光素子100は、緩衝層2、下部コンタクト層3および下部クラッド層4、さらには上部クラッド層6および上部コンタクト層7が基板1に格子整合し、かつ活性層5の格子定数とも近い値となっている。その結果、活性層5におよぶ歪みの影響がきわめて低減されるため、上述した相分離の発生、ピエゾ電界の増大、および貫通転位やクラックの発生は極めて抑制される。したがって、活性層5はさらに高品質なものとなり、さらに良好な光学特性および信頼性を有する半導体発光素子100となる。
【0051】
(製造方法)
つぎに、本実施の形態1に係る半導体発光素子100の製造方法について説明する。
【0052】
(半導体層の成長)
はじめに、ZnO単結晶からなる基板1を準備する。なお、ZnO単結晶からなる基板については直径が3インチ(76.2mm)という大口径の基板が実現されており、素子の量産化に適するものである。また、ZnOからなる基板はサファイア基板よりも熱伝導性が高いので好ましい。また、基板1の主表面はc面であるが、特に酸素極性面である−c(000_1)面が好ましく、微傾斜基板であればさらに好ましい。以下では、基板1は主表面が−c(000_1)面であるとする。
【0053】
(工程1)
はじめに、基板1に対する表面平坦化処理を行う。まず、基板1のCMP(化学機械研磨)処理を行う。その後、表面平坦化処理として、大気中で熱処理を行い、基板1の主表面にステップ・テラス構造を形成する。この表面平坦化処理は、基板1を酸化ジルコニアや酸化亜鉛などの無機材質平板で挟んだ状態で行うのが好ましい。また、熱処理条件は、温度1000〜1300℃で1〜5時間が好ましい。その後、基板1を成長チャンバーに導入する。
【0054】
(工程2)
つぎに、成長チャンバー内で、大気圧下または減圧下で、基板1に対してサーマルクリーニング処理を行う。具体的には、700〜750℃の温度で基板1を1〜10分加熱し、有機物などを除去する。このサーマルクリーニング処理によって、基板1の洗浄と表面再構成が行なわれ、RHEED(反射高速電子線回折)測定によりストリークパターンが観測される。
【0055】
つぎに、V族原料である窒素を窒素ラジカルとして供給できるRF(高周波)ラジカルセルを用いて、窒素RFラジカルソースMBE(分子ビームエピタキシー)法により、緩衝層2から上部コンタクト層7までの窒化物半導体層を、成長基板としての基板1上にエピタキシャル成長する。
【0056】
(工程3)
まず、500℃より低い温度、例えば200以上の低温で、III族元素であるインジウム(In)とガリウム(Ga)と窒素ラジカルとを基板1表面に最適な供給量で同時に供給することにより、基板1上に成長面が窒素極性面を有するInGaN結晶を30nm程度成長させて、緩衝層2を形成する。なお、このようにInGaN結晶の成長を低温で行うのは、基板1を構成するZnOとInGaNとの界面反応を抑制するためである。また、成長温度を250℃以上とすれば、結晶品質がより良好となり好ましい。また、まず始めに窒素ラジカルを供給し、次いでIII族元素を供給するようにすれば、結晶品質がより良好となり好ましい。
【0057】
なお、III族元素であるGa、In、および本工程では使用しないアルミニウム(Al)は、クヌーセンセルを用いて供給することができる。これらのIII族元素、および窒素ラジカルの供給量は、成長温度に応じて、III族元素と窒素ラジカルとの比が1:1に近くなるように、且つ所望の格子定数の条件を満たすように適宜調整する。また、このときIII族元素に対して窒素ラジカルが1:1の比よりも過剰になるような供給条件にすれば、結晶品質がより良好となり好ましい。さらに、始めに窒素ラジカルを供給し、次いでIII族元素を供給するようにし、かつIII族元素に対して窒素ラジカル1:1の比よりも過剰になるような供給条件にすれば、結晶品質がさらに良好となるのでより好ましい。
【0058】
(工程4)
つぎに、InとGaと窒素ラジカルとの供給を一旦停止し、成長温度を500℃より高い温度、例えば650℃以下の高温に設定し、原料の供給セルを所望のセル温度に設定する。その後、InとGaと窒素ラジカルとを同時に供給することにより、成長面がIII族極性面を有する下部コンタクト層3、下部クラッド層4を順次成長する。このように、成長温度を高温とし、所望の量のInとGaと窒素ラジカルとを供給することによって、成長面の極性をIII族極性面とすることができる。また、まず始めにIII族元素を供給し、次いで窒素ラジカルを供給するようにすれば、結晶品質がより良好となり好ましく、窒素ラジカルに対してIII族元素が1:1の比よりも過剰になるような供給条件にすれば、結晶品質がより良好となり好ましい。さらに、始めにIII族元素を供給し、次いで窒素ラジカルを供給するようにし、かつ窒素ラジカルに対してIII族元素が過剰になるような供給条件にすれば、結晶品質がさらに良好となるので好ましい。なお、成長の際に、n型ドーパントであるたとえばシリコン(Si)を適量ドーピングすることにより、下部コンタクト層3、下部クラッド層4をn型導電性にすることができる。このように、本実施の形態1では、下部コンタクト層3、下部クラッド層4は、窒化ガリウムインジウム[InGa1−xN(0<x<1)]で構成されている。
【0059】
(工程5)
つぎに、成長温度を500℃より高い温度、例えば650℃以下の高温に設定したまま、最適なIn/Ga比、かつV/III比になるようにセル温度の設定を変更して(もしくは、あらかじめ最適な温度に設定しておいた別のInセルとGaセルとに切り替えて)、InとGaと窒素ラジカルとを同時に供給することによって、所望の発光波長に応じたIn組成を有するInGaNからなり、成長面がIII族極性面を有する活性層5を成長する。この場合も、工程4と同様に、まず始めにIII族元素を供給し、次いで窒素ラジカルを供給するようにすれば、結晶品質がより良好となり好ましく、窒素ラジカルに対してIII族元素が1:1の比よりも過剰になるような供給条件にすれば、結晶品質がより良好となり好ましい。さらに、始めにIII族元素を供給し、次いで窒素ラジカルを供給するようにし、かつ窒素ラジカルに対してIII族元素が過剰になるような供給条件にすれば、結晶品質がさらに良好となるのでより好ましい。このように、活性層5の結晶品質が良好であれば、その発光特性が良好になる。また、活性層5の下部に形成される緩衝層2、下部コンタクト層3、および下部クラッド層4の結晶品質が良好であれば、その上に形成される活性層5の結晶品質もそれに応じて良好になるので、発光特性がさらに良好になる。
【0060】
(工程6)
つぎに、成長温度を500℃より高い温度、例えば650℃以下の高温に設定したまま、最適なIn/Ga比、かつV/III比になるようにセル温度の設定を変更して(もしくは、あらかじめ最適な温度に設定しておいた別のInセルとGaセルとに切り替えて)、InとGaと窒素ラジカルとを同時に供給することによって、成長面がIII族極性面を有する上部クラッド層6と上部コンタクト層7とを成長する。この場合も、工程4と同様に、まず始めにIII族元素を供給し、次いで窒素ラジカルを供給するようにすれば、結晶品質がより良好となり好ましく、窒素ラジカルに対してIII族元素が1:1の比よりも過剰になるような供給条件にすれば、結晶品質がより良好となり好ましい。さらに、始めにIII族元素を供給し、次いで窒素ラジカルを供給するようにし、かつIII族元素に対して窒素ラジカルが過剰になるような供給条件にすれば、結晶品質がさらに良好となるのでより好ましい。なお、成長の際に、p型ドーパントである、例えばマグネシウム(Mg)を適量ドーピングすることにより、上部クラッド層6、上部コンタクト層7をp型導電性にすることができる。なお、p型ドーパントとしては、ベリリウム(Be)を用いることもできる。また、p型コドーピングとして、マグネシウム(Mg)とシリコン(Si)とのコドープをしてもよい。
【0061】
上記エピタキシャル成長の工程の後に、成長チャンバー内からエピタキシャルウェハを取り出した後、高温で熱処理を施してMgを活性化させることにより、Mgをドーピングした層をp型導電性にすることができる。
【0062】
なお、上記工程において、窒素プラズマ条件としては、例えば、プラズマ電力は200〜500Wであり、窒素ガス流量は1.0〜5.0sccm(standard cc/min)である。
【0063】
以上の工程1〜6により、本実施の形態1に係る半導体発光素子100用のエピタキシャルウェハを製造する。
【0064】
(レーザダイオード構造の形成)
つぎに、このようにして製造されたエピタキシャルウェハを用いて、半導体発光素子100のレーザダイオード構造を形成する手順を説明する。
【0065】
はじめに、フォトリソグラフィーおよびドライエッチング技術により、下部クラッド層4から上部コンタクト層7までを図1に示すリッジ構造に形成する。
【0066】
つぎに、パッシベーション膜8を形成する。パッシベーション膜8は、たとえばSiO、ZrOをPCVD(Plasma Chemical Vapor Deposition)法により堆積させて形成する。
【0067】
つぎに、上部電極10を形成する。まず、フォトリソグラフィーにより電極パターンを形成し、上部コンタクト層7上のパッシベーション膜8を除去した後、抵抗加熱蒸着(RH)、電子線蒸着(EB)、あるいはスパッタ蒸着により、Ni/AuまたはPd/Pt/Au構造の電極金属を蒸着させた後、シンタリング(焼結)処理により上部電極10を形成する。形成された上部電極10は、p型導電性である上部コンタクト層7に対してオーム性接触することになる。
【0068】
つぎに、下部電極9を形成する。まず、フォトリソグラフィーにより電極パターンを形成し、下部コンタクト層3上のパッシベーション膜8を除去した後、抵抗加熱、電子線蒸着、あるいはスパッタ蒸着により、Ti/AlまたはTi/Pt/Au構造の電極金属を蒸着させた後、シンタリング処理により下部電極9を形成する。形成された下部電極9は、n型導電性である下部コンタクト層3に対してオーム性接触することになる。
【0069】
つぎに、光共振器の端面を劈開により形成する。ここで、劈開面はm面とする。さらに、形成された光共振器端面の光出射側端面および光反射側端面にそれぞれ低反射率膜および高反射率膜を形成する。その後、ダイシングにより素子分離して、端面発光型のレーザ素子である本実施の形態1に係る半導体発光素子100が完成する。
【0070】
(実施の形態2)
つぎに、本発明の実施の形態2に係る半導体発光素子について説明する。本実施の形態2に係る半導体発光素子は、レーザ発振波長が530nmの面発光レーザ素子である。
【0071】
図10は、本実施の形態2に係る半導体発光素子400の模式的な断面図である。図10に示すように、この半導体発光素子400は、基板15と、基板15上に順次形成された、下部多層膜反射鏡として機能する下部DBRミラー16と、緩衝層17と、下部コンタクト層18と、下部電極19と、下部クラッド層20と、活性層21と、上部クラッド層22と、上部コンタクト層23と、電流狭窄層24と、透明導電膜25と、上部電極26と、上部多層膜反射鏡として機能する上部DBRミラー27とを備える。このうち、下部クラッド層20から上部コンタクト層23までの積層構造は、エッチング処理等によって柱状に成形されたメサポストMとして形成されている。また、下部DBRミラー16と上部DBRミラー27とは、活性層21を挟んで光共振器を構成している。
【0072】
以下、各構成要素について具体的に説明する。まず、基板15は、実施の形態1に係る半導体発光素子100と同様に、ZnOからなり、c面を主表面とするが、特に酸素極性面である−c(000_1)面が好ましく、微傾斜基板であればさらに好ましい。
【0073】
下部DBRミラー16は、ZnMgBeCdO系材料であるMgBeOからなる低屈折率層16aとZnOからなる高屈折率層16bとが、交互に積層した構造を有している。低屈折率層16aおよび高屈折率層16bの厚さはいずれもλ/4n(λ:レーザ発振波長、n:屈折率)であり、下部DBRミラー16の反射中心波長がレーザ発振波長と一致するように設定されている。なお、低屈折率層16aと高屈折率層16bは、上述した材料に限られず、ZnMgBeCdO系材料から適宜選択することができる。
【0074】
また、緩衝層17から上部コンタクト層23までの各半導体層は、いずれもInGaNからなるが、その組成比については、半導体層ごとに設定されている。
【0075】
活性層21は、In組成が30%程度のInGaNからなり、図2、3において線L2で示す格子定数(a)を有しており、そのバンドギャップエネルギーは光の波長に換算すると530nmである。
【0076】
緩衝層17、下部コンタクト層18、下部クラッド層20、上部クラッド層22、および上部コンタクト層23は、基板15とほぼ格子整合しており、そのバンドギャップエネルギーおよび屈折率は、図2、3におけるGaNおよびInNを示す2点を結ぶ実線と、線L2との交点の値となる。従って、これらの半導体層は、バンドギャップエネルギーが、いずれも活性層21のバンドギャップエネルギーよりも高く、屈折率が、いずれも活性層21の屈折率よりも低くなっている。したがって、これらの半導体層によって、活性層21に光およびキャリアを閉じ込めることができる。
【0077】
また、下部コンタクト層18および下部クラッド層20は、n型の導電型を有している。一方、上部クラッド層22および上部コンタクト層23はp型の導電型を有している。
【0078】
さらに、緩衝層17は、その成長面の一部または全面が窒素極性面である。一方、緩衝層17の上に形成されている下部コンタクト層18、下部クラッド層20、活性層21、上部クラッド層22、および上部コンタクト層23は、いずれもその成長面の全面がIII族極性面である。
【0079】
また、下部電極19は、たとえばTi/Al構造やTi/Pt/Au構造を有し、下部コンタクト層18のメサポストMの外周側に延設した部分に、上方から見てC字状に形成されている。
【0080】
電流狭窄層24は、上部コンタクト層23上に積層しており、電流注入部としての開口部24aを有するリング状に形成されている。この電流狭窄層24は、絶縁性を有しており、上部電極26から注入される電流を狭窄して開口部24a内に集中させることで、活性層21に注入される電流の電流密度を高めている。電流狭窄層24は、SiやSiOなどの絶縁性材料からなるものである。なお、電流狭窄層24としては、GaInNからなる層にイオン注入によりプロトン(H)を注入することによって、高電気抵抗を付与したものを用いてもよい。
【0081】
透明導電膜25は、電流狭窄層24上、および開口部24a内に露出した上部コンタクト層23を覆うように形成されている。この透明導電膜25は、ITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)、酸化アンチモンもしくはフッ素をドープした酸化スズ、またはAlやGaをドープしたZnOからなる。この透明導電膜25は、活性層21が発光する光を透過するとともに、上部電極26から注入される電流を横方向(面内方向)に広げて電流狭窄層24の開口部24aから上部コンタクト層23へと注入させる機能を有する。
【0082】
上部電極26は、たとえばNi/Au構造やPd/Pt/Au構造を有し、透明導電膜25を介して上部コンタクト層23上にリング状に形成されている。
【0083】
上部DBRミラー27は、透明導電膜25を介して上部コンタクト層23上に、開口部24aを覆うように形成されている。この上部DBRミラー27としては、たとえば下部DBRミラー16と同一構造のものを用いたり、誘電体多層膜からなるものを用いたりすることができる。上部DBRミラー27の反射率は90%以上、好ましくは99%以上とする。なお、下部DBRミラー16および上部DBRミラー27の反射率を高くすることによって半導体発光素子400の閾値電流密度が低減されるので好ましい。
【0084】
上部DBRミラー27として誘電体多層膜を用いる場合には、低屈折率層および高屈折率層の材料を適宜選択して組み合わせ、所望の反射率を実現するようなペア数だけ積層して誘電体多層膜を構成する。たとえば、低屈折率層としては、ZrO(2.3)、Ta(2.2)、HfO(2.11)、MgO(1.74)、Al(1.7)、SiO(1.5)などの酸化物誘電体、Si(2.0)、AlN(2.1)などの窒化物誘電体、SiON(2.0−1.5)などの酸窒化物誘電体、またはMgF(1.38)などのフッ化物誘電体を用いることができる。なお、()内は各物質の屈折率を表す。
【0085】
また、高屈折率層としては、TiO(2.5)、Nb(2.4)、ZrO(2.3)、Ta(2.2)、HfO(2.11)、MgO(1.74)、AlO3(1.7)、SiO(1.5)などの酸化物誘電体、Si(2.0)、AlN(2.1)などの窒化物誘電体、SiON(2.0−1.5)などの酸窒化物誘電体、またはα−Si:H(4.0)などのアモルファスシリコンを用いることができる。
【0086】
つぎに、この半導体発光素子400の動作について説明する。上部電極26と下部電極19との間に電圧を印加し、駆動電流を注入すると、上部電極26からは電流が電流狭窄層24の開口部24a内に集中して密度が高められた状態で、活性層21に注入される。電流が注入された活性層21は波長530nmを含む光を発生する。発生した光は、活性層21の光増幅作用、および下部DBRミラー16と上部DBRミラー27とが構成する光共振器の作用によって、波長530nmでレーザ発振する。レーザ光は上部DBRミラー27から上方に向かって出力される。
【0087】
ここで、この半導体発光素子400は、上述したように、緩衝層17の成長面の一部または全面が窒素極性面を有しており、緩衝層17の上に形成されている下部コンタクト層18、下部クラッド層20、活性層21、上部クラッド層22、および上部コンタクト層23の成長面がいずれもIII族極性面を有している。これによって、この半導体発光素子400は、実施の形態1に係る半導体発光素子100と同様に、活性層21が十分な発光強度を有するという効果を奏し、極めて良好な発光特性を有するレーザ素子となる。
【0088】
また、この半導体発光素子400は、緩衝層17、下部コンタクト層18、および下部クラッド層20、さらには上部クラッド層22および上部コンタクト層23が基板15に格子整合し、かつ活性層21の格子定数とも近い値となっている。さらに、層数が多い下部DBRミラー16の平均的な格子定数が、基板15の格子定数と一致し、かつ活性層21の格子定数とも近い値となっている。その結果、活性層21におよぶ歪みの影響がきわめて低減されて高品質なものとなるので、良好な光学特性および信頼性を有する半導体発光素子400となる。
【0089】
なお、本実施の形態2では、下部DBRミラー16は、低屈折率層16aがMgBeOからなり、高屈折率層16bがZnOからなるが、他の組成のZnMgBeCdO系材料を組み合わせて下部DBRミラーを形成してもよい。
【0090】
下部DBRミラーのZnMgBeCdO材料の組成としては、その低屈折率層と高屈折率層との平均の格子定数が基板15または活性層21の格子定数の±3%以内の値となるような組成とすれば、歪みの影響が抑制されて好ましい。さらに、下部DBRミラーの組成を、バンドギャップエネルギーが活性層21のバンドギャップエネルギーよりも高い組成とすれば、下部DBRミラーが活性層21からの光を吸収しないので、レーザ発振の閾値向上またはレーザ光の強度低下が発生するというおそれがないので好ましい。
【0091】
(製造方法)
つぎに、本実施の形態2に係る半導体発光素子400の製造方法について説明する。はじめに、ZnO単結晶からなる基板15を準備し、上述した実施の形態1の場合の工程1、2を行なう。
【0092】
つぎに、基板15を成長基板として、基板15上に、所望の組成に調整した低屈折率層16aと高屈折率層16bとを所望のペア数だけエピタキシャル成長し、下部DBRミラー16を形成する。この下部DBRミラー16の形成は、PLD(パルスレーザデポジション)法、MBE法、MOCVD(有機金属化学気相成長)法などを用いて行う。
【0093】
PLD法やMBE法では、酸素源として酸素ラジカルを生成することができる酸素プラズマセルを用いることができる。Zn、Mg、Be、Cdは金属原料としてクヌーセンセルを用いて供給することができる。
【0094】
MOCVD法では、II族材料であるZn原料としてのジエチルジンク(DEZn)やジメチルジンク(DMZn)、Mg原料としてのジエチルマグネシウム(DEMg)やジメチルマグネシウム(DMMg)、Cd原料としてのジエチルカドミウム(DECd)やジメチルカドミウム(DMCd)、Be原料としてのジエチルベリリウム(DEBe)やジメチルベリリウム(DMBe)といった有機金属材料と、O原料としての酸素(O)とを、原料として供給して、下部DBRミラー16を形成することができる。
【0095】
つぎに、上述した実施の形態1の場合の工程3〜6と同様の工程によって、成長面が窒素極性面を有する緩衝層17、ならびに、成長面がIII族極性面を有する下部コンタクト層18、下部クラッド層20、活性層21、上部クラッド層22、および上部コンタクト層23を成長して、本実施の形態2に係る半導体発光素子400用のエピタキシャルウェハを製造する。
【0096】
(面発光レーザ構造の形成)
つぎに、このようにして製造されたエピタキシャルウェハを用いて、半導体発光素子400の面発光レーザ構造を形成する手順を説明する。
【0097】
はじめに、メサポストMを形成する。すなわち、フォトリソグラフィーによって、上部電極26の外周に対応する円形のマスクパターンを形成し、これをマスクとして上部コンタクト層23から下部コンタクト層18の上までをウェットエッチングまたはドライエッチングし、メサポストMを形成する。
【0098】
つぎに、下部電極19を形成する。はじめに、下部電極19の形状に対応するパターンのマスクを形成し、抵抗加熱蒸着、電子線蒸着、あるいはスパッタ蒸着によりTi/AlまたはTi/Pt/Au構造の電極金属を蒸着させた後、リフトオフとシンタリング処理とを行なって下部電極19を形成する。形成された下部電極19は、n型導電性である下部コンタクト層18に対してオーム性接触することになる。
【0099】
つぎに、電流狭窄層24を形成する。すなわち、上部コンタクト層23上にSiO層またはSi層をスパッタやPCVD法などにより堆積し、フォトリソグラフィーによって電流狭窄層24を形成する。
【0100】
つぎに、たとえばITO膜を全面に堆積して透明導電膜25を形成する。さらに、透明導電膜25上に、電流狭窄層24の開口部24aを取り囲むように、Ni/Au構造やPd/Pt/Au構造を有する上部電極26を形成する。続いて、この上部電極26の開口部内にスパッタやPCVD法を用いて上部DBRミラー27を形成する。その後、ダイシングにより素子分離して、面発光レーザ素子である本実施の形態2に係る半導体発光素子400が完成する。
【0101】
なお、ダイシングの際に1次元的または2次元的に配列した複数の面発光レーザ素子を切り出して、面発光レーザアレイ素子としてもよい。また、これらの素子をTO−CANなどのCANのパッケージに実装する場合には、たとえば以下のように行う。まず、切り出した素子をヒートシンク又はサブマウント上にボンディングした後に、銅などのヒートシンク上にボンディングする。そして、この素子をボンディングしたものをCANに載せて、素子の電極部とCANをワイヤボンディングする。そして、最後に真空又は窒素雰囲気などでCANを封止して、素子のCANへの実装が完了する。
【0102】
また、上記実施の形態では、窒素RFラジカルソースMBE法を用いて、活性層を含む窒化物半導体層を成長しているが、ガスソースMBEなどの他のMBE法や、PLD法、MOCVD法などを用いてもよい。
【0103】
PLD法およびMBE法では、窒素源として窒素ラジカルを生成する窒素プラズマセルを用いることができる。また、III族原料としては、Al、Ga、Inを、クヌーセンセルを用いて供給する。
【0104】
MOCVD法では、窒素源としてアンモニア(NH)を用いることができる。また、III族原料として、Al原料としてのトリメチルアルミニウム(TMA)やトリエチルアルミニウム(TEA)、Ga原料としてのトリメチルガリウム(TMG)やトリエチルガリウム(TEG)、In原料としてのトリメチルインジウム(TMI)やトリエチルインジウム(TEI)をそれぞれ適宜供給することによって、各窒化物半導体層の成長を行う。
【0105】
なお、アンモニアと酸化物半導体とは比較的低温で反応して酸化物半導体が昇華してしまうため、酸化物半導体からなる下部DBRミラー16上に緩衝層17を形成するには、MBE法等を用いる方が好ましい。そして、酸化物半導体と窒化物半導体との界面形成後には、MOCVD法を用いることにより、より良好な結晶品質の各窒化物半導体層を得ることができる。また、酸化物半導体からなる基板15および下部DBRミラー16の側面や裏面は、MOCVD法で各窒化物半導体層を成長している間にアンモニアと反応して昇華してしまうおそれがあるため、SiやSiOといった絶縁膜、金属等で保護しておくことが好ましい。
【0106】
また、上記実施の形態では、緩衝層以外の窒化物半導体層の成長面がIII族極性面を有するが、少なくとも活性層の成長面がIII族極性面を有すれば、発光特性がきわめて良好であるという本発明の効果が得られる。また、上記実施の形態のように、緩衝層の成長面の全面が窒素極性面であり、活性層の成長面の全面がIII族極性面であるか、または少なくとも緩衝層の成長面の一部に窒素極性面を有すれば、本発明の効果が得られる。
【0107】
また、上記実施の形態は、支持基板としてZnOからなる基板を用いているが、本発明はこれに限定されず、たとえばZnOからなる基板を成長基板として各半導体層を成長させた後、成長基板と半導体積層構造とを分離し、半導体積層構造をSi基板のような、ZnO基板よりもさらに熱伝導性の高い支持基板やヒートシンク等に搭載してもよい。このように、より熱伝導性の高い支持基板を用いれば、良好な光学特性および信頼性を有するとともに、より高温環境にも適する半導体発光素子となる。また、成長基板を分離せずに、CMP等の研磨によって成長基板の一部を除去して厚さを薄くし、他の熱伝導性の高い支持基板等に搭載してもよい。
【0108】
成長基板と半導体積層構造との分離は、公知のレーザリフトオフ技術を用いて行うことができる。また、CMP等の研磨によって成長基板を半導体積層構造から全部除去することによって行なってもよい。また、ウェットエッチングにより成長基板を全部除去してもよい。また、窒化物半導体層の成長に、HVPE(ハイドライド気相成長)法を用いて、厚い半導体層を形成すれば、成長基板の分離または研磨による一部または全部の除去が容易となり好ましい。このような成長基板の分離または研磨による一部または全部の除去は、上述した素子作製の前または後に行うことができる。
【0109】
また、上記実施の形態では、半導体発光素子はレーザ素子であるが、本発明に係る半導体発光素子はレーザ素子に限定されず、たとえば発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)でもよい。
【0110】
また、上記実施の形態において、活性層はバルク構造であるが、単一または多重量子井戸構造を有していてもよい。また、活性層と下部クラッド層との間、および活性層と上部クラッド層との間に、光ガイド層を設けた分離閉じ込め(SCH)構造を実現するための光閉じ込め層やキャリア閉じ込め層を形成してもよい。
【0111】
また、上記実施の形態において、活性層とp型光ガイド層又はp型クラッド層との間にキャリア(電子)ブロック層を設けてもよい。
【0112】
また、上記実施の形態では、活性層に対して下部の半導体層がn型導電性であり、上部の半導体層がp型導電性であるが、下部半導体層側をp型導電性としてもよい。
【0113】
また、基板上にn型またはp型の導電型のZnO層をエピタキシャル成長して、これを緩衝層または下部DBRミラーの下地層としてもよい。
【0114】
また、上記実施の形態では、下部DBRミラーがZnMgBeCdO材料からなっているが、AlGaInN材料を用いてもよい。その際には、窒素極性面のAlGaInNからなる緩衝層は、下部DBRミラーとZnOからなる成長基板の間に挿入するのがよい。
【0115】
また、活性層のAlGaInN材料の組成および厚さを適宜選択すれば、紫外領域から可視領域の広範囲にわたる所望の発光波長またはレーザ発振波長を有する半導体発光素子を実現できる。
【0116】
また、上記実施の形態により本発明が限定されるものではない。上記した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。その他、上記実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0117】
1、11、15 基板
2、12、17 緩衝層
3、18 下部コンタクト層
4、20 下部クラッド層
5、13a、14a、21 活性層
6、22 上部クラッド層
7、23 上部コンタクト層
8 パッシベーション膜
9、19 下部電極
10、26 上部電極
13、14 発光層
16 下部DBRミラー
16b 高屈折率層
16a 低屈折率層
24 電流狭窄層
24a 開口部
25 透明導電膜
27 上部DBRミラー
100〜400 半導体発光素子
L1、L2 線
M メサポスト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZnOからなる成長基板を用いて成長した、Inを含むAlGaInN系材料からなり、成長面が窒素極性面を有する緩衝層と、
前記緩衝層上に形成され、Inを含むAlGaInN系材料からなり、成長面がIII族極性面を有する活性層と、
を備えることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項2】
前記成長基板の主表面の面方位がc面であることを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記成長基板の主表面はc面から微傾斜した微傾斜面であることを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項4】
前記成長基板の主表面は酸素極性面であることを特徴とする請求項2または3に記載の半導体発光素子。
【請求項5】
端面発光型レーザ素子または発光ダイオードであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の半導体発光素子。
【請求項6】
前記緩衝層は、前記成長基板を用いて成長した、ZnMgBeCdO系材料からなる低屈折率層と高屈折率層とが交互に積層した構造からなる多層膜反射鏡の直上に成長したものであり、当該半導体発光素子は面発光レーザ素子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の半導体発光素子。
【請求項7】
前記成長基板を支持基板として備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の半導体発光素子。
【請求項8】
ZnOからなる成長基板上に、Inを含むAlGaInN系材料からなり、成長面が窒素極性面を有する緩衝層を成長する緩衝層形成工程と、
前記緩衝層上に、Inを含むAlGaInN系材料からなり、成長面がIII族極性面を有する活性層を成長する活性層形成工程と、
を含むことを特徴とする半導体発光素子の製造方法。
【請求項9】
前記活性層形成工程において、前記緩衝層形成工程における前記緩衝層の成長温度よりも高い温度で前記活性層を成長することを特徴とする請求項8に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項10】
前記緩衝層形成工程において、500℃より低い温度で前記緩衝層を成長し、前記活性層形成工程において、500℃より高い温度で前記活性層を成長することを特徴とする請求項9に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項11】
前記緩衝層形成工程から前記活性層形成工程への昇温時において、III族及び窒素ラジカルの供給を停止することを特徴とする請求項9または10に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項12】
前記緩衝層形成工程において、始めに窒素ラジカルを供給し、次いでIII族元素を供給して、前記緩衝層を成長することを特徴とする請求項8〜11のいずれか一つに記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項13】
前記活性層形成工程において、始めにIII族元素を供給し、次いで窒素ラジカルを供給して、前記活性層を成長することを特徴とする請求項8〜12のいずれか一つに記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項14】
前記緩衝層形成工程において、III族元素に対して窒素ラジカルが1:1の比よりも過剰になるように供給して、前記緩衝層を成長することを特徴とする請求項8〜13のいずれか一つに記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項15】
前記活性層形成工程において、窒素ラジカルに対してIII族元素が1:1の比よりも過剰になるように供給して、前記活性層を成長することを特徴とする請求項8〜14のいずれか一つに記載の半導体発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−205076(P2011−205076A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39757(P2011−39757)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】