印刷機
【課題】新規な印刷機を提供する。
【解決手段】印刷装置のそれぞれが、版胴と、版胴に当接して回転するゴム胴と、ゴム胴に当接して回転する圧胴と、版胴に当接して回転する複数のインキ着けローラを有するインキ装置と、版胴に当接して回転する１つの水着けローラを有する湿し装置とを有し、各湿し装置の水着けローラは、連続運転が行われる条件のもとで、各湿し装置がデルタ運転されるとき、版胴と異なる表面速度で駆動可能であり、各印刷装置の版胴には、該版胴を独自のモータで駆動するために直結駆動装置が配設されており、各印刷装置のゴム胴と、圧胴と、インキ装置と、湿し装置とは印刷機の主駆動装置によって駆動可能であり、印刷機は閉あるいは開ループ制御装置を有し、該制御装置は、各印刷装置が連続印刷運転されるとき、印刷装置の直結駆動装置を制御し、それによって直結駆動装置が主駆動装置に対して同期するよう駆動される印刷機。
【解決手段】印刷装置のそれぞれが、版胴と、版胴に当接して回転するゴム胴と、ゴム胴に当接して回転する圧胴と、版胴に当接して回転する複数のインキ着けローラを有するインキ装置と、版胴に当接して回転する１つの水着けローラを有する湿し装置とを有し、各湿し装置の水着けローラは、連続運転が行われる条件のもとで、各湿し装置がデルタ運転されるとき、版胴と異なる表面速度で駆動可能であり、各印刷装置の版胴には、該版胴を独自のモータで駆動するために直結駆動装置が配設されており、各印刷装置のゴム胴と、圧胴と、インキ装置と、湿し装置とは印刷機の主駆動装置によって駆動可能であり、印刷機は閉あるいは開ループ制御装置を有し、該制御装置は、各印刷装置が連続印刷運転されるとき、印刷装置の直結駆動装置を制御し、それによって直結駆動装置が主駆動装置に対して同期するよう駆動される印刷機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
本発明は請求項１の、おいて書き部分に記載の印刷機に関する。
【背景技術】
【０００２】
従来技術から、すなわち特許文献１より、複数の印刷装置を有してなる枚葉紙印刷機が知られている。この文献に記載の枚葉紙印刷機では、印刷装置のそれぞれが、圧胴と、該圧胴に当接しながら回転するゴム胴と、該ゴム胴に当接しながら回転する版胴と、インキ装置と、湿し装置とを有し、前記インキ装置のインキ着けローラは前記版胴に当接しながら回転し、前記湿し装置の水着けローラも前記版胴に当接しながら回転する。前記文献に記載の枚葉紙印刷機では、印刷装置に設けられた、圧胴と、ゴム胴と、インキ装置と、湿し装置とが、枚葉紙印刷機の主駆動装置によって駆動される。それに対して、印刷装置の版胴には、専用の駆動装置あるいは直結駆動装置が配設されており、これらの駆動装置によって、版胴は印刷機の主駆動装置との連結を解除された状態で専用モータによって駆動される。
【０００３】
特許文献１から知られている枚葉紙印刷機において、印刷装置を連続運転する条件のもとで、印刷装置の圧胴と、ゴム胴と、インキ装置と、湿し装置とが、主駆動装置によって駆動され、それに対して、印刷装置の版胴は、それぞれの直結駆動装置によって、主駆動装置と同期した状態で駆動される。この場合、通常はインキ装置のインキ着けローラと、湿し装置の水着けローラは、版胴の表面速度に相当する表面速度で、版胴に当接しながら回転する。同様に、版胴の表面速度は、ゴム胴の表面速度に相当する。
【０００４】
前記のような条件のもとで、版胴と同一の表面速度を有している、インキ着けローラと水着けローラが、版胴の延伸溝を通過して回転するとき、通常は、延伸溝を通過することによって印刷結果が損なわれることはない。
【０００５】
従来技術からさらに、連続運転を行う条件のもとで、湿し装置をいわゆるデルタ運転によって駆動することが知られている。デルタ運転では、水着けローラは、版胴とは異なる表面速度を有し、その版胴に当接しながら水着けローラが回転する。デルタ運転によって駆動することができる湿し装置は、デルタ湿し装置とも呼ばれる。版胴と水着けローラは異なる表面速度を有するために、版胴にはトルクが及ぼされる。このトルクは水着けローラが、版胴の延伸溝を通過するとき変化する。このようなトルクの変化により、対応する印刷装置の版胴とゴム胴との間にみられる連動もしくは同期にずれが発生し、このずれによって、印刷すべき印刷画線部に障害が発生することがある。従来技術に関して、今までに、このような現象を考慮に入れた印刷機は知られていない。
【特許文献１】欧州特許出願公開第0 812 683号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【０００６】
上記の事情に鑑み、本発明は新しい種類の印刷機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【０００７】
前記の課題は、請求項１に記載の印刷機によって解決される。本発明によれば、連続運転を行うという条件のもとで個々の湿し装置をデルタ運転する際、閉ループ制御装置あるいは開ループ制御装置は、各印刷装置の版胴を制御し、それによって、湿し装置の単一のあるいは各個の水着けローラが各印刷装置の版胴に設けられた延伸溝を通過するとき、それによって版胴にトルクの変化が生じても、版胴が、各印刷装置のゴム胴に対して連動、または同期して駆動されるように、直結駆動装置を駆動するようになっている。
【０００８】
本発明において、対応する湿し装置をデルタ運転する際に、単一のあるいは各個の水着けローラが版胴に設けられた延伸溝を通過することによって発生する、版胴におけるトルクの変化は、閉ループ制御装置あるいは開ループ制御装置によって、版胴の直結駆動装置を相応に制御することによって調整可能である。このような調整を行うために、版胴の直結駆動装置に対する制御信号は衝動的(インパルス的)に変化させられる。単一のあるいは各個の水着けローラが版胴に設けられた延伸溝の移行箇所を通過するとき、対応する版胴の直結駆動装置に対する動作信号は、非連続的もしくは段階的あるいは階段状に変化させられる。このようにして、湿し装置をデルタ運転する際にも、対応する印刷装置の版胴とゴム胴との間に連動もしくは同期を実現することが可能となり、そのため、連動のずれ、およびそれに伴う印刷の不具合を低減させることができる。
【０００９】
閉ループ制御装置あるいは開ループ制御装置は、個々の版胴の直結駆動装置を、電流調整、回転数調整、位置調整からなるカスケード制御として好適に制御するが、このとき、湿し装置の、単一のあるいは各個の水着けローラが版胴の延伸溝を通過する際、電流調整装置および／あるいは回転数調整装置および／あるいは位置調整装置に、インパルス状の補償値が供給され、それによって、版胴が、各印刷装置のゴム胴に対して連動、または同期して動作するように駆動される。
【００１０】
本発明の好適な構成によれば、閉ループ制御装置あるいは開ループ制御装置は適応制御装置として形成される。このような適応制御装置は、版胴の直結駆動装置に対する動作信号を変化させるための制御パラメータを自発的に習得する。適応制御装置は、個々の版胴の回転角信号またはその時間による微分から、および、延伸溝を通過することによって生じる、個々の印刷装置の版胴とゴム胴との間の同期制御偏差、または、その時間による微分から、制御パラメータを好適に習得する。
【発明を実施するための最良の形態】
【００１１】
本発明の好適なさらなる構成は、下位の請求項および以下の詳細な説明に記載されている。本発明の実施の形態を、図面に基づいて、より詳細に説明するが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではない。
【００１２】
以下に本発明を図１および図２に関連付けながら、より詳細に説明する。
【００１３】
図１は本発明に係る印刷機の印刷装置の、版胴１０と、版胴１０に当接して回転するゴム胴１１の領域、および、同様に版胴１０に当接して回転する、湿し装置の水着けローラ１２の領域とを概略的に示している。より簡略な表示を行う理由から、印刷装置のさらなる構成要素群、すなわち水着けローラ１２と協働する、湿し装置の湿し水配量システム、インキ装置およびゴム胴１１に当接して回転する圧胴は示していない。版胴１０には少なくとも１つの印刷プレートが張設され、単一のあるいは各個の印刷プレートを版胴１０の延伸溝１３に張り込むための相応の緊締装置が設けられている。
【００１４】
連続印刷を行う条件のもとで、印刷装置のインキ装置と、湿し装置と、ゴム胴と、圧胴とが、印刷機の主駆動装置によって駆動される一方、印刷装置の版胴は版胴に配設された専用駆動装置あるいは直結駆動装置を介して、独自に、かつ、主駆動装置から連結解除された状態で駆動可能である。
【００１５】
連続印刷を行う条件のもとで、版胴は対応する直結駆動装置によって、ゴム胴に対するとともに印刷機の主駆動装置に対して、同期あるいは連動するように駆動され、版胴とゴム胴との間、または、版胴の直結駆動装置と印刷機の主駆動装置との間の同期もしくは連動が制御される。
【００１６】
図２は前記のような版胴１０の直結駆動装置１４を概略的に示している。この直結駆動装置は版胴１０の軸１５を駆動する。さらに、ゴム胴１１の軸１６も示されており、図に示されていない印刷機の主駆動装置がゴム胴の軸を駆動する。版胴１０およびゴム胴１１の位置または角度位置は、対応する変換器あるいはセンサ１７または１８を用いて監視することができる。このときセンサ１７および１８の計測信号１９または２０から、版胴１０とゴム胴１１との間の同期制御偏差２１が計算され、この同期制御偏差に基づいて、制御装置２２が版胴１０の直結駆動装置１４のための動作信号２３を発生させ、その結果、同期制御偏差２１はゼロの値を取るようになる。すなわち、版胴１０はゴム胴１１に対して同期するように駆動される。同期制御偏差２１は制限誤差とも呼ばれる。
【００１７】
印刷機の湿し装置のいわゆるデルタ運転においては、対応する湿し装置の水着けローラ１２は対応する印刷装置の版胴１０に当接しながら回転し、それによって、対応する印刷装置の水着けローラ１２と版胴１０とは、異なる表面速度を有するようになる。このため、個々の版胴１０にはトルクが及ぼされるが、このトルクは、水着けローラ１２が版胴１０の延伸溝１３を通過する際に、作用しなくなる。このような中断によって版胴１０とゴム胴１１との間の同期または連動が損なわれ、同期制御偏差２１が形成される。
【００１８】
本発明によれば、個々の湿し装置をデルタ運転する際、制御装置２２は対応する印刷装置の版胴１０の直結駆動装置１４を制御し、それによって、個々の水着けローラ１２が版胴１０の延伸溝１３を通過する際、そのような通過によって版胴１０にトルクの変化が発生するにもかかわらず、版胴を個々の印刷装置のゴム胴１１に対して同期し、したがって連動するように駆動する。このように、湿し装置をデルタ運転する場合、個々の印刷装置の版胴１０とゴム胴１１との間の同期制御偏差２１が回避され、それとともに印刷画線部の障害も防止することができる。
【００１９】
本発明によれば、版胴１０の直結駆動装置１４は、前記のような障害を防止するために制御され、水着けローラ１２が、版胴１０に設けられた延伸溝移行部２４または２５を通過する際、制御装置２２が直結駆動装置１４のための動作信号２３を非連続的に、または段階的に変化させるようになっている。このとき、２つの延伸溝移行部２４および２５において、動作信号２３は逆方向に調整される。すなわち、延伸溝移行部２５を通過する際に動作信号２３が段階的に上昇するならば、その後、延伸溝移行部２４を通過する際には、動作信号２３は段階的に低下する。それに対して、延伸溝移行部２５を通過する際に動作信号２３が段階的に低下するならば、延伸溝移行部２４を通過する際には動作信号は段階的に上昇する。
【００２０】
制御装置２２は直結駆動装置１４の制御を、電流調整、回転数調整、位置調整からなるカスケード制御を介して実現する。湿し装置の水着けローラ１２が、対応する印刷装置の版胴１０の延伸溝１３を通過する際に、電流調整装置および／あるいは回転数調整装置および／あるいは位置調整装置に、インパルス状の補償値が供給され、それによって、版胴１０が、ゴム胴１１に対して同期または連動するように駆動される。
【００２１】
前記のようなインパルス状の補償値を供給するために、図２に示す実施の形態では、制御装置２２に、センサ１７によって発生させられる、版胴１０の回転角度位置に関する計測信号１９が供給され、この計測信号に基づいてインパルス状の補償値の供給が行われたり、止められたりする。このようにして延伸溝１３の通過は、常に版胴１０の回転角度位置が等しい状態で行われる。
【００２２】
したがって本発明は以下のような知見に基づくものである。すなわち、湿し装置をデルタ運転するとき、水着けローラ１２が延伸溝１３を通過することによって発生する版胴１０におけるトルクの変化は、版胴１０の回転ごとにほぼ一定であり、版胴の回転角度位置が等しくなるとき常に生ずる。したがって、制御装置２２は版胴１０の回転角度位置に応じて動作信号２３を衝動的(インパルス的)に変化させ、延伸溝１３を通過する際に発生する版胴１０におけるトルクの変化に対抗するように作用し、版胴１０とゴム胴１１との同期を実現する。
【００２３】
本発明の好適な構成によれば、制御装置２２は適応制御装置として形成され、この適応制御装置には対応する学習モジュール２６が配設されている。学習モジュール２６においては、版胴１０の直結駆動装置１４のための動作信号２３を変化させるための制御パラメータが自動的に習得されるので、湿し装置をデルタ運転するとき、水着けローラ１２が版胴１０の延伸溝１３を通過する際にも、版胴１０とゴム胴１１との連動あるいは同期が実現される。このために、学習モジュール２６には、入力値としてセンサ１７の計測信号１９、すなわち版胴１０の回転角度位置が供給されるとともに、同期制御偏差２１が供給される。これらの入力値および／あるいはこれらの入力値の時間による微分から、学習モジュール２６は、動作信号２３を衝動的(インパルス的)に変化させるための制御パラメータを自動的に習得し、学習モジュール２６は、これらの習得された制御パラメータを出力値２７として制御装置２２に伝送する。
【００２４】
制御装置２２を適応制御装置として形成する場合、動作信号２３を適応させるためのさらなる影響要因を考慮することができる。これらの影響要因は印刷モードを通じて変化する場合もある。これらの影響要因は、たとえば版胴１０に張設された印刷プレート上の湿し剤の量および印刷インキの量、あるいは水着けローラ１２を版胴１０に押しつける圧力および、それとともに水着けローラ１２が版胴１０に当接する際の硬さなどである。
【００２５】
本発明のさらなる構成によれば、印刷に関与するすべての印刷装置の同期制御偏差から、印刷機の主駆動装置および／あるいは版胴の直結駆動装置のためのさらなる動作信号を発生することができる。このような動作信号の発生は、印刷機のための振動補償を実現する目的で行われるものである。このために、印刷装置の同期制御偏差が印刷機の振動挙動と比較され、上位の制御装置がこれらの値から、印刷機の主駆動装置および／あるいは印刷機の印刷装置の版胴の直結駆動装置のための動作信号を発生させ、最終的に印刷機の振動を補償する。
【図面の簡単な説明】
【００２６】
【図１】印刷機の印刷装置の部分概略図である。
【図２】本発明に係る印刷機の印刷装置の制御を示すブロック図である。
【符号の説明】
【００２７】
１０ 版胴
１１ ゴム胴
１２ 水着けローラ
１３ 延伸溝
１４ 直結駆動装置
１５,１６ 軸
１７,１８ センサ
１９,２０ 測定値
２１ 同期制御偏差
２２ 制御装置
２３ 動作信号
２４,２５ 延伸溝移行部
２６ 学習モジュール
２７ 出力値
【技術分野】
【０００１】
本発明は請求項１の、おいて書き部分に記載の印刷機に関する。
【背景技術】
【０００２】
従来技術から、すなわち特許文献１より、複数の印刷装置を有してなる枚葉紙印刷機が知られている。この文献に記載の枚葉紙印刷機では、印刷装置のそれぞれが、圧胴と、該圧胴に当接しながら回転するゴム胴と、該ゴム胴に当接しながら回転する版胴と、インキ装置と、湿し装置とを有し、前記インキ装置のインキ着けローラは前記版胴に当接しながら回転し、前記湿し装置の水着けローラも前記版胴に当接しながら回転する。前記文献に記載の枚葉紙印刷機では、印刷装置に設けられた、圧胴と、ゴム胴と、インキ装置と、湿し装置とが、枚葉紙印刷機の主駆動装置によって駆動される。それに対して、印刷装置の版胴には、専用の駆動装置あるいは直結駆動装置が配設されており、これらの駆動装置によって、版胴は印刷機の主駆動装置との連結を解除された状態で専用モータによって駆動される。
【０００３】
特許文献１から知られている枚葉紙印刷機において、印刷装置を連続運転する条件のもとで、印刷装置の圧胴と、ゴム胴と、インキ装置と、湿し装置とが、主駆動装置によって駆動され、それに対して、印刷装置の版胴は、それぞれの直結駆動装置によって、主駆動装置と同期した状態で駆動される。この場合、通常はインキ装置のインキ着けローラと、湿し装置の水着けローラは、版胴の表面速度に相当する表面速度で、版胴に当接しながら回転する。同様に、版胴の表面速度は、ゴム胴の表面速度に相当する。
【０００４】
前記のような条件のもとで、版胴と同一の表面速度を有している、インキ着けローラと水着けローラが、版胴の延伸溝を通過して回転するとき、通常は、延伸溝を通過することによって印刷結果が損なわれることはない。
【０００５】
従来技術からさらに、連続運転を行う条件のもとで、湿し装置をいわゆるデルタ運転によって駆動することが知られている。デルタ運転では、水着けローラは、版胴とは異なる表面速度を有し、その版胴に当接しながら水着けローラが回転する。デルタ運転によって駆動することができる湿し装置は、デルタ湿し装置とも呼ばれる。版胴と水着けローラは異なる表面速度を有するために、版胴にはトルクが及ぼされる。このトルクは水着けローラが、版胴の延伸溝を通過するとき変化する。このようなトルクの変化により、対応する印刷装置の版胴とゴム胴との間にみられる連動もしくは同期にずれが発生し、このずれによって、印刷すべき印刷画線部に障害が発生することがある。従来技術に関して、今までに、このような現象を考慮に入れた印刷機は知られていない。
【特許文献１】欧州特許出願公開第0 812 683号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【０００６】
上記の事情に鑑み、本発明は新しい種類の印刷機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【０００７】
前記の課題は、請求項１に記載の印刷機によって解決される。本発明によれば、連続運転を行うという条件のもとで個々の湿し装置をデルタ運転する際、閉ループ制御装置あるいは開ループ制御装置は、各印刷装置の版胴を制御し、それによって、湿し装置の単一のあるいは各個の水着けローラが各印刷装置の版胴に設けられた延伸溝を通過するとき、それによって版胴にトルクの変化が生じても、版胴が、各印刷装置のゴム胴に対して連動、または同期して駆動されるように、直結駆動装置を駆動するようになっている。
【０００８】
本発明において、対応する湿し装置をデルタ運転する際に、単一のあるいは各個の水着けローラが版胴に設けられた延伸溝を通過することによって発生する、版胴におけるトルクの変化は、閉ループ制御装置あるいは開ループ制御装置によって、版胴の直結駆動装置を相応に制御することによって調整可能である。このような調整を行うために、版胴の直結駆動装置に対する制御信号は衝動的(インパルス的)に変化させられる。単一のあるいは各個の水着けローラが版胴に設けられた延伸溝の移行箇所を通過するとき、対応する版胴の直結駆動装置に対する動作信号は、非連続的もしくは段階的あるいは階段状に変化させられる。このようにして、湿し装置をデルタ運転する際にも、対応する印刷装置の版胴とゴム胴との間に連動もしくは同期を実現することが可能となり、そのため、連動のずれ、およびそれに伴う印刷の不具合を低減させることができる。
【０００９】
閉ループ制御装置あるいは開ループ制御装置は、個々の版胴の直結駆動装置を、電流調整、回転数調整、位置調整からなるカスケード制御として好適に制御するが、このとき、湿し装置の、単一のあるいは各個の水着けローラが版胴の延伸溝を通過する際、電流調整装置および／あるいは回転数調整装置および／あるいは位置調整装置に、インパルス状の補償値が供給され、それによって、版胴が、各印刷装置のゴム胴に対して連動、または同期して動作するように駆動される。
【００１０】
本発明の好適な構成によれば、閉ループ制御装置あるいは開ループ制御装置は適応制御装置として形成される。このような適応制御装置は、版胴の直結駆動装置に対する動作信号を変化させるための制御パラメータを自発的に習得する。適応制御装置は、個々の版胴の回転角信号またはその時間による微分から、および、延伸溝を通過することによって生じる、個々の印刷装置の版胴とゴム胴との間の同期制御偏差、または、その時間による微分から、制御パラメータを好適に習得する。
【発明を実施するための最良の形態】
【００１１】
本発明の好適なさらなる構成は、下位の請求項および以下の詳細な説明に記載されている。本発明の実施の形態を、図面に基づいて、より詳細に説明するが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではない。
【００１２】
以下に本発明を図１および図２に関連付けながら、より詳細に説明する。
【００１３】
図１は本発明に係る印刷機の印刷装置の、版胴１０と、版胴１０に当接して回転するゴム胴１１の領域、および、同様に版胴１０に当接して回転する、湿し装置の水着けローラ１２の領域とを概略的に示している。より簡略な表示を行う理由から、印刷装置のさらなる構成要素群、すなわち水着けローラ１２と協働する、湿し装置の湿し水配量システム、インキ装置およびゴム胴１１に当接して回転する圧胴は示していない。版胴１０には少なくとも１つの印刷プレートが張設され、単一のあるいは各個の印刷プレートを版胴１０の延伸溝１３に張り込むための相応の緊締装置が設けられている。
【００１４】
連続印刷を行う条件のもとで、印刷装置のインキ装置と、湿し装置と、ゴム胴と、圧胴とが、印刷機の主駆動装置によって駆動される一方、印刷装置の版胴は版胴に配設された専用駆動装置あるいは直結駆動装置を介して、独自に、かつ、主駆動装置から連結解除された状態で駆動可能である。
【００１５】
連続印刷を行う条件のもとで、版胴は対応する直結駆動装置によって、ゴム胴に対するとともに印刷機の主駆動装置に対して、同期あるいは連動するように駆動され、版胴とゴム胴との間、または、版胴の直結駆動装置と印刷機の主駆動装置との間の同期もしくは連動が制御される。
【００１６】
図２は前記のような版胴１０の直結駆動装置１４を概略的に示している。この直結駆動装置は版胴１０の軸１５を駆動する。さらに、ゴム胴１１の軸１６も示されており、図に示されていない印刷機の主駆動装置がゴム胴の軸を駆動する。版胴１０およびゴム胴１１の位置または角度位置は、対応する変換器あるいはセンサ１７または１８を用いて監視することができる。このときセンサ１７および１８の計測信号１９または２０から、版胴１０とゴム胴１１との間の同期制御偏差２１が計算され、この同期制御偏差に基づいて、制御装置２２が版胴１０の直結駆動装置１４のための動作信号２３を発生させ、その結果、同期制御偏差２１はゼロの値を取るようになる。すなわち、版胴１０はゴム胴１１に対して同期するように駆動される。同期制御偏差２１は制限誤差とも呼ばれる。
【００１７】
印刷機の湿し装置のいわゆるデルタ運転においては、対応する湿し装置の水着けローラ１２は対応する印刷装置の版胴１０に当接しながら回転し、それによって、対応する印刷装置の水着けローラ１２と版胴１０とは、異なる表面速度を有するようになる。このため、個々の版胴１０にはトルクが及ぼされるが、このトルクは、水着けローラ１２が版胴１０の延伸溝１３を通過する際に、作用しなくなる。このような中断によって版胴１０とゴム胴１１との間の同期または連動が損なわれ、同期制御偏差２１が形成される。
【００１８】
本発明によれば、個々の湿し装置をデルタ運転する際、制御装置２２は対応する印刷装置の版胴１０の直結駆動装置１４を制御し、それによって、個々の水着けローラ１２が版胴１０の延伸溝１３を通過する際、そのような通過によって版胴１０にトルクの変化が発生するにもかかわらず、版胴を個々の印刷装置のゴム胴１１に対して同期し、したがって連動するように駆動する。このように、湿し装置をデルタ運転する場合、個々の印刷装置の版胴１０とゴム胴１１との間の同期制御偏差２１が回避され、それとともに印刷画線部の障害も防止することができる。
【００１９】
本発明によれば、版胴１０の直結駆動装置１４は、前記のような障害を防止するために制御され、水着けローラ１２が、版胴１０に設けられた延伸溝移行部２４または２５を通過する際、制御装置２２が直結駆動装置１４のための動作信号２３を非連続的に、または段階的に変化させるようになっている。このとき、２つの延伸溝移行部２４および２５において、動作信号２３は逆方向に調整される。すなわち、延伸溝移行部２５を通過する際に動作信号２３が段階的に上昇するならば、その後、延伸溝移行部２４を通過する際には、動作信号２３は段階的に低下する。それに対して、延伸溝移行部２５を通過する際に動作信号２３が段階的に低下するならば、延伸溝移行部２４を通過する際には動作信号は段階的に上昇する。
【００２０】
制御装置２２は直結駆動装置１４の制御を、電流調整、回転数調整、位置調整からなるカスケード制御を介して実現する。湿し装置の水着けローラ１２が、対応する印刷装置の版胴１０の延伸溝１３を通過する際に、電流調整装置および／あるいは回転数調整装置および／あるいは位置調整装置に、インパルス状の補償値が供給され、それによって、版胴１０が、ゴム胴１１に対して同期または連動するように駆動される。
【００２１】
前記のようなインパルス状の補償値を供給するために、図２に示す実施の形態では、制御装置２２に、センサ１７によって発生させられる、版胴１０の回転角度位置に関する計測信号１９が供給され、この計測信号に基づいてインパルス状の補償値の供給が行われたり、止められたりする。このようにして延伸溝１３の通過は、常に版胴１０の回転角度位置が等しい状態で行われる。
【００２２】
したがって本発明は以下のような知見に基づくものである。すなわち、湿し装置をデルタ運転するとき、水着けローラ１２が延伸溝１３を通過することによって発生する版胴１０におけるトルクの変化は、版胴１０の回転ごとにほぼ一定であり、版胴の回転角度位置が等しくなるとき常に生ずる。したがって、制御装置２２は版胴１０の回転角度位置に応じて動作信号２３を衝動的(インパルス的)に変化させ、延伸溝１３を通過する際に発生する版胴１０におけるトルクの変化に対抗するように作用し、版胴１０とゴム胴１１との同期を実現する。
【００２３】
本発明の好適な構成によれば、制御装置２２は適応制御装置として形成され、この適応制御装置には対応する学習モジュール２６が配設されている。学習モジュール２６においては、版胴１０の直結駆動装置１４のための動作信号２３を変化させるための制御パラメータが自動的に習得されるので、湿し装置をデルタ運転するとき、水着けローラ１２が版胴１０の延伸溝１３を通過する際にも、版胴１０とゴム胴１１との連動あるいは同期が実現される。このために、学習モジュール２６には、入力値としてセンサ１７の計測信号１９、すなわち版胴１０の回転角度位置が供給されるとともに、同期制御偏差２１が供給される。これらの入力値および／あるいはこれらの入力値の時間による微分から、学習モジュール２６は、動作信号２３を衝動的(インパルス的)に変化させるための制御パラメータを自動的に習得し、学習モジュール２６は、これらの習得された制御パラメータを出力値２７として制御装置２２に伝送する。
【００２４】
制御装置２２を適応制御装置として形成する場合、動作信号２３を適応させるためのさらなる影響要因を考慮することができる。これらの影響要因は印刷モードを通じて変化する場合もある。これらの影響要因は、たとえば版胴１０に張設された印刷プレート上の湿し剤の量および印刷インキの量、あるいは水着けローラ１２を版胴１０に押しつける圧力および、それとともに水着けローラ１２が版胴１０に当接する際の硬さなどである。
【００２５】
本発明のさらなる構成によれば、印刷に関与するすべての印刷装置の同期制御偏差から、印刷機の主駆動装置および／あるいは版胴の直結駆動装置のためのさらなる動作信号を発生することができる。このような動作信号の発生は、印刷機のための振動補償を実現する目的で行われるものである。このために、印刷装置の同期制御偏差が印刷機の振動挙動と比較され、上位の制御装置がこれらの値から、印刷機の主駆動装置および／あるいは印刷機の印刷装置の版胴の直結駆動装置のための動作信号を発生させ、最終的に印刷機の振動を補償する。
【図面の簡単な説明】
【００２６】
【図１】印刷機の印刷装置の部分概略図である。
【図２】本発明に係る印刷機の印刷装置の制御を示すブロック図である。
【符号の説明】
【００２７】
１０ 版胴
１１ ゴム胴
１２ 水着けローラ
１３ 延伸溝
１４ 直結駆動装置
１５,１６ 軸
１７,１８ センサ
１９,２０ 測定値
２１ 同期制御偏差
２２ 制御装置
２３ 動作信号
２４,２５ 延伸溝移行部
２６ 学習モジュール
２７ 出力値
【特許請求の範囲】
【請求項１】
複数の印刷装置を有してなる印刷機、特に枚葉紙印刷機であって、前記印刷機において印刷装置のそれぞれが、版胴と、該版胴に当接しながら回転するゴム胴と、該ゴム胴に当接しながら回転する圧胴と、前記版胴に当接しながら回転する少なくとも１つのインキ着けローラを有してなるインキ装置と、前記版胴に当接しながら回転する少なくとも１つの水着けローラを有してなる湿し装置と、を有し、
各湿し装置の単一のあるいは各個の水着けローラは、連続運転が行われる条件のもとで、前記各湿し装置がデルタ運転されるとき、前記版胴と異なる表面速度で駆動可能であり、各印刷装置の前記版胴には、該版胴を独自のモータで駆動するために、直結駆動装置が配設されており、
各印刷装置の前記ゴム胴と、前記圧胴と、前記インキ装置と、前記湿し装置とは、前記印刷機の主駆動装置によって駆動可能であり、
前記印刷機はまた、閉ループ制御装置あるいは開ループ制御装置を有し、該制御装置は、前記各印刷装置が連続印刷運転されるとき、前記印刷装置の前記直結駆動装置を制御し、それによって前記直結駆動装置が前記主駆動装置に対して同期するように駆動される印刷機において、
前記閉ループ制御装置あるいは開ループ制御装置は、連続運転が行われる条件のもとで、前記各湿し装置がデルタ運転されるとき、前記各印刷装置の前記版胴の前記直結駆動装置を制御し、それによって、前記湿し装置の単一のあるいは各個の水着けローラが、前記各印刷装置の前記版胴に設けられた延伸溝を通過する際に、該通過によって前記版胴にトルクの変化が発生するにもかかわらず、前記直結駆動装置は前記版胴を前記各印刷装置の前記ゴム胴に対して連動あるいは同期するように駆動することを特徴とする印刷機。
【請求項２】
前記閉ループ制御装置あるいは開ループ制御装置は、単一のあるいは各個の水着けローラが前記版胴の延伸溝移行部を通過する際に、前記版胴の前記直結駆動装置のための動作信号を非連続的にあるいは段階的に変化させることを特徴とする請求項１に記載の印刷機。
【請求項３】
前記閉ループ制御装置あるいは開ループ制御装置は適応制御装置として形成され、該適応制御装置は、前記版胴の前記直結駆動装置のための動作信号を変化させるための制御パラメータを自動的に習得することを特徴とする請求項１または請求項２に記載の印刷機。
【請求項４】
前記適応制御装置は、前記制御パラメータを、前記各版胴の回転角度信号および前記延伸溝を通過することによって生じる、前記各印刷装置の前記版胴と前記ゴム胴との間の同期制御偏差および／あるいはこれらの信号の時間による微分から習得することを特徴とする請求項３に記載の印刷機。
【請求項５】
前記閉ループ制御装置あるいは開ループ制御装置は、前記版胴の前記直結駆動装置を、電流調整、回転数調整、位置調整からなるカスケード制御として閉ループ制御あるいは開ループ制御し、前記湿し装置の単一のあるいは各個の水着けローラが、前記版胴の延伸溝を通過する際に、電流調整装置および／あるいは回転数調整装置および／あるいは位置調整装置に、インパルス状の補償値が供給され、それによって前記版胴を、前記各印刷装置の前記ゴム胴に対して連動または同期するように駆動することを特徴とする請求項１ないし請求項４のいずれか１項に記載の印刷機。
【請求項６】
前記閉ループ制御装置あるいは開ループ制御装置は、印刷に関与するすべての印刷装置の前記版胴と前記ゴム胴との間の同期制御偏差から、前記主駆動装置および／あるいは前記版胴の前記直結駆動装置のための動作信号を発生させ、それによって、前記印刷機の振動を最小限にするか、または、補償することが可能であることを特徴とする請求項１ないし請求項５のいずれか１項に記載の印刷機。
【請求項１】
複数の印刷装置を有してなる印刷機、特に枚葉紙印刷機であって、前記印刷機において印刷装置のそれぞれが、版胴と、該版胴に当接しながら回転するゴム胴と、該ゴム胴に当接しながら回転する圧胴と、前記版胴に当接しながら回転する少なくとも１つのインキ着けローラを有してなるインキ装置と、前記版胴に当接しながら回転する少なくとも１つの水着けローラを有してなる湿し装置と、を有し、
各湿し装置の単一のあるいは各個の水着けローラは、連続運転が行われる条件のもとで、前記各湿し装置がデルタ運転されるとき、前記版胴と異なる表面速度で駆動可能であり、各印刷装置の前記版胴には、該版胴を独自のモータで駆動するために、直結駆動装置が配設されており、
各印刷装置の前記ゴム胴と、前記圧胴と、前記インキ装置と、前記湿し装置とは、前記印刷機の主駆動装置によって駆動可能であり、
前記印刷機はまた、閉ループ制御装置あるいは開ループ制御装置を有し、該制御装置は、前記各印刷装置が連続印刷運転されるとき、前記印刷装置の前記直結駆動装置を制御し、それによって前記直結駆動装置が前記主駆動装置に対して同期するように駆動される印刷機において、
前記閉ループ制御装置あるいは開ループ制御装置は、連続運転が行われる条件のもとで、前記各湿し装置がデルタ運転されるとき、前記各印刷装置の前記版胴の前記直結駆動装置を制御し、それによって、前記湿し装置の単一のあるいは各個の水着けローラが、前記各印刷装置の前記版胴に設けられた延伸溝を通過する際に、該通過によって前記版胴にトルクの変化が発生するにもかかわらず、前記直結駆動装置は前記版胴を前記各印刷装置の前記ゴム胴に対して連動あるいは同期するように駆動することを特徴とする印刷機。
【請求項２】
前記閉ループ制御装置あるいは開ループ制御装置は、単一のあるいは各個の水着けローラが前記版胴の延伸溝移行部を通過する際に、前記版胴の前記直結駆動装置のための動作信号を非連続的にあるいは段階的に変化させることを特徴とする請求項１に記載の印刷機。
【請求項３】
前記閉ループ制御装置あるいは開ループ制御装置は適応制御装置として形成され、該適応制御装置は、前記版胴の前記直結駆動装置のための動作信号を変化させるための制御パラメータを自動的に習得することを特徴とする請求項１または請求項２に記載の印刷機。
【請求項４】
前記適応制御装置は、前記制御パラメータを、前記各版胴の回転角度信号および前記延伸溝を通過することによって生じる、前記各印刷装置の前記版胴と前記ゴム胴との間の同期制御偏差および／あるいはこれらの信号の時間による微分から習得することを特徴とする請求項３に記載の印刷機。
【請求項５】
前記閉ループ制御装置あるいは開ループ制御装置は、前記版胴の前記直結駆動装置を、電流調整、回転数調整、位置調整からなるカスケード制御として閉ループ制御あるいは開ループ制御し、前記湿し装置の単一のあるいは各個の水着けローラが、前記版胴の延伸溝を通過する際に、電流調整装置および／あるいは回転数調整装置および／あるいは位置調整装置に、インパルス状の補償値が供給され、それによって前記版胴を、前記各印刷装置の前記ゴム胴に対して連動または同期するように駆動することを特徴とする請求項１ないし請求項４のいずれか１項に記載の印刷機。
【請求項６】
前記閉ループ制御装置あるいは開ループ制御装置は、印刷に関与するすべての印刷装置の前記版胴と前記ゴム胴との間の同期制御偏差から、前記主駆動装置および／あるいは前記版胴の前記直結駆動装置のための動作信号を発生させ、それによって、前記印刷機の振動を最小限にするか、または、補償することが可能であることを特徴とする請求項１ないし請求項５のいずれか１項に記載の印刷機。
【図１】
【図２】
【図２】
【公開番号】特開２００７−６９６０６（Ｐ２００７−６９６０６Ａ）
【公開日】平成１９年３月２２日（２００７．３．２２）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２００６−２２５６３８（Ｐ２００６−２２５６３８）
【出願日】平成１８年８月２２日（２００６．８．２２）
【出願人】（５９９０１１５８４）エム・アー・エヌ・ローラント・ドルックマシーネン・アクチエンゲゼルシャフト (257)
【Ｆターム（参考）】
【公開日】平成１９年３月２２日（２００７．３．２２）
【国際特許分類】
【出願日】平成１８年８月２２日（２００６．８．２２）
【出願人】（５９９０１１５８４）エム・アー・エヌ・ローラント・ドルックマシーネン・アクチエンゲゼルシャフト (257)
【Ｆターム（参考）】
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