説明

厚塗り形成装置及び厚塗り形成方法

【課題】ニス等の被着物を厚塗りで形成するための厚塗り形成装置を提供する。
【解決手段】複数の微小なメッシュ開口を有するメッシュ状支持体上に熱可塑性樹脂フィルムを貼合したスクリーン印刷版であって、該樹脂フィルムを穿孔することによって穿孔部が形成される孔版原紙と、複数の通過開口を配置した円筒状周壁を備えて、穿孔された孔版原紙を円筒状周壁の外周面上に巻装する版胴と、版胴の内周面に摺接するように傾斜配置されて、版胴の内周面との間に供給された被着物を押し出すスキージブレードと、版胴及び孔版原紙を介してスキージブレードに対向配置されて、用紙を版胴に巻装された孔版原紙に密着させる密着ローラと、を備え、版胴の回動に伴って、スキージブレードによって版胴の通過開口を通じて孔版原紙のメッシュ開口に被着物が充填されて、充填された被着物が穿孔部から押し出されて用紙に被着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、厚塗り形成装置及び厚塗り形成方法に関する。本発明は、詳細には、従来の孔版印刷技術を改良した、ニスやインキ等の被着物を厚塗りで形成するための厚塗り形成装置及び厚塗り形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の孔版印刷装置を用いて印刷済み用紙上にニスを塗工することが検討されている。例えば、孔版印刷装置の版胴に対して製版済み原紙を巻装して、版胴のエッチング開口及び製版済み原紙の穿孔の両方を通過したニスを用紙に塗工することが検討されている。しかしながら、従来の孔版印刷技術をそのまま用いた方法では、多数のエッチング開口が配置された版胴の開口パターンを反映した周期的な凹凸が用紙のニス塗工面に発生し、平滑な塗工を得ることができない。また、製版原紙に形成された穿孔にニスが充填されるニス充填量が少ないために、塗膜を厚塗りで形成することができない。
【0003】
また、従来の孔版印刷技術の改良技術として、多孔質支持体に熱可塑性フィルムを貼合した製版原紙を版胴に巻装するときに、多孔質支持体(和紙繊維)が外側に位置するように製版原紙を版胴に巻装すること、すなわち製版原紙を従来とは反対の形態で巻装することが特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−202496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された技術によれば、押圧手段としてのプレスローラにより製版原紙と用紙とが圧接したときに、製版原紙の多孔質支持体(和紙繊維)に含まれたニスが滲み出て、滲み出たニスが用紙の塗工すべきでない部分にも広がって付着してしまう。その結果、ニスを塗工すべき部分と塗工すべきでない部分との境界が不明瞭になるという問題がある。さらに、多孔質支持体(和紙繊維)に絡んでいるニスの抵抗力の方が、用紙に付着したニスのタック力よりも大きいために、多孔質支持体が用紙に圧接したあと多孔質支持体が用紙から離れるときに、用紙に付着したニスが多孔質支持体に引き寄せられる。その結果、用紙へのニス付着量が少なくなり、厚塗りすることができないという問題がある。
【0006】
したがって、本発明の解決すべき技術的課題は、従来の孔版印刷技術を改良した、ニスやインキ等の被着物を厚塗りで形成するための厚塗り形成装置及び厚塗り形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記技術的課題を解決するために、本発明によれば、以下の厚塗り形成装置及び厚塗り形成方法が提供される。
【0008】
すなわち、本発明の請求項1に係る厚塗り形成装置は、
複数の微小なメッシュ開口を有するメッシュ状支持体上に熱可塑性樹脂フィルムを貼合したスクリーン印刷版であって、前記熱可塑性樹脂フィルムを穿孔することによって穿孔部が形成される孔版原紙と、
複数の通過開口を配置した円筒状周壁を備えて、穿孔された前記孔版原紙を前記円筒状周壁の外周面上に巻装する版胴と、
前記版胴の内周面に摺接するように傾斜配置されて、前記版胴の内周面との間に供給された被着物を押し出すスキージブレードと、
前記版胴及び前記孔版原紙を介して前記スキージブレードに対向配置されて、搬送される用紙を前記版胴に巻装された前記孔版原紙に密着させる密着ローラと、
を備え、
前記版胴の回動に伴って、前記スキージブレードによって前記版胴の通過開口を通じて前記孔版原紙のメッシュ開口に前記被着物が充填されて、充填された被着物が前記穿孔部から押し出されて前記用紙に被着するように構成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項2に係る厚塗り形成装置では、
前記密着ローラが、剛性体からなることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項3に係る厚塗り形成装置では、
前記熱可塑性樹脂フィルムの穿孔は、サーマルヘッド、レーザ光の照射、又は黒体物へのフラッシュ光照射を用いた加熱熔融により形成されることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項4に係る厚塗り形成装置では、
前記被着物が、印刷済み用紙の表面をコーティングするためのニス、又は用紙の表面を印刷するためのインキであることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項5に係る厚塗り形成装置では、
前記被着物が、熱可塑性を有するとともに紫外線で硬化する組成物であることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項6に係る厚塗り形成装置では、
前記被着物が可塑化する温度に、前記被着物の被着した前記用紙を加熱するための加熱手段をさらに備えることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項7に係る厚塗り形成装置では、
前記加熱手段が赤外線照射であることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項8に係る厚塗り形成装置では、
前記熱可塑した被着物の被着した前記用紙に対して紫外線を照射するための紫外線照射手段をさらに備えることを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項9に係る厚塗り形成方法では、
前記請求項1乃至8のいずれか一つに記載された厚塗り形成装置を用いて、前記スキージブレードにより押し出された前記被着物を、前記版胴及び前記孔版原紙を介して前記用紙の表面上に被着させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る本発明では、版胴の回動に伴って、スキージブレードが版胴の内周面に摺接することによって版胴上の被着物が掻き出され、版胴の通過開口を通じて孔版原紙のメッシュ開口及びその周辺部に被着物が充填される。充填された被着物は、穿孔部から押し出されて用紙上に被着(付着)する。本発明の孔版原紙におけるメッシュ状支持体の厚さが、従来の孔版印刷技術で使用されている製版原紙(熱可塑性樹脂フィルム)の厚さよりも厚いために、本発明におけるメッシュ開口の容積が、従来の製版原紙の穿孔の容積よりも大きくなるので、より多くの被着物がメッシュ開口及びその周辺部に充填される。したがって、より多く充填された被着物が用紙に被着するので、用紙に対して被着物を厚塗りで形成することができるという効果を奏する。また、本装置で使用する孔版原紙が、スクリーン印刷技術において一般的に使用されているものであるので、入手が容易であり、低コスト化できるという効果を奏する。
【0018】
請求項2に係る本発明では、密着ローラが変形しにくいために、密着ローラが版胴に対して線状に接触する。その結果、被着物がメッシュ開口及びその周辺部に充填されるとともに、充填された被着物が穿孔部から抜け出ることが容易になるという効果を奏する。
【0019】
請求項3に係る本発明では、局所的な加熱熔融によって熱可塑性樹脂フィルムが熱収縮するので、熱可塑性樹脂フィルムの穿孔部にバリが発生することなく、穿孔作業を低コスト化できるという効果を奏する。
【0020】
請求項4に係る本発明では、印刷、コーティング、立体感のある模様形成等の幅広い用途に使用することができるという効果を奏する。
【0021】
請求項5に係る本発明では、熱可塑性により被着物に平坦性及び光沢性を付与し、紫外線硬化により体積変化のない形状維持性を被着物に付与するという効果を奏する。
【0022】
請求項6に係る本発明では、用紙に被着した被着物が加熱により流動(熱可塑)して、用紙に被着した被着物に平坦性及び光沢性を付与するという効果を奏する。
【0023】
請求項7に係る本発明では、高い変換効率、クリーンな加熱、省電力であるという効果を奏する。
【0024】
請求項8に係る本発明では、用紙に被着した被着物を短時間で硬化・乾燥できるという効果を奏する。
【0025】
請求項9に係る本発明では、用紙に対して被着物を厚塗りで形成できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係る厚塗り形成装置の全体構成を模式的に示す縦断面図である。
【図2】図1に示した厚塗り形成装置の機能ブロック図である。
【図3】図1に示した厚塗り形成装置において使用されるドラムユニットを示す斜視図である。
【図4】図1に示した厚塗り形成装置において使用される孔版原紙を説明する模式的断面図である。
【図5】図1に示した厚塗り形成装置の要部を説明する模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明の一実施形態に係る厚塗り形成装置10の全体構成について、図1,2を参照しながら詳細に説明する。
【0028】
図1の全体構成図に示すように、厚塗り形成装置10は、従来から使用されている孔版印刷装置を改良したものであり、画像読取部(図示せず)と、製版原紙供給部30と、製版原紙回収部40と、用紙供給部50と、ドラム部60と、排紙部80と、後処理部70と、用紙回収部90と、を備えている。
【0029】
画像読取部は、照明ランプや撮像素子やミラーやレンズ等から構成された光学系を備えており、原稿台の上に置かれた原稿の画像情報を読み取る。
【0030】
製版原紙供給部30は、ロール状に巻回された未製版の原紙32を製版装置34で加熱熔融することにより、複数の微小な穿孔部37を形成(すなわち製版)した製版済み原紙(孔版原紙)36を作製する。その後、該製版済み原紙(孔版原紙)36を所定寸法に切断してドラム部60の版胴62に装着する。
【0031】
ドラム部60は、複数の通過開口63を配置した円筒状周壁を有する版胴62と、版胴62の内周面に摺接するように傾斜配置されたスキージブレード64と、傾斜配置されたスキージブレード64と版胴62の内周面との間にニス(被着物)4を供給するためのニス(被着物)供給装置114と、を備える。ドラム部60は、ドラムユニット68として、装置本体12に対して着脱自在に構成されている。製版済み原紙(孔版原紙)36が、版胴62の外周面に対して着脱自在に巻装される。
【0032】
製版原紙回収部40は、版胴62の外周面から剥がされた製版済み原紙(孔版原紙)36を回収する。
【0033】
用紙供給部50は、給紙台54に載置された用紙2を、給紙ローラ56及びさばき板58により、上から1枚ずつ分離する。
【0034】
用紙供給部50において分離された用紙2は、装置本体12内のフィードローラ対13,14により、所定のタイミングで版胴62の下に搬送される。密着ローラ15は、版胴62に密着可能な程度の小さな密着力で付勢されている。版胴62の下に搬送された用紙2は、付勢された密着ローラ15によって、版胴62の外周面に巻装された製版済み原紙(孔版原紙)36と密着する。製版済み原紙(孔版原紙)36と密着した用紙2には、ニス(被着物)4が付着する。ニス(被着物)4の付着した用紙2は、排紙部80から後処理部70を経て用紙回収部90へ搬送される。
【0035】
排紙部80の上方には、ニス(被着物)4の付着した用紙2を版胴62(厳密には、版胴62に巻装された製版済み原紙36)から引き剥がすために、用紙2に引っ掛かる紙剥がし爪16が設けられている。紙剥がし爪16を用いて、版胴62に付着した用紙2の先端を掴んで、用紙2を版胴62から強制的に引き剥がす。
【0036】
排紙部80は、排紙ベルト82を備える。排紙ベルト82は、その上側部分が用紙搬送経路に沿って移動するように循環する。版胴62から引き剥がされた用紙2は、排紙ベルト82の循環に伴って、後処理部70へ搬送される。
【0037】
後処理部70は、ニス(被着物)4の付着した用紙2に対して各種の後処理を施すためのものである。後処理部70には、ニス(被着物)4の付着した用紙2を搬送する無端の穴開きベルト76と、穴開きベルト76を回転駆動する駆動モータ78と、穴開きベルト76を介して用紙2を吸引する吸引ダクト(図示せず)と、を備える用紙搬送装置が設置されている。
【0038】
用紙搬送装置の上方には、用紙搬送経路の上流側から下流側に向けて、赤外線ランプ72と紫外線ランプ74とが順に配置されている。赤外線ランプ72及び紫外線ランプ74の点灯タイミングや点灯時間や照射強度等は、それぞれ、赤外線ランプ点灯回路71及び紫外線ランプ点灯回路73により制御される。
【0039】
赤外線ランプ72は、赤外線加熱により、用紙2に付着したニス(被着物)4を流動化させるためのものである。赤外線ランプ72は、ハロゲンランプ等である。赤外線ランプ72から照射される赤外線により、ニス(被着物)4を付着させた用紙2を、ニス(被着物)4に応じた所定温度(例えば40度乃至80度)に加熱すると、ニス(被着物)4が熱可塑する。
【0040】
紫外線ランプ74は、流動化したニス(被着物)4を硬化・定着させるためのものである。紫外線ランプ74は、高圧水銀灯やメタルハライドランプ等である。
【0041】
用紙回収部90は、後処理部70から排出された用紙2を紙受台92上の所定位置に揃えて載置するために、用紙先端に当接する止めガイド板96と、用紙2の両側を揃える一対の幅ガイド板と、を備える。
【0042】
図2は、厚塗り形成装置10の主要部分に関する機能ブロック図である。
【0043】
制御装置としてのCPU(中央処理演算装置)100は、入力操作部や出力表示部が配置された操作パネル110と、制御プログラム等を記憶したROM(リード・オンリー・メモリ:フラッシュROM)102と、製版に用いる画像データ等を一時的に記憶するRAM(ランダム・アクセス・メモリやハードディスク)104と、各種の入出力装置と、を通じて、厚塗り形成装置10における各種の演算処理や判断動作の制御を行っている。図2においては、入出力装置として、例えば、版胴回転駆動装置61と、製版済み原紙(孔版原紙)36の版胴62への着脱を制御するクランパ開閉装置112と、製版搬送装置33と、被着物供給装置114と、ランプ72,74の点灯時間や点灯タイミング等を制御するタイマ116と、エア吸引ファン84と、赤外線ランプ点灯回路71と、紫外線ランプ点灯回路73と、排紙ベルト82や穴開きベルト76等の用紙搬送に係る部材を制御するための用紙搬送回路118と、がそれぞれ接続されている。
【0044】
次に、図3乃至5を参照しながら、本発明に係る厚塗り形成装置10の要部について詳細に説明する。
【0045】
図3は、ドラム部60が版胴回転駆動装置61により回転駆動されるドラムユニット68を示している。円筒状のドラム部60がドラムユニット68のフレームに軸支されている。版胴回転駆動装置(モータ)61からの回転駆動力が歯車やベルト等の回転駆動力伝達手段を介してドラム部60に伝達されることにより、ドラム部60が回転する。ドラムユニット68は、装置本体12に対して着脱自在に構成されている。なお、ドラムユニット68は、従来の孔版印刷装置において用いられている、版胴の内周面に接するインクローラと、版胴外周面に接するプレスローラとが、圧接する印刷ドラムユニットと交換可能に構成されている。
【0046】
ドラム部60よりも幅方向に一回り小さい寸法の版胴62が、ドラム部60の左右の外周端部に対して着脱自在に装着・支持されている。版胴62は、例えば、厚みが0.15mm程度のステンレス材からなる薄肉の平板から構成されている。当該薄肉の平板は、版胴62としてドラム部60に装着するときには、円筒状に丸めて使用される。版胴62には、多数の円形の通過開口63が略均等に分散配置されている。このような通過開口63は、公知の化学的エッチングプロセスで作製される。本発明を限定しない、通過開口63の配置パターンを例示すると、円形穴の直径が0.25mm、ピッチが0.35mmであり、開口率が約46.4%である。
【0047】
版胴62に形成された通過開口63は、版胴62の内周面上に供給されたるニス(被着物)4を版胴62の外周面上に巻装された製版済み原紙(孔版原紙)36に通過させるためのものである。したがって、通過開口63は、できるだけ均一に分散配置されているとともに、大きな開口率を有することが好ましい。しかしながら、通過開口63の開口率が大きくなると、版胴62としての機械的強度が低下し、その結果、密着ローラ15が版胴62に対して強い密着力で密着したときに、版胴62が変形してしまう。このことを防止するために、通過開口63の開口率が約30%乃至50%であることが好適である。また、通過開口63の形状は、円形に限られず、正三角形や正四角形や正互角形や正六角等の正多角形とすることもできる。このような正多角形の通過開口63の方が、円形の通過開口63よりも非開口のデッドスペースを少なくすることができるので、開口率をアップさせるためには有効である。その反面、版胴62としての機械的強度が低下する。したがって、開口率と機械的強度とを総合的に勘案して、通過開口63の形状や配置パターンを決定する。
【0048】
図4は、版胴62の外周面上に巻装される製版済み原紙(孔版原紙)36の断面を示している。製版済み原紙(孔版原紙)36は、材質がポリエステル又はナイロン(登録商標)であるメッシュ状支持体36aと、ポリエステル系の熱可塑性樹脂フィルム36cと、を備えてなる。熱可塑性樹脂フィルム36cは、ウレタン系やポリエステル系の接着剤36bによりメッシュ状支持体36aに一体的に貼合されている。接着剤36bと反対側に位置する熱可塑性樹脂フィルム36cの表面の上には、フッ素系の融着防止剤がコーティングされている。熱可塑性樹脂フィルム36cの厚みは、例えば、1.5乃至4μmである。したがって、後述するように、熱可塑性樹脂フィルム36cの厚みは、メッシュ状支持体36aの厚みより非常に薄い。
【0049】
メッシュ状支持体36aには、複数のメッシュ開口36dがマトリックス状に規則的に形成されている。本発明を限定しない、メッシュ状支持体36aのメッシュ構成を例示すると、120メッシュのもの(厚みが70乃至110μm、線径が45乃至65μm、メッシュ開口のサイズが145乃至170μm、開口率が45乃至65%)、200メッシュのもの(厚みが65乃至90μm、線径が45乃至55μm、メッシュ開口のサイズが70乃至85μm、開口率が30乃至45%)、300メッシュのもの(厚みが45乃至65μm、線径が30乃至40μm、メッシュ開口のサイズが45乃至55μm、開口率が25乃至65%)である。未製版の原紙32の熱可塑性樹脂フィルム36cを穿孔して穿孔部37を形成して当該穿孔部37を微視的に観察すると、マトリックス状に配置された複数の微小なメッシュ開口36dが穿孔部37から露出している。
【0050】
版胴62の内周面に対してスキージブレード64が摺動することにより、ニス(被着物)4が製版済み原紙(孔版原紙)36のメッシュ開口36d及びその周辺部に充填されて、充填されたニス(被着物)4が用紙2に被着(付着)するように構成されている。例えば、メッシュ状支持体36aが120メッシュのものであれば、145乃至170μmサイズのメッシュ開口36dが形成されている。そして、120メッシュの場合、厚みが70乃至110μmであるということは、メッシュ開口36dが70乃至110μmの充填深さを備えている。すなわち、120メッシュの場合、ニス(被着物)4を大略70乃至110μmの深さで充填可能であり、ニス(被着物)4を大略70乃至110μmの高さで用紙2に被着(付着)可能なことを意味している。
【0051】
従来の孔版印刷技術では、インキの付着高さが製版原紙としての熱可塑性樹脂フィルムの膜厚に依存し、サーマルヘッドで高速穿孔できるように、膜厚が数μmの薄い熱可塑性樹脂フィルムが単体で用いられている。従来の孔版印刷技術では、製版原紙として肉厚の薄い熱可塑性樹脂フィルムが単体で使用されているために、インクを厚塗りすることができない。これに対して、肉厚の厚いメッシュ状支持体36aを含む原紙(孔版原紙)36を用いている本発明に係る厚塗り形成装置10は、従来の孔版印刷技術よりも、ニス(被着物)4を厚塗りで形成することができる。
【0052】
熱可塑性樹脂フィルム36cの穿孔部37は、サーマルヘッド、レーザ光の照射、又は黒体物へのフラッシュ光照射を用いた加熱熔融により形成される。その結果、製版済み原紙(孔版原紙)36においては、メッシュ状支持体36aのメッシュ開口36dと、熱可塑性樹脂フィルム36cの穿孔部37とが、連通している。
【0053】
サーマルヘッドによる加熱熔融は、従来の孔版印刷技術を応用したものであり、サーマルヘッドに印加するエネルギーを増大させる(供給電力や通電パルス幅を大きくする)ことにより、従来よりも大きなサイズの穿孔部37を熱可塑性樹脂フィルム36cに形成する。
【0054】
レーザ光の照射による加熱熔融は、熱可塑性樹脂フィルム36cを熔融させるのに十分な光強度を持ったレーザ光をベクトルでパターン状に描画することにより、穿孔部37を熱可塑性樹脂フィルム36cに形成する。
【0055】
黒体物へのフラッシュ光照射を用いた加熱熔融は、カーボンブラック等の黒体物を含む塗料を熱可塑性樹脂フィルム36cの熔融すべき部分に塗布し、キセノン閃光放電管から発光されたフラッシュ光を熱可塑性樹脂フィルム36cに照射することにより、黒体物で覆われた部分を瞬時に加熱熔融して穿孔部37を熱可塑性樹脂フィルム36cに形成する。
【0056】
図5は、版胴62及びその周辺領域についての長手方向に垂直な断面を模式的に拡大した図である。図5において、スキージブレード64の下側エッジ部64aが、版胴62の内周面の最下位置の部分に対して線状に摺接している。版胴62及び製版済み原紙(孔版原紙)36を挟んで、スキージブレード64の反対側(図5では下側)には、密着ローラ15が離接可能に配設されている。したがって、スキージブレード64の下側エッジ部64aと、密着ローラ15の外周面の頂部とが、版胴62及び製版済み原紙(孔版原紙)36を介して、対向配置されている。
【0057】
スキージブレード64は、図5の紙面直交方向(長手方向)に延在し、ドラム部60の回転軸と並行に配置されている。スキージブレード64は、スクリーン印刷装置で一般的に使用されている可撓性を有する板状弾性体であり、好適には、永久歪みが小さくて耐磨耗性に優れているポリウレタンゴムからなる。
【0058】
従来の一般的なスクリーン印刷では、製版済み原紙(孔版原紙)が固定されて、スキージブレードが移動するように構成されている。しかしながら、本発明においては、製版済み原紙36の巻装された版胴62が回転し、スキージブレード64がドラムユニット68に対して固定的に支持されている。したがって、スキージングの際に、スキージブレード64が動くことはなく、その代わりに、版胴62が回転する。しかしながら、図5に示したように接線領域を微視的に見ると、版胴62の回転は、版胴62が略接線方向T(図5では右方向)に移動していると見ることができる。逆に、スキージブレード64が版胴62の進行方向Tと逆方向の略接線方向S(図5では左方向)に移動しているものと仮想することができる。すなわち、スキージブレード64と版胴62との間での移動は相対的なものであるから、スキージブレード64が仮想進行方向Sに移動すると考えることができる。
【0059】
版胴62の内部において、スキージブレード64は、仮想進行方向Sの側に、所定の傾斜角度を持って傾斜配置されている。傾斜したスキージブレード64と、版胴62の内周面との間に、所定量のニス(被着物)4が供給される。ニス(被着物)4を用紙2に塗布する際には、傾斜したスキージブレード64でニス(被着物)4の液溜まりを仮想進行方向Sに仮想的に走査すると、版胴62との間で作用する摩擦力及びスキージブレード64の押圧力に基づいて、ニス(被着物)4の液溜まりにおいてローリング流れが起こり、スキージブレード64の下エッジ部64aにニス(被着物)4を安定的に供給することができると考えられている。
【0060】
傾斜したスキージブレード64と版胴62の内周面との間に、所定量のニス(被着物)4を保持するように、ニス(被着物)4の供給手段(図示せず)が版胴62の内に設けられている。当該供給手段は、ニス(被着物)4を貯蔵する貯蔵タンクと、当該貯蔵タンク内のニス(被着物)4を供給チューブに送出ポンプと、ニス(被着物)4の液溜まりにニス(被着物)4を供給する供給チューブと、液溜まりに溜まっているニス(被着物)4の量を検出する液溜まり量検出センサと、を備えている。
【0061】
スキージブレード64の上端部は、スキージブレード64の下端部が所定の長さで突出(露出)するように、ホルダ(図示せず)により保持されている。スキージブレード64は、ホルダを介して、ドラムユニット68の支持装置(図示せず)により支持されている。ドラムユニット68の支持装置は、スキージブレード64が接線直交方向に(図5では上下方向に)移動可能に構成されている。それとともに、スキージブレード64が版胴62の内周面の最下位置の部分に摺接したときに版胴62の内周面を一定のスキージ押圧力(すなわち、ドラム部60の軸心と反対側の力であって図5では下向きの力)で押圧するように構成されている。スキージ押圧力は、例えば、スキージブレード64の幅が300mmであるとき約24.5N(約2.5kg重)である。
【0062】
他方、密着ローラ15が版胴62の外周面上に巻装された製版済み原紙(孔版原紙)36、及び用紙2に対して一定の密着力(すなわち、ドラム部60の軸心の方に向かう力であって、図5では上向きの力)で押圧するように構成されている。密着ローラ15は、アルミニウムやアルミニウム合金やステンレスのような金属材料やアクリル系樹脂やポリカーボネート等の樹脂材料等の剛性材料からなる。密着ローラ15は、版胴62等に密着力を印加してモータによって回転駆動されるので、剛性があって軽量のアルミニウムやアルミニウム合金であることが好適である。
【0063】
密着ローラ15によって印加される密着力は、製版済み原紙(孔版原紙)36及び用紙2が均一に密着するのに必要且つ十分な力である。密着ローラ15の密着力は、例えば、密着ローラ15の幅が300mmであるとき約24.5N(約2.5kg重)である。スキージ押圧力と密着力とが釣り合った上記密着挟持構造により、ニス(被着物)4が版胴62及び製版済み原紙(孔版原紙)36から押し出されるとともに、用紙2が製版済み原紙(孔版原紙)36に対して適度な力で密着して用紙2にニス(被着物)4を塗布することができる。なお、当該スキージ押圧力及び密着力が大きすぎると、版胴62を変形させる恐れがあるので、版胴62の機械的強度に応じてスキージ押圧力及び密着力が選択される。
【0064】
スキージブレード64の材質としては、ポリウレタンゴムの他に、例えば、シリコンゴム、エチレン/プロピレン/ジエン共重合体(EPDM)等のプレポリマーを使用できる。また、スキージブレード64の硬さは、68゜乃至85゜(JIS−A)のものであることが好ましい。また、ポリウレタンゴムからなるスキージブレード64は、スキージブレード64の下側部分の弾性を確保するという観点から、数mm程度の厚みであることが好ましい。また、スキージブレード64の傾斜角度は、30゜乃至60゜であることが好ましい。ドラムユニット68は、スキージブレード64の傾斜角度を変えるための傾斜角度変更機構を備えることができる。
【0065】
本発明で使用されるニス(被着物)4は、熱可塑性を有するとともに紫外線で硬化する組成物である。紫外線硬化型組成物は、紫外線重合性化合物、光開始剤を必須成分とし、さらに必要に応じて、着色顔料や分散剤や溶剤や熱可塑性ゲル化剤等を含んでいる。本発明を限定しない紫外線重合性化合物としては、分子内にラジカル重合可能な不飽和二重結合を有する化合物が用いられ、具体的には、比較的低分子量のポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、又はポリブタジエン樹脂を例示することができる。
【0066】
本実施形態では、印刷済みの用紙2の上にコーティングを行うためのニスであるとして被着物4を説明している。被着物4がニスである場合、用紙2の上の印刷物を視認することができるように、被着物4は一般に透明又は半透明である。印刷済みの用紙2に対してニスをコーティングすることにより、印刷済みの用紙2の保護や、光沢(ツヤ)を持った意匠を実現することができる。また、文字や図柄等が印刷された用紙2において、印刷された文字や図柄等の所定箇所のみをニス(被着物)4で部分的にコーティングすることにより、文字や図柄等を浮き上がらせたり光沢を付与したりすることができる。なお、用紙2の上の印刷物を視認不可とするために、着色顔料等を含んだ不透明な被着物4を用いることもできる。
【0067】
被着物4は、インキに置き換えることができる。被着物4が用紙2の上に立体的な印刷を行うためのインキである場合、被着物4は黒色や各種カラーの着色顔料により着色されている。用紙2に対してインキを厚塗りで印刷することにより、立体的な印刷物を提供することができる。したがって、被着物4は、コーティング用のニス、印刷用のインキ、立体感のある模様形成等の幅広い用途に使用することができる。
【0068】
次に、本発明に係る厚塗り形成装置10を用いた、用紙2へのニス(被着物)4の厚塗り形成方法について説明する。
【0069】
画像読取部により、原稿台の上に載置された原稿の画像情報を読み取る。読み取られた画像情報に従って、製版装置34により未製版の原紙32に対して穿孔部37を形成(すなわち製版)して、製版済み原紙(孔版原紙)36を作製する。製版済み原紙(孔版原紙)36をドラム部60に搬送して、製版済み原紙(孔版原紙)36を版胴62の外周面上に巻装する。
【0070】
傾斜したスキージブレード64と版胴62の内周面との間に、所定量のニス(被着物)4を供給する。版胴62を回転させたあと、スキージブレード64及び密着ローラ15を、それぞれ版胴62の内周面及び製版済み原紙(孔版原紙)36に密着させるように移動させる。版胴62の回転により、傾斜したスキージブレード64が版胴62の内周面上のニス(被着物)4を掻き出して、ニス(被着物)4が、版胴62に押し付けられて版胴62の通過開口63に充填される。通過開口63に充填されたニス(被着物)4が、さらに、製版済み原紙36のメッシュ開口36d及びその周辺部に充填される。そして、メッシュ開口36d及びその周辺部に充填されたニス(被着物)4が、穿孔部37から押し出される。
【0071】
給紙装置から一枚の用紙2を、製版済み原紙(孔版原紙)36の巻装された版胴62の下部位置に搬送すると、製版済み原紙(孔版原紙)36と密着ローラ15との間で用紙2を挟持する。このとき、用紙2が製版済み原紙(孔版原紙)36に密着する。メッシュ開口36d及びその周辺部に充填されたニス(被着物)4が、穿孔部37から押し出されるとともに、ニス(被着物)4の付着力により用紙2に被着(付着)する。
【0072】
製版済み原紙36の円周方向に形成された製版領域のニス(被着物)4を転写した用紙2を、紙剥がし爪16等を用いて版胴62から剥ぎ取って、排紙部80の排紙ベルト82上に排出する。排出された用紙2を後処理部70の赤外線ランプ72で加熱して、ニス(被着物)4を流動化させて、用紙2の上に塗布されたニス(被着物)4の表面を平滑にする。そのあと、紫外線ランプ74で用紙2に紫外線を照射して、用紙2の上に塗布されたニス(被着物)4を硬化・定着させる。
【0073】
本発明によれば、従来よりも多くの量で充填されたニス(被着物)4が用紙2に被着(付着)するので、用紙2に対してニス(被着物)4を厚塗りで形成することができるという効果を奏する。また、本厚塗り形成装置10で使用する孔版原紙36が、スクリーン印刷技術において一般的に使用されているものであるので、入手が容易であり、低コスト化できるという効果を奏する。
【0074】
なお、本発明を理解しやすくするために、具体的な構成や数値を用いて説明したが、これらはあくまでも例示であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲内において、種々の実施形態や変形例を構成することができることは、当業者には明らかである。
【符号の説明】
【0075】
2:用紙
4:ニス(被着物)
10:厚塗り形成装置
12:装置本体
15:密着ローラ
30:製版原紙供給部
32:未製版の原紙(孔版原紙)
34:製版装置
36:製版済み原紙(孔版原紙)
36a:メッシュ状支持体
36b:接着剤
36c:熱可塑性樹脂フィルム
36d:メッシュ開口
34:製版装置
37:穿孔部
40:製版原紙回収部
50:用紙供給部
60:ドラム部
61:版胴回転駆動装置
62:版胴
63:通過開口
64:スキージブレード
64a:下側エッジ部
68:ドラムユニット
70:後処理部
71:赤外線ランプ点灯回路
72:赤外線ランプ
73:紫外線ランプ点灯回路
74:紫外線ランプ
80:排紙部
90:用紙回収部
100:CPU(制御装置)
110:操作パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の微小なメッシュ開口を有するメッシュ状支持体上に熱可塑性樹脂フィルムを貼合したスクリーン印刷版であって、前記熱可塑性樹脂フィルムを穿孔することによって穿孔部が形成される孔版原紙と、
複数の通過開口を配置した円筒状周壁を備えて、穿孔された前記孔版原紙を前記円筒状周壁の外周面上に巻装する版胴と、
前記版胴の内周面に摺接するように傾斜配置されて、前記版胴の内周面との間に供給された被着物を押し出すスキージブレードと、
前記版胴及び前記孔版原紙を介して前記スキージブレードに対向配置されて、搬送される用紙を前記版胴に巻装された前記孔版原紙に密着させる密着ローラと、
を備え、
前記版胴の回動に伴って、前記スキージブレードによって前記版胴の通過開口を通じて前記孔版原紙のメッシュ開口に前記被着物が充填されて、充填された被着物が前記穿孔部から押し出されて前記用紙に被着するように構成されていることを特徴とする厚塗り形成装置。
【請求項2】
前記密着ローラが、剛性体からなることを特徴とする、請求項1に記載の厚塗り形成装置。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂フィルムの穿孔は、サーマルヘッド、レーザ光の照射、又は黒体物へのフラッシュ光照射を用いた加熱熔融により形成されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の厚塗り形成装置。
【請求項4】
前記被着物が、印刷済み用紙の表面をコーティングするためのニス、又は用紙の表面を印刷するためのインキであることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一つに記載の厚塗り形成装置。
【請求項5】
前記被着物が、熱可塑性を有するとともに紫外線で硬化する組成物であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一つに記載の厚塗り形成装置。
【請求項6】
前記被着物が可塑化する温度に、前記被着物の被着した前記用紙を加熱するための加熱手段をさらに備えることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一つに記載の厚塗り形成装置。
【請求項7】
前記加熱手段が赤外線照射であることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一つに記載の厚塗り形成装置。
【請求項8】
前記熱可塑した被着物の被着した前記用紙に対して紫外線を照射するための紫外線照射手段をさらに備えることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか一つに記載の厚塗り形成装置。
【請求項9】
前記請求項1乃至8のいずれか一つに記載された厚塗り形成装置を用いて、前記スキージブレードにより押し出された前記被着物を、前記版胴及び前記孔版原紙を介して前記用紙の表面上に被着させることを特徴とする、厚塗り形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−251468(P2011−251468A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126960(P2010−126960)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(390002129)デュプロ精工株式会社 (351)
【出願人】(391001505)アジア原紙株式会社 (16)
【Fターム(参考)】