説明

原位置試験方法および原位置試験装置

【課題】周辺岩盤や地下水の状態などの地質環境の変化の影響を制御することができる原位置試験方法を提供すること。
【解決手段】試験坑道GTに敷設された支保Mの化学的影響を評価する原位置試験方法であって、試験坑道GTの内空側から地山E側に向けて円筒状に掘削するとともに、掘削により生じた円筒状の空隙Dに非セメント系材料Pを充填し、支保MAおよび所定深さの岩盤E1を周辺支保MBおよび周辺岩盤E2から隔離し、隔離した岩盤E1における間隙水圧を計測するとともに、隔離した岩盤E1に流れる水を採取するので、周辺岩盤E2や地下水の状態などの地質環境の変化の影響を制御できる。これにより、試験坑道GTに敷設された支保Mの化学的影響を正確に評価できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地層処分施設における支保の化学的な影響を評価する原位置試験方法および原位置試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1は、核燃料サイクルを示す模式図である。図1に示すように、再処理工場F1で処理され、利用できなくなった高レベルの放射性廃棄物は、高レベル放射性廃棄物貯蔵施設F2で一定期間貯蔵され、その後、地層処分される。このように、高レベルの放射性廃棄物を地層処分する施設が地層処分施設F3である。
【0003】
図2は、地層処分施設を示す概念図である。図2に示すように、地層処分施設F3は、地上施設S1と地下施設S2とから構成される。地下施設S2は、坑道群Tと、地上施設S1から坑道群Tにアクセスするための立坑T1または斜抗(図示せず)とから構成される。坑道群Tは、数km四方の広さに設けられ、その坑道延長は数百kmにわたることが想定されている。また、わが国では、坑道群Tを地下300m以深の地下施設とすることが法令で定められている。
【0004】
この地層処分施設F3は、硬質岩と堆積軟岩の二つを対象とした岩種に対して地下施設S2の建設や処分に係る技術的な検討や計画が国や関連機関において行われている。
【0005】
ところで、坑道の支保やグラウトに用いられるセメント系材料は、地下水と反応して坑道の周辺環境を高アルカリの環境にする。この高アルカリの環境は、緩衝材や埋め戻しに用いるベントナイトや、周辺岩盤に化学的な影響(ベントナイトや岩盤の変質)を与え、それに伴う力学的な性能の低下や劣化(強度の低下や剛性の低下(変形性の増加)など)、水理・物質移動特性の変化が生じる可能性が指摘されている(たとえば、非特許文献1参照)。このため、低アルカリ性吹付けコンクリートや、セメントの使用量を極力抑えた坑道の構築方法が研究され、開発されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0006】
そして、開発のつぎの段階では、これまでの研究、開発で得られた成果を原位置で評価することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4356252号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性 −地層処分研究開発第2次取りまとめ−分冊2 地層処分の工学技術」核燃料サイクル開発機構,平成11年11月26日,p.IV−220
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、研究、開発で得られた成果は、周辺岩盤や地下水の状態などの地質環境に左右され、地質環境の影響を制御しなければ、正確な評価は難しい。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、周辺岩盤や地下水の状態などの地質環境の変化の影響を制御可能な原位置試験方法および原位置試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、坑道に敷設された支保の化学的影響を評価する原位置試験方法であって、前記坑道の内空側から地山側に向けて筒状に掘削するとともに、掘削により形成された筒状の空隙に非セメント系材料を充填することにより、支保および所定深さの岩盤を周辺支保および周辺岩盤から隔離し、隔離した岩盤における間隙水圧を計測するとともに、前記隔離した岩盤に流れる水を採取することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上記発明において、前記隔離した岩盤の深さ方向複数の位置から水を採取することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、上記発明において、前記坑道の内空側に、隔離した支保に内部空間が臨む圧力容器を設け、前記圧力容器から隔離した支保に向けて前記隔離した岩盤の最深部で計測した間隙水圧と同一水圧の水を供給することを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、上記発明において、前記坑道の内空側に、隔離した支保に内部空間が臨む圧力容器を設け、前記圧力容器に所要圧力の水を供給し、隔離した岩盤に想定する流れ場を設けることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、上記発明において、所要の期間が経過した後に、隔離した支保および岩盤をオーバーコアリングし、支保と該支保に接する岩盤とを含むコア供試体を採取することを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、支保が敷設された坑道の内空側から地山側に向けて筒状に形成された空隙に非セメント系材料を充填することにより、支保および所定深さの岩盤を周辺支保および周辺岩盤から隔離し、隔離した岩盤における支保の化学的影響の評価に用いる原位置試験装置であって、前記隔離した岩盤における間隙水圧を計測するとともに、前記隔離した岩盤に流れる水を採取する採水管と、隔離した支保および岩盤を囲むように前記坑道の内空側から地山側に挿入かつ固着され、隔離した支保に内部空間が臨む圧力容器とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかる原位置試験方法は、坑道の内空側から地山側に向けて筒状に掘削するとともに、掘削により形成された筒状の空隙に非セメント系材料を充填することにより、支保および所定深さの岩盤を周辺支保および周辺岩盤から隔離し、隔離した岩盤における間隙水圧を計測するとともに、隔離した岩盤に流れる水を採取するので、周辺岩盤や地下水の状態などの地質環境の変化の影響を制御できる。これにより、本発明にかかる原位置試験方法によれば、坑道に敷設された支保の化学的影響を正確に評価できる。
【0018】
本発明にかかる原位置試験装置は、隔離した岩盤における間隙水圧を計測するとともに、隔離した岩盤に流れる水を採取する採水管と、隔離した支保および岩盤を囲むように坑道の内空側から地山側に挿入かつ固定され、隔離した支保に内部空間が臨む圧力容器を備えたので、周辺岩盤や地下水などの地質環境の変化の影響を制御できる。これにより、本発明にかかる原位置試験装置によれば、坑道に敷設された支保の化学的影響を正確に評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、核燃料サイクルを示す模式図である。
【図2】図2は、高レベル放射性廃棄物の埋設処分施設を示す概念図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態である原位置試験方法および原位置試験装置を用いる試験坑道を試験アクセス坑道との関係で示す模式図である。
【図4】図4は、図3に示した試験坑道の横断面を示す断面図である。
【図5−1】図5−1は、本発明の実施の形態である原位置試験方法を説明するための断面図であって、対象となる試験坑道を示す図である。
【図5−2】図5−2は、本発明の実施の形態である原位置試験方法を説明するための断面図であって、坑道の内空側から地山側に向けて円筒状に掘削した状態を示す図である。
【図5−3】図5−3は、本発明の実施の形態である原位置試験方法を説明するための断面図であって、掘削により生じた円筒状の空隙に非セメント系材料を充填した状態を示す図である。
【図5−4】図5−4は、本発明の実施の形態である原位置試験方法を説明するための断面図であって、坑道の内空側から地山側に向けてボーリング孔を掘削した状態を示す図である。
【図5−5】図5−5は、本発明の実施の形態である原位置試験方法および原位置試験装置を説明するための断面図であって、隔離した岩盤に内部空間が臨む容器を設置した状態を示す図である。
【図5−6】図5−6は、本発明の実施の形態である原位置試験方法および原位置試験装置を説明するための断面図であって、採水管を挿入した状態を示す図である。
【図6】図6は、支保に高強度吹付けコンクリートを採用した例を示す図である。
【図7】図7は、支保に低アルカリ吹付けコンクリートを採用した例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明にかかる原位置試験方法および原位置試験装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態に示す例によりこの発明が限定されるものではない。
【0021】
図3は、本発明の実施の形態である原位置試験方法および原位置試験装置を用いる試験坑道を試験アクセス坑道との関係で示す模式図であり、図4は、図3に示した試験坑道の横断面を示す断面図である。
【0022】
本実施の形態である原位置試験方法および原位置試験装置は、坑道に敷設された支保Mの化学的な影響を評価するもので、JAEA(日本原子力研究開発機構)の幌延の地下施設と同様の軟岩における地層処分施設を対象とする。
【0023】
本実施の形態である原位置試験方法は、図3に示すように、試験アクセス坑道GAから分岐して建設した試験坑道GTを原位置とする。試験坑道GTには、評価対象となる構造の支保M1を構築した一定区間A1と比較対象となる構造の支保M2,M3を構築した一定区間A2,A3とを設ける。本実施の形態で示す例では、岩石を利用し、セメントの使用量を極力抑えたセグメント(以下、「岩石利用のセグメント」という)で構築した支保を評価対象となる構造の支保M1とし、比較対象として、高強度吹付けコンクリートで構築した支保および低アルカリ吹付けコンクリートで構築した支保を支保M2,M3とする。なお、支保M1を構成する岩石利用のセグメントは、図5−1に示すように、花崗岩などで構成される岩石aを鋼製枠bの内部に充填して、鋼製枠bと一体化したもので、岩石aと岩石aとの間には、セメント・モルタルcが充填される。また、岩石利用のセグメントで構築した支保M1は、セグメントの地山E側に砕石dなどを利用して裏込めする一方、セグメントの試験坑道GT側が鋼製枠bの鋼板で被覆される。
【0024】
図3に示す例では、試験アクセス坑道GAから試験坑道GTの奥に向けて、比較対象となる構造の支保M2、評価対象となる構造の支保M1、比較対象となる構造の支保M3、をそれぞれ一定区間A2,A1,A3敷設する。具体的な例として、高強度吹付けコンクリートで構築した支保M2(図6参照)、岩石利用のセグメントで構築した支保M1(図5参照)、低アルカリ吹付けコンクリートで構築した支保M3(図7参照)、をそれぞれ一定区間敷設する。なお、試験アクセス坑道GAから試験坑道GTの奥に向けて敷設する支保M(M1〜M3)は、この順番に限られるものではなく、任意の順番で敷設してもよい。
【0025】
図5は、本発明の実施の形態である原位置試験方法および原位置試験装置を説明するための断面図である。ここでは、岩石利用のセグメントで構築した支保M1を敷設した区間A1を原位置とする原位置試験方法を例に説明する。図5に示すように、本発明の実施の形態である原位置試験方法および原位置試験装置1は、試験坑道GTの内空側から地山E側に向けて筒状に掘削するとともに、掘削により形成された筒状の空隙Dに非セメント系材料Pを充填することにより、支保MAおよび所定深さの岩盤E1を周辺支保MBおよび周辺岩盤E2から隔離し、隔離した岩盤E1における間隙水圧を計測するとともに、隔離した岩盤E1に流れる水を採取するものである。
【0026】
まず、図5−2に示すように、所要範囲の鋼板(鋼製枠b)を取り除いた後、試験坑道GTの内空側から地山E側に向けて、所定の直径、所定の深さの支保MAおよび岩盤E1が中央に残るように、円筒状に掘削する。所定の直径は、たとえば、10cm〜20cm程度であり、評価対象となる構造の支保M1、比較対象となる構造の支保M2,M3で同一に設定する。所定の深さは、たとえば、1m程度であり、評価対象となる構造の支保M1、比較対象となる構造の支保M2,M3で同一に設定する。なお、掘削には、支保Mおよび岩盤E1,E2を掘削するビットを先端に備えた円筒状の工具Kを用いる。これにより、支保Mおよび岩盤E1,E2には、円筒状の空隙(溝)Dが形成される。
【0027】
つぎに、図5−3に示すように、掘削により形成された円筒状の空隙Dに非セメント系材料Pを充填する。非セメント系材料Pは、たとえば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリカレジンなどの材料であり、岩盤E1に与える化学的影響が小さい遮水材料を用いる。また、非セメント系材料Pの充填は、空隙の奥側(地山E側)から手前側(内空側)に向けて行い、空隙Dが残らないようにする。これにより、支保MAおよび所定深さの岩盤E1は、周辺支保MBおよび周辺岩盤E2から隔離される。なお、掘削した円筒状の空隙Dに円筒状の工具Kを残置した状態で非セメント系材料Pを充填してもよい。また、掘削した円筒状の空隙Dに円筒状の金属製の管(たとえば、鋼管)を挿入し、その後、非セメント系材料Pを充填してもよい。また、掘削した円筒状の空隙Dに工具Kの肉厚よりも薄い肉厚の円筒状の金属製の管(たとえば、ステンレス管)を挿入し、その後、非セメント系材料Pを充填してもよい。また、円筒状の空隙Dを掘削する際に工具Kの肉厚よりも薄い肉厚の円筒状の管を挿入し、工具Kを引き抜く際に円筒状の管を残置させてもよい。
【0028】
つぎに、図5−4に示すように、周辺支保MBおよび周辺岩盤E2から隔離した支保MAおよび岩盤E1の中心に、中心が一致するように、所要直径のボーリング孔Bを設ける。ボーリング孔Bは、周辺岩盤E2から隔離した岩盤E1における間隙水圧を計測するとともに、周辺岩盤E2から隔離した岩盤E1に流れる水を採取するためのもので、周辺岩盤E2から隔離した岩盤E1よりも深いところから流入する地下水や支保M側から流入する水(供給した水)である。
【0029】
つぎに、図5−5に示すように、周辺支保MBおよび周辺岩盤E2から離隔した支保MAおよび岩盤E1を囲み、上述した円筒状の空隙Dと同心円をなすように、試験坑道GTの内空側から地山E側に向けて、円筒状に掘削する。掘削には、支保Mおよび岩盤E1,E2を掘削するビットを先端に備えた円筒状の工具K2を用いる。これにより、円筒状の工具K2は、支保Mおよび岩盤E1,E2に進入する。そして、この工具K2を残置し、この工具K2を圧力容器に転用する。なお、工具K2の直径は、たとえば、30cm程度であり、評価対象となる構造の支保M2,M3においても同一直径の工具K2を用いる。また、工具K2の掘削深さは、たとえば、50cm程度であり、評価対象となる構造の支保M2,M3においても同一の掘削深さに設定する。
【0030】
そして、岩盤E1,E2に進入した工具K2を残置した状態で、掘削により生じた隙間にセメント系のモルタル(図示せず)を充填する。これにより、工具K2は、内部空間が周辺支保MBから離隔した支保MAに臨む状態で固着する。なお、工具K2の固着に用いる材料は、セメント系のモルタルに限られるものではなく、エポキシ樹脂などの材料を適用してもよい。
【0031】
そして、円筒状の工具K2の頭部に蓋を固着することにより、円筒状の工具K2を圧力容器2とする。工具K2の基部に固着した蓋(圧力容器2)には、後述する採水管3が通る孔21が設けてある。また、工具K2の蓋には、注水管22を接続する。注水管22は、圧力容器2に所望の圧力の水を供給するためのもので、上述したように一端を工具K2の頭部に固着した蓋に接続し、他端をポンプ(図示せず)に接続する。
【0032】
なお、上述した例では、工具K2を圧力容器2に転用するものとしてが、掘削した所定深さの円筒状の溝D2から工具K2を抜き去り、別途、円筒状の圧力容器を挿入してもよい。この場合にも、圧力容器の直径および挿入深さを、評価対象となる構造の支保M1、比較対象となる構造の支保M2,M3で同一に設定する。
【0033】
つぎに、図5−6に示すように、圧力容器2(工具K2の基部に固着した蓋)に設けた孔21を通り、ボーリング孔Bに採水管3を挿入する。採水管3は、周辺支保MBおよび周辺岩盤E2から隔離した支保MAおよび岩盤E1における間隙水圧を計測するとともに、周辺支保MBおよび周辺岩盤E2から隔離した支保MAおよび岩盤E1に流れる水を採取するためのもので、ボーリング孔Bの直径と略同一の外径を有するとともに、ボーリング孔Bの深さに所要の長さ(圧力容器2から試験坑道GTの内空側に突出するための長さ)を有している。また、採水管3は、パッカー31により、深さ方向に複数の区間に区分けされ、それぞれの区間に採水管(枝管(図示せず))が挿通し、それぞれの区間に間隙水圧を計測するセンサ(図示せず)が設けられる。これにより、パッカー31により区分けされた区間ごとに水が採取可能となり、区間ごとに間隙水圧が計測可能となる。なお、採水管3は、所望位置における水の採取、所望位置における間隙水圧の計測、が可能なものであれば、深さ方向に等間隔に区分けするものでもよいし、不等間隔に区分けするものでもよい。
【0034】
つぎに、圧力容器2に供給する水が所望の圧力となるように、ポンプを自動制御する。これにより、圧力容器2の内部における水圧が所望の圧力となる。なお、ここで、圧力容器2に供給する水は、純水または原位置で採取した地下水であるが、原位置で採取した地下水は、試験坑道GTの建設(たとえば、グラウト)等の影響を受けていないこと(乱されていないこと)が条件となる。
【0035】
そして、周辺岩盤E2から隔離した岩盤E1における間隙水圧を計測するとともに、離隔した岩盤に流れる水を採取する採水管3と、隔離した支保MAおよび岩盤E1を囲むように試験坑道GTの内空側から地山E側に挿入かつ固着され、隔離した支保MAに内部空間が臨む圧力容器2とは、原位置試験装置1を構成することになる。
【0036】
ところで、圧力容器2に供給する水の圧力(所望の圧力)は、周辺支保MBおよび周辺岩盤E2から隔離した支保MAおよび岩盤E1に想定する流れ場によって定まる。
【0037】
たとえば、岩盤E1に流れ場を生じさせることなく、支保Mから岩盤E1への化学的影響(イオンの移動)が岩盤のマトリックス部分の拡散により生じると想定する場合には、周辺岩盤E2から隔離した岩盤E1の最深部で計測した間隙水圧の水を注水する。なお、周辺岩盤E2から隔離した岩盤E1の最深部の間隙水圧が、試験坑道GTを建設する前に計測した岩盤内(地山E)の初期間隙水圧と変わらないことが想定される場合には、その初期間隙水圧の水を注水すればよい。
【0038】
一方、地下水が岩盤E1側から支保M側に向けて流れ、支保Mから岩盤E1への化学的影響(イオンの移動)が主に試験坑道GTへの地下水の流入により生じると想定する場合には、岩盤E1に所定の流量の地下水が流れるように、所要圧力の水を供給する。具体的には、周辺岩盤E2から隔離した岩盤E1の最深部で計測した間隙水圧、原位置試験または室内試験により求めた岩盤の透水係数および支保Mの透水係数、に基づいて、周辺岩盤E2から隔離した岩盤E1に所定の流量の地下水が流れるように、周辺岩盤E2から隔離した岩盤E1の最深部における間隙水圧に対して相対圧として設定する。この場合には、圧力容器2における水圧は、周辺岩盤E2から離隔した岩盤E1の最深部における間隙水圧よりも低い状態になる。
【0039】
他方、水が支保M側から岩盤E1側に向けて流れ、支保Mから岩盤E1への化学的影響(イオンの移動)が主に岩盤E1への水の流出によって生じると想定する場合には、岩盤E1に所定の流量の水が流れるように、所要圧力の水を注水する。具体的には、周辺岩盤E2から隔離した岩盤E1の最深部で計測した間隙水圧、原位置試験または室内試験により求めた岩盤の透水係数および支保Mの透水係数、に基づいて、岩盤E1に所定の流量の地下水が流れるように、周辺岩盤E2から隔離した岩盤E1の最深部における間隙水圧に対して相対圧として設定する。この場合には、圧力容器2における水圧は、周辺岩盤E2から離隔した岩盤E1の最深部における間隙水圧よりも高い状態になる。
【0040】
つぎに、区分けされた区間ごとに所定の時間間隔で間隙水圧を計測するとともに、地下水を採取する。そして、区分けした区間ごとに水質(たとえば、pH,溶存イオン等)をモニタリングする。
【0041】
そして、所要の期間、具体的には、原位置試験に必要な期間が経過した後、試験坑道GTを埋め戻す前に、周辺岩盤から隔離した岩盤E1をオーバーコアリングし、支保Mと支保Mに接する岩盤E1とそれ以深の岩盤とを含むコア供試体を採取する。そして、採取したコア供試体の化学分析や力学試験等を実施する。コア供試体の化学分析には、支保Mおよび岩盤E1の化学組成の変化をX線回析、熱分析、化学組成分析、水銀圧入試験による間隙孔測定、間隙水中イオン分析等様々な方法が用いられる。また、このほかに、支保Mとして用いられたコンクリートの中性化や、岩石利用のセグメントに用いられた岩石a、セメント・モルタルcおよび鋼板(鋼製枠b)の変化等についても実施する。さらに、所定の時間間隔で採取した地下水の水質とコア供試体の分析から得られた化学的な影響を比較する。
【0042】
そして、岩石利用のセグメントで構築した支保M1を評価対象とし、高強度吹付けコンクリートで構築した支保M2、低アルカリ吹付けコンクリートで構築した支保M3、を比較対象として、化学的影響を評価する。具体的には、岩石利用のセグメントで構築した支保M1が岩盤E1に及ぼす化学的影響が高強度吹付けコンクリートで構築した支保M2が岩盤E1に及ぼす化学的影響をよりも小さいか否か、岩石利用のセグメントで構築した支保M1が岩盤E1に及ぼす化学的影響が低アルカリコンクリートで構築した支保M3が岩盤E1に及ぼす化学的影響よりも小さいか否かを評価する。
【0043】
そして、岩石利用のセグメントで構築した支保M1が高強度吹付けコンクリートで構築した支保M2より岩盤E1に及ぼす影響が少ないと評価されれば、化学的影響の観点からすると、岩石利用のセグメントで構築した支保M1のほうが高強度吹付けコンクリートで構築した支保M2よりも優れていることになる。また、岩石利用のセグメントで構築した支保M1が低アルカリ吹付けコンクリートで構築した支保M3より岩盤E1に及ぼす影響が少ないと評価されれば、化学的影響の観点からすると、岩石利用のセグメントで構築した支保M1のほうが低アルカリ吹付けコンクリートで構築した支保M2よりも優れていることになる。なお、岩石利用のセグメントで構築した支保M1が岩盤E1に及ぼす影響が、低アルカリ吹付けコンクリートで構築した支保M3が岩盤E1に及ぼす影響と同等である場合でも、岩石利用のセグメントで構築した支保M1の強度・剛性を勘案すると、坑道の安定性が優れていることや、支保圧が小さくて済むことにより、掘削断面が小さく、かつ、掘削土量が少なくて済むなどの利点があり、岩石利用で構築した支保M1のほうが低アルカリ吹付けコンクリートで構築した支保M3よりも優れていることになる。
【0044】
上述した本発明の実施の形態である原位置試験方法は、試験坑道GTの内空側から地山E側に向けて円筒状に掘削するとともに、掘削により形成された円筒状の空隙Dに非セメント系材料Pを充填することにより、支保MAおよび所定深さの岩盤E1を周辺支保MBおよび周辺岩盤E2から隔離するので、周辺岩盤E2や地下水の状態などの地質環境の影響を制御することができる。これにより、試験環境を長期的に安定した状態に維持することが可能となり、長期間を必要とする化学的な影響評価を安定した環境で行うことができる。
【0045】
また、圧力容器2に供給する水の圧力を制御することにより、地下水の流動が比較対照する支保Mに及ぼす化学的な影響を評価できる。これにより、地下水が岩盤E1側から支保M側に向けて流れる場合や、支保M側から岩盤E1側に向けて流れる場合において、支保Mが及ぼす化学的な影響の評価が容易になる。
【0046】
また、圧力容器に供給する水の圧力を岩盤E1の間隙水圧(周辺岩盤E2から隔離した岩盤E1の最深部で計測した間隙水圧)と同一となるようにできるので、岩盤E1に流れ場が生じない状態を人工的に造ることができる。これにより、支保Mから岩盤E1のマトリックスへの化学種(溶存イオン)の拡散による状況を把握できる。
【0047】
さらに、地下水の流動場が制御できるので、地下水の流動を早くすることで、地下水の流動に伴う化学的な影響の評価に必要な期間を短縮できる可能性がある。なお、評価に必要な期間を短縮すれば、経済的な効果も得られる。
【0048】
また、圧力容器2に転用する工具K2により生じた隙間にセメント系のモルタルを充填することにより、圧力容器2に転用する工具K2を固着したので、圧力容器2に高い圧力が作用しても、圧力容器2が外れることがない。
【0049】
さらに、円筒状の空隙Dに非セメント系を充填することにより、周辺支保MBおよび周辺岩盤E2から隔離した支保MAおよび岩盤E1は、周辺支保MBおよび周辺岩盤E2からの地下水の流入による影響を排除できる。また、圧力容器2の固着に用いたセメント系のモルタルの影響も排除できる。そして、建設や他の試験による影響を低減することで、試験環境を長期的に安定した状態に維持することができ、長期間にわたる試験を化学的影響評価が安定した環境で実施できる。
【符号の説明】
【0050】
1 原位置試験装置
2 圧力容器
21 孔
22 注水管
3 採水管
31 パッカー
A1,A2,A3 区間
B ボーリング孔
D 空隙
D2 溝
E 地山
E1 岩盤(隔離された岩盤)
E2 周辺岩盤
F3 地層処分施設
GA 試験アクセス坑道
GT 試験坑道
K 工具
K2 工具
M 支保
M1 岩石利用のセグメントで構築した支保(評価対象となる構造の支保)
a 岩石
b 鋼製枠
c セメント・モルタル
d 砕石
M2 高強度吹付けコンクリートで構築した支保(比較対象となる構造の支保)
M3 低アルカリ吹付けコンクリートで構築した支保(比較対象となる構造の支保)
MA 支保(隔離された支保)
MB 周辺支保
P 非セメント系材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
坑道に敷設された支保の化学的影響を評価する原位置試験方法であって、
前記坑道の内空側から地山側に向けて筒状に掘削するとともに、掘削により形成された筒状の空隙に非セメント系材料を充填することにより、支保および所定深さの岩盤を周辺支保および周辺岩盤から隔離し、
隔離した岩盤における間隙水圧を計測するとともに、前記隔離した岩盤に流れる水を採取することを特徴とする原位置試験方法。
【請求項2】
前記隔離した岩盤の深さ方向複数の位置から水を採取することを特徴とする請求項1に記載の原位置試験方法。
【請求項3】
前記坑道の内空側に、隔離した支保に内部空間が臨む圧力容器を設け、
前記圧力容器から隔離した支保に向けて前記隔離した岩盤の最深部で計測した間隙水圧と同一水圧の水を供給することを特徴とする請求項1または2に記載の原位置試験方法。
【請求項4】
前記坑道の内空側に、隔離した支保に内部空間が臨む圧力容器を設け、
前記圧力容器に所要圧力の水を供給し、隔離した岩盤に想定する流れ場を設けることを特徴とする請求項1または2に記載の原位置試験方法。
【請求項5】
所要の期間が経過した後に、隔離した支保および岩盤をオーバーコアリングし、支保と該支保に接する岩盤とを含むコア供試体を採取することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の原位置試験方法。
【請求項6】
支保が敷設された坑道の内空側から地山側に向けて筒状に形成された空隙に非セメント系材料を充填することにより、支保および所定深さの岩盤を周辺支保および周辺岩盤から隔離し、隔離した岩盤における支保の化学的影響の評価に用いる原位置試験装置であって、
前記隔離した岩盤における間隙水圧を計測するとともに、前記隔離した岩盤に流れる水を採取する採水管と、
隔離した支保および岩盤を囲むように前記坑道の内空側から地山側に挿入され、隔離した支保に内部空間が臨む圧力容器と
を備えたことを特徴とする原位置試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図5−3】
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【図5−4】
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【図5−5】
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【図5−6】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−104194(P2013−104194A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247411(P2011−247411)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】