説明

原子間力顕微鏡を用いた化学機械研磨の研磨圧力分布の定量的測定方法

【課題】EFMにより測定された表面電位の二次元的な分布から研磨圧力の分布を取得する方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る方法は、化学機械研磨の研磨圧力分布を取得する方法である。この方法は、研磨装置により研磨された被研磨物の表面電位を電気力顕微鏡により測定して表面電位像を取得し、表面電位と研磨圧力との関係を示すデータに基づき、前記表面電位を研磨圧力に変換する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学機械研磨を用いた半導体ウエハ等の基板加工における研磨特性および表面状態の評価技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの超微細化や高集積化が進み、これに伴って表面の平坦化技術が重要かつ必須のプロセスとなってきている。この表面の平坦化技術は、製造プロセスの出発点となるSi、SiC、GaAs、GaNなどの半導体基板の製造のみならず、その後の素子絶縁分離領域、ゲート電極、配線・コンタクト電極、多層配線絶縁層などのウエハプロセスにおいても広く適用されている。
【0003】
素子の微細化および高集積化により、表面平坦化技術に対する平坦性の要求は厳しくなっており、ウエハレベルのグローバルな平坦化とチップ内での平坦化、素子レベルでの平坦化などのすべて段階においてnmレベルの平坦度が要求されるようになっている。例えば、銅配線を用いたダマシン構造においては、ディッシング、エロージョンなどの銅配線部の過研磨量は5nm以下であることが必要とされている。
【0004】
さらに、素子の微細化により、プロセス中で発生する欠陥の大きさと欠陥密度に対する要求も厳しくなっている。素子の最少寸法が10nm近くになってくると、許容される欠陥の大きさも数nmレベルと小さくなってきている。
【0005】
このような要求に対して、表面の平坦化技術では、研磨粒子の微細化、複合構造の研磨粒子の採用、研磨圧力の低減化、スラリー流れの制御、研磨パッド材料の改善、研磨中のパッド温度の制御、スラリー中の添加剤の開発など、多くの改善策により素子の微細化に対応してきた。
【0006】
しかしながら、これらの欠陥検査技術および評価技術では検出が困難な欠陥、あるいは欠陥の原因となる表面の局所的な物性の不均一性などが最近になって問題となっている。その一例として、表面の電位分布がある。この表面の電位分布を測定する技術として、市販装置のQcept社のChemetriQがある。この装置はケルビンプローブ技術を応用してウエハレベルで表面の電位分布を測定する装置である。この装置を用いてウエハ表面の電位が大きく変化する領域と粒子付着による欠陥の分布とに相関がある事実が見出されている。
【0007】
このような局所的な電位変化は、汚染などの実体のある欠陥に起因する場合もあるが、多くの場合はプラズマ処理、高抵抗の純水洗浄処理などの工程に起因した電荷の局所的な不均一性に起因している。このような局所的な電位変化は、従来のような評価技術では検出が困難である。また、このChemetriQはウエハレベルの巨視的な評価技術であり、パターンされたレベルの微小な領域の評価には使用できない。
【0008】
この微小な領域の電位分布を測定できる装置として、AFMの機能を応用したケルビンフォース顕微鏡(KFM:Kelvin Force Microscopy)がある。また、このKFMに近い技術を用いた電気力顕微鏡(EFM:Electrostatic Force Microscopy)という測定装置もある。これらの顕微鏡は、プローブで試料の表面を非接触でスキャンすることで、表面の電位分布がプローブに作用する力を検出する。
【0009】
図1(a)は、KFMの原理を説明するための模式図である。カンチレバー2と試料1との間に、バイアス電圧(周波数ωの交流電圧VAC+オフセット電圧VOFF)を印加すると、カンチレバー2と試料1との間に作用する静電気力によりカンチレバー2が振動する。カンチレバー2にはレーザー7から光が当てられ、その反射光はフォトディテクタ8によって受光される。フォトディテクタ8によって得られるプローブ3の変位信号はロックインアンプ10に入力され、同時にバイアス電圧(VAC+VOFF)がロックインアンプ10に入力される。ロックインアンプ10は、試料1とプローブ3との間に作用する静電気力Fにほぼ比例するプローブ3の振幅Aωを取り出す。
【0010】
振幅Aωは周波数ωの振動成分であり、次の式で表される。
ω=(∂C/∂Z)(V+VOFF)VAC (1)
ここで、Cはカンチレバー2の先端のプローブ3と試料1との間の静電容量を表し、Zはプローブ3と試料1との間の距離を表し、Vは試料1の表面電位を表している。
【0011】
振幅Aωはフィードバックコントローラ11に送られ、ここでAωが0となるように、すなわち、V+VOFF=0となるようにオフセット電圧VOFFがフィードバック制御される。したがって、試料1の表面電位Vは−VOFFとして求められる。
【0012】
図1(b)は、EFMの原理を説明するための模式図である。基本的な原理はKFMと同じであるが、EFMではオフセット電圧V2のフィードバック制御は行われない。ロックインアンプ10は、試料1とプローブ3との間に作用する静電気力Fにほぼ比例したプローブ3の振幅Aωを検出する。この振幅Aωは周波数ωの振動成分であり、次の式で表される。
ω=(∂C/∂Z)(V+V)VAC (2)
【0013】
ロックインアンプ10は、さらに、振動成分AωsinφおよびAωcosφを検出し、これを出力する。ここで、φはプローブ振動の位相を表し、試料1の電気特性とカンチレバー2の機械的特性から決定される。振動成分Aωcosφは、試料1の表面電位にほぼ対応する。したがって、振動成分Aωcosφが試料1の表面電位として求められる。
【0014】
このKFMとEFMとの相違点は、KFMが試料の仕事関数などのバルク的な物性を検出するのに対して、EFMは極表面に分布する表面電荷を検出することにあるとされている。さらにKFMは試料にフィードバックされたオフセット電圧を測定値としていることから定量的測定が可能であるが、EFMは定量的測定ができないとされている。
【0015】
一方、KFMは試料にフィードバックされたオフセット電圧を表面電位として測定しているため、導電材料、半導体材料の表面電位測定には有効であるが、絶縁材料に対しては、その定量性が失われてしまう。その理由は、絶縁材料の実際の表面電位とKFMにおけるオフセット電圧とは異なってしまうからである。すなわち、オフセット電圧は絶縁膜の下地である基板に印加されている電圧であり、絶縁膜の表面電位には相当しない。
【0016】
さらに実際の半導体デバイスでは、例えば配線構造などは半導体基板上に形成された状態となっている。このような状態でKFM測定を実施した場合、半導体基板の抵抗成分による電位降下が、KFM測定時に印加するバイアス電圧に影響するため、フィードバックされたオフセット電圧が実際の配線の表面電位を反映しないという欠点がある。
【0017】
一方、EFM測定は、試料へのフィードバック電圧を表面電位として採用しておらず、導電材料、絶縁材料ともに表面電位をそのまま測定している。しかしながら、EFMはフィードバック電圧という実際の電圧値を測定していないことから、定量的測定という観点からは問題が残っている。このようにEFM測定は表面の電位評価に対して有効な手法であるが、定量的測定の観点から、十分に活用されることが多くなかった。そのため、KFMに比較して、EFMは実際の半導体素子構造へ適用されることがほとんどなかった。
【0018】
CMP(化学機械研磨)において、ウエハに加えられる研磨圧力は非常に重要なプロセスパラメータである。研磨圧力は先ず研磨速度に大きく影響する。また研磨圧力分布は、マクロ的にはウエハ面内の平坦性に影響し、ミクロ的にはディッシング、エロージョンなどの平坦性のパターン依存性に影響している。従って、高度な平坦性を要求される微細素子のCMP加工には、研磨圧力とその均一性を正確に把握する必要がある。
【0019】
従来、CMPの研磨圧力の直接的な測定方法としては、感圧紙などを用いる方法、圧力センサーを用いる方法などが用いられている。しかしながら、これらの従来の方法はウエハ面での巨視的な測定方法であり、パターン構造での微視的な圧力分布を測定することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2010−74119号公報
【特許文献2】特開2008−89444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明者は、半導体素子表面、特に平坦化研磨プロセスの評価にAFM技術を応用すべく数多くのEFM、KFM評価を試みた結果、EFM評価を用いることにより研磨圧力に関連する非常に有用な情報を取得することができることを発見した。
【0022】
半導体素子は、半導体材料、配線を構成する導電性材料、配線の絶縁性を保持するための絶縁性材料などから構成されている。したがって、平坦化研磨プロセスの対象はこれら異種の特性を有する材料が混在した半導体ウエハであり、表面特性を評価する対象も半導体材料、導電性材料、絶縁材料などが同時に露出された表面である。
【0023】
このため、半導体素子の製造過程で表面電位を評価する手法としては、半導体材料、導電性材料に対して有効なKFMよりも、絶縁材料も含めてすべての材料を評価できるEFMの方がより適していることが分かる。
【0024】
本発明者は、表面研磨・平坦プロセスにおいて、研磨に必要な機械的圧力が研磨対象の基板の表面電位を変える、または表面電位が生じる現象を発見した。この研磨圧力と表面電位との関係を利用することで、表面電位から研磨圧力を推定することが可能となった。さらに二次元的な表面電位分布を取得することで研磨圧力の不均一性も評価できることが分かった。
【0025】
そこで、本発明は、上記従来技術の有する未解決な課題に鑑みてなされたものであって、EFMにより測定された表面電位の二次元的な分布から研磨圧力の分布を取得する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上述した目的を達成するために、本発明の一態様は、化学機械研磨の研磨圧力分布を取得する方法であって、研磨装置により研磨された被研磨物の表面電位を電気力顕微鏡により測定して表面電位像を取得し、表面電位と研磨圧力との関係を示すデータに基づき、前記表面電位を研磨圧力に変換することを特徴とする。
【0027】
本発明の好ましい態様は、表面電位と研磨圧力との関係を示す前記データは、前記電気力顕微鏡のプローブを被研磨物に所定の圧力で接触させた状態で、前記プローブで前記被研磨物の表面をスキャンし、スキャンされた前記被研磨物の表面電位を測定することにより取得することを特徴とする。
【0028】
本発明の好ましい態様は、表面電位と研磨圧力との関係を示す前記データは、前記電気力顕微鏡のプローブを被研磨物に第1の圧力で接触させた状態で、前記プローブで前記被研磨物の表面をスキャンし、前記第1の圧力でスキャンされた前記被研磨物の表面電位を測定し、前記プローブを前記被研磨物に第2の圧力で接触させた状態で、前記プローブで前記被研磨物の表面をスキャンし、前記第2の圧力でスキャンされた前記被研磨物の表面電位を測定することにより取得することを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、研磨プロセス後の被研磨物の表面電位を測定することで、被研磨物の表面が実際にはどのくらいの圧力で研磨されたか定量的に把握できる。さらに表面電位の二次元的な分布データから、被研磨物研磨時の研磨圧力分布が定量的に正確に把握できる。さらに、異なる材料が共存する実際のパターン素子において、各材料に加わった研磨圧力とそのパターン依存性が定量的に分かる。これらのEFMによる表面電位の測定結果をCMP条件にフィードバックすることで、研磨粒子、研磨パッド、スラリー薬剤の最適化、研磨圧力制御方法の最適化などCMP装置に関連するプロセスの最適化だけでなく、被研磨物の材料も最適化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1(a)はケルビンフォース顕微鏡(KFM)の表面電位測定時の動作原理を説明する図であり、図1(b)は電気力顕微鏡(EFM)の表面電位測定時の動作原理を説明する図である。
【図2】図2(a)は中央部の領域(20×20μm)をプローブで接触スキャンした後のSiOC膜の表面電位像を示す図であり、図2(b)は図2(a)に示すSiOC膜の表面電位の断面プロファイルを示す図である。
【図3】CMPにより表面が原子レベルで平坦化されたSi表面の表面電位像である。
【図4】中央部の領域(20×20μm)をプローブで接触スキャンした後のRu金属膜の表面電位像を示す図である。
【図5】Ru膜の機械的研磨圧力と表面電位との定量的な関係を示すグラフである。
【図6】図6(a)はスクラッチがあるRu膜の表面電位像を示す図であり、図6(b)は図6(a)に示すRu膜の表面電位の断面プロファイルを示す図である。
【図7】研磨装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について説明する。
発明者は、EFM評価の過程で、CMP研磨後の表面状態を観察していたところ、研磨圧力の不均一性、研磨による機械的刺激が被研磨材料の表面電位を変化させる事実を発見した。金属材料、絶縁膜材料、半導体材料のすべてにおいて、機械的刺激により表面電位が変化した。機械的な変形による電位の発生は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)のような強誘電材料においてはピエゾ効果として周知の事実である。しかしながら、配線構造で用いられる低誘電率絶縁材料(例えば、low−k材)、金属配線材料、バリア金属材料においては、ピエゾ効果のような機械的な刺激を受けて表面電位が変化する事実は報告されていない。さらにSiのような半導体材料においてもピエゾ抵抗変化のような抵抗の変化は知られているが、機械的変形による表面電位の変化は知られていない。
【0032】
図2(a)は、低誘電率絶縁膜であるSiOC膜のEFM表面電位像(40×40μm)を示し、図2(b)はSiOC膜の表面電位の断面プロファイルを示す。点線で囲まれた中央部の領域(20×20μm)は、EFM測定前にプローブをSiOC膜に接触させて走査した領域である。プローブをSiOC膜に接触させて走査する目的は、実際のCMPにおいて研磨粒子を被研磨材に押し付けて研磨する機械的な研磨を模した状態を実現するために、SiOC膜に機械的な圧力を加えることであり、この結果として変化する表面電位と圧力との関係を決定することにある。プローブによる接触走査時には、プローブ、SiOC膜ともにバイアス電圧は印加していなくて同電位状態である。図2(a)および図2(b)から、プローブの接触による機械的な刺激を受けた領域で表面電位がネガティブ側に変化しているのがよくわかる。
【0033】
使用されたプローブは、EFM測定に適した導電性を有するRh膜をコーティングしたSi製のプローブであり、カンチレバーのばね定数は1.6N/mであった。プローブ走査時のSiOC膜を押し付ける力は153nNであり、非常に小さな力であった。したがって、プローブを走査することでSiOC膜が削られるなどの事実は無く、走査後のAFM形状測定から、表面形状の変化は全くなかった。
【0034】
一方、表面電位は、図2(a)および図2(b)に示すように、プローブが接触した領域では100mVも低下していることが分かる。このような機械的な刺激による電位変化は、強誘電材料であるPZTのような材料では起こりうることであり、このような現象はピエゾ効果として知られている。しかしながら、低誘電率のSiOC膜において機械的刺激による電位変化が起こることは知られていない。この結果から、CMPのような表面研磨処理において、被研磨物の表面電位が変化する可能性があることは容易に想像ができる。
【0035】
さらに本発明者は、Siのような半導体材料においても、機械的な刺激による表面電位の変化が生じることを確認した。図3は、CMPにより表面が研磨された再生Siウエハの表面電位像を示す図である。再生ウエハとは、資源を節約する観点から、その表面を研磨することで繰り返し再使用されるウエハである。図3に示すように、研磨跡と考えられる表面電位の模様がはっきりと現れている。表面電位像の明暗のコントラスト差は4mVと小さいものの、十分に区別が可能である。このウエハ表面は凹凸が検出できないほど平坦化されていた。したがって、この表面電位像の模様は、研磨の不均一性が現れたものと考えることができる。このように、表面電位を通して被研磨面を観察することで研磨の不均一性を検出できることが分かる。
【0036】
金属膜であるRuバリア膜についてのプローブによる接触スキャン領域を含む表面電位像を図4に示す。点線で囲まれた中央部の領域(20×20μm)は、EFM測定前にプローブをRu膜に接触させて走査した領域である。絶縁膜材料および半導体材料と同様に、プローブによる接触スキャンにより金属膜の表面電位が変化していることが分かる。この場合は、SiOC膜と異なりプローブを接触させた領域の電位が上昇している。このようなプローブ接触領域(すなわち、研磨領域)の電位が、絶縁膜ではネガティブ側に、金属膜ではポジティブ側に変化する原因についてはいまだ分かっていない。このRuの場合についても、やはり表面の形状像のデータでは何ら表面に凹凸を生じていなかった。
【0037】
機械的刺激による表面電位の変化の原因は良くわかっていないが、本発明者は機械的な刺激により表面の原子配列が乱され、原子の電子状態が変化することに起因すると考えている。さらに、本発明者は、機械的刺激による表面電位は、機械的刺激を与える圧力と相関があることも発見した。
【0038】
表面電位と圧力との関係は、次のようにして取得することができる。被研磨物の表面にEFM(電子力顕微鏡)のプローブを所定の圧力で接触させてスキャンし、スキャン後にEFMにより表面電位を測定して、スキャン領域と非スキャン領域の二つを含む領域での表面電位データを取得し、さらに異なる圧力でプローブを被研磨物の表面に接触させてスキャンし、異なる圧力でスキャンした後の表面電位をEFMにより測定する。このようにして、プローブの圧力と被研磨物の表面電位との関係が求められる。
【0039】
EFMによる表面電位の測定は、プローブを被研磨物に対して非接触の状態で実施される。被研磨物に対するプローブの圧力は、プローブの先端面積、カンチレバーのばね定数および変位量などの機械的条件から求めることができる。プローブの圧力は、異なるばね定数のカンチレバーを用いることにより変えることができる。
【0040】
接触スキャン時のプローブの圧力は、実際の研磨時に研磨粒子から被研磨物に加えられる微視的な研磨圧力を表している。ウエハの研磨(CMP)では、研磨粒子は平均粒子径が通常100nm〜数百nmのものが通常使用される。研磨圧力は、研磨粒子のウエハ表面との接触面積を用いて算出される。尚、ウエハ表面全体に加えられる実際の巨視的な研磨圧力を求めるには所定の換算が必要である。上述のようにして取得されたプローブの圧力と表面電位との関係は、研磨圧力と表面電位との関係に相当する。圧力と表面電位の関係は材料の種類によって異なることから、圧力と表面電位との関係を示すデータを材料ごとに取得することが好ましい。
【0041】
図5は、Ru膜におけるプローブの圧力(すなわち機械的研磨圧力)と表面電位との関係を示すデータを示す。図5に示すグラフは、3つの異なる圧力(0,第1の圧力P1、第2の圧力P2)での表面電位から求められたものである。圧力0のときの表面電位は、研磨圧力を被研磨物に加える前に(すなわち被研磨物の研磨前に)表面電位を測定することで取得される。
【0042】
図5に示すような研磨圧力と表面電位との定量的な関係を示すデータを使用することで、表面電位を研磨圧力に変換することができる。この圧力と表面電位との関係は、研磨される材料の種類に依存する。したがって、異なる材料で構成される素子を研磨するときは、このようなデータが材料毎に予め取得される。そして、表面電位像を研磨の前後で取得することで、素子に加わる研磨圧力を定量的に推定することが可能となる。
【0043】
さらに、研磨圧力と表面電位との定量的な関係に基づき、図3に示すような表面電位像(すなわち、二次元の表面電位分布)から、研磨圧力像(すなわち、二次元の研磨圧力分布)に変換することも可能である。
【0044】
CMPプロセスにおいて、しばしば観察される不良としてスクラッチがある。図6(a)は、このスクラッチ不良を模してプローブを縦方向に直線的に動かしたのちに取得されたRu膜の電位像を示し、図6(b)は表面電位の断面プロファイルを示している。この場合も、1.6N/mのばね定数を有するカンチレバーのプローブを153nNの微小な力でRu膜に押しつけた。図6(a)および図6(b)から、プローブの跡が縦のライン状になっていることが分かる。
【0045】
このように、実際には表面の凹凸に影響しなくて不良とならないスクラッチも、表面電位像では電位の変化として検出できることが分かる。EFM表面電位を詳細に観察することで、実際には不良とならないが、その予兆となる不良の要因を検出することができる。したがって、未然に欠陥発生を防止して、プロセスの高信頼化に寄与できる。
【0046】
これらの結果から、EFMを用いることで研磨圧力の分布をEFM表面電位像として検出できることが判明した。すなわち、表面電位像から、被研磨物に実際に加わった研磨圧力を定量的に決定することができる。さらに、被研磨面上での研磨圧力の分布も取得することができる。
【0047】
さらに、種々の異なる材料から構成されたパターン素子において、各材料への実際に加わった圧力とパターンに起因する研磨圧力の変化を推定することができる。これは特にエロージョン、ディッシングなどの発生機構の研究に役立てることができる。また、表面形状では何も凹凸が検出されず、実際には不良にはなっていないが、表面電位像では線状の模様が見えているときには、研磨圧力を大きくしたときにスクラッチとして顕在化する可能性があることを予測できる。このような表面電位像を、研磨プロセスへフィードバックすることにより、欠陥の発生を未然に防ぐことができる。
【0048】
上述した研磨圧力の定量的測定方法は、図1(b)に示す既存の電気力顕微鏡(EFM)を用いて実施することができる。また、この方法は、図7に示す研磨装置20により研磨された半導体ウエハの研磨評価に適用することができる。研磨装置20は、化学機械研磨を行うことができるCMP装置である。以下、研磨装置20について図7を参照して説明する。
【0049】
研磨装置20は、研磨テーブル22と、支軸24の上端に連結されたトップリングヘッド26と、トップリングヘッド26の自由端に取り付けられたトップリングシャフト28と、該トップリングシャフト28の下端に連結されたトップリング30とを備えている。トップリングシャフト28は、図示しないトップリング回転モータにより回転駆動されるようになっている。
【0050】
研磨テーブル22は、テーブル軸22aを介してその下方に配置されるモータ(図示せず)に連結されており、そのテーブル軸22a周りに回転可能になっている。この研磨テーブル22の上面には研磨パッド32が貼付されており、該研磨パッド32の上面(研磨面)32aが半導体ウエハを研磨する研磨面を構成している。半導体ウエハは、トップリング30の下面に真空吸引により保持される。
【0051】
トップリングシャフト28の回転により、トップリング30がトップリングシャフト28周りに回転するようになっている。また、トップリングシャフト28は、上下動機構34によりトップリングヘッド26に対して上下動するようになっており、このトップリングシャフト28の上下動によりトップリング30がトップリングヘッド26に対して上下動するようになっている。トップリングヘッド26は支軸24を中心として旋回可能に構成されている。
【0052】
半導体ウエハの研磨は次のようにして行われる。下面に半導体ウエハを保持したトップリング30は、トップリングヘッド26の旋回により半導体ウエハの受取位置から研磨テーブル22の上方に移動される。トップリング30および研磨テーブル22をそれぞれ回転させ、研磨テーブル22の上方に設けられた研磨液供給ノズル(図示せず)から研磨液(スラリー)を研磨パッド32の上面32aに供給する。そして、トップリング30を上下動機構34により下降させて半導体ウエハを研磨パッド32の上面(研磨面)32aに押圧する。このように、半導体ウエハを研磨パッド32の研磨面32aに摺接させて半導体ウエハの表面を研磨する。
【0053】
符号40は研磨テーブル22の研磨パッド32の研磨面32aをドレッシングするドレッシングユニットである。ドレッシングユニット40は、研磨面32aに摺接されるドレッサ50と、該ドレッサ50が連結されるドレッサシャフト51と、該ドレッサシャフト51の上端に設けられたエアシリンダ53と、ドレッサシャフト51を回転自在に支持する揺動アーム55とを備えている。ドレッサ50の下部はドレッシング部材50aにより構成され、このドレッシング部材50aの下面にはダイヤモンド砥粒が付着している。エアシリンダ53は、支柱56に支持された支持台57上に配置されており、これらの支柱56は揺動アーム55に固定されている。
【0054】
揺動アーム55は図示しないモータに駆動されて、支軸58を中心として旋回するように構成されている。ドレッサシャフト51は、図示しないモータの駆動により回転し、このドレッサシャフト51の回転により、ドレッサ50がドレッサシャフト51周りに回転する。エアシリンダ53は、ドレッサシャフト51を介してドレッサ50を下降させ、回転する研磨テーブル22上の研磨パッド32の研磨面32aにドレッサ50を所定の押圧力で押圧する。研磨パッド32は、回転するドレッシング部材50aの下面(ダイヤモンド砥粒)により削り取られ、これにより研磨面32aがドレッシングされる。ドレッシング中には、図示しない純水供給ノズルから純水が研磨面32aに供給される。
【0055】
研磨装置20により研磨された半導体ウエハは、図示しない洗浄機および乾燥機により洗浄および乾燥される。そして、半導体ウエハは、図1(b)に示す公知の電気力顕微鏡(EFM)に搬送され、ここで上述のように半導体ウエハの表面電位像が取得される。表面電位像に現れる表面電位は研磨圧力に変換され、これにより被研磨面上の研磨圧力分布が求められる。研磨圧力が不均一であれば、その結果を研磨装置20にフィードバックして、得られた研磨圧力分布に基づいてトップリング30の研磨圧力を調整したり、スラリーの流量、流し方などを調整することができる。
【0056】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうることである。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0057】
1 試料
2 カンチレバー
3 プローブ
7 レーザー
8 フォトディテクタ
10 ロックインアンプ
11 フィードバックコントローラ
20 研磨装置
22 研磨テーブル
24 支軸
26 トップリングヘッド
28 トップリングシャフト
30 トップリング
32 研磨パッド
34 上下動機構
40 ドレッシングユニット
50 ドレッサ
51 ドレッサシャフト
56 支柱
57 支持台
58 支軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学機械研磨の研磨圧力分布を取得する方法であって、
研磨装置により研磨された被研磨物の表面電位を電気力顕微鏡により測定して表面電位像を取得し、
表面電位と研磨圧力との関係を示すデータに基づき、前記表面電位を研磨圧力に変換することを特徴とする方法。
【請求項2】
表面電位と研磨圧力との関係を示す前記データは、
前記電気力顕微鏡のプローブを被研磨物に所定の圧力で接触させた状態で、前記プローブで前記被研磨物の表面をスキャンし、
スキャンされた前記被研磨物の表面電位を測定することにより取得することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
表面電位と研磨圧力との関係を示す前記データは、
前記電気力顕微鏡のプローブを被研磨物に第1の圧力で接触させた状態で、前記プローブで前記被研磨物の表面をスキャンし、
前記第1の圧力でスキャンされた前記被研磨物の表面電位を測定し、
前記プローブを前記被研磨物に第2の圧力で接触させた状態で、前記プローブで前記被研磨物の表面をスキャンし、
前記第2の圧力でスキャンされた前記被研磨物の表面電位を測定することにより取得することを特徴とする請求項1に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−45819(P2013−45819A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181186(P2011−181186)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】