説明

原木丸太への高圧水蒸気処理方法および処理後の原木丸太から作られる木質パネル

【課題】寸法安定性に優れた木質パネル(例えば、OSB)を得る。
【解決手段】原木丸太1にあらかじめ孔2およびまたは切り溝3を形成しておき、それを耐圧密封容器10に収容して、原木丸太への高圧水蒸気処理を行う。高圧水蒸気処理済みの原木丸太1bからストランドのような木削片4を作成し、その木削片4を用いて従来法により木質パネル5を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原木丸太への高圧水蒸気処理方法と高圧水蒸気処理後の原木丸太から作られる木質パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
原木丸太から、木質のチップ、フレーク、ストランド、ウェハー等と呼称される木削片を作り、得られた木削片を樹脂バインダーで結合して、オリエンテッドストランドボード(OSB)、パーティクルボード(PB)、ウェハーボード(WB)、パラレルストランドランバー(PSL)、オリエンテッドストランドランバー(OSL)等と呼称される木質パネルを製造することは知られている。この種の木質パネルは、強度的には合板と同等以上の性能を確保することができるが、耐水性や耐湿性において、特に水分や湿気による寸法の変化量は合板と比較して大きく、合板と同等の性能にまで近づけることが求められている。
【0003】
従来法により製造された木質パネルの吸湿による寸法変化を抑制し、高い寸法安定性を備えた木質パネルを得る方法として、木質パネルを密封空間あるいは減圧された密封空間内に配置し、その中に高圧水蒸気を供給して、木質パネルに高圧水蒸気処理を施す方法が知られている(特許文献1、2参照)。処理すべき木質パネルとして、貫通孔や切り溝を形成して端面以外にも木口面が現出する部分を持つ木質パネルを用いることも上記特許文献に記載されており、この方法によれば、広い平面積を持つ木質パネルに対して、短時間で所要の高圧水蒸気処理を施すことができる利点がある。また、特許文献1および2には、単板等の無垢材や合板に対しても、同じようにして高圧水蒸気処理を施しうることが記載されている。
【0004】
さらに、特許文献3、特許文献4には、密封した耐圧容器あるいはオートクレーブ内に木材を入れて加熱し、木材そのものが持つ水分を水蒸気化することで、木材に寸法安定化処理(水熱処理)を施すことが記載されている。
【0005】
特許文献5には、既に製造された木質パネルに高圧水蒸気処理のような寸法安定化処理を施すのではなく、水蒸気加熱加圧処理した原木丸太から、木質のチップ、フレーク、ストランド、ウェハー等の木削片を切り出し、その木削片を樹脂バインダーで接着することで、寸法安定性を備えた木質パネルを製造することが記載されている。
【0006】
【特許文献1】特許第3660096号公報
【特許文献2】特許第3813938号公報
【特許文献3】特開平7−290409号公報
【特許文献4】特開平04−126202号公報
【特許文献5】特開2001−293705号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、特許文献5に記載の製造方法により木質パネルを製造することを試みたが、木削片を作成する前の原木丸太に対して、その内部に均一に高圧水蒸気処理を施すことが困難であることを経験した。そのために、処理後の原木丸太から作成された木削片の一部に高圧水蒸気処理が施されていないものが混入するのを避けられなかった。
【0008】
また、特許文献1および2に記載されるものは、既に商品化した木質パネル(例えば、OSB、PBやMDF)または単板等の無垢材に対して高圧水蒸気処理を施すものであり、木削片を作成する前の原木丸太にそのまま適用することはできない。また、高圧水蒸気処理後に木質パネルに対する調湿処理が必要となる。特許文献3および4に記載される寸法安定化処理(水熱処理)は、木材そのものが持つ水分を水蒸気化することで寸法安定化処理を行う方法であり、外部からの高圧水蒸気供給を行わないので、短時間で高い処理効果を上げることはできない。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、木削片を作成する前の原木丸太に対して均一に寸法安定化を与えることのできる原木丸太への高圧水蒸気処理方法を開示することを第1の課題とする。また、そのように処理された原木丸太から作成される木削片を用いて高い寸法安定性を備えた木質パネルを得ることを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による原木丸太への高圧水蒸気処理方法は、原木丸太にあらかじめ孔およびまたは切り溝を形成しておき、該孔およびまたは切り溝を形成した原木丸太を耐圧密封容器に収容し、該耐圧密封容器内に高圧水蒸気を供給して、原木丸太に対する高圧水蒸気処理を行うことを特徴とする。耐圧密封容器内で高圧水蒸気処理を行う前工程として、耐圧密封容器内を減圧する処理を行うようにしてもよい。
【0011】
本発明による方法では、高圧水蒸気処理を施そうとする原木丸太にはあらかじめ孔およびまたは切り溝が形成されている。そのために、耐圧密封容器内で供給される高圧水蒸気は、その孔およびまたは切り溝からも原木丸太内部に浸入することができ、原木丸太の周面と両端の木口面からのみ高圧水蒸気が浸入する場合と比較して、原木丸太内部の全域に短時間で高圧水蒸気処理を施すことができる。耐圧密封容器内に原木丸太を収容した後であって、高圧水蒸気処理を行う前工程として、耐圧密封容器内を減圧する処理を行うようにしてもよく、これにより、高圧水蒸気処理効果をより完全なものとすることができる。
【0012】
本発明による原木丸太への高圧水蒸気処理方法において、原木丸太に孔を形成する場合に、該孔は一端が閉塞した孔であってもよく、貫通孔であってもよい。原木丸太の内部、特に中心部にまで、高圧水蒸気が到達しやすいことから、貫通孔であることは好ましい。また、原木丸太に切り溝を形成する場合には、該切り溝の例として、原木丸太の長手方向に交叉する方向の複数個の切り溝、あるいは原木丸太の長手方向に沿って螺旋状に形成された切り溝などが挙げられる。
【0013】
孔およびまたは切り溝を形成する原木丸太での位置および大きさや個数に特に制限はない。所望する寸法安定化の程度に応じて、適宜、決定する。孔や溝の方向も、断面での上下方向のみ、断面での左右方向のみ、あるいは上下方向と左右方向の双方であってよく、それらは整列した状態であってもよく、ランダムであってもよい。切り溝には鋸等による挽き道も含まれる。前記のように螺旋状に連続する切り溝(挽き道)も含まれる。
【0014】
本発明は、さらに、上記のいずれかの方法で高圧水蒸気処理が施された原木丸太から木削片を作り、該木削片を樹脂バインダーで結合し、フォーミングし、熱圧することを特徴とする木質パネルの製造方法をも開示する。ここにおいて、切削片には、従来知られた、チップ、フレーク、ストランド、ウェハー等が含まれる。
【0015】
本発明は、さらに、上記の方法で製造された木質パネルをも開示する。木質パネルの具体例としては、従来公知の、オリエンテッドストランドボード、パーティクルボード、ウェハーボード、パラレルストランドランバー、または、オリエンテッドストランドランバー等を挙げることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、木削片を作成する前の原木丸太に対して均一にかつ短時間で寸法安定化を与えることができる。また、処理済みの原木丸太を用いて高い寸法安定性を備えた木質パネルを得ることができる。さらに、木質パネルとした後に、高圧水蒸気を供給する処理を行わないので、接着剤の破壊がなく強度の高い木質パネルが得られると共に、従来高圧水蒸気処理後に必要であった調湿処理を要しないので、生産性も向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施の形態に基づき説明する。図1は処理の対象となる原木丸太に孔を形成する場合の2つの例を示しており、図2は処理の対象となる原木丸太に切り溝を形成する場合の2つの例を示している。図3は、そのような前処理を行った原木丸太に対して高圧水蒸気処理を行う場合の一例を示し、図4は、高圧水蒸気処理後の原木丸太から木質パネルを製造する過程を示している。
【0018】
図1および図2において、原木丸太1は、例えば直径10〜30cm,長さ1m程度のものである。このような原木丸太1は、原木を一定の長さ(例えば1m)に玉切りし、それを温水池に数時間浸漬して軟化調湿を行い、剥皮することにより得られる。直径や長さは任意であり、後に高圧水蒸気処理を行う耐圧密封容器の寸法との関係で、適宜の大きさのものに玉切りすればよい。また、軟化調湿処理や剥皮処理を行わない原木丸太であってもよい。
【0019】
図1(a)に示す原木丸太1には、原木丸太1の直径を通る直径3〜5mm程度の貫通孔2aと、該貫通孔2aと平行に貫通孔2aから所定距離だけ離れた箇所に2本の貫通孔2bが、ほぼ同じ断面内に形成されており、このような3本の貫通孔2a,2bが、長手方向に10cm程度の間隔をおいて、多数列に形成されている。貫通孔2a,2bの直径、同一断面内に形成する貫通孔の本数と間隔、長手方向における貫通孔の間隔等は、すべて任意であり、処理しようとする原木丸太の大きさに応じて、適切な数値を採用すればよい。
【0020】
図1(b)に示す原木丸太1には、原木丸太1のほぼ中心を通るようにして、複数本の貫通孔2cが同一断面内に形成されており、そのような貫通孔2cの群が、原木丸太1の長手方向に10cm程度の間隔をおいて、多数列に形成されている。ここでも、貫通孔2cの直径、同一断面内に形成する貫通孔2cの本数と相互の角度α、長手方向における貫通孔の間隔等は、すべて任意であり、処理しようとする原木丸太の大きさに応じて、適切な数値を採用すればよい。
【0021】
図2(a)に示す原木丸太1には、所定幅の深さの切り溝3a(例えば、幅2〜5mm,深さ50〜150mm程度)が、周面方向および長手方向にそれぞれ所定の間隔をおいて、多数形成されている。また、図2(b)に示す原木丸太1には、原木丸太1の長手方向に沿って所定ピッチで螺旋状に形成された切り溝3b(例えば、幅2〜5mm,深さ50〜150mm程度)が、適宜の距離をおいて2本形成されている。
【0022】
このような切り溝3a、3bの大きさや数も、処理しようとする原木丸太の大きさに応じて、適切な数値を採用すればよい。また、切り溝3a,3bは鋸による挽き道等として形成することができる。
【0023】
また、図示しないが、貫通孔2a,2bに代えて、一端が閉塞した多数の有底孔を原木丸太1の半径方向あるいは任意の方向に形成してもよく、さらに、貫通孔2、切り溝3、有底孔の2つ以上を組み合わせて原木丸太1に形成してもよい。
【0024】
そのようにして前処理としての孔や切り溝が形成された原木丸太1aに対して、高圧水蒸気処理を行う。図3に一例を示すように、前処理済み原木丸太1aは耐圧密封容器10内に入れた後、容器10内に高圧水蒸気発生源11から高圧水蒸気を供給する。高圧水蒸気の温度、圧力と処理時間は使用する前処理済み原木丸太1aの大きさや材種により変動するが、例えば、150℃〜250℃、望ましくは170℃〜220℃の温度の蒸気を、数kgf/cm〜30kgf/cm程度の圧力で供給する。処理時間は数分から数十分が適当である。処理温度をより低くして長い時間(例えば数時間)におよぶ処理を行ってもよい。このようなマイルド処理を行うことにより、強度低下が少なく、また材色の変化も少ない、処理済みの原木丸太を得ることができる。
【0025】
また、高圧水蒸気が前処理済み原木丸太1aの内部にまで浸透するのをより促進させる目的で、耐圧密封容器10を減圧してから、高圧水蒸気の供給を行うようにしてもよい。その場合には、図3に示すように、耐圧密封容器10に真空引きポンプ12等が併設される。真空引きポンプ12を作動して、例えば耐圧密封容器10を600〜750mmHg程度まで減圧し、その状態を一定時間維持した後に、前記した高圧水蒸気の供給を行うようにする。
【0026】
所定時間(例えば60分程度)の高圧水蒸気処理を終えた後、高圧水蒸気処理済み原木丸太1bを耐圧密封容器10から取り出して、図4に示すように、高圧水蒸気処理済み原木丸太1bから木削片4を作成する。木削片4を作成する工程は、従来の工程と同じであってよく、例えば、ディスクフレーカーによる切削処理によって、平均寸法0.5mm×2cm×5cm程度の大きさのストランドとする。この寸法のストランドはOSBを製造するのに適している。木削片作成工程では、これに限らず、製造しようとする木質パネルの種類に応じて、所定の大きさの、チップ、フレーク、ウェハー等を作成する。
【0027】
作成した木削片(この例ではストランド)4を乾燥処理した後、樹脂バインダーとして、例えはMDIを絶乾ストランド換算で数%と絶乾ストランド換算で1%程度のパラフィンワックスを用いて、樹脂バインダー処理を行い、その後、フォーミング処理、熱圧処理、等をこの順で行うことにより、木質パネル(この例ではOSB)5が得られる。
【0028】
本発明による製造方法で得られる木質パネル5は、既に内部にまで高圧水蒸気処理が施されることによって全体に亘って高い寸法安定性を持つようになった原木丸太1bから得られる木削片4を材料としており、材料としての木削片4はすべて充分な寸法安定性を有している。そのために、製造される木質パネル5は高いかつ均一な寸法安定性を備える。また、木質パネル5とした後に、高圧水蒸気を供給する処理を行わないので、樹脂バインダーの接着強度が劣化することはなく、強度も高い木質パネルが得られる。結果として、本発明による木質パネル5では、吸湿厚さ変化率および吸湿長さ変化率を合板程度に抑えることができる。また、調湿処理を必要としないので、生産性も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】処理の対象となる原木丸太に孔を形成する場合の2つの例を示す図。
【図2】処理の対象となる原木丸太に切り溝を形成する場合の2つの例を示す図。
【図3】前処理を行った原木丸太に対して高圧水蒸気処理を行う場合の一例を示す図。
【図4】高圧水蒸気処理後の原木丸太から木質パネルを製造する過程を説明する図。
【符号の説明】
【0030】
1…原木丸太、1a…前処理済み原木丸太、1b…高圧水蒸気処理済み原木丸太、2a,2b,2c…貫通孔、3a,3b…切り溝、4…木削片、5…木質パネル、10…耐圧密封容器、11…高圧水蒸気発生源、12…真空引きポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原木丸太に高圧水蒸気処理を施す方法であって、原木丸太にあらかじめ孔およびまたは切り溝を形成しておき、該孔およびまたは切り溝を形成した原木丸太を耐圧密封容器に収容し、該耐圧密封容器内に高圧水蒸気を所定時間に亘って供給することを特徴とする原木丸太への高圧水蒸気処理方法。
【請求項2】
耐圧密封容器内で高圧水蒸気を供給する前の工程として、耐圧密封容器内を減圧する処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の原木丸太への高圧水蒸気処理方法。
【請求項3】
原木丸太に孔を形成する場合、該孔は貫通孔であることを特徴とする請求項1または2に記載の原木丸太への高圧水蒸気処理方法。
【請求項4】
原木丸太に切り溝を形成する場合、該切り溝は原木丸太の長手方向に沿って螺旋状に形成された切り溝であることを特徴とする請求項1または2に記載の原木丸太への高圧水蒸気処理方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかの方法で高圧水蒸気処理が施された原木丸太から木削片を作り、該木削片を樹脂バインダーで結合し、フォーミングし、熱圧することを特徴とする木質パネルの製造方法。
【請求項6】
請求項5の製造方法で製造された木質パネル。
【請求項7】
前記木質パネルは、オリエンテッドストランドボード、パーティクルボード、ウェハーボード、パラレルストランドランバー、または、オリエンテッドストランドランバーのいずれかであることを特徴とする請求項6に記載の木質パネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−154374(P2009−154374A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−334416(P2007−334416)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000000413)永大産業株式会社 (243)
【Fターム(参考)】