説明

反応型ポリウレタン系電気絶縁塗料および該電気絶縁塗料の絶縁層を有する絶縁電線

【課題】絶縁電線の電線特性の低下や外観の悪化等を抑制しつつ、電気絶縁塗料の塗布・焼付け回数を極力低減し、絶縁電線の生産性を向上させる。
【解決手段】(a)イソシアネート基含有ポリウレタンと、(b)ポリオール化合物と、(c)ポリアミド樹脂を含有し、かつ、フェノール系溶剤を含有しないことを特徴とする反応型ポリウレタン系電気絶縁塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応型ポリウレタン系電気絶縁塗料および該電気絶縁塗料の絶縁層を有する絶縁被覆された電線(絶縁電線)に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁電線(エナメル線)は、銅線、銅クラッド線、アルミニウム線などの導体に直接あるいは他の絶縁層を介して、電気絶縁塗料を塗布、焼付(硬化)し電気絶縁皮膜(絶縁層)を形成させることで得られる。
【0003】
特に、ポリウレタン系絶縁電線は、はんだ付けなどの絶縁電線の端末処理が容易であることや、他の絶縁電線と比較し高速作業性に優れ生産性が高いことなどから、電気・電子機器等に幅広く利用されている。
【0004】
ポリウレタン系絶縁電線を形成するために用いられるポリウレタン系電気絶縁塗料としては、有機ポリイソシアネートのイソシアネート基をフェノール、クレゾール、キシレノール酸などのフェノール系溶剤でブロック(マスク)して 安定化したブロック有機ポリイソシアネート化合物とポリオールなどの活性水素含有化合物とを共存させて1液化したものが用いられている。
【0005】
ブロック有機ポリイソシアネート化合物に使用するブロック剤(マスク剤)としては、コストメリットや塗料の貯蔵安定性が高いことなどから、主にフェノール、クレゾール、キシレノール酸等のフェノール系溶剤を使用している。
【0006】
一液型ポリウレタン系電気絶縁塗料に用いられるブロック有機ポリイソシアネート化合物は高粘度であり作業性に劣ることから、有機溶剤によって塗料粘度を調整する必要がある。
【0007】
この目的で使用される有機溶剤としては、ブロック有機ポリイソシアネート化合物や活性水素含有化合物との溶解性が高いフェノール、クレゾール、キシレノール酸などのフェノール系溶剤を主成分とし、さらに希釈による減粘効果を高めるためにキシロールやソルベントナフサなどを混合してなる溶媒が使用されている。
【0008】
しかしながら、フェノール系溶剤は劇物であり人体への毒性が高い。また、電気絶縁塗料の焼付の際に高温に加熱しても、ブロック有機ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基からフェノール系溶剤が完全に解離せず、得られる電気絶縁皮膜中にかなりの量が残留する場合がある。
【0009】
電気絶縁被覆中に残存したフェノール系溶剤は、電気製品や電子機器などの使用中に徐々に大気中に放散する。これにより、室内等の使用環境を汚染することに加え、使用者の健康被害等、種々の問題を生じる。
【0010】
また、ブロック有機ポリイソシアネート化合物のブロック剤や電気絶縁塗料中の有機溶剤は、電気絶縁塗料の塗料安定性や焼付時の塗布作業性に寄与するものの、焼付時に焼付炉内で気化し、燃焼触媒によって分解され二酸化炭素(温室効果ガス)を発生する。
【0011】
従って、一液型ポリウレタン系電気絶縁塗料中のブロック剤や有機溶剤の使用量の削減も大きな課題となっている。
【0012】
この様な技術的背景の下、ポリウレタン系電気絶縁塗料中の有機溶剤やブロック剤を低減させることを目的として、従来の一液型ポリウレタン系電気絶縁塗料に替わり、反応型ポリウレタン系電気絶縁塗料が提案されている(例えば、特許文献1および特許文献2。)。
【0013】
前記反応型ポリウレタン系電気絶縁塗料では、ブロック剤を必要としないイソシアネート基含有化合物とポリオールなどの活性水素基含有化合物をそれぞれ個別に分けておき、塗布・焼付けの際にそれらを混合した後、塗布・焼付けすることで絶縁電線を得ることができる。
【0014】
また、該塗料中にフェノール系溶剤を使用していないため、得られる電気絶縁皮膜中にフェノール系溶剤が残留することはなく、更に電気絶縁皮膜中の残留溶剤を大幅に低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2006−45484号公報
【特許文献2】特開2006−89556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記のように、絶縁電線(エナメル線)の製造にあたっては、電気絶縁塗料を、コーターロール等の塗布手段を用いて導体上に塗布し、次いで、焼付炉内で電気絶縁塗料を焼付けするという作業が行われる。
【0017】
導体に対する電気絶縁塗料の塗布・焼付けは、焼付け不足によって生じる絶縁電線の電線特性の低下やユズ状の外観不良および残留溶剤の増加等の問題を回避するために、複数回に分けて実施される。
【0018】
しかしながら、塗布・焼付けの回数が多くなるほど、絶縁電線の生産効率が低下するという問題点がある。
【0019】
そこで、本発明は、絶縁電線の電線特性の低下やユズ状の外観の悪化等を抑制しつつ、電気絶縁塗料の塗布・焼付け回数を極力低減し、絶縁電線の生産性を向上させることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題は、以下の構成により解決される。
(1)(a)イソシアネート基含有ポリウレタンと、(b)ポリオール化合物と、(c)ポリアミド樹脂を含有し、かつ、フェノール系溶剤を含有しないことを特徴とする反応型ポリウレタン系電気絶縁塗料。
(2)(a)イソシアネート基含有ポリウレタンが、芳香族ポリイソシアネート類と水酸基含有化合物とを水酸基に対してイソシアネート基過剰の条件下で反応させて得られるイソシアネート基含有ポリウレタンである、(1)に記載の反応型ポリウレタン系電気絶縁塗料。
(3)ポリオール化合物が、ポリエステルポリオールである、(1)又は(2)に記載の反応型ポリウレタン系電気絶縁塗料。
(4)(1)〜(3)いずれかに記載の反応型ポリウレタン系電気絶縁塗料を、導体上に、直接又は他の絶縁層を介して塗布、焼付けすることにより電気絶縁層を形成してなる、ポリウレタン系絶縁電線。
(5)(a)イソシアネート基含有ポリウレタンと、(b)ポリオール化合物と、(c)ポリアミド樹脂と、を含有し、かつ、フェノール系溶剤を含有しない反応型ポリウレタン系電気絶縁塗料を調製し、前記反応型ポリウレタン系電気絶縁塗料を、導体又は予め絶縁層で被覆された導体上に塗布し、焼付けすることにより、前記ポリウレタン系電気絶縁塗料による電気絶縁層を形成することを特徴とする、ポリウレタン系絶縁電線の製造方法。
(6)(a)イソシアネート基含有ポリウレタンが、芳香族ポリイソシアネート類と水酸基含有化合物とを水酸基に対してイソシアネート基過剰の条件下で反応させて得られるイソシアネート基含有ポリウレタンである、(5)に記載の製造方法。
(7)ポリオール化合物が、ポリエステルポリオールである、(5)又は(6)に記載の製造方法。
【0021】
なお、本発明において、「反応型」の用語は、少なくとも、(a)イソシアネート基含有ポリウレタンと、(b)ポリオール化合物とが、焼付け(硬化)時に、相互に反応して硬化膜を形成し得ることを意味する。
【0022】
また、本明細書において、(c)ポリアミド樹脂を除く成分の数平均分子量は、下記の条件でGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定し、ポリスチレンを標準物質として換算した値である。
<平均分子量の測定方法>
装置:HLC−8220(東ソー社製)
検出器:RI(示差屈折率)
展開溶媒:THF(テトラヒドロフラン)
流速:0.3ml/min
温度:40℃
【発明の効果】
【0023】
本発明の反応型ポリウレタン系電気絶縁塗料には、劇物であるフェノール系溶剤が含まれていないため、絶縁電線中のフェノール系溶剤が徐々に放出されることによる使用環境の汚染を生じることがない。
【0024】
更に、本発明の反応型ポリウレタン系電気絶縁塗料は、得られる絶縁電線の外観不良および電線特性の低下を抑制しつつ、塗布・焼付け回数を減らし、絶縁電線の生産性を向上させることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施形態に即して詳細に説明する。
【0026】
[ポリウレタン系電気絶縁塗料]
本発明の反応型ポリウレタン系電気絶縁塗料は、(a)イソシアネート基含有ポリウレタンと、(b)ポリオール化合物と、(c)ポリアミド樹脂と、を含有し、かつ、フェノール系溶剤を含有しないことを特徴とする。以下、これらの成分毎に説明する。
【0027】
(a)イソシアネート基含有ポリウレタン
本発明における(a)イソシアネート基含有ポリウレタンとしては、特に制限されるものではなく、通常公知のポリイソシアネートと水酸基含有化合物とを、水酸基含有化合物の水酸基に対して、イソシアネート基過剰の条件下で反応させることにより得られるイソシアネート基含有ポリウレタンを用いることが可能である。
【0028】
ポリイソシアネートとしては、芳香族ポリイソシアネート類が好適である。芳香族ポリイソシアネート類としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、或いはこれらの混合物等のジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、或いはこれらの混合物等のトルエンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート、3,3’−ジメチルジフェニル−4,4’−ジイソシアネート、4,4’−ジフェニルプロパンジイソシアネート、1,2−フェニレンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、1,4−ナフタレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、3,3’−ジメトキシジフェニル−4,4’−ジイソシアネートがあげられる。なお、これらは単独または2種以上を混合して使用することができる。
【0029】
また、芳香族ポリイソシアネート類として、上記芳香族ポリイソシアネートのアダクト変性体、ビュレット変性体、イソシアヌレート変性体、ウレトンイミン変性体、ウレトジオン変性体、カルボジイミド変性体等のいわゆる変性イソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、クルードトルエンポリイソシアネート等のような、いわゆるポリメリック体といわれるポリイソシアネートを使用することも可能である。なお、これらは単独または2種以上を混合して使用することができる。
【0030】
これら芳香族ポリイソシアネート類のうち、入手のしやすさや得られるポリウレタン系絶縁電線のはんだ付け性と耐熱性が良好な点でジフェニルメタンジイソシアネート、トルエンジイソシアネートおよびこれらジイソシアネートのアダクト変性体、ビュレット変性体、イソシアヌレート変性体、ウレトンイミン変性体、ウレトジオン変性体、カルボジイミド変性体等の変性イソシアネートが好ましく、特にジフェニルメタンジイソシアネートおよびジフェニルメタンジイソシアネートの変性イソシアネートが好ましい。
【0031】
水酸基含有化合物としては、良好な貯蔵安定性および塗布・焼付作業性を有するポリウレタン系電気絶縁塗料を得る観点から、分子量(分子量分布を有する化合物にあっては数平均分子量を意味する。以下、この段落において同じ。)1,000以下のポリオール類が好ましく、更に分子量500以下のポリオール類が好ましい。このようなポリオール類としては、具体的には、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド或いはプロピレンオキサイド付加物、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトールなどがあげられる。また、後述する(b)ポリオール化合物として挙げるポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、炭化水素系ポリオールなどを用いることも可能である。
【0032】
これらのうち、入手のしやすさや得られるポリウレタン系絶縁電線のはんだ付け性や耐熱性のバランスが良好な点で、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパンおよびグリセリン、並びに、ビスフェノールAのエチレンオキサイド或いはプロピレンオキサイド付加物が好ましい。
【0033】
イソシアネート基含有ポリウレタンの変性用として、数平均分子量が1,000〜4,000のポリオキシエチレンポリオール、ポリオキシプロピレンポリオール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリブタジエンポリオール、ポリイソブチレンポリオールなどのポリオールを使用することもできる。また、これらのポリオール類は、いずれも単独または2種以上を混合して使用することができる。
【0034】
前記イソシアネート基含有ポリウレタンのポリイソシアネートと水酸基含有化合物との反応のイソシアネート基と水酸基の当量比は、イソシアネート基/水酸基=1.1/1〜10/1が好ましく、更に1.8/1〜5/1が好ましい。
【0035】
また、前記イソシアネート基含有ポリウレタン中のイソシアネート基(NCO基)含有量は、良好な塗布・焼付作業性を有するポリウレタン系電気絶縁塗料を得るために、固形分100質量%換算で1〜30質量%が好ましく、更に5〜25質量%であることが好ましい。
【0036】
また、イソシアネート基含有ポリウレタンの数平均分子量としては、300〜3,000、特に500〜2,000の範囲が好ましい。数平均分子量が300未満であると本発明の反応型ポリウレタン系電気絶縁塗料を塗布・焼付する際に焼付炉の出口からイソシアネート基含有ポリウレタンの昇華・熱分解に起因した煙が生じやすく、3,000を超えるとイソシアネート基含有ポリウレタンの樹脂濃度が高くなり、良好な塗布・焼付作業性を確保できなくなるおそれがある。
【0037】
(b)ポリオール化合物
本発明における(b)ポリオール化合物としては、具体的には、数平均分子量が500〜3,000、特に500〜2000の高分子ポリオール類および数平均分子量500未満の低分子ポリオール類が挙げられ、得られる絶縁電線の被膜形成性、耐熱性、可とう性などの電線特性が良好な点で高分子ポリオール類が好ましい。
【0038】
高分子ポリオール類としては、具体的には、ポリエステルポリオール、イミド変性ポリエステルポリオール、ポリウレタンポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、炭化水素系ポリオール、ポリ(メタ)アクリルポリオール、動植物ポリオール、これらのコポリオール等が挙げられる。これらは単独または2種以上を混合して使用することができる。
【0039】
これらのうち、得られる絶縁電線のはんだ付け性と耐熱性のバランスが良好な点でポリエステルポリオール、イミド変性ポリエステルポリオール、ポリウレタンポリオールが好ましく、特にポリエステルポリオールが好ましい。
【0040】
前記ポリエステルポリオールは、酸成分とアルコール成分とを酸成分に対しアルコール成分を過剰の条件下で反応して得られ、末端に水酸基を有するポリエステルポリオールである。
【0041】
前記酸成分としては、具体的には、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロオルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等のポリカルボン酸またはこれらのポリカルボン酸のメチルエステルやエチルエステルなどのエステル誘導体、酸無水物等を挙げることができる。
【0042】
前記アルコール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールおよびトリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、並びに、ビスフェノールAのエチレンオキサイド或いはプロピレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングルコール、ポリブタジエンポリオール、ポリイソブチレンポリオールなどが好ましい。
【0043】
このような酸成分およびアルコール成分は、それぞれ単独または2種以上混合して使用することができる。また、前記酸成分の酸基(カルボキシル基相当量)とアルコール成分との反応における、水酸基と酸基の当量比は、水酸基/酸基=1.1/1〜10/1が好ましく、更に1.8/1〜5/1が好ましい。
【0044】
イミド変性ポリエステルポリオールは、アルコール成分とイミド基含有ポリカルボン酸および/またはイミド基含有ポリカルボン酸誘導体(イミド基含有ポリカルボン酸のエステル化合物、酸無水物等)とを反応させて得られ、末端に水酸基を有するイミド変性ポリエステルポリオールである。使用することができるアルコール成分に特に制限はないが、得られる絶縁電線の耐熱性や生産効率の点から、前記ポリエステルポリオールの反応で使用可能なアルコール成分を好適に例示することができる。
【0045】
イミド基含有カルボン酸および/またはイミド基含有ポリカルボン酸誘導体としては、ジアミン成分と酸成分から得ることができ、例えば、ジアミン1モルに対して無水トリメリット酸2モルを反応させて得られるものなどが挙げられる。このジアミンとしては、具体的には、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホンが挙げられ、これらは単独または2種以上を混合して用いることができる。また、イミド基含有ポリカルボン酸および/またはイミド基含有ポリカルボン酸誘導体を得るために、前記ジアミン成分に代えてジイソシアネート成分を用いてもよい。
【0046】
これらジアミン成分と酸成分の反応によるイミド基含有ポリカルボン酸および/またはイミド基含有ポリカルボン酸誘導体の合成、およびアルコール成分とイミド基含有ポリカルボン酸および/またはイミド基含有ポリカルボン酸誘導体の反応は一括で行ってもよいし、それぞれの反応を分割して行ってもよい。
【0047】
ポリエステルポリオール、イミド変性ポリエステルポリオールの合成は、アルコール成分と酸成分と、またはジアミン成分とを100〜250℃の温度で副生成物などを系外へ除去しながら反応させることにより好適に行うことができる。また、必要に応じて、酢酸亜鉛、酢酸マンガン、TBT、TPT等の反応触媒を単独または2種以上混合して使用することができる。
【0048】
ポリウレタンポリオールとしては、芳香族ポリイソシアネート類のイソシアネート基と水酸基含有化合物の水酸基とを水酸基過剰の条件下で反応させて得られる、末端が水酸基ポリウレタンポリオールである。
【0049】
ポリウレタンポリオールを合成する際に用いることができる芳香族ポリイソシアネート類および水酸基含有化合物としては、上述した(a)イソシアネート基含有化合物に用いることのできる芳香族ポリイソシアネート類および水酸基含有化合物を好適に挙げることができる。
【0050】
また、ポリウレタンポリオールを合成する方法としては、上述した(a)イソシアネート基含有ポリウレタンを合成する方法と同様な温度条件で反応することができる。なお、ポリウレタンポリオールを合成する際の水酸基含有化合物の水酸基と芳香族ポリイソシアネート類のイソシアネート基の当量比は、水酸基/イソシアネート基=1.1/1〜10/1が好ましく、更に1.5/1〜5/1が好ましい。また、前記ポリウレタンポリオール中の水酸基(OH基)含有量は固形分100質量%換算で1〜30質量%が好ましく、更に5〜25質量%であることが好ましい。
【0051】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、前記ポリエステルポリオールの製造に用いられる低分子ポリオール類とホスゲンとの脱塩酸反応、或いは前記低分子ポリオール類とジエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート等とのエステル交換反応で得られるものが挙げられる。
【0052】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、前記ポリエステルポリオールの製造に用いられる低分子ポリオール類、低分子ポリアミン類、低分子アミノアルコール類を開始剤として、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフラン等を開環重合させたポリオキシエチレンポリオール、ポリオキシプロピレンポリオール、ポリテトラメチレンエーテルポリオール、これらを共重合したポリエーテルポリオール、更に、前記ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールを開始剤としたポリエステルエーテルポリオールが挙げられる。また、ポリエステルポリオールやポリイミドポリエステルポリオールの変性用として、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどのモノアルコール類を開始剤として、プロピレンオキサイドなどのエポキシドを開環重合させたポリオキシアルキレンモノオールなども使用できる。
【0053】
炭化水素系ポリオールとしては、例えば、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール等のポリオレフィンポリオール、水素添加ポリブタジエンポリオール、水素添加ポリイソプレンポリオール等のポリアルキレンポリオールなどが挙げられる。
【0054】
ポリ(メタ)アクリルポリオールとしては、例えば、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル等の水酸基を含有した(メタ)アクリル酸エステル系化合物の1種以上のモノマーと、これら以外のエチレン性不飽和化合物の1種以上とを、ラジカル重合開始剤や溶剤などの存在下又は不存在下にバッチ式重合又は連続重合等の公知のラジカル重合の方法により反応させて得られるものが挙げられる。
【0055】
動植物系ポリオールとしては、例えば、ヒマシ油系ポリオール、絹フィブロインなどが挙げられる。
【0056】
また、(a)イソシアネート基含有ポリウレタンと(b)ポリオール化合物との配合比は、(a)イソシアネート基含有ポリウレタンのイソシアネート基と(b)ポリオール化合物の水酸基の当量比を、イソシアネート基/水酸基=0.3/1〜2.0/1、更には0.5/1〜1.5/1、特に0.7/1〜1.3/1になるようにすることが好ましい。イソシアネート基/水酸基が0.3/1未満であると、焼付炉での反応の際に反応不足となり耐熱性が低下するおそれがあり、2.0/1を超えると、焼付炉の出口からイソシアネート基含有ポリウレタンの昇華・熱分解に起因した煙が生じやすくなる。
【0057】
(c)ポリアミド樹脂
本発明における(c)ポリアミド樹脂としては、特に制限されるものではないが、具体的には、ε−カプロラクタム、ラウリルラクタムなどの環状ラクタム類の開環重合、又はω−アミノカルボン酸の縮合、ジアミンと二塩基酸との共重合などによって得られるポリアミド樹脂があげられる。構成するラクタム類やジアミンと二塩基酸などの種類には制限はなく、芳香族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、脂肪族ポリアミドのいずれでも良い。
【0058】
芳香族ポリアミドとしては、p−フェニレンジアミンとテレフタル酸クロリドから得られるポリ−p−フェニレンテレフタルアミド(デュポン社:ケブラー)やポリ−m−フェニレンイソフタルアミド(デュポン社:ノーメックス)などが挙げられ、半芳香族ポリアミドとしては、ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸から得られるポリヘキサメチレンテレフタルアミド、ノナンメチレンジアミンとテレフタル酸から得られるポリノナンメチレンテレフタルアミドなどが挙げられ、脂肪族ポリアミドとしては、ε−カプロラクタムから得られるナイロン6、ウンデカンラクタムから得られるナイロン11、ラウリルラクタムから得られるナイロン12、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸から得られるナイロン6,6、ヘキサメチレンジアミンとセバシン酸から得られるナイロン6,10、ラウリルラクタムとε−カプロラクタム、デカンラクタムから得られるナイロン6,12やナイロン10,12などが挙げられる。
【0059】
これらのうち、得られる絶縁電線の可とう性、ヒートショック、はんだ付け性が良好なことから、脂肪族ポリアミドが好ましい。また脂肪族ポリアミドのうち、樹脂の結晶性が比較的低く、有機溶剤に対する溶解性が良好なことから、共重合脂肪族ポリアミドが好ましい。
特に、以下の一般式(I):
【化1】


(式中、aは4〜15の整数であり、bは2〜15の整数であり、cは4〜15の整数であり、mは0〜65(好ましくは10〜65)の整数であり、nは0〜40(好ましくは10〜40)の整数であり、pは15〜35の整数であり、qは5〜35の整数であり、但しm+n+p+q=100である)で表される構造単位を有する共重合脂肪族系ポリアミド樹脂が好適である。
【0060】
特に、ε−カプロラクタム(a=5)、4,4’−ジアミノ−ジシクロヘキシルメタン、アジピン酸(b=4)および1,6−ヘキサメチレンジアミン(c=6)を重合させた四元共重合体が好適である。なお、この四元共重合体は、一般式(I)における4つの構造単位が上記の割合で共重合されたものであれば、その構造(ランダム又はブロック)は特に限定されない。
【0061】
さらに、ポリアミド樹脂は、10,000〜60,000の数平均分子量を有するのが好ましく、20,000〜40,000が特に好ましい。ポリアミド樹脂の数平均分子量が10,000未満の場合、得られるポリウレタン系絶縁電線の外観やヒートショックの改善効果が小さい。また、ポリアミド樹脂の数平均分子量が60,000を超える場合、ポリアミド樹脂溶液の粘度が高すぎて塗布・焼付作業性が悪化する。
【0062】
ポリアミド樹脂についての「数平均分子量」は、以下のようにして測定した値を意味する。
【0063】
<ポリアミド樹脂の数平均分子量測定条件>
GPC装置(商品名:HLC−8220GPC、東ソー株式会社製)を用い、温度40℃において、試料の0.25重量%のヘキサフルオロイソプロパノール溶液を試料溶液とし、試料溶液の注入量を100mLとして、分子量分布曲線を求める。得られた分子量分布曲線のピークの頂点の分子量をピークトップ分子量として求める。また得られた分子量分布曲線から、数平均分子量を求める。なお、分子量校正曲線は標準ポリスチレンを用いて作成する。
【0064】
上記一般式(I)で表されるポリアミド樹脂は、例えば、例えば、三羽忠広著、「基礎合成樹脂の化学(新版)」、技報堂出版株式会社、1975年11月、p.305−326などに記載されている一般的なポリアミドの合成法により得ることができる。
【0065】
ポリアミド樹脂の製造方法は特に制限はなく、通常のポリアミドの重縮合方法、溶融重合法、溶液重合法、界面重合法などが適宜適用できる。また、重合に際して、酢酸や安息香酸などの一塩基酸、あるいはヘキシルアミン、アニリンなどの一酸塩基を分子調節剤として用いてもよい。その共重合比率については特に限定されないが、ジアミン成分は5〜40mol%が好ましく、5〜30mol%が特に好ましい。
【0066】
一般式(I)で表されるポリアミド樹脂として、市販のものを用いることもできる。市販のポリアミド樹脂としては、例えば、BASF社製の商品名:ウルトラミッド1Cなどが挙げられる。
【0067】
(c)ポリアミド樹脂の含有量としては、十分な効果を奏するために、(a)イソシアネート基含有ポリウレタンと(b)ポリオール化合物の樹脂分の総量100質量部に対して、0.1〜10質量部、特に0.5〜5質量部の範囲が好ましい。ポリアミド樹脂の含有量が10質量部を超えると、得られるポリウレタン系絶縁電線のはんだ付け性や耐熱性が低下する。
【0068】
その他の成分
本発明のポリウレタン系電気絶縁塗料には、必要に応じて、有機溶剤、硬化促進触媒、硬化抑制触媒、潤滑性付与剤、着色剤など、通常公知の添加剤を添加することができる。
【0069】
有機溶剤としては、イソシアネート基と反応しない公知の有機溶剤を挙げることができる。具体的には、その化合物中に活性水素を有していない有機溶剤が好ましい。活性水素があると、本発明における(a)イソシアネート基含有ポリウレタンと反応してしまい、増粘あるいは(a)イソシアネート基含有ポリウレタンが常温で固化してしまうなどの悪影響がある。
【0070】
活性水素を有していない有機溶剤としては、具体的には、n−ヘキサン、2−メチルペンタン、n−ヘプタン、n−オクタン、2,2,3−トリメチルペンタン、2,2,4−トリメチルペンタン、n−ノナン、2,2,5−トリメチルヘキサン、n−デカン、n−ドデカンなどの脂肪族炭化水素系溶剤:シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素系溶剤:キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、ブチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ペンチルベンゼン、ジペンチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、ナフタレン、テトラリン、ビフェニルなどの芳香族炭化水素系溶剤:酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸ブチル、ステアリン酸ブチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸ブチル、γ−ブチロラクトン、マロン酸ジエチルなどのエステル系溶剤;N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶剤;メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、イソホロン、アセトフェノンなどのケトン系溶剤:2−メトキシエチルアセタート、2−エトキシエチルアセタート、メトキシプロピルアセテート、メトキシブチルアセテートなどのアセテート系溶剤:などが挙げられる。また、ジメチルスルホキシド、石油ナフサ、コールタールナフサ、ソルベントナフサなどやこれらの混合物も挙げられる。これらの活性水素を有していない有機溶剤は単独または2種以上を混合して使用することができる。なお、有機溶剤の沸点としては、塗布・焼付け作業性を向上させると共に絶縁電線に含まれる残留溶媒を低減させる観点から、60℃〜300℃、さらに80℃〜250℃、特に100℃〜250℃の範囲が好ましい。また、有機溶剤の含有量としては、絶縁電線に含まれる残留溶媒を低減し、かつ、塗布・焼付け回数を低減させる観点から、(a)イソシアネート基含有ポリウレタンおよび(b)ポリオール化合物の総量60質量部に対して、40質量部以下が好ましい。
【0071】
硬化促進触媒としては、有機金属化合物、アミン類などが挙げられる。具体的には、オクチル酸錫、オクテン酸錫、ナフテン酸錫等の2価の有機錫化合物、ジブチル錫ジオクトエート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジマレエート、ジブチル錫ジステアレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジバーサテート、ジブチル錫オキサイド、ジブチル錫ビス(トリエトキシシリケート)、ジブチル錫オキサイドとフタル酸エステルとの反応物等の4価の有機錫化合物、ジブチル錫ビス(アセチルアセトナート)、錫系キレート化合物の旭硝子社製EXCESTARC−501、ジルコニウムテトラキス(アセチルアセトナート)、チタンテトラキス(アセチルアセトナート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトナート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アセチルアセトンコバルト、アセチルアセトン鉄、アセチルアセトン銅、アセチルアセトンマグネシウム、アセチルアセトンビスマス、アセチルアセトンニッケル、アセチルアセトン亜鉛、アセチルアセトンマンガン等の各種金属のキレート化合物、オクチル酸鉛等の有機酸鉛塩、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラプロピルチタネート等のチタン酸エステル類、オクチル酸ビスマス、ビスマスバーサテイト等の有機ビスマス化合物、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリエチレンジアミン、ヘキサメチレンテトラミン、1,8−ジアザビシクロ〔5,4,0〕ウンデセン−7(DBU)、1,4−ジアザビシクロ〔2,2,2〕オクタン(DABCO)、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等の第3級アミン類、或いはこれらのアミン類とカルボン酸等の塩類が挙げられる。なお、これらの硬化促進触媒は、(a)イソシアネート基含有ポリウレタンと(b)ポリオール化合物の混合後の粘度を上昇させ、電気絶縁塗料の塗布・焼付作業性を悪化させる場合があるため、その使用は混合後の粘度上昇を勘案しながら適宜選択することが好ましい。
【0072】
硬化抑制触媒としては、リン酸エステル類、亜リン酸エステル類、蟻酸、酢酸、プロピオン酸などの有機酸、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトンなどの活性メチレン化合物、塩酸、硫酸などの無機酸が挙げられる。これらは単独または2種以上を混合して使用することができる。これらのうち、(a)イソシアネート基含有ポリウレタンと(b)ポリオール化合物との反応抑制効果が高い点でリン酸エステル類、亜リン酸エステル類が好ましい。
【0073】
リン酸エステル類としては、具体的には、メチルアシッドホスフェート、ジメチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、ジエチルアシッドホスフェート、プロピルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ジプロピルアシッドホスフェート、モノブチルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、ビス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、イソデシルアシッドホスフェート、モノイソデシルホスフェート、ブチルピロホスフェート、ブトキシエチルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、テトラコシルアシッドホスフェート、エチレングリコールアシッドホスフェート、(2−ヒドロキシエチル)メタクリレートアシッドホスフェート等が挙げられる。これらの中で、常温における(a)イソシアネート基含有ポリウレタンと(b)ポリオール化合物との反応抑制効果が高く、それらの混合後の粘度上昇を抑制させる一方で、高温焼付時における反応抑制効果が小さく、絶縁皮膜の形成を阻害しづらいジエチルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、2−エチルヘキシルアシッドホスフェートが更に好ましい。
【0074】
亜リン酸エステル類としては、具体的には、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリエチルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリペンチルホスファイト、トリヘキシルホスファイト、トリヘプチルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリノニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、ジフェニルモノ(2−エチルヘキシル)ホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、トリオレイルホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト、テトラ(トリデシル)−4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、トリドデシルトリチオホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトなどが挙げられる。
【0075】
潤滑性付与剤としては、具体的には、キャンデリラワックス、カルナバワックス、ライスワックス、木ろう、蜜蝋、ラノリンなどの天然ワックスなどが挙げられる。
【0076】
着色剤としては、具体的には、銅フタロシアニン系染料、クロム錯体系染料、アゾ染料などが挙げられる。
【0077】
本発明の反応型ポリウレタン系電気絶縁塗料は、上記の(a)〜(c)の各成分を含有するが、フェノール系溶剤を含有しない。
【0078】
なお、主なフェノール系溶剤としては、フェノール、クレゾール、キシレノール酸等、人体に悪影響を及ぼすおそれのある化合物である。
【0079】
本発明において、反応型ポリウレタン系電気絶縁塗料の有機溶剤による樹脂濃度(不揮発分)の調整は、(a)イソシアネート基含有ポリウレタンと(b)ポリオール化合物と(c)ポリアミド樹脂とがそれぞれ同一の樹脂濃度になるように予め調整してもよいし、また、一方を高濃度で調整し、他方を低濃度で調整して、それぞれを混合したとき所望の樹脂濃度となるようにしてもよい。また、これらのいずれか、あるいはこれらのすべてを高濃度で調整しておいて、混合の際に有機溶剤を加えて所望の樹脂濃度となるようにしてもよい。どの方法を採用するかは調整のし易さや貯蔵のし易さなどを勘案して適宜選択すればよい。
【0080】
本発明における有機溶剤の使用量は、環境汚染の防止、得られる絶縁電線の電気絶縁層中の残留溶剤を低減させる点、塗布・焼付け回数を低減させる点で、(a)イソシアネート基含有ポリウレタンと(b)ポリオール化合物と(c)ポリアミド樹脂とを混合したときの樹脂濃度がポリウレタン系電気絶縁塗料中の60質量%以上となるように使用するのが好ましい。
【0081】
本発明における(a)イソシアネート基含有ポリウレタンと(b)ポリオール化合物と(c)ポリアミド樹脂との混合方法は、特に制限はなく、従来公知の混合方法を用いることができる。具体的には攪拌羽付きの攪拌モーターなどの混合ミキサー、スタティックミキサーなどを挙げることができる。
【0082】
[ポリウレタン系絶縁電線およびその製造方法]
本発明のポリウレタン系絶縁電線は、上記反応型ポリウレタン系電気絶縁塗料を、導体上に、直接又は他の絶縁層を介して塗布、焼付け(硬化)することにより(電気)絶縁層を形成してなる。
【0083】
導体としては、具体的には、銅、ニッケルメッキ銅、銅クラッドアルミニウム、アルミニウム、金、金メッキ等の一般に電線の導体として使用されるものを挙げることができる。また、他の絶縁層としては、具体的には、ポリビニルホルマール系絶縁層、ポリウレタン系絶縁層、ポリエステル系絶縁層、ポリエステルイミド系絶縁層、ポリヒダントイン系絶縁層、ポリアミドイミド系絶縁層、ポリイミド系絶縁層などが挙げられる。
【0084】
なお、本発明の反応型ポリウレタン系電気絶縁塗料による皮膜の厚さ、あるいはこれ以外の皮膜との合計の厚さは、使用する銅線などの導体の太さや要求性能により適宜選択すればよい。所望の皮膜厚さが、1回の塗布及び焼付けで形成されない場合には、必要回数繰り返して塗布及び焼付けを行えばよい。塗料の混合・塗布方法としては、(a)イソシアネート基含有ポリウレタンと(b)ポリオール化合物と(c)ポリアミド樹脂を公知の混合方式で混合した後、または混合しながら導体上に直接又は他の絶縁層を介してフェルト絞り方式やダイス絞り方式などによって、所定量を塗布すればよい。
焼付け時の温度としては、特に制限されるものではないが、硬化反応を十分にすると共に、残留溶媒を低減する観点から、180℃〜600℃、特に200℃〜550℃の範囲が好ましい。
【0085】
本発明の反応型ポリウレタン系電気絶縁塗料を用いることにより、1回の塗布・焼付け作業あたり、被覆厚さ5〜15μm、さらには6〜14μm、特に7〜12μmの範囲の硬化膜を、外観不良および電線特性の低下を抑制しつつ形成することができる。
【0086】
また、本発明の反応型ポリウレタン系電気絶縁塗料を塗布、焼付して形成されたポリウレタン系絶縁電線には、更に他の絶縁層および/または融着層を設けることができる。他の絶縁層としては、具体的には、ポリビニルホルマール系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリエステルイミド系、ポリヒダントイン系、ポリアミドイミド系、ポリイミド系等が挙げられ、融着層としては、フェノキシ樹脂、ブチラール樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。
【実施例】
【0087】
以下、本発明実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0088】
測定条件
(1)不揮発分(固形分)
JIS C2531:2006「エナメル線用ワニス」 8.3不揮発分による。
但し、(a)イソシアネート基含有ポリウレタンは乾燥温度150℃、(b)ポリオール化合物および(c)アミド基含有化合物は乾燥温度170℃とした。
(2)イソシアネート基(NCO基)含有量
JIS K1603−1:2007「プラスチック−ポリウレタン原料芳香族イソシアネート試験方法−第1部:イソシアネート基含有率の求め方」 12.B法(トルエン/TCB/ジブチルアミン・塩酸(メタノール溶媒)法)による。
(3)酸価及び水酸基価
JIS K1557−12007「プラスッチック−ポリウレタン原料ポリオール試験方法−第1部:水酸基の求め方」 8.A法(アセチル化法)による。
(4)粘度
JIS C2531:2006「エナメル線用ワニス」 8.2粘度による。
【0089】
合成例1:イソシアネート基含有ポリウレタンの製造1
攪拌機、温度計、窒素シール管及び加温装置付きの反応容器内に、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートのカルボジイミド変性体であるコロネートMX(日本ポリウレタン工業社製)を656g、トリメチロールプロパン(広栄化学工業社製)を25g、ネオペンチルグリコール(三菱ガス化学社製)を69gそれぞれ仕込み、窒素気流下で加熱し、80℃で2時間反応し、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを合成した。次いで、この反応容器内に、メチル1 ,3−ブチレングリコールアセテート(ダイセル化学工業社製)を125g、メチルイソブチルケトン(協和発酵工業社製)を125g加えてイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを溶解、希釈し、NCO基含有量11質量%、粘度4,500mPa・s/30℃、不揮発分75質量%のイソシアネート基含有ウレタンプレポリマー溶液(a1)を得た。
【0090】
合成例2:イソシアネート基含有ポリウレタンの製造2
攪拌機、温度計、窒素シール管及び加温装置付きの反応容器内に、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業社製)を298g、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートのカルボジイミド変性体であるコロネートMX(日本ポリウレタン工業社製)を346g、トリメチロールプロパン(広栄化学工業社製)を25g、ネオペンチルグリコール(三菱ガス化学社製)を81gそれぞれ仕込み、窒素気流下で加熱し、80℃で2時間反応し、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを合成した。次いで、この反応容器内に、メチル1 ,3−ブチレングリコールアセテート(ダイセル化学工業社製)を125g、メチルイソブチルケトン(協和発酵工業社製)を125g加えてイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを溶解、希釈し、NCO基含有量11質量%、粘度3,500mPa・s/30℃、不揮発分75質量%のイソシアネート基含有ウレタンプレポリマー溶液(a2)を得た。
【0091】
合成例3:ポリエステルポリオールの製造
攪拌機、温度計、窒素シール管及びコンデンサー、加温装置付きの反応容器内に、無水フタル酸(三菱ガス化学社製)を364g、トリメチロールプロパン(広栄化学工業社製)を329g、1,6−ヘキサンジオール(宇部興産社製)を145g仕込み、触媒を使用しないで窒素気流下で加熱し130℃で原料の溶解を確認後、副生成物である水を系外に除去しながら200℃まで5時間かけて昇温し、そのまま200℃で反応を続けた。内容物の酸価が5KOHmg/g以下となったのを確認した後、減圧を行い、反応を終結させた。次いで反応容器内に、メチル1,3−ブチレングリコールアセテート(ダイセル化学工業社製)を125g、メチルイソブチルケトン(協和発酵工業社製)を125g加えて溶解させ、水酸基価366(mgKOH/g)、粘度3,300(mPa・s/30℃)、不揮発分75質量%のポリエステルポリオール溶液を得た。
【0092】
実施例1
攪拌機、温度計、窒素シール管及び加温装置付きの反応容器内に、共重合の脂肪族ポリアミドであるウルトラミッド1C(BASF社製)を50g、ジメチルスルホキシド(三協化学社製)を450g仕込み、窒素気流下で加熱し、100℃で1時間掛けて共重合ポリアミドを溶解させ、10質量%の共重合ポリアミド溶液を得た。
【0093】
次にステンレス製の2Lビーカーに合成例1で得たイソシアネート基含有ウレタンプレポリマー溶液(a1)を500g、合成例3で得たポリエステルポリオール溶液を500g、共重合ポリアミド溶液を112gそれぞれ仕込み、攪拌機で十分に混合するまで攪拌した後、混合溶液をワニスバスに注入した。なお、混合溶液中のイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのイソシアネート基とポリエステルポリオールの水酸基の比は1.0である。
【0094】
注入した混合溶液を0.40mmφの銅線上に、下記に示す条件で3パスで塗布、焼付けして、皮膜厚20μのポリウレタン系絶縁電線を製造した。
塗布、焼付条件:
(1)塗布回数(ダイス配列)
3パス:0.43mmφ×1、0.45mmφ×1、0.46mmφ×1
(2)焼付炉:横型電熱炉(炉長2.7m)
(3)炉温:330℃(入口) − 380℃(出口)
(4)線速:19m/min
【0095】
実施例2
実施例1において、塗布回数を2パス(ダイス配列:0.44mmφ×1、0.48mmφ×1)にした以外は同様にして、皮膜厚20μのポリウレタン系絶縁電線を製造した。
【0096】
実施例3
攪拌機、温度計、窒素シール管及び加温装置付きの反応容器内に、共重合ポリアミドであるウルトラミッド1C(BASF社製)を50g、ジメチルスルホキシド(三協化学社製)を450g仕込み、窒素気流下で加熱し、100℃で1時間掛けて共重合ポリアミドを溶解させ、10質量%の共重合ポリアミド溶液を得た。
【0097】
次にステンレス製の2Lビーカーに合成例2で得たイソシアネート基含有ウレタンプレポリマー溶液(a2)を500g、合成例3で得たポリエステルポリオール溶液を500g、共重合ポリアミド溶液を112gそれぞれ仕込み、攪拌機で十分に混合するまで攪拌した後、混合溶液をワニスバスに注入した。なお、混合溶液中のイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのイソシアネート基とポリエステルポリオールの水酸基の比は1.0である。
【0098】
注入した混合溶液を0.40mmφの銅線上に、下記に示す条件で3パスで塗布、焼付けして、皮膜厚20μのポリウレタン系絶縁電線を製造した。
塗布、焼付条件:
(1)塗布回数(ダイス配列)
3パス:0.43mmφ×1、0.45mmφ×1、0.46mmφ×1
(2)焼付炉:横型電熱炉(炉長2.7m)
(3)炉温:330℃(入口) − 380℃(出口)
(4)線速:19m/min
【0099】
実施例4
実施例3において、塗布回数を2パス(ダイス配列:0.44mmφ×1、0.48mmφ×1)にした以外は同様にして、皮膜厚20μのポリウレタン系絶縁電線を製造した。
【0100】
比較例1
ステンレス製の2Lビーカーに合成例1で得たイソシアネート基含有ウレタンプレポリマー溶液(a1)を500g、合成例3で得たポリエステルポリオール溶液を500gそれぞれ仕込み、攪拌機で十分に混合するまで攪拌した後、混合溶液をワニスバスに注入した。なお、混合溶液中のイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのイソシアネート基とポリエステルポリオールの水酸基の比は1.0である。
【0101】
注入した混合溶液を塗布回数3パス(ダイス配列:0.43mmφ×1、0.45mmφ×1、0.45mmφ×1)で焼付けした以外は実施例1と同様にして、皮膜厚20μのポリウレタン系絶縁電線を製造した。
【0102】
比較例2
攪拌機、温度計、窒素シール管及び加温装置付きの反応容器内に、フェノキシ樹脂であるYP−50(新日鐵化学社製)を50g、シクロヘキサノン(三協化学社製)を315g、キシレンを135gそれぞれ仕込み、窒素気流下で加熱し、100℃で1時間掛けてフェノキシ樹脂を溶解させ、10質量%のフェノキシ樹脂溶液を得た。
【0103】
次にステンレス製の2Lビーカーに合成例1で得たイソシアネート基含有ウレタンプレポリマー溶液(a1)を500g、合成例3で得たポリエステルポリオール溶液を500g、フェノキシ樹脂溶液を112gそれぞれ仕込み、攪拌機で十分に混合するまで攪拌した後、混合溶液をワニスバスに注入した。なお、混合溶液中のイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのイソシアネート基とポリエステルポリオールの水酸基の比は1.0である。
注入した混合溶液を実施例1と同様の条件で塗布、焼付けして、皮膜厚20μのポリウレタン系絶縁電線を製造した。
【0104】
比較例3
攪拌機、温度計、窒素シール管及び加温装置付きの反応容器内に、ブチラール樹脂であるエスレックB(積水化学工業社製)を50g、シクロヘキサノンを315g、キシレンを135gそれぞれ仕込み、窒素気流下で加熱し、100℃で1時間掛けてブチラール樹脂を溶解させ、10質量%のブチラール樹脂溶液を得た。
【0105】
次にステンレス製の2Lビーカーに合成例1で得たイソシアネート基含有ウレタンプレポリマー溶液(a1)を500g、合成例3で得たポリエステルポリオール溶液を500g、ブチラール樹脂溶液を112gそれぞれ仕込み、攪拌機で十分に混合するまで攪拌した後、混合溶液をワニスバスに注入した。なお、混合溶液中のイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのイソシアネート基とポリエステルポリオールの水酸基の比は1.0である。
【0106】
注入した混合溶液を実施例1と同様の条件で塗布、焼付けして、皮膜厚20μのポリウレタン系絶縁電線を製造した。
【0107】
比較例4
攪拌機、温度計、窒素シール管及び加温装置付きの反応容器内に、ジアリルフタレート樹脂であるダイソーダップ;タイプA(ダイソー社製)を50g、シクロヘキサノンを315g、キシレンを135gそれぞれ仕込み、窒素気流下で加熱し、100℃で1時間掛けてジアリルフタレート樹脂を溶解させ、10質量%のジアリルフタレート樹脂溶液を得た。
【0108】
次にステンレス製の2Lビーカーに合成例1で得たイソシアネート基含有ウレタンプレポリマー溶液(a1)を500g、合成例3で得たポリエステルポリオール溶液を500g、ジアリルフタレート樹脂溶液を112gそれぞれ仕込み、攪拌機で十分に混合するまで攪拌した後、混合溶液をワニスバスに注入した。なお、混合溶液中のイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのイソシアネート基とポリエステルポリオールの水酸基の比は1.0である。
【0109】
注入した混合溶液を実施例1と同様の条件で塗布、焼付けして、皮膜厚20μのポリウレタン系絶縁電線を製造した。
【0110】
比較例5
一液型ポリウレタン系電気絶縁塗料であるAPU−2842Sを1000g調整した後ワニスバスに注入し、塗布回数を3パス(ダイス配列:0.45mmφ×1、0.47mmφ×1、0.49mmφ×1)とした以外は実施例1と同様の条件で塗布、焼付けして、皮膜厚20μのポリウレタン系絶縁電線を製造した。
【0111】
性能試験
実施例1〜4及び比較例1〜5で製造したポリウレタン系絶縁電線を用いて、電線外観評価、耐軟化性試験、絶縁破壊電圧試験、はんだ付け性、可とう性、ヒートショックの各電線特性試験及び絶縁皮膜中の残留溶剤測定を行った。
(1)電線外観評価
JIS C2351:2006「エナメル線用ワニス」8.6電線外観による。
焼付け1 時間後の電線の外観を目視によって評価し、表面が滑らかで一様な光沢と色を持っているものを○と評価し、そうでないものを×と評価した。
(2)耐軟化性試験
JIS C3003:1999「エナメル線試験方法」11.2B法、b)交差法による。おもりの質量は1種で試験した。
(3)絶縁破壊電圧試験
JIS C3003:1999「エナメル線試験方法」10.2B法、b)2個より法による。
(4)はんだ付け性
JIS C3003:1999「エナメル線試験方法」14.2B法による。
(5)可とう性
試験線を引張試験機で20%伸長した後で、JIS C3003:1999「エナメル線試験方法」7.2B法に準拠し可とう性試験を行った。10倍の拡大鏡を用いて皮膜に導体が見えるき裂が生じていない場合を○と評価し、皮膜に導体が見えるき裂が生じている場合を×と評価した。
(6)ヒートショック
試験線を引張試験機で20%伸長した後で、JIS C3003:1999「エナメル線試験方法」7.2B法に準拠し巻付け電線を得た。この巻付け電線を200℃のオーブンの中に1時間置いた後、巻付け電線をオーブンの中から取出し、室温に30分放置した。その後、10倍の拡大鏡を用いて皮膜に導体が見えるき裂が生じていない場合を○と評価し、皮膜に導体が見えるき裂が生じている場合を×と評価した。
(7)電気絶縁皮膜中の残留溶剤濃度の測定
得られたポリウレタン系電気絶縁電線を5g量り取り、密閉できる容器(今回使用したのはアルミキャップ付き25cm3バイヤルビン)に入れた。この容器を150℃で60分間加熱した。
【0112】
加熱により電気絶縁皮膜から発生した残留溶剤を島津製作所製GC−14Bによるガスクロマトグラフィー法(測定条件は、島津製作所製HR−1701カラム、キャリヤーガスヘリウム、流量40ml/min、検出器FID、インジェクション180℃、スタート温度45℃、昇温速度5℃/min、最終温度160℃)で測定した。得られた測定結果から下記式により、電気絶縁皮膜中の残留溶剤濃度を求めた。
【0113】
残留溶剤量(ppm)=GCによる測定(μg)/皮膜質量(g)
皮膜質量=電線質量(g)×(皮膜付着率/100)
皮膜付着率(%)=1.3π(D22−D12)/〔8.89πD12+1.3π(D22−D12)〕×100
D1:導体径
D2:電線外径
【0114】
【表1】

【0115】
実施例1〜4の結果から、本発明の反応型ポリウレタン系電気絶縁塗料を用いて塗布・焼付けを行えば、ダイスによる塗布回数を2パス、3パスと減らし焼付けしても得られる絶縁電線の外観は良好であることが分かる。また、得られる絶縁電線の絶縁被膜中にはフェノール系溶剤が残留しないばかりか、それ以外の有機溶剤の残留溶剤量は、一液型ポリウレタン系電気絶縁塗料(比較例5)と比べ極めて低いことが分かる。更に、本発明の絶縁電線は、塗布・焼付け回数を減らしても、電線特性の低下が見られず、耐軟化性、はんだ付け性、可とう性といった電線特性が良好で、200℃−1時間の熱処理後のヒートショックも改善された。ポリアミド樹脂により、得られる絶縁皮膜に柔軟性が付与されヒートショックが改善できたと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の反応型ポリウレタン系電気絶縁塗料は、上述の通り、良好な外観および電線特性を維持しつつ、塗布・焼付け回数を低減して、絶縁電線の生産効率を上げることを可能にする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)イソシアネート基含有ポリウレタンと、
(b)ポリオール化合物と、
(c)ポリアミド樹脂とを含有し、かつ、フェノール系溶剤を含有しないことを特徴とする反応型ポリウレタン系電気絶縁塗料。
【請求項2】
(a)イソシアネート基含有ポリウレタンが、芳香族ポリイソシアネート類と水酸基含有化合物とを水酸基に対してイソシアネート基過剰の条件下で反応させて得られるイソシアネート基含有ポリウレタンである、請求項1に記載の反応型ポリウレタン系電気絶縁塗料。
【請求項3】
(b)ポリオール化合物が、ポリエステルポリオールである、請求項1又は2いずれかに記載の反応型ポリウレタン系電気絶縁塗料。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の反応型ポリウレタン系電気絶縁塗料を、導体上に、直接又は他の絶縁層を介して塗布、焼付けすることにより電気絶縁層を形成してなる、ポリウレタン系絶縁電線。
【請求項5】
(a)イソシアネート基含有ポリウレタンと、(b)ポリオール化合物と、(c)ポリアミド樹脂と、を含有し、かつ、フェノール系溶剤を含有しない反応型ポリウレタン系電気絶縁塗料を調製し、
前記ポリウレタン系電気絶縁塗料を、導体又は予め絶縁層で被覆された導体上に塗布し、焼付けすることにより、前記ポリウレタン系電気絶縁塗料による電気絶縁層を形成することを特徴とする、ポリウレタン系絶縁電線の製造方法。
【請求項6】
(a)イソシアネート基含有ポリウレタンが、芳香族ポリイソシアネート類と水酸基含有化合物とを水酸基に対してイソシアネート基過剰の条件下で反応させて得られるイソシアネート基含有ポリウレタンである、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
ポリオール化合物が、ポリエステルポリオールである、請求項5又は6に記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−144679(P2012−144679A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6132(P2011−6132)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000103541)オート化学工業株式会社 (83)
【Fターム(参考)】