説明

反芻動物用のメタン生成抑制剤および飼料組成物

【課題】反芻動物のルーメンにおけるメタン発生を抑制する物質を産生する乳酸菌を探索し、それら乳酸菌が安定してメタン生成抑制物質を生産する培養方法を提供すること。
【解決手段】プロテアーゼ耐性バクテリオシン産生乳酸菌の培養を培養後期において、培養液中の溶存酸素濃度を0.35ppm以上で行うことを特徴とする反芻動物用メタン生成抑制剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反芻動物用のメタン生成抑制剤および飼料組成物に関し、さらに詳しくは乳酸菌を用いた発酵法で反芻動物用メタン生成抑制剤を製造する方法並びにこれを使用した反芻動物用飼料組成物及びこれを使用して反芻動物の飼料効率を向上させて発育の改善を図る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
反芻動物のルーメンからのメタン発生は、飼料のエネルギー利用効率の損失となるのみでなく、メタンは地球温暖化現象に寄与する強力な温室効果ガスであり、反芻動物のルーメンにおけるメタン生成を減らすことは極めて重要である。
【0003】
ルーメン内では多種多様の微生物による発酵が行われており、種々の代謝産物が生成される。メタンもその1つでメタン生成細菌により生成すると考えられている。ルーメン内メタン生成細菌は水素資化菌で、水素を利用して二酸化炭素を還元し、メタンを生成する。従って、これより強力な還元反応が存在すれば、メタン生成は阻害される。(特許文献1)
【0004】
ルーメン内のメタン発生を抑制する方法としては、反芻動物にモネンシンやアイベリンといったイオノフォアを給与する方法が知られている。一方、ルーメンでの還元能の調節に着目した方法として、システインを給与する方法(特許文献3)、フマル酸を給与する方法特許文献2および3)などが知られている。また、硝酸塩を添加することも効果があると報告されているが、ルーメン内に毒性のある亜硝酸が蓄積するため、反芻動物の亜硝酸中毒を引き起こすことも知られている。
【0005】
微生物の産出する抗菌物質バクテリオシンについても検討が実施されている。乳酸菌の産出するナイシンを単独で用いる報告もあるが(特許文献4)、ナイシンはルーメン中で容易に分解されるため持続効果がなく、またナイシン耐性菌も出現すると報告されている(非特許文献1)。また、ソルビン酸とバクテリオシンの調製物を併用することで飼料効率を改善する方法もあるが(特許文献5)、反芻動物の飼料として添加した場合のメタン発生抑制については明らかにされていない。
【0006】
さらに、乳酸菌由来のプロテアーゼ耐性バクテリオシン(以下、プロテアーゼ耐性バクテリオシンをPRBと略記することがある)を有効成分とする反芻動物用メタン生成抑制剤も近年提案されているが(特許文献6)、ここには、種々の乳酸菌培養液中にそのようなPRBの産生されていることが開示されてはいるが、乳酸菌の培養は常法によるもので(同文献[0022])、PRBの産生に有利な培養条件の開示はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第WO96/39860号パンフレット
【特許文献2】特開2003−88301号公報
【特許文献3】特開平7−322828号公報
【特許文献4】国際公開第WO99/41978号パンフレット
【特許文献5】特開2002−262780号公報
【特許文献6】特開2006−166853号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】James B.Russelletal,Current Microbiology,Vol.35,p.90−96,(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、反芻動物のルーメン内メタン発生を抑制して飼料効率を向上させ、延いては反芻動物の発育を改善させるPRBを産生する乳酸菌について、それら乳酸菌が安定してPRBを産生する培養条件を見出し、延いてはメタン生成抑制剤を多量に生産することのできる、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、反芻動物のルーメン内メタン発生を抑制するメタン生成抑制物質を産生する乳酸菌群を探索した。その結果、特定の培養条件下においてメタン生成抑制物質のPRBを多量に産生する乳酸菌群を見出した。
【0011】
また、一般に、乳酸菌は通性嫌気性菌であるため、通常は準嫌気的な条件で培養を行うが、上記本発明に係わる乳酸菌群がメタン生成抑制物質を産生せしめてメタン生成抑制剤を製造するには培地中に一定濃度以上の溶存酸素の存在が必要であることを見出した。
【0012】
すなわち、培養の全過程を通して、特に培養後期において酸素の供給を行い、酸素の供給を行った結果、培養液の溶存酸素濃度が0.35ppm以上になるような条件下で培養することにより上記乳酸菌群はメタン生成抑制物質のPRBを産生するのである。
【0013】
そして、本発明は以下の様態を包含する。
(1)プロテアーゼ耐性バクテリオシン産生乳酸菌を用いる反芻動物用メタン生成抑制剤の製造において、プロテアーゼ耐性バクテリオシン産生乳酸菌の培養を培養後期において、培養液中の溶存酸素濃度を0.35ppm以上で行うことを特徴とする反芻動物用メタン生成抑制剤の製造方法。
(2)該乳酸菌が、ラクトバシラス(Lactobacillus)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ワイセラ(Weissella)属及びペディオコッカス(Pediococcus)属からなる群から選ばれる1種又は2種以上の乳酸菌であることを特徴とする上記(1)に記載のメタン生成抑制剤の製造方法。
(3)該ラクトバシラス属乳酸菌が、ラクトバシラス・プランタラム(L.plantarum)、ラクトバシラス・デルブリッキー(L.delbrueckii)及び/又はラクトバシラス・カゼイ(L.casei)であることを特徴とする上記(2)に記載のメタン生成抑制剤の製造方法。
(4)該ラクトコッカス属乳酸菌が、ラクトコッカス・ラクティス(L.lactis)であることを特徴とする上記(2)に記載のメタン生成抑制剤の製造方法。
(5)該ロイコノストック属乳酸菌が、ロイコノストック・メセンテロイデス(L.mesenteroides)、ロイコノストック・ラクティス(L,lactis)及び/又はロイコノストック・シトレウム(L.citreum)であることを特徴とする上記(2)に記載のメタン生成抑制剤の製造方法。
(6)該ワイセラ属乳酸菌が、ワイセラ・シバリア(W.cibaria)、ワイセラ・コンフューサ(W.confusa)及び/又はワイセラ・ヘレニカ(W.hellenica)であることを特徴とする上記(2)に記載のメタン生成抑制剤の製造方法。
(7)該ペディオコッカス属乳酸菌が特にペディオコッカス・ペントサセウス(P.pentosaceus)、ペディオコッカス・アシディラクティス(P.acidilactici)及び/又はペディオコッカス・ハロフィラス(P.halophilus)であることを特徴とする上記(2)に記載のメタン生成抑制剤の製造方法。
(8)有効成分として、上記(1)〜(7)のいずれかに記載のメタン生成抑制剤の製造法において得られる当該乳酸菌培養液及び/又は乳酸菌培養上清を含有することを特徴とするメタン生成抑制剤。
(9)上記(8)に記載のメタン生成抑制剤を含有することを特徴とする反芻動物用飼料組成物。
(10)上記(8)に記載のメタン生成抑制剤及び/又は上記(9)に記載の飼料組成物を反芻動物に投与することを特徴とする反芻動物の発育を改善する方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のメタン生成抑制剤の投与により、反芻動物のルーメンにおけるメタン生成は有意に抑制され、飼料のエネルギー効率が向上し、延いては反芻動物の発育が改善される。また、温室効果ガスであるメタン生成を減らすことによって地球温暖化現象などの環境問題へも貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1は、酸素濃度決定実験における培養時のpHの推移を示す説明図である。
図2は、酸素濃度決定実験における培養時のpLの推移を示す説明図である。
図3は、空気を通過した培養基のpLの推移を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明のメタン生成抑制剤は、有効成分として、特定条件下で、すなわち、特に培養後期において、培養液の溶存酸素濃度が0.35ppm以上になるような条件下でPRB産生乳酸菌を培養して得た乳酸菌培養液及び/又は乳酸菌培養上清を含むことを特徴とする反芻動物用のメタン生成抑制剤である。また、本発明における反芻動物とは、偶蹄目反芻亜目に属する哺乳類のことであり、胃が3または4室に分かれ、食物を反芻するもののことを指す。例えば、牛、羊などが挙げられる。
【0018】
本発明のメタン生成抑制剤は、有効成分の生産菌が乳酸菌であり、安全性が高く、反芻動物の健康面から好ましいものである。
【0019】
このメタン生成抑制剤は、以下に例示するPRB産生乳酸菌を培養することにより効率よく製造することが出来る。
【0020】
本発明に用いられる乳酸菌は、ラクトバシラス属、ラクトコッカス属、ロイコノストック属、ワイセラ属及びペディオコッカス属に属する乳酸菌が好適であり、ラクトバシラス属に属する乳酸菌の中では特にラクトバシラス・プランタラム、ラクトバシラス・デルブリッキー及びラクトバシラス・カゼイ、ラクトコッカス属に属する乳酸菌の中では特にラクトコッカス・ラクティス、ロイコノストック属に属する乳酸菌の中では特にロイコノストック・メセンテロイデス、ロイコノストック・ラクティス及びロイコノストック・シトレウム、ワイセラ属に属する乳酸菌の中では特にワイセラ・シバリア、ワイセラ・コンフューサ及びワイセラ・ヘレニカ、そしてペディオコッカス属に属する乳酸菌の中ては特にペディオコッカス・ペントサセウス、ペディオコッカス・アシディラクティス及びペディオコッカス・ハロフィラスを好適なものとして挙げることができる。
【0021】
これらの種に属する乳酸菌の中でもラクトバシラス・プランタラム、ラクトコッカス・ラクティス、ワイセラ・シバリア、ワイセラ・コンフューサなどが本発明の乳酸菌として特に好適である。
【0022】
本発明のPRB産生乳酸菌の培養に用いる培地としては、そのような乳酸菌が増殖でき、メタン生成抑制物質を産生しうるものであればいずれを使用してもよい。例えば、炭素源には乳清、澱粉糖化液、食品用グルコース等が使用でき、窒素源としては乳清タンパク質濃縮物の加水分解産物、コーンペプチド、大豆ペプチド、業務用調味液原料、焼酎粕、酵母エキス等が使用できる。その他、乳酸菌の生育、及びPRB産生に必要な各種の有機物や無機物またはこれを含有するもの、例えば、リン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、マンガン塩等の塩類や、ビタミン類、酵母エキス等を適宜追加することも出来る。
【0023】
培養温度およびpHは、上記PRB産生乳酸菌株が生育する条件でよく、例えば、10〜40℃およびpH4〜8とするのが望ましい。
【0024】
本発明では、メタン生成抑制物質を産生する能力を有する乳酸菌を上記の培地で培養する。培養にあたり、特に培養後期において酸素を供給し、培養液のDO(溶存酸素濃度)を上昇させることが重要である。空気を通気した場合、DOは最終的に21%即ち8.11ppmとなりコストやハンドリングの点で好ましいが、上限値には限りはなく、DOを0以上に上昇させればよい。DOの下限値は使用した発酵用溶存酸素電極の実際的な検出限界から0.35ppm以上と定義した。培養において特に酸素を供給しない場合には、上記乳酸菌はメタン生成抑制物質を産生しないが、上記条件にて酸素を供給することによりメタン生成抑制物質を産生する。DOセンサーは発酵用溶存酸素電極TYPE S(株式会社バイオット)を使用した。本電極の測定範囲は0〜15ppmであり、再現性は±1%である。
【0025】
なお、本発明に関して言う培養後期とは、単位培養液あたりの乳酸菌の存在量(菌体密度)が十分に上昇してから後の段階を指す。培養後期とそれ以前の培養の境界は培養条件等により大きく影響されるために、所与の場合に物理化学的な計測値に基づいて事前に一義的に決定することは困難であり、そのため予備実験などにより経験的に設定される。本発明に関して言う培養後期を簡易に定義する一つの指標として菌体密度が使用できる。予め上記条件で培養を行い、到達しうる最大の菌体密度を求めておき、同じ条件で再度培養を行って菌体密度が最大値の50%以上、好ましくは60%以上に達してからを本発明に関して言う培養後期と定義する。また、一般に乳酸菌をバッチ培養する場合、菌体密度とpH及び/又は有機酸産生量の間には強い相関関係がある。従って、菌体密度を測定する代わりにpH及び/又は有機酸産生量を測定することで菌体密度を算出することも出来る。
【0026】
培養中に培養液中の溶存酸素濃度(DO)を確認するために酸素濃度を測定するが、その測定法には特に制限は無く、培養液に直接設置あるいはその一部を採取して溶存酸素電極を用いて測定する方法や、培養液の一部を採取して亜硫酸ナトリウムによる滴定法等を用いることが出来る。
【0027】
培養中、特に培養後期に培養液中のDOが0.35ppm以上に上昇するように酸素を供給して培養するが、その際に酸素供給量を調節する方法としては、培地の撹拌速度を上げる方法、供給ガス(空気など)の通気量を上げる方法、通気ガスの酸素分圧を上げる方法等、いずれの方法を用いてもよい。
【0028】
本発明に係る反芻動物用メタン生成抑制剤は様々な形態で用いることが可能であり、例えば粉末、顆粒、錠剤等の各種の形態が挙げられ、必要に応じて賦形剤、増量剤等を適宜添加することもできる。メタン生成抑制剤の投与時期は、本発明のメタン生成抑制効果の奏される限りは特に制限されるものではない。本発明のメタン生成抑制剤の投与量についても、本発明のメタン生成抑制効果の奏される限りは特に制限はない。予備試験により使用乳酸菌や投与動物によって適宜調整する。本発明に係わる反芻動物用飼料組成物の調製も、本発明のメタン生成抑制剤を添加することを除いては、特別の制限はなく、またこのような飼料組成物を反芻動物に投与する際にも特別の制限はない。なお、これらについては、特開2006−166853号公報(前掲特許文献6)の[0025]〜[0030]の記載によることができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明を更に説明する。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で任意に変更が可能であることは言うまでも無い。
【0030】
上記乳酸菌が産生するメタン生成抑制物質のメタン生成抑制活性は、主に以下に説明する2つの活性測定法にて確認できた。
【0031】
(1)in vitro連続培養法(人工ル一メン法)
<材料、実験機器および実験方法>
緩衝液および固形飼料の投入口、サーミスタープローブ、窒素ガス投入口、磁気的スターラー、近赤外メタン及び二酸化炭素計測器を備えた4連の1,000ml培養発酵槽からなるin vitro連続発酵ガス解析システム(高杉製作所社製、東京)を用いた。供試動物として2頭のフィステル装着ホルスタイン乾乳牛(平均体重800kg)をフリーストールで飼育し、クレイングラス乾草(DM:87.33%,OM:98.98%,CP:14.0%,ADF:38.84%,NDF:73.26%,ADL:4.1%,GE:4.45Mcal/kgDM)を維持量(55gDM/kg0.75)朝夕2回に分けて給与した。水及び鉱塩(Fe:1232,Cu:150,Co:25,Zn:500,I:50,Se:15,Na:382mg/kg)は自由摂取とした。
【0032】
発酵ガス計測前に、ガス分析計までのチューブ内や計測器に残留している二酸化炭素やメタンを窒素によって置換した。発酵槽の中に、予め二酸化炭素を1時間通気しておいたMcDougall人工唾液(McDougall,1948)を400ml入れ、飼料給与前の上記乾乳牛から直接採取したルーメン液をナイロン布で濾過し、接種菌液として400ml添加した(McDougall人工唾液と濾過ルーメン液の混合比はこれに限らず、ルーメン内発酵が正常に起こる範囲内であれば適宜変更しても良い)。発酵基質として風乾粉砕(1mmスクリーンユニット)した上記クレイングラス乾草および濃厚飼料(DM:94.13%,CP:16.06%,ADF:6.55%,NDF:19.06%,ADL:1.14%,GE:1.77 Mcal/kgDM)を合わせて10g(クレイングラス乾草粉末および濃厚飼料粉末の配合比は実験のデザインにより任意に決定して良い)加えた後、活性測定サンプルをそれぞれ80ml添加し、磁気的スターラーにて38rpmで撹拌を行った。培養時には全体を暗幕で覆い、流量20ml/minで窒素を通気し、嫌気条件下39℃にて48時間までの時間で適宜実施した。
【0033】
<メタン、二酸化炭素の分析方法>
培養中の生成メタン及び二酸化炭素濃度は、4基の発酵槽の内、モニタリングを行う発酵槽を10分間毎に順次切り替えながら赤外線分析計(島津製作所)により連続的に分析した。従って、各発酵槽においては40分毎に一回10分間連続的にガス分析が行われるが、測定された10分間の内最初の6分間のデータは排除し、残りの4分間の値をコンピュータ(Windows(登録商標)XP Professional 1−2 CPU,IBM Corporation)に記録した。分析計中の流量と濃度からメタン及び二酸化炭素ガスの発生量を算出し、4分間の平均値を40分間の平均産生量とした。
【0034】
(2)ルーメン発酵簡易評価法(試験管スケール)
<材料および実験方法>
乾草を中心に飼育された牛から飼料給与前に採取したルーメン液を使用した(牛の種類や乾草の種類、ルーメン液採取方法は本分野における常法に則る限り特に限定しない)。上記McDougall人工唾液7mlおよびルーメン液2ml、活性測定サンプル1mlを15ml容試験管内で混合した(コントロールには活性測定サンプル1mlの代わりにMcDougall人工唾液1mlを用いた)。更に発酵基質として上記クレイングラス乾草粉末および上記濃厚飼料粉末を0.05gずつ添加した。シリコン栓にて密栓し、内容物を十分に混合した後、テルモシリンジ(TERUMO)およびテルモ注射針18G(TERUMO)をシリコン栓に刺し、試験管内にて発生したガスがシリンジに捕集される様にした。尚、実験操作中ルーメン液は常に35℃以上40℃未満に保ち、嫌気条件下で行った(酸素濃度1%以下)。振盪培養機BR−3000LF(TAITEC)を使用し、40℃、150rpmにて20〜24h培養を行った。
【0035】
<メタンの分析方法>
培養後、シリンジ内に捕集された発生ガスをインジェクター(Pressure−Lok、VICI)を用いて一部採取し、ガスクロマトグラフィーGC320(GL Sciences)によりメタンと酸素を分析した。カラムはGC320 JK12(GL Sciences)を使用し、分析データはインテグレーターD−7500(HITACHI)にて出力を行った。ガス分析を行ったサンプル中の酸素濃度から、サンプル採取時に混入した空気量を計算し補正を行うことで発生したガス中のメタン濃度を算出した。
【0036】
実施例1:メタン抑制物質を生産する乳酸菌の探索
<乳酸菌の培養及び処理>
下記表1に示した各種乳酸菌のグリセロールストック50μlを10mlのMRS培地を含む直径16mmの試験管に植菌し、30℃、20h静置培養した。この前培養液をGYKP培地(グルコース10g/l,クエン酸三ナトリウム二水和物2.0g/l,酢酸ナトリウム(無水)5.0g/l,リン酸二水素カリウム12g/l,リン酸水素二カリウム11g/l,酵母エキス20g/l,硫酸マンガン五水和物0.05g/l)2mlを含む直径16mmの試験管に終濃度0.1%となるように植菌し、30℃、150rpmにて24〜48h振盪培養を行った。得られた培養液を8,000xgにて5分間遠心した後、上清を0.45μmメンブレンフィルター(DISMIC−25C、ADVANTEC)で濾過し、乳酸菌培養上清液を調製した。
【0037】
<各種乳酸菌の培養上清液のメタン抑制活性>
上記のルーメン発酵簡易評価法にて各乳酸菌培養上清液のメタン抑制活性を測定した。各サンプルを添加した場合に発生したガス中のメタン濃度を、乳酸菌培養上清液の代わりに生理食塩水を添加した対照区において発生したガス中のメタン量を100%として下記表1に示した。ラクトバシラス属、ラクトコッカス属、ロイコノストック属及びワイセラ属に属する乳酸菌の培養上清液がメタン抑制活性を示した。ペディオコッカス属についても微弱ながらメタン生成抑制活性が見出された。
【0038】
【表1】

【0039】
実施例2:酸素の有無によるメタン生成抑制物質生産への影響
上記、メタン生成抑制物質を生産する上記表1の乳酸菌群の中からLactobacillusplantarum TUA1490L株(FERM P−21709)を選択し、メタン生成抑制物質を生産するための培養条件の検討を行った。
【0040】
乳酸菌の培養はS型パネル加圧培養装置(Biott)を使用し、GYKP培地にて30℃て行った。培養開始から培養後期(培養後期の定義は[0025]に示した通り。)前までは通気をせず、準嫌気的な条件で培養を行った。培養後期以降は1/10VVMで通気するサンプルと通気を行わないサンプルの2通りで、300rpmで攪拌し、培養を行った。通気を行ったサンプルについては通気開始と共にDOが上昇し、最終的には8.11ppmまで上昇した。通気を行わなかったサンプルについてはDOが0から上昇せず、[0024]に定義したように0.35ppm以下であった。通気開始時刻から1時間後、4時間後、7時間後、10時間後および13時間後にそれぞれからサンプリングを行った。得られた培養液を8,000×gにて20分間遠心し、上清をフィルター濾過(Stericup、MILLIPORE)することでメタン生成抑制剤のサンプルとした。
【0041】
<ルーメン発酵簡易評価法による活性確認>
上記[0040]のサンプルのメタン生成抑制活性を上記[0034]〜[0035]のルーメン発酵簡易評価法にて測定した。その結果、通気を行った培養液(好気培養)では通気3時間後から強いメタン生成抑制活性が確認されたのに対して、通気を行わなかった培養液(嫌気培養)では通気13時間後までメタン生成抑制活性は確認されなかった(下記表2)。この結果から、上記乳酸菌群によるメタン生成抑制物質の生産には培養中に酸素の供給が必要であることが分かった。
【0042】
【表2】

【0043】
<in vitro連続培養法による活性確認>
上記[0040]のサンプルのうち、通気開始時刻から1時間後、4時間後、7時間後および10時間後のメタン生成抑制活性を[0031]〜[0033]のin vitro連続培養法にて測定した。その結果、[0041]の結果と同様に、通気を行った培養液では通気3時間後から強いメタン生成抑制活性が確認されたのに対して、通気を行わなかった培養液では通気13時間後までメタン生成抑制活性は確認されなかった(下記表3)。また、メタン生成抑制活性を有するサンプルを投与した試験区においては培養の最初から最後まで強くメタンの発生が抑制されることが確認された。以上により、試験管スケールのルーメン発酵簡易評価法よりもより実際のルーメンに近いin vitro連続培養法(人工ルーメン法)により当該乳酸菌培養液のメタン生成抑制活性が確認された。
【0044】
【表3】

【0045】
実施例3:酸素濃度依存的なメタン生成抑制物質生産
上記実施例2と同様に、前記乳酸菌(Lactobacillus plantarum TUA1490L株)の培養はS型パネル加圧培養装置(Biott)を使用し、GYKP培地にて30℃で行った。培養開始から培養後期までは通気をせず、準嫌気的な条件で培養を行った。培養後期以降は酸素濃度0、5.0、10%の酸素・窒素混合ガスを1/4VVMで通気し、300rpmで攪拌することでそれぞれ酸素供給を行った。通気を32時間行った後、サンプリングを行い、得られた培養液を8,000×gにて5分間遠心し、上清をフィルター濾過(DISMIC−25C、ADVANTEC)することでメタン生成抑制剤のサンプルとした。培養時のpH(水素イオン指数)およびpL(溶存酸素指数)のデータを図1および図2に示す。また、メタン生成抑制物質を確実に生産することが確認されている条件(GYKP培地、30℃、培養後期から1/10VVMで空気を通気、300rpm)で培養を行った際のpLのデータを参考として図3に示す。
【0046】
なお、図1において、X軸(横軸)は培養時間(単位は時間)を示し、Y軸(縦軸)はpHを示す。矢印が指す時点からそれぞれの濃度の酸素を通気し、実線は10%、長破線は5%、短破線は0%の酸素を通気した試験区をそれぞれ示す。また、図2において、X軸(横軸)は培養時間(単位は時間)を示し、Y軸(縦軸)はpLを示す。矢印が指す時点からそれぞれの濃度の酸素を通気し、実線は10%、長破線は5%、短破線は0%の酸素を通気した試験区をそれぞれ示す。因みに、30℃、1気圧下で酸素濃度約21%の空気が純水に飽和したとき(溶存酸素濃度7.53ppm)にpL=21を示す。図3において、X軸(横軸)は培養時間(単位は時間)を示し、Y軸(縦軸)はpLを示す。矢印が指す時点から空気を通気した。
【0047】
<ルーメン発酵簡易評価法による活性確認>
上記[0045]のサンプルのメタン生成抑制活性を[0034]〜[0035]のルーメン発酵簡易評価法にて測定した。その結果、本条件において通気開始後32時間までにメタン生成抑制物質を生産するものは無かった。また、10%の酸素を1/4VVMで供給したにも拘わらず、通気開始後DOは全く上昇しなかった(図2参照)。乳酸菌の酸素処理能力について明確に定義されている文献はなく、乳酸菌は一般的に通性嫌気性菌と考えられているが、本結果から該乳酸菌は酸素に対して十分な処理能力を有していることが分かった。以上から、乳酸菌を準嫌気的な条件で培養し、培養後期以降、溶存酸素濃度が0ppmである状態から酸素供給を開始して、それ以降の溶存酸素濃度が上昇する様な酸素供給量がこれら乳酸菌によるメタン生成抑制剤の生産に必要であることが確認された。
【0048】
実施例4:空気の通気上限の検討
上記実施例2と同様に、乳酸菌(Lactobacillus plantarum TUA1490L株)の培養はS型パネル加圧培養装置(Biott)を使用し、GYKP培地にて30℃て行った。培養開始から培養後期前までは通気をせず、準嫌気的な条件で培養を行った。培養後期以降は空気を0VVM(無通気)、1/10VVM(標準条件)、1/2VVM(標準条件の5倍量)にて通気し、300rpmで攪拌することでそれぞれ酸素供給を行った。通気開始6時間後の培養液を8,000×gにて5分間遠心し、上清をフィルター濾過(DISMIC−25C、ADVANTEC)することでメタン生成抑制剤のサンプルとした。
【0049】
<ルーメン発酵簡易評価法による活性確認>
上記[0048]のサンプルのメタン生成抑制活性を[0034]〜[0035]のルーメン発酵簡易評価法にて測定した。その結果、1/10VVMと1/2VVMの通気量の違いによるメタン生成抑制物質生産への影響は確認されなかった(下記表4)。乳酸菌は一般的に通性嫌気性菌であるが、完全に好気的条件と言える1/2VVMでの通気でメタン生成抑制物質の生産が可能であったことから、乳酸菌によるメタン生成抑制物質生産における通気量の上限は特に設定する必要がない。
【0050】
【表4】

【0051】
実施例5:培養開始直後からの酸素供給によるメタン生成抑制物質生産への影響
培養開始直後から酸素を供給した場合のメタン生成抑制物質生産への影響を調べた。上記実施例2と同様に、乳酸菌(Lactobacillus plantarum TUA1490L株)の培養はS型パネル加圧培養装置(Biott)を使用し、GYKP培地にて30℃で行った。培養開始直後から1/10VVMで通気し、攪拌は300rpmで行った。培養開始24時間後の培養液についてメタン生成抑制活性をルーメン発酵簡易評価法にて測定したところ、乳酸菌培養上清液を添加しない対照区に比べてサンプル添加区においてはメタン発生量が3%程度にまで減少した。この結果から、上記実施例3で示した以上の酸素供給を行うならば、乳酸菌によるメタン生成抑制物質生産は酸素供給開始のタイミングに関わらないことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明により、反芻動物から排出される強力な温室効果ガスであるメタンを削減可能であり、さらにメタンを削減することにより反芻動物の飼料エネルギーの効率が向上し、延いては反芻動物の発育が改善するため、本発明は極めて有用である。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテアーゼ耐性バクテリオシン産生乳酸菌を用いる反芻動物用メタン生成抑制剤の製造において、プロテアーゼ耐性バクテリオシン産生乳酸菌の培養を培養後期において、培養液中の溶存酸素濃度を0.35ppm以上で行うことを特徴とする反芻動物用メタン生成抑制剤の製造方法。
【請求項2】
該乳酸菌が、ラクトバシラス(Lactobacillus)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ワイセラ(Weissella)属及びペディオコッカス(Pediococcus)属からなる群から選ばれる1種又は2種以上の乳酸菌であることを特徴とする請求項1記載のメタン生成抑制剤の製造方法。
【請求項3】
該ラクトバシラス属乳酸菌が、ラクトバシラス・プランタラム(L.plantarum)、ラクトバシラス・デルブリッキー(L.delbrueckii)及び/又はラクトバシラス・カゼイ(L.casei)であることを特徴とする請求項2に記載のメタン生成抑制剤の製造方法。
【請求項4】
該ラクトコッカス属乳酸菌が、ラクトコッカス・ラクティス(L.lactis)であることを特徴とする請求項2に記載のメタン生成抑制剤の製造方法。
【請求項5】
該ロイコノストック属乳酸菌が、ロイコノストック・メセンテロイデス(L.mesenteroides)、ロイコノストック・ラクティス(L.lactis)及び/又はロイコノストック・シトレウム(L.citreum)であることを特徴とする請求項2に記載のメタン生成抑制剤の製造方法。
【請求項6】
該ワイセラ属乳酸菌が、ワイセラ・シバリア(W.cibaria)、ワイセラ・コンフューサ(W.confusa)及び/又はワイセラ・ヘレニカ(W.hellenica)であることを特徴とする請求項2に記載のメタン生成抑制剤の製造方法。
【請求項7】
該ペディオコッカス属乳酸菌が特にペディオコッカス・ペントサセウス(P.pentosaceus)、ペディオコッカス・アシディラクティス(P.acidilactici)及び/又はペディオコッカス・ハロフィラス(P.halophilus)であることを特徴とする請求項2に記載のメタン生成抑制剤の製造方法。
【請求項8】
有効成分として、請求項1〜7のいずれかに記載のメタン生成抑制剤の製造法において得られる当該乳酸菌培養液及び/又は乳酸菌培養上清を含有することを特徴とするメタン生成抑制剤。
【請求項9】
請求項8に記載のメタン生成抑制剤を含有することを特徴とする反芻動物用飼料組成物。
【請求項10】
請求項8に記載のメタン生成抑制剤及び/又は請求項9に記載の飼料組成物を反芻動物に投与することを特徴とする反芻動物の発育を改善する方法。