説明

可使時間制御粉体

【課題】長い可使時間にもかかわらず初期強度の発現性に優れたセメント組成物を提供する。
【解決手段】(A)アルミニウム塩と、(B)ポリカルボン酸系高性能減水剤を混合し、乾燥することにより得られる粉体、及びこれを含有するセメント組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水添加混練後のセメント組成物が、所望とする適度な流動性を一定期間有した後、直ちに強度を発現させるために用いる可使時間制御粉体に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントの硬化促進剤として、アルカリ金属やアルカリ土類金属の炭酸塩、硫酸塩、水酸化物、塩化物等が知られており、硫酸アルミニウム、ミョウバン等も用いられている。また、硫酸アルミニウムと、アルカリ金属硫酸塩(特許文献1、特許文献2、特許文献3)、潜在水硬性物質(特許文献4)、無水石膏等(特許文献5)を組合わせ、早期強度をを発現させることも検討されている。
しかしながら、これらの化合物等を組合わせて用いると、早期強度の発現には効果があるものの、十分な施工時間を確保するのは困難であった。
【0003】
一方、減水剤の性能は大きく進歩し、近年では、高い減水率を有し、低水比でも高い流動性を得ることが可能となっている。
例えば、無水セッコウ、硫酸アルミニウム、アルカリ金属アルミン酸塩と、特定のポリカルボン酸系減水剤を組合わせ、初期強度発現性が良好で、スランプロスの少ないセメント組成物が提案されている(特許文献6)。しかしながら、配合が煩雑であることからコストアップや品質管理が難しくなるという問題があった。
【特許文献1】特開平2−141449号公報
【特許文献2】特開平1−119551号公報
【特許文献3】特開昭63−291839号公報
【特許文献4】特開平1−51352号公報
【特許文献5】特開2000−327383号公報
【特許文献6】特開2000−143324号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、長い可使時間にもかかわらず初期強度の発現性に優れ、しかも低コストかつ複雑な配合を必要とせずに所望とする硬化時間制御を達成することができるセメント組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
斯かる実情に鑑み、本発明者らは、鋭意検討した結果、アルミニウム塩とポリカルボン酸系高性能減水剤を混合し、乾燥して得られる粉体を用いれば、上記課題を解決したセメント組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、(A)アルミニウム塩と、(B)ポリカルボン酸系減水剤を混合し、乾燥することにより得られる粉体を提供するものである。
また、本発明は、セメント100質量部に対して、当該粉体を0.5〜5質量部含有するセメント組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の粉体を用いたセメント組成物は、水添加混練後において、材料分離が生じることなく一定の流動性を保持することを幅広くコントロール(5〜400分程度)することができ、しかも、24時間後の圧縮強度30Mpa以上が確保できるなど、長い可使時間にもかかわらず初期強度の発現性に優れたものである。さらに、低コストかつ複雑な配合を必要とせずに所望とする硬化時間制御を達成することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明で用いる(A)アルミニウム塩としては、水溶性アルミニウム塩が好ましく、特に、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウムが好ましい。
【0009】
本発明で用いる(B)ポリカルボン酸系高性能減水剤としては、通常のセメント組成物に用いられるものであれば特に制限されず、例えば、次の一般式(1)及び(2)で表わされる単量体を含む2種以上の単量体を重合させて得られる共重合体からなるものが挙げられる。
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、R1、R2及びR3は、水素原子又はメチル基を示し、R4は炭素数1〜3のアルキル基を示し、M1はアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム又は有機アミンを示し、nは5〜25の数を示す)
【0012】
これらのうち、更に次の一般式(3)で表わされるスルホン酸基を有する単量体を含む共重合体(末端スルホン酸基を有するポリカルボン酸基含有多元ポリマー)が好ましい。
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、R5は、水素原子又はメチル基を示し、M2はアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム又は有機アミンを示す)
【0015】
このような共重合体は、例えば、特開平1-226757号公報に記載の方法により製造することができる。また、例えば、コアフローCP−300、NP−55(以上、太平洋マテリアル社製)等の市販品を用いることができる。
【0016】
(A)硫酸アルミニウムと(B)ポリカルボン酸系高性能減水剤を混合する際の質量割合は、(A)100質量部に対して(B)375質量部未満、特に(B)200質量部未満であるのが好ましい。
【0017】
(A)硫酸アルミニウムと(B)ポリカルボン酸系高性能減水剤を混合後、乾燥する方法は特に制限されないが、加熱乾燥するのが好ましい。例えば、スプレードライヤー等を用いて、噴霧乾燥することにより製造することができる。
【0018】
本発明のセメント組成物は、セメント100質量部に対して、前記粉体を0.5〜5質量部、好ましくは1〜3.6質量部混合することにより製造される。
ここで用いられるセメントとしては、特に制限されず、例えば、普通、早強、中庸熱、低熱等の各種ポルトランドセメント、これらポルトランドセメントに高炉スラグ粉末、フライアッシュ、シリカ粉末を混合した各種混合セメントなどが挙げられる。
【実施例】
【0019】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明は、これら実施例により限定されるものではない。
【0020】
実施例1
無水硫酸アルミニウム100質量部と、ポリカルボン酸系減水剤(コアフローCP−300;太平洋マテリアル社製)184質量部を混合し、原料スラリーとした。
これを、小型スプレードライヤー(φ1600;坂本技研社製)を用い、原料供給温度60℃、原料供給速度2L/h、アドマイザー回転速度10000rpm、熱風入口温度170℃、熱風出口温度120℃で、噴霧乾燥し、粉体を得た。
【0021】
実施例2
水(W)、早強ポルトランドセメント(HC;太平洋セメント社製)、細骨材(S)、減水剤(SP1;コアフローCP300(太平洋マテリアル社製))、粉体(SP2;実施例1)を、表1に示す組成で混合し、5Lモルタルミキサ(ホバート社製)を用いて練り混ぜを行なった。
得られた組成物について、JIS R 5201に準拠し、無振動下でのモルタルフローを測定した。また、JIS R 5201に準拠して、圧縮強度を測定した。結果を図1に示す。
【0022】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例2において測定したモルタルフロー及び圧縮強度を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アルミニウム塩と、(B)ポリカルボン酸系減水剤を混合し、乾燥することにより得られる粉体。
【請求項2】
(A)アルミニウム塩と、(B)ポリカルボン酸系減水剤を混合し、加熱乾燥することにより得られる粉体。
【請求項3】
(A)アルミニウム塩が、水溶性アルミニウム塩である請求項1又は2記載の粉体。
【請求項4】
アルミニウム塩が、硫酸アルミニウム又は塩化アルミニウムである請求項1〜3のいずれか1項記載の粉体。
【請求項5】
成分(B)が、次の一般式(1)及び(2):
【化1】

(式中、R1、R2及びR3は、水素原子又はメチル基を示し、R4は炭素数1〜3のアルキル基を示し、M1はアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム又は有機アミンを示し、nは5〜25の数を示す)
で表わされる単量体を含む2種以上の単量体を重合して得られるポリカルボン酸系高性能減水剤である請求項1〜4のいずれか1項記載の粉体。
【請求項6】
セメント100質量部に対して、請求項1〜5のいずれか1項記載の粉体を0.5〜5質量部含有するセメント組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2008−133158(P2008−133158A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−320531(P2006−320531)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】