説明

可撓性材料への微小球の被覆方法

本発明は、可撓性材料に、1以上の活物質を含む高分子微小球を、溶融することなく塗布する方法に関する。本発明の方法は、a)多孔性の架橋ポリマーを選択する、b)室温で液体である脂溶性組成物を加え、かつ、前記ポリマーのガラス転位温度より1〜5℃高い温度で加熱することにより、1以上の活物質を該ポリマーに含ませて、該活物質を含む微小球を得て、c)可撓性材料に該微小球を配置し、d)前記ポリマーの溶融温度よりも1〜10℃高い温度で、かつ、該ポリマーを溶融状態とすることなく、前記微小球をともなった可撓性材料を加熱し、e)前記微小球を包含させた可撓性材料を冷却する、工程を備える。本発明の被覆可撓性材料は、治療効果、美肌効果、または嗅覚効果を有する1以上の活物質を伴っている。該活物質の拡散は、前記微小球の材料として用いられたポリマー、および該活物質の性質により、調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可撓性材料への材料のコーティングに関する。より具体的には、本発明は、織物材料や不織布材料などの繊維質または多孔質の媒体に、1以上の活物質を含む高分子微小球を、溶融することなく被覆する、すなわち、固定により密着させることに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、可撓性材料への材料のコーティングは、被覆法または積層法により行われている。コーティングは、原則として、平坦面を被覆することを前提としている。織物などの媒体(基質)を被覆することには、さまざまな利点がある。たとえば、液体、染み、火に対する耐性などのさまざまな性質を付与したり、媒体を強化したり、あるいは、その感触を改善したりすることができる。織物は、被覆により、さまざまな仕上げ(艶消し、光沢、模造皮革など)に加工される。公知の被覆方法のほとんどは、織物または可撓性材料の物理的および機械的特性を強化、改善または変化させることにより、特定の効果または用途を備えさせることを目的としている(ノエル・ポンテュ「織物技術」、WO2008/080867「少なくとも1層の強化弾性シリコン層により片面もしくは両面が被覆された織物、編物または不織布からなる繊維物質の製造方法」、WO2007/112982「織物表面の被覆方法」、WO2007/039763「織物コーティングのための液体シリコンゴム組成物」、エスムリ・カロン・ストゥルクチュール社「織物構造、テントおよびシート」、CAPLP2/コンクール・エクステルヌ「織物材料の保守」2003年)。
【0003】
シリコン、塩化ポリビニル(PVC)、アクリル、ポリウレタンなどの使用されるポリマーの種類には関係なく、通常、被覆は、液体またはペーストを、媒体表面に塗布し、加熱により固定する手段が採られる(フランス特許第2851265号、A.ポンシュおよびD.ドュピュイ「流動学」第2巻39〜45頁(2002年)「高分子溶液に二酸化チタンを懸濁させた場合の流動と構造の関係」)。ポリマーが固体である場合、ゲル化(溶融/液化)の操作が、重合化とともに行われる(WO00/11061「織物の被覆方法」、アルケマ社、LACOVYL(登録商標)「被覆とその応用」)。複合材料の可溶化またはゲル化に際しては、いわゆる被覆助剤および揮発性溶剤が必要とされるが、これらはその後に除去する必要があり、このため環境問題の原因となるものである(179、ドイツ連邦環境局(UBA)2001年「被覆と積層」)。
【0004】
織物を被覆するために最も一般的に用いられているポリマーは、塩化ポリビニル(PVC)である(アンスティチュ・テキスティル・ドゥ・フランス「材料と技術」(1999年)、63,GuT/ECA(2000年)「カーペットの裏面被覆」)。PVC透明塗料(テーブルクロスの内側または外側、ランチョンマット)、PVC白色塗料(引き抜きシーツ)、透明または着色の粒状PVC塗料(皮革製品、バッグ、用具ケース)、裏面被覆(室内小職用布地)、産業織物用PVC塗料などのさまざまな種類のPVC塗料がある。産業織物用PVC塗料では、通常、80%のPVC、13%のポリウレタンおよび7%のその他のポリマーおよび補助剤により構成されている。
【0005】
この補助剤の存在に起因する汚染要素は、通常、アクリロニトリル、塩化ビニル、アクリルアミド、1,3―ブタジエンおよびビニルシクロヘキセンなどの発癌性の残留モノマー、および、主に添加剤に由来する分解生成物である。
【0006】
直接塗布の場合、シリンジ(転写シリンジ)またはスキージ(ブレード)が被覆工程用の装置として従来から用いられており、これらは、被覆される材料の表面の接線方向に移動して、規定量(g/m2またはcm3/m2)の塗布を可能としている。被覆には、転写塗布と呼ばれる、間接的に行う方法もある。この場合、塗布が別の媒体になされ、それから、塗布された表面を、一般的には脆い最終物の上に重ね合わせることになる。
【0007】
さまざまなポリマーや金属を繊維または織物に塗布するその他のコーティング法も公知である。「被覆された織物」の語は、織物の重量に対してわずかな量から織物の重量の数倍までの所定量だけ高分子(ポリマー)樹脂が加えられた繊維基質を意味するものとして理解される。すべての繊維材料が使用可能であるが、繊維とコーティングとの親和性は考慮される必要がある。これらの場合、コーティング剤は、塩化ポリビニル、ポリウレタン、および、天然または合成のエラストマをベースとしている。可塑剤、無機充填剤、その他の補助剤は、ポリマーの固定に必要とされるとともに、製造工程もしくは最終的な用途において、所定の目的を達成するための付加的な特性を材料に付与する機能も有している。
【0008】
代替的に、たとえば、微小孔性のポリウレタン(PUR)またはポリテトラフルオロエチレン(PTEE)などの被膜、発泡体または薄膜を繊維基質上に接着または積層させて、通気性バリア機能や防水機能を複合的に付与する、複合化工程を実施することも可能である。
【0009】
織物構造が、非架橋の熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂によって処理される場合、予備含浸材料が用いられる。これらの織物構造は、溶解、溶融、粉体コーティング、混成または転位により予備含浸される。熱処理の間、この予備含浸材料は、型で成型される。
【0010】
一般的に、織物を被覆し積層するための製品は、化学組成に基づいて、5つの主なグループに分けることができる。
【0011】
−ポリオレフィン(特にポリエチレン)、
−ポリアミド6、
−ポリアミド6.6、
−コポリアミド、
−ポリエステル、
−ポリウレタン、
−塩化ポリビニル、
−ポリテトラフルオロエチレン、
をベースとする、粉体状の被覆製品。
【0012】
上記のポリマーをベースとし、さらに、
−分散剤(界面活性剤、多くの場合、アルキルフェノールエトキシレート)、
−可溶化剤(グリコール、N−メチルピロリドン、炭化水素)、
−発泡剤(鉱油、脂肪酸、脂肪酸アンモニウム塩)、
−軟化剤(特に、フタル酸エステル、スルホンアミド)、
−増粘剤(ポリアクリレート)、
−アンモニア、
などの補助剤を含む、ペースト状の被覆製品。
【0013】
−メタクリル酸ブチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸メチルなどのポリメタクリレート、
−ポリアクリル酸、
−ポリアクリルニトリル、
−ポリアクリルアミド、
−1,3−ポリブタジエン、
−ポリスチレン、
−ポリウレタン、
−ポリ塩化ビニル、
−ポリ酢酸ビニル、
−上記のポリマーのコポリマー、
をベースとし、約50%の水を含む、ポリマー分散(水性製剤)形態の被覆製品。なお、ペースト状の被覆製品と同様の補助剤も含みうる。
【0014】
メラミンとホルムアルデヒドの反応およびその後の水媒体(50〜70%の含水率)中での主にメタノールを用いたエーテル化により製造される、メラミン樹脂。
【0015】
有機溶剤に分散されたポリウレタンとシリコンをベースとする、ポリマー分散(有機溶剤ベースの製剤)形態の被覆製品。
【0016】
いずれの場合においても、被覆製品の性質にかかわらず、基質上に前記ポリマーを塗布するためには、加熱工程が必要とされる。この工程は、前記ポリマーを十分な溶融状態として、その内部構造を変化させ、基質の繊維としっかりと結合させるために行われる。この工程は、炉ないしはトンネル炉を用いて行われるが、これらの炉は当業者には周知である。
【0017】
被覆製品の種類に応じて、毒性産物の放出による環境問題の内容は異なってくる。このような問題は、ポリアミド6およびそのコポリマーを使用する粉体状の被覆材料の場合のように、ポリマー自体の使用によっても直接的に発生する場合がある(残留モノマーe−カプロラクタムは通常の工程温度で放出される)。
【0018】
ペースト状の被覆製品の場合、補助剤が必要とされるが、その使用により、環境問題が間接的に生ずることが避けられない。この場合、放出される毒性産物には、主に、
−界面活性剤由来の脂肪アルコール、脂肪酸、脂肪アミド、
−乳化剤由来のグリコール、
−分散剤由来のアルキルフェノール、
−屈水剤由来のグリコール、脂肪族炭化水素、N−メチルピロリドン、
−発泡剤由来の脂肪族炭化水素、脂肪酸、脂肪酸塩、アンモニア、
−軟化剤/可塑剤由来のフタル酸エステル、スルホンアミド、スルホン酸エステル、
−増粘剤由来のアクリル酸、アクリル酸塩、アンモニア、脂肪族炭化水素、
がある。
【0019】
ポリマー分散(水性製剤)形態の被覆製品に関しては、空中への放出の原因となる成分は、分散剤、重合の残留成分(特に、ラジカル開始重合反応の触媒であるt−ブタノール)、重合の不十分な反応によって生じたモノマーである。これらのモノマーは、作業場所の周囲空気中において有害物質となり、臭気があることから、特に問題となる。これらには、
−アクリル酸ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルヘキシルなどのアクリル酸塩、酢酸ビニル、
−アクリロニトリル、塩化ビニル、アクリルアミド、1,3−ブタジエン、ビニルシクロヘキセンなどの発癌性モノマー、
が含まれる。
【0020】
ビニルシクロヘキセンはガス状排出物として同定されない場合があるが、1,3−ブタジエンが用いられている場合には、[2+2]環化付加反応の生成物として形成される。ガス状排出物中のアクリルアミドは、ホルムアルデヒド(メチロールアクリルアミドの反応生成物)の放出にともなう場合が多い。
【0021】
メラミン樹脂の形態の被覆製品には、相当量の遊離ホルムアルデヒドおよびメタノールが含まれる。塗布の間、メラミン樹脂間もしくは繊維(たとえば綿)との間で、酸触媒作用および/または温度により、架橋反応が開始され、化学量論的量のメタノールとホルムアルデヒドが放出される。
【0022】
ポリマー分散(有機溶剤ベースの製剤)形態の被覆製品は、織物加工分野での使用はまれであるが、熱酸化や活性炭への吸着を含む、ガス状排出物の処理のための装置が必要とされる。実際、この技術では、炉を通過して、合成材料を重合化し、揮発性溶媒を除去してから、製品を冷却し、巻き取る必要がある。
【0023】
このように、被覆材料の種類にかかわらず、多くの毒性化合物が、従来から使用されている被覆プロセスの間に、直接もしくは間接に、放出されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】WO2008/080867号公報
【特許文献2】WO2007/112982号公報
【特許文献3】WO2007/039763号公報
【特許文献4】フランス特許第2851265号公報
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】ノエル・ポンテュ「織物技術」(Noel PONTHUS: “TextilesTechniques”)
【非特許文献2】エスムリ・カロン・ストゥルクチュール「織物構造、テントおよびシート」(ESMERY CARON Structures: Architecture textile, Tentes et Baches)
【非特許文献3】CAPLP2/コンクール・エクステルヌ「織物材料の保守」2003年(CAPLP2/CONCOURS EXTERNE: ENTRETIEN DES ARTICLES TEXTILES: SESSION2003)
【非特許文献4】A.ポンシュおよびD.ドュピュイ「流動学」第2巻39〜45頁(2002年)「高分子溶液に二酸化チタンを懸濁させた場合の流動と構造の関係」(A. Ponche et D. Dupuis: Rheologie, Vol.2,39-45(2002)”Relation entrerheometrie et structure dans le cas des suspensions de dioxide de titane dansles solutions de polymers”)
【非特許文献5】アルケマ社、LACOVYL(登録商標)「被覆とその応用」(AREKEMA:LACOVYL(R): Enduction-Mise en oeuvre du procede)
【非特許文献6】179、ドイツ連邦環境局(UBA)2001年「被覆と積層」(179,UBA(Umweltbundesamt), 2001: “Coating and laminating”)
【非特許文献7】アンスティチュ・テキスティル・ドゥ・フランス「材料と技術」(1999年)(ITF - Recherche et Developpement: “Materiaux et Technologies” (1999))
【非特許文献8】63,GuT/ECA(2000年)「カーペットの裏面被覆」(63,GuT/ECA, 2000: “Enduction d’envers des tapis”)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点を解消し、1以上の活物質を含む高分子微小球を加熱コーティングすることにより、人体または環境に害を及ぼす毒性物質を排出することなく、可撓性材料、不織布材料もしくは繊維製品を被覆する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
これは、物理化学的および構造的観点から選択され、非公害であって、活物質を含むことができ、かつ、微小球の形態を有する、特定のポリマーを、大気中に毒性産物を放出させる原因となる補助剤の使用に頼ることなく、基質の繊維構造もしくは細孔構造に固定する手段を開発することにより達成される。
【0028】
本発明の方法を実施して、被覆された可撓性材料には、高分子微小球に組み込まれた活物質のさまざまな性質にともなって、さまざまな効果が付与される。なお、本発明の解釈において、「活物質」の語は、単一物質もしくは単一組成物のみならず、同一の微小球の中で混合される、もしくは、単一の活物質のみを含む微小球にそれぞれ含められる、複数の活物質もしくは組成物を含むものとする。
【0029】
微小球の細孔ネットワークからの拡散により、この微小球内に蓄積されていた活物質が放出されることで、これらの微小球を介して、可撓性材料に活性が付与される。本発明の原理は、実質的に、被覆プロセスの間において、微小球を構成するポリマーに熱処理が施されるにもかかわらず、微小球の多孔質構造を保持することにある。意外にも、特定のポリマーを選択し、的確な範囲の温度で、加熱コーティングすることにより、コーティング助剤や可塑剤を使用することなく、同時に、微小球の細孔ネットワークを保持したまま、可撓性材料の繊維構造もしくは細孔構造に、活物質を含む微小球を密接的かつ堅固に固定できるとの知見が得られたのである。
【0030】
本発明は、1以上の活物質を含む高分子微小球を、溶融することなく、可撓性材料に被覆させる方法に関する。この方法は、
a)多孔性架橋ポリマーを選択し、
b)1以上の活物質を含み、室温で液体である脂溶性組成物を、前記ポリマー内に、該ポリマーのガラス転位温度よりも1〜5℃高い温度で加熱することにより、包含させ、前記活物質を含む高分子微小球を得て、
c)前記高分子微小球を可撓性材料の上に配置し、
d)前記高分子微小球をともなった可撓性材料を、前記ポリマーの溶融温度よりも1〜10℃高い温度で、該ポリマーを溶融状態とすることなく、加熱し、
e)前記高分子微小球が含浸した前記可撓性材料を冷却する、
工程を備える。
【発明の効果】
【0031】
これまで、ユーザは、所定の活物質を経口経路により摂取することにより、肝臓初回通過やこれに関連する一連の効果による相当の不利益を被っており、また、局所経路によっても、活物質を含む軟膏やジェルを1日に何度も塗ったり、適切量を正確に塗布すべき場所がなかったりといった相当の不利益を被ってきているが、本発明により、これらに代替して、活性化した可撓性材料が提供される。
【0032】
本発明に従って処理された可撓性材料を皮膚に接触させることにより、織物の繊維に含浸した微小球に貯蔵された活物質を連続的にかつ長期的に放出させることができるという効果が得られる。治療効果をともなう活性成分を有する活物質の場合、標的領域への活性成分の投与およびそこでの放出といった観点のみならず、ユーザが服用すべき用量を規則的に拡散させるという観点からも、治療を容易にするという利点がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、微小球を作成するために使用される装置の概略図である。
【図2】図2は、微小球を被覆するために使用される装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の方法を適切に行うためには、微小球を形成するために使用されるポリマーの性質が重要である。すなわち、これらのポリマーは、結合される活物質を保持し、貯蔵することが可能であり、微小球を形成するために、網状構造を有することが必要である。また、これらのポリマーは、相互に連結された細孔による細孔ネットワークを備え、該ポリマーを対象となる基質に被覆した後、前記活物質の拡散を可能とし、かつ、該基質を身につけた使用者の外部環境および/または皮膚への前記活物質の放出を可能とする必要がある。
【0035】
本発明では、前記微小球は、単一種類の多孔性架橋(網状)ポリマーにより形成される。好ましくは、前記微小球を形成する前記多孔性架橋ポリマーは、ポリアミド、ポリエーテルブロックアミド、およびエチレン酢酸ビニルの中から選択される。上述の多孔性架橋ポリマーから選択される異なるポリマーから、それぞれの微小球を形成し、これらを混合してもよい。1つの目安として、このような微小球は、直径が5〜200μm程度であり、直径が0.1〜10μmで、相互に接続した微小孔(細孔)により構成された、不均一な非中空の内部構造をともなっている。
【0036】
マイクロカプセルを用いた織物の被覆プロセスは公知である。このマイクロカプセルは、さまざまなポリマーからなり、中空構造で、マイクロカプセルの中心に組み込まれる活性物質を膜のように包み込む構造となっている。マイクロカプセルを製造し、さらには充填する工程は、複雑でありコストがかかる。マイクロカプセルの中に大量の活物質を充填することには困難をともなう。しかも、充填された物質は段階的に放出されることはなく、水などの溶剤により、機械的破壊または化学分解が生じて、一度に放出されることとなる。通常、これらのマイクロカプセルは、基質には直接固定されることはなく、その固定化には、バインダ、その他の補助剤が必要とされる。被覆されたポリマーを高い温度で加熱することにより、基質の繊維を溶融させることにより、マイクロカプセルの固定化を改善しているが、これにより、充填されている活物質の劣化や、マイクロカプセルの壁の破裂による、活物質の早期放出などの問題を生ずる。また、使用されたバインダが、たとえば基質上に固定された状態にある、マイクロカプセルのポリマーマトリックスと混ざり合って、不浸透性となり、残された活物質の放出を遅らせてしまう場合もある。したがって、繊維材料への被覆にマイクロカプセルを用いることは、充填された活物質の放出性や、本来的な構造上の脆弱性による耐洗浄性といった観点、さらには、基質繊維への固定化が難しいことから、効果的であるとはいえない。
【0037】
本発明の方法に用いられる活物質には、治療効果、美肌(皮膚科的および美容的)効果、嗅覚効果を示すあらゆる種類の化合物が含まれる。微小球を構成する多孔性架橋ポリマーへの活物質の組み込みを容易化するために、室温で液体である脂溶性組成物を用いることができる。これらの脂溶性組成物は、多孔性架橋ポリマーへの活物質の組み込みを容易化するだけでなく、基質の繊維や細孔内に微小球が固定した後において、微小球からの活物質の放出を改善したり、皮脂との親油性の相互作用により、皮膚との接触における、段階的な放出を改善したりする機能も有する。
【0038】
前記活物質は、以下の効果を備える分子から選択されることが好ましい。すなわち、
−治療効果(鎮痛作用、消炎作用、静脈血行促進作用など)、
−美肌効果(痩身用脂肪分解および/または脱水、保湿、鎮静、老化防止用抗酸化および/または再構築および/または修復、浄化、脚のむくみ緩和など)
−嗅覚効果(抗ストレス、脱臭/付臭、誘因および/または防虫など)。
【0039】
こららは、精油、天然エッセンス、合成エッセンス、および、液状または脂溶性媒体に溶解した天然物質または合成物質のいずれかにより形成された、室温で液体である脂溶性組成物とともに用いられる。
【0040】
室温で液体である脂溶性組成物とともに活物質を微小球に組み込むことは、多孔性架橋ポリマーを、そのガラス転位温度よりも1〜5℃高い温度、好ましくは3℃高い温度で、加熱するだけでよく、これにより、ポリマー内にその細孔ネットワークの性質を変性させることなく容易に組み込むことが可能となる。ポリマーは溶融状態まで達することなく、活物質の特性も維持される。工業的な可塑剤は使用されない。この工程は、このポリマーの物理化学的特性が損なわれないように、十分に短い時間で行うべきであり、その時間は5分未満であり、好ましくは3分未満とする。
【0041】
前記活物質は、前記活物質を含む高分子微小球に対する重量比が、典型的には1〜40重量%となるように、前記多孔性架橋ポリマーに組み込まれる。複数の異なる活物質を、1種類の微小球に包含させるようにしてもよい。微小球に貯蔵される活物質の量は、従来技術のマイクロカプセルに充填できる量よりも多い。
【0042】
次の工程において、1以上の活物質を含む微小球を、可撓性材料の上に配置する。このため、微小球は、可撓性材料の表面に、手作業または機械的手段により、分散される。最初に、可撓性材料が、コンベヤ、その他の自動ラインなどの高い生産性を得るために、被覆工程に適用可能ないずれかの装置に配置される。可撓性材料に微小球が高濃度で供給されるが、この際に、活物質の分散量も調節される。
【0043】
可撓性材料は、繊維性または多孔性の基質からなっている。可撓性材料には、織布、その他の布地などの繊維生地が含まれるが、そのほかにも、不織布構造のものも含まれる。不織布構造の場合、活物質を含んだ微小球は、加熱コーティングにより、配置固定される。さらに、繊維構造を備えない基質でも、表面処理または表面構造の工夫により、多孔性の構造など、微小球を分布させ、固定することを可能とすれば、本発明を適用することができる。好ましくは、可撓性材料は、動物または植物由来の天然繊維または合成繊維からなる織物または不織布から選択される。
【0044】
次に、活物質が充填された微小球を含む可撓性材料全体が、この微小球を構成する多孔性架橋ポリマーの溶融温度よりも1〜10℃高い温度で、加熱される。意外にも、微小球を構成するポリマーの種類に応じて、的確な温度範囲で加熱コーティングすることにより、微小球の多孔性架橋構造を損なうことなく、かつ、ポリマーを溶融状態とすることなく、基質の繊維または細孔に、微小球を固定することが可能となるのである。微小球の作成に使用された多孔性架橋ポリマーの物理化学的特性を維持し、かつ、微小球における相互に接続した細孔ネットワークを通じた活物質の分散を可能とするためには、この工程を十分に短い時間で行う必要がある。好ましくは、この時間は、1〜10秒である。微小球の中における活物質の存在が、微小球の粘性を低下させて、ポリマーを溶融状態とせずに、的確な温度かつ所定の時間で、基質の繊維または細孔に微小球を固定する機能を担っているようである。
【0045】
微小球の作成に複数のポリマーが使用された場合には、被覆工程において、複数の加熱工程を備えるようにする。それぞれの工程において、各多孔性架橋ポリマーの溶融温度よりも1〜10℃高い温度に調節される。この場合、最初に最も溶融温度が高いポリマ−を処理し、最後に最も溶融温度が低いポリマーを処理することにより、溶融によるこれらのポリマーの構造の損傷を回避することができる。この工程により、それぞれの微小球の作成に使用されたポリマーに、さまざまな速度の放出性能を付与することが可能となる。
【0046】
加熱には、被覆された可撓性材料を工業的に生産するために使用される任意の装置が利用できる。たとえば、オーブン、コーティングローラ付きの加熱ユニット、プレス機などがあげられる。加熱とともに圧力を加える場合には、加熱時間を少なく、加熱温度を低くすることができる。圧力を加えることにより、「フラッシュタイム」と呼ばれるきわめて短い時間、かつ、ポリマーの溶融温度よりも低い温度で、微小球の固定が実行できるため、ポリマーおよび貯蔵された活物質の両方の特性を維持する観点から、きわめて有利である。最後の工程として、活物質を含む微小球により覆われた材料を冷却することが行われる。好ましくは、この冷却工程は、適切な冷却装置により実行される。
【0047】
本発明により、1以上の活物質を含み、かつ、これらの活物質が、微小球を形成するために選択されたポリマーの種類に応じて持続的に放出されることを可能とし、もって、ユーザの周囲環境に、持続的かつ長時間にわたるピーク効果をともなった、これらの活物質の放出を可能とする、繊維性または多孔性の基質などからなる可撓性材料が得られる。そのために補助剤が使用されることはないため、ユーザには快適であり、かつ、その健康にも好ましい。本発明により製造された可撓性材料は、活物質を含む微小球を1層以上備えることが可能であり、この場合には、複数の活物質の効果を組み合わせることが可能となる。これらの材料は、ユーザが直接肌に接触させて身につける、下着、ストッキング、ガードル、ベルト、ベストなどの衣料品の形態をとることもできる。その他にも、ユーザに身につけられる、織物製や多孔性材料からなるアクセサリーといった形態をとることもできる。また、これらの材料を衣料品の一部にのみ使用し、身体の所定部分にのみ局所的に活物質を放出させるようにすることもできる。また、活物質を放出させるための衣料品は、ユーザの皮膚に直接触れるように使用されてもよく、接触しないように使用されてもよい。
【実施例】
【0048】
以下の実施例は、本発明の説明のためにのみ提示されるものであって、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきものではない。
【0049】
[微小球の作成]
微小球は、図1に示すような装置により作成される。この装置は、ベース2に載置された混合容器1、温度プローブ3,液体供給装置4、プローブ3に接続された温度計5、容器の蓋7に設けられた観察ポート6、加熱ジャケット8、撹拌システム9、および、排出ポート10に存在する微小球を回収するための排出口11を備える。
【0050】
活物質は、周知技術(たとえば、AB7アンドュストゥリー社によるフランス特許第2901172号参照)を用いて、さまざまなポリマーに投入される。
【0051】
−ポリアミド(ORGASOL(登録商標))、ポリエーテルブロックアミド(PEBAX(登録商標))、エチレン酢酸ビニル(EVA)コポリマー、または他の多孔性架橋ポリマーの微粒(直径5〜200μm)を、活性成分とともに投入し、20〜95℃、好ましくは70℃の低い温度で、取り込む。
【0052】
−この粒状材料からなり、活性成分が組み込まれる、担体ポリマー(微小球)は、隔離(シークエストレーション)により、脂溶性液体の活性成分を保存可能な、「多孔性」架橋ポリマーの群から選択される必要がある。また、このポリマーは、室温で固体であり、かつ、そのガラス転位温度(Tg)が30〜95℃の範囲である。さらに、その溶融温度は75〜180℃の範囲、好ましくは140℃未満である。このポリマーは、組み込まれた活性成分のほぼ全量を放出できるものでなければならない。
【0053】
−この活性成分または活性成分およびその添加剤の溶液は、脂溶性でなければならず、最終製品の40重量%までを占めることができる。これらは、精油、天然エッセンス、合成エッセンス、および、液状または脂溶性媒体に溶解した天然物質または合成物質、薬剤、香料などである。
【0054】
−この活性成分は、ポリマー内に、このポリマーのガラス転位温度よりも1〜5℃高い温度で、好ましくは、3℃高い温度で、加熱することにより、組み込まれる。この加熱は、5分未満、好ましくは3分未満という短い時間で行われ、この際に、工業的な可塑剤は用いられない。この組み込み工程は、冷却により完了し、これよって、組み込まれた活性成分の安定性が確保される。
【0055】
−活物質を含む微小球の作成操作は、次のように行われる。すなわち、
−有効容量が8Lである、ギュンター・パーペンマイア・カーゲー(GUNTHER PAPENMEIER KG)社の高速実験室用ミキサ(混合機)の容器1内に、投入すべき所定量のポリマーを載置し、ジャケット8を循環する温水または他の液体により、加工温度まで予熱し、
−蓋7を閉じて、撹拌システム9でポリマーを撹拌しながら、ポリマーの加熱工程を開始する、
−所定の温度で、撹拌を継続したまま、液状の活性成分を供給装置4により、2〜5分かけて導入する、
−反応温度を3分間維持し、その後、撹拌を継続しながら、ジャケット8により冷却を行う、
−その後、排出ポート10を開き、排出口11から活物質を含む微小球を回収する。
【0056】
[可撓性材料への微小球の被覆]
被覆は、図2に示すような装置を用いて行われる。この装置は、処理される可撓性材料13を送出する送出ロール12、微小球を収容するホッパ14、加熱ユニット15、加圧ロール16、コーティングされる可撓性材料18を送出する別の送出ロール18、コーティングロール付きの加熱ユニット19、冷却ユニット20、被覆された材料21を巻き取る巻き取りロール22を備える。
【0057】
被覆工程は、次のように行われる。すなわち、
A)微小球(直径5〜200μm)のホッパ14から、自由な状態で、または型に入れた状態で、スプール12から送り出された可撓性材料13上に、転送する、
B)加熱ユニット15内で、微小球の基質に応じた温度で加熱を行う、
C)加圧ローラ16により、被覆を材料に対して押圧する、
D)選択的に、加熱コーティング装置19の中で、スプール17から送り出された2つめの可撓性材料18を被覆の上にコーティングする、
E)冷却ユニット20内で、アセンブリを冷却する、
F)被覆された材料21をスプール22に巻き取る。
【0058】
被覆された材料は、
a)単に切断することにより、または、切断および縫い合わせることにより、
b)被覆された表面上にバリア膜をコーティングし、活性成分が別の面から放出されるようにしてから、切断することにより、または、切断および縫い合わせることにより、
c)被覆された表面を織物により覆うことにより、
さまざまな形状に加工することができる。なお、b)の手段は、皮膚に接触する面を被覆面ではなく、別の面として、顔のような敏感な部分に適用される場合に、皮膚にポリマーが直接接触することを回避させる場合に採用される。
【0059】
[実施例1]
微小球の形態の活性ポリマーを織物に被覆するテストを行い、活性成分の放出を検証した。
【0060】
活性成分は、リラックス作用のある香料である、ロベルテット(ROBERTET)社により供給されたエリジア(ELISIA)を用い、これをアルケマ(ARKEMA)社により供給されたオルガソル(ORGASOL;登録商標)2002 EXD NAT 1のポリアミド微小球に組み込んだ。なお、このポリアミドの溶融温度は177℃であり、上述した条件によりこの工程を実施した。
【0061】
織物として、織物業者であるルロ・ギシャールから供給された、1方向に180%、他方向に36%の伸縮性を有する、綿織物を用いた。利点と欠点を判断するために、多くの量の活性微小球をコーティングした。すなわち、
−微小球には、エリジア香料を25%投入し、
−織物はそれぞれ20cm×20cmの大きさとし、
−それぞれの織物に、1gの微小球(2.5mg/cm2、0.625mgの香料を含む)を載荷し、
−織物の上に広がった微小球の上に、羊皮紙を配し、
−加圧ロール付きの加熱装置は用いず、羊皮紙の上から180℃のアイロンで4秒間処理を行った。微小球の織物に対する熱接合が、微小球を事実上溶融させることなく、また、被覆助剤を用いることなく、得られた。微小球は相互に接合するとともに、繊維に接合した。織物への拡散量に応じて、不可視層または可撓性の可視層が形成された。
【0062】
−エリジア香料を含んだ微小球による可撓性の層によって被覆された織物について、室温と炉内の40℃における、その香料の蒸発容量を測定したところ、次のような結果が得られた。すなわち、
−室温では、平均して1日あたり2%の香料が放出され、
−炉内40℃においては、平均して1日あたり4%の香料が放出された。
【0063】
活性成分の放出機能は低下しないばかりか、ポリマーの性質が温度によって変わらないことを確認した。微小球をコーティングする方法によっては、40℃への加熱によって細孔が拡張し、より多く香料を放出するようにはなるものの、これらの細孔の微細なネットワークがひどく損傷されることはないといえる。
【0064】
活性マイクロカプセルを封じ込めるために、活性成分の放出を阻害する被覆ポリマー(バインダ)の使用を要求する、これまでの被覆プロセスと異なり、本発明の方法は、より高い放出性能をもたらすものである。このような活性成分の放出阻害は、封入プロセスにおいても認められる。イオン結合がこのような結果をもたらすようであるが、このシステムでは、織物がマイナスに帯電し、マイクロカプセルがプラスに帯電するという難しさを抱えており、本発明のような簡便さを備えていない。
【0065】
[実施例2]
この例では、微小球を作成する前に、所定の処方が必要とされる活性成分を用いている。このような場合として、痩身作用、脱水作用および脂肪分解作用を得るために、局所的にカフェインを適用しようとする場合がある。この物質は、難溶解性である。脱水して再結晶化してしまうと、もはや皮膚壁を通過することはない。そこで、カフェインは、分散剤、乳化剤、皮膚軟化剤および水とともに処方される。カフェイン量は、製剤全体に対して3%である。このような製剤は、健康関連の問題や毒性をそれ自体有さず、承認され、かつ、治療薬の調合に日常的に使用されている。微小球の作成には、異なる能力を備える2つのポリマーが使用される。最初に、直径8〜12μmで、溶融温度が177℃である、アルケマ(ARKEMA)社により供給されたオルガソル(登録商標)2002 EXD NAT 1のポリアミドが投入され、続いて、直径80μmで、溶融温度が85〜90℃である、レプソル・イェペーエフ(REPSOL YPF)社のエヴァ・アルカディア(EVA ALCUDIA)PA−541のエチレン酢酸ビニルが投入される。
【0066】
面積が750cm2である織物の上に、上記製剤を含む微小球を15000mg、すなわち20mg/cm2の量で、分散させた。実施例1と同様に被覆を行った。その条件は、オルガソルに対しては、180℃で4秒、エヴァに対しては100℃で2秒であった。
【0067】
比較するためだけの目的で、活性成分の放出を速めるため、試料を次のように洗浄した。すなわち、
−各織物の試料を用意し、
−水と線材をベースとした洗浄溶液を閉鎖試験管内に準備し、
−各試料ごとに3片を試験管内に浸漬させ、密封し、回転式の高温保湿チャンバに載置し、試料を撹拌し、
−高温保湿チャンバが一杯となった時点で、装置を作動させて、30℃で30分間保持し、
−この工程が終わったら、試験管を取り外し、手に持って、前後に10回しっかりと振って、洗浄液を除去し、清浄な水で置換し、撹拌と洗浄を4回繰り返し、
−試料を取り出して、空気中で乾燥させ、重さを測定し、
−試料に残ったカフェインを、クロマトグラフィで量を測定するために、抽出した。
【0068】
カフェインの相対放出量は、エヴァで63%、オルガソルで95%であった。
この結果から、次のことが導かれる。すなわち、
−高い融点の微小球は、ほとんどの活性物質を放出するものであって、その溶融温度とコーティング温度の差が小さいことに起因して、被覆工程での構造的変化を受けにくいものである。
【0069】
−ポリマーは、細孔の微小ネットワークからなるその基質の微細構造が破壊されなければ、その反応性は高くなる。
【0070】
−材料を事実上溶融させることなく、微小球を被覆するシステムは、ポリマーを完全に溶融させ、あるいは、射出により、完全に溶融させた状態で、ポリマーフィルムを得る、従来の被覆方法と比べて、非常に大きな利点を有する。溶融したポリマーでは、細孔ネットワークにほとんど連続性のない微細構造組織に起因して、放出性能がきわめて低くなってしまう。
【0071】
[実施例3]
実施例2における、エヴァを用いたカフェインを含む微小球を、実施例1および2で用いた伸縮性の織物にコーティングした。この織物は、脂肪分解および脱水作用による痩身ベルトとして使用されるものである。ベルトは、長さ120cm、幅15cmであり、面積が1800cm2であった。微小球は、19mg/cm2の被覆量(0.57mg/cm2のカフェイン量)で、熱的に結合された。加熱条件は、100℃で2秒であった。ポリマーのほとんどにおいて、84℃の溶解温度に事実上到達していなかった。3種類のテストを実施した。すなわち、
−皮膚に直接ベルトを巻いて20日間経過する、
−皮膚に直接接触させることなく、衣服の上に巻いて20日間経過する、
−ベルトを巻くことなく20日間放置する。
【0072】
このテストから、
−ベルトを巻くことにより、ウエスト周囲において3〜4cmの減少が認められ、
−皮膚に20日間巻いたベルトからは、平均して55%のカフェインの減少、すなわち、1日あたり0.04mg/cm2の減少が認められ、これら2つの事実から、カフェインが実際に放出され、その機能を果たしたことが認められ、
−皮膚に接触させることなく、衣服の上に巻いたベルトでは、主に摩擦に起因することが明らかである、5%のカフェインの減少が認められ、そして、
−巻かずに、外気に晒した状態のベルトからは、カフェインが喪失した代わりに、湿気を含んでいることが認められた。
【0073】
このように本発明の方法は、織物の特徴と、微小球の活性成分の貯蔵体としての適切な機能を保持することにより、活性成分の適切な放出をもたらすものであるといえる。
【0074】
[実施例4]
実施例3における、エヴァを用いたカフェインを含む微小球により被覆された織物試料から、20cm2の試料片を切り出し、接着フィルムを用いて、パッチとして適用した。
【0075】
実施例3と同様の分析条件で、20日間経過したものについて測定したところ、このパッチから、79%のカフェインが放出されていた。ベルトの例との比較で、同じ面積あたり、24%の増加である。
【0076】
外面をフィルムにより保護することで、1つの方向への転送が促進され、被覆材料から皮膚へのカフェインの転送が増強されたことが理解される。
【0077】
[実施例5]
この例では、美容作用のあるカフェイン、美容液、化粧用乳化剤、化粧用ゲル化剤、化粧用皮膚軟化剤を含む活性調合物を、アルケマ社により供給され、175℃の溶解温度を有する、リルサン(RILSAN;登録商標)B粉末(ポリアミド11)に、次のように、表面吸着させることにより得た微小球を使用した。すなわち、
−リルサン(登録商標)を68%と、カルボポル ウルトレッズ 21を1%とを混合機内で予熱し、
−カフェインを10%、水(5%)、グリセロール(5%)、オイムルギン(EUMULGIN;登録商標)(1%)、オイタノル(EUTANOL;登録商標)(10%)に、70℃で溶解し、
−熱溶液を混合機に注ぎ、
−得られた活性微小球粉末を冷却し、取り出した。
【0078】
乾燥した活性微小球は、2層のコットンの間に配置され、ハイドロバポリゼーション(hydrovaporisation)およびサーモプレッシング(thermopressing)により、120〜150℃、好ましくは130℃に1秒保持した。この活性コットンを、四角形または円形に加工した。この材料は、クレンジングローションをスプレーした後で、皮膚に貼って使用した。なお、ローションは、リルサン(登録商標)Bの上に吸着された活性混合物を直ちに溶解させ、これらを皮膚に転送する。このような活性成分の被覆は、これまでの被覆法によっては事実上達成できなかったものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)多孔性架橋ポリマーを選択し、
b)1以上の活物質を含み、室温で液体である脂溶性組成物を、前記ポリマー内に、該ポリマーのガラス転位温度よりも1〜5℃高い温度で加熱することにより、包含させ、前記活物質を含む高分子微小球を得て、
c)前記高分子微小球を可撓性材料の上に配置し、
d)前記高分子微小球をともなった可撓性材料を、前記ポリマーの溶融温度よりも1〜10℃高い温度で、該ポリマーを溶融状態とすることなく、加熱し、
e)前記高分子微小球が含浸した前記可撓性材料を冷却する、
工程を備えた、1以上の活物質を含む高分子微小球を、溶融することなく、可撓性材料に被覆させる方法。
【請求項2】
前記多孔性架橋ポリマーが、ポリアミド、ポリエーテルブロックアミド、およびエチレン酢酸ビニルの中から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ポリアミド、ポリエーテルブロックアミド、およびエチレン酢酸ビニルの中から選択された異なる多孔性架橋ポリマーにより、数種類の高分子微小球を形成し、これらを前記工程b)で混合する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記活物質が、治療効果、美肌効果、または嗅覚効果を有する化合物から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記活物質が、鎮痛、消炎、静脈血行促進、痩身用脂肪分解および/または脱水、保湿、鎮静、老化防止用抗酸化および/または再構築および/または修復、浄化、脚のむくみ緩和、抗ストレス、脱臭/付臭、誘因および/または防虫の効果を有する分子から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記室温で液体である脂溶性組成物が、精油、天然エッセンス、合成エッセンス、および、液状または脂溶性媒体に溶解した天然物質または合成物質のいずれかにより形成されたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記工程b)を5分未満の時間で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記工程b)において、前記活物質を、前記活物質を含む高分子微小球に対する重量比が1〜40重量%となるように、前記多孔性架橋ポリマーに包含させる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
性質の異なる複数の前記活物質を1種類の前記高分子微小球内に包含させる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記可撓性材料が、前記高分子微小球を溶融状態とすることのない加熱塗布により、その上に該高分子微小球を配置し、固定することが可能な、繊維状物質または多孔性物質により構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記可撓性材料が、動物性または植物性の天然繊維または合成繊維により構成される織布または不織布からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記工程d)を1〜10秒の時間で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記工程d)において、前記ポリマーの溶融温度よりも1〜10℃高い温度の範囲内で、前記加熱を複数段階で行い、かつ、前記高分子微小球を溶融させることなく、最初に最も高い温度で、最後に最も低い温度で、加熱を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記工程d)の間、前記加熱と同時に加圧する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載の方法により得られ、衣類、下着類、もしくは、使用者が身につけることが可能な織物製アクセサリーまたは多孔性アクセサリーの形態を採る、1以上の活物質を含む高分子微小球により被覆された可撓性材料。
【請求項16】
請求項1〜14のいずれかに記載の方法により得られ、直接接触または非接触により、使用者の皮膚への前記活物質の拡散を調節することが可能である、1以上の活物質を含む高分子微小球により被覆された可撓性材料。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−517534(P2012−517534A)
【公表日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−548746(P2011−548746)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【国際出願番号】PCT/FR2010/050127
【国際公開番号】WO2010/089492
【国際公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(511185302)
【Fターム(参考)】