説明

可視光応答型二酸化チタン−二酸化ケイ素系光触媒コーティング溶液の製造方法及び可視光応答型二酸化チタン−二酸化ケイ素系光触媒コーティング溶液

【課題】本発明は、基盤材料の表面に塗膜処理を施して常温で乾燥させることにより可視光応答型光触媒被膜を形成する可能なコーティング溶液の製造方法および該可視光応答型二酸化チタン-二酸化ケイ素系光触媒コーティング溶液に関する。
【解決手段】Ti(OR)4 [Rは互いに独立で、炭素数1〜6の炭化水素基]で表わされるアルコキシチタン化合物ないしチタンアセトナトキレート化合物から選ばれる少なくとも1種の有機チタン化合物と、Si(OR)4 [Rは互いに独立で、炭素数1〜6の炭化水素基]で表わされるアルコキシシランないしシランアセトナトキレート化合物から選ばれる少なくとも1種の有機ケイ素化合物とを、混合した混合溶液に、酸触媒および尿素を加えたのち、加圧下に100〜200℃の温度に加熱し、1分から72時間反応させてアナターゼ型酸化チタンを含む二酸化チタン‐二酸化ケイ素複合型潤ゲルを調製する工程を含むことを特徴とする可視光応答型光触媒コーティング溶液の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基盤材料の表面に塗膜処理を施して常温で乾燥させることにより可視光応答型光触媒被膜を形成する可能なコーティング溶液の製造方法および該可視光応答型二酸化チタン-二酸化ケイ素系光触媒コーティング溶液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、その表面に紫外線が照射されるとそれを吸収して自由電子と正孔が生成する。この電子や正孔が有機物に作用するとそれを最終的には水と二酸化炭素に分解する。このことから防汚、防臭、抗菌等の特性を発揮する。光触媒能を有する代表的な物質には、二酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛等の金属硫化物や硫化カドミウム、硫化銅等の硫化物があり、その中でもアナターゼ型の二酸化チタンの光触媒能が極めて高いことが知られている。
【0003】
そのため、二酸化チタン被膜を基材表面に形成して光触媒能を持たせる種々の技術が提案されている。例えば、基材表面に二酸化チタン粒子を付着させた後焼結し、二酸化チタン粒子を含むコーティング溶液を基材表面にコートした後、焼成して光触媒被膜を形成する技術などが挙げられる。
【0004】
しかしながら、従来の方法では基材表面に光触媒被膜を形成する際には数百℃もの高温での焼成過程が不可欠であり、基材に耐熱性が必要である。このため、光触媒をコーティングできる基材に制限があった。また、既に建てられている家の壁など既存の材料に新たに光触媒能を付与する場合は非常に困難であった。また、二酸化チタンを含む光触媒塗料では、バインダーとして種々の酸化物などが含まれており、それらが二酸化チタン粒子の表面を覆ってしまい、光吸収によって生成する電子や正孔と分解したい有機物との接触が阻害され十分な光触媒特性を得ることが困難となる。
【0005】
最近、チタンアルコキシドを加水分解して、非晶質チタニアゾルを形成したのち、水存在下に擬似水熱合成することで、結晶粒径20nm以下のアナターゼを調製することが記載されている(特開2001−262007号公報(特許文献1)、特開2001−262008号公報(特許文献2))。
【0006】
また、本出願人も特開2007−112905号(特許4125316号、特許文献3)では、有機溶媒にジメチルホルムアミドとチタンアルコキシドと硝酸を加え撹拌し得られた湿潤ゲルを溶解し、分散してコーティング液とすることで短時間での常温乾燥により、基材に強固に付着し、耐水性に優れた可視光透過型光触媒コーティング膜を作製できることを提案している。
【0007】
しかしながら、特許文献1〜3に記載された方法では、可視光下での光触媒特性が低く、基材に対する固着力が弱いため実用性が低かった。
光触媒反応の更なる効率化、また太陽光を利用できる可視光応答型光触媒材料の開発に向けた研究も盛んに行われている。従来の光触媒は、酸化チタン系の材料を用いた、紫外光で反応するタイプのものが主流で、主に屋外での用途に限定されることも多かったが、光吸収帯域の範囲を広げ、また、低照度の可視光でも十分な反応を得ることに望まれている。たとえば、紫外光を含まない白色LEDの光に対しても同様の効果があるものも望まれている。
【0008】
このような可視光応答型二酸化チタンの例として二酸化チタンの構造中に含まれる酸素を窒素で置換することにより、可視光下で光触媒活性を示すことが報告されている(非特許文献1)
【0009】
しかしながら、このような酸化チタン系可視光応答型光触媒では、十分な反応を起こすには高照度が必要であり、可視光領域の光では十分に反応しないなど、期待されるほどの効果が得られていなかった。しかも、基材との密着性も不充分であり、剥離しやすいという欠点もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−262007号公報
【特許文献2】特開2001−262008号公報
【特許文献3】特開2007−112905号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】R.Asahi, T.Morikawa, T.Ohwaki, Y.Taga:Science,293,269(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
一般に、光触媒能を持った粒子を含むコーティング液を用いて、加熱処理せずに常温で作製した光触媒被膜は基材に対する付着力は弱く、容易に剥離する。特にガラスなど透光性を有する基材上にこのようなコーティング液を塗布すると、透光性が損なわれる。さらに、二酸化チタンのような光触媒は光触媒特性の発現に紫外光が必要である。そのため、日常生活において応用範囲が狭い。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、可視光の透光性を損なわずかつ基材(特にガラス)との付着力の著しい改善と可視光下での高い光触媒特性の発現を実現したものである。比較的短時間で、可視光を80%以上透過し、基材から容易に剥離せず、なおかつ可視光下での光触媒特性が高い光触媒被膜を形成できる光触媒コーティング溶液の製造方法および光触媒コーティング溶液を提供することを目的としている。
【0014】
そしてこのような課題を解決すべく、本発明者は鋭意検討した結果、二酸化チタンとともに、二酸化ケイ素を含有させ、しかも、反応時に尿素を使用することで、可視光領域での光触媒活性を有するとともに、しかも基材との密着性を高めることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
本発明の可視光応答型光触媒コーティング溶液の製造方法は、 Ti(OR)4 [Rは互いに独立で、炭素数1〜6の炭化水素基]で表わされるアルコキシチタン化合物ないしチタンアセトナトキレート化合物から選ばれる少なくとも1種の有機チタン化合物と、
Si(OR)4 [Rは互いに独立で、炭素数1〜6の炭化水素基]で表わされるアルコキシシランないしシランアセトナトキレート化合物から選ばれる少なくとも1種の有機ケイ素化合物とを、
混合した混合溶液に、酸触媒および尿素を加えたのち、加圧下に100〜200℃の温度に加熱し、1分から72時間反応させてアナターゼ型酸化チタンを含む二酸化チタン‐二酸化ケイ素複合型潤ゲルを調製する工程を含むことを特徴としている。
【0016】
前記湿潤ゲル調整工程において、
混合溶液に、あらかじめ、尿素を0.001〜0.3重量%の量で添加することが好ましい。
【0017】
有機チタン化合物と有機ケイ素化合物の比率が、Si/Tiの原子換算した比率で(0.1)〜(0.4)の範囲となるように混合することが好ましい。このような原子比で混合することで、可視光での光触媒活性を高めることができる。
【0018】
また、前記湿潤ゲル調製工程の後、2-エトキシエタノール、1-メトキシエタノール、2-プロパノールから選ばれる少なくとも1種の有機溶媒からなる溶液に、
得られた湿潤ゲルを溶解する工程(湿潤ゲル溶解工程)を含むことが好ましい。
【0019】
本発明に係る製造方法では、ゲル調製工程において、70〜85重量%の有機溶媒に、酸触媒を0.1〜7重量%、尿素を0.001〜0.3重量%加えた後、有機チタン化合物を6〜15重量%、有機ケイ素化合物を0.1〜10重量%の量で添加することが好ましい。
【0020】
このような方法により、可視光に対して透明であり、基材から容易に剥離せず、なおかつ可視光下での光触媒特性を有するコーティング膜を形成できる。
また、本発明に係る可視光応答型二酸化チタン-二酸化ケイ素系光触媒コーティング溶液は、前述したいずれのコーティング溶液の製造方法により得られる溶液であることを特徴としており、この溶液によれば、基材に塗布・乾燥後、可視光に対して透明であり、かつ剥離し難く可視光下において光触媒特性に優れたコーティング膜を形成する。
【発明の効果】
【0021】
以上の本発明によれば、短時間で常温乾燥により、基材(特にガラス)に強固に付着し、耐水性と耐摩耗性に優れた可視光応答型二酸化チタン-二酸化ケイ素系光触媒コーティング膜を形成することができる。
【0022】
このようなか可視光応答型の光触媒は、屋内などの低照度環境でも高いガス分解性能や抗菌作用をもつため、室内の壁紙や家具をはじめ家庭内や病院、学校などの公共施設内での環境浄化、家電製品の高機能化など、広範囲への適用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る可視光応答型二酸化チタン-二酸化ケイ素系光触媒コーティング溶液の製造方法を示すフロー図である。
【図2】実施例1で調製した湿潤ゲルのX線回折図である。
【図3】実施例2で調製した湿潤ゲルのX線回折図である。
【図4】実施例3で調製した湿潤ゲルのX線回折図である。
【図5】可視光応答型二酸化チタンのX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明に係る可視光応答型二酸化チタン-二酸化ケイ素系光触媒コーティング溶液の製造方法及び可視光応答型二酸化チタン-二酸化ケイ素系光触媒コーティング溶液の実施形態について説明する。
【0025】
本実施形態の光触媒コーティング溶液の製造方法は、主として加圧加熱下で生成した超微粒子が二次元ネットワークを形成して湿潤ゲルを調製するステップと、必要に応じて湿潤ゲルを有機溶媒中に分散させるステップとからなる。このような工程は概略図1に示される。
【0026】
湿潤ゲル調製工程
湿潤ゲルを調製する工程は、有機溶媒に酸触媒と尿素を混合するステップと、それに有機チタン化合物と有機ケイ素化合物を加えて撹拌するステップと、さらに加圧加熱するステップを経て行われる。
【0027】
本発明で使用される有機チタン化合物と有機ケイ素化合物は加水分解速度が極めて遅く、徐々に加水分解が生じる。通常、室温下では、アルコキシチタンなどの有機チタン化合物は通常72時間以上、アルコキシシランなどの有機ケイ素化合物は通常168時間以上の時間がかかる。このため、特段の条件で採用しない場合、これらの反応速度は極めて遅く、室温下では通常72時間以上の時間がかかる。加えて、この条件では得られる湿潤ゲルは非晶質の微粒子から構成されており、顕著な光触媒特性を示さない。そこで、加圧加熱下で反応させると72時間以内に加水分解反応が終了し、可視光下においても優れた光触媒特性を示す結晶を有する湿潤ゲルを得ることができる。また、反応時間の下限は1分間以上であればよく、より望ましい反応時間は24〜72時間である。
【0028】
有機溶媒としては、前記アルコキシド類が溶解ないし分散するものであれば特に制限されず、エチルアルコール、メチルアルコール、プロピルアルコール(異性体も含む)、ブチルアルコール(異性体も含む)、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ等が挙げられる。また、チタンアルコキシドには、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、テトラエトキシチタネート、テトラ2−エチルヘキシルチタネートなど、シリカアルコキシドには、テトラメチルシリケート、テトライソプロピルシリケート、テトラノルマルブチルシリケート、テトラエトキシシリケート、テトラ−2−エチルヘキシルシリケートが挙げられる。
【0029】
また、酸触媒としては硝酸、塩酸等が挙げられ、この中でも硝酸が好ましい。アルカリ触媒は本発明のゾル・ゲル反応には好ましくない。
本発明において、尿素を添加する理由は、二酸化チタンの酸素サイトを窒素で置換し、光触媒特性を上げ可視光応答性を発現するためである。
【0030】
有機チタン化合物としては、Ti(OR)4 [Rは互いに独立で、炭素数1〜6の炭化水素基]で表わされるアルコキシチタン化合物およびチタンアセトナトキレート化合物が挙げられ、アルコキシチタン化合物としては、チタンテトラエトキシド、チタンテトライソプロピキシド、チタンテトラブトキシドなどが挙げられ、チタンアセトナトキレート化合物としては、チタンアセチルアセトナトキレート錯体が挙げられる。これらのうち、有機チタン化合物としては、チタンテトライソプロポキシドが望ましい。
【0031】
有機ケイ素化合物としては、Si(OR)4 [Rは互いに独立で、炭素数1〜6の炭化水素基]で表わされるアルコキシシラン化合物およびシランアセトナトキレート化合物が挙げられ、アルコキシシラン化合物としては、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、ジエトキシジメトキシシラン、ジエトキシジプロポキシシランなどが挙げられ、シランアセトナトキレート化合物としては、シランアセチルアセトナトキレート錯体が挙げられる。これらのうち、有機チタン化合物としては、テトラエトキシシランが望ましい。
【0032】
本実施形態における有機チタン化合物、有機ケイ素化合物、尿素、酸触媒、有機溶媒の好ましい含有量について説明する。
有機チタン化合物、有機ケイ素化合物、尿素、酸触媒、有機溶媒の合計を100重量%としたときに、有機チタン化合物の含有量は、6〜15重量%の範囲、好ましくは9〜13重量%とすることが好ましい。また、有機ケイ素化合物の含有量は、0.1〜10重量%の範囲、好ましくは0.5〜5重量%とすることが好ましい。
【0033】
有機チタン化合物と有機ケイ素化合物の合計量は、6.1〜25重量%、好ましくは9.5〜18重量%の範囲とすることが望ましい。
上記を反応させると、72時間以内に二酸化チタン−二酸化ケイ素系湿潤ゲルが得られ、これを有機溶媒に均一に分散する。このようなゲル得られる被膜は無色透明であり、有機ケイ素化合物の添加量が多くなるにつれて基板に対する付着力も強固となる。なお有機チタン化合物が多すぎると、酸触媒の入っている溶液に有機チタン化合物を添加した途端に加水分解反応が進行し、湿潤ゲルを調製できないことがある。また、有機ケイ素化合物が多すぎると光触媒特性が低下する。
【0034】
このため、有機チタン化合物と有機ケイ素化合物の混合比率としては、Si/Tiの原子換算した比率(モル比)で、0.1〜0.4、好ましくは0.15〜0.30の範囲となるように混合することが望ましい。この範囲にすると、可視光で光触媒活性が高くしかも基材との密着性を高くできる。なお、この比が少なすぎると、実質的に二酸化ケイ素を複合していないことになり、密着性が低くなり、また可視光での活性も低くなる。一方、比が大きすぎると、二酸化ケイ素成分が増えるために、可視光でも紫外光でも触媒活性が低くなる。特に、Si/Tiが、0.15〜0.30にあると、可視光での触媒活性も高く、しかも、基材との密着性に優れたコーティングを形成できる。
【0035】
尿素の添加量は0.001〜0.3重量%、好ましくは0.01〜0.1重量%、より好ましくは0.06〜0.08重量%の範囲にあることが望ましい。添加量が少なすぎると、可視光下での光触媒特性が得られず、多すぎても却って光触媒特性が逆に低下する。
【0036】
酸触媒の含有量は0.1〜7重量%、好ましくは1〜3重量%の範囲にある。この範囲にあれば、72時間以内でゲル化が終了し、二酸化チタン−二酸化ケイ素とが複合した湿潤ゲルが得られる。酸触媒が多すぎると、二酸化チタンの加水分解が急激に進行するので二酸化チタンと二酸化ケイ素が複合しないため、強固な付着力が得られない。
【0037】
本発明では、ゲル調製工程で、酸触媒と尿素を加えたのち、直ちに加圧下で、100〜200℃、好ましくは、150〜200℃の温度に加熱する。なお、「直ちに」とは、酸触媒と尿素を添加終了後、保持することなく直ぐに加熱することである。
【0038】
本実施形態における湿潤ゲルの調製時の好ましい温度と時間について説明する。湿潤ゲルの調製時の温度が、低すぎると得られた湿潤ゲルはアナターゼ相の二酸化チタンとはなるものの結晶性が低い。また温度が高すぎても湿潤ゲルは結晶性が高いが比表面積が小さくなる。
【0039】
このため150〜200℃の温度範囲内とすることが好ましい。湿潤ゲルの調製時の反応時間は、1分〜72時間以内とすることが好ましい。アルコキシドの種類、目的とする酸化チタンの結晶性や酸触媒の濃度に応じて、反応時間は適宜選択される。なお、反応時間がこれ以上長くしても何ら問題となることはないものの効率が悪い。
【0040】
このような湿潤ゲル調製時の反応は、通常、加圧下で行われる。加圧は、大気圧よりも高い圧力となれば特に制限されるものではない。通常、このような加圧下での加熱はオートクレーブなどの耐圧加熱容器が使用される。
【0041】
湿潤ゲル分散工程
本発明では、前記湿潤ゲル調製工程の後、2-エトキシエタノール、1-メトキシエタノール、2-プロパノールから選ばれる少なくとも1種の有機溶媒からなる溶液に、得られた湿潤ゲルを分散する工程(湿潤ゲル分散工程)を行ってもよい。このような湿潤ゲル分散工程によって、透明なコーティングを形成することが可能となる。
【0042】
また、有機溶媒は可視光応答型二酸化チタン-二酸化ケイ素系湿潤ゲルに対して、70〜90重量%の範囲内で含有させることが好ましい。70重量%より少ないと溶液中の湿潤ゲルの濃度が濃くなりすぎて、基材上に被膜を形成した際に亀裂や剥離が生じるおそれがある。一方、80重量%より多いと溶液中の湿潤ゲルの濃度が薄くなり、基材上に被膜を形成した際の被膜の光触媒特性が低下して容易に剥離するおそれがある。
【0043】
本発明の製造方法では、必要に応じて、湿潤ゲルを洗浄したり、濃縮してもよい。これらの方法については公知の方法を特に制限なく採用することができる。
本発明に係る可視光応答型二酸化チタン-二酸化ケイ素系光触媒コーティング溶液は、上記した方法で製造される。製造されたコーティング溶液は、基材への付着性が高く、さらに、可視光透過性が高く、しかも可視光下での光触媒特性も高い。
【0044】
次に、本実施形態における湿潤ゲルの生成相及び可視光応答型二酸化チタン-二酸化ケイ素系光触媒コーティング溶液を常温塗布させた被膜の各種の性能試験を行った。なお、以下の各実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0045】
[実施例1]
本発明の実施例1の可視光応答型二酸化チタン-二酸化ケイ素系光触媒コーティング溶液は、以下のようにして調製した。
【0046】
2−プロパノール85.6重量%に対して、0.5mol/Lの硝酸を2.6重量%及び尿素を0.76重量%加えた後、これを撹拌しながらテトラエトキシシラン0.9重量%を加えて攪拌しチタンテトライソプロポキシド10.1重量%を加えた。この溶液を耐圧容器内に入れ、170℃で72時間加熱して湿潤ゲルを調製した。
【0047】
2−メトキシエタノール89.5重量%に対して調製した湿潤ゲル10.5重量%を加えて分散し、可視光応答型二酸化チタン-二酸化ケイ素系光触媒コーティング溶液を調製した。
【0048】
[実施例2]
2−プロパノール85.2重量%に対して、0.5mol/Lの硝酸を2.6重量%及び尿素を0.76重量%加えた後、これを撹拌しながらテトラエトキシシラン1.4重量%を加えて攪拌しチタンテトライソプロポキシド10.0重量%を加えた。この溶液を耐圧容器内に入れ、170℃で72時間加熱して湿潤ゲルを調製した。
【0049】
2−メトキシエタノール82.3重量%に対して調製した湿潤ゲル17.7重量%を加えて分散し、可視光応答型二酸化チタン-二酸化ケイ素系光触媒コーティング溶液を調製した。
【0050】
[実施例3]
2−プロパノール84.2重量%に対して、0.5mol/Lの硝酸を2.5重量%及び尿素を0.75量%加えた後、これを撹拌しながらテトラエトキシシラン2.4重量%を加えて攪拌しチタンテトライソプロポキシド10.0重量%を加えた。この溶液を耐圧容器内に入れ、170℃で72時間加熱して湿潤ゲルを調製した。
【0051】
2−メトキシエタノール75.4重量%に対して調製した湿潤ゲル24.6重量%を加えて分散し、可視光応答型二酸化チタン-二酸化ケイ素系光触媒コーティング溶液を調製した。
【0052】
『試験1:紫外線照射下におけるコーティング膜の色素分解試験』
各実施例のコーティング膜の光触媒特性を調べるために、紫外線照射(約1000μW/cm2)下及び可視光照射下における10mg/Lのメチレンブルー溶液の分解試験を行った。試料は可視光応答型二酸化チタン-二酸化ケイ素系光触媒コーティング溶液をシャーレ内側にコーティングし、乾燥後、それにメチレンブルー溶液を20ml入れて暗室内で紫外線及び可視光を照射し、メチレンブルーの色が完全に退色するまでの時間を計測した。
【0053】
なお、対象試料として可視光応答型二酸化チタン-二酸化ケイ素系光触媒コーティング溶液をコーティングしないものと、実施例1の方法でアルコキシシランを入れないで作製した可視光応答型二酸化チタンを作製し、メチレンブルー溶液を入れ同様の試験を行った。
【0054】
図2〜4に実施例1〜3で得られた湿潤ゲル、図5に前記可視光応答型二酸化チタンのX線回折図を示す。
以上のような試験について、実施例1から実施例3で調製したコーティング溶液について評価し、その結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

可視光応答型二酸化チタン-二酸化ケイ素系光触媒コーティング溶液をシャーレ内側にコーティングし、乾燥後、それにメチレンブルー溶液を20ml入れて暗室内で紫外光および可視光を照射した結果、表1に示すように実施例1〜3とTiO2のいずれにおいてもメチレンブルーの分解が確認された。これに対して可視光応答型二酸化チタン-二酸化ケイ素系光触媒コーティング溶液をコーティングしていない試料ではメチレンブルーの分解は全く認められなかった。特に、実施例2は可視光下において高い可視光での光触媒特性が認められた。
【0056】
『試験2:コーティング膜の基材に対する付着力の測定』
各実施例のコーティング膜の基材に対する付着力を調べるために、流水試験、乾スポンジによる摩擦試験、引き剥がし試験を行った。
【0057】
流水試験は薄膜に強めの流水に30秒間当て、自然乾燥の後、薄膜の様子を観察した。摩擦試験は乾スポンジを薄膜に当て、強めに10回擦った後、薄膜の様子を観察した。
流水試験と磨耗試験の評価基準を以下に示す。
【0058】
引き剥がし試験は薄膜に15×15マス、幅1 mmの傷をカッターで付け、そこにセロハンテープ(登録商標)を張り付け、引き剥がし、薄膜の剥離具合を剥離%(剥離したマスの数/15×15マス)で評価した。
【0059】
結果をあわせて表2に示す。
4:コーティング膜の剥離なし
3:コーティング膜の一部分が剥離
2:コーティング膜の半分以上の部分が剥離
1:コーティング膜の全てが剥離
【0060】
【表2】

二酸化ケイ素成分を含まない可視光応答型二酸化チタンにおいては、基材からコーティング膜の剥離が認められたが実施例1〜3については、流水試験ではコーティング膜の剥離は認められなかった。磨耗試験、剥離試験ともに、実施例は高い密着性を有するコーティングが形成されていた。また、コーティングは透明性が高く、厚さのムラもなかった。
【0061】
以上のような各試験結果より、本発明により可視光応答型二酸化チタン-二酸化ケイ素系光触媒コーティング溶液を基材にコーティングすることで、透明かつ可視光での光触媒特性が高い、コーティングを基材に容易に付与することができ、しかも得られたコーティングは密着性が高く、剥離しにくい。
【0062】
なお、本発明に係る可視光応答型二酸化チタン-二酸化ケイ素系光触媒コーティング溶液の製造方法及び、これによる溶液は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ti(OR)4 [Rは互いに独立で、炭素数1〜6の炭化水素基]で表わされるアルコキシチタン化合物ないしチタンアセトナトキレート化合物から選ばれる少なくとも1種の有機チタン化合物と、
Si(OR)4 [Rは互いに独立で、炭素数1〜6の炭化水素基]で表わされるアルコキシシランないしシランアセトナトキレート化合物から選ばれる少なくとも1種の有機ケイ素化合物とを、
混合した混合溶液に、酸触媒および尿素を加えたのち、加圧下に100〜200℃の温度に加熱し、1分から72時間反応させてアナターゼ型酸化チタンを含む二酸化チタン‐二酸化ケイ素複合型潤ゲルを調製する工程を含むことを特徴とする可視光応答型光触媒コーティング溶液の製造方法。
【請求項2】
前記湿潤ゲル調整工程において、
混合溶液に、あらかじめ、尿素を0.001〜0.3重量%の量で添加する請求項1に記載の可視光応答型光触媒コーティング溶液の製造方法。
【請求項3】
有機チタン化合物と有機ケイ素化合物の比率が、Si/Tiの原子換算した比率で0.1〜0.4の範囲となるように混合することを特徴とする請求項1または2に記載の可視光応答型光触媒コーティング溶液の製造方法。
【請求項4】
前記湿潤ゲル調製工程の後、2-エトキシエタノール、1-メトキシエタノール、2-プロパノールから選ばれる少なくとも1種の有機溶媒からなる溶液に、
得られた湿潤ゲルを溶解する工程(湿潤ゲル溶解工程)を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の可視光透過型光触媒コーティング溶液の製造方法。
【請求項5】
ゲル調製工程において、70〜85重量%の有機溶媒に、酸触媒を0.1〜7重量%、尿素を0.001〜0.3重量%加えた後、有機チタン化合物を6〜15重量%、有機ケイ素化合物を0.1〜10重量%の量で添加することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の可視光透過型光触媒コーティング溶液の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法で得られた可視光透過型光触媒コーティング溶液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−107068(P2013−107068A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−268912(P2011−268912)
【出願日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年10月27日〜28日 日本セラミックス協会東北北海道支部主催の「第31回基礎科学部会東北北海道支部地区懇話会 講演要旨集」において文書をもって発表
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】