説明

台車装置

【課題】 所望の吊り物を所定の場所に位置決め得るのはもちろんのこと、その際の簀の子上のガイドレールに沿う台車の移動および停止を容易にする。
【解決手段】 人力の作用時にガイドレール1に沿って移動すると共に人力の解除時にガイドレール1上に着座して水平あるいはほぼ水平になる停止状態に維持される台車2を有してなる台車装置において、台車2が停止状態時にガイドレール1あるいはガイドレール1に近隣する他部(G)から離座する転動手段3を有してなると共に、この転動手段3が台車2の先端に保持されながらこの台車2の後端を人力で上昇させる傾斜時にガイドレール1あるいは上記の他部(G)に着座して転動可能とされてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、台車装置に関し、特に、人力でガイドレールに沿って移動する台車を有する台車装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、劇場の舞台の上方に形成されている簀の子上には、いわゆる吊り物を吊り下げる台車が配在されていて、この台車を人力によって所望の位置に移動することで、所望の吊り物を舞台上や舞台上方の所定位置に位置決め得るとしている。
【0003】
このとき、これまで、台車は、簀の子上に展設されているガイドレール、すなわち、舞台の正面奥から客席側に向かうように展設されているガイドレールに沿って移動するとしている。
【0004】
また、台車は、移動先で完全な停止状態に維持されるように、車輪やローラなどの転動手段を有しない構成とされており、したがって、人力による移動時には、ガイドレール上を滑らせるようにして、すなわち、摺動抵抗に抗するようにして言わば強制的に移動されるとしている。
【0005】
一方、台車が車輪やローラなどの転動手段を有していて、人力による移動を容易に実現し得るとしながらも完全な停止状態をも維持できるようにした台車の提案が、たとえば、特許文献1に開示されている。
【0006】
それゆえ、この特許文献1に開示の転動手段を有する提案を上記の台車に具現化すれば、ガイドレールに沿って台車の移動とガイドレール上での停止状態とを容易に実践し得ることになる。
【特許文献1】特開平11−139315号公報(特許請求の範囲 請求項1,段落0008,図3,図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した提案にあっては、台車を必要以上に傾斜させることになるので、所望の利用状態を具現化できなくなる危惧があると指摘される可能性がある。
【0008】
すなわち、上記した提案にあっては、転動手段たる車輪を保持するいわゆるブラケットが台車を構成する枠に突設される支持軸に枢着されていて、この支持軸を旋回中心にしてブラケットごと車輪が旋回することで、車輪を利用する移動時態勢と車輪を利用しない停止時態勢とを選択し得るとしている。
【0009】
それゆえ、移動時態勢と停止時態勢とを選択するについては、ブラケットごと車輪を旋回することが必須になり、このとき、少なくとも車輪の半径よりも大きい寸法に形成されているブラケットを旋回するためには、台車のいわゆる後端側を大きく持ち上げるようにすることが必須になる。
【0010】
その結果、台車が、たとえば、横置き状態にあって水平方向に回転するプーリにワイヤを巻装している場合などにあっては、台車が必要以上に傾斜されるのはワイヤがプーリから外れるのを助長することになって好ましくなく、したがって、上記の提案を簀の子上のガイドレールに沿って移動可能および停止可能にする台車に具現化し得ないことになる。
【0011】
この発明は、上記した現状を鑑みて創案されたものであって、その目的とするところは、所望の吊り物を所定の場所に位置決め得るのはもちろんのこと、その際の簀の子上のガイドレールに沿う台車の移動およびガイドレール上での台車の停止状態の維持を容易にして、その汎用性の向上を期待するのに最適となる台車装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成するために、この発明による台車装置の構成を、人力の作用時にガイドレールに沿って移動すると共に人力の解除時にガイドレール上に着座して水平あるいはほぼ水平になる停止状態に維持される台車を有してなる台車装置において、台車が停止状態時にガイドレールあるいはガイドレールに近隣する他部から離座する転動手段を有してなると共に、この転動手段が台車の先端に保持されながらこの台車の後端を人力で上昇させる傾斜時にガイドレールあるいはガイドレールに近隣する他部に着座して転動可能とされてなるとする。
【発明の効果】
【0013】
それゆえ、請求項1の発明にあっては、台車の後端を外力たる人力で上昇させるとき、台車の先端に保持されている転動手段をガイドレールあるいはこのガイドレールに近隣する他部に着座させて転動可能にし得るから、この状態で、すなわち、台車の後端を持ち上げた傾斜状態でこの台車をガイドレールに沿って移動し得ることになる。
【0014】
このとき、転動手段がガイドレールや他部に着座するストロークの大小も問題になるが、台車は、ガイドレールといわば縁を切ることができれば足り、したがって、台車の後端がいたずらにいわゆる大きく上昇されて、台車が大きい角度に傾斜される必要はなく、このことから、たとえば、台車が横置き状態にあって水平方向に回転するプーリにワイヤを巻装している場合などにあっても、台車の傾斜でワイヤがプーリから外れるなどの不具合の招来をあらかじめ回避できることになる。
【0015】
そして、移動先で、台車の後端を上昇させている外力たる人力を解除するとき、すなわち、台車の後端を下すとき、台車がガイドレールに着座することになり、このとき、ガイドレールが水平あるいはほぼ水平状態に展設されているから、言わば余計な外力作用がない限りにおいて、台車が停止状態に維持されることになる。
【0016】
その結果、この発明によれば、所望の吊り物を所定の場所に位置決め得るのはもちろんのこと、その際の簀の子上のガイドレールに沿う台車の移動および停止を容易にし得ることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、図示した実施形態に基づいて、この発明を説明するが、この発明による台車装置は、図1中に実線図で示すように、ガイドレール1上に着座して水平あるいはほぼ水平になる停止状態に維持される台車2を有してなる。
【0018】
そして、この台車装置にあって、台車2は、図1中に仮想線図で示すように、図中で左端となる後端が外力の作用で上昇されて傾斜状態になるときに、同じく外力の作用下に転動手段3によってガイドレール1に沿って移動し得るとしている。
【0019】
ところで、この発明による台車装置は、図示するところでは、詳しくは図示しないが、たとえば、劇場の舞台の上方に形成されている簀の子G(図1参照)上に配在されるとしており、この簀の子G上にガイドレール1が展設されてなるとしている。
【0020】
このとき、ガイドレール1は、簀の子G上にあって、いわゆる左右で一対となる態様に設定されてこのガイドレール1上に着座する台車2が転倒あるいは揺動しないように安定させるとしながら、同じく図示しないが、舞台の正面奥から客席側に向かうように多数本が並行状態に展設されるとしている。
【0021】
そして、このガイドレール1に着座し、また、このガイドレール1に沿って移動する台車2は、いわゆる吊り物を吊り下げるとしており、図示するように、水平方向に回転するプーリPを有して、あるいは、図示しないが、縦方向に回転するプーリを有して、ワイヤWの進行方向を転向させるタイプに形成されたり、また、同じく図示しないが、吊り物に連結されるワイヤWを巻き取るドラムを有するタイプに形成されたりしていて、これらが適宜に選択されて配在されるとしている。
【0022】
また、上記の台車2は、一つには、自動化を図るためにモータを積むなどで自身の重量を大きくし、したがって、簀の子Gへの負荷を大きくすることを避けるためもあって、伝統的に人力によって移動されるとしており、この発明においても、人力の作用で移動し得るとしている。
【0023】
さらに、前述したところでもあるが、これまでは、台車2は、移動先などでの完全な停止状態を具現化できるように、車輪やローラなどの転動手段を有しない構成とされており、したがって、人力による移動時には、摺動抵抗に抗するようにして言わば強制的に移動されるとしていた。
【0024】
それに対して、この発明では、台車2を所望の位置に完全な停止状態に維持し得るのはもちろんだが、その一方で、この台車2の移動作業を容易になし得るように配慮している。
【0025】
すなわち、この発明による台車装置にあって、台車2は、所定の機械的強度を備えながら軽量化を可能にするように、型鋼を利用するなどして形成された基台21の下端にガイドレール1の上端に着座する脚部材22を有してなるとしており、この脚部材22は、ガイドレール1の上端部を挟むように跨ぐことを可能にする下向き角U字状に形成されてなるとしている。
【0026】
そしてまた、この台車2にあっては、基台21の図中で左端部となる後端部にハンドル23を有していて、このハンドル23を利用しての人力による基台21の後端部の上昇、すなわち、台車2の後端の上昇を可能にしている。
【0027】
ところで、脚部材22は、基台21の下端にあって、図1中で左右となるいわゆる前後に配在されてなるとし、この基台21を、すなわち、停止状態にある台車2をガイドレール1上で水平状態あるいはほぼ水平状態に維持し得るとしている。
【0028】
ちなみに、上記の脚部材22は、前記したガイドレール1が左右で一対となるように配在されるとするから、基台21のいわゆる四隅部の下端に配在されていて、この基台21の転倒あるいは揺動しない静止状態を発現し得るとしている。
【0029】
それゆえ、この台車2にける脚部材22にあっては、ガイドレール1を跨ぐようにしてガイドレール1に連繋しているときには、台車2における自重でガイドレール1に押し付けられるようになり、したがって、外力の作用がない限りにおいてガイドレール1上に台車2を停止させる、すなわち、台車2を停止状態に維持することが可能になる。
【0030】
つぎに、転動手段3は、台車2がガイドレール1上で停止状態にあるときには、ガイドレール1から、あるいは、このガイドレール1に近隣する他部、すなわち、図示するところでは、簀の子Gの上端部から離座する転動手段3を有してなるとしている。
【0031】
このとき、この転動手段3は、台車2の図中で右端となる先端に保持されてなるとするもので、具体的には、台車2の先端に連設されたブラケット31に枢支された車輪32を有してなるとしている。
【0032】
そして、この車輪32が台車2の停止時に、すなわち、台車2がガイドレール1上に停止しているときに、このガイドレール1の上端や簀の子Gの上端部には接触せず、言わば転動手段としては、機能しないとする一方で、図中に仮想線図で示すように、台車2の後端が人力で上昇される場合には、台車2が先端を下げるように傾斜して、車輪32がガイドレール1に着座して転動可能な状態におかれるとしている。
【0033】
それゆえ、前記した台車2における脚部材22がガイドレール1から離座すると共に、転動手段3における車輪32がガイドレール1に着座して転動可能な状態におかれるとき、台車2のガイドレール1上での移動が可能な状態におかれることになる。
【0034】
ちなみに、台車2の後端側の脚部材22がガイドレール1から完全に離座するとしても、台車2の先端側の脚部材22は、ガイドレール1との連繋を完全には解除しない、すなわち、ガイドレール1を跨いだ状態に維持されているから、ガイドレール1から離座するとしても言わば脱輪する状況にはならない。
【0035】
以上からすれば、転動手段32おける車輪3は、これに代えて、図示しないが、ローラとされるとしても良く、ローラとされる場合には、上記した車輪32に比較して、ガイドレール1に対する連繋状態、すなわち、接触状態を保障し易くなる点で有利になる。
【0036】
また、転動手段3のガイドレール1からの脱輪を完全に阻止することを意図する場合には、この転動手段3を構成する車輪32がいわゆるプーリのように外周に溝を有する構造に形成され、この溝内にガイドレール1の上端部を導入させるとしても良く、この場合には、上記した台車2の先端側の脚部材22がガイドレール1の上端から完全に離座してガイドレール1に対する連繋を完全に解除することがあっても、台車2のガイドレール1に沿った移動を実現可能にし得ることになる。
【0037】
以上のように形成された台車装置にあっては、台車2の後端を外力たる人力で上昇させるとき、台車2の先端に保持されている転動手段3がガイドレール1あるいは他部たる簀の子G上に着座して転動可能になるから、この状態で、人力作用で台車2をガイドレール1に沿って移動し得ることになる。
【0038】
そして、移動先で台車2の後端を下すとき、台車2がガイドレール1に着座すると共に転動手段3がガイドレール1から離れるから、このとき、人力を作用して強制的に台車2を移動させない限りにおいて、台車2がガイドレール1上に停止状態に維持されることになる。
【0039】
その結果、この台車装置によれば、簀の子G上のガイドレール1に沿う台車2の移動およびガイドレール1上での台車2の停止を容易に実現し得えて、所望の吊り物を所定の場所に位置決める作業を容易にすることになる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】この発明による台車装置を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1 ガイドレール
2 台車
3 転動手段
21 基台
22 脚部材
23 ハンドル
31 ブラケット
32 車輪
G 簀の子
P プーリ
W ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人力の作用時にガイドレールに沿って移動すると共に人力の解除時にガイドレール上に着座して水平あるいはほぼ水平になる停止状態に維持される台車を有してなる台車装置において、台車が停止状態時にガイドレールあるいはガイドレールに近隣する他部から離座する転動手段を有してなると共に、この転動手段が台車の先端に保持されながらこの台車の後端を人力で上昇させる傾斜時にガイドレールあるいはガイドレールに近隣する他部に着座して転動可能とされることを特徴とする台車装置

【図1】
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【公開番号】特開2006−27286(P2006−27286A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−204032(P2004−204032)
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】