説明

合成ゴム製まな板およびその製造方法

【課題】硬質合成樹脂製まな板や従来の合成ゴム製まな板が有する欠点を解消し、乾燥性、衛生性、調理作業性、取り扱い性、研磨加工性などに加え、傷の修復性能を向上させた、新規な合成ゴム製まな板を提供する。
【解決手段】ニトリルゴム:65〜80重量%、ハイスチレンゴム:35〜20重量%の割合で混合した合成ゴム主材100重量部に対し、40〜50重量部のセルロース繊維、10〜20重量部の木粉、ゴム補強剤、粘着付与剤、加硫剤、加硫助剤、分散剤、加工助剤などを適量を含む合成ゴム材料を用いて、加硫成形法によりまな板形状に成型加工し、木質感を備えた合成ゴム製まな板を得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は調理用まな板に関し、詳しくは、ニトリルゴム(NBR)とハイスチレンゴム(high styrene rubber)を混合した合成ゴムを主材としながら、木製まな板の質感を有する合成ゴム製のまな板とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、乾燥性、衛生性などの点で木製まな板より優れるなどの理由から、ポリエチレン樹脂、ABS樹脂などの硬質合成樹脂や合成ゴムなどからなる合成樹脂製のまな板が用いられるようになっている(例えば特許文献1、2など参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平6−237870号公報
【特許文献2】特開平7−246168号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の硬質合成樹脂製まな板は、表面が滑り易い、硬すぎるなどの理由から、包丁とのなじみが悪く、調理がしにくいという問題がある。また、包丁の刃先などが鋭利に深く入り易いので傷付き易く、一旦傷付くと傷口が戻らないばかりか、繰り返しの使用により表面傷部が微細化して割れ易く、その破片が脱落する虞れがあった。
また、従来の合成ゴム製まな板は表面が軟らかいため、包丁による傷や凹みができ易いばかりか、長期の使用によって表面の平滑度が落ちた際に、各種研削機、研磨機等で研削、研磨して再生することが困難であり、しかも、ゴム臭を発生するので、食品にゴム臭が転移する虞れがあるという問題があった。
【0005】
本発明者はこのような事情に鑑み、硬質合成樹脂製のまな板や従来の合成ゴム製まな板が有する前述の欠点を解消し、乾燥性、衛生性、調理作業性、取り扱い性、耐久性、研磨加工性などに優れた、新規な合成ゴム製まな板を提案し先に出願した(特願2005−312753号。以下「先願」という)。
【0006】
しかし、本発明者がより鋭意研究を重ねた結果、本出願による先提案の合成ゴム製まな板においても、例えば業務用として用いる場合のように、使用頻度が高い場合、包丁の刃先等による傷が表面に残り、その表面傷部が微細化して割れ易くなり、その破片が脱落する虞れがあることが判明した。
【0007】
本発明はこのような従来事情に鑑みて成されたもので、本出願人による先願の合成ゴム組成をさらに改良して、前記問題点を解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の目的を達成するために本発明は、ニトリルゴムを65〜80重量%、ハイスチレンゴムを35〜20重量%の割合で混合した合成ゴム主材100重量部に対し、少なくとも、40〜50重量部のセルロース繊維を混合した合成ゴム材料からなることを特徴とする。
【0009】
本発明においてセルロース繊維とは、セルロースを素材とした繊維素であって、短繊維状のもの(粒度400メッシュ程度)から微粉状のもの(粒度40メッシュ程度)までを含むが、主として、100メッシュ程度の微粉状のもの(セルロースパウダー)を用いることが好ましい。より詳しくは、精選パルプを酸加水分解し、これをろ過・水洗し、脱水・乾燥した後に、粉砕・篩別して製造された粉末セルロース、例えば、日本製紙ケミカル社製の粉末セルロース「KCフロック」などを用いることができる。
【0010】
このような混合割合とした合成ゴム主材を用いることで、まな板表面が適度な硬さであって調理作業性、取り扱い性、耐久性などに優れると共に各種研削機、研磨機等での研削、研磨が可能であるという、木製まな板と合成ゴム製まな板の利点を併せ持つという先願の利点に加え、包丁等による傷の復元力(弾性復元力)がさらに向上し、包丁の刃先等による傷残りを低下させることができる。
【0011】
また、前記した適度な硬さ、研磨加工性、弾性復元力などの特性をより向上させるために、前記合成ゴム主材におけるニトリルゴムの割合が75重量%以上であることが好ましい。
【0012】
ハイスチレンゴムは、ブタジエン系合成ゴム(SBR)のうち、スチレンモノマーの含有量の高いもの(通常はスチレンモノマー含有量50重量%以上のもの)であるが、本発明においては、スチレンモノマー含有量が60%である汎用品を用いることで、前記特性を得ることができる。
【0013】
また、前記特性に加え、木質感を有し、ゴム臭を発生しないまな板とするために、前記の配合に加えて、10〜20重量部の木粉をさらに混合した合成ゴム材料を用いることが好ましい。
本発明において木粉とは、赤松、米松、つげ、その他の天然木や、建材などの廃材木を素材とし、これを微粉砕して粉状としたものであり、例えば、常陸化工社製の木粉「#200」などを用いることができる。
【0014】
前記した適度な硬さ、研磨加工性、弾性復元力、木質感の発現、ゴム臭の発生防止などの機能をより効果的に発現するために、前記合成ゴム材料が、前記合成ゴム主材100重量部に対して、ゴム補強剤としてのホワイトカーボンや、ゴム臭吸収剤としてのゼオライトなどをさらに含むことが好ましい。
【0015】
本発明における合成ゴム材料のより具体的な配合として、ゴム補強剤、粘着付与剤、加硫剤、加硫助剤、分散剤、加工助剤などの添加物をさらに含む配合をあげることができる。
これら添加物は、ゴム製品の加硫成形に通常用いられる公知の材料を用いることができるが、粘着付与剤としては例えば芳香族石油樹脂を、加硫助剤としては例えば活性亜鉛華を、分散剤としては例えばステアリン酸を、加工助剤としては例えば脂肪酸エステル系加工助剤を、加硫剤としては例えばコロイド硫黄を、夫々用いることが好ましい。
さらに、加硫促進剤、顔料、抗菌剤や、その他、合成ゴム製品に通常含有される添加剤を、前記特性を阻害しない範囲で、必要に応じて所望量含有することもできる。
【0016】
ところで、調理作業を行う際、まな板にある程度の重さがないと、調理の際にまな板が動いてしまうなどの理由から調理がしにくくなる。また、重すぎると取り扱い性に劣るなどの虞れがある。この点を考慮すると、まな板としての適正比重は1.20〜1.30の範囲内である。
【0017】
本発明に係る合成ゴム製まな板は、前述の合成ゴム材料を用いて加硫成形法により成形加工することで、木質感を備えたまな板形物に、容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るまな板は以上説明したように、前述した配合の合成ゴム材料を用いてなるので、まな板として好適な適度な硬さと弾性復元力を兼ね備えており、その弾性復元力により傷を復元修正する作用が働き、調理の際に包丁などで表面が傷ついたり、凹みが生じたとしても、その傷や凹みなどを浅く小さくすることができる。また、傷が多数付いた後でも、カンナ等で表面を研磨することにより、表面平滑性、衛生性を保持でき、長期にわたり使用することができる。よって、傷や凹みに細菌が繁殖するという木製まな板や従来の合成ゴム製まな板の欠点を解消し、衛生性に優れたまな板として提供することができる。
また、表面が滑り易い、硬すぎるといった従来の硬質合成樹脂製まな板の欠点を解消して、包丁とのなじみが良く、調理がしやすいまな板として提供することができる。
また、合成ゴム特有のゴム臭の発生を防止して、調理素材にゴム臭が転移する虞れを無くすことができる。
したがって、合成ゴムを主成分としながら、木製まな板と同様な木質感を醸し出し、且つ、従来の木製まな板、硬質合成樹脂製まな板、合成ゴム製まな板の有する各種欠点を解消した、多くの効果を有する合成ゴム製まな板として、家庭用としては勿論のこと、業務用としても好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係るまな板の実施形態の一例と比較例を用いて各種測定試験を行った結果について説明する。
(実施例)
まず、ニトリルゴム:78重量%、ハイスチレンゴム:22重量%の配合割合の合成ゴム主材100重量部に対し、セルロース繊維(日本製紙社製の「KCフロックW−100(粒度100メッシュ程度)」):45重量部、木粉(常陸化工社製の木粉「#200」):15重量部、ゴム補強剤(ホワイトカーボン):20重量部、粘着付与剤(芳香族炭化水素樹脂):2重量部、加硫剤(硫黄):2重量部、加硫促進剤:3重量部、加硫助剤(活性亜鉛華):3重量部、分散剤(ステアリン酸):0.5重量部、加工助剤(脂肪酸エステル系加工助剤):1.5重量部、加硫活性剤:2重量部の割合で混合した配合物を、練りロールで攪拌混練して合成ゴム材料を作成した。
そして、この合成ゴム材料を用いて、加硫成形法によりまな板形状に成型加工して、本発明の実施例としての、比重1.26である、木質感を備えた合成ゴム製まな板を得た。この合成ゴム製まな板は幅210mm、長さ297mm、厚さ20mmの試料とした。
【0020】
(比較例)
前記した実施例における合成ゴム材料において、合成ゴム主材の配合割合をニトリルゴム:64重量%、ハイスチレンゴム:36重量%とし、それ以外は前記実施例と同様にして、比較例としての合成ゴム製まな板を得た。この合成ゴム製まな板は実施例と同サイズの試料とした。
【0021】
これら実施例と比較例の試料を用いて、以下の測定試験を行った。
(硬さ測定)
ショアA硬度測定器を用いてショアA硬度を測定したところ、実施例:97、比較例:98と、概ね同様の結果が得られた。但し、アスカ社の高硬度測定器を用いてASTM.D.2240に準拠した高硬度測定(ショアD硬度と称する)を行ったところ、実施例:60、比較例:67と、配合による差が見られた。調理作業を行う際にある程度の硬さがないと包丁とのなじみが悪い、包丁の滑りが悪いなどの理由から調理がしにくくなる。一方、硬すぎても傷が付きやすく、弾性復元力が低下して傷の修復機能が落ちると共に、まな板自体が滑り易い上、調理素材も滑り易くなり、切れ味が低下し調理がし難くなる。この点を考慮すると、まな板としての適正ショアD硬度範囲は概ね58〜62であることが好ましく、その範囲内にある実施例は問題ないが、その範囲を外れる比較例は硬すぎて使用に不向きであることが確認できた。
【0022】
(耐擦り傷性)
約1キログラムの鉛製錘の底面部中心に画鋲を固着し、実施例と比較例の試料の表面にその画鋲の突起があたるようにしてその錘を水平方向へ移動させ、各試料表面に傷を付けた。同様の試験を数回行ったところ、比較例においては試料表面がえぐられて幅広の傷が発生し(図1(a)参照)、実施例においては試料表面の傷の開口が弾性により復元し、傷口が広がっていないことが確認できた(図1(b)参照)。最も平均的な傷の状態をマイクロスコープで観察した写真を図1に示す。
【0023】
(耐傷性1)
カッターナイフに200gの定荷重をかけ、約45度の角度で移動させてそれぞれの試料の表面に傷を入れ、直後の傷の幅を測定した。同様の試験を数回行い、平均値を算出したところ、実施例(図2(b)、図3(b)参照)では平均幅0.02mmであるのに対し、比較例(図2(a)、図3(a)参照)では平均値0.04mmであった。この結果により、本発明の実施例が、比較例の半分の傷幅で傷が入り難く、使用に適していることが確認できた。最も平均的な傷の状態をマイクロスコープで観察した写真を図2、図3に示す。
【0024】
(耐傷性2)
前記した各試料の表面に15mm角の大きさの枠を表記し、この枠内において、約1.5mmの間隔ごとで縦・横・斜めの各方向に対し、約200gの定荷重をかけたカッターナイフを約45度の角度で移動させて表面に傷を入れ、直後の状態をマイクロスコープで観察した。
図4(a)は比較例の試料において前記各方向に対し1回だけ傷を入れた状態、図4(b)は比較例の試料において前記各方向に対し5回傷を入れた状態を表す。
一方、図5(a)は実施例の試料において前記各方向に対し1回だけ傷を入れた状態、図5(b)は実施例の試料において前記各方向に対し5回傷を入れた状態を表す。
この結果からも、本発明の実施例が、比較例に比べ傷が入り難く、使用に適していることが確認できた。最も平均的な傷の状態をマイクロスコープで観察した写真を図4、図5に示す。
【0025】
以上、本発明の実施形態の一例について説明したが、本発明に係る木質感を有する合成ゴム製まな板は上記実施例に限定されず、各請求項記載の技術的思想の範疇において種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る合成ゴム製まな板の一実施例と比較例を用い、耐擦り傷性に関する試験を行った結果を示す拡大写真。
【図2】同上の一実施例と比較例を用い耐傷性に関する試験を行った結果を示す拡大写真。
【図3】同上の一実施例と比較例を用い耐傷性に関する試験を行った結果を示す拡大写真。
【図4】同上の比較例を用い耐傷性に関する試験を行った結果を示す拡大写真。
【図5】同上の一実施例を用い耐擦り傷性に関する試験を行った結果を示す拡大写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトリルゴムを65〜80重量%、ハイスチレンゴムを35〜20重量%の割合で混合した合成ゴム主材100重量部に対し、少なくとも、40〜50重量部のセルロース繊維を混合した合成ゴム材料からなる合成ゴム製まな板。
【請求項2】
前記合成ゴム主材におけるニトリルゴムの割合が75重量%以上である請求項1記載の合成ゴム製まな板。
【請求項3】
前記ハイスチレンゴムのスチレン含有量が60重量%である請求項1または2記載の合成ゴム製まな板。
【請求項4】
前記合成ゴム主材100重量部に対して、10〜20重量部の木粉をさらに混合した合成ゴム材料からなる請求項1〜3のいずれかに記載の合成ゴム製まな板。
【請求項5】
前記合成ゴム材料が、ゴム補強剤、粘着付与剤、加硫剤、加硫助剤、分散剤、加工助剤を含む請求項1〜4のいずれかに記載の合成ゴム製まな板。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の合成ゴム製まな板の製造方法であって、前記合成ゴム材料を用いて加硫成形法により成形加工することで、木質感を備えたまな板形状物を得ること特徴とする合成ゴム製まな板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−278958(P2008−278958A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−123743(P2007−123743)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(000000550)オカモト株式会社 (118)
【Fターム(参考)】