説明

合成皮革及びその製造方法

【課題】乾式法の離型紙に関係する制約を解消するとともに、カレンダー法の欠点である基布への接着剤の浸み込みと、表皮のエンボス戻りを防止すること、および湿式法の欠点である揮発性有機溶剤の使用量を抑制した合成皮革を提供する。
【解決手段】熱可塑性ポリウレタンフィルムを加熱しながらエンボス加工が施される表皮シート1と、この表皮シート1に接着剤2aを積層することで形成される接着層2と、この接着層2に貼り付けられる基布3とを備え、接着層2に熱膨張性の発泡剤2bを配合し、エンボス加工時の加熱温度よりも低い温度で加熱して接着剤2aの乾燥と発泡剤2bの膨張を同時に行い、この乾燥された接着剤2aに基布3を接着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボリューム感がある合成皮革及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の合成皮革の製造方法は、大別して乾式法、湿式法、カレンダー法がある。
乾式法として下記特許文献1には、エンボス加工が施されてなるエンボス付き離型紙上に、エステル系ポリウレタン樹脂、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミドなどからなるポリウレタン溶液を塗布し、これを加熱乾燥して表皮層が形成され、この表皮層上に接着剤を塗布して基布が貼り合わされた後、これより離型紙を剥離する方法が記載されている。
また、湿式法として下記特許文献2には、織物の片面に、ポリエステル系ウレタン樹脂とジメチルホルムアミドを主体とした樹脂液がコーティングされ、これを水中で凝固させることにより、微多孔質のポリウレタン系樹脂の皮膜を形成する方法が記載されている。
さらに、カレンダー法により予め接着剤を塗布した繊維基材の上に、ポリウレタンフィルムを積層させ、中間層に配合した発泡剤を加熱分解させることで、ボリュームのある発泡レザーを製造する方法もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−176922号公報
【特許文献2】特開2002−38380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし乍ら、このような従来の合成皮革の製造方法では、特許文献1のような乾式法の場合、離型紙の使用回数に限界があって定期的に交換する必要があるため、交換作業に手間がかかるだけでなくコスト高となり、しかも離型紙に施されたエンボスパターンに深度などの制約があることなど、エンボス形状の自由度が小さいという問題があった。
また、特許文献2のような湿式法の場合には、ジメチルホルムアミドなどの揮発性有機溶剤が多く必要になるため、その使用が環境汚染を引き起こすおそれがあるという問題があった。
さらに、カレンダー法による発泡レザーでは、発泡時又は発泡後にエンボス加工をすると繊維基材に接着剤が浸み込んで風合いが硬くなり、発泡前にエンボス加工をすると発泡時にエンボスが戻ってしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、このような問題に対処することを課題とするものである。
すなわち、本発明は、乾式法の不具合を解消するとともに、基布への接着剤の浸み込みを防止すること、表皮のエンボス戻りを防止すること、揮発性有機溶剤の使用を抑制すること、などを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的を達成するために本発明は以下の特徴を有する。
一つには、熱可塑性ポリウレタンフィルムを加熱しながらエンボス加工が施される表皮シートと、この表皮シートに接着剤を積層することで形成される接着層と、この接着層に貼り付けられる基布とを備え、前記接着層に熱膨張性の発泡剤を配合し、前記エンボス加工時の加熱温度よりも低い温度で加熱して前記接着剤の乾燥と前記発泡剤の膨張を同時に行い、この乾燥された接着剤に前記基布を接着することを特徴とする。
【0007】
前述した特徴に加えて、前記接着剤の中に、前記発泡剤として、加熱により軟化する殻と、その中に封入される熱膨張性の流体とからなる微小カプセルを分散配置することを特徴とする。
【0008】
さらに前述した特徴に加えて、前記接着層と前記基布を、前記接着剤が該基布の布目に入り込まない厚さ寸法となるように加圧することを特徴とする。
【0009】
また一つには、合成皮革の製造方法であって、熱可塑性ポリウレタンからなる表皮シートを加熱しながらエンボス加工し、この表皮シートに、発泡剤が含まれる接着剤を積層し、この接着剤を前記エンボス加工時の加熱温度よりも低い温度で加熱して該接着剤の乾燥と前記発泡剤の膨張を同時に行い、この発泡剤が膨張した接着剤に基布を接着することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
前述した特徴を有する本発明は、乾式法の不具合を解消するとともに、表皮シートのエンボスによる凹凸を保持しつつ接着層自体が発泡するので、ボリューム感のある合成皮革が得られ、乾燥後の接着剤が基布に浸み込むことなく接着するので風合いが良く、表皮のエンボス戻りを防止することができるので、エンボス形状の自由度が大きくて有益であり、また揮発性有機溶剤の使用を抑制することができて、環境汚染を引き起こすことがなく安全である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施例に係る合成皮革の製造方法を示す説明図(縦断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本発明の実施形態に係る合成皮革Aは、図1に示す如く、熱可塑性ポリウレタン樹脂からなるフィルムを加熱しながらエンボス加工が施される表皮シート1と、この表皮シート1に接着剤2aを積層することで形成される接着層2と、この接着層2に貼り付けられる基布3とを備えている。
【0013】
表皮シート1の表面1aには、予め公知のエンボス装置(図示しない)によって所定温度以上に加熱しながらエンボス加工が施される。
このエンボス加工時の加熱温度としては、約180℃以上に設定することが好ましい。
また、エンボス加工が施された表皮シート1の裏面(反エンボス面)1bには、公知のコーティング装置Bによって接着剤2aが所定厚さで塗布される。
【0014】
接着剤2aとしては、例えば水性の二液硬化型のポリウレタン樹脂などが用いられ、その中には熱膨張性の発泡剤2bを配合して、接着剤2aの中に分散配置させる。
発泡剤2bは、熱可塑性高分子化合物などからなる殻(図示しない)と、その中に封入された炭化水素などの熱膨張性流体(図示しない)とからなる微小カプセルであり、該微小カプセルを加熱することで、殻が軟化すると同時に熱膨張性流体の体積が増えて殻が膨張し、これら内圧と殻の張力と外圧が釣り合って膨張状態が保持されるようにしている。
【0015】
これら接着剤2a及び熱膨張性の発泡剤2bは、エンボス加工時の加熱温度よりも低い温度で加熱することにより、接着剤2aが乾燥されると同時に発泡剤2bを膨張させ、この乾燥した接着剤2aの表面に対して基布3を接着している。
さらに必要に応じて、この基布3の接着時には、接着剤2aの表面をヒーターなどで再加熱して基布3を貼り付け易くすることも可能である。
このヒーターによる再加熱温度は、エンボス加工時の加熱温度よりも低く設定することが好ましい。
【0016】
また、接着層2と基布3との貼り合わせ時における圧力は、接着剤2aが基布3の布目3aに入り込まないようにするため、所定の厚さ寸法(ギャップ)Gとなるようにしている。
【0017】
そして、本発明の実施形態に係る合成皮革Aの製造方法としては、熱可塑性ポリウレタンからなる表皮シート1の表面1aを加熱しながらエンボス加工し、その後、この表皮シート1の裏面1bに、発泡剤2bが含まれる接着剤2aを積層することで接着層2が形成され、その後、この接着剤2aをエンボス加工時の加熱温度よりも低い温度で加熱して、接着剤2aの乾燥と発泡剤2bの膨張を同時に行い、その後、この発泡剤2bが膨張した接着剤2aの表面に基布3を接着している。
以下に本発明の一実施例を説明する。
【実施例】
【0018】
<表皮シート>
硬度75の熱可塑性ウレタン樹脂を主体とし、光安定剤(HALS)、酸化防止剤、滑剤を添加して、カレンダー加工により厚さ寸法が250μmのフィルムを表皮シート1として得た。
この表皮シート1のフィルム表面に、水性表面処理剤をグラビアコーターにて塗布し、艶調整を行った後、その表面温度を180℃以上に加熱しながらエンボス装置でエンボス加工を行った。
【0019】
<接着剤>
エンボス加工したフィルムの裏面(反エンボス面)1bに、下記配合の接着剤2aを塗布した。
主剤 合成皮革ドライラミネート用接着剤として用いられているポリカーボネート系無黄変型水性樹脂 100重量部
硬化剤 変性ポリイソシアネートタイプ硬化剤 10重量部
増粘剤 水系ウレタン樹脂増粘剤 1重量部
発泡剤 平均粒径5〜20μm、発泡開始温度75℃の低温膨張型マイクロカプセル
8重量部
【0020】
<接着剤の積層>
接着剤2aの塗布は、コーティング装置Bとしてコンマコーター(登録商標)により130g/m2を塗工した。
【0021】
<接着剤・発泡剤の加熱>
接着剤2aが塗布された直後の表皮シート1を乾燥炉Cに入れ、120℃に加熱して接着剤2aを乾燥させると同時に、接着剤2a中に分散配置された発泡剤2bの熱膨張性流体として液状の炭化水素が気体に変化して内圧が上がるため、その圧力で殻が膨張して接着層2全体を膨張させた。
【0022】
<布目の接着>
乾燥炉Cを通過して出た表皮シート1上の接着層2に対し、中波長ヒーター(図示しない)により再加熱しながら、基布3としてポリエステル・レーヨン混紡の編み物を重ね合わせ、加圧ローラーDで基布3の布目に接着剤2aが入り込まない厚さ寸法Gとして0.1〜0.5mmとなるように加圧(線圧1.0kg/cm)させ、基布3をドライラミネートした。
また、接着剤2aとしての接着力を発現させるため、50℃で72時間の養生を行って、合成皮革Aの最終仕上りとした。
【0023】
<評価>
このような製造方法で得られた合成皮革Aの最終製品は、接着剤2aの加熱により乾燥して接着力を持たせ基布を貼り合わせるため、基布の布目に接着剤が入り込まないので硬くならず、風合いが良くなるとともに、接着層2中に分散した各発泡剤2bが夫々膨張して接着層2全体を膨張させるため、表皮シート1の表面1aのエンボスの隅々まで凹凸が現れるため、ボリューム感のある合成皮革となった。
さらに、表皮シート1の表面1aに施されたエンボス加工は、エンボス加工時で180℃の加熱をしているため、接着剤2aの120℃加熱では、表面状態にエンボス戻りなどの変化は見られなかった。
【符号の説明】
【0024】
1 表皮シート 2 接着層
2a 接着剤 2b 発泡剤
3 基布 3a 布目
G 厚さ寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリウレタンフィルムを加熱しながらエンボス加工が施される表皮シートと、この表皮シートに接着剤を積層することで形成される接着層と、この接着層に貼り付けられる基布とを備え、
前記接着層に熱膨張性の発泡剤を配合し、前記エンボス加工時の加熱温度よりも低い温度で加熱して前記接着剤の乾燥と前記発泡剤の膨張を同時に行い、この乾燥された接着剤に前記基布を接着することを特徴とする合成皮革。
【請求項2】
前記接着剤の中に、前記発泡剤として、加熱により軟化する殻と、その中に封入された熱膨張性の流体とからなる微小カプセルを分散配置する請求項1に記載された合成皮革。
【請求項3】
前記接着層と前記基布を、前記接着剤が該基布の布目に入り込まない厚さ寸法となるように加圧する請求項1又は2に記載された合成皮革。
【請求項4】
熱可塑性ポリウレタンからなる表皮シートを加熱しながらエンボス加工し、この表皮シートに、発泡剤が含まれる接着剤を積層し、この接着剤を前記エンボス加工時の加熱温度よりも低い温度で加熱して該接着剤の乾燥と前記発泡剤の膨張を同時に行い、この発泡剤が膨張した接着剤に基布を接着することを特徴とする合成皮革の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−168692(P2010−168692A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−13011(P2009−13011)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(000000550)オカモト株式会社 (118)
【Fターム(参考)】