説明

合成皮革

【課題】耐溶剤性に優れた熱可塑性ポリウレタン系エラストマー層を設けた合成皮革を提供する。
【解決手段】基布の少なくとも片面に、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを主成分とするエラストマー層を設けた合成皮革であって、該エラストマー層はエラストマー100質量部に対しモンタン酸及び/又はモンタン酸誘導体を1〜5質量部含有する合成皮革である。難燃性が要求される合成皮革の場合は、基布を窒素−リン系難燃剤で難燃加工しておくのが好ましい。この窒素−リン系難燃剤は縮合リン酸アンモニウム、縮合リン酸メラミン、縮合リン酸アミドアンモニウム及びリン酸カルバメートから選ばれた難燃剤が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基布の表面に熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを主成分とするエラストマー層を設けた合成皮革に関する。さらに詳しくは、該エラストマー層の耐溶剤性及び耐摩耗性を改善した合成皮革に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車両内装材、袋物素材、家具の表皮材などに用いる合成皮革は、柔軟で強度を持つことが要求されるが、従来は、織物、編物又は不織布、或はポリオレフィンフォームなどのシート基材の表面に軟質ポリ塩化ビニル層を形成させたものが一般的である。近年リサイクル問題で、軟質ポリ塩化ビニルに替えて、ランダムポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル樹脂、水素添加スチレンブタジエンラバーなどを用いたポリオレフィン系樹脂レザーが提案されている。
【0003】
また、ポリウレタンを素材に用いた合成皮革合が知られている。ポリウレタンを素材に用いた合成皮革は、溶液重合したポリウレタン溶液を不織布に含浸させ、貧溶媒中で凝固させる方法が採用されている。また、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを、溶融製膜法でシート状に成形し、基布に積層する方法が提案されている(特許文献1、特許文献2、特許文献3)。この後者の方法によると、コストが安い利点がある。
【特許文献1】特開平9−158056号公報
【特許文献2】特開平2003−166181号公報
【特許文献3】特開平2003−335937号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
基布の表面に熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを主成分とするエラストマー層を設けた合成皮革においては、その製造や加工のとき、例えば接着処理、マーブルプリント処理、艶調整剤処理のとき、酢酸エチル、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど有機溶剤を含有する処理剤で処理することが多い。ところが、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーは、有機溶剤に対し膨潤しやすく、そのため上記の処理が円滑に行なえず、また外観の良い製品が得られない場合があった。本発明は、耐溶剤性に優れた熱可塑性ポリウレタン系エラストマー層を設けた合成皮革を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、基布の少なくとも片面に、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを主成分とするエラストマー層を設けた合成皮革であって、該エラストマー層はエラストマー100質量部に対しモンタン酸及び/又はモンタン酸誘導体を1〜5質量部含有することを特徴とする合成皮革である。また、難燃性が要求される合成皮革の場合は、基布を窒素−リン系難燃剤で難燃加工しておくのが好ましい。この窒素−リン系難燃剤は縮合リン酸アンモニウム、縮合リン酸メラミン、縮合リン酸アミドアンモニウム及びリン酸カルバメートから選ばれた難燃剤が好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明の合成皮革は、従来の基布に熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを主成分とするエラストマー層を設けた合成皮革に比し、エラストマー層の耐溶剤性が優れている。そのため、基布と熱可塑性ポリウレタン系エラストマー層とを接着するときの接着剤、熱可塑性ポリウレタン系エラストマー層の表面にマーブルブルプリントするインキや、また該表面の艶を調整する艶調整剤に有機溶剤が含まれていても、これらの有機溶剤によって熱可塑性ポリウレタン系エラストマー層が膨潤したり、脆化することがないので、各処理を円滑に行なうことができ、また製品の耐溶剤性も向上するので使用時にも有益である。また、本発明の合成皮革は耐摩耗性にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の合成皮革の熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを主成分とするエラストマー層について説明する。熱可塑性ポリウレタン系エラストマーは、ジイソシアネート化合物と、ヒドロキシル基を2個以上有する化合物とを反応させて得たポリウレタン、中でも、末端活性水素を有する長鎖グリコールと短鎖グリコール(短鎖鎖伸長剤)とジイソシアネートを重付加反応させた、いわゆるソフトセグメントとハードセグメントからなるポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)が好ましく使用できる。これらはショアA硬度で65〜90の樹脂硬度、特に70〜80の樹脂硬度を有するものが好ましい。なお、本発明におけるショアA硬度は、ASTM D 2240で測定した値(測定温度23℃)である。
【0008】
熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを合成するためのジイソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタリンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、水添ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソイアネートなどが用いられる。
【0009】
また、長鎖グリコールとしては、アジピン酸、フタル酸等の二塩基酸とエチレングリコール、1,4−ブタンジオール等のグリコールとの縮合反応物であるポリエステル系ポリオール;エチレンカーボネート等のカーボネートとグリコールとの反応物であるポリカーボネート系ポリオール;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール等のポリエーテル系ポリオール等が用いられる。本発明の合成皮革においては、その物性からポリエーテル系ポリオールを用いるのが好ましい。また、ポリエーテル系ポリオールを原料とする熱可塑性ポリウレタンは、耐老化性、カレンダー加工性が良いので、この観点からも好ましい。
【0010】
鎖伸長剤としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ブタン1,2ジオール、ブタン1,3ジオール、ブタン1,4ジオール、ブタン2,3ジオール、ヘキサンジオールなどの低分子多価アルコール、或いはジアミン、水が用いられる。
【0011】
本発明の合成皮革のエラストマー層は、熱可塑性ポリウレタン系エラストマー単独でもよい。また熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを主成分とし、これにアクリル系軟質樹脂、スチレン系ゴムなどのエラストマーや合成樹脂を配合したエラストマー層でもよい。殊にアクリル系軟質樹脂を配合するのが好ましい。アクリル系軟質樹脂は、多層構造重合体、すなわち2種以上のアクリル系重合体がコア−シェル型の多層構造を形成している粒子状の重合体が好ましく、硬度がショアAで50〜80のもの、なかんずく65〜75のものが好ましい。これらのアクリル系軟質樹脂は、常温で良好な柔軟性を示し、屈曲耐久性を有し、耐候性に優れている。アクリル系軟質樹脂の配合量は、熱可塑性ポリウレタン系エラストマー100質量部に対し10〜60質量部である。
【0012】
熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを主成分とするエラストマー層に含有させるモンタン酸及び/又はモンタン酸誘導体について説明する。これらはモンタン酸、モンタン酸エステル、モンタン酸部分ケン化エステルなどである。モンタン酸エステルはエチレングリコールモンタン酸エステル、グリセリンモンタン酸エステル、ペンタエリスリトールモンタン酸エステル、テトラメチレングリコールモンタン酸エステル、ソルビタンモンタン酸エステルなどである。モンタン部分ケン化エステルは、上記のモンタン酸エステルの部分ケン化物である。
【0013】
モンタン酸及び/又はモンタン酸誘導体のエラストマー層への配合量は、エラストマー100質量部に対しモンタン酸及び/又はモンタン酸誘導体を1〜5質量部、好ましくは2〜4質量部である。ここでエラストマー100質量部に対する配合量は、エラストマー層が熱可塑性ポリウレタン系エラストマー単独の場合は、熱可塑性ポリウレタン系エラストマー100質量部に対する配合量である。また熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを主成分としこれにアクリル系軟質樹脂やスチレン系ゴムなどのエラストマーや合成樹脂を配合した場合は、この配合エラストマー組成物100重量部に対する配合量である。モンタン酸及び/又はモンタン酸誘導体は従来合成樹脂の成形時の滑剤として知られているが、滑剤として配合する場合は1質量部未満である。本発明においては、配合量が、エラストマー100質量部に対し1質量部未満では耐溶剤性の効果を発揮することができない。また5質量部を超えるとカレンダー加工性が低下するので好ましくない。
【0014】
熱可塑性ポリウレタン系エラストマーにモンタン酸及び/又はモンタン酸誘導体を配合し、混練して、カレンダーなどで厚さ0.07〜0.5mmのシートに成形する。このシートを基布にウレタン系接着剤などを用いて積層して合成皮革を製造する。積層後に必要に応じて表面にマーブルプリント、艶調整剤コーティング処理、エンボス処理を施す。
【0015】
また、本発明の合成皮革のエラストマー層には、通常合成樹脂の配合に使用される可塑剤、滑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料、抗菌剤などが配合されていてもよい。可塑剤を配合すると、製品の柔軟性、手触りを改善できる。また、可塑剤の配合は樹脂のカレンダー加工の加工温度を下げることができ、そのため熱可塑性ポリウレタン系エラストマーの加工時の分解を抑制できる。可塑剤はリン酸トリクレジルなどのリン酸エステル系が好ましい。リン酸エステル系の可塑剤は難燃剤の作用があるものもあり、その場合は可塑剤と難燃剤とを兼ねるので有利である。上記配合剤は、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーとポリイソシアネートマスターバッチとを混合するときに、一緒に添加配合して混合するのが好ましい。
【0016】
上記の基布としては、織物、編物又は不織布が用いられる。これらの編織物の素材はポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリプロピレン繊維、綿、レーヨン、これらの混紡糸などである。編物としては、両面編物、天竺編物などであり、織物としては、平織物、綾織物、朱子織物などである。また基布として織物、編物又は不織布と軟質発泡体シートとの積層物を用いることもできる。軟質発泡体シートは、ポリプロピレンフォーム、電子線架橋したポリプロピレンフォーム、ポリエチレンフォーム、電子線架橋したポリエチレンフォーム、ポリウレタンフォームなどが用いられる。
【0017】
本発明の合成皮革において、用途によっては難燃性が要求される。例えば自動車の内装材に用いる合成皮革は一定の難燃性の基準に合格することが要求される。その場合は、基布に難燃加工を施すとよい。基布の難燃加工は、基布に窒素−リン系難燃剤の分散液又は溶液を付着させた後、加熱乾燥して難燃剤を基布に固着させることにより行うのが好ましい。混合液の基布への付着は浸漬、塗布、噴霧などで行う。窒素−リン系難燃剤としては縮合リン酸アンモニウム、縮合リン酸メラミン、縮合リン酸アミドアンモニウム及びリン酸カルバメートから選ばれた一種又は二種以上の難燃剤が好ましく用いられる。特に、リン酸カルバメートは基布への固着性がよく、後述する合成樹脂のエマルジョンや水溶液を併用しなくても耐久性ある堅牢な難燃加工が行える。分散液や溶液の調製はアセトン、イソプロピルアルコール、水などが用いられる。
【0018】
また、上記の難燃加工に当り、窒素−リン系難燃剤と合成樹脂のエマルジョン又は水溶液との混合液を用いてもよい。合成樹脂のエマルジョン又は水溶液を併用することによって、難燃加工の耐久・堅牢性を助長できるが、難燃性そのものは低下する傾向がある。合成樹脂のエマルジョン又は水溶液としては、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルの重合体、これらの単量体とアクリル酸、酢酸ビニルなどの他のビニル系単量体との共重合体、これらの単量体とエチレンなどのオレフィン系単量体との共重合体、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、スチレン−ブタジエン系ゴムなどのエマルジョン又は水溶液が用いられる。混合液中の合成樹脂(固形分)と難燃剤との割合は、合成樹脂100質量部に対し難燃剤5〜100質量部である。
【0019】
実施例1〜3、比較例1〜3
表1に示す成分をよく混合し、混練した。この混練物をロール温度150℃でカレンダー加工して、厚さ0.25mmのシートに成形した。得られたシートと基布(レーヨン65%とポリエステル35%の20番手混紡糸で編成したスムースメリヤス)とをアクリル系接着剤を用いて積層し、表面にマーブルプリント、艶調整処理剤コーティング処理、エンボス処理を施して合成皮革を得た。
【0020】
なお、表1において、熱可塑性ポリウレタンエラストマーはDICバイエルT−8375N(ショア硬度A75)、アクリル系軟質樹脂はクラレSA−1000P(ショア硬度A70)、スチレン系ゴムはリケンテクノス8915X、高分子量アクリル系加工助剤は三菱レイヨンメタブレンP−530A、モンタン酸エステルワックスはLUWAX OP(BASF社製、融点84℃、酸価11mgKOH/g)を用いた。
得られた合成皮革について、カレンダー加工性、耐摩耗性、耐溶剤性、難燃性を調べた。その結果も併せて表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
表1におけるカレンダー加工性、耐摩耗性、耐溶剤性、難燃性の試験方法、評価方法は次のとおりである。
カレンダー加工性:150℃ロール温度での加工を評価した。○は良好に加工可、△は加工可、×は滑性が高過ぎるためカレンダー加工できない、を意味する。
耐溶剤性:上記の成形で得たシートを一辺10cmの正方形に切断し試料を作成し、その質量を測定した。この試料を常温の酢酸エチルに1分間浸漬し、引き上げて風乾した後、その質量を測定した。そして、(風乾後の質量/浸漬前の質量)×100を算出した。その値が大きいほど耐溶剤性が良い。
耐摩耗性:JIS K6404−16(1999)に規定する学振型摩擦試験機を用い、JIS L3102(1978)に定める6号帆布を横向きに取付けた。荷重1kgfで破れるまでの回数で評価した。80未満では座面に使用した場合、耐用期間が不十分になる。
難燃性:JIS D1201(1998)に依った。合格は、燃焼速度が100mm/分未満を意味する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布の少なくとも片面に、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを主成分とするエラストマー層を設けた合成皮革であって、該エラストマー層はエラストマー100質量部に対しモンタン酸及び/又はモンタン酸誘導体を1〜5質量部含有することを特徴とする合成皮革。
【請求項2】
基布が、窒素−リン系難燃剤で難燃加工されている請求項1のいずれかに記載の合成皮革。
【請求項3】
窒素−リン系難燃剤が、縮合リン酸アンモニウム、縮合リン酸メラミン、縮合リン酸アミドアンモニウム及びリン酸カルバメートから選ばれた難燃剤である請求項4記載の合成皮革。


【公開番号】特開2006−22449(P2006−22449A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−203159(P2004−203159)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(000000550)オカモト株式会社 (118)
【Fターム(参考)】