説明

吊子式のはぜ接合構造

【課題】風圧を受けた外側の折板屋根材が吊子のはぜ受部から抜け外れるのを規制し、さらに弾性変形する折板屋根材に追随して吊子を弾性変形させて、はぜ接合構造の破壊を解消し、吊子式のはぜ接合構造の信頼性を向上する。
【解決手段】吊子支持体2に固定される連結部11と、連結部11の上端に設けられて軒棟方向へ伸びるはぜ受部12とで吊子4を構成する。はぜ受部12の連結部11側の基端に、外側の折板屋根材3を協同して受け止める受止段部14と抜止め爪15とを設ける。抜止め爪15は、はぜ受部12の一部を下向きに切り起して形成する。連結部11の左右両側に、吊子4の弾性変形を促進する入り隅状の切欠20を形成する。切欠20の入り隅部分は湾曲線状に丸める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、折板屋根材が吊子支持体と、同吊子支持体に固定した吊子を支持部材にしてはぜ接合してある吊子式のはぜ接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のはぜ接合構造においては、屋根の軒棟方向へ一定間隔おきに配置したタイトフレーム(吊子支持体)と、各タイトフレームに固定した吊子とで折板屋根材を支持している。したがって、タイトフレームおよび下地フレームの配置間隔を小さくし、あるいは厚み寸法が大きな折板屋根材を使用することによって屋根強度を向上できる。この種の対策はすぐにでも適用できる反面、タイトフレーム、下地フレーム、および吊子の使用数が多くなり、さらに折板屋根材の厚み寸法が大きい分だけ、資材コストと施工コストが増加するのを避けられない。
【0003】
上記のような資材コストと施工コストの増加を避けながら屋根強度を向上することは、従来から多く試みられている。例えば特許文献1においては、はぜ接合部を左右に挟む一対の締結金具と、両金具を外面側から保持する逆字状の規制具とを付加して、折板屋根のはぜ接合構造が風圧を受けて破壊されるのを防止している。締結金具および規制具は、各吊子に対応して配置してある。
【0004】
特許文献2の吊子においては、断面鉤形のはぜ部と、タイトフレームに固定される脚部とで吊子を構成し、はぜ部の長手方向の複数箇所に構造強度を増強する補強リブを設けて、折板屋根材と吊子とのはぜ接合構造が風圧を受けて破壊されるのを防止している。
【0005】
本発明のはぜ接合構造においては、吊子に受爪を設けて、風圧を受けた折板屋根材が吊子から外れようとするのを受爪で防止するが、このように吊子に受爪を設けることは、例えば特許文献3に開示されている。ただし、特許文献3の受爪は、隣接する折板屋根材と吊子の仮り組み状態を維持するために設けられており、受爪を設ける意義が本発明とは異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−299565号公報(段落番号0031、図4)
【特許文献2】特開2000−328727号公報(段落番号0013、図1)
【特許文献3】実公平04−046414号公報(第2頁左欄第16〜28行、第3図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、折板屋根材と吊子とのはぜ接合構造の破壊防止策として、従来は、折板屋根材と吊子のはぜ接合部を補強金具で補強し、あるいは、吊子自身の構造強度を向上するなど、はぜ接合構造の高剛性化を行なうことが専らであった。しかし本発明者は、はぜ接合構造の破壊現象を実験によって再現し、その過程を仔細に観察した結果、はぜ接合構造の破壊は、はぜ接合部を高剛性化するだけでは足りないことに気づいた。
【0008】
一般的に、使用状態における吊子の上下方向の曲げ強度は、折板屋根材のはぜ接合の強度より充分に大きい。そのため、風圧を受けた折板屋根材が、隣接する吊子の間で外膨らみ状に弾性変形する場合でも、吊子上端のはぜ受部が折板屋根材に追随して弾性変形することはない。先に行なった実験においては、図12に示すように、風圧を受けた外側の折板屋根材40の接合壁41が、吊子42のはぜ受部43の外面に沿って滑りながら拡開状に変形し、ついには、図12(b)に示すように接合壁41が吊子42のはぜ受部43から抜け外れて、はぜ接合構造が破壊されるのが観察された。本発明者は、上記の知見に基づきはぜ接合構造の破壊を防ぐための対策を検討した結果、本発明を提案するに至った。
【0009】
本発明の目的は、風圧を受けた外側の折板屋根材が吊子のはぜ受部から抜け外れるのを規制し、さらに弾性変形する折板屋根材に追随して吊子を弾性変形させて、はぜ接合構造が破壊されるのを解消できる信頼性に優れた吊子式のはぜ接合構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、隣接する折板屋根材3が、吊子支持体2に固定した吊子4を介して連結固定してある吊子式のはぜ接合構造を対象とする。吊子4は、吊子支持体2に固定される連結部11と、連結部11の上端に設けられて軒棟方向へ伸びるはぜ受部12とを備えている。はぜ受部12の連結部11側の基端には、外側の折板屋根材3を協同して受け止める受止段部14と抜止め爪15とを設ける。連結部11の左右両側に、吊子4の弾性変形を促進する入り隅状の切欠20を形成する。切欠20の入り隅部分は湾曲線状に丸めてある。
【0011】
はぜ受部12の左右半部の長さを100%とするとき、切欠20の入り隅部を、半径値が20〜250%の円弧を含んで湾曲線状に形成する。
【0012】
はぜ受部12の左右幅Lを、連結部11の左右幅Bより大きく設定する。抜止め爪15は、連結部11の両側に突出するはぜ受部12の左右両端に、下向きに切り起して形成する。
【0013】
切欠20の入り隅部は、連結部11の下縁に近づくほど曲率半径が小さく、連結部11の左右縁に近づくほど曲率半径が大きな湾曲線で形成する。
【0014】
抜止め爪15の下端は、受止段部14より僅かに下側へ突出する。
【0015】
抜止め爪15・16は、はぜ受部12の左右両端と、はぜ受部12の中央部の複数個所とに形成する。
【0016】
吊子4は、連結部11に通設した締結穴13を介してボルト6で吊子支持体2に締結固定する。切欠20の入り隅部分における破断強度を、締結穴13の破断強度より大きく設定する。
【発明の効果】
【0017】
本発明においては、連結部11とはぜ受部12とで吊子4を構成し、はぜ受部12の連結部11側の基端に受止段部14と抜止め爪15とを設けて、これら両者14・15が協同して外側の折板屋根材3の接当壁17を受け止めるようにした。このように、受止段部14と抜止め爪15とで接当壁17を受け止めると、折板屋根材3の接合壁8が拡開方向へ滑り移動しようとするのを抜止め爪15で防いで、接合壁8がはぜ受部12から抜け外れるのを規制できる。また、連結部11の左右両側に、湾曲線状に丸められた入り隅状の切欠20を形成するので、折板屋根材3が外膨らみ状に弾性変形するとき、吊子4を折板屋根材3に追随して弾性変形させることができる。したがって本発明によれば、はぜ接合構造が風圧を受けて破壊されるのを解消して、従来の剛構造のはぜ接合構造に比べて信頼性に優れた吊子式のはぜ接合構造を提供できる。
【0018】
はぜ受部12の左右半部の長さを100%とするとき、切欠20の入り隅部を半径値が20〜250%の円弧を含んで湾曲線状に形成すると、吊子4を折板屋根材3の弾性変形に追随して弾性変形させることができる。また、切欠20の入り隅部を始端にして連結部11が破断するのを解消して、吊子4の破断強度を満足できる。因みに、入り隅部の半径値が20%未満であると、吊子4に最大許容荷重が作用する以前に切欠20の入り隅部分に破断が生じ、強度が不足する。また、入り隅部の半径値が250%を越えると、吊子4が殆どたわまなくなり、折板屋根材3の弾性変形に追随できない。
【0019】
はぜ受部12を連結部11より広幅にして、連結部11の両側に突出するはぜ受部12の左右両端に、抜止め爪15を下向きに切り起して形成すると、他に先行してはぜ受部12の左右両端を弾性変形させることができる。また、左右両端の抜止め爪15に折板屋根材3の変形力を伝えるので、吊子4に大きな弾性モーメントを作用させて、はぜ受部12および連結部11を折板屋根材3の弾性変形に追随して円滑に弾性変形させることができる。
【0020】
切欠20の入り隅部を、連結部11の下縁に近づくほど曲率半径が小さく、連結部11の左右縁に近づくほど曲率半径が大きな湾曲線で形成すると、吊子4の断面2次モーメントを、中央部から左右両側へ向かって緩やかに変化させることができる。したがって、折板屋根材3の弾性変形に追随して吊子4をしなやかに弾性変形させながら、同時に、入り隅部分における破断強度も充分に確保することができる。
【0021】
抜止め爪15の下端が、受止段部14より僅かに下側へ突出してあると、折板屋根材3の接合壁8が外膨らみ状に弾性変形するとき、まず接当壁17が抜止め爪15の下端に喰い込んで、接合壁8が拡開方向へ滑り移動しようとするのをより確実に規制できる。したがって、外側の折板屋根材3の接合壁8が、拡開状に弾性変形して受止段部14から抜け外れるのをさらに確実に防止できる。
【0022】
抜止め爪15・16をはぜ受部12の左右両端と、はぜ受部12の中央部の複数個所に形成すると、接合壁8が風圧を受けて拡開方向へ滑り移動しようとするのを、各抜止め爪15・16で受け止めて、接合壁8がはぜ受部12から抜け外れるのを確実に規制できる。また、はぜ受部12の中央部の複数個所に抜止め爪16を形成することにより、はぜ受部12の中央部における断面2次モーメントを小さくして、はぜ受部12の左半部と右半部を、抜止め爪16の形成部分を中心にして弾性変形させることができる。
【0023】
切欠20の入り隅部分における破断強度を、吊子4に形成した締結穴13の破断強度より大きく設定すると、吊子4に最大許容荷重が作用する以前に切欠20の入り隅部分に破断が生じるのを防止して、吊子式のはぜ接合構造の信頼性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る吊子の正面図である。
【図2】実施例1に係る吊子式のはぜ接合構造の縦断正面図である。
【図3】タイトフレームと吊子の組み付け構造を示す斜視図である。
【図4】はぜ接合構造の詳細を示す縦断正面図である。
【図5】折板屋根材の変形状態を示す縦断側面図である。
【図6】切欠形状が異なる吊子の強度試験の結果を示す図表である。
【図7】切欠形状が異なる別の吊子の強度試験の結果を示す図表である。
【図8】実施例2に係る吊子式のはぜ接合構造の縦断正面図である。
【図9】実施例2に係る吊子式のはぜ接合構造の縦断側面図である。
【図10】実施例3に係る吊子式のはぜ接合構造の縦断正面図である。
【図11】実施例3に係る吊子式のはぜ接合構造の縦断正面図である。
【図12】従来のはぜ接合構造が破壊する過程を示す縦断正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(実施例1) 図1ないし図7は本発明に係る吊子式のはぜ接合構造の実施例を示す。図2および図3において、符号1は形鋼からなる下地フレーム、符号2は帯板を鋸歯状に形成したタイトフレーム(吊子支持体)、符号3はタイトフレーム2に吊子4を介して装着固定される折板屋根材である。タイトフレーム2は下地フレーム1上に溶接してあり、タイトフレーム2の立壁部に吊子4と逆L字状の当金5とがボルト6およびナット7で締結してある。図4に示すように、タイトフレーム2の立壁部に連続する上壁2aと当金5の上壁5aとで、折板屋根材3の接合部を含む山部頂壁3aを受け止めている。
【0026】
折板屋根材3は断面が逆台形状に形成された鋼板製のロール成形品からなり、その両側端部分にそれぞれ横向きの山部頂壁3aを張り出し形成し、山部頂壁3aの端部に?字状の外接合壁(接合壁)8と内接合壁(接合壁)9とが形成してある。折板屋根材3の両接合壁8・9を吊子4に巻き締めることにより、隣接する折板屋根材3・3とタイトフレーム2とを吊子4を介して分離不能に一体化し支持できる。図2において、符合3bは折板屋根材3の谷部底壁、符号3cは山部頂壁3aと谷部底壁3bとを繋ぐ傾斜壁である。
【0027】
図1および図3に示すように吊子4は、タイトフレーム2に固定される連結部11と、連結部11の上端に設けられる軒棟方向へ長いはぜ受部12とを一体に備えたステンレス製のプレス金具からなる。連結部11は盃形の垂直の板壁からなり、その中央には、先のボルト6を挿通するための締結穴13が形成してある。はぜ受部12の連結部11側の基端には、水平の受止段部14が形成してある。また、はぜ受部12の左右両側と、はぜ受部12の左右中央部の2個所に、抜止め爪15・16がはぜ受部12から下向きに切り起して形成してある。図4に示すように、両接合壁8・9を吊子4の内外に巻き締めた状態においては、先の受止段部14と抜止め爪15・16とが、折板屋根材3の外接合壁8の接当壁17を協同して受け止めている。
【0028】
図5に想像線で示すように、風圧が作用するときの折板屋根材3は、軒棟方向に隣接するタイトフレーム2の間で、想像線で示すように外膨らみ状に湾曲する。このような状況において、折板屋根材3の外接合壁8が吊子4から抜け外れるのを防止するために、はぜ受部12の左右半部を折板屋根材3に追随して上向きに弾性変形できるようにしている。つまり、吊子4を柔構造とすることにより、はぜ接合構造が破壊するのを防止している。
【0029】
具体的には、図1に示すように連結部11の左右両側に入り隅状の切欠20を形成し、吊子4の左右中央部からはぜ受部12の左右側端へ近づくほど、吊子4の断面2次モーメントを徐々に小さくして、はぜ受部12を折板屋根材3に追随して弾性変形可能とした。また、はぜ受部12の左右幅Lを、連結部11の左右幅Bより大きく設定し、連結部11の両側に突出するはぜ受部12の左右両端に抜止め爪15を形成して、左右両端の抜止め爪15の近傍における断面2次モーメントを小さくした。さらに、切欠20の入り隅部分の形状を湾曲状に丸めて、連結部11の入り隅部分における破断強度が締結穴13の破断強度より大きくなるようにした。この実施例におけるはぜ受部12の左右幅Lは200mmであり、吊子4の上下寸法は80mm、素材となるステンレス板材の厚みは1.2mmとした。
【0030】
この実施例では、入り隅部分の形状を単に部分円弧状に丸めるのではなく、図1に示すように、切欠20の形状が、連結部11の下縁に近づくほど曲率半径が小さく、連結部11の左右側縁に近づくほど曲率半径が大きくなるように湾曲形状を設定した。これにより、吊子4の断面2次モーメントを、中央部から左右両側へ向かって緩やかに変化させることができ、さらに入り隅部分における破断強度を充分に確保できる。
【0031】
図1および図4に示すように、抜止め爪15・16の下端は、受止段部14より符号Eの寸法分だけ僅かに下側へ突出してある。そのため、折板屋根材3の接合壁8が風圧を受けて外膨らみ状に弾性変形するときは、まず接当壁17が抜止め爪15・16の下端に喰い込むこととなり、これにより外側の接合壁8が拡開方向へ滑り移動しようとするのを規制できる。したがって、外側の折板屋根材3の接合壁8が、拡開状に弾性変形して受止段部14から抜け外れるのを防止できる。
【0032】
また、折板屋根材3が外膨らみ状に湾曲するときは、左右両端の抜止め爪15が受止段部14に先行して外接合壁8の弾性変形に追随して弾性変形する。このように、まず左右両端の抜止め爪15に折板屋根材3の変形力を伝えることにより、吊子4に大きな弾性モーメントを作用させて、はぜ受部12および連結部11を折板屋根材3の弾性変形に追随して弾性変形させることができる。この実施例における抜止め爪15・16の突出寸法Eは、0.5mmを標準寸法にして±0.5mmの許容誤差を許すようにした。
【0033】
切欠20の入り隅形状は、例えば図6や図7に示すように種々に変更できるが、こうした入り隅形状の違いは、はぜ受部12の弾性変形の度合に影響する。さらに、連結部11の破断強度に関しては、入り隅形状の違いはもちろんのこと、入り隅部分が丸めてあるか否かが大きく影響する。こうした切欠20の入り隅形状の影響を検証するために、図6および図7に示す試験片を形成し、各試験片について引っ張り試験を行なった。
【0034】
図6に示す各試験片は、左右幅Lが200mm、上下寸法が80mm、厚みが1.2mmのステンレス板材を使用した。各試験片において、(1−A)は左右の下隅に切欠20を設けない場合、(1−B)は直線状の切欠20を設けた場合、(1−C)は半径Rが大きな部分円弧で切欠20を形成した場合を示している。また、(1−D)から(1−H)では試験片をT字状に形成して、切欠20の入り隅部の半径Rを徐々に小さくした。
【0035】
得られた試験結果を図6の図表に示している。図表における入り隅半径%とは、吊子4の左右幅Lの半分の値を100%とするときの、入り隅部を形成する半径の百分率である。また、図表におけるたわみは、折板屋根材3の弾性変形に追随できないものを×印で、折板屋根材3の弾性変形にある程度追随できるものを△印で、折板屋根材3の弾性変形によく追随できるものを○印で表した。
【0036】
図6の図表から明らかなとおり、(1−A)および(1−B)の試験片は、折板屋根材3の弾性変形に追随できない。また、(1−G)および(1−H)の試験片は、最大許容荷重が作用する以前に切欠20の入り隅部分で破断が生じており、連結部11の破断強度を満足できない。残る(1−C)〜(1−F)の試験片は、折板屋根材3の弾性変形に追随でき、しかも、連結部11の破断強度を満足できるものであった。試験片(1−C)〜(1−F)における入り隅部の半径の百分率は20〜250%であった。
【0037】
図7に示す各試験片は、左右幅Lが150mm、上下寸法が80mm、厚みが1.2mmのステンレス板材を使用した。各試験片において、(2−A)は左右の下隅に切欠20を設けない場合、(2−B)は直線状の切欠20を設けた場合、(2−C)は半径Rが大きな部分円弧で切欠20を形成した場合を示している。また、(2−D)から(2−H)では試験片をT字状に形成して、切欠20の入り隅部の半径Rを徐々に小さくした。
【0038】
得られた試験結果を図7の図表に示している。図表における入り隅半径%とは、左右幅Lの半分の値を100%とするときの、入り隅部を形成する半径の百分率である。また、図表におけるたわみは、折板屋根材3の弾性変形に追随できないものを×印で、折板屋根材3の弾性変形にある程度追随できるものを△印で、折板屋根材3の弾性変形によく追随できるものを○印および◎印で表した。
【0039】
図7の図表から明らかなとおり、(2−A)および(2−B)の試験片は、折板屋根材3の弾性変形に追随できない。また、(2−G)および(2−H)の試験片は、最大許容荷重が作用する以前に切欠20の入り隅部分で破断が生じており、連結部11の破断強度を満足できない。残る(2−C)〜(2−F)の試験片は、折板屋根材3の弾性変形に追随でき、しかも、連結部11の破断強度を満足できるものであった。試験片(2−C)〜(2−F)における入り隅部の半径の百分率は27〜200%であった。図6および図7の試験結果から、はぜ受部12の左右半部の長さを100%とするとき、切欠20の入り隅部の半径値は、20ないし250%の百分率の円弧を含んで湾曲線状に形成することが好ましいということができる。
【0040】
(実施例2) 図8および図9は本発明に係る吊子式のはぜ接合構造を、二重構造の折板屋根に適用した実施例2を示す。そこでは、内屋根30と外屋根31、および両屋根30・31の間に配置したグラスウールマットなどの断熱体32とで、二重構造の折板屋根を構成している。内屋根30は実施例1と同様にして折板屋根を構築するので、その説明を省略し、主な符号を付しておくにとどめる。
【0041】
外屋根31は、基本的に内屋根30と同様に構成するが、内屋根30の連結部(はぜ接合部分)Cに固定した吊子台(吊子支持体)2で外屋根31の吊子4を支持する点が、内屋根30と異なる。吊子台2は、先の連結部Cを挟持する左右一対の脚片34と、脚片34の上部に挟持固定されるプラスチック製の吊子ホルダー35などで構成する。プレス金具からなる一対の脚片34の下部には、連結部Cのくびれ部分を挟持するΩ字状の係合部36が形成され、一対の脚片34の上部には、吊子ホルダー35を挟持するU字状の締結部37が形成してある。吊子ホルダー35は断面がT字状に形成してあり、その上端の両側には、外屋根31側の山部頂壁3aを受け止める受壁35aが張り出してある。吊子2は、その連結部11が吊子ホルダー35の中央部に設けたスリット38に装填される。
【0042】
吊子台2は、下屋根30の連結部Cに対して、図8に示すように締結される。詳しくは、脚片34の係合部36を連結部Cのくびれ部分に係合して、両脚片34をボルト40およびナット41で締結する。さらに締結部37に吊子ホルダー35を吊子4とともに装填して、これら三者37・35・4を、締結部37を横断するボルト42と、同ボルト42にねじ込まれるナット43で締結固定する。この状態の吊子4に対して、外屋根31を構成する折板屋根材3の両接合壁8・9を巻き締めることにより、隣接する折板屋根材3・3を、吊子4と吊子台2を介して下屋根30と分離不能に一体化できる。
【0043】
(実施例3) 図10および図11は、本発明に係る吊子式のはぜ接合構造を、実施例2と同様に二重構造の折板屋根に適用した実施例3であるが、吊子台(吊子支持体)2の構造が異なる。吊子台2は、内屋根30の連結部Cを挟持する左右一対の脚片34と、脚片34の上部に挟持固定されるプラスチック製のガイドブロック45と、ガイドブロック45で軒棟方向へスライド可能に支持される、左右一対の吊子ホルダー46などで構成する。脚片34および吊子ホルダー46はプレス金具からなる。
【0044】
一対の脚片34の下部には、連結部Cのくびれ部分を挟持するΩ字状の係合部36が形成してある。ガイドブロック45は、ガイド部47と、ガイド部47の下面中央に突設される脚部48とで断面がT字状に形成してあり、脚部48を一対の脚片34の間に挟持した状態で、ボルト40およびナット41で締結固定することにより、脚片34と一体化してある。吊子ホルダ46の下部には、先のガイド部47で案内支持される横臥C字状のスライド部49が設けてあり、吊子ホルダ46の上端左右には、外屋根31側の山部頂壁3aを受け止める受壁46aが張り出してある。スライド部49をガイド部47に係合し、左右の吊子ホルダ46をボルト42、およびナット43で締結することにより、吊子4が吊子台2に固定される。この状態の吊子4に対して、外屋根31を構成する折板屋根材3の両接合壁8・9を巻き締めることにより、隣接する折板屋根材3・3を、吊子4と吊子台2を介して下屋根30と分離不能に一体化できる。実施例2、3で説明したように、本発明に係る吊子式のはぜ接合構造は、二重構造の折板屋根の外屋根31に適用して、実施例1の折板屋根と同様に、はぜ接合構造が風圧を受けて破壊されるのを解消できる。
【0045】
上記の実施例では、切欠20の入り隅形状を、曲率半径が異なる複数の湾曲線を連続して形成したがその必要はなく、図6および図7に例示したように、入り隅形状は部分円弧で形成することができる。抜止め爪15は少なくともはぜ受部12の左右両端に形成してあればよいが、必要があれば、左右の抜止め爪15・15の間の3個所以上に抜止め爪16を設けることができる。抜止め爪15・16は受止段部14の壁面を利用して形成することができる。また、はぜ受部12と受止段部14との隅部を下向きに打ち出して、リブ状の抜止め爪15・16を形成することができる。
【0046】
連結部11の左右幅Bは、はぜ受部12の左右幅Lと同じにすることができる。タイトフレーム2の構造は実施例で説明した構造には限定しない。折板屋根材3は複数個の山部分と谷部分とが連続する構造であってもよい。二重構造の折板屋根においては、本発明に係る吊子4を、内屋根30と外屋根31の双方に適用することが好ましいが、少なくとも内屋根30と外屋根31のいずれか一方に適用してあってもよい。
【符号の説明】
【0047】
2 吊子支持体(タイトフレーム、吊子台)
3 折板屋根材
4 吊子
8 外側の接合壁
9 内側の接合壁
11 連結部
12 はぜ受部
14 受止段部
15 抜止め爪
17 接当壁
20 切欠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接する折板屋根材(3)が、吊子支持体(2)に固定した吊子(4)を介して連結固定してある吊子式のはぜ接合構造であって、
吊子(4)は、吊子支持体(2)に固定される連結部(11)と、連結部(11)の上端に設けられて軒棟方向へ伸びるはぜ受部(12)とを備えており、
はぜ受部(12)の連結部(11)側の基端には、外側の折板屋根材(3)の接合壁(8)を協同して受け止める受止段部(14)と抜止め爪(15)とが設けられており、
連結部(11)の左右両側に、吊子(4)の弾性変形を促進する入り隅状の切欠(20)が形成されており、
切欠(20)の入り隅部分が湾曲線状に丸めてあることを特徴とする吊子式のはぜ接合構造。
【請求項2】
はぜ受部(12)の左右半部の長さを100%とするとき、
切欠(20)の入り隅部を、半径値が20〜250%の円弧を含んで湾曲線状に形成してある請求項1に記載の吊子式のはぜ接合構造。
【請求項3】
はぜ受部(12)の左右幅(L)が、連結部(11)の左右幅(B)より大きく設定されており、
抜止め爪(15)が、連結部(11)の両側に突出するはぜ受部(12)の左右両端に形成してある請求項2に記載の吊子式のはぜ接合構造。
【請求項4】
切欠(20)の入り隅部が、連結部(11)の下縁に近づくほど曲率半径が小さく、連結部(11)の左右縁に近づくほど曲率半径が大きな湾曲線で形成してある請求項2または3に記載の吊子式のはぜ接合構造。
【請求項5】
抜止め爪(15)の下端が、受止段部(14)より僅かに下側へ突出してある請求項2、3または4に記載の吊子式のはぜ接合構造。
【請求項6】
抜止め爪(15・16)が、はぜ受部(12)の左右両端と、はぜ受部(12)の中央部の複数個所とに形成してある請求項3、4または5に記載の吊子式のはぜ接合構造。
【請求項7】
吊子(4)が連結部(11)に通設した締結穴(13)を介してボルト(6)で吊子支持体(2)に締結固定されており、
切欠(20)の入り隅部分における破断強度が、前記締結穴(13)の破断強度より大きく設定してある請求項1から6のいずれかひとつに記載の吊子式のはぜ接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−219961(P2011−219961A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−88828(P2010−88828)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(000006910)株式会社淀川製鋼所 (34)
【Fターム(参考)】