説明

吸音衝撃吸収材及びその製造方法

【課題】衝撃吸収能かつ吸音性能を有する吸音衝撃吸収材及びその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】硬質ポリイソシアヌレートフォームからなる吸音衝撃吸収材において、ポリオールAとしてポリオキシエチレン含有量50%以上のポリエーテルポリオールと、添加剤Aとして前記ポリオールA100重量部に対して脂肪酸ポリエチレングリコールエステル10〜40重量部と、ポリオールBとして前記ポリオールA100重量部に対してポリオキシエチレン含有量20%以下のポリエーテルポリオール10〜50重量部と、ポリイソシアネートとしてMDIとを含み、前記硬質ポリウレタンイソシアヌレートフォームはコア密度が30kg/m〜80kg/m,通気性が8cc/cm/sec以上,イソシアネートインデックスが200〜400であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃吸収能かつ吸音性能を有する吸音衝撃吸収材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車乗車時の外部からの衝撃において乗客の安全を守る為、自動車のドアー内部、天井周り、ピラー内部に衝撃吸収材が装着されている。ここで、衝撃吸収材としては、硬質ポリウレタンフォームや熱可塑性樹脂ビーズの発泡体からなるものが知られている。
【0003】
また、今日の自動車においては、エンジン音やタイヤ走行音等の騒音を制御し車内の静粛性を高めることが求められている。しかし、前記のような硬質ポリウレタンフォームや熱可塑性樹脂ビーズの発泡体は吸音性能に劣るという問題があった。
【0004】
一般的に、硬質ポリウレタンフォームは独立気泡構造からなり、連続気泡構造を付与する技術は知られているが、高い吸音性能を付与するには至らなかった。特許文献1に記載の衝撃吸収材は優れた吸収能を有している。しかし、車内での静粛性への要求が高まっている現在、衝撃吸収材にも衝撃吸収性に加えて吸音性能を備えることが求められているが、特許文献1の衝撃吸収材はその吸音性能の配慮がされていない。
【0005】
特許文献2に記載の熱可塑性樹脂ビーズの発泡体は、吸音性能を付与するために前記発泡体に吸音材を積層させて使用するといった二次加工が提案されているが、製造工数が増加しコストが増大する問題がある。
【0006】
特許文献3には、軟質ポリウレタンフォームのチップと硬質ポリウレタンフォームのチップをバインダーで圧縮成形した吸音性衝撃吸収材が記載されている。しかし、特許文献3では、チップに粉砕し圧縮成形する工程は製造工数の増加となる。また、チップとして使用する素材のばらつきが製品の性能に対して大きな影響を与えるため、高い安全性を確保しなければならない自動車部位へのチップの採用は抵抗感がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−331364号公報
【特許文献2】特開2005−280560号公報
【特許文献3】特開2005−307109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、二次加工は不要で硬質ポリイソシアヌレートフォームからなる吸音性能及び衝撃吸収能に優れた吸音衝撃吸収材、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の吸音衝撃吸収材は、ポリオールとポリイソシアネートを発泡剤、触媒、添加剤を含む反応系で発泡させて得られる硬質ポリイソシアヌレートフォームからなる吸音衝撃吸収材において、ポリオールAとしてポリオキシエチレン含有量50%以上のポリエーテルポリオールと、添加剤Aとして前記ポリオールA100重量部に対して脂肪酸ポリエチレングリコールエステル10〜40重量部と、ポリオールBとして前記ポリオールA100重量部に対してポリオキシエチレン含有量20%以下のポリエーテルポリオール10〜50重量部と、ポリイソシアネートとしてポリメリックMDIとを含み、前記硬質ポリイソシアヌレートフォームはコア密度が30kg/m〜80kg/m,通気性が8cc/cm/sec以上,イソシアネートインデックスが200〜400であることを特徴とする。
【0010】
本発明の吸音衝撃吸収材の製造方法は、ポリオールとポリイソシアネートを発泡剤、触媒、添加剤を含む反応系で発泡させて得られる硬質ポリイソシアヌレートフォームからなる吸音衝撃吸収材の製造方法において、前記ポリオールと発泡剤、触媒及び添加剤を混合し、更にこの発泡原液にポリイソシアネートを加えて混合した後、これらの材料を金型に注入しキュアして吸音衝撃吸収材を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、二次加工が不要で、硬質ポリイソシアヌレートフォームからなる衝撃吸収能かつ吸音性能を有する吸音衝撃吸収材及びその製造方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1〜3及び比較例2で得られたフォームの夫々の応力と変位との関係を示す特性図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る吸音衝撃吸収材について説明する。
本出願人は、種々研究を重ねた結果、ポリオールAとしてのポリオキシエチレン含有量50%以上のポリエーテルポリオールに添加した、添加剤Aとしての脂肪酸ポリエチレングリコールエステル及びポリオールBとしてのポリオキシエチレン含有量20%以下のポリエーテルポリオールが連通化剤として働き、通気性即ち吸音性能を向上させるのに効果的であることを見出した。ポリオールBとしてのポリオールオキシエチレン含有量20%を超えるポリエーテルポリオールであると、反応系中のポリオキシエチレン量が過剰となりフォームのセルが荒れ、成型性が悪くなる傾向がある。
【0014】
また、ポリオールBとしてのポリオキシエチレン含有量20%以下のポリエーテルポリオールが10重量部未満では連通化剤としての効果が小さく通気性が悪化し、50重量部を超えるとセル荒れが発生し成形性が悪化し、衝撃吸収材として適さなくなる。従って、ポリオールBとしてのポリオキシエチレン含有量20%以下のポリエーテルポリオールは、ポリオールA100重量部に対し10〜50重量部とした。
【0015】
本発明に係るポリオールAであるポリオキシエチレン含有量50%以上のポリエーテルポリオールとしては、平均分子量3600,官能基数3のポリエーテルポリオールとトルエンジイソシアネートからなる水酸基価30〜32mgKOH/gの水酸基末端プレポリマーが好ましい。このプレポリマーを使用することにより、反応系の粘度が上がり、フォームの通気性即ち吸音性を維持する効果を持つ。
【0016】
本発明に係る添加剤Aとしての脂肪酸ポリエチレングリコールエステルは、ポリオールA100重量部に対して10〜40重量部とする。ここで、10重量部未満では連通化剤としての効果が小さい為、フォームの通気性が低く、良好な吸音性能が得られなくなる。また、40重量部を超えると、セルが荒れ、成型性が悪化して衝撃吸収材として適さなくなる。
【0017】
本発明に係るポリイソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネート(ポリメリックMDI)等のMDI系イソシアネートの1種を単独又は2種以上を併用して使用することができる。MDI系イソシアネートは、トルエンジイソシアネート(TDI)に比べて良好なキュア性を持っているため、成型面で優れている。
【0018】
本発明において、イソシアネートインデックスは200〜400とする。ここで、イソシアネートインデックスが200未満であると硬度が低く衝撃吸収材として適さず、400を超えるとキュア性悪化を起こす。
【0019】
本発明に係る触媒としては、硬質ポリウレタンフォームのイソシアヌレート化に使用されている公知の触媒(例えば、三量化触媒)を使用することができる。三量化触媒は、ポリオール100重量部に対して5〜10重量部であることが好ましい。ここで、5重量部未満では、イソシアヌレート化が促進されず、衝撃吸収材として要求される硬度に満たない硬質ポリウレタンフォームとなる。また、10重量部を超えると、イソシアヌレート化に大きな違いは現れない。
【0020】
本発明で用いる発泡剤としては、一般的な硬質ポリウレタンフォームの製造に用いる公知のものであれば使用することができる。
本発明に係る整泡剤を始めとするその他の添加剤については、一般的なウレタンフォームの製造に用いるものであれば使用することができる。
【0021】
本発明に係る硬質ポリイソシアヌレートフォームのコア密度は、30〜80kg/mとする。ここで、コア密度が30kg/m未満では、フォームに欠肉が発生して成型不良となる。また、80kg/mを超えると、硬度が高くなりすぎて吸音衝撃吸収材として適さなくなる。
【0022】
本発明に係る硬質ポリイソシアヌレートフォームの通気性は、8cc/cm/sec以上とする。8cc/cm/sec以上の通気性とすることで、広範囲の周波数領域で良好な吸音率を得ることができる。なお、通気性が40cc/cm/sec以上では、吸音性を大きく改善することはなくなる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
下記表1記載の実施例及び比較例における原料は以下のとおりである。
(1)ポリオールA;平均分子量3600,官能基数3,ポリオキシエチレン含有量80%のポリエーテルポリオールとトルエンジイソシアネートからなる水酸基価31mgKOH/gの水酸基末端プレポリマー
(2)ポリオールB;(株)三井化学製の商品名:T-3000(ポリオキシエチレン含有量0%,水酸基価=56)
(3)触媒A;エアプロダクツジャパン(株)製の商品名:POLYCAT52(泡化触媒)
(4)触媒B;エアプロダクツジャパン(株)製の商品名:TMR7(三量化触媒)
(5)シリコーン整泡剤A;東レ・ダウコーニング(株)製の商品名:SRX-280A
(6)シリコーン整泡剤B;東レ・ダウコーニング(株)製の商品名:SF2962
(7)シリコーン整泡剤C;東レ・ダウコーニング(株)製の商品名:SZ-1923
(8)添加剤A;日本乳化剤(株)製の商品名:EM ALEX DEG-di-O(ジオレイン酸ジエチルグリコール)
(9)添加剤B;三洋化成工業(株)製の商品名:イオネットDO-600
(10)ポリイソシアネート;住友バイエルウレタン(株)製の商品名:44V20
【表1】

【0024】
(実施例1)
表1に示す配合処方に従って(ハンド発泡により)、原料温度30℃に設定した所定量のポリイソシアネート以外の各原料を配合する。この時、各原料は表1に示す配合処方の0.22倍量とした。プロペラ式攪拌機を使用した場合、原料を約1分間混合・攪拌し発泡原液を得る。次に、前記発泡原液に原料温度30℃に設定したポリイソシアネートを加え、約5秒間混合・撹拌した。つづいて、ポリイソシアネートを加えて混合・攪拌した発泡原液を、金型温度70℃にセットした金型(355mm×355mm、厚み30mm)に注入し、キュア時間7分で脱型した。攪拌機は高圧または低圧発泡、その他攪拌機を使用することができる。
【0025】
(実施例2)
各原料を表1に示す配合処方の0.20倍量とし、シリコーン整泡剤Bに代えてシリコーン整泡剤Cを用いたこと、及びイソシアネートインデックスを260としたことの他は、実施例1に準じた。
(実施例3)
各原料を表1に示す配合処方の0.26倍量とした他は、実施例1に準じた。
【0026】
(比較例1)
添加剤Aを5重量部とした他は、実施例1に準じた。
(比較例2)
各原料を表1に示す配合処方の0.31倍量とし、イソシアネートインデックスを150とした他は、実施例1に準じた。
(比較例3)
各原料を表1に示す配合処方の0.14倍量とした他は、実施例1に準じた。
【0027】
下記表2は、上記実施例1〜3、比較例1〜3の密度、衝撃性評価、50%歪み応力、座面・通気性、裏面・通気性、燃焼試験及び吸音性評価を示す。また、図1は、実施例1〜3及び比較例2で得られたフォームの夫々の応力と変位との関係を示す特性図を示す。図1より、比較例2の場合、実施例1〜3と比べて小さい圧縮応力(約0.1MPa)であることが明らかである。
【表2】

【0028】
得られたフォームについて、密度とJIS−K6400−7B法により通気性(但し、測定厚み30mm)を測定した。通気性は、金型の下面に接している面を座面、上面に接している面を裏面として測定した。
【0029】
次に、得られたフォームを高さ約30mm、寸法50mm×50mmの試験片に切り取り、高分子計器株式会社製のフォーム用自動硬さ試験器(商品名:AF−200シリーズ)を用いて発泡高さ方向から50mm/secの降下スピードで圧縮し、50%圧縮硬度を測定した。優れた衝撃吸収材の評価として、50%圧縮時の応力が0.15MPa以上であり、一般的に従来のポリウレタンフォームは歪の変化に伴い応力が増大していくが、歪みの変化に対して応力が変化しにくい座屈性の有無を確認した。良好なものを「○」、劣るものを「△」、不良なものを「×」とした。
【0030】
次いで、得られたフォームについてJIS−A1405垂直入射吸音率法に基づき、測定厚み30mmにて各周波数に対する吸音率を確認した。吸音性評価は、良好なものを「○」、劣るものを「△」、不良なものを「×」とした。
【0031】
次いで、得られたフォームについてFMVSS 302に規定の試験法に準じて燃焼試験を行った。
表2及び図1の結果より、実施例1〜3においては良好な通気性即ち吸音性が得られ、なおかつ良好な衝撃吸収も付与されたことが確認できた。比較例1の場合、脂肪酸ポリエチレングリコールエステルの添加部数が少ないと良好な通気性即ち吸音性を得ることができなかった。比較例2の場合、イソシアネートインデックス150では、座屈性は確認できるものの、50%圧縮時の硬さが0.15MPaに届かず低硬度の為、衝撃吸収材として適さなかった。比較例3の場合、フォーム密度26kg/mでは欠肉が発生したためフォームが成型せず、各物性を評価することができなかった。
【0032】
本発明では、二次加工が一切不要となり、硬質ポリウレタンフォーム単体で吸音性能に優れた衝撃吸収材が得られるので、例えば、自動車では外部からの衝撃から乗客を守り、かつ車内の静粛性を高めたい部位に効果的である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオールとポリイソシアネートを発泡剤、触媒、添加剤を含む反応系で発泡させて得られる硬質ポリイソシアヌレートフォームからなる吸音衝撃吸収材において、
ポリオールAとしてポリオキシエチレン含有量50%以上のポリエーテルポリオールと、
添加剤Aとして前記ポリオールA100重量部に対して脂肪酸ポリエチレングリコールエステル10〜40重量部と、
ポリオールBとして前記ポリオールA100重量部に対してポリオキシエチレン含有量20%以下のポリエーテルポリオール10〜50重量部と、
ポリイソシアネートとしてポリメリックMDIとを含み、
前記硬質ポリイソシアヌレートフォームはコア密度が30kg/m〜80kg/m,通気性が8cc/cm/sec以上,イソシアネートインデックスが200〜400であることを特徴とする吸音衝撃吸収材。
【請求項2】
前記ポリオールAとしてのポリオキシエチレン含有量50%以上のポリエーテルポリオールは、平均分子量3600,官能基数3のポリエーテルポリオールとトルエンジイソシアネートからなる水酸基価30〜32mgKOH/gの水酸基末端プレポリマーであることを特徴とする請求項1記載の吸音衝撃吸収材。
【請求項3】
前記添加剤Aとしての脂肪酸ポリエチレングリコールエステルは、ジオレイン酸ポリエチレングリコールであることを特徴とする請求項1または2記載の吸音衝撃吸収材。
【請求項4】
前記ポリオールBとしてのポリオキシエチレン含有量20%以下のポリエーテルポリオールは、平均分子量3000,官能基数3及び水酸基価56mgKOH/gであることを特徴とする請求項1乃至3いずれか一記載の吸音衝撃吸収材。
【請求項5】
ポリオールとポリイソシアネートを発泡剤、触媒、添加剤を含む反応系で発泡させて得られる硬質ポリイソシアヌレートフォームからなる吸音衝撃吸収材の製造方法において、
前記ポリオールと発泡剤、触媒及び添加剤を混合し、更にこの発泡原液にポリイソシアネートを加えて混合した後、これらの材料を金型に注入しキュアして吸音衝撃吸収材を製造することを特徴とする吸音衝撃吸収材の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−47338(P2013−47338A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−167576(P2012−167576)
【出願日】平成24年7月27日(2012.7.27)
【出願人】(000003425)株式会社東洋クオリティワン (18)
【Fターム(参考)】