説明

哺乳動物Prickle遺伝子

本発明により哺乳動物のPSD画分に存在する蛋白質をコードするmPrickle遺伝子が提供される。mPrickle蛋白質は、シナプスに局在し、骨格蛋白質PSD−95と結合する。また、抗mPrickle抗体を用いてmPrickleを生体内より沈澱させるとNMDA受容体も一緒に沈澱されることから、NMDA受容体を標的としたドラッグデリバリーシステムにおいてmPrickleを利用することができる。NMDA受容体は学習及び記憶と密接に関連し、精神疾患との関係も指摘されていることから、将来的には、mPrickleを利用したボケ、痴呆等の学習・記憶に関連した神経変性疾患の診断・治療も可能と考えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、シナプス後膜肥厚(postsynaptic density;PSD)に発現している哺乳動物Prickle(mammalian prickle;mPrickle)蛋白質をコードする新規遺伝子に関する。さらに、本発明は該遺伝子を用いたポリペプチドの製造方法、該ポリペプチドの断片、並びに該ポリペプチドに対する抗体に関する。
【背景技術】
神経シナプスとは非対称形の神経細胞間の接着部位を指す。神経シナプスは神経伝達の中心でもあり、神経活動に依存してその接着を活発に変化させ、シナプス前膜及び後膜における神経伝達の効率を調節している。シナプス後膜肥厚(PSD)は、細胞骨格蛋白質が興奮性シナプスのシナプス後膜を裏打ちする特殊化した領域であり、PSD−95等の骨格分子(scaffolding molecule)、神経伝達物質受容体、イオンチャンネルが数多く存在し、神経細胞の形態変化、神経可塑性等の神経系の機能に深く関与していると考えられている(Y.Yoshimura and T.Yamauchi(1997)J.Biol.Chem.272:26354;S.Stack et al.(1997)J.Biol,Chem.272:13467;Siekevitz et al.(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:3494−8;Walch and Kuruc(1992)J.Neurochem.59:667−8)。特に、膜蛋白質のニューロン内での局在及びクラスター化は、ニューロンの発達及びシナプス形成にとって重要である。従って、このような膜蛋白質と相互作用する蛋白質は、膜蛋白質の細胞における空間的配置、シナプスの活性制御、神経伝達物質受容体機能の調節等に影響することが考えられる。
【発明の開示】
Prickleはショウジョウバエ(Drosophila)のplaner cell polarityに関与する蛋白質であり、羽に生える毛の向きを制御していることが知られている(以下、ショウジョウバエのPrickle蛋白質をD−Prickleと呼ぶ)(Gubb et al.(1999)″The balance between isoforms of the prickle LIM domain protein is critical for planar polarity in Drosophila imaginal disce.″,Genes Dev.13:2315−27)。D−Prickleはdishevelled(Dsh)と結合し、Dshの局在を変化させることでfizzled(fz)からのシグナル伝達を阻害すると考えられている。また、JNK(c−Jun N−terminal kinase)のシグナリングは、planer cell polarityのシグナリングと関連しているが、哺乳動物のDshもショウジョウバエの場合と同様にJNKシグナリングを活性化させる。これらの事実から、哺乳動物でもDshとPrickle蛋白質が相互作用することで、シナプスの極性形成やJNKシグナリングに関与している可能性がある。しかしながら、このショウジョウバエのPrickle(以下、D−Prickleと言う)に対応する、高等動物におけるホモログは単離されていない。そこで、本発明の目的は、ショウジョウバエのPrickleの高等動物におけるホモログを同定し、提供することである。
MS733は、本発明者らによりラット大脳からPSD分画に濃縮している蛋白質として同定された。本発明において、その一次構造を決定し、機能解析を行った。その結果、MS733は847アミノ酸からなるN末端に3つのLIMドメインを有し、1つのPETドメインを有する蛋白質であることが判明した。さらにデータベースサーチの結果から、ショウジョウバエ(Drosophila)のprickle蛋白質と高い相同性を示すことが判明した。そこで、本発明のMS733蛋白質を哺乳動物(mammalian)prickle(mPrickle)と命名した。以下、特に配列番号:1記載のアミノ酸配列を有するラット由来の蛋白質をR−Prickleと呼ぶ。本発明において作成したmPrickleに対する抗体を用いた解析により、mPrickleが生化学的にPSD分画に濃縮し、細胞骨格に強く結合していることが明らかとなった。さらに、ラット海馬初代神経細胞を用いた解析からは、mPrickleの局在が、シナプトフィジン、PSD−95、GAD等と一致した。これらの結果から、mPrickleは新規のシナプス蛋白質であることが判明した。
さらに研究を進めたところ、mPrickleに対する抗体を用いて生体内のmPrickleを沈澱させると神経伝達物質であるNMDA受容体と一緒に沈澱することがわかった。NMDA受容体は、学習及び記憶に関与しており、精神疾患等において重要な役割を果たしていることが知られている(J.Z.Tsien(1999)″Genetic enhancement of learning and memory in mice.″,Nature 401:63−9)。また、mPrickleはPSD蛋白質であるPSD−95と結合することが、本発明者らにより明らかにされた。PSD−95は、シナプスの成熟、学習、及び記憶の細胞レベルにおけるモデルとして考えられている長期増強(long term potentiation;LTP)の発現において重要な役割を果たしていることが明らかにされている(EI−Husseini et al.(2000)″PSD−95 involvement in maturation of excitatory synapses.″,Science 290:1364−8;Migaud et al.(1998)″Enhanced long−term potentiation and impaired learning in mice with mutant postsynaptic density−95 protein″,Nature 396:433−9)。従って、本発明のmPrickleをドラッグデリバリーの標的とすることにより、記憶と密接に関与するPSD−95及びNMDAレセプター等を間接的なターゲットとすることができると考えられる。
より具体的には、本発明は
[1]哺乳動物Prickle蛋白質をコードする(1)〜(4)の核酸配列から選択される配列を含むポリヌクレオチド、
(1)配列番号:1のアミノ酸配列をコードする核酸配列、または該核酸配列に相補的な配列
(2)配列番号:2の核酸配列、または該核酸配列に相補的な配列
(3)配列番号:1のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換、または付加されたアミノ酸配列をコードする核酸配列、または該核酸配列に相補的な配列
(4)上記(2)の配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸配列
[2][1]記載のポリヌクレオチドを含むベクター、
[3][1]記載のポリヌクレオチドまたは[2]記載のベクターを含む宿主細胞、
[4][1]記載のポリヌクレオチドを翻訳する工程を含む、該ポリヌクレオチドによりコードされる哺乳動物Prickle蛋白質を製造する方法、
[5][1]記載のポリヌクレオチドによリコードされるポリペプチドの断片であり、少なくとも8アミノ酸残基を有するポリペプチド断片、
[6][1]記載のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド、または[5]記載のポリペプチド断片に対する抗体、並びに
[7][5]記載のポリペプチド断片をコードするヌクレオチド鎖、
に関する。
<ポリヌクレオチド>
本発明のポリヌクレオチドは、mPrickle蛋白質を遺伝子工学的に発現させる際に使用することができる。mPrickle蛋白質は、本発明においてシナプスに局在することが確認され、シナプスのマーカーとして使用することができる。即ち、本発明のmPrickle蛋白質をコードするポリヌクレオチド、またはその一部の特異的断片を使用して、mPrickle遺伝子の発現を検出することによりシナプスを検出することができる。従って、本発明のポリヌクレオチドは、シナプス検出試薬として用いることもできる。また、骨格蛋白質として知られるPSD−95と結合することが示され、PSD−95の精製に利用することもできる。さらに、mPrickleに対する抗体を用いてmPrickleを生体内より沈澱させるとNMDA受容体も一緒に沈澱されることから、NMDA受容体を標的としたドラッグデリバリーシステムにおいてmPrickleを利用することができる。NMDA受容体は、学習及び記憶と密接に関連し、精神疾患との関係も指摘されていることから、将来的には、mPrickleを利用したボケ、痴呆等の学習・記憶に関連した疾患の診断も可能と考えられる。本発明のポリヌクレオチドは、mPrickleをコードする、配列番号:2の核酸配列、または該核酸配列に相補的な配列を含むものである。
ここで、「ポリヌクレオチド」とは、複数のデオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)等の塩基または塩基対からなる重合体を指し、DNA、cDNA、ゲノムDNA、化学合成DNA及びRNAを含む。また、天然以外の塩基、例えば、4−アセチルシチジン、5−(カルボキシヒドロキシメチル)ウリジン、2’−0−メチルシチジン、5−カルボキシメチルアミノメチル−2−チオウリジン、5−カルボキシメチルアミノメチルウリジン、ジヒドロウリジン、2’−0−メチルプソイドウリジン、β−D−ガラクトシルキュェオシン、2’−0−メチルグアノシン、イノシン、N6−イソペンテニルアデノシン、1−メチルアデノシン、1−メチルプソイドウリジン、1−メチルグアノシン、1−メチルイノシン、2,2−ジメチルグアノシン、2−メチルアデノシン、2−メチルグアノシン、3−メチルシチジン、5−メチルシチジン、N6−メチルアデノシン、7−メチルグアノシン、5−メチルアミノメチルウリジン、5−メトキシアミノメチル−2−チオウリジン、β−D−マンノシルキュェオシン、5−メトキシカルボニルメチル−2−チオウリジン、5−メトキシカルボニルメチルウリジン、5−メトキシウリジン、2−メチルチオ−N6−イソペンテニルアデノシン、N−((9−β−D−リボフラノシル−2−メチルリオプリン−6−イル)カルバモイル)トレオニン、N−((9−β−D−リボフラノシルプリン−6−イル)N−メチルカルバモイル)トレオニン、ウリジン−5−オキシ酢酸−メチルエステル、ウリジン−5オキシ酢酸、ワイブトキソシン、プソイドウリジン、キュェオシン、2−チオシチジン、5−メチル−2−チオウリジン、2−チオウリジン、4−チオウリジン、5−メチルウリジン、N−((9−β−D−リボフラノシルプリン−6−イル)カルバモイル)トレオニン、2’−0−メチル−5−メチルウリジン、2’−0−メチルウリジン、ワイブトシン、3−(3−アミノ−3−カルボキシプロピル)ウリジン等を必要に応じて含むポリヌクレオチドも包含する。
さらに、本発明のポリヌクレオチドは、mPrickle蛋白質をコードする、配列番号:1記載のアミノ酸配列をコードする核酸配列、または該核酸配列に相補的な配列を含む。このようなアミノ酸配列をコードする核酸配列は、配列番号:2に記載された核酸配列に加えて、遺伝子暗号の縮重により配列番号:2記載の配列とは異なる核酸配列を含むものである。本発明のポリヌクレオチドを遺伝子工学的な手法によりポリペプチドを発現させるのに用いる場合、使用する宿主のコドン使用頻度を考慮して、発現効率の高いヌクレオチド配列を選択し、設計することができる(Grantham et al.(1981)Nucleic Acids Res.9:43−74)。
本発明のポリヌクレオチドは、mPrickle蛋白質、またはその抗原性断片をコードする、配列番号:1のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列をコードする核酸配列、または該核酸配列に相補的な配列を含む。1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列からなる変異ポリペプチドにおいても、元のポリペプチドと同じ生物学的活性が維持されることは公知である(Mark et al.(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:5662−6;Zoller and Smith(1982)Nucleic Acids Res.10:6487−500;Wang et al.(1984)Science 224:1431−3;Dalbadie−McFarland et al.(1982)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 79:6409−13)。
ここで、アミノ酸の置換とは、配列中のアミノ酸残基の一つ以上が、異なる種類のアミノ酸残基に変えられた変異を意味する。このような置換により本発明のポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列を改変する場合、蛋白質の機能を保持することが必要な場合には、保存的な置換を行うことが好ましい。保存的な置換とは、置換前のアミノ酸と似た性質のアミノ酸をコードするように配列を変化させることである。アミノ酸の性質は、例えば、非極性アミノ酸(Ala,Ile,Leu,Met,Phe,Pro,Trp,Val)、非荷電性アミノ酸(Asn,Cys,Gln,Gly,Ser,Thr,Tyr)、酸性アミノ酸(Asp,.Glu)、塩基性アミノ酸(Arg,His,Lys)、中性アミノ酸(Ala,Asn,Cys,Gln,Gly,Ile,Leu,Met,Phe,Pro,Ser,Thr,Trp,Tyr,Val)、脂肪族アミノ酸(Ala,Gly)、分枝アミノ酸(Ile,Leu,Val)、ヒドロキシアミノ酸(Ser,Thr)、アミド型アミノ酸(Gln,Asn)、含硫アミノ酸(Cys,Met)、芳香族アミノ酸(His,Phe,Trp,Tyr)、複素環式アミノ酸(His,Trp)、イミノ酸(Pro,4Hyp)等に分類することができる。中でも、Ala、Val、Leu及びIleの間、Ser及びThrの間、Asp及びGluの間、Asn及びGlnの間、Lys及びArgの間、Phe及びTyrの間の置換は、蛋白質の性質を保持する置換として好ましい。変異されるアミノ酸の数及び部位は特に制限されず、該ポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸がmPrickle蛋白質の抗原性を有していれば良い。
このような配列番号:1のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドは、『Molecular Cloning,A Laboratory Manual 2nd ed.』(Cold Spring Harbor Press(1989))、『Current Protocols in Molecular Biology』(John Wiley & Sons(1987−1997);特にSection8.1−8.5)、Hashimoto−Goto et al.(1995)Gene 152:271−5、Kunkel(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:488−92、Kramer and Fritz(1987)Method.Enzymol.154:350−67、Kunkel(1988)Method.Enzymol.85:2763−6等に記載の部位特異的変異誘発法等の方法に従って調製することができる。
さらに、本発明のポリヌクレオチドは、mPrickle蛋白質、またはその抗原性断片をコードする、配列番号:2の核酸配列または該核酸配列に相補的な配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸配列、を含むポリヌクレオチドである。このようなポリヌクレオチドとしては、アイソフォーム、アルタナティブアイソフォーム、及びアレリック変異体が考えられ、本発明のポリヌクレオチドに含まれる。このようなポリヌクレオチドは、配列番号:2を含む核酸配列からなるポリヌクレオチド、またはその断片をプローブとして、コロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリダイゼーション、サザンブロット等の公知のハイブリダイゼーション法により、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ハムスター、ニワトリ、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ等の動物のcDNAライブラリー及びゲノムライブラリーから得ることができる。cDNAライブラリーの作成方法については、『Molecular Cloning,A Laboratory Manual 2nd ed.』(Cold Spring Harbor Press(1989))を参照することができる。また、市販のcDNAライブラリー及びゲノムライブラリーを用いてもよい。
より具体的に、cDNAライブラリーの作製においては、まず、本発明のポリヌクレオチドを発現する細胞、臓器、組織等からグアニジン超遠心法(Chirwin et al.(1979)Biochemistry 18:5294−9)、AGPC法(Chomczynski and Sacchi(1987)Anal.Biochem.162:156−9)等の公知の手法により全RNAを調製し、mRNA Purification Kit(Pharmacia)等を用いてmRNAを精製する。QuickPrep mRNA Purification Kit(Pharmacia)のような、直接mRNAを調製するためのキットを利用してもよい。次に得られたmRNAから逆転写酵素を用いてcDNAを合成する。AMV Reverse Transcriptase First−strand cDNA Synthesis Kit(生化学工業)のようなcDNA合成のためのキットも市販されている。その他の方法として、cDNAはPCRを利用した5’−RACE法(Frohman et al.(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:8998−9002;Belyavsky et al.(1989)Nucleic Acids Res.17:2919−32)により合成、及び増幅させてもよい。また、全長率の高いcDNAライブラリーを作製するために、オリゴキャップ法(Maruyama and Sugano(1994)Gene 138:171−4;Suzuki(1997)Gene 200:149−56)等の公知の手法を採用することもできる。上述のようにして得られたcDNAは、適当なベクター中に組み込む。
本発明におけるハイブリダイゼーション条件としては、例えば「2×SSC、0.1%SDS、50℃」、「2×SSC、0.1%SDS、42℃」、「1×SSC、0.1%SDS、37℃」、よりストリンジェントな条件としては、例えば「2×SSC、0.1%SDS、65℃」、「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」、「0.2×SSC、0.1%SDS、65℃」等の条件を挙げることができる。より詳細には、Rapid−hyb buffer(Amersham Life Science)を用いた方法として、68℃で30分以上プレハイブリダイゼーションを行った後、プローブを添加して1時間以上68℃に保ってハイブリッド形成させ、その後、2×SSC、0.1%SDS中、室温で20分の洗浄を3回、1×SSC、0.1%SDS中、37℃で20分の洗浄を3回、最後に、1×SSC、0.1%SDS中、50℃で20分の洗浄を2回行うことも考えられる。その他、例えばExpresshyb Hybridization Solution(CLONTECH)中、55℃で30分以上プレハイブリダイゼーションを行い、標識プローブを添加し、37〜55℃で1時間以上インキュベートし、2×SSC、0.1%SDS中、室温で20分の洗浄を3回、1×SSC、0.1%SDS中、37℃で20分の洗浄を1回行うこともできる。ここで、例えば、プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーションや2度目の洗浄の際の温度を上げることにより、よりストリンジェントな条件とすることができる。例えば、プレハイブリダイゼーション及びハイブリダイゼーションの温度を60℃、さらにストリンジェントな条件としては68℃とすることができる。当業者であれば、このようなバッファーの塩濃度、温度等の条件に加えて、その他のプローブ濃度、プローブの長さ、反応時間等の諸条件を加味し、本発明の実施例において得られたラットPrickleのアイソフォーム、アレリック変異体、及び対応する他種生物由来の遺伝子を得るための条件を設定することができる。
ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、『Molecular Cloning,A Laboratory Manual 2nd ed.』(Cold Spring Harbor Press(1989);特にSection9.47−9.58)、『Current Protocols in Molecular Biology』(John Wiley & Sons(1987−1997);特にSection6.3−6.4)、『DNA Cloning 1:Core Techniques,A Practical Approach 2nd ed.』(Oxford University(1995);条件については特にSection2.10)等を参照することができる。ハイブリダイズするポリヌクレオチドとしては、配列番号:2を含む核酸配列に対して少なくとも50%以上、好ましくは70%、さらに好ましくは80%、より一層好ましくは90%(例えば、95%以上、さらには99%)の同一性を有する核酸配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。このような同一性は、BLASTアルゴリズム(Altschul(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264−8;Karlin and Altschul(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873−7)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいたプログラムとして、アミノ酸配列についての同一性を決定するプログラムとしてはBLASTX、ヌクレオチド配列についてはBLASTN(Altschul et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403−10)等が開発されており、本発明の配列に対して使用することができる。具体的な解析方法については、例えば、http://www.ncbi,nlm.nih.gov.等を参照することができる。本発明の哺乳動物Prickle遺伝子がコードする蛋白質とD−Prickleのアミノ酸レベルでの相同性は、約23%であった。
その他、遺伝子増幅技術(PCR)(Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons(1987)Section 6.1−6.4)により、mPrickleのアイソフォームやアレリック変異体等、mPrickleと類似した構造及び機能を有する遺伝子を、配列番号:2に記載の核酸配列を基にプライマーを設計し、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ハムスター、ニワトリ、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ等の動物のcDNAライブラリー及びゲノムライブラリーから得ることができる。
本発明のポリヌクレオチドの塩基配列の確認は、慣用の方法により配列決定することにより行うことができる。例えば、ジデオキシヌクレオチドチェーンターミネーション法(Sanger et al.(1977)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 74:5463)等により行うことができる。また、適当なDNAシークエンサーを利用して配列を解析することも可能である。
<ヌクレオチド鎖>
さらに、本発明により、本発明のポリヌクレオチドに相補的な、少なくとも15塩基からなるヌクレオチド鎖が提供される。ここで「相補的な配列」とは、ヌクレオチド配列中の少なくとも15個の連続した塩基が鋳型に対して完全に対になっている場合のみならず、そのうちの少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%、さらに好ましくは95%以上(例えば、97%または99%)が対になっているものも含む。対になっているとは、鋳型となるポリヌクレオチドの塩基配列中のAに対しT(RNAの場合はU)、TまたはUに対しA、Cに対しG、そしてGに対対しCが対応して鎖が形成されていることを意味する。そして相同性は、上述のハイブリダイズするポリヌクレオチドの場合と同様の方法で決定することができる。
このような本発明のヌクレオチド鎖は、本発明のポリヌクレオチドを検出または単離するためのプローブ、増幅するためのプライマーとして利用することができる。通常、プライマーとして使用する場合には15〜100、好ましくは15〜35個の塩基より構成されていることが望ましく、プライマーとして使用する場合には、少なくとも15、好ましくは30個の塩基より構成されていることが望ましい。プライマーの場合には、3’末端側の領域を標的とする配列に対して相補的な配列に、5’末端側には制限酵素認識配列、タグ等を付加した形態に設計することができる。本発明のヌクレオチド鎖は、本発明のポリヌクレオチドに対してハイブリダイズすることができる。さらに、これらのプローブまたはプライマーを用いて、細胞内における本発明のポリヌクレオチドの変異を検出することができる。このような変異は、場合により本発明のポリペプチドの活性、または発現の異常を引き起こすものであることから、疾病の診断等に有用と考えられる。
また、本発明のヌクレオチド鎖には、本発明のポリヌクレオチドの細胞内における発現をmRNAまたはDNAに対して結合することにより抑制するアンチセンス核酸、及び、mRNAを特異的に開裂することにより阻止するリボザイムが含まれる。
アンチセンスによる標的遺伝子の発現抑制作用の機構としては、(1)3重鎖形成による転写開始阻害、(2)RNAポリメラーゼにより形成される局所的開状ループ構造部位とのハイブリッド形成による転写抑制、(3)合成中のRNAとのハイブリッド形成による転写阻害、(4)イントロン−エキソン接合点におけるハイブリッド形成によるスプライシング抑制、(5)スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、(6)mRNAとのハイブリッド形成による、mRNAの細胞質への移行抑制、(7)キャッピング部位またはポリA付加部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、(8)翻訳開始因子結合部位とのハイブリッド形成による翻訳開始抑制、(9)リボソーム結合部位とのハイブリッド形成による翻訳抑制、(10)mRNA翻訳領域またはポリソーム結合部位とのハイブリッド形成によるペプチド鎖の伸長抑制、並びに(11)核酸と蛋白質の相互作用部位とのハイブリッド形成による遺伝子発現抑制が挙げられる(平島及び井上『新生化学実験講座2 核酸IV 遺伝子の複製と発現』日本生化学会編、東京化学同人、pp.319−347(1993))。
本発明のヌクレオチド鎖に含まれるアンチセンス核酸は、上述の(1)〜(11)のどの機構により遺伝子発現を抑制する核酸であってもよく、即ち、発現を阻害する目的の遺伝子の翻訳領域のみならず、非翻訳領域の配列に対するアンチセンス配列を含むものであってもよい。アンチセンス核酸をコードするDNAは、その発現を可能とする適当な制御配列下に連結して使用され得る。アンチセンス核酸は、標的とする遺伝子の翻訳領域または非翻訳領域に対して完全に相補的である必要はなく、効果的に該遺伝子の発現を阻害するものであればよい。このようなアンチセンス核酸としは、少なくとも15bp以上、好ましくは100bp以上、さらに好ましくは500bp以上であり通常3000bp以内、好ましくは2000bp以内、より好ましくは1000bp以内の鎖長を有し、標的遺伝子の転写産物の相補鎖に対して好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上同一である。このようなアンチセンス核酸は、本発明のポリヌクレオチドを基に、ホスホロチオネート法(Stein(1988)Nucleic Acids Res.16:3209−21)等により調製することができる。
リボザイムとは、RNAを構成成分とする触媒の総称であり、大きくラージリボザイム(large ribozyme)及びスモールリボザイム(small libozyme)に分類される。ラージリボザイムは、核酸のリン酸エステル結合を切断し、反応後に5’−リン酸と3’−ヒドロキシル基を反応部位に残す酵素である。ラージリボザイムは、さらに(1)グアノシンによる5’−スプライス部位でのトランスエステル化反応を行うグループIイントロンRNA、(2)自己スプライシングをラリアット構造を経る二段階反応で行うグループIIイントロンRNA、及び(3)加水分解反応によるtRNA前駆体を5’側で切断するリボヌクレアーゼPのRNA成分に分類される。それに対して、スモールリボザイムは、比較的小さな構造単位(40bp程度)であり、RNAを切断して、5’−ヒドロキシル基と2’−3’環状リン酸を生じさせる。スモールリボザイムには、ハンマーヘッド型(Koizumi et al.(1988)FEBS Lett.228:225)、ヘアピン型(Buzayan(1986)Nature 323:349;Kikuchi and Sasaki(1992)Nucleic Acids Res.19:6751;菊地洋(1992)化学と生物30:112)等のリボザイムが含まれる。リボザイムは、改変及び合成が容易になため多様な改良方法が公知であり、例えば、リボザイムの基質結合部を標的部位の近くのRNA配列と相補的となるように設計することにより、標的RNA中の塩基配列UC、UUまたはUAを認識して切断するハンマーヘッド型リボザイムを作ることができる(Koizumi et al.(1988)FEBS Lett.228:225;小泉誠及び大塚栄子(1990)蛋白質核酸酵素35:2191;Koizumi et al.(1989)Nucleic Acids Res.17:7059)。ヘアピン型のリボザイムについても、公知の方法に従って設計、製造が可能である(Kikuchi and Sasaki(1992)Nucleic Acids Res.19:6751;菊地洋(1992)化学と生物30:112)。
本発明のヌクレオチド鎖に含まれるアンチセンス核酸及びリボザイムは、細胞内における遺伝子の発現を制御するために、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス等のウイルス由来のベクター、リポソーム等を利用した非ウイルスベクター、またはnaked DNAとしてex vivo法またはin vivo法により遺伝子治療に用いることもできる。
本発明のヌクレオチド鎖の塩基配列の確認は、上述のポリヌクレオチドと同様の方法により行うことができる。
<ベクター>
本発明により、本発明のポリヌクレオチドを含むベクターが提供される。本発明のベクターは、本発明のポリヌクレオチドを宿主細胞内に保持したり、該ポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドを発現させたりするのに有用である。本ベクターには、プラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージ、クローニング用ベクター、発現ベクター等の種々のベクターが含まれる(Molecular Cloning,A Laboratory Manual 2nd ed.,Cold Spring Harbor Press(1989);Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons(1987))。好ましい態様においては、ベクターを導入した宿主細胞内で本発明のポリヌクレオチドが発現されるように制御配列下に結合する。ここで「制御配列」とは、宿主細胞が原核生物であればプロモーター、リボソーム結合部位、及びターミネーターを含み、真核生物の場合は、プロモーター及びターミネーターであり、場合によってトランスアクチベーター、転写因子、転写物を安定化するポリAシグナル、スプライシング及びポリアデニル化シグナル等が含まれる。このような制御配列は、それに連結されたポリヌクレオチドの発現に必要とされるすべての構成成分を含むものである。また、本発明のベクターは、好ましくは選択可能なマーカーを含む。さらに、細胞内で発現されたポリペプチドを小胞体内腔、グラム陰性菌を宿主とする場合ペリプラズム内、または細胞外へと移行させるために必要とされるシグナルペプチドを目的のポリペプチドに付加するようにして発現ベクターへ組み込むこともできる。さらに、必要に応じリンカーの付加、開始コドン(ATG)、終止コドン(TAA、TAGまたはTGA)の挿入を行ってもよい。
本発明のベクターは、好ましくは発現ベクターである。「発現ベクター」とは、in vitroでまたは、目的とする宿主細胞内で発現ベクター中にコードされるポリペプチドを発現させることができる構築物を指す。クローニングベクター、バイナリーベクター、インテグレイティングベクター等が本発明の発現ベクターに含まれる。発現の過程には、発現ベクター中のコード配列の翻訳可能なmRNAへの転写、及びmRNAから本発明のポリペプチドへの翻訳、さらに場合によっては発現されたポリペプチドの小胞体内腔、ペリプラズムまたは細胞外への分泌が含まれる。
in vitroにおけるポリペプチドの発現を可能にするベクターとしては、pBEST(Promega)を例示することができる。また、E.coli等の原核細胞宿主における発現を可能にするプロモーターとしてはP、araB(Better et al.(1988)Science 240:1041−3)、lacZ(Ward et al.(1989)Nature 341:544−6;Ward et al.(1992)FASEB J.6:2422−7)、trp、tac、trc(lacとtrpの融合)等のプロモーターが挙げられる。また、trpA由来、ファージ由来、rrnBリボソーマルRNA由来ターミネーターが、利用可能である。さらに、大腸菌用のベクターは、好ましくはベクターを宿主内で増幅するための「ori」、及び形質転換された宿主を選抜するためのマーカー遺伝子を持つ。アンピシリン、テトラサイクリン、カナマイシン、及びクロラムフェニコール等の薬剤により宿主の判別を行うことを可能にする薬剤耐性遺伝子の使用が好ましい。特に、ポリペプチドをペリプラズムへ分泌させることを目的とする場合、peIBシグナル配列(Lei et al.(1987)J.Bacteriol.169:4379)を使用することができる。例えば、M13系ベクター、pUC系ベクター、pBR322、pCR−Script、pGEX−5X−1(Pharmacia)、pEGFP、pBluescript(Stratagene)、pET(Invitrogen;この場合の宿主はT7ポリメラーゼを発現しているBL21が好ましい)等のベクターを挙げることができる。また、特にサブクローニングまたは切出し用のベクターとしては、pGEM−T、pDIRECT、pT7等を例示できる。
大腸菌以外の細菌宿主用としては、バチルス属のものが挙げられ、pUB110系、pc194系のベクターが例示される。より具体的に、枯草菌由来のpPL608、pKTH50等を挙げることができる。その他、Pseudomonas putida、Pseudomonas cepacia等のシュードモナス属、Brevibacterium lactofermentum等のブレビバクテリウム属(pAJ43(Gene 39:281(1985))等)、Corynebacterium glutamicum等のコリネバクテリウム属(pCS11(特開昭57−183799号公報)、pCB101(Mol.Gen.Genet.196:175(1984))等)、ストレプトコッカス属(pHV1301(FEMS Microbiol.Lett.26:239(1985))、pGK1(Appl.Environ.Microbiol.50:94(1985))等)、ラクトバチルス属(pAMβ1(J.Bacteiol.137:614(1979))等)、Rhodococcus rhodochrous等のロドコッカス属(J.Gen.Microbiol.138:1003(1992))、Streptomyces lividans、Streptomyces virginiae等のストレプトマイセス属(Genetic Manipulation of Streptomyces:A Laboratory Manual,Hopwood et al.,Cold Spring Harbor Laboratories(1985)参照;pIJ486(Mol.Gen.Genet.203:468−78(1986))、pKC1064(Gene 103:97−9(1991))、pUWL−KS(Gene 165:149−50(1995)))の細菌を宿主とするベクター系が開発されている。微生物を宿主として利用できるベクターについては、『微生物学基礎講座8 遺伝子工学』(共立出版)等の文献を参照することができる。ベクターを細菌宿主へ導入するための手法としては、塩化カルシウム法(Mandel and Higa(1970)J.Mol.Biol.53:158−62;Hanahan(1983)J.Mol.Biol.166:557−80)、エレクトポレーション法等を採用することができる。
また、真核細胞宿主での発現を可能にする調節要素は、酵母を宿主とする場合には、AOX1及びGAL1プロモーターが例示される。酵母由来の発現ベクターとしては、Pichia Expression Kit(Invitrogen)、pNV11、SP−Q01等が例示できる。酵母で利用可能なベクターに関しては、Adv.Biochem.Eng.43:75−102(1990)、Yeast 8:423−88(1992)等に詳述されている。より具体的には、Saccharomyces cerevisiae等のサッカロマイセス属では、YRp系、YEp系、YCp系、及びYIp系ベクターが利用可能である。特に、多コピーの遺伝子導入が可能であり、安定に遺伝子を保持できるインテグレーションベクター(EP537456等)が有用である。その他、Kluyveromyces lactis等のクルイベロマイセス属では、S.cerevisiae由来2μm系ベクター、pKD1系ベクター(J.Bacteriol.145:382−90(1981))、pGK11由来ベクター、クライベロマイセス自律増殖遺伝子KARS系ベクター等、シゾサッカロマイセス属では、Mol.Cell.Biol.6:80(1986)に記載のベクター、pAUR224(宝酒造)、チゴサッカロマイセスではpSB3(Nucleic Acids Res.13:4267(1985))由来ベクター、Pichia angusta、Pichia pastoris等のピキア属ではYeast 7:431−43(1991)、Mol.Cell.Biol.5:3376(1985)、Nucleic Acids Res.15:3859(1987)等の文献記載のベクター、Candida maltosa、C.albicans、C.tropicalis、C.utilis等のキャンディダ属では、特開平8−173170号公報記載のベクター、またC.maltosa由来のARS(Agri.Biol.Chem.51:1587(1987))を利用したベクター、Aspergillus niger、A.oryzae等のアスペルギルス属では、Trends in Biotechnology 7:283−7(1989)記載のベクター、トリコデルマ属では菌体外セルラーゼ遺伝子由来プロモーター(Bio/Technology 7:596−603(1989))を利用したベクターが利用できる。
哺乳動物及びその他の動物細胞を宿主とする場合には、アデノウイルスlateプロモーター(Kaufman et al.(1989)Mol.Cell.Biol.9:946)、CAGプロモーター(Niwa et al.(1991)Gene 108:193−200)、CMV immediate earlyプロモーター(Seed and Aruffo(1987)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:3365−9)、EF1αプロモーター(Mizushima et al.(1990)Nucleic Acids Res.18:5322;Kim et al.(1990)Gene 91:217−23)、HSV TKプロモーター、SRαプロモーター(Takebe et al.(1988)Mol.Cell.Biol.8:466)、SV40プロモーター(Mulligan et al.(1979)Nature 277:108)、SV40 earlyプロモーター(Genetic Engineering Vol.3,Williamson ed.,Academic Press(1982)pp.83−141)、SV40 lateプロモーター(Gheysen and Fiers(1982)J.Mol.Appl.Genet.1:385−94)、RSV(ラウス肉腫ウイルス)−LTRプロモーター(Cullen(1987)Methods Enzymol.152:684−704)、MMLV−LTRプロモーター、CMVエンハンサー、SV40エンハンサー、及びグロビンイントロン等を使用することができる。さらに、ネオマイシン、G418等の薬剤による判別を可能とする薬剤耐性遺伝子がベクターに含まれていることが好ましい。そして、細胞内で遺伝子のコピー数の増加を計る場合には、例えば核酸合成経路を欠損したCHOを宿主とし、その欠損を補うDHFR遺伝子を有するpCHOI等のベクターを採用し、メトトレキセート(MTX)によりコピー数を増幅させることができる。一方、遺伝子の一過性発現のためには、SV40のT抗原遺伝子を染色体上に有するCOS細胞を宿主とし、pcD等のSV40の複製起点、またはアデノウイルス、ウシパピーローマウイルス(BPV)、ポリオーマウイルス等の複製開始点を持つベクターを使用することができる。さらに、遺伝子コピー数の増幅のための選択マーカーとして、アミノグリコシドトランスフェラーゼ(APH)、チミジンキナーゼ(TK)、キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)等をコードする遺伝子を含んでもよい。適当なベクターとして、例えば、Okayama−Bergの発現ベクターpcDV1(Pharmacia)、pCDM8(Nature 329:840−2(1987))、pRc/CMV、pcDNA1、pcDNA3(Invitrogen)、pSPORT1(GIBCO BRL)、pSV2dhfr(Mol.Cell.Biol.1:854−64(1981))、pEF−BOS(Nucleic Acids Res.18:5322(1990))、pCEP4(Invitrogen)、pMAM、pDR2、pBK−RSV、pBK−CMV、pOPRSV、pOP13、pME18S(Mol.Cell.Biol.8:466−72(1988))等が公知である。
特に動物の生体内において本発明のポリヌクレオチドを発現させるためには、pAdexlcw等のアデノウイルスベクター、pZIPneo等のレトロウイルスベクターが挙げられる。ベクターはアデノウイルス法、エレクトポレーション(電気穿孔)法(Cytotechnology 3:133(1990))、カチオニックリポソーム法(カチオニックリポソームDOTAP(Boehringer Mannheim)等)、正電荷ポリマーによる導入法、静電気型リポソーム(electrostatic type liposome)法、内包型リポソーム(internal type liposome)法、パーティクルガンを用いる方法、リポソーム法、リポフェクション(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:7413(1987))、リン酸カルシウム法(特開平2−227075)、レセプター介在遺伝子導入法、レトロウイルス法、DEAEデキストラン法、ウイルス−リポソーム法(別冊実験医学『遺伝子治療の基礎技術』羊土社(1997);別冊実験医学『遺伝子導入&発現解析実験法』羊土社(1997);J.Clin.Invest.93:1458−64(1994);Am.J.Physiol.271:1212−20(1996);Molecular Medicine 30:1440−8(1993);実験医学12:1822−6(1994);蛋白質核酸酵素42:1806−13(1997);Circulation 92(Suppl. II):479−82(1995))、naked−DNAの直接導入法等により宿主に導入することができる。アデノウイルス及びレトロウイルス以外由来のウイルスベクター、例えば、アデノ随伴ウイルス、シンビスウイルス、センダイウイルス、トガウイルス、パラミクソウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、ヘルペスウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス等を元に作製されたベクターを利用することもできる。生体内への投与は、ex vivo法でもin vivo法で行ってもよい。
その他、昆虫発現システムも異種ポリペプチドを発現させる系として知られており、例えば、Autographa california核ポリヘドロシスウイルス(AcNPV)をベクターとし、Spodoptera frugiperda細胞、またはTrichoplusia larvae細胞中で外来遺伝子を発現させることができる。この際、目的とする外来遺伝子は、ウイルスの非必須領域にクローニングする。例えば、ポリヘドリンプロモーター制御下に連結してもよい。この場合、ポリヘドリン遺伝子は不活化され、コート蛋白質を欠く組換えウイルスが産生され、該ウイルスに感染したSpodoptera frugiperdaまたはTrichoplusia larvae等の細胞中で目的とするポリペプチドが発現される(Smith(1983)J.Virol.46:584;Engelhard(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:3224−7)。その他、昆虫細胞由来の発現ベクターとして、Bac−to−BAC baculovirus expression system(Bigco BRL)、pBacPAK8等も公知である。
植物細胞を宿主とする場合には、例えばカリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター等を利用したベクターが使用可能である。植物細胞へのベクターの導入法としては、PEG法、エレクトポーレション法、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法等が公知である。
ベクターへのDNAの挿入は、制限酵素サイトを利用したリガーゼ反応により行うことができる(Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons(1987)Section 11.4−11.11;Molecular Cloning,A Laboratory Manual 2nd ed.,Cold Spring Harbor Press(1989)Section 5.61−5.63)。
<宿主>
本発明により、本発明のポリヌクレオチドまたはベクターを含む宿主が提供される。本発明のポリペプチドの製造には、in vitro及びin vivoの産生系が考えられる。本発明の宿主には、古細菌、細菌、真菌類、植物、昆虫、魚類、両生類、ハ虫類、鳥類、哺乳類由来の原核及び真核細胞が含まれる。本発明の宿主は、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを細胞内に含むものである。該ポリヌクレオチドは、宿主細胞のゲノム上の天然に存在する位置になければよく、該ポリヌクレオチド自身のプロモーター支配下にあっても、ゲノム中に組み込まれていても、染色体外の構造として保持されていても良い。
細菌宿主としては、E.coli(JM109,DH5α,HB101,XL1Blue)、Serratia marcescens、Bacillus subtilis等、エシェリシア属、ストレプトコッカス属、スタフィロコッカス属、セラチア属、バシルス属等に属するのグラム陽性及びグラム陰性細菌を例示することができる。
真核宿主には、酵母等の真菌類、高等植物(Nicotiana tabacum由来細胞)、昆虫(ドロソフィラS2、スポロドプテラSf9、Sf21、Tn5)、魚類、両生類(アフリカツメガエル卵母細胞(Valle et al.(1981)Nature 291:358−40))、ハ虫類、鳥類、哺乳類(CHO(J.Exp.Med.108:945(1995);中でもDHFR遺伝子欠損dhfr−CHO(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216−20(1980))及びCHO K−1(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 60:1275(1968))が好適である)、COS、Hela、C127、3T3、BHK、HEK293、Bowesメラノーマ細胞)、ミエローマ、Vero、Namalwa、Namalwa KJM−1、HBT5637(特開昭63−299号公報)、植物(ジャガイモ、タバコ、トウモロコシ、イネ、アブラナ、ダイズ、トマト、コムギ、オオムギ、ライ麦、アルファルファ、亜麻等)等の細胞が含まれる。真菌類としては、Saccharomyces属に属するSaccharomyces cerevisiae、Pichia属等の酵母に加えて、糸状菌のAspergillus属のAspergillus niger等の細胞を宿主とした発現系も公知である。
宿主細胞へのベクターの導入は、エレクトポレーション法(Chu et al.(1987)Nucleic Acids Res.15:1311−26)、カチオニックリポソーム法、電気パルス穿孔法(Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons(1987)Section 9.1−9.9)、微小ガラス管を使用した直接注入法、マイクロインジェクション法、リポフェクション(Derijard(1994)Cell 7:1025−37;Lamb(1993)Nature Genetics 5:22−30;Rabindran et al.(1993)Science 259:230−4)、リポフェクタミン法(GIBCO−BRL)、リン酸カルシウム法(Chen and Okayama(1987)Mol.Cell.Biol.7:2745−52)、DEAEデキストラン法(Lopata et al.(1984)Nucleic Acids Res.12:5707−17;Sussman and Milman(1985)Mol.Cell.Biol.4:1642−3)、FuGene6試薬(Boehringer−Mannheim)等により行い得る。
<ポリペプチド断片>
本発明の「ポリペプチド断片」は、本発明のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドの断片のペプチド重合体である。配列番号:1記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドの一部と同一であり、少なくとも8アミノ酸残基以上(例えば、8、10、12、または15アミノ酸残基以上)からなるポリペプチド断片である。特に好ましい断片としては、アミノ末端、カルボキシル末端、膜貫通ドメインを欠失したポリペプチド断片を挙げることができる。αヘリックス及びαヘリックス形成領域、α両親媒性領域、βシート及びβシート形成領域、β両親媒性領域、基質結合領域、高抗原指数領域、コイル及びコイル形成領域、親水性領域、疎水性領域、ターン及びターン形成領域、並びに表面形成領域を含む断片が本発明のポリペプチド断片に含まれる。本発明のポリペプチド断片は、本発明のポリペプチドの抗原性さえ有すればどのような断片であってもよい。ポリペプチドの抗原決定部位は、蛋白質のアミノ酸配列上の疎水性/親水性を解析する方法(Kyte−Doolittle(1982)J.Mol.Biol.157:105−22)、二次構造を解析する方法(Chou−Fasman(1978)Ann.Rev.Biochem 47:251−76)により推定し、さらにコンピュータープログラム(Anal.Biochem.151:540−6(1985))、または短いペプチドを合成しその抗原性を確認するPEPSCAN法(特表昭60−500684号公報)等により確認することができる。
本発明のポリペプチド断片を構成するアミノ酸残基は天然に存在するものでも、また修飾されたものであっても良い。アミノ酸残基の修飾としては、アシル化、アセチル化、アミド化、アルギニル化、GPIアンカー形成、架橋、γ−カルボキシル化、環化、共有架橋の形成、グリコシル化、酸化、脂質または脂肪誘導体の共有結合化、シスチンの形成、ジスルフィド結合の形成、セレノイル化、脱メチル化、蛋白質の分解処理、ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体の共有結合化、ヒドロキシル化、ピログルタメ−ピログルタメートの形成、フラビンの共有結合化、プレニル化、ヘム部分の共有結合化、ホスファチジルイノシトールの共有結合化、ホルミル化、ミリストイル化、メチル化、ユビキチン化、ヨウ素化、ラセミ化、ADP−リボシル化、硫酸化、リン酸化等が例示される。さらに、本発明のポリペプチドにはシグナルペプチド部分がついた前駆体、シグナルペプチド部分を欠く成熟蛋白質、及びその他のペプチド配列により修飾された融合蛋白質を含む。本発明のポリペプチドに付加するペプチド配列としては、インフルエンザ凝集素(HA)、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)、サブスタンスP、多重ヒスチジンタグ(6×His、10×His等)、プロテインC断片、マルトース結合蛋白質(MBP)、免疫グロブリン定常領域、α−チューブリン断片、β−ガラクトシダーゼ、B−タグ、c−myc断片、E−タグ(モノクローナルファージ上のエピトープ)、FLAG(Hopp et al.(1988)Bio/Tehcnol.6:1204−10)、lckタグ、p18 HIV断片、HSV−タグ(ヒト単純ヘルペスウイルス糖蛋白質)、SV40T抗原断片、T7−タグ(T7 gene10蛋白質)、VSV−GP断片(Vesicular stomatitisウイルス糖蛋白質)等の蛋白質の精製を容易にする配列(例えば、pcDNA3.1/Myc−His(Invitrogen)のようなベクターを利用できる)、組換え技術により蛋白質を生産する際に安定性を付与する配列等を選択することができる。
本発明のポリペプチド断片は公知の遺伝子組換え技術により、また化学的な合成法により製造することができる。遺伝子組換え技術により本発明のポリペプチドまたはポリペプチド断片を製造する場合、製造される蛋白質は、選択する宿主の種類によってグリコシル化を受ける場合と受けない場合、さらに分子量、等電点等が異なる場合がある。通常、大腸菌等の原核細胞を宿主としてポリペプチドを発現させた場合、得られるポリペプチドは本来ポリペプチドが有していたN−末端にメチオニン残基が付加された形で産生される。このような宿主の違いにより、構造の異なるポリペプチドも本発明のポリペプチドに含まれる。
<ポリペプチドの製造>
in vitroでポリペプチドまたはポリペプチド断片を製造する場合、in vitroトランスレーション(Dasso and Jackson(1989)Nucleic Acids Res.17:3129−44)等の方法に従って、細胞を含まない試験管内の系でポリペプチドを製造することができる。それに対して、細胞を用いてポリペプチドを製造する場合、まず、上述の中から適当な宿主細胞を選択し、目的とするDNAによる形質転換を行う。続いて形質転換された細胞を培養することにより所望のポリペプチドを得ることができる。培養は、選択した細胞に適した公知の方法により行う。例えば、動物細胞を選択した場合には、DMEM(Virology 8:396(1959))、MEM(Science 122:501(1952))、RPMI1640(J.Am.Med.Assoc.199:519(1967))、199(Proc.Soc.Biol.Med.73:1(1950))、IMDM等の培地を用い、必要に応じウシ胎児血清(FCS)等の血清を添加し、pH約6〜8、30〜40℃において15〜200時間前後の培養を行うことができる。その他、必要に応じ途中で培地の交換を行ったり、通気及び攪拌を行ったりすることができる。
一方、in vivoにおけるポリペプチドの生産系を確立するためには、動物または植物へ目的とするDNAを導入し、生体内においてポリペプチドを産生させる。ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシ等の哺乳動物、カイコ等の昆虫(Susumu(1985)Nature 315:592−4)等の動物系が公知である(Lubon(1998)Biotechnol.Annu.Rev.4:1−54)。また、哺乳動物系においてトランスジェニック動物を用いることもできる。
例えば、所望のポリペプチドをヤギの乳汁中に分泌させることを目的とする場合、該ポリペプチドをコードするDNAをβカゼイン等の乳汁中に特異的分泌される蛋白質をコードするDNAと結合し、目的ポリペプチドを融合蛋白質として発現させるようにする。次に、融合蛋白質をコードするDNAをヤギの胚へ導入する。DNAを導入した胚を雌ヤギの子宮へ移植する。このヤギから生まれるトランスジェニックヤギ、またはその子孫は乳汁中に所望のポリペプチドを分泌する。必要に応じ、乳汁量を増やすため、ホルモンを投与することもできる(Ebert et al.(1994)Bio/Technology 12:699−702)。
タバコ等の植物を用いたトランスジェニック植物のポリペプチド産生系が公知である。まず、所望のポリペプチドをコードするDNAをpMON530等の植物発現に適したベクターに組み込み、Agrobacterium tumefaciens等の細菌に導入する。DNAの導入された細菌をNicotina tabacum等の植物に感染させ、植物を再生させることにより、所望のポリペプチドを得られたトランスジェニック植物の葉より単離することができる(Julian et al.(1994)Eur.J.Immunol.24:131−8)。その他の方法としては、PEGを用いプロトプラストへDNAを導入して植物体を再生する方法(Gene Transfer to Plants,Potrykus and Spangenberg ed.(1995)66−74;インド型イネ品種に適する)、電気パルスによりプロトプラストへDNAを導入して植物体を再生する方法(Toki et al.(1992)Plant Physiol.100:1503−7;日本型イネに適する)、パーティクルガン法で植物細胞に直接DNAを導入し植物体を再生する方法(Christou et al.(1991)Bio/Technology 9:957−62)、アグロバクテリウムを介し細胞にDNAを導入し植物体を再生する方法(Hiei et al.(1994)Plant J.6:271−82)等が確立されている。植物を再生する方法については、Toki et al.(1995)Plant Physiol.100:1503−7を参照することができる。
トランスジェニック植物が一度得られた後は、さらに該植物の種子、果実、塊茎、塊根、株、切穂、カルス、プロトプラスト等を材料として同じように本発明のポリペプチドを産生する植物宿主を繁殖させることができる。
通常、遺伝子組換え技術により製造された本発明のポリペプチドは、まず、ポリペプチドが細胞外に分泌される場合には培地を、特にトランスジェニック生物の場合には体液等を、細胞内に産生される場合には細胞を溶解して溶解物を回収する。そして、蛋白質の精製方法として公知の塩析、蒸留、各種クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、ゲル濾過、限外濾過、再結晶、酸抽出、透析、免疫沈降、溶媒沈澱、溶媒抽出、硫安またはエタノール沈澱等を適宜組合せることにより所望のポリペプチドを精製する。クロマトグラフィーとしては、アニオンまたはカチオン交換等のイオン交換、アフィニティー、逆相、吸着、ゲル濾過、疎水性、ヒドロキシアパタイト、ホスホセルロース、レクチンクロマトグラフィー等が公知である(Strategies for Protein Purification and Characterization:A Laboratory Course Manual,Marshak et al.ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1996))。HPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。
また、天然由来のポリペプチドを精製して取得してもよい。例えば、後述の本発明のポリペプチドに対する抗体、を利用して、アフィニティークロマトグラフィーにより精製することもできる(Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons(1987)Section 16.1−16.19)。また、GSTとの融合蛋白質とした場合にはグルタチオンカラムを、ヒスチジンタグを付加した融合蛋白質とした場合にはニッケルカラムを用いた精製法も利用できる。本発明のポリペプチドを融合蛋白質として製造した場合には、必要に応じて精製後にトロンビンまたはファクターXa等を使用して不要な部分を切断することもできる。さらに、必要に応じキモトリプシン、グルコシダーゼ、トリプシン、プロテインキナーゼ、リシルエンドペプチダーゼ等の酵素を用い得られたポリペプチドを修飾することも可能である。
本発明のポリペプチド断片は、上述の合成及び遺伝子工学的な手法に加えて、ペプチダーゼのような適当な酵素を用いて本発明のポリペプチドを切断して製造することもできる。
<抗体>
本発明により、本発明のポリペプチドまたはポリペプチド断片に対する抗体が提供される。本発明の抗体にはポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体(scFV)(Huston et la.(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879−83;The Pharmacology of Monoclonal Antibody,vol.113,Rosenburg and Moore ed.,Springer Verlag(1994)269−315)、ヒト化抗体、多特異性抗体(LeDoussal et al.(1992)Int.J.Cancer Suppl.7:58−62;Paulus(1985)Behring Inst.Mitt.78:118−32;Millstein and Cuello(1983)Nature 305:537−9;Zimmermann(1986)Rev.Physiol.Biochem.Pharmacol 105:176−260;Van Dijk et al.(1989)Int.J.Cancer 43:944−9)、並びに、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fc、Fv等の抗体断片が含まれる。さらに、本発明の抗体は必要に応じ、PEG等により修飾されていてもよい。その他、本発明の抗体は、β−ガラクトシダーゼ、マルトース結合蛋白質、GST、緑色蛍光蛋白質(GFP)等との融合蛋白質として製造され得、二次抗体を用いずに検出できるようにしてもよい。また、ビオチン等により抗体を標識することによりアビジン、ストレプトアビジン等を用いて抗体の回収を行い得るように改変されていてもよい。
本発明の抗体は、本発明のポリペプチド若しくはその断片、またはそれらを発現する細胞を感作抗原として製造することができる。また、本発明のポリペプチド若しくはその断片のうち短いものは、ウシ血清アルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン、卵白アルブミン等のキャリアに結合して免疫原として用いてもよい。また、本発明のポリペプチドまたはその断片と共に、アルミニウムアジュバント、完全(または不完全)フロイントアジュバント、百日咳菌アジュバント等の公知のアジュバントを抗原に対する免疫応答を強化するために用いてもよい。
ポリクローナル抗体は、例えば、本発明のポリペプチドまたはその断片を所望によりアジュバントと共に哺乳動物に免疫し、免疫した動物より血清を得る。ここで用いる哺乳動物は、特に限定されないが、ゲッ歯目、ウサギ目、霊長目の動物が一般的である。マウス、ラット、ハムスター等のゲッ歯目、ウサギ等のウサギ目、カニクイザル、アカゲザル、マントヒヒ、チンパンジー等のサル等の霊長目の動物が挙げられる。動物の免疫化は、感作抗原をPhosphate−Buffered Saline(PBS)または生理食塩水等で適宜希釈、懸濁し、必要に応じアジュバントを混合して乳化した後、動物の腹腔内または皮下に注射して行われる。その後、好ましくは、フロイント不完全アジュバントに混合した感作抗原を4〜21日毎に数回投与する。抗体の産生は、血清中の所望の抗体レベルを慣用の方法により測定することにより確認することができる。最終的に、血清そのものをポリクローナル抗体として用いても良いし、さらに精製して用いてもよい。具体的な方法として、例えば、『Current Protocols in Molecular Biology』(John Wiley & Sons(1987)Section 11.12−11.13)を参照することができる。
モノクローナル抗体を産生するためには、まず、上述のようにして免疫化した動物より脾臓を摘出し、該脾臓より免疫細胞を分離し、適当なミエローマ細胞とポリエチレングリコール(PEG)等を用いて融合してハイブリドーマを作成する。細胞の融合は、Milsteinの方法(Galfre and Milstein(1981)Methods Enzymol.73:3−46)に準じて行うことができる。ここで、適当なミエローマ細胞として特に、融合細胞を薬剤により選択することを可能にする細胞を挙げられる。このようなミエローマを用いた場合、融合されたハイブリドーマは、融合された細胞以外は死滅するヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含む培養液(HAT培養液)で培養して選択する。次に、作成されたハイブリドーマの中から、本発明のポリペプチドまたはその断片に対して結合する抗体を産生するクローンを選択する。その後、選択したクローンをマウス等の腹腔内に移植し、腹水を回収してモノクローナル抗体を得る。また、具体的な方法として、『Current Protocols in Molecular Biology』(John Wiley & Sons(1987)Section 11.4−11.11)を参照することもできる。
ハイブリドーマは、その他、最初にEBウイルスに感染させたヒトリンパ球をin vitroで免疫原を用いて感作し、感作リンパ球をヒト由来のミエローマ細胞(U266等)と融合し、ヒト抗体を産生するハイブリドーマを得る方法(特開昭63−17688号公報)によっても得ることができる。また、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物を感作して製造した抗体産生細胞を用いても、ヒト抗体を得ることができる(WO92/03918;WO93−02227;WO94/02602;WO94/25585;WO96/33735;WO96/34096;Mendez et al.(1997)Nat.Genet.15:146−56等)。ハイブリドーマを用いない例としては、抗体を産生するリンパ球等の免疫細胞に癌遺伝子を導入して不死化する方法が挙げられる。
また、遺伝子組換え技術により抗体を製造することもできる(Borrebaeck and Larrick(1990)Therapeutic Monoclonal Antibodies,MacMillan Publishers LTD.,UK参照)。そのためには、まず、抗体をコードする遺伝子をハイブリドーマまたは抗体産生細胞(感作リンパ球等)からクローニングする。得られた遺伝子を適当なベクターに組み込み、宿主に該ベクターを導入し、宿主を培養することにより抗体を産生させる。このような組換え型の抗体も本発明の抗体に含まれる。代表的な組換え型の抗体として、非ヒト抗体由来可変領域及びヒト抗体由来定常領域とからなるキメラ抗体、並びに非ヒト抗体由来相補性決定領域(CDR)、及び、ヒト抗体由来フレームワーク領域(FR)及び定常領域とからなるヒト化抗体が挙げられる(Jones et al.(1986)Nature 321:522−5;Reichmann et al.(1988)Nature 332:323−9;Presta(1992)Curr.Op.Struct.Biol.2:593−6;Methods Enzymol.203:99−121(1991))。
本発明の抗体断片は、上述のポリクローナルまたはモノクローナル抗体をパパイン、ペプシン等の酵素で処理することにより製造し得る。または、抗体断片をコードする遺伝子を用いて遺伝子工学的に製造することも可能である(Co et al.(1994)J.Immunol.152:2968−76;Better and Horwitz(1989)Methods Enzymol.178:476−96;Pluckthun and Skerra(1989)Methods Enzymol.178:497−515;Lamoyi(1986)Methods Enzymol.121:652−63;Rousseaux et al.(1986)121:663−9;Bird and Walker(1991)Trends Biotechnol.9:132−7参照)。
本発明の多特異性抗体には、二特異性抗体(BsAb)、ダイアボディ(Db)等が含まれる。多特異性抗体は、(1)異なる特異性の抗体を異種二機能性リンカーにより化学的にカップリングする方法(Paulus(1985)Behring Inst.Mill.78:118−32)、(2)異なるモノクローナル交代を分泌するハイブリドーマを融合する方法(Millstein and Cuello(1983)Nature 305:537−9)、(3)異なるモノクローナル抗体の軽鎖及び重鎖遺伝子(4種のDNA)によりマウス骨髄腫細胞等の真核細胞発現系をトランスフェクションした後、二特異性の一価部分を単離する方法(Zimmermann(1986)Rev.Physio.Biochem.Pharmacol.105:176−260;Van Dijk et al.(1989)Int.J.Cancer 43:944−9)等により作製することができる。一方、Dbは遺伝子融合により構築され得る二価の2本のポリペプチド鎖から構成されるダイマーの抗体断片であり、公知の手法により作製することができる(Holliger et al.(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444−8;EP404097;WO93/11161参照)。
抗体及び抗体断片の回収及び精製は、プロテインA及びGを用いて行う他、<ポリペプチドの製造>の項で詳細に記載した蛋白質精製技術によっても行い得る(Antibodies:A Laboratory Manual,Ed Harlow and David Lane,Cold Spring Harbor Laboratory(1988))。例えば、本発明の抗体の精製にプロテインAを利用する場合、Hyper D、POROS、Sepharose F.F.(Pharmacia)等のプロテインAカラムが公知であり、使用可能である。得られた抗体の濃度は、その吸光度を測定することにより、または酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)等により決定することができる。
抗体の抗原結合活性は、吸光度測定、蛍光抗体法、酵素免疫測定法(EIA)、放射免疫測定法(RIA)、ELISA等により測定することができる。ELISA法による測定の場合、本発明の抗体をプレート等の担体に固相化し、次いで本発明のポリペプチドを添加した後、目的とする抗体を含む試料を添加する。ここで、抗体を含む試料としては、抗体産性細胞の培養上清、精製抗体等が考えられる。続いて、本発明の抗体を認識する二次抗体を添加し、プレートのインキュベーションを行う。その後、プレートを洗浄し、二次抗体に付加された標識を検出する。即ち、二次抗体がアルカリフォスファターゼで標識されている場合には、p−ニトロフェニルリン酸等の酵素基質を添加して吸光度を測定することで、抗原結合活性を測定することができる。また、抗体の活性評価に、BIAcore(Pharmacia)等の市販の系を使用することもできる。
本発明の抗体は、本発明のポリペプチド及びその断片の精製に使用することができる。また、NMDA受容体を標的としたドラッグデリバリーシステムにおいて利用することもできる。さらに、本発明においてmPrickle蛋白質がシナプスに局在することが確認されたことから、mPrickle蛋白質をシナプスのマーカーとして、本発明の抗体を用いた検出を行うこともできる。従って、本発明の抗体は、必要に応じシナプス検出試薬として用いることができる。
<mPrickle遺伝子の発現領域解析>
本発明によりmPrickle遺伝子の発現制御領域が提供される。本発明の発現制御領域は、本発明のポリヌクレオチドを利用してゲノムDNAから公知の方法によってクローニングすることができる。例えば、S1マッピング法のような転写開始点の特定方法(細胞工学 別冊8 新細胞工学実験プロトコール,東京大学医科学研究所制癌研究部編,秀潤社(1993)pp.362−374)が公知であり、本発明において利用できる。一般に、遺伝子の発現制御領域は、遺伝子の5’末端の15〜100bp、好ましくは30〜50bpをプローブDNAとして利用して、ゲノムDNAライブラリーをスクリーニングすることによりクローニングすることができる(本発明においては、配列番号:2の塩基全部またはその1部)。このようにして得られるクローンは、10kbp以上の5’非翻訳領域を含むものであるので、次にエキソヌクレアーゼ等により処理し短縮化または断片化する。最後に、短縮された発現制御領域の候補を含む配列部分をレポーター遺伝子を利用して、その発現の有無、強さ、制御等について評価し、本発明のmPrickle遺伝子の発現制御領域の活性維持のための最小必要単位を決定することができる。
遺伝子の発現制御領域は、Neural Network等のプログラム(http://www.fruitfly.org./seq_tools/promoter.html;Reese et al.,Biocomputing:Proceedings of the 1996 Pacific Symposium,Hunter and Klein ed.,World Scientific Publishing Co.,Singapore,(1996))を用いて予測することもできる。さらに、発現制御領域の活性最小単位を予測するプログラム(http://biosci.cbs.umn.edu./software/proscan/promoterscan.htm;Prestridge(1995)J.Mol.Biol.249:923−32)も公知であり、本発明において用いることができる。
このようにして単離された、mPrickle遺伝子の発現制御領域は、in vivoでシナプス後膜肥厚特異的に所望の蛋白質を産生するのに利用することもできる。
<リガンドの同定>
本発明により、mPrickle蛋白質に対するリガンドが提供される。mPrickle蛋白質はLIMドメイン及びPETドメインを有することから、天然において核酸と結合する機能を有すると考えられる。そして、骨格蛋白質として知られるPSD−95と結合し、また、NMDA受容体とも関与していると予測された。従って、mPrickle蛋白質に対するアゴニストやアンタゴニスト等の機能を示す可能性があるリガンドは、学習や記憶に関与する神経細胞の形態変化、神経可塑性等の神経系の機能を制御するのに利用できる可能性がある。mPrickle蛋白質に対するリガンドの同定においては、まず、mPrickle蛋白質と候補化合物とを接触させ、結合の有無を検定する。この際、mPrickle蛋白質を担体に固定したり、細胞膜に埋めこまれた状態に発現させたりして用いることもできる。候補化合物としては特に制限はなく、遺伝子ライブラリーの発現産物、海洋生物由来の天然成分、各種細胞の抽出物、公知化合物及びペプチド、植物由来の天然成分、生体組織抽出物、微生物の培養上清、並びにファージディスプレイ法等によりランダムに製造されたペプチド群(J.Mol.Biol.222:301−10(1991))等が含まれる。特に、海馬を界面活性剤により処理して得た抽出物等を候補化合物として使用すれば、生体内においてPrickle蛋白質と相互作用している物質を同定することが可能となる。さらに、結合の検出を容易にするために、候補化合物は標識しても良い。
【図面の簡単な説明】
図1は、可溶化前の分画、並びに可溶化後の上清及び沈澱に対してNMDAR、PSD−95、homer1b/c及びMAPK抗体を用いてウェスタン・ブロットを行った結果を示す写真である。
図2は、本発明のR−Prickleのアミノ酸配列とD−Prickleのアミノ酸配列レベルでの比較を示す図である。
図3は、図2の続きを示す図である。
図4は、Prickleファミリー間でのドメイン構造を比較する模式図である。斜線部はPETドメインを、黒塗りの部分はLIMドメインを、点の部分は質量分析により同定した領域を示す。Hs:ヒト、XP:アフリカツメガエル、D:ショウジョウバエ、Ci:カタユウレイボヤ。
図5は、R−Prickleのラットの各組織における組織分布を示す写真である。
図6は、R−Prickleのラット脳における細胞内分布を示す写真である。H:ホモジネート、SPM:シナプス原形質膜、PSD−S1:0.5%TritonX−100可溶性SPM、PSD−P1:0.5%TritonX−100不溶性SPM、PSD−S2:1%TritonX−100可溶性SPM、PSD−P2:1%TritonX−100不溶性SPM。
図7は、各種界面活性剤によるR−Prickleの可溶化を調べた結果を示す写真である。P:ペレット、S:上清、Triton:TritonX−100、DOC:デオキシコール酸ナトリウム。
図8は、R−Prickleの各発生段階におけるラット大脳における発現を示す写真である。
図9は、ラット胎児海馬初代培養におけるR−Prickleの局在を示す写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施例により本発明についてより詳細に検討するが、本発明はこれらの実施例により何等限定されるものではない。
[実施例1] PSD分画の調製方法
雌ラット(日本セスエルシー株式会社)の大脳よりPSD分画を、Satoh et al.の方法(Satoh et al.(2002)″Identification of activity−regulated proteins in the postsynaptic density fraction.″Genes Cells.7:187−97)に従って調製した。
[実施例2] 難溶性分子の濃縮・同定
PSDの骨格(scaffolding)分子や膜蛋白質は、細胞骨格系の分子等と強く結合し、大きな複合体を形成しているために難溶性を示す。そこで、実施例1において得られたPSD画分に2%のTritonX−114(NacalaiTesque 355−22CP)を加え、196,000×g、4℃で30分間遠心分離し可溶性画分と不溶性画分に分離した。その後、可溶化処理前のPSD画分、並びに可溶化により得られた可溶性画分及び不溶性画分に対して、NMDA受容体、PSD−95、homer1b/c(樹状蛋白質;PDZ様結合ドメインを含有し、代謝型グルタミン酸誦様立位のC−末端に特異的に結合)、MAP(mitogen−activated protein)キナーゼに対する抗体(Santa cruz(C−29)SC−1467;Transduction laboratories,P43520;Santa cruz(C−16)SC−8923;Transduction laboratories,E17120)を用いてウェスタン・ブロットを行った。その結果、TritonX−114不溶性画分に難溶性のPSD構成分子が濃縮していることが判明した(図1)。
[実施例3] TritonX−1114不溶性画分の分離及び同定
実施例2のTritonX−114不溶性画分をさらに7M尿素と2Mチオ尿素を含む溶液で可溶化し、MonoQカラム(Amersham Pharmacia Biotech)と1D−PAGEで分離した後、銀染色及びウェスタン・ブロットを行った。ウェスタンブロットには、PSD−95抗体(Transduction laboratories,P43520)、GluR2/3抗体(Chemicon MAB397)、Homer1b/c抗体(Santa cruz(C−16)SC−8923)、アクチン抗体(Chemicon MAB1501)、チューブリン抗体(Chemicon MAB380)、NMDAR抗体(Santa cruz(C−29)SC−1467)を用いた。その結果、溶出画分の17から24のフラクションにPSD−95とHomer1b/cが含まれていたので、この画分をまとめ、10%アクリルアミドゲルを用いた1D−PAGEで分離した。PAGEゲルを1〜2mm幅で切出し、トリプシン消化を行った後、LCQ(classic)(Thermo Finnigan社,San Jose,CA)を使用して質量分析による同定を行った。17−24画分に含まれていた分子を表1に示す。

[実施例4] MS733のホモロジーサーチ
実施例3において同定された機能が未知のESTクローン(MS733)(IMAGE consortium)をプローブとして、対応する全長配列をクローニングした。MS733全長配列についての塩基配列を決定し(配列番号:2)、データベースサーチ(GenBank;blast search)を行った。
その結果、MS733は、D−Prickleと約23%の相同性を示した。そこで、本MS733蛋白質をラットprickle(R−Prickle)と命名した。D−PrickleとR−Prickleのアミノ酸配列レベルを比較した結果を図2に示す。また、D−Prickleのアミノ酸配列を配列番号:3、R−Prickleのアミノ酸配列を配列番号:1に示す。本発明のR−Prickleは847アミノ酸残基からなり、N末端に1つのPETドメイン、及び3つのLIMドメインを有している(図2及び3)。このような構造は、Prickleファミリー間で良く保存されていた(図3)。
[実施例5] R−Prickleの組織分布
ラットの各組織のホモジェネート(20μg蛋白質)に対し、SDS−PAGE後、抗Prickle抗体を用いたウエスタンブロットを行った。
まず、雌ラット(日本セスエルシー株式会社)をジエチルエーテルで麻酔し、PBS緩衝液を用い環流を行った。その後、各臓器を取出し、約10倍量のPBS緩衝液を加え、テフロン(登録商標)ホモジナイザーでホモジェナイズした。ホモジェネートを800×g、10分間遠心し、上清を各組織のホモジェネートとして使用した。
次に、mPrickleのアミノ酸365−618残基の部分をGST融合蛋白質として発現させ、ウサギ抗血清を作成し、アフィニティー精製を行い抗Prickle抗体としてウエスタンブロットに用いた。詳細な抗体の作成手順は、Ohtsukaらの方法(Ohtsuka et al.(2002)″Cast:a novel protein of the cytomatrix at the active zone of synapses that forms a ternary complex with RIM1 and munc 13−1.″J.Cell Biol.158:577−90)に従って行った。その結果、脳において2本のバンドが認められた(図4)。長時間感光させた場合、骨格筋にもシグナルが認められた。このことから、R−Prickleは脳に強く発現していることが示唆された。
[実施例6] R−Prickleびラット脳における細胞内分布
Subcellular分画(10μg蛋白質)をSDS−PAGEした後、抗R−Prickle抗体を用いてウエスタンブロットを行った。subcellular分画の調製は、Ohtsukaらの方法(Ohtsuka et al.(2002)″Cast:a novel protein of the cytomatrix at the active zone of synapses that forms a ternary complex with RIM1 and munc 13−1.″J.Cell Biol.158:577−90)に従って行った。その結果、R−PrickleはNMDA受容体と同様にPSD分画に強く濃縮していた(図5)。
[実施例7] R−Prickleの可溶化
次に、両性(1%CHAPS(NacalaiTesque))、非イオン性(1%NP40(NacalaiTesque)、1%Triton−X100(NacalaiTesque))、及びイオン性(1%SDS(NacalaiTesque)、1%DOC(NacalaiTesque))の界面活性剤を用いてR−Prickleの可溶化を行った。R−Prickleの調製は、Ohtsukaらの方法(Ohtsuka et al.(2002)″Cast:a novel protein of the cytomatrix at the active zone of synapses that forms a ternary complex with RIM1 and munc 13−1.″J.Cell Biol.158:577−90)に従って行った。その結果、R−Prickleは、CHAPS、NP−40及びTritonX−100ではほとんど可溶化されなかったのに対し、DOCで一部可溶化され、SDSではほぼ完全に可溶化された(図6)。従って、R−Prickleはシナプス結合の細胞骨格に強く結合していることが示唆された。
[実施例8] R−Prickleの各発生段階における発現
R−Prickleのラット胎児E18から出生後P70までの発生段階におけるラット大脳のホモジネートをSDS−PAGEした。
ラット(日本セスエルシー株式会社)からの大脳ホモジネートの調製は、実施例5記載の方法に従って行った。その後、抗R−Prickle抗体を用いてウエスタンブロットを行った。その結果、R−Prickleは、P14で発現がピークに達することが判った(図7)。
[実施例9] 初代培養神経細胞におけるR−Prickleの局在
抗R−Prickle抗体を用いて、ラット胎児海馬初代培養におけるR−Prickleの局在を検討した。培養28日目の細胞を固定し、シナプス前膜のマーカーであるシナプトフィジン、active zoneのマーカーであるBassoon、シナプス後膜のマーカーであるPSD−95との共染色を行った(Ohtsuka et al.(2002)″Cast:a novel protein of the cytomatrix at the active zone of synapses that forms a ternary complex with RIM1 and munc 13−1.″J.Cell Biol.158:577−90)(図8)。R−Prickleとこれらのマーカーの局在はほぼ一致し、特にPSD−95とよく一致していたことから、R−Prickleは、シナプス後膜に局在することが示唆された。
【産業上の利用可能性】
本発明により、従来MS733として知られていたPSD画分に存在する蛋白質をコードする遺伝子、mPrickle遺伝子が提供された。mPrickle蛋白質は、本発明においてシナプスに局在することが確認され、シナプスのマーカーとして使用することができる。また、骨格蛋白質として知られるPSD−95と結合することが示され、PSD−95の精製に利用することもできる。さらに、mPrickleに対する抗体を用いてmPrickleを生体内より沈澱させるとNMDA受容体も一緒に沈澱されることから、NMDA受容体を標的としたドラッグデリバリーシステムにおいてmPrickleを利用することができる。さらに、NMDA受容体は、学習及び記憶と密接に関連し、精神疾患との関係も指摘されている。従って、NMDA受容体との関与が明らかにされたmPrickle蛋白質または遺伝子を用いシナプスにおけるその発現・機能を検討することは、記憶、学習、神経の発達段階を知る上でも、また、神経変性疾患の機序を研究する上でも重要と思われる。そして、将来的には、mPrickleを利用したボケ、痴呆等の学習・記憶に関連した疾患の診断や治療も可能と考えられる。
【配列表】
























【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物Prickle蛋白質をコードする(1)〜(4)の核酸配列から選択される配列を含むポリヌクレオチド。
(1)配列番号:1のアミノ酸配列をコードする核酸配列、または該核酸配列に相補的な配列
(2)配列番号:2の核酸配列、または該核酸配列に相補的な配列
(3)配列番号:1のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換、または付加されたアミノ酸配列をコードする核酸配列、または該核酸配列に相補的な配列
(4)上記(2)の配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸配列
【請求項2】
請求項1記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項3】
請求項1記載のポリヌクレオチドまたは請求項2記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項4】
請求項1記載のポリヌクレオチドを翻訳する工程を含む、該ポリヌクレオチドによりコードされる哺乳動物Prickle蛋白質を製造する方法。
【請求項5】
請求項1記載のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドの断片であり、少なくとも8アミノ酸残基を有するポリペプチド断片。
【請求項6】
請求項1記載のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド、または請求項5記載のポリペプチド断片に対する抗体。
【請求項7】
請求項5記載のポリペプチド断片をコードするヌクレオチド鎖。

【国際公開番号】WO2004/048573
【国際公開日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【発行日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−555070(P2004−555070)
【国際出願番号】PCT/JP2003/015223
【国際出願日】平成15年11月28日(2003.11.28)
【出願人】(000000217)エーザイ株式会社 (102)
【Fターム(参考)】