説明

唾液分泌促進剤

【課題】口腔内に適用しても味覚を損なうことなく唾液分泌を促し、しかも安全性に優れた唾液分泌促進剤等を提供する。
【解決手段】アデニル酸、グアニル酸、シチジル酸およびウリジル酸からなる群から選ばれた少なくとも1種のヌクレオチドを含有することを特徴とする唾液分泌促進剤を提供する。
本発明における唾液分泌促進剤は、味覚に対する問題がほとんど無いため、口腔用組成物、食品組成物に制限なく配合できる。また、本発明の唾液分泌促進剤は生体内物質や食品添加物としても知られており、安全性が高く、口腔用品、食品の素材として最適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内の乾燥を癒す唾液分泌促進剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
唾液腺は、咀嚼、消化、味覚および正常な粘膜の維持に必要な唾液分泌、並びにホルモンや成長因子の産生等の機能を有し、体の恒常性の維持に重要な役割を担っている。
【0003】
唾液分泌が低下する原因には、主としてシェーグレン症候群、糖尿病、肝硬変、腎疾患等の内科疾患、加齢による分泌機能低下、エイズ、唾液腺の器質的変化を起こす各種疾患、癌治療における放射線照射および各種薬物による副作用等が挙げられる。
【0004】
唾液分泌が低下することによって生ずる口腔内乾燥症により、口臭発生、口腔内不快感および感染症または炎症の発生等の症状が現れる。特に、唾液腺の機能が低下した老人に、副作用として唾液分泌抑制作用を有する薬物を投与する際には注意が必要である。
【0005】
また、口腔内の乾燥は日常生活でも経験され、べとべとした不快感、会話の困難さ、口臭の発生等を伴う。さらに病的になると、口腔内菌叢の変化から、う蝕、歯周疾患、粘膜の感染症等、口腔機能の不全(咀嚼障害、嚥下困難、味覚異常等)を生ずる。
【0006】
従って、唾液の分泌を促進して口腔内を潤すことは、口腔を爽快に保ち、口腔疾患を予防する上で重要である。
【0007】
そこで、口腔内を爽快に保ち、口腔内を潤すことで口腔疾患を予防するために、例えば、保湿剤であるヒアルロン酸の利用が提案されている。しかし、ヒアルロン酸には保湿作用はあるものの、積極的に唾液分泌を促進する作用は認められない。
【0008】
一方、積極的に唾液の分泌を促進して口腔内を潤すことも提案され、その手段として味覚的、ないしは嗅覚的に刺激を与える方法が知られており、例えば有機酸を唾液分泌促進剤として使用する方法や、グレープフルーツ調香料等を用いる方法が提案されている。
【0009】
しかしながら、酸味等の味覚刺激や嗅覚刺激成分による唾液分泌促進効果は、刺激を受けた直後の短時間に集中していることから、味覚刺激、嗅覚刺激の消失とともに効果が消失し、効果の持続性に欠けるという問題点を有していた。また、とくに味覚刺激を用いた方法では、有機酸により歯を傷める危険性から使用について制約が生じ、さらには促進剤自身が強い味や匂いを呈することから食品・口腔内用品としての用途が制限されていた。
【0010】
他にも、有機酸及び羅漢果またはその抽出物を含有する唾液分泌促進剤や、コーラノキ種子末またはその抽出成分及び有機酸を含有する唾液分泌促進剤が提案されているが、これらの唾液分泌促進剤についても有機酸を併用することが必須または推奨されており、上記と同様の問題が生じうる。
【0011】
さらに、ムスカリン受容体を標的とした薬物や、PAR−2を標的とした薬物等の唾液分泌促進物質が報告されているが、これらの薬物には副作用の懸念がある。
【0012】
一方、ヌクレオチドは食品や口腔用品に広く含まれ、あるいは添加されている物質であり、安全に利用できることが知られている。また、例えば特許文献1に示されるように、イノシン酸などのヌクレオチドの使用量を限定すれば、味覚に強い影響を及ぼすものではないことも公知である。しかしながら、従来、ヌクレオチドを唾液分泌促進のために使用した例は知られていない。
【0013】
【特許文献1】特開平8−175943号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、従来の唾液分泌促進方法の問題点を解決するために、口腔内に適用しても味覚を損なうことなく唾液分泌を促し、しかも安全性に優れた唾液分泌促進剤等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、イノシン酸を除くヌクレオチドに優れた唾液分泌促進活性があることを知見し、これを発展させ、本発明をなすに至ったものである。すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
【0016】
(1)アデニル酸、グアニル酸、シチジル酸およびウリジル酸からなる群から選ばれた少なくとも1種のヌクレオチドを含有することを特徴とする唾液分泌促進剤。
【0017】
(2)唾液分泌を促進するために、アデニル酸、グアニル酸、シチジル酸およびウリジル酸からなる群から選ばれた少なくとも1種のヌクレオチドを使用する方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明における唾液分泌促進剤は、味覚に対する問題がほとんど無いため、口腔用組成物、食品組成物に制限なく配合できる。また、本発明の唾液分泌促進剤は生体内物質や食品添加物としても知られており、安全性が高く、口腔用品、食品の素材として最適である。
【0019】
さらに、本発明の方法あるいは唾液分泌促進剤または飲食品を用いれば、重度な口腔乾燥症に対しても口腔粘膜に潤いを与えることができ、結果として口腔内の乾燥に伴うべとべとした不快感、会話の困難さ、口臭の発生等が速やかに解消される。したがって、う蝕、歯周疾患、粘膜の感染症等、口腔機能の不全をも予防することができることが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明で使用するヌクレオチドとしては、食品・口腔用品等に利用可能なものを用いればよく、例えばアデニル酸、シチジル酸、ウリジル酸またはグアニル酸からなる群から選択された1種または2種以上を使用することができる。ただし、イノシン酸は、唾液分泌促進効果が極めて低いため、使用するヌクレオチドからは除外される。
【0021】
また、ヌクレオチドを複数混合したものとしては、単品同士を混合したもののほか、RNAを酵素分解して得られるヌクレオチド混合物、あるいはその混合物をさらに分画、塩析、沈殿等の簡単な精製処理を施したものも本発明のヌクレオチドとして使用することができる。
【0022】
これらのヌクレオチドは、遊離の形態だけでなく、塩の形態であってもよく、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩等も本発明のヌクレオチドとして利用し得る。
【0023】
本発明の唾液分泌促進剤(ヌクレオチド)を、口腔用組成物、食品組成物に使用する場合、全体に対するヌクレオチドの配合量は、好ましくは0.05〜10%(質量%(w/v)、以下同様)、とくに好ましくは 0.1〜5%とすることができる。配合量が少なすぎると良好な効果が発揮されないおそれがあり、また配合量が10%を超えるとヌクレオチドそのものの呈味が強くなり過ぎる場合がある。
【0024】
この場合、本発明の唾液分泌促進剤の投与量は唾液分泌促進有効量であり、適宜選定されるが、一回の投与量は0.005〜1g/成人1名(体重60kg)の範囲であることが好ましい。
【0025】
本発明の唾液分泌促進剤は、口腔用組成物(歯磨類、洗口剤、咀嚼錠、口腔用軟膏、うがい用錠剤、トローチ、人工唾液、義歯安定剤、給水吸引機能付き口腔ケアシステム用溶液等)、食品組成物(嚥下補助剤、キャンディ、チューインガム、ドリンク剤、グミ等)に配合でき、その種類、剤型に応じ、上記必須成分に加えて任意成分としてその他の公知の添加剤を配合することができる。
【0026】
例えば、洗口液等の液状口腔用組成物及びペースト状口腔用組成物の場合、本発明の唾液分泌促進剤の他に、粘稠剤、粘結剤、界面活性剤、甘味剤、防腐剤、着色剤、香料、各種有効成分等を配合し得る。これら成分を水と混合して製造することができる。また、歯磨組成物の場合であれば研磨剤を、液状組成物である場合にはエタノール等の非毒性溶剤を配合することができる。
【0027】
さらに、口腔用組成物を、錠剤、トローチ剤等の固形製剤として調製する場合は、非毒性の賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、さらに上述した界面活性剤、甘味剤、香料等を配合し得る。
【0028】
一方、食品組成物においても、その食品の種類に応じた食品素材が用いられる。例えば、チューインガムの場合であれば、砂糖等の糖類、ガムベース等を含有するものとし得、キャンディ等の飴菓子の場合であれば、水飴、砂糖等を含有するものとし得る。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明がこれに限定されないことは明らかである。
【0030】
実施例1:ヌクレオチドによる唾液分泌促進効果
唾液分泌量の測定は既知の方法(Jpn.J.Pharmacol.78,373−380,1998)に準じて行った。ICR系雄性マウス(各群10匹、39〜42週齢、体重43〜57g)をペントバルビタールナトリウムで麻酔し(20mg/kg,ip+60mg/kg,s.c.)、投与する物質の種類に応じて5つの群に分けた。
【0031】
マウスの口腔内にあらかじめ重量を調整(25mg±10%)・測定しておいたボール状の脱脂綿を挿入し、直ちに、4つの群に対してそれぞれアデニル酸、グアニル酸二ナトリウム、シチジル酸、ウリジル酸二ナトリウムの10%水溶液を100μl滴下した。対照群には蒸留水100μlを滴下した。
【0032】
10分後に脱脂綿を回収し、直ちに新たなボール状脱脂綿(25mg±10%)を挿入した。20分後、その脱脂綿を回収し、直ちに重量を測定し、挿入前と挿入後の重量差を唾液分泌量とした。
【0033】
測定の結果、表1に示す4種のヌクレオチドは著しい唾液分泌増加作用を示すことが確認された。尚、表中のデータは以下の式にて各種ヌクレオチドの投与による唾液分泌増加率を算出後、増加率を%で表したものである。
増加率(%)=(各種ヌクレオチド投与群の唾液分泌量/対照群の唾液分泌量)×100−100
【0034】
【表1】

【0035】
実施例2:各種組成物例
(1)唾液分泌促進剤を含む口腔用品
以下の組成に従って、本発明に記載の唾液分泌促進剤を含む洗口剤を作製した。
水分80.49%、エタノール8%、グリセリン8%、ツウィーン−20 1.5%、クエン酸1%、パラベン0.01%、アデニル酸1%
【0036】
(2)唾液分泌促進剤を含む食品
以下の組成に従って、本発明に記載の唾液分泌促進剤を含むキャンディ及びチューインガムを作製した。
【0037】
(キャンディ)
キシリトール88.5%、ソルビトール10%、香料0.3%、スクラロース0.1%、着色剤0.1%、グアニル酸二ナトリウム1%
【0038】
(チューインガム)
ガムベース25%、キシリトール40%、パラチニット30%、マルチトールシロップ2.5%、軟化剤0.9%、アスパルテーム0.1%、香料0.5%、ウリジル酸二ナトリウム1%

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アデニル酸、グアニル酸、シチジル酸およびウリジル酸からなる群から選ばれた少なくとも1種のヌクレオチドを含有することを特徴とする唾液分泌促進剤。
【請求項2】
唾液分泌を促進するために、アデニル酸、グアニル酸、シチジル酸およびウリジル酸からなる群から選ばれた少なくとも1種のヌクレオチドを使用する方法。

【公開番号】特開2009−173564(P2009−173564A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−12080(P2008−12080)
【出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【出願人】(000006770)ヤマサ醤油株式会社 (56)
【Fターム(参考)】