説明

嚥下リハビリテーション用氷菓

【課題】腔内ケアと嚥下リハビリテーションとを、介護者の負担を低減しつつ効果的に実施することを可能とする、嚥下リハビリテーション用品を提供すること。
【解決手段】昆布抽出物から得られる分子量5000ダルトン以下の画分を有効成分とする抗菌補助成分、ラクトパーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコース源、pH調整成分、を含む水溶液が凍結されてなる、氷菓。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内の衛生状態の確保と、摂食嚥下リハビリテーションとを、同時に行って、高齢者や要介護者の誤嚥性肺炎のリスクを低下させることができる氷菓、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国では、近年、肺炎は、高齢者の死因のなかで、悪性新生物、心疾患、脳血管疾患に次いで多いものとなっており、さらに増加傾向にある。この高齢者の肺炎のなかでも、特に誤嚥性肺炎が注目されるようになってきた。誤嚥性肺炎とは、誤嚥によって、口腔や胃の内容物が、咳反射などで排除できないままに、気管や肺に進入して、生じる肺炎であり、気づかれないままに、細菌性肺炎へと至って、重篤な事態となる危険が大きい。
【0003】
この誤嚥性肺炎は、口腔内細菌の増加、口腔機能や嚥下機能の低下による誤嚥、免疫力の低下などが、主な要因となっている。特に要介護者においては、口腔内細菌は著しく増加して、巨大なプラークを多数形成し、この一部でも気道へと進入すれば、重篤な細菌性肺炎が生じうる状態となっていることが多い。そこで、誤嚥性肺炎を防ぐ為には、口腔内細菌の減少、口腔機能や嚥下機能の維持回復が、重要と考えられるようになってきた。実際に、誤嚥性肺炎は、専門的口腔内のケアにより発症率や死亡率が抑制されたとの報告がある。
【0004】
そのため、現在では、医療施設や介護施設において、高齢者や要介護者、特に摂食嚥下障害者に対して、口腔衛生を向上するケアを行うこと、摂食嚥下の機能を維持回復するためのリハビリテーションを行うことが、求められるようになっている。しかし、口腔衛生ケアや、摂食嚥下リハビリテーションを行う介護者は、知識と技術が求められるために稀少であり、短時間に多数の要介護者を介護しなければならないという現実がある。そこで、より効果的な口腔衛生や口腔内のケア、摂食嚥下リハビリテーションの手法が、求められるようになってきている。
【0005】
口腔衛生や口腔内のケアの手法として、従来から、歯ブラシや口腔内用のブラシによる、口腔内の清掃が知られている。この方法は、効果的ではあるが、目視によって注意深く行う必要があり、所要時間の長さも含めて、介護者の負担は大きい。
【0006】
摂食嚥下リハビリテーション(リハビリ)の手法としては、氷の小片を利用した手法(氷なめ訓練、アイスマッサージ)が知られている(例えば、非特許文献1)。
【0007】
口腔内に対して使用可能とされる殺菌剤として、ラクトパーオキシダーゼシステムによる口腔内殺菌剤が知られている(例えば、特許文献1)。ラクトパーオキシダーゼは、過酸化水素及びチオシアン酸の存在下において、ヒポチオシアン酸の生成を触媒し、これによって強い抗菌活性を示すことが知られている。過酸化水素は、グルコースの存在下において、グルコースオキシダーゼを作用させることによって、生成される。このラクトパーオキシダーゼによる抗菌系が、ラクトパーオキシダーゼシステムと呼ばれる殺菌剤である。この組み合わせのうち、チオシアン酸は食品添加物として認められておらず、直ちに飲食品に使用できるものではなかった。
【0008】
乳タンパク質の一種であるラクトパーオキシダーゼは、哺乳類の乳汁をはじめ、唾液、涙液、気道粘液等の分泌液にも含有される酸化還元酵素であり、工業的には牛乳から大量に精製することが可能である。
【0009】
昆布は日本人の食生活に欠かせないものであり、ミネラル等の栄養豊富な食材として長年使用され、親しまれてきた。一般に、昆布とは、褐藻類コンブ科コンブ属と近縁の海藻の総称である。食用の昆布には、マコンブ(真昆布、学名:Laminaria japonica)、ラウスコンブ(羅臼昆布、学名:Laminaria diabolica)、リシリコンブ(利尻昆布、学名:Laminaria ochotensis)、ヒダカコンブ(日高昆布、三石昆布、学名:Laminaria angustata)等の品種が知られている。
【0010】
昆布の熱水抽出物である昆布だしには、グルタミンを主体とする旨味成分やアルギン酸を主体とする食物繊維に加え、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄等のミネラルが豊富に含まれている。従来、昆布抽出物は、その旨味成分の呈味性と、食物繊維やミネラルの栄養学的価値が主に利用されてきた(例えば、特許文献2)。その他、昆布抽出物には、抗がん作用、抗酸化作用、抗変異原性作用等の生理機能があるという報告がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第4203120号公報
【特許文献2】特公平5−77379号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】日本摂食・嚥下リハビリテーション学会誌、第14巻第3号、2010年、p.644〜663
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述のように、高齢者や要介護者における誤嚥性肺炎を防ぐために、口腔内細菌の増加を抑制して衛生状態を保つための口腔内のケアと、口腔機能や嚥下機能を低下させることなく維持向上させるための嚥下リハビリテーションを、介護者の負担を低減して、効果的に実施することが、求められていた。
したがって、本発明の目的は、このような口腔内のケアと嚥下リハビリテーションとを、介護者の負担を低減しつつ効果的に実施することを可能とする、嚥下リハビリテーション用品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、ラクトパーオキシダーゼシステムについての研究開発の結果、昆布の抽出物のうちの分子量5000ダルトン以下の画分が抗菌補助成分として使用できること、これをラクトパーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ及びグルコースと併用することによって、強い抗菌活性を示す抗菌成分となることを見いだした。この抗菌活性は、従来からラクトパーオキシダーゼにおいて必須の成分とされていた、チオシアン酸及びその塩を添加することなく、発揮されていた。このことは、昆布の抽出物からの抗菌補助成分を使用した上記抗菌成分は、飲食品に添加して、その抗菌活性を発揮させることができることを意味する。そこで、本発明者は、昆布の抽出物からの抗菌補助成分を使用した上記抗菌成分を配合した嚥下リハビリテーション用氷菓を作成し、これを口腔内に含めば嚥下リハビリテーションを行えること、そして、嚥下リハビリテーションを行いながら、同時に、口腔内細菌の増加を抑制して衛生状態を保つことができることを見いだして、本発明を完成させた。
【0015】
したがって、本発明は、以下の(1)〜(17)にある。
(1)
昆布抽出物から得られる分子量5000ダルトン以下の画分を有効成分とする抗菌補助成分、
ラクトパーオキシダーゼ、
グルコースオキシダーゼ、
グルコース源、
pH調整成分、
を含む水溶液が凍結されてなる、氷菓。
(2)
氷菓が、嚥下困難者用氷菓である、(1)に記載の氷菓。
(3)
氷菓が、嚥下リハビリテーション用氷菓である、(1)〜(2)のいずれかに記載の氷菓。
(4)
pH調整成分によって、水溶液のpHがpH5.6〜8.0に調整されてなる、(1)〜(3)のいずれかに記載の氷菓。
(5)
pH調整成分が、有機酸及び/又はその塩である、(1)〜(4)のいずれかに記載の氷菓。
(6)
pH調整成分が、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸、及びグルタミン酸からなる群から選択された1以上の成分並びに当該成分の塩類である、(1)〜(5)のいずれかに記載の氷菓。
(7)
グルコース源が、ポリデキストロースである、(1)〜(6)のいずれかに記載の氷菓。
(8)
グルコース源が、グルコースである、(1)〜(7)のいずれかに記載の氷菓。
(9)
昆布抽出物から得られる分子量5000ダルトン以下の画分を有効成分とする抗菌補助成分、ラクトパーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコース源、pH調整成分、に加えて、ラクトフェリンを含む水溶液が凍結されてなる、(1)〜(8)のいずれかに記載の氷菓。
(10)
昆布抽出物から得られる分子量5000ダルトン以下の画分を有効成分とする抗菌補助成分、ラクトパーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコース源、pH調整成分、に加えて、増粘成分を含む水溶液が凍結されてなる、(1)〜(9)のいずれかに記載の氷菓。
(11)
増粘成分が、アルギン酸ナトリウム、グアガム、ローカストビーンガム、カラギナン、及びキサンタンガムからなる群から選択された1以上の成分である、(1)〜(10)のいずれかに記載の氷菓。
(12)
上記水溶液が、水溶液として調製された後に4時間以内に凍結されてなる、(1)〜(11)のいずれかに記載の氷菓。
(13)
上記水溶液が、−18℃以下の温度で凍結されてなる、(1)〜(12)のいずれかに記載の氷菓。
(14)
上記水溶液が、−70℃以下の温度で凍結されてなる、(1)〜(13)のいずれかに記載の氷菓。
(15)
昆布抽出物が、マコンブ(Laminaria japonica)、ラウスコンブ(Laminaria diabolica)、リシリコンブ(Laminaria ochotensis)、ヒダカコンブ(Laminaria angustata)からなる群から選択される1又は複数の昆布抽出物である、(1)〜(14)のいずれかに記載の氷菓。
(16)
5ml以下の範囲の体積を有する、(1)〜(15)のいずれかに記載の氷菓。
(17)
昆布抽出物から得られる分子量5000ダルトン以下の画分を有効成分とする抗菌補助成分が、チオシアン酸及びその塩を含まない、(1)〜(16)のいずれかに記載の氷菓。
【0016】
本発明は、さらに次の(21)〜(42)にもある。
(21)
昆布抽出物から得られる分子量5000ダルトン以下の画分を有効成分とする抗菌補助成分、ラクトパーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコース源、pH調整成分、を含む水溶液を調製する工程、
上記水溶液を、凍結する工程、
を含む、氷菓の製造方法。
(22)
上記水溶液を調製する工程の前に、
昆布から溶媒による抽出を行って、昆布抽出物を得る工程、
昆布抽出物から分子量5000ダルトン以下の画分を分画して、抗菌補助成分を得る工程、
を含む、(21)に記載の製造方法。
(23)
溶媒が水又は水溶液である、(21)〜(22)のいずれかに記載の方法。
(24)
氷菓が、嚥下困難者用氷菓である、(21)〜(23)のいずれかに記載の製造方法。
(25)
氷菓が、嚥下リハビリテーション用氷菓である、(21)〜(24)のいずれかに記載の製造方法。
(26)
pH調整成分によって、水溶液のpHがpH5.6〜8.0に調整されてなる、(21)〜(25)のいずれかに記載の製造方法。
(27)
pH調整成分が、有機酸及び/又はその塩である、(21)〜(26)のいずれかに記載の製造方法。
(28)
pH調整成分が、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸、及びグルタミン酸からなる群から選択された1以上の成分並びに当該成分の塩類である、(21)〜(27)のいずれかに記載の製造方法。
(29)
グルコース源が、ポリデキストロースである、(21)〜(28)のいずれかに記載の製造方法。
(30)
グルコース源が、グルコースである、(21)〜(29)のいずれかに記載の製造方法。
(31)
上記水溶液を調製する工程が、
昆布抽出物から得られる分子量5000ダルトン以下の画分を有効成分とする抗菌補助成分、ラクトパーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコース源、pH調整成分、に加えて、ラクトフェリンを含む水溶液を調製する工程、
である、(21)〜(30)のいずれかに記載の製造方法。
(32)
上記水溶液を調製する工程が、
昆布抽出物から得られる分子量5000ダルトン以下の画分を有効成分とする抗菌補助成分、ラクトパーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコース源、pH調整成分、に加えて、増粘成分を含む水溶液を調製する工程、
である、(21)〜(31)のいずれかに記載の製造方法。
(33)
増粘成分が、アルギン酸ナトリウム、グアガム、ローカストビーンガム、カラギナン、及びキサンタンガムからなる群から選択された1以上の成分である、(21)〜(32)のいずれかに記載の製造方法。
(34)
上記水溶液を凍結する工程が、上記水溶液を調製する工程の後に、4時間以内に凍結するように行われる、(21)〜(33)のいずれかに記載の製造方法。
(35)
上記水溶液を凍結する工程が、−18℃以下の温度での凍結によって行われる、(21)〜(34)のいずれかに記載の製造方法。
(36)
上記水溶液が、−70℃以下の温度での凍結によって行われる、(21)〜(35)のいずれかに記載の製造方法。
(37)
昆布抽出物が、マコンブ(Laminaria japonica)、ラウスコンブ(Laminaria diabolica)、リシリコンブ(Laminaria ochotensis)、ヒダカコンブ(Laminaria angustata)からなる群から選択される1又は複数の昆布抽出物である、(21)〜(36)のいずれかに記載の製造方法。
(38)
氷菓が、5ml以下の範囲の体積を有する、(21)〜(37)のいずれかに記載の製造方法。
(39)
上記水溶液を調製する工程の後であって、上記水溶液を凍結する工程の前に、
上記水溶液を、5ml以下の範囲の体積に分取する工程、
を含む、(21)〜(38)のいずれかに記載の製造方法。
(40)
上記水溶液を凍結する工程の後に、
凍結された上記水溶液を、5ml以下の範囲の体積に切断する工程、
を含む、(21)〜(39)のいずれかに記載の製造方法。
(41)
(21)〜(40)のいずれかに記載の製造方法によって製造された、氷菓。
(42)
昆布抽出物から得られる分子量5000ダルトン以下の画分を有効成分とする抗菌補助成分が、チオシアン酸及びその塩を含まない、(41)に記載の氷菓。
【0017】
本発明は、さらに、上記に記載の氷菓を口腔内に保持して行う、嚥下リハビリテーション方法、口腔内のケア方法にもある。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る凍結組成物である氷菓を使用すれば、口腔内の衛生状態の確保と、摂食嚥下リハビリテーションとを、同時に行うことができる。これによって、高齢者や要介護者の誤嚥性肺炎のリスクを低下させることができる。
【0019】
本発明に係る氷菓は、冷温刺激によって嚥下反射を誘発するものとなっているために、摂食嚥下リハビリテーションを効果的に実施することができる。
【0020】
本発明に係る氷菓による口腔内の衛生状態の確保は、歯ブラシや口腔内用のブラシによる口腔内の清掃と比較すると、摂食嚥下リハビリテーションとは別に介護の時間を確保する必要もないことから、介護者の負担は非常に小さい。また、本発明に係る氷菓は、凍結組成物である故に、冷温刺激によって摂食嚥下を促すことができる。さらに、本発明に係る氷菓による口腔内衛生ケアでは、ケアの実施の際に誤嚥が生じるリスクが、極めて低減されたものとなっている。
【0021】
本発明によれば、氷菓を数粒、数分間舐めるだけで、口腔内の病原菌を減少できること、摂取者や介護者の負荷が少なく、口腔衛生を実施できること、氷を口の中で溶かすため、有効成分が口腔内で滞留する時間が長いこと、介助者の技術や知識がなくても、日常的に口腔衛生を実施できること、日和見菌に対して殺菌効果があること、カンジダ菌に対して殺菌効果があること、歯周病原菌であるフソバクテリウムに対して殺菌効果があること、そのために、歯周病の改善、口臭防止効果も期待されること、といった利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の好ましい実施態様について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施態様に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。なお、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量による表示である。
【0023】
[本発明に係る氷菓の製造]
本発明に係る氷菓は、昆布抽出物から得られる分子量5000ダルトン以下の画分を有効成分とする抗菌補助成分、ラクトパーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコース源、pH調整成分、を含む水溶液が凍結されてなる、氷菓である。
【0024】
本発明に係る氷菓は、昆布抽出物から得られる分子量5000ダルトン以下の画分を有効成分とする抗菌補助成分、ラクトパーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコース源、pH調整成分、を含む水溶液を調製する工程、上記水溶液を、凍結する工程、を含む製造方法によって、製造することができる。
【0025】
好適な実施の態様において、上記水溶液を調製する工程の前に、昆布から溶媒による抽出を行って、昆布抽出物を得る工程、昆布抽出物から分子量5000ダルトン以下の画分を分画して、抗菌補助成分を得る工程を、行うことができる。好ましい実施の態様において、上記溶媒として、水又は水溶液を使用することができる。
【0026】
[昆布抽出物]
昆布抽出物は、市販の昆布から常法によって調製することができる。
昆布抽出物の出発原料として使用する昆布としては、マコンブ(真昆布、Laminaria japonica)、ラウスコンブ(羅臼昆布、Laminaria diabolica)、リシリコンブ(利尻昆布、Laminaria ochotensis)、ヒダカコンブ(日高昆布、三石昆布、Laminaria angustata)、ナガコンブ(Laminaria longissima)、ホソメコンブ(Laminaria religiosa)、ガツガラコンブ(Laminaria coriacea)、チヂミコンブ(Laminaria cichorioides)ゴヘイコンブ(Laminaria yezoensis)等が好ましく、特にマコンブ、ラウスコンブ、リシリコンブ及びヒダカコンブが好ましい。これらの昆布は1種でも使用でき、2種以上の昆布を併用することもできる。
【0027】
昆布は食品として通常使用される形態であればよく、生の昆布、凍結乾燥された昆布又は乾燥昆布を使用することができ、乾燥昆布を使用することが好ましい。
昆布抽出物の製造方法としては、例えば、乾燥昆布を水に浸漬後、80〜100℃、5〜60分の条件で抽出することにより、昆布抽出物を得ることができる。
【0028】
昆布抽出物の抽出溶媒としては、水の他、有機溶媒を使用することができ、有機溶媒としては、例えばクロロホルム、メタノール、エタノール、プロパノール、ジメチルスルホキシド、ヘキサン等を使用することができる。
これらの抽出溶媒の中では、安全性が高く簡便であることから水を用いることが好ましい。
昆布抽出物としては、市販の液状あるいは粉末状の昆布エキス(例えば、三栄源エフ・エフ・アイ社製等)を使用することもできる。
【0029】
本発明の抗菌補助成分(ラクトパーオキシダーゼシステム用添加成分)は、昆布から溶媒による抽出を行って昆布抽出物を得る工程、昆布抽出物から分子量5000ダルトン以下の画分を分画する工程、を含む製造方法によって、製造することができる。
【0030】
抽出に使用する溶媒は、上記の溶媒を使用することができ、好ましい実施の態様において、溶媒は水又は水溶液である。水溶液としては、水と同様に抽出ができる水溶液であって、ヒトが摂取しても安全な水溶液であれば、特に制限無く使用することができる。水溶液としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、デキストリンなどを含む水溶液を例示することができる。溶媒による抽出は、常温又は加温して、溶媒に浸漬することによって行うことができる。好ましい実施の態様において、溶媒による抽出は、常温の水に浸漬した後に、加温して行うことができる。加温は、一般に50〜100℃、好ましくは60〜100℃、さらに好ましくは70〜100℃、さらに好ましくは80〜100℃、さらに好ましくは90〜100℃の範囲の温度への加温(加熱)によって行うことができる。抽出時間は、適宜設定することができるが、好ましい実施の態様において、一般に10〜120分、好ましくは20〜100分、さらに好ましくは30〜90分、さらに好ましくは40〜80分、さらに好ましくは50〜60分の範囲の時間で、行うことができる。
【0031】
分画は、昆布抽出物から分子量5000ダルトン以下の画分を分画することができる手段であれば、使用することができる。分画の手段としては、例えば、ろ過膜によるろ過、フィルターによるろ過、中空糸によるろ過、遠心分離、分子量クロマトグラフィー(ゲルろ過)、などを挙げることができる。また、このようなろ過として、例えば、透析、遠心ろ過、吸引ろ過、加圧ろ過、限外ろ過などを挙げることができる。当業者は、これらのろ過膜やフィルターのポアサイズ、あるいは遠心分離の加速度を選択することによって、分子量5000ダルトン以下又は分子量4000ダルトン以下の画分(フラクション)を分画することができる。
【0032】
昆布は、歴史的な年月の間、飲食に供されている。特に、昆布の熱水抽出物は、日本では「昆布だし」として、伝統的な調味料として使用されている。そのために、昆布抽出物は、ヒトに対する安全性がきわめて高い水準で担保されている。
一方、チオシアン酸及びその塩は、国によっては食品の添加が未だ認められていない化学物質である。
本発明に係る抗菌成分においては、チオシアン酸及びその塩を添加することなく、きわめて安全で安心な成分のみを使用して、ラクトパーオキシダーゼシステムの抗菌作用を発揮させることを可能としている。そこで、本発明は、ヒトに対するラクトパーオキシダーゼシステムの幅広い適用を、実現するものでもある。
【0033】
従来、昆布抽出物は、ラクトパーオキシダーゼシステム用添加成分(抗菌補助成分)として使用できることは知られていなかった。本願の実施例においても示すように、昆布抽出物そのままでは、ラクトパーオキシダーゼシステム用添加剤としての効果を発揮しない。ところが、そのメカニズムは不明であるが、本発明において示したように、本発明者は、昆布抽出物から、分子量5000ダルトン以下の画分を分画したところ、ラクトパーオキシダーゼシステム用添加成分として効果を発揮することを発見して、本発明に到達したものである。
【0034】
本発明の抗菌補助剤は、昆布抽出物の分子量5000ダルトン以下の画分を有効成分としている。従って、本発明において抗菌補助成分として使用するためには、昆布抽出物から分子量5000ダルトンを超える成分を除去することが好ましい。
また、本発明の抗菌補助剤は、昆布抽出物の分子量4000ダルトン以下の画分を有効成分とすることもできる。従って、本発明の抗菌補助剤として使用するためには、昆布抽出物から分子量4000ダルトンを超える成分を除去することがさらに好ましい。
昆布抽出物の分画方法は特に限定されるものではないが、限外ろ過膜(UF膜)、ナノろ過膜(NF膜)、ゲルろ過法等を使用することが好ましく、限外ろ過法を使用することが簡便であることからより好ましい。
【0035】
[ラクトパーオキシダーゼ]
本発明に使用するラクトパーオキシダーゼは、哺乳類の乳等から得ることができ、ヒト、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ等の乳等から得ることができる。例えば、特開平5−41981号公報に開示された方法のように、乳等未加熱のホエイ又は脱脂乳から、常法(例えばイオン交換クロマトグラフィー等)に従って工業的に製造することが好ましい。あるいは、市販の天然物由来のラクトパーオキシダーゼ(例えばバイオポール社製等)、又は組換え型ラクトパーオキシダーゼ〔例えばシンらの方法[バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・リサーチ・コミュニュケーションズ(Biochemical and Biophysical Research Communications)、第271巻、2000年、p.831〜836]によって発現・精製された組換え型ラクトパーオキシダーゼ、又は市販の組換え型ラクトパーオキシダーゼ〕を使用することができる。
【0036】
好ましい実施の態様において、ラクトパーオキシダーゼは、哺乳類の乳に由来するラクトパーオキシダーゼが好ましく、牛、羊、山羊等の乳に由来するラクトパーオキシダーゼが好ましく、特に牛乳由来のラクトパーオキシダーゼが好ましい。これらの原料は、ヒトの飲食に長年使用され、ヒトに対する安全性が極めて高い水準で担保されているためである。
なお、牛乳由来の未加熱のホエイは、乳製品製造の副産物として大量に安定供給できることから、本発明のラクトパーオキシダーゼの原料として特に好ましい。
【0037】
本発明において、ラクトパーオキシダーゼはラクトパーオキシダーゼシステムとして使用される。ラクトパーオキシダーゼシステムとして、一般的には、ラクトパーオキシダーゼ、過酸化水素、及びチオシアン酸の存在下でヒポチオシアン酸の生成を触媒し、強い抗菌活性を示す系となるような組成物の組み合わせが知られている。
一般に、ラクトパーオキシダーゼシステムの組み合わせとしては、例えば、ラクトパーオキシダーゼ、グルコース、グルコースオキシダーゼ、及びチオシアン酸の組み合わせを挙げることができる。本発明においては、ラクトパーオキシダーゼシステムのチオシアン酸を添加することなく、上述した昆布抽出物からの抗菌補助成分が添加されて、使用される。すなわち、本発明の好ましい実施の態様において、ラクトパーオキシダーゼシステムは、ラクトパーオキシダーゼ、グルコース、グルコースオキシダーゼ、及び上述した昆布抽出物からの抗菌補助成分の組み合わせが、使用される。また、この組み合わせからなる組成物は、本発明に係るラクトパーオキシダーゼシステム抗菌組成物ということもできる。
【0038】
ラクトパーオキシダーゼは、ラクトパーオキシダーゼシステムにおいて通常使用される濃度となるように含有させることができ、例えば、好ましい実施の態様において、水溶液の質量に対して、0.0001〜0.01質量%、0.001〜0.01質量%の範囲の濃度で添加して、使用することができる。
【0039】
[グルコースオキシダーゼ]
本発明に使用するグルコースオキシダーゼは、例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)等の微生物の産生する酵素である市販品のグルコースオキシダーゼ(新日本化学工業社製等)を使用することができる。グルコースオキシダーゼは、ラクトパーオキシダーゼシステムにおいて通常使用される濃度となるように含有させることができ、例えば、好ましい実施の態様において、水溶液の質量に対して、0.001〜0.1質量%、0.01〜0.1質量%の範囲の濃度で添加して、使用することができる。
【0040】
[グルコース源]
好ましい実施の態様において、グルコース源としては、グルコースを使用することができる。グルコースとしては、例えば、市販のグルコース(日本食品化工社製等)を使用することができる。氷菓を製造するための水溶液に含有させるグルコースは、ラクトパーオキシダーゼシステムにおいて通常使用される濃度となるように含有させることができ、例えば、好ましい実施の態様において、0.0001〜1.0質量%、好ましくは0.001〜0.5質量%、さらに好ましくは0.001〜0.01質量%の範囲とすることができる。ラクトパーオキシダーゼシステムの殺菌活性の発揮の点からは、グルコース濃度が一定以上大きいことが好ましく、口腔内でのう蝕作用の懸念の点からは、グルコース濃度が小さいことが好ましい。
【0041】
好ましい実施の態様において、グルコース源として、ポリデキストロースを使用することができる。ポリデキストロースとしては、例えば、飲食品への添加用として市販されているポリデキストロースを使用することができ、例えば、ライテス(ダニスコ・ジャパン社製)、ライテスII(ダニスコ・ジャパン社製)、STA-LITE III(A. E. STALEY MFG. Co製)が挙げられる。氷菓を製造するための水溶液に含有させるポリデキストロースの含有量は、例えば、0.001〜2.0質量%、好ましくは0.01〜1.5質量%、さらに好ましくは0.1〜1.0質量%の範囲とすることができる。
【0042】
[pH調整成分]
pH調整成分としては、氷菓を製造するための水溶液のpHを、本発明において好ましい範囲に調整可能なものであれば、特に制限なく使用することができる。例えば、pH調整成分として、有機酸及び/又はその塩を使用することができる。例えば、市販食品添加物のクエン酸、乳酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸、グルタミン酸等からなる群より選択される少なくとも1種以上の酸、及びクエン酸塩(例えば、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム等)、乳酸塩(例えば、乳酸ナトリウム等)、リンゴ酸塩(例えば、リンゴ酸ナトリウム等)、コハク酸塩(例えば、コハク酸一ナトリウム、コハク酸ニナトリウム等)、酒石酸塩(例えば、酒石酸ナトリウム、酒石酸水素カリウム等)、グルタミン酸塩(例えば、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸カリウム等)等からなる群より選択される少なくとも1種以上を組み合わせて使用することが可能である。特に好ましいpH調整成分として、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウムを例示することができる。
【0043】
好適な実施の態様において、これらのpH調整成分を使用して、氷菓を製造するための水溶液のpHは、例えば、pH5.5〜pH9.0、好ましくはpH5.6〜pH8.0、さらに好ましくはpH6.0〜7.0の範囲とすることができる。好ましい実施の態様において、室温から体温の温度範囲において、上記pHの範囲に含まれるものとすることができる。
【0044】
[増粘成分]
本発明に係る氷菓は、嚥下リハビリテーションにおいて好適に使用できるよう、口腔内で溶解した後に、適度なとろみを付与することが望ましい。そこで、好ましい実施の態様において、氷菓を製造するための水溶液には、増粘成分を含有させることが好ましい。増粘成分としては、食品に添加可能な安定剤及び増粘剤のうち、このようなとろみを付与することができるものであって、本発明に係るラクトパーオキシダーゼシステムの抗菌活性を妨げることがないものであれば、使用することができる。このような好ましい安定剤及び増粘剤としては、例えば、アルギン酸ナトリウム、グアガム、ローカストビーンガム、カラギナン、及びキサンタンガムを例示することができる。アルギン酸ナトリウムは、例えば、市販のアルギン酸ナトリウム(三栄源エフ・エフ・アイ社製、フードケミファ社製等)を使用することができる。グアガム、ローカストビーンガム、カラギナン、又はキサンタンガムは、例えば、市販のグアガム、ローカストビーンガム、カラギナン、又はキサンタンガム(三栄源エフ・エフ・アイ社製、CPケルコ社製等)を使用することができる。
【0045】
好適な実施の態様において、安定剤、増粘剤は、例えば、水溶液に対して、0.01〜1.0質量%、好ましくは0.02〜0.7質量%、さらに好ましくは0.1〜0.5質量%、さらに好ましくは0.2〜0.4質量%の範囲で、添加することができる。好適な実施の態様において、上述のような増粘成分の添加によって、本発明に係る氷菓を製造するための水溶液は、3〜1000mPa・s、好ましくは5〜100mPa・s、さらに好ましくは5〜30mPa・sの範囲の粘度とすることができる。
【0046】
[ラクトフェリン]
好適な実施の態様において、氷菓を製造するための水溶液には、ラクトフェリンを含有させることができる。ラクトフェリンを添加することによって、より効果的に口腔内のケアを実施することができる。氷菓を製造するための水溶液に含有させるラクトフェリンの含有量は、例えば、好ましい実施の態様において、水溶液の質量に対して、0.0001〜1.0質量%、0.0005〜0.5質量%、0.001〜0.1質量%の範囲の濃度で添加して、使用することができる。
【0047】
[その他の成分]
好適な実施の態様において、氷菓を製造するための水溶液には、上述したラクトパーオキシダーゼシステムに関与する成分以外に、口腔内細菌を殺菌する作用を有する成分が含まれていてもよい。例えば、上記ラクトフェリンの他に、乳中の他の有用な蛋白質である、リゾチーム、免疫グロブリン、カゼイン、α−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリン等が含まれていてもよい。
また、好適な実施の態様において、氷菓を製造するための水溶液には、食品に使用できるその他の添加剤、添加成分、機能性成分を使用してもよく、例えば、香料、甘味料、色素、食物繊維、矯味矯臭剤、希釈剤などの成分を、添加して使用することもできる。
甘味料として、天然甘味料や合成甘味料、糖類を使用することができ、口腔内のケアの観点からは、非う蝕性の甘味料が好ましい。
【0048】
[凍結する工程]
本発明に係る氷菓は、氷菓を製造するための上記水溶液を凍結して製造される。氷菓を製造するための上記水溶液はそれ自身が持続的に抗菌活性を有するものであるが、本発明者の検討によれば、水溶液の抗菌活性は、水溶液の状態で放置しておくと、徐々に失われるものであり、水溶液の調製後から、できるだけ早く凍結することが好ましく、少なくとも4時間以内に完全に凍結することが好ましいものであった。凍結は、例えば、好ましくは4時間以内、さらに好ましくは3時間以内、さらに好ましくは2時間以内、さらに好ましくは1時間以内に行うものとすることができる。また、同じく、本発明者の検討によれば、水溶液の抗菌活性の維持のためには、水溶液を一定温度以下の低温で凍結することが好ましく、例えば、好適な実施の態様において、−18℃以下、好ましくは−30℃以下、さらに好ましくは−50℃以下、より好ましくは−70℃以下、特に好ましくは−80℃以下の温度で急速に凍結することによって行うことができる。
【0049】
[氷菓の体積]
本発明に係る氷菓は、摂食嚥下リハビリテーションのために好適に使用することができる。好適な摂食嚥下リハビリテーションの実施のために、氷菓は、好ましい実施の態様において、5ml以下の体積を有するものとすることができ、例えば、1〜5ml、好ましくは2〜4ml、さらに好ましくは2〜3mlの範囲の体積を有するものとすることができる。摂食嚥下リハビリテーションに有利な冷温刺激と、抗菌活性の持続による口腔内のケアの効果のためには、体積は大きい方が好ましく、口腔内での取り扱いの容易さからは、体積は小さい方が好ましい。
【0050】
氷菓が上記の範囲の体積を有するものとするために、好適な実施の態様において、上記水溶液を調製する工程の後であって、上記水溶液を凍結する工程の前に、上記水溶液を、5ml以下の範囲の体積に分取する工程、を設けることができる。また、氷菓が上記の範囲の体積を有するものとするために、好適な実施の態様において、上記水溶液を凍結する工程の後に、凍結された上記水溶液を、5ml以下の範囲の体積に切断する工程、を設けることができる。これらの工程は、併用することもできる。また、得られた氷菓をさらに、表面を研磨したり、表面を溶解したりして、形を整えて、摂食嚥下リハビリテーションに有利な形状とすることができる。加工した氷菓の好ましい形状として、例えば、略球状、略円柱状、略正四面体状、略正六面体状、略正八面体状、略円錐状などを例示することができる。
【実施例】
【0051】
以下に、実施例をあげて、本発明を詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
[試験例1]
本試験は、口腔内の日和見感染菌と歯周病菌に対する氷菓による効果を調べるために行った。
【0052】
(1)試料の調製
キシリトール(三菱商事フードテック社製)2.5g、ポリデキストロース(ダニスコジャパン社製)2.5g、還元難消化性デキストリン(松谷化学工業社製)2.5g、アルギン酸ナトリウム(フードケミファ社製)1g、メントール(長谷川香料社製)0.2g、スクラロース(三栄源エフ・エフ・アイ社製)0.1g、クエン酸三ナトリウム(扶桑化学工業社製)0.25g、ラクトフェリン(森永乳業社製)0.01g、ラクトパーオキシダーゼ(バイオポール社製)0.03g、グルコースオキシダーゼ(新日本化学工業社製)0.3gの各粉末を添加して乳鉢で均一に混合し、混合粉末を作成した。この混合粉末に、昆布ミネラル(フジッコ社製)2.5mlと精製水488.1mlの混合液を添加して溶解し、液体組成物を作成した。
次に、一粒当たり約3mlの液体組成物を、市販の小粒タイプアイストレイ(イノマタ化学社製)を使用し、ドライアイス/エタノールを−72℃の寒剤として急速に冷凍して氷菓(凍結組成物)を作成した。この氷菓を、試験試料とした。ここで使用した昆布ミネラル(フジッコ社製)に代えて、後述する実施例3による抗菌補助成分を水溶液に対して粉末5g/1000mlの最終濃度で使用した場合にも、以後の各試験において、同様の結果が得られた。
【0053】
(2)菌液の調製
要介護者や高齢者の口腔内から検出されることが知られている日和見感染菌として、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin−resistant Staphylococcus aureus:MRSA)92005k(琉球大学より分譲)とカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)ATCC90028(アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションより分譲)を使用した。また、口腔内の歯周病菌としてフソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)JCM6328(理研JCMより分譲)を使用した。
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌は、1%バクトペプトン(BD社製)培地を使用して、37℃のインキュベーター中で一晩培養した。カンジダ・アルビカンスは、1%バクトペプトンと2%グルコースからなるサブロー・デキストロース液体培地を使用して、37℃のインキュベーター中で一晩培養した。フソバクテリウム・ヌクレアタムは、GAMブイヨン液体培地(日水製薬社製)を使用して、嫌気性チャンバー(コイ・ラボラトリー・プロダクツ社製)内で、37℃、10時間、嫌気条件下(二酸化炭素10%、水素5%、窒素85%)で培養した。これらの培養液を菌液として試験に使用した。
【0054】
(3)試験方法
試験試料を試験直前に室温で融解した後、容量10mlの滅菌ディスポーザブルチューブに融解した試験試料を2.5ml添加し、25μlの上記菌液を添加、攪拌して10分間、室温(約25℃)で保持した。この混合液をリン酸緩衝生理食塩水で10倍ずつ段階希釈した。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌は、標準寒天培地(日水製薬社製)に塗布して、37℃のインキュベーター内で1日間培養した。カンジダ・アルビカンスは、1%バクトペプトン(BD社製)、2%グルコース、1.5%寒天を添加したサブロー・デキストロース寒天培地に塗布して、37℃のインキュベーター内で2日間培養した。フソバクテリウム・ヌクレアタムは、ブルセラ培地(BD社製)に5%ヒツジ血清、5μg/mlヘミン(シグマ・アルドリッチ・ジャパン社製)、1μg/mlビタミンK(シグマ・アルドリッチ・ジャパン社製)を添加した寒天培地(Antimicrobial Agents and Chemotherapy,アメリカ、第43巻、1999年、p.2231〜2235)に塗布して嫌気性チャンバー内で嫌気条件下で、37℃、3日間培養した。培養後、各寒天培地上に形成されたコロニーの数を測定した。検出された各種菌のコロニー数から、上記溶液1ml当りの生菌数の対数値(log10 cfu/ml)を求めた。
【0055】
(4)試験結果
本試験の結果を次の表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
その結果、試験試料は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、カンジダ・アルビカンスの生菌数を10分間のうちに検出限界以下まで減少させ、非常に強い殺菌作用を示した。また、試験試料は、フソバクテリウム・ヌクレアタムの生菌数を10分間のうちに10分の1以下に減少させる殺菌作用を示した。本結果から、本発明の氷菓は、口腔内の日和見感染菌と歯周病菌に対して、比較的短時間のうちに抗菌活性を示すことが明らかとなった。
【0058】
[試験例2]
本試験は、本発明の氷菓に対する凍結とその方法の影響を調べるために行った。
(1)試料の調製
試験例1の方法で作成した液体組成物を、室温で4時間放置し、対照試料1とした。また、一粒当たり約3mlの液体組成物を、市販の小粒タイプアイストレイを使用し、−18℃のフリーザーで寒剤を用いずに冷凍し、試験試料1とした。さらに、一粒当たり約3mlの液体組成物を、市販の小粒タイプアイストレイを使用し、ドライアイス/エタノールを−72℃の寒剤として急速に冷凍して氷菓(凍結組成物)を作成した。この氷菓を、試験試料2とした。
【0059】
(2)菌液の調製
試験例1と同様の方法でメチシリン耐性黄色ブドウ球菌の菌液を調製した。
【0060】
(3)試験方法
対照試料1はそのまま、対照試料2と試験試料は試験直前に室温にて融解後、容量10mlの滅菌ディスポーザブルチューブに試験試料を2.5mlを添加した。次に、25μlの上記菌液を添加、攪拌して室温で10分間保持後の各混合液中のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌の生菌数を試験例1と同様の方法で測定した。
【0061】
(4)試験結果
本試験の結果を次の表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
表2から明らかなとおり、溶解後4時間経過した対照試料1では初菌数に比べて生菌数は殆ど変化しなかった。したがって、ラクトパーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコース、増粘剤、昆布抽出物、及びpH調整剤を含有する液体組成物は、溶解後に時間が経過すると抗菌活性が顕著に低下し、数時間後には抗菌活性が全く無くなることが明らかとなった。一方、−18℃で凍結させた試験試料1では、生菌数が102cfu/ml程度減少しており抗菌活性が保持されていた。さらに、急速に冷凍した試験試料2では10分間で生菌数を検出限界以下まで減少させ、非常に強い抗菌活性が保持されていた。すなわち、液体組成物を凍結させることによって抗菌活性を保持可能であることが明らかになり、さらに、液体組成物を急速に凍結させることで強い抗菌活性を保持可能であることが明らかとなった。
【0064】
[試験例3]
本試験は、氷菓の抗菌活性における抗菌補助成分の配合量の影響を調べるために行った。
(1)試料の調製
試験例1の方法で作成した混合粉末0.47gに、精製水に昆布ミネラル(フジッコ社製)を終濃度0、0.1、0.2、0.3、0.4又は0.5%となるように混合した溶液25mlを添加して溶解した。試験例1と同様の方法で氷菓(凍結組成物)を作成し、試験試料とした。
【0065】
(2)菌液の調製
試験例1と同様の方法でメチシリン耐性黄色ブドウ球菌の菌液を調製した。
【0066】
(3)試験方法
試験試料を室温にて融解後、容量10mlの滅菌ディスポーザブルチューブに試験試料を2.5mlを添加した。対照試料として、リン酸緩衝生理食塩水を2.5ml添加した。次に、25μlの上記菌液を添加、攪拌して室温で5分間、10分間保持後の各混合液中のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌の生菌数を試験例1と同様の方法で測定した。
【0067】
(4)試験結果
本試験の結果を次の表3に示す。
【0068】
【表3】

【0069】
その結果、生菌数は、対照試料では5分及び10分後において、それぞれ6.10及び6.09log10 cfu/mlであり、昆布ミネラル配合量0.1%では殆ど変化はなかったが、昆布ミネラル配合量0.2%以上では生菌数が顕著に減少し、良好な抗菌活性が観察された。昆布ミネラル配合量0.3%以上では5分間で生菌数を検出限界以下まで減少させ、非常に強い抗菌活性が観察された。したがって、本発明の氷菓は、抗菌補助成分として、昆布ミネラルの配合量が0.3%以上となるように添加することによって強い抗菌活性が得られることが明らかとなった。
【0070】
[試験例4]
本試験は、ヒトの唾液中の細菌に対する氷菓(凍結組成物)による抗菌活性を調べるために行った。
(1)試料の調製
実施例1と同様の方法で作成した氷菓(凍結組成物)を試験試料とした。精製水を試験試料と同様の方法で凍結させたものを対照試料とした。
【0071】
(2)唾液の採取
試験日の起床後、歯磨き、うがい等の歯の清掃、飲水、および飲食を禁止した健常人4名から、試験日の午前中に唾液を採取した。
【0072】
(3)試験方法
試験直前に、試験試料及び対照試料を室温にて融解させた。容量10mlのディスポーザルチューブに融解した試験試料、対照試料を0.95mlずつ添加し、採取した唾液0.05mlを嫌気性チャンバー内で添加して攪拌した後、5分間、37℃で保持した。この混合液をリン酸緩衝生理食塩水で10倍ずつ段階希釈し、Blood Agar Base No.2(OXOID社製)に5%ウマ血清、5μg/mlヘミン(シグマ・アルドリッチ・ジャパン社製)、1μg/mlメナジオン(シグマ・アルドリッチ・ジャパン社製)を添加した非選択培地(Microbiological Research、ドイツ、第159巻、2004年、p.365〜370)に塗布した。
好気性菌は、37℃のインキュベーター内で3日間培養した。嫌気性菌は、嫌気性チャンバー内で37℃、7日間培養した。培養後、寒天培地上に形成されたコロニーの数を測定した。検出されたコロニー数から、上記溶液1ml当りの生菌数の対数値(log10 cfu/ml)を求めた。被験者4名について好気性菌、嫌気性菌の平均値を求めた。
【0073】
(4)試験結果
本試験の結果を表4に示す。
【0074】
【表4】

【0075】
その結果、試験試料では初菌数に比べ好気性菌は0.23log10 cfu/ml、嫌気性菌は半分程度(0.41log10 cfu/ml)に減少した。一方、対照試料では好気性菌、嫌気性菌ともに生菌数は殆ど変化しなかった。これらの結果から、本発明の氷菓は、ヒトの唾液中の細菌に対し、比較的短時間のうちに抗菌活性を示すことが明らかとなった。
【0076】
[試験例5]
本試験は、本発明の氷菓(凍結組成物)の摂取による口腔内の細菌に対する抗菌活性を調べるために行った。
(1)試料の調製
試験例1と同様の方法で作成した氷菓を試験試料とした。精製水を試験試料と同様の方法で凍結したものを対照試料とした。
【0077】
(2)試験方法
(試験群)
試験日の起床後、歯磨き、うがい等の歯の清掃、飲水、および飲食を禁止した健常人4名の被験者に対して、試験日の午前9:45に試験試料(氷菓:凍結組成物)を1分毎に1粒ずつ口腔内で融解させ、連続的に3粒摂取させた。また、摂取前[A](午前9:30)、摂取直後[B](午前9:55)、及び摂取1時間後[C](午前10:55)の各時点において、滅菌済バイアルに5分間に渡り、検体である唾液の全量を採取した。採取した検体は、嫌気性チャンバー内に入れ、リン酸緩衝生理食塩水で10倍ずつ段階希釈し、試験例4と同様の方法で、唾液1ml中の好気性菌、嫌気性菌の生菌数の対数値(log10 cfu/ml)を求めた。
【0078】
(対照群)
また、対照試験として、前記試験日程とは別に、試験日の起床後、歯磨き、うがい等の歯の清掃、飲水、および飲食を禁止した健常人4名の被験者に対して、対照試料(精製水の凍結物)を前記試験群と同様の方法で3粒摂取させ、同様の時間帯の[A]、[B]、[C]の時点で検体である唾液を採取して、検体中の好気性菌、嫌気性菌の生菌数を調べた。
【0079】
(無摂取群)
さらに、試験群、対照群とは別の試験日程で、試験群及び対照群と同様に、試験日の起床後、歯磨き、うがい等の歯の清掃、飲水、および飲食を禁止した健常人4名の被験者に対して、凍結組成物を一切摂取させることなく、前記試験群と同様の方法、同様の時間帯の[A]、[B]、[C]の時点で検体である唾液を採取して、検体中の好気性菌、嫌気性菌の生菌数を調べた。
【0080】
(3)試験結果
本試験の結果を、次の表5、表6、表7に示す。表5は摂取群、表6は対照群、表7は無摂取群について、被験者各4名の好気性菌及び嫌気性菌の生菌数の平均値を示したものである。
【0081】
【表5】

【0082】
【表6】

【0083】
【表7】

【0084】
その結果、表5から明らかなように、試験群では、本発明の氷菓の摂取によって、摂取直後[B]において好気性菌が0.39log10 cfu/ml低下し、嫌気性菌が0.21log10 cfu/ml低下した。摂取1時間後[C]には、摂取前のレベルに戻った。
一方、表6及び表7から明らかなように、対照群及び無摂取群では、摂取直後[B]及び摂取1時間後[C]に好気性菌、嫌気性菌の明確な低下は確認されなかった。試験群では、対照群及び無摂取群に比べて摂取直後の生菌数が顕著に低かった。上記の結果から、本発明の凍結組成物の摂取によってヒトの口腔内の細菌数が減少し、口腔内細菌に対して抗菌活性が発揮されることが明らかとなった。
【0085】
[実施例1]
キシリトール(三菱商事フードテック社製)250g、ポリデキストロース(ダニスコジャパン社製)250g、還元難消化性デキストリン(松谷化学工業社製)250g、アルギン酸ナトリウム(フードケミファ社製)100g、メントール(長谷川香料社製)20g、スクラロース(三栄源エフ・エフ・アイ社製)10g、クエン酸三ナトリウム(扶桑化学工業社製)25g、をイオン交換水48リットルに溶解後、昆布ミネラル(フジッコ社製)250mlを添加し、混合液Aを作成した。この混合液Aを、バッチ式で75℃、30分間加熱殺菌後、5℃以下に冷却した。これとは別に、サイダー香料(長岡香料社製)50g、ラクトフェリン(森永乳業社製)1g、ラクトパーオキシダーゼ(バイオポール社製)3g、グルコースオキシダーゼ(新日本化学工業社製)30gをイオン交換水0.7リットルに溶解し、混合液Bを作成した。この混合液Bを孔径0.4μmのフィルターユニット(ミリポア社製)で滅菌し、上記混合液Aに添加、混合し、混合液Cを作成した。次に、この混合液Cを、一粒当たり約3mlの直方体の金型に充填し、−30℃の塩化カルシウム溶液からなるブラインに浸漬して凍結させ、金型から外し、凍結組成物を一万個製造した。
【0086】
[実施例2]
以下のように昆布抽出物から抗菌補助成分を調製した。
(1)昆布抽出物の調製
市販の乾燥マコンブ(八社会社製)4gを精製水400mlの入ったビーカーに添加し、室温で2時間浸漬した。続いて、マコンブ入りのビーカーを約95℃で30分間加熱した。さらに、ビーカーを放冷後、孔サイズ0.45μmのフィルター(アドバンテック社製)で除菌して、昆布抽出物350mlを得た。
本実施例では、昆布サンプル4gを精製水400mlに添加して昆布抽出物を調製したが、これは乾燥昆布から調理用にだしを取る場合の約2倍の濃度であった。
【0087】
(2)昆布抽出物の分画
昆布抽出物12mlを分取し、分画分子量5000ダルトンの遠心分離用限外ろ過膜カートリッジ(ミリポア社製)で2000rpm(960×g)、20分間の条件で遠心分離して、分子量5000ダルトンを超える画分を分離し、分子量5000ダルトン以下の画分からなる透過液を得た。この透過液が、昆布抽出物からの抗菌補助成分にあたる。
【0088】
[実施例3]
以下のように昆布抽出物から抗菌補助成分を調製した。
市販の乾燥マコンブ(納屋商店社製)1kgを精製水20Lの入ったステンレス製容器に添加し、室温で2時間浸漬後、約95℃で30分間加熱し、昆布抽出物15Lを得た。次に、この昆布抽出物を分画分子量4000ダルトンの限外ろ過膜モジュール(旭化成社製)で処理し、分子量4000ダルトン以下の画分からなる透過液13Lを得た。この透過液に、賦形剤としてデキストリン(東亜化成社製)450gを添加、溶解し、凍結乾燥機で処理し、抗菌補助成分の粉末500gを製造した。
本実施例では、乾燥マコンブ1kgから本発明の有効成分が50g(乾燥質量)得られた。そして、本実施例の抗菌補助成分の粉末は、有効成分が500g(乾燥質量)中に50g(乾燥質量)含まれるから、上記の粉末抗菌補助成分の有効成分の濃度は10質量パーセントである。
【0089】
[実施例4]
以下のように昆布抽出物からの抗菌補助成分を使用して、ラクトパーオキシダーゼシステムとして作用する抗菌組成物を製造した。
以下の組成の抗菌組成物原料粉末を混合し、抗菌組成物粉末117.6gを得た。これを0.375gずつ計量し、それぞれ容量250mlのプラスチック製容器に添加し、粉末状の抗菌組成物300個を製造した。
この抗菌組成物入り容器は、使用時に水250mlを添加して粉末を溶解することによって、液状抗菌組成物として飲用可能である。
【0090】
上記実施例3で製造した粉末抗菌補助剤 100g
ラクトパーオキシダーゼ(バイオポール社製) 0.6g
グルコースオキシダーゼ(新日本化学工業社製) 8.0g
グルコース(日本食品化工社製) 9.0g
【0091】
以下に試験例を示して、昆布抽出物からの抗菌補助成分の作用を詳細に説明する。
[試験例6]
本試験では、昆布抽出物からの抗菌補助成分がラクトパーオキシダーゼシステム抗菌組成物において、抗菌補助成分として有効であることを確認した。
(1)試料の調製
試験試料として、実施例2で製造した昆布抽出物の透過液(昆布抽出物低分子画分)を使用した。
一方、対照試料として、実施例2の未分画の昆布抽出物をそのまま使用した。
【0092】
(2)菌液の調製
黄色ブドウ球菌[スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)JCM2151、理化学研究所より分譲]を1%バクトペプトン培地で一晩培養した。この培養液20mlを遠心分離機(日立製作所社製)を用いて、3000rpm(2150×g)、10分間、4℃の条件で遠心分離後、残渣をリン酸緩衝生理食塩水10mlで懸濁して菌液を調製した。
【0093】
(3)試験方法
容量5mlのチューブに、試験試料1.0ml、塩化ナトリウム(国産化学社製)の3.4%水溶液0.5ml、ラクトパーオキシダーゼ(バイオポール社製)の1mg/ml水溶液20μl、グルコース(和光純薬社製)の1%水溶液30μl、精製水403.3μl、及び上記(2)の菌液20μlを添加し、攪拌した。
次いで、グルコースオキシダーゼ(新日本化学工業社製)の10mg/ml水溶液26.7μlを添加し、攪拌し、室温で5分間インキュベーション後、リン酸緩衝生理食塩水で10倍ずつ段階的に希釈した。この希釈液を20μlずつ標準寒天培地に塗布し、37℃のインキュベーター中で一晩培養した後、寒天培地上に形成されたコロニーの数を測定した。検出された細菌のコロニー数から、上記の試験混合液1ml当りの生菌数の対数値(log10cfu/ml)を求めた。
同様の方法で、対照試料を1.0ml使用して試験した。
さらには、試験試料、対照試料について、グルコースオキシダーゼを添加しないことを除き、上記試験例とすべて同じ系において同様の試験を行った。
【0094】
(4)試験結果
本試験の結果を次の表8に示す。
【0095】
【表8】

【0096】
試験試料(マコンブ抽出物の低分子画分)を使用した系では、試験混合液中で黄色ブドウ球菌の生菌数を検出限界以下に低下させた。一方、対照試料(マコンブ抽出物)を使用した系では、試験混合液中で黄色ブドウ球菌の生菌数はほとんど変化しなかった。また、グルコースオキシダーゼ無添加の系でも、試験試料、対照試料とも、黄色ブドウ球菌の生菌数はほとんど変化しなかった。
この結果から、昆布抽出物低分子画分、ラクトパーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコースの組み合わせによって、顕著な抗菌効果を発揮することが明らかになった。そして、昆布抽出物は抗菌剤そのものとしてではなく、他の成分に添加することで抗菌効果を発揮する抗菌補助成分として作用していることが明らかとなった。
【0097】
なお、本試験の試験試料を用いた組み合わせでは、従来、ラクトパーオキシダーゼシステムの抗菌系を作用させるためには一定以上の濃度が必要であったチオシアン酸が全く使用されていないにも関わらず、抗菌効果を発揮するという驚くべき効果が明らかになった。
そして、昆布抽出物低分子画分が、ラクトパーオキシダーゼシステム抗菌組成物の有効成分として抗菌作用を発揮するという、顕著な効果を有することが明らかになった。
また、昆布抽出物は、分子量5000ダルトンを超える高分子画分に阻害物質を有しているが、その阻害物質を除去すれば、ラクトパーオキシダーゼの抗菌系に利用できることが明らかとなった。
【0098】
[試験例7]
本試験では、抗菌補助成分の原料として使用できる昆布の品種を検討した。
(1)試料の調製
市販の乾燥昆布4品種(マコンブ、ラウスコンブ、リシリコンブ、及びヒダカコンブ)各4gを使用し、実施例1の方法で昆布抽出物低分子画分を調製した。
試料は、昆布の品種ごとに異なる市販品3サンプルずつから調製した。
【0099】
(2)菌液の調製
試験例6の(2)と同様の方法で黄色ブドウ球菌の菌液を調製した。
【0100】
(3)試験方法
試験例6の(3)と同様の方法で試験した。
【0101】
(4)試験結果
本試験の結果を次の表9に示す。試験は各サンプルとも2回ずつ行った。
【0102】
【表9】

【0103】
その結果、試験した全品種の昆布から調製された昆布抽出物低分子画分が、黄色ブドウ球菌の生菌数を検出限界以下に低下させ、強い殺菌活性を示すことが明らかになった。
この結果から、抗菌補助成分の原料としては、マコンブ、ラウスコンブ、リシリコンブ、ヒダカコンブのいずれの昆布も好適に利用できることが明らかとなった。
【0104】
[試験例8]
本試験は、抗菌組成物における抗菌補助成分の用量依存性を検討することを目的とした。
(1)試料の調製
実施例2で調製したマコンブ抽出物低分子画分(抗菌補助成分)の試料を使用し、この希釈倍率を1倍とした。この試料は精製水で2倍ずつ段階的に希釈し、128倍までの2倍段階希釈系列を作成した。
【0105】
(2)菌液の調製
試験例6の(2)と同様の方法で黄色ブドウ球菌の菌液を調製した。
【0106】
(3)試験方法
実施例2で調製した抗菌補助剤(抗菌補助成分)及びその2倍段階希釈系列を試験混合液に添加したことを除いて、試験例6と同様の方法で試験した。
【0107】
(4)試験結果
本試験の結果を次の表10に示す。
【0108】
【表10】

【0109】
抗菌補助剤(抗菌補助成分)は、32倍希釈まで黄色ブドウ球菌の菌数が検出限界以下であり、64倍希釈においても、黄色ブドウ球菌を初菌数の1/100以下に低下させた。
本試験の結果より、抗菌補助成分の濃度と抗菌補助効果には相関関係があり抗菌補助成分は、用量依存的にラクトパーオキシダーゼシステム抗菌作用を補助することが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明によれば、口腔内の衛生状態の確保と、摂食嚥下リハビリテーションとを、同時に行って、高齢者や要介護者の誤嚥性肺炎のリスクを低下させることができる氷菓を得ることができる。したがって、本発明は、産業上有用な発明である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昆布抽出物から得られる分子量5000ダルトン以下の画分を有効成分とする抗菌補助成分、
ラクトパーオキシダーゼ、
グルコースオキシダーゼ、
グルコース源、
pH調整成分、
を含む水溶液が凍結されてなる、氷菓。
【請求項2】
氷菓が、嚥下困難者用氷菓である、請求項1に記載の氷菓。
【請求項3】
氷菓が、嚥下リハビリテーション用氷菓である、請求項1に記載の氷菓。
【請求項4】
pH調整成分によって、水溶液のpHがpH5.6〜8.0に調整されてなる、請求項1〜3のいずれかに記載の氷菓。
【請求項5】
グルコース源が、ポリデキストロースである、請求項1〜4のいずれかに記載の氷菓。
【請求項6】
昆布抽出物から得られる分子量5000ダルトン以下の画分を有効成分とする抗菌補助成分、ラクトパーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコース源、pH調整成分、に加えて、ラクトフェリンを含む水溶液が凍結されてなる、請求項1〜5のいずれかに記載の氷菓。
【請求項7】
昆布抽出物から得られる分子量5000ダルトン以下の画分を有効成分とする抗菌補助成分、ラクトパーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコース源、pH調整成分、に加えて、増粘成分を含む水溶液が凍結されてなる、請求項1〜6のいずれかに記載の氷菓。
【請求項8】
増粘成分が、アルギン酸ナトリウム、グアガム、ローカストビーンガム、カラギナン、及びキサンタンガムからなる群から選択された1以上の成分である、請求項1〜7のいずれかに記載の氷菓。
【請求項9】
上記水溶液が、水溶液として調製された後に4時間以内に凍結されてなる、請求項1〜8のいずれかに記載の氷菓。
【請求項10】
上記水溶液が、−18℃以下の温度で凍結されてなる、請求項1〜9のいずれかに記載の氷菓。
【請求項11】
昆布抽出物が、マコンブ(Laminaria japonica)、ラウスコンブ(Laminaria diabolica)、リシリコンブ(Laminaria ochotensis)、ヒダカコンブ(Laminaria angustata)からなる群から選択される1又は複数の昆布抽出物である、請求項1〜10のいずれかに記載の氷菓。
【請求項12】
5ml以下の範囲の体積を有する、請求項1〜11のいずれかに記載の氷菓。
【請求項13】
昆布抽出物から得られる分子量5000ダルトン以下の画分を有効成分とする抗菌補助成分が、チオシアン酸及びその塩を含まない、請求項1〜12のいずれかに記載の氷菓。
【請求項14】
昆布抽出物から得られる分子量5000ダルトン以下の画分を有効成分とする抗菌補助成分、ラクトパーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコース源、pH調整成分、を含む水溶液を調製する工程、
上記水溶液を、凍結する工程、
を含む、氷菓の製造方法。
【請求項15】
上記水溶液を調製する工程の前に、
昆布から溶媒による抽出を行って、昆布抽出物を得る工程、
昆布抽出物から分子量5000ダルトン以下の画分を分画して、抗菌補助成分を得る工程、
を含む、請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
溶媒が水又は水溶液である、請求項14〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
上記水溶液を調製する工程が、
昆布抽出物から得られる分子量5000ダルトン以下の画分を有効成分とする抗菌補助成分、ラクトパーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコース源、pH調整成分、に加えて、ラクトフェリンを含む水溶液を調製する工程、
である、請求項14〜16のいずれかに記載の製造方法。
【請求項18】
上記水溶液を調製する工程が、
昆布抽出物から得られる分子量5000ダルトン以下の画分を有効成分とする抗菌補助成分、ラクトパーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコース源、pH調整成分、に加えて、増粘成分を含む水溶液を調製する工程、
である、請求項14〜17のいずれかに記載の製造方法。
【請求項19】
上記水溶液を凍結する工程が、上記水溶液を調製する工程の後に、4時間以内に凍結するように行われる、請求項14〜18のいずれかに記載の製造方法。
【請求項20】
上記水溶液が、−18℃以下の温度での凍結によって行われる、請求項14〜19のいずれかに記載の製造方法。
【請求項21】
上記水溶液を調製する工程の後であって、上記水溶液を凍結する工程の前に、
上記水溶液を、5ml以下の範囲の体積に分取する工程、
を含む、請求項14〜20のいずれかに記載の製造方法。
【請求項22】
上記水溶液を凍結する工程の後に、
凍結された上記水溶液を、5ml以下の範囲の体積に切断する工程、
を含む、請求項14〜21のいずれかに記載の製造方法。
【請求項23】
請求項14〜22のいずれかに記載の製造方法によって製造された、氷菓。

【公開番号】特開2013−39039(P2013−39039A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175997(P2011−175997)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【Fターム(参考)】