説明

回転加工装置

【課題】工具を径方向に正確且つ確実に位置調整することができ、しかも前記工具を強固に保持して高精度な加工を遂行するとともに、汎用性の向上を容易に図ることを可能にする。
【解決手段】ボーリング加工装置10を構成するツールホルダ14は、刃具18を保持するとともに、摺動シャフト62a、62bを設け、スピンドル12の径方向に進退可能な移動部材64と、前記摺動シャフト62a、62bを挿入するクランプ孔部66a、66bを有し、外力が解除された状態で、復元力により前記クランプ孔部66a、66bを縮径させて前記摺動シャフト62a、62bを移動不能にクランプする弾性クランプ部材68a、68bと、供給される流体圧を増圧し、増圧された流体圧を前記弾性クランプ部材68a、68bに付与することにより、前記クランプ孔部66a、66bを拡径させて前記摺動シャフト62a、62bを移動可能にする空油圧変換部24とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピンドルに連結されて回転し、工具によりワークを加工するツールホルダを備える回転加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ワーク(被切削材)に予め設けられた下穴の内壁面を、ボーリングバー等の切削工具により加工する加工装置が採用されている。通常、ボーリングバーでは、工具本体に刃具(工具)が取り付けられており、前記刃具の摩耗が進行すると、該刃具の刃先位置が、前記工具本体の径方向に位置変動を惹起してしまう。このため、刃具を工具本体の径方向に対して正確に位置補正することが可能な加工装置が要請されている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示されている切削工具が知られている。この切削工具は、軸線回りに回転される工具本体を有し、該工具本体の外周に切刃が備えられるとともに、該切刃とは別に仕上げ加工用の仕上切刃が、前記工具本体径方向に出没可能に配置されている。
【0004】
切削工具では、工具本体内部には、ピストン室が形成され、該ピストン室には、軸線方向に移動可能にピストンが配置され、前記ピストン室のうち前記ピストンよりも工具本体後端側が第1空間とされ、前記ピストンよりも工具本体先端側が第2空間とされており、前記工具本体には、流体を前記ピストン室に供給する流体供給装置と、前記流体を前記第1空間又は前記第2空間に選択的に供給させる切替装置とが備えられている。
【0005】
さらに、ピストンの工具本体先端側には、棒状部材が接続されており、該棒状部材の工具本体先端側部分には、前記棒状部材に対して交差するように配置され、前記棒状部材が前記軸線方向に移動することにより、軸線方向と交差する方向に移動されるスライド部材が備えられ、該スライド部材の工具本体外周側に仕上切刃が具備されている。棒状部材の工具本体先端側には、ピストンによって前記棒状部材が前記工具本体先端側に移動された状態で、前記棒状部材の先端面が当接される調整ネジが備えられている。
【0006】
そこで、工具本体先端面には、調整ネジを回動して前記調整ネジの軸線方向位置を調整する回動部材が備えられ、該回動部材の外周には、径方向内側に凹んで前記軸線に対して傾斜した傾斜溝が形成されている。
【0007】
また、特許文献2に開示されているボーリングバーは、円筒状の本体外殼部と、該本体外殻部の内部に一端が配置され、他端にチップが取り付けられたヘッド延長軸と、該ヘッド延長軸の略中間部から前記本体外殻部の端部とを繋ぎ、且つ弾性変形可能な支持部と、前記ヘッド延長軸のチップが取り付けられた側の反対側の端部近傍に、前記ヘッド延長軸の移動を、前記ヘッド延長軸の所定の軸直角方向のみに規制する規制溝とを備えている。そして、ヘッド延長軸が規制溝の溝方向に操作されることによって、支持部が変形して前記ヘッド延長軸の先端に取り付けられたチップ位置の調整が可能である、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】 特開2007−283469号公報
【特許文献2】 特開2004−148481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はこの種の回転加工装置に関連してなされたものであり、工具を径方向に正確且つ確実に位置調整することができ、しかも前記工具を強固に保持して高精度な加工を遂行するとともに、汎用性の向上を容易に図ることが可能な回転加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、スピンドルに連結されて回転し、工具によりワークを加工するツールホルダを備える回転加工装置に関するものである。
【0011】
この回転加工装置では、ツールホルダは、工具を保持するとともに、摺動シャフトを設け、スピンドルの回転軸方向に交差する径方向に進退可能な移動部材と、前記摺動シャフトを挿入するクランプ孔部を有し、外力が解除された状態で、復元力により前記クランプ孔部を縮径させて前記摺動シャフトを移動不能に保持する弾性クランプ部材と、供給される流体圧を増圧し、増圧された流体圧を前記弾性クランプ部材に付与することにより、前記クランプ孔部を拡径させて前記摺動シャフトを移動可能にする流体圧供給機構とを備えている。
【0012】
また、この回転加工装置では、クランプ孔部は、開口断面円形状又は開口断面角形状に構成されるとともに、弾性クランプ部材には、前記クランプ孔部の開口寸法を拡縮させるための開口部が該クランプ孔部に連通して設けられることが好ましい。
【0013】
さらに、この回転加工装置では、弾性クランプ部材には、クランプ孔部の開口寸法を拡縮させるためにボルト挿入用のねじ孔開口部が設けられることが好ましい。
【0014】
さらにまた、この回転加工装置では、流体圧供給機構は、供給される流体圧としてエア圧を用いる一方、増圧された流体圧として油圧を用いる空油圧変換部であることが好ましい。
【0015】
また、この回転加工装置では、ツールホルダには、摺動シャフトの両端部が挿入される摺動孔部を有する一対のシャフト保持部材が設けられることが好ましい。
【0016】
さらに、この回転加工装置では、ツールホルダには、ワークの加工時に発生する振動エネルギーを、滑り摩擦によって吸収するフリクションダンパー部が設けられることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る回転加工装置では、弾性クランプ部材から外力が解除された状態で、前記弾性クランプ部材自体の復元力により、クランプ孔部が縮径する方向に弾性変形する。このため、クランプ孔部に挿入されている摺動シャフトは、弾性クランプ部材の復元力により移動不能に保持される。一方、流体圧供給機構から付与される流体圧を介してクランプ孔部を拡径させることにより、弾性クランプ部材のクランプ作用が解除され、摺動シャフトが移動可能になる。
【0018】
従って、摺動シャフトをクランプするために、常時、外力(例えば、油圧力)を付与し続ける必要がなく、工具の移動が必要な場合にのみ、外力を付与してアンクランプさせることができる。これにより、圧漏れ等によって摺動シャフトが不要にアンクランプされるおそれがない。
【0019】
このため、工具を回転軸方向に交差する径方向に正確且つ確実に位置調整することができ、しかも前記工具を強固に保持して高精度な加工を遂行するとともに、汎用性の向上を容易に図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】 本発明の第1の実施形態に係るボーリング加工装置の概略説明図である。
【図2】 前記ボーリング加工装置を構成する工具位置調整機構の、図1中、II−II線断面図である。
【図3】 前記工具位置調整機構の、図1中、III−III線断面図である。
【図4】 前記工具位置調整機構を構成する弾性クランプ部材にクランプ孔部を形成する際の説明図である。
【図5】 前記工具位置調整機構に調整ユニットを連結する際の説明図である。
【図6】 前記工具位置調整機構と前記調整ユニットとをさらに近接される際の説明図である。
【図7】 前記弾性クランプ部材の前記クランプ孔部を拡径させる際の説明図である。
【図8】 前記工具位置調整機構と前記調整ユニットとをさらに一層近接される際の説明図である。
【図9】 前記弾性クランプ部材の前記クランプ孔部を縮径させる際の説明図である。
【図10】 前記工具位置調整機構の動作説明図である。
【図11】 本発明の第2の実施形態に係る回転加工装置であるボーリング加工装置を構成する工具位置調整機構の断面説明図である。
【図12】 前記工具位置調整機構の、図11中、XII−XII線断面図である。
【図13】 本発明の第3の実施形態に係る回転加工装置であるボーリング加工装置を構成する工具位置調整機構の断面説明図である。
【図14】 前記工具位置調整機構の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に示すように、本発明の第1の実施形態に係る回転加工装置であるボーリング加工装置10は、スピンドル12に着脱自在なツールホルダ(ボーリングバー)14を備える。スピンドル12は、図示しないマシニングセンタに設けられ、例えば、直交3軸方向に移動可能である。
【0022】
ツールホルダ14の一端部には、スピンドル12のテーパ穴部12aに嵌着されるシャンク部16が設けられる。ツールホルダ14の他端部には、切削チップ等の刃具(工具)18の位置を、前記ツールホルダ14の回転軸方向(矢印Z方向)に交差する径方向(矢印X方向)に位置調整するための工具位置調整機構20が設けられる。
【0023】
図1及び図2に示すように、工具位置調整機構20は、ハウジング22を備え、このハウジング22内には、空油圧変換部(流体圧供給機構)24が設けられる。空油圧変換部24は、後述する調整ユニット90から流体受給ポート26を介して供給される駆動用エアによる空気圧を油圧に変換する。流体受給ポート26は、ハウジング22の側部に設けられるとともに、前記流体受給ポート26は、駆動用エア管路28を介して空圧シリンダ室30に連通する。
【0024】
空圧シリンダ室30には、これよりも少容量な作動油圧シリンダ室32が直列的に連通する。空圧シリンダ室30には、ピストン34が摺動自在に配置され、このピストン34から延在するロッド36は、作動油圧シリンダ室32内に摺動シール38を介装して突出する。
【0025】
図2に示すように、作動油圧シリンダ室32には、油圧管路42a、42bを介して油圧シリンダ室44a、44bに連通する。油圧シリンダ室44a、44bには、ピストン46a、46bが摺動自在に配置され、このピストン46a、46bから押圧ピン48a、48bが延在する。ハウジング22の先端部には、円盤状の支持プレート部50が固着されるとともに、前記支持プレート部50には、押圧ピン48a、48bに外装して皿ばね52a、52bが設けられる。
【0026】
図1及び図2に示すように、ハウジング22と支持プレート部50との間には、ワークの加工時に発生する振動エネルギーを、滑り摩擦によって吸収するフリクションダンパー部54が設けられる。フリクションダンパー部54は、ハウジング22の外周の溝56に挿入され、円周方向にスライド回転可能なダンパー部材58を備える。ダンパー部材58の一端面には、マグネット60が埋め込まれ、磁力によりハウジング22に固定される。びびり振動の発生時には、ダンパー部材58が円周方向に加振され、ハウジング22のコンタクト面との間で摩擦(フリクション)が発生するように配される。
【0027】
図1〜図3に示すように、支持プレート部50には、刃具18を保持するとともに、一対の摺動シャフト62a、62bを設け、スピンドル12の回転軸方向に交差する径方向に進退可能な移動部材64と、前記摺動シャフト62a、62bを挿入する開口断面円形状のクランプ孔部66a、66bを有し、外力が解除された状態で、復元力により前記クランプ孔部66a、66bを縮径させて前記摺動シャフト62a、62bを移動不能にクランプ(保持)する弾性クランプ部材68a、68bと、前記摺動シャフト62a、62bの両端部が挿入される摺動孔部70a、70bを有する一対のシャフト保持部材72a、72bが設けられる。
【0028】
弾性クランプ部材68a、68bは、支持プレート部50に一体に形成されるとともに、クランプ孔部66a、66bの孔径を拡縮させるためのスリット74a、74bを有する。具体的には、図4に示すように、弾性クランプ部材68a、68bは、下穴加工が行われた後、スリット74a、74bが設けられる。
【0029】
次いで、ボルト76が、ねじ孔77にねじ込まれてスリット74a、74bがわずかに押し拡げられ、弾性クランプ部材68a、68bを弾性変形させた状態(すなわち、復元力のある状態)で、両端の摺動孔部70a、70bと同一寸法(直径D)のクランプ孔部66a、66bが形成される。ボルト76がねじ孔77から取り外されると、弾性クランプ部材68a、68bが復元するため、クランプ孔部66a、66bの直径が直径Dよりも小径に維持される(図4中、二点鎖線参照)。
【0030】
一方、摺動シャフト62a、62bの組みつけ時には、ボルト76がねじ孔77にねじ込まれてクランプ孔部66a、66bが拡径された状態で、前記摺動シャフト62a、62bが前記クランプ孔部66a、66bに挿入される。そして、ボルト76がねじ孔77から取り外されることにより、摺動シャフト62a、62bの組み付け作業が行われる。
【0031】
シャフト保持部材72a、72bには、支持板78a、78bが設けられる。摺動シャフト62a、62bのシャフト保持部材72b側の端部には、軸方向に所定の長さを有して穴部80a、80bが形成され、前記穴部80a、80bに収容されるスプリング82a、82bは、支持板78bに支持される。
【0032】
摺動シャフト62a、62bは、ボルト84を介して移動部材64に固定される。この移動部材64には、基準ピン86が設けられるとともに、前記基準ピン86は、支持板78aを貫通して外部に所定の長さだけ突出する。
【0033】
図5に示すように、調整ユニット90は、流体供給部92と、流体供給スライドポート94と、位置調整用基準部材96とを備える。流体供給部92は、空気を供給するとともに、供給される空気圧が制御可能である。流体供給スライドポート94は、流体供給部92に対して矢印X方向にスライド可能であるとともに、流体受給ポート26に対応して連結ポート98を設ける。位置調整用基準部材96は、流体供給部92に固定され、移動部材64に設けられた基準ピン86に当接可能である。
【0034】
このように構成されるボーリング加工装置10において、工具径を調整する動作について、以下に説明する。
【0035】
図5に示すように、図示しないマシニングセンタを介してスピンドル12が調整ユニット90に相対的に近接され、前記調整ユニット90の流体供給スライドポート94と工具位置調整機構20の流体受給ポート26とが連結される。具体的には、流体供給スライドポート94の連結ポート98が、流体受給ポート26に連結される。
【0036】
その際、調整ユニット90の流体供給スライドポート94は、図5中、左側に最もスライドした状態である。さらにこの状態において、移動部材64の基準ピン86は、調整ユニット90の位置調整用基準部材96に対向するように位置している。なお、弾性クランプ部材68a、68bは、クランプ孔部66a、66bが弾性変形により縮径し、摺動シャフト62a、62bを介して移動部材64をクランプした状態である。
【0037】
続いて、流体供給部92は、流体供給スライドポート94の連結ポート98を介してエアを供給する。従って、空油圧変換部24を構成する空圧シリンダ室30のピストン34の上側の空気圧が高まるため、図6に示すように、前記空油圧変換部24の前記ピストン34が下側へ移動する。このため、空圧シリンダ室30内のピストン34より下側の空間、すなわち、作動油圧シリンダ室32の油圧が増加する。
【0038】
これにより、作動油の増圧により、油圧管路42a、42bを介して油圧シリンダ室44a、44bの作動油が増圧し、ピストン46a、46bを下側に移動させる。従って、図7に示すように、ピストン46a、46bから延在する押圧ピン48a、48bは、下側に移動して弾性クランプ部材68a、68bのスリット74a、74bを押し拡げる。そして、弾性クランプ部材68a、68bのクランプ孔部66a、66bが弾性変形により拡径し、摺動シャフト62a、62bをアンクランプ状態にする。
【0039】
摺動シャフト62a、62bが固定された移動部材64は、スプリング82a、82bの弾性力の作用下に、図6中、右側に移動する。摺動シャフト62a、62bがアンクランプされ、径方向(矢印X方向)にスライドすることに伴って、移動部材64の基準ピン86が、調整ユニット90の位置調整用基準部材96に当接する。
【0040】
この時、刃具18の位置は、ツールホルダ14の回転軸線から最も遠ざかる位置に移動している。すなわち、流体供給スライドポート94は、流体供給部92に対して、図6中、最も左側に位置する状態で、流体受給ポート26に連結されており、移動部材64の基準ピン86が位置調整用基準部材96に当接している。ここで、ツールホルダ14の回転軸線に対する刃具18の位置、すなわち、工具径は既知であり、この状態が基準状態になる。
【0041】
この基準状態から、図8に示すように、機械のNC機能を使い、スピンドル12と位置調整用基準部材96との相対的な位置を近接する方向に変更させる。スピンドル12を移動させるマシニングセンタにおいては、その駆動軸を用いて、前記スピンドル12を位置調整用基準部材96との相対的な位置が近接する方向に移動させる。
【0042】
ここで、基準状態における工具径と基準ピン86の先端位置の関係は、既知である。従って、目標とする工具径に対応して、スピンドル12を位置調整用基準部材96に近接移動させることにより、工具径が調整される。
【0043】
さらに、図9に示すように、流体供給部92が流体供給スライドポート94の連結ポート98に連結された状態で、空油圧変換部24の空気圧がリリースされる。このため、油空圧変換部24のピストン34の下側の油圧が低下し、押圧ピン48a、48bは、皿ばね52a、52bの弾性力を介して上側に移動する。これにより、弾性クランプ部材68a、68bのクランプ孔部66a、66bは、弾性変形の復元力で縮径して摺動シャフト62a、62bをクランプする(図2参照)。
【0044】
上記のようにして、移動部材64が位置決めされ、刃具18の位置が固定される。摺動シャフト62a、62bのクランプが完了した後、スピンドル12が加工ポジションに移動され、前記スピンドル12の回転作用下に、刃具18を介してボーリング等の穴加工が行われる。
【0045】
ここで、摺動シャフト62a、62bは、切削抵抗によりわずかに変形するため、加工時において、円周方向の振動が移動部材64に生じ易い。すなわち、この変形が、微小な円周状の振動となり、切削面にそれが模様となって表れる可能性がある。
【0046】
そこで、第1の実施形態では、フリクションダンパー部54が作用する。このフリクションダンパー部54では、リング状のダンパー部材58が円周方向に振動することにより、このダンパー部材58とハウジング22のコンタクト面との間でマグネット60からの磁力の力による摩擦が生じる。この摩擦エネルギーが振動エネルギーを消費吸収して、びびりの発生を防止することができる。
【0047】
この場合、第1の実施形態によれば、弾性クランプ部材68a、68bから外力が解除された状態で、前記弾性クランプ部材68a、68b自体の復元力により、クランプ孔部66a、66bが縮径する方向に弾性変形する。すなわち、図4に示すように、弾性クランプ部材68a、68bは、スリット74a、74bがわずかに押し拡げられた状態で、クランプ孔部66a、66bが形成されている。このため、ボルト76が取り外されると、弾性クランプ部材68a、68bが復元して、クランプ孔部66a、66bの直径は、直径Dよりも小径に維持されるからである。
【0048】
従って、クランプ孔部66a、66bに挿入されている摺動シャフト62a、62bは、弾性クランプ部材68a、68bの復元力により移動不能にクランプされる。一方、空油圧変換部24から付与される油圧を介してクランプ孔部66a、66bを拡径させることにより、弾性クランプ部材68a、68bのクランプ作用が解除され、摺動シャフト62a、62bが移動可能になる。
【0049】
これにより、摺動シャフト62a、62bをクランプするために、常時、外力(例えば、油圧力)を付与し続ける必要がなく、刃具18の移動が必要な場合にのみ、外力を付与してアンクランプさせることができる。このため、圧漏れ等によって摺動シャフト62a、62bが不要にアンクランプされるというおそれがない。
【0050】
従って、刃具18を回転軸方向に交差する径方向に正確且つ確実に位置調整することができ、しかも前記刃具18を強固に保持して高精度な加工を遂行するとともに、汎用性の向上を容易に図ることが可能になるという効果が得られる。
【0051】
さらに、第1の実施形態では、摺動シャフト62a、62bの両端部が挿入される摺動孔部70a、70bを有する一対のシャフト保持部材72a、72bが設けられている。図10に示すように、ツールホルダ14の加工回転時には、刃具18に回転方向の切削力が働いている。刃具18は、摺動シャフト62a、62bと一体化された移動部材64に取付けられているため、前記摺動シャフト62a、62bに曲げようとする力が働き、前記摺動シャフト62a、62bの軸線は、変形図線のように変化しようとする。
【0052】
この摺動シャフト62a、62bの変形力は、図10に示すように、軸端で摺動孔部70a、70bの壁との捩れによるコンタクトロック力、すなわち、ブレーキ力を生成し、移動部材64との軸芯が変形して軸方向の移動がロックされる。これにより、摺動シャフト62a、62bには、中央の弾性クランプ部材68a、68bの剛弾性体の復元力によるクランプ力と、それに加えて加工時の両端の摺動孔部70a、70bと摺動シャフト62a、62bの変形応力によるブレーキ力がかかり、二重効果で高い保持剛性が維持できる。
【0053】
図11は、本発明の第2の実施形態に係る回転加工装置であるボーリング加工装置を構成する工具位置調整機構100の断面説明図である。
【0054】
なお、第1の実施形態に係るボーリング加工装置10と同一の構成要素には、同一の参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。また、以下に説明する第3の実施形態においても同様に、その詳細な説明は省略する。
【0055】
流体受給ポート26は、第1及び第2ポート(図示せず)を設けるとともに、前記第1ポートは、第1駆動用エア管路28aに連通し、前記第2ポートは、流路系を構成する第2駆動用エア管路28bに連通する。第1駆動用エア管路28aは、空圧シリンダ室30に連通する一方、第2駆動用エア管路28bは、ハウジング22内を延在して支持プレート部50からシャフト保持部材72bに設けられたエア室102a、102bに連通する。
【0056】
エア室102a、102bは、空圧シリンダ室を構成し、摺動シャフト62a、62bは、ピストンを構成する。すなわち、摺動シャフト62a、62bの移動アクチュエータとしては、スプリング82a、82bの弾性力に代えて空圧機構を採用する。
【0057】
図12に示すように、調整ユニット90は、流体供給スライドポート94a、94bを備え、前記流体供給スライドポート94aは、第1連結ポート98aを設けるとともに、前記流体供給スライドポート94bは、第2連結ポート98bを設ける。第1連結ポート98aは、第1駆動用エア管路28aに連通し、第2連結ポート98bは、第2駆動用エア管路28bに連通する。
【0058】
このように構成される第2の実施形態では、調整ユニット90の流体供給スライドポート94a、94bと、工具位置調整機構100の流体受給ポート26とが連結される。このため、流体供給スライドポート94aの第1連結ポート98aは、第1駆動用エア管路28aに連通する一方、流体供給スライドポート94bの第2連結ポート98bは、第2駆動用エア管路28bに連通する。
【0059】
従って、第1駆動用エア管路28aを介して空油圧変換部24を構成する空圧シリンダ室30にエアが供給され、摺動シャフト62a、62bをアンクランプ状態にする。この状態で、第2駆動用エア管路28bにエアが供給されると、このエアは、シャフト保持部材72bに設けられたエア室102a、102bに導入される。これにより、アンクランプされた摺動シャフト62a、62bは、空気圧を介して、図12中、右側に移動し、上記の第1の実施形態と同様に、刃具18の位置が調整される。
【0060】
次いで、第1及び第2駆動用エア管路28a、28bへのエアの供給が停止されると、弾性クランプ部材68a、68bのクランプ孔部66a、66bは、弾性変形の復元力で縮径して摺動シャフト62a、62bをクランプする。
【0061】
このように、第2の実施形態では、摺動シャフト62a、62bの移動アクチュエータとして、スプリング82a、82bの弾性力に代えて空圧機構を採用しており、上記の第1の実施形態と同様の効果が得られる。
図13は、本発明の第3の実施形態に係る回転加工装置であるボーリング加工装置を構成する工具位置調整機構110の断面説明図である。
【0062】
第1及び第2の実施形態では、断面形状が円形の摺動シャフト62a、62bを使用していたが、第3の実施形態では、断面形状が四角形の摺動シャフト112a、112bを備えている。
【0063】
弾性クランプ部材68a、68bに代えて弾性クランプ部材113a、113bが用いられるとともに、前記弾性クランプ部材113a、113bは、摺動シャフト112a、112bを挿入するための開口断面四角形状のクランプ孔部114a、114bを有する。クランプ孔部114a、114bには、スリット74a、74bが連通しており、外力が解除された状態で、復元力により前記クランプ孔部114a、114bを縮小させて前記摺動シャフト112a、112bを移動不能にクランプする。
【0064】
一方、図14に示すように、作動油の増圧によりピストン46a、46bを下側に移動させると、前記ピストン46a、46bから延在する押圧ピン48a、48bは、下側に移動して弾性クランプ部材113a、113bのスリット74a、74bを押し拡げる。そして、弾性クランプ部材68a、68bのクランプ孔部114a、114bが弾性変形により拡大し、摺動シャフト112a、112bをアンクランプ状態にする。従って、第3の実施形態では、上記の第1及び第2の実施形態と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0065】
10…ボーリング加工装置 12…スピンドル
14…ツールホルダ 18…刃具
20、100、110…工具位置調整機構
22…ハウジング 24…空油圧変換部
26…流体受給ポート 28、28a、28b…エア管路
30…空圧シリンダ室 32…作動油圧シリンダ室
34、46a、46b…ピストン 42a、42b…油圧管路
44a、44b…油圧シリンダ室 48a、48b…押圧ピン
50…支持プレート部 54…フリクションダンパー部
58…ダンパー部材 60…マグネット
62a、62b、112a、112b…摺動シャフト
64…移動部材
66a、66b、114a、114b…クランプ孔部
68a、68b、113a、113b…弾性クランプ部材
70a、70b…摺動孔部 72a、72b…シャフト保持部材
74a、74b…スリット 78a、78b…支持板
82a、82b…スプリング 86…基準ピン
90…調整ユニット 92…流体供給部
94…流体供給スライドポート 96…位置調整用基準部材
98、98a、98b…連結ポート 102a、102b…エア室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピンドルに連結されて回転し、工具によりワークを加工するツールホルダを備える回転加工装置であって、
前記ツールホルダは、前記工具を保持するとともに、摺動シャフトを設け、前記スピンドルの回転軸方向に交差する径方向に進退可能な移動部材と、
前記摺動シャフトを挿入するクランプ孔部を有し、外力が解除された状態で、復元力により前記クランプ孔部を縮径させて前記摺動シャフトを移動不能に保持する弾性クランプ部材と、
供給される流体圧を増圧し、増圧された流体圧を前記弾性クランプ部材に付与することにより、前記クランプ孔部を拡径させて前記摺動シャフトを移動可能にする流体圧供給機構と、
を備えることを特徴とする回転加工装置。
【請求項2】
請求項1記載の回転加工装置において、前記クランプ孔部は、開口断面円形状又は開口断面角形状に構成されるとともに、
前記弾性クランプ部材には、前記クランプ孔部の開口寸法を拡縮させるための開口部が該クランプ孔部に連通して設けられることを特徴とする回転加工装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の回転加工装置において、前記弾性クランプ部材には、前記クランプ孔部の開口寸法を拡縮させるためにボルト挿入用のねじ孔開口部が設けられることを特徴とする回転加工装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の回転加工装置において、前記流体圧供給機構は、前記供給される流体圧としてエア圧を用いる一方、前記増圧された流体圧として油圧を用いる空油圧変換部であることを特徴とする回転加工装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の回転加工装置において、前記ツールホルダには、前記摺動シャフトの両端部が挿入される摺動孔部を有する一対のシャフト保持部材が設けられることを特徴とする回転加工装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の回転加工装置において、前記ツールホルダには、前記ワークの加工時に発生する振動エネルギーを、滑り摩擦によって吸収するフリクションダンパー部が設けられることを特徴とする回転加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−81572(P2012−81572A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241439(P2010−241439)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000102865)エヌティーエンジニアリング株式会社 (13)
【Fターム(参考)】