説明

回転電機の固定子製造方法

【課題】コイルを固定子の外径側に寄せた状態で固定することを可能とする回転電機の固定子製造方法を提供することである。
【解決手段】U相コイル14、V相コイル16及びW相コイル18をそれぞれ対応するティース12bに巻回する工程と、スロット12cの奥方向へのローレンツ力が作用されるような直流電流をU相コイル14、V相コイル16及びW相コイル18に流しつつ、U相コイル14、V相コイル16及びW相コイル18を固定する工程と、U相コイル14、V相コイル16及びW相コイル18の中性点同士を接合する工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機の固定子製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機の製造時において、平角線を曲げて成形したコイルは固定子のティースに対して巻回される。このとき、コイルは固定子のティースとの間に設けられたインシュレータの外側に組みつけられており、コイルとインシュレータの間には隙間が設けられている。このため、回転電機のスロット内において、コイルは自由に動いてしまうことがある。
【0003】
本発明に関連する技術として、例えば、特許文献1には、回転電機の巻線コイルにワニスを含浸させて硬化させる工程における回転電機巻線コイルの加熱処理方法が開示されている。ここでは、巻線コイルに商用電源よりも周波数の高い高周波電力を直接投入して、巻線コイルの内部からの自己発熱及び誘導加熱の併用により、巻線コイルを加熱することが述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−110493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、コイルがスロット内を動いて固定子の内径側に寄った場合、コイルと回転子との間の距離が小さくなることで、回転子側からコイルを通過する磁束が強くなり、銅渦損が増加する可能性がある。また、隣接するコイルが固定子の内径側に寄った場合、コイル相間の絶縁距離を十分に確保できない可能性がある。
【0006】
本発明の目的は、コイルを固定子の外径側に寄せた状態で固定することを可能とする回転電機の固定子製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る回転電機の固定子製造方法は、複数相のコイルをそれぞれ対応するティースに巻回する工程と、スロット奥方向へのローレンツ力が作用されるような直流電流を各コイルに流しつつ、各コイルを固定する工程と、各コイルの中性点同士を接合する工程と、を備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る回転電機の固定子製造方法において、各直流電流は、各コイルに作用する前記各ローレンツ力が均一になるように、それぞれ定められることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コイルに対し、スロット奥方向へのローレンツ力が作用するように通電することができる。これにより、コイルを固定子の外径側に寄せた状態で固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る実施の形態において、回転電機を示す図である。
【図2】本発明に係る実施の形態において、図1において、ティースの中央部分を軸方向と直交するように切断した場合の断面図の一部分を示す図である。
【図3】本発明に係る実施の形態において、回転電機の固定子の製造方法の手順を示すフローチャートである。
【図4】本発明に係る実施の形態において、U相コイル、V相コイル、W相コイルに対して通電されている様子を示す模式図である。
【図5】本発明に係る実施の形態において、U相コイル、V相コイル、W相コイルに作用するローレンツ力の向き等を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に図面を用いて、本発明に係る実施の形態を詳細に説明する。以下では、全ての図面において、同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0012】
図1は、回転電機10を示す図である。回転電機10は、回転子11と、固定子12とを備える。回転電機10は、インバータや車両の車輪等と接続されており、インバータからの3相交流電力により回転子11を回転させることで車輪を駆動する電動機として機能する。また、回転電機10は、車両の回生時における車輪の回転によって回転子11を回転させることで発電を行う発電機としても機能する。
【0013】
回転子11は、複数個の永久磁石が円周方向に沿って配置され、固定子12との相互作用で回転するロータである。
【0014】
固定子12は、円環状のヨーク12aと、ヨーク12aから径方向内側(すなわち、内径側)に突出する複数のティース12bと、隣接するティース12b間に形成される複数のスロット12cとを備えるステータである。固定子12は、さらに、U相コイル14と、V相コイル16と、W相コイル18を備える。
【0015】
U相コイル14、V相コイル16及びW相コイル18は、それぞれ対応するティース12bに巻回される平角線である。U相コイル14、V相コイル16及びW相コイル18は、高い導電性を有する導線からなる。ティース12bに巻回されるU相コイル14の一方側の端部同士は、図示しないバスバー等を用いて電気的に接続されU相用動力線14aとして固定子12の外側に引き出される。また、ティース12bに巻回されるU相コイル14の他方側の端部同士は、図示しないバスバー等を用いて電気的に接続されU相用中性線14bとして固定子12の外側に引き出される。
【0016】
V相コイル16、W相コイル18の各端部は、U相コイル14と同様にバスバー等を用いて電気的に接続され、それぞれV相用動力線16a、V相用中性線16b、W相用動力線18a及びW相用中性線18bとして固定子12の外側に引き出される。
【0017】
図2は、ティース12bと各相コイル(U相コイル14、V相コイル16及びW相コイル18)との位置関係を分かりやすくするために、図1において、ティース12bの中央部分を軸方向と直交するように切断した場合の断面図の一部分を示す図である。回転電機10では、U相コイル14、V相コイル16及びW相コイル18のうち隣接するコイルの間には、絶縁性を確保するために相間隙dが形成されている。図2に示されるように、U相コイル14とV相コイル16との間には間隙d(相間隙d)が形成される。また、U相コイル14とW相コイル18との間及びV相コイル16とW相コイル18との間にも同様に相間隙dが形成されている。
【0018】
また、回転電機10において、図2に示されるように、V相コイル16は、ティース12bの先端部との間において間隙x(先端隙x)が形成されている。すなわち、V相コイル16と回転子11との間の距離を確保している。また、U相コイル14及びW相コイル18についても同様にティース12bの先端部との間において先端隙xが形成されている。
【0019】
次に、回転電機10の固定子12の製造方法について説明する。図3は、回転電機10の固定子12の製造方法の手順を示すフローチャートである。図4は、U相コイル14、V相コイル16、W相コイル18に対して通電されている様子を示す模式図である。図5は、U相コイル14、V相コイル16、W相コイル18に作用するローレンツ力の向き等を示す図である。
【0020】
まず、平角線を成形することでU相コイル14、V相コイル16及びW相コイル18を準備し(S2)、各コイルをそれぞれ対応するティース12bに対して巻回する(S4)。
【0021】
次に、U相コイル14の一方側の端部同士、他方側の端部同士をそれぞれ接続して、U相用動力線14a、U相用中性線14bとして引き出し、その後、V相用動力線16a、V相用中性線16b、W相用動力線18a及びW相用中性線18bについても引き出す(S6)。
【0022】
U相用動力線14aとU相用中性線14bとの間、V相用動力線16aとV相用中性線16bとの間、W相用動力線18aとW相用動力線18aとの間にそれぞれ直流電源14c,16c,18cを接続する(S8)。これにより、図4に示されるように、直流電源14c,16c,18cからU相コイル14、V相コイル16、W相コイル18のそれぞれに異なる電流Iu,Iv,Iwを流すことが可能となる。
【0023】
次に、図5に示されるように、U相コイル14、V相コイル16及びW相コイル18に対し、挿入されたスロット12cの奥方向(固定子12の外径方向)にローレンツ力Fu,Fv,Fwが作用するように、上記直流電源14c,16c,18cによって各コイルに対して電流を流し、ローレンツ力Fu,Fv,Fwを発生させる(S10)。ここで、U相コイル14、V相コイル16及びW相コイル18に加わるローレンツ力Fu,Fv,Fwの大きさが、それぞれ均一になるように、各直流電源14c,16c,18cによって流される電流Iu,Iv,Iwの値を調整する。ここで、「均一になるように」とは、ローレンツ力Fu,Fv,Fwの大きさを全く同じにすることまでを要さない。例えば、各コイルに同じ大きさの電流を流した場合に生じるFu,Fv,Fwのバラつき(例えば、最大のローレンツ力と最小のローレンツ力との差)よりも小さいバラつきになるようにすることを含む。なお、図5において、回転子11及び固定子12上に表示されている等高線のような線は、各コイルに通電を行った際に発生する磁場を示している。
【0024】
そして、U相コイル14、V相コイル16及びW相コイル18に対してワニスを含浸させ、熱硬化させることで各コイルを固定する(S12)。このとき、ワニスによる含浸の代わりにモールド充填して硬化させることで各コイルを固定してもよい。
【0025】
最後に、上記各直流電源14c,16c,18cを取り外した後に、U相用中性線14b、V相用中性線16b及びW相用中性線18bを溶接等によって接合し、絶縁処理を施す(S14)。これにより、U相コイル14、V相コイル16、W相コイル18の中性点同士が接合されることとなる。
【0026】
続いて、上記回転電機10の固定子12の製造方法の作用について説明する。
【0027】
上記のように、S10の工程において、U相コイル14、V相コイル16、W相コイル18に通電されることで磁場が発生し、各コイルの導体を鎖交する磁束と電流の相互作用によって、各コイルに固定子12の外径方向に働くローレンツ力Fu,Fv,Fwが発生する。
【0028】
S10及びS12の工程において、U相コイル14、V相コイル16及びW相コイル18はローレンツ力Fu,Fv,Fwにより各コイルが固定子12の外径側に寄った状態、すなわちスロット12cの底部(奥部)に押し付けられた状態で固定させることができ、各コイルが内径側に寄らずに、先端隙xと相間隙dが確保される。先端隙x、つまり、各コイルと回転子11との距離を十分に確保し回転子11側から各コイルを通過する磁束を弱めることで銅渦損失を低減させることができる。また、相間隙dを確保することで隣接するコイル間の絶縁性を十分に確保することができる。なお、S10及びS12の工程を実行することで、従来技術において、先端隙xを確保するために用いられるコイルクランプ等の樹脂部品や、隣接するコイルの間に挟みこんで絶縁性を確保するために用いられる絶縁紙等を使用しなくてもよい。この場合、部品点数の削減、コストの低減をすることができる。
【0029】
さらに、U相コイル14、V相コイル16及びW相コイル18にはそれぞれ異なる直流電源14c,16c,18cが接続されているため、S10の工程において、U相コイル14、V相コイル16及びW相コイル18の設置状態等に応じ電流Iu,Iv,Iwに対してそれぞれ適切な電流値を設定することができる。
【0030】
また、S12の工程において、ワニスの含浸時に各コイルに通電することで、予め加熱しておいた固定子の温度を高温に保つことができ、これにより、それぞれの処理における熱硬化処理を好適に行うことができる。
【符号の説明】
【0031】
10 回転電機、12 固定子、12a ヨーク、12b ティース、12c スロット、14 U相コイル、14a U相用動力線、14b U相用中性線、16 V相コイル、16a V相用動力線、16b V相用中性線、18 W相コイル、18a W相用動力線、18b W相用中性線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数相のコイルをそれぞれ対応するティースに巻回する工程と、
スロット奥方向へのローレンツ力が作用されるような直流電流を前記各コイルに流しつつ、前記各コイルを固定する工程と、
前記各コイルの中性点同士を接合する工程と、
を備えることを特徴とする回転電機の固定子製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機の固定子製造方法において、
前記各直流電流は、前記各コイルに作用する前記各ローレンツ力が均一になるように、それぞれ定められることを特徴とする回転電機の固定子製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−90530(P2013−90530A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231582(P2011−231582)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】