説明

固体材料を分析する方法、および固体材料の分析に用いるサンプル

【課題】従来技術よりも精密かつ簡便に、コンタミネーションの影響や潮解性の影響、固体材料の飛散を防止することができる、複数の金属ハロゲン化物からなる固体材料を分析する方法、および固体材料の分析に用いるサンプルを提供することにある。
【解決手段】固体材料の分析に用いるサンプルにおいて、金属ハロゲン化物からなる固体材料と、前記固体材料を不活性雰囲気で満たされた内部に封入する第1容器と、前記第1容器を内部に封入する第2容器と、を備えることを特徴とするサンプル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の金属ハロゲン化物からなる固体材料の組成を分析する方法、およびその分析に用いるサンプルに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、競技場などの照明や、自動車のヘッドライトなどの光源として、高輝度放電ランプ(以下、「HIDランプ」ともいう。)が用いられている。HIDランプは、高寿命、高輝度、高効率など、多くの特性を有する。このHIDランプには、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、高圧ナトリウムランプ、キセノンランプなどがある。
【0003】
このうち、メタルハライドランプは、一般的な基本構造として、発光管および外管から構成されている。発光管は、石英ガラスやセラミックスから構成されており、その両端には電極が設けられている。発光管の内部には、発光材料である金属ハロゲン化物、水銀、不活性ガスが封入されている。
【0004】
メタルハライドランプは、金属ハロゲン化物と水銀の混合蒸気中のアーク放電によって生じる、金属元素の電子遷移による発光を利用している。こうした発光は、発光管に封入される金属ハロゲン化物の種類や成分比に応じて、調整することができる。そのため、メタルハライドランプは、他のHIDランプに比べて、設計自由度が高い。
【0005】
例えば、特許文献1では、数種類の金属ハロゲン化物を含む電離性封入物を収容したメタルハライドランプを開示している。また、特許文献2では、ヨウ化リチウムおよびヨウ化セシウムを含む金属ハロゲン化物を発光管に封入したメタルハライドランプを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−187744号公報
【特許文献2】特開2011−082085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、メタルハライドランプの発光管内に封入される発光材料(以下、「固体材料」ともいう。)は、使用目的に応じて、適宜選択される。メタルハライドランプの特性、例えば照射波長などは、固体材料に含まれる金属ハロゲン化物の成分に大きく依存する。したがって、メタルハライドランプを工業的に製造する上で、金属ハロゲン化物成分の量や組成を厳密に管理することが必要である。そのため、発光管内に封入する固体材料の成分を精密かつ簡便に分析することが求められている。
【0008】
しかしながら、こうした分析には、いくつかの問題がある。例えば、固体材料は、上記のように金属ハロゲン化物から構成されることから、潮解性を示すことが多い。通常の空気雰囲気下で、固体材料に含まれる金属ハロゲン化物を精密に分析するためには、このような潮解性を回避しなければならない。
【0009】
また、固体材料にアルカリ金属やアルカリ土類金属のハロゲン化物が含まれる場合、固体材料は大気中に含まれる砂塵や塵埃の混入(以下、「コンタミネーション」ともいう。)を受けやすい。そのため、アルカリ金属やアルカリ土類金属のハロゲン化物を含む固体材料の精密分析は測定環境に影響されやすく、測定データの信頼性は低い。
【0010】
さらに、一般的には、固体材料は数百μm〜数mm程度の微細形状をなす。そのため、分析をする際に、固体材料が分析系外へ飛散するなどの問題も挙げられる。こうした測定データは、固体材料に含まれる金属ハロゲン化物の成分を正確には反映していない可能性がある。
【0011】
本発明は、以上のような実情に鑑みてなされたものであり、従来技術よりも精密かつ簡便に、コンタミネーションや潮解性、飛散を防止することができる、金属ハロゲン化物からなる固体材料を分析する方法、およびそうした分析に用いるサンプルを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の側面は、固体材料の分析に用いるサンプルにおいて、金属ハロゲン化物からなる固体材料と、前記固体材料を不活性雰囲気で満たされた内部に封入する第1容器と、前記第1容器を内部に封入する第2容器と、を備えることを特徴とするサンプルである。
【0013】
本発明の第2の側面は、上記のサンプルにおいて、前記第1容器は、脆性材料であることを特徴とするサンプルである。
【0014】
本発明の第3の側面は、上記のサンプルにおいて、前記第1容器はガラス容器であり、前記第2容器はポリマー容器であることを特徴とするサンプルである。
【0015】
本発明の第4の側面は、固体材料を分析する方法において、前記固体材料を、請求項1〜4のいずれか1項に記載のサンプルから、取り出す工程1と、前記固体材料を溶解する工程2と、を有することを特徴とする固体材料を分析する方法である。
【0016】
本発明の第5の側面は、上記の固体材料を分析する方法において、前記工程1は、前記第1容器を、前記第2容器に封入された状態で、破断する工程3を有することを特徴とする固体材料を分析する方法である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の金属ハロゲン化物からなる固体材料の分析に用いるサンプルの一例を示す概要図である。
【図2】本発明の金属ハロゲン化物からなる固体材料を分析する方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0019】
図1は、本発明の金属ハロゲン化物からなる固体材料の分析に用いるサンプルの一例を示す概要図である。複数の金属ハロゲン化物からなる固体材料2は、内部が不活性雰囲気で満たされた第1容器3の内部に封入される。第1容器3は、第2容器4の内部に挿入される。つまり、本発明に係るサンプル1は、固体材料2が不活性雰囲気で満たされた第1容器3内に封入され、第1容器3は第2容器4内に封入される、二重構造の構成をなす。
【0020】
固体材料2は、金属元素とハロゲン元素との化合物である金属ハロゲン化物を数種類含む。特に、固体材料2は、金属元素とヨウ素(I)との化合物である金属ヨウ化物を数種類含む。固体材料2に含まれる複数の金属ハロゲン化物の含有量や組成は、一般的なメタルハライドランプに使用される発光管内の発光材料と同程度である。固体材料2は、数百μm〜数mm程度の微細形状をなす。
【0021】
第1容器3内の不活性雰囲気は、固体材料2に含まれる金属ハロゲン化物成分の潮解性を抑制できれば、特には限定されない。不活性雰囲気は、例えば、アルゴン、窒素、乾燥空気から選ばれる1種または2種以上のガスや、真空などの雰囲気が挙げられる。第1容器3内の雰囲気は、既知の方法により、作り出すことができる。
【0022】
第1容器3および第2容器4は、固体材料2と反応しない材料から構成される。その上で、第1容器3は、第2容器4内に封入された状態で、第2容器4を開封せずに、第1容器3のみを破断できる材料から構成される。第1容器3は、例えば、脆性材料であるガラス容器が挙げられる。第2容器4は、例えば、テフロン(登録商標)に代表されるフッ素樹脂などのポリマーから構成される容器が挙げられる。さらに、第1容器3の表面には、第1容器3を容易に破断させるための切り込みを予め入れておくことが好ましい。
【0023】
サンプル1の製造方法は次の通りである。不活性雰囲気中で、第1容器3と同じ材料からなる第1チューブの内部に固体材料2を入れ、第1チューブの端部を加熱し、固体材料2を溶封する。こうして、不活性雰囲気で満たされた内部に固体材料2を封入した第1容器3を作製する。次に、第2容器4と同じ材料からなる第2チューブの内部に、固体材料2を封入した第1容器3を入れる。第2チューブの端部を加熱し、第1容器3を溶封する。こうして、第1容器3を第2容器4に封入したサンプル1を作製する。サンプル1をこうした構成とすることによって、下記の固体材料2を分析する際に、サンプル1の操作性が向上する。サンプル1の操作性が向上するので、分析時の金属ハロゲン化物の潮解性の影響を防止することができる。さらには、固体材料2に含まれる金属ハロゲン化物のコンタミネーションの影響を防止することができる。
【0024】
図2は、本発明の金属ハロゲン化物からなる固体材料を分析する方法の一例を示す図である。はじめに、サンプル1の第1容器3のみを、第2容器4内に封入された状態で、破断する。次に、第2容器4を、第2容器4の端部付近を破り切るなどして、開封する。開封した第2容器4から、破断した第1容器3および固体材料2を、あらかじめ用意したビーカー5に投入する。また、第2容器4は、任意の大きさに切断した後、同様にビーカー5に投入する。こうして、第1容器3を第2容器4内に封入した状態で第1容器3のみを破断した後に、第2容器4を開封し、固体材料2をビーカー5に投入する。固体材料2を第1容器3および第2容器4内に封入する二重構造とすることで、第1容器を第2容器に封入せずに第1容器を破断して固体材料をビーカーに投入する場合に比べて、第1容器破断時の固体材料の分析系外への飛散を防止することができる。
【0025】
固体材料2、第1容器3、および第2容器4を投入したビーカーに固体材料2を溶解することができる溶媒を加え、固体材料2を溶解する。溶媒は、固体材料2に含まれる金属ヨウ化物などの金属ハロゲン化物を溶解できればよく、例えば水や硝酸などの酸性溶液が挙げられる。また、固体材料2の溶解時に、溶液を加熱してもよい。その後、固体材料2を溶解して得られた溶液を、吸引ろ過する。この一連の操作では、ビーカー内へのコンタミネーションを防ぐために、ビーカーの口をパラフィルム(登録商標)などで覆う。
【0026】
吸引ろ過で得られた溶液を、一般的な元素分析測定に用いられる誘導結合プラズマ(以下、「ICP」という。)発光分光分析装置や原子吸光分光光度計などで、複数の金属ハロゲン化物からなる固体材料中の金属ハロゲン化物の含有量や組成を分析する。こうして、固体材料2に含まれる複数の金属ハロゲン化物を、再現性よく、非常に簡易的に、精密分析することができる。
【実施例】
【0027】
以下に、具体的な実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらにより何ら制限されるものではない。
【0028】
[実施例]
<サンプルの作製>
アルゴンガス雰囲気内で、複数の金属ハロゲン化物からなる固体材料を、ガラス管(石英ガラス)に入れた。その後、ガラス管の端部を加熱し、ガラス管内に固体材料を溶封した。こうして、ガラス管を加工して、内部に固体材料を封入したガラス容器を作製した。このとき、ガラス容器の内部はアルゴンガスの不活性雰囲気で満たされていた。
【0029】
金属ヨウ化物などの金属ハロゲン化物からなる固体材料を封入したガラス容器の表面に、ガラス容器の長手方向と略垂直になるように、切断機で切り込みを入れた。この切り込みは、後述のガラス容器の破断を容易にする。
【0030】
次に、テフロンチューブ(PFAチューブ 10φmm×8φmm×12cm)の一端を、加熱して、シールした。一端をシールしたテフロンチューブ内に、上記のガラス容器を挿入した。その後、テフロンチューブが開口している他端を同様に加熱して、ガラス容器を溶封した。テフロンチューブを加工して、内部にガラス容器を封入したテフロン容器を作製した。こうして、本発明に係るサンプルを得た。
【0031】
<固体材料の分析方法>
上記作製したサンプルを用いて、以下のように、サンプル内の固体材料を分析した。なお、このとき、クリーンルームなどの清浄雰囲気下ではなく、通常の空気雰囲気下で分析を行った。テフロン容器内に封入された状態で、テフロン容器内のガラス容器のみを上記切り込みに沿って手の力で破断した。その後、セラミックハサミでテフロン容器の端部付近を破り切り、テフロン容器を開封した。開封したテフロン容器から、破断したガラス容器および固体材料を、ビーカー5に投入した。また、テフロン容器は、数cm程度に切断し、同様にビーカー5に投入した。
【0032】
固体材料、破断したガラス容器、および切断したテフロン容器を投入した石英ガラスビーカー内に、破断したガラス容器が水に浸漬する状態に至るまで、水を加えた。その後、パラフィルムで石英ガラスビーカーを覆い、数分〜十数分程度超音波処理を行った。超音波処理後の溶液に、硝酸を水と同程度加えた。テフロン製時計皿で石英ガラスビーカーを覆い、ホットプレートの温度を100℃に設定し、溶液を数十分程度加熱した。
【0033】
加熱後に放冷した後、溶液をメンブレンフィルターで吸引ろ過した。破断したガラス容器を石英ガラスビーカーに残し、水を石英ガラスビーカーに加え、破断したガラス容器が水に浸漬した状態で数十秒程度超音波処理を行った後、溶液をメンブレンフィルターで吸引ろ過した。この一連の操作を数回繰り返した。
【0034】
吸引ろ過で得られた溶液を用いて、ICP発光分光分析装置および原子吸光分光光度計で、複数の金属ハロゲン化物からなる固体材料中の金属ハロゲン化物の組成分析を行った。
【0035】
ICP発光分光分析装置では、溶液をアルゴンプラズマ中に噴霧し、溶液の発光強度を測定した。また、原子吸光分光光度計においては、溶液を空気−アセチレンフレーム中に噴霧し、溶液の吸光度を測定した。
【0036】
発光強度および吸光度の測定値から、標準添加法を用いて、固体材料に含まれる各種元素を分析し、固体材料中の金属ハロゲン化物の含有量を算出した。
【0037】
アルカリ金属ハロゲン化物であるヨウ化ナトリウム(NaI)を含む固体材料のナトリウム(Na)について回収率を調査したところ、Naの収率は100%±3%であった。一方で、第1容器を第2容器に封入しない場合、すなわち、本発明のサンプルを用いない場合においては、Naの収率は100%を大きく超え、110%〜120%の分析値もあった。
【0038】
本発明のサンプルを使用したことにより、特にコンタミネーションの著しいNaを含む場合であっても、クリーンルームなどの清浄雰囲気下だけでなく、通常の空気雰囲気下においても、コンタミネーションを防ぐことが可能であった。つまり、本実施例より、固体材料に含まれる金属ハロゲン化物の元素分析を、精密かつ簡便な方法で、再現性よく、測定できることを確認した。
【0039】
以上より、本発明に係る複数の金属ハロゲン化物からなる固体材料を分析する方法、および固体材料の分析に用いるサンプルは、従来技術よりも精密かつ簡便であり、コンタミネーションの影響や潮解性の影響、固体材料の飛散を防止できることを見出した。
【符号の説明】
【0040】
1 サンプル
2 固体材料
3 第1容器
4 第2容器
5 ビーカー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体材料の分析に用いるサンプルにおいて、
金属ハロゲン化物からなる固体材料と、
前記固体材料を不活性雰囲気で満たされた内部に封入する第1容器と、
前記第1容器を内部に封入する第2容器と、
を備えることを特徴とするサンプル。
【請求項2】
請求項1に記載のサンプルにおいて、
前記第1容器は、脆性材料であることを特徴とするサンプル。
【請求項3】
請求項1または2に記載のサンプルにおいて、
前記第1容器はガラス容器であり、前記第2容器はポリマー容器であることを特徴とするサンプル。
【請求項4】
固体材料を分析する方法において、
前記固体材料を、請求項1〜3のいずれか1項に記載のサンプルから、取り出す工程1と、
前記固体材料を溶解する工程2と、
を有することを特徴とする固体材料を分析する方法。
【請求項5】
請求項4に記載の固体材料を分析する方法において、
前記工程1は、
前記第1容器を、前記第2容器に封入された状態で、破断する工程3を有することを特徴とする固体材料を分析する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−72678(P2013−72678A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210376(P2011−210376)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000000192)岩崎電気株式会社 (533)
【Fターム(参考)】