説明

土壌改良剤の製造方法及び稲の生育方法

【課題】天然素材由来でミネラルが豊富な天然風化造礁サンゴ粒を含有し、植物及び農作物の発育の促進に優れた土壌改良剤の製造方法並びに稲の生育方法を提供する。
【解決手段】海中に堆積した粒状の風化造礁サンゴ粒を採取し、その粒状の風化造礁サンゴ粒を培土と混合して土壌改良剤を得る。また、その粒状の風化造礁サンゴ粒を土壌に混入して稲の生育を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌改良剤の製造方法及び稲の生育方法に関し、特に、天然物由来成分として天然風化造礁サンゴ粒を用いた土壌改良剤の製造方法及び稲の生育方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、植物や農作物等の発育を促進するために化学肥料が多く用いられている。しかし、これら化学肥料や酸性雨の影響で塩基性成分が土壌から流出する結果、土壌が酸性化し、植物等の発育が阻害されることがあった。
酸性化した土壌を中和する土壌改良剤としては、石灰・カキ殻がよく使用されるが、土壌が硬化するなど、土壌の通気性、保水性、保肥力性を低下させ、結果として、植物の発育を阻害することが多く、その調整には困難が伴っていた。
したがって、自然循環型の天然素材によって化学肥料を伴わず、植物及び農作物の発育を促進させる土壌改良剤が求められていた。
このような自然循環型の天然素材による化学肥料を伴わない土壌改良剤としては、サンゴの粒体を混合させた土壌改良剤が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−173466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の土壌改良剤に混合された、いわゆる「天然化石サンゴ」は、陸上に打ち上げられた化石サンゴである。このような化石サンゴは、生息していた環境から離れているだけでなく、長い間、酸性雨に晒されることで塩基性を呈するミネラルが流出している可能性が高い。
なお、このような化石サンゴでも、酸性化した土壌のpHを安定させる程度のミネラルは含まれているので、そのような用途で使用する限りにおいては問題ない。しかし、植物及び農作物の発育を促進するには、ミネラルの欠乏は明らかであり、改善の余地が多く残されている。
【0005】
特に、稲の生育においては、ミネラルと呼ばれるもののうち、いわゆる「肥料の三要素」と呼ばれる窒素、リン酸、カリウムの他、ケイ素、カルシウム、マグネシウムの微妙なバランスが作物の生育に大きな影響を与えており、これらが欠乏すると稲は栄養のバランスを崩して不健康な状態に陥るため、本来の生命力を低下し、農薬の散布を行わざるを得ない状況になりうる。
【0006】
また、陸上に打ち上げられた化石サンゴでは、サンゴが本来蓄積しているミネラルを無駄に流出させているので、結果として、天然資源として限りあるサンゴの有効利用が十分に果たされていない。
そこで、本発明は上記の問題点に着目してなされたものであり、その目的は、化学肥料の使用を抑え、微生物による循環を促進させる持続可能な農法、特に、ミネラルを豊富に含み、植物及び農作物の発育促進に優れた土壌改良剤の製造方法及び稲の生育方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための請求項1に係る発明は、海中に堆積した粒状の風化造礁サンゴ粒を採取する採取工程と、採取した前記風化造礁サンゴ粒を未焼成のまま、培土全質量に対して2〜5質量%の割合で混合して土壌改良剤を得る混合工程とを含むことを特徴としている。
請求項1に係る発明によれば、混合されるサンゴ粒体は、生息していた環境(海中)にあるものを用いているので、少なくとも、酸性雨によるミネラル分の過剰な流出はなく、サンゴ粒体に本来蓄えられたミネラルが欠損することなく保たれている。また、採取工程において採取されたサンゴ粒体を焼成していないので、含有物が変性していない。
したがって、ミネラルの欠乏を抑え、植物及び農作物の発育の促進に優れた土壌改良剤を提供することができる。
【0008】
また、請求項2に係る発明は、海中に堆積した粒状の風化造礁サンゴ粒を採取する採取工程と、採取した前記風化造礁サンゴ粒を未焼成のまま、培土全質量に対して2〜5質量%の割合で混合して混合体を得る混合工程と、該混合体の切り返しを行って、前記混合体を発酵させて土壌改良剤を得る発酵工程とを含むことを特徴としている。
【0009】
請求項2に係る発明によれば、混合されるサンゴ粒体は、生息していた環境(海中)にあるものを用いているので、少なくとも、酸性雨によるミネラル分の過剰な流出はなく、サンゴ粒体に本来蓄えられたミネラルが欠損することなく保たれている。また、採取工程において採取されたサンゴ粒体を焼成していないので、含有物が変性していない。さらに、前記混合体を発酵させているので、培土中の微生物がサンゴ粒体に蓄えられたミネラルを捕獲して、ミネラルの含有率を上げている。ここで、採取工程で採取された粒状の風化造礁サンゴ粒の含有率が2質量%未満であると、農作物等に供するミネラルが十分に含まれないこととなり、一方、5質量%を超えると、土壌中のミネラルバランスが崩れ、鉄、亜鉛、銅の吸収抑制や、害虫の多発生の要因となることがある。
したがって、ミネラルの欠乏を抑え、植物及び農作物の発育の促進に優れた土壌改良剤を提供することができる。
【0010】
また、請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の土壌改良剤の製造方法において、前記採取工程と前記混合工程との間に、海中から採取した前記風化造礁サンゴ粒を、2mm以下の平均粒径のサンゴ粒体が90%以上占有する粒度分布とする造粒工程を含むことを特徴としている。
請求項3に係る発明によれば、前記採取工程と前記混合工程との間に、海中から採取した前記風化造礁サンゴ粒を2mm以下の平均粒径のサンゴ粒体が90%以上占有する粒度分布とする造粒工程を含むことによって、前記混合工程において混合される前記風化造礁サンゴ粒の粒径を小さく、かつ均一にし、培土中の微生物との接触面積を増やすことで、ミネラルの含有率を効率的に上げた土壌改良剤を得ることができる。
【0011】
上記目的を達成するための請求項4に係る発明は、海中に堆積した粒状の風化造礁サンゴ粒を採取する採取工程と、採取された前記風化造礁サンゴ粒を2mm以下の平均粒径のサンゴ粒体が90%以上占有する粒度分布とする造粒工程と、前記サンゴ粒体を未焼成のまま、耕起前の土壌に混入する混入工程とを含むことを特徴としている。
請求項4に係る発明によれば、耕起前の土壌に混入されるサンゴ粒体は、生息していた環境(海中)にあるものを用いているので、少なくとも、酸性雨によるミネラルの過剰な流出はなく、サンゴ粒体に本来蓄えられたミネラルが欠損することなく保たれている。また、採取工程において採取されたサンゴ粒体を焼成していないので、含有物が変性していない。さらに、前記風化造礁サンゴ粒を2mm以下の平均粒径のサンゴ粒体が90%以上占有する粒度分布とする造粒工程を含むことによって、粒径が小さく、かつ均一とされてミネラルの含有率が効率的に上げられたサンゴ粒体を耕起前の土壌に混入することとなる。
したがって、化学肥料を伴わず、ミネラルを豊富に含み、発育の促進に優れた稲の生育方法を提供することができる。
【0012】
また、請求項5に係る発明は、海中に堆積した粒状の風化造礁サンゴ粒を採取する採取工程と、採取された前記風化造礁サンゴ粒を2mm以下の平均粒径のサンゴ粒体が90%以上占有する粒度となるように粉砕する造粒工程と、前記サンゴ粒体を未焼成のまま、培土全質量に対して2〜5質量%の割合で混合して、所定期間切り返しを行って発酵させて混合体を得る発酵工程と、前記混合体を耕起前の土壌に混入する混入工程とを含むことを特徴としている。
【0013】
請求項5に係る発明によれば、混合されるサンゴ粒体は、生息していた環境(海中)にあるものを用いているので、少なくとも、酸性雨によるミネラルの過剰な流出はなく、サンゴ粒体に本来蓄えられたミネラルが欠損することなく保たれている。また、採取工程において採取されたサンゴ粒体を焼成していないので、含有物が変性していない。また、前記風化造礁サンゴ粒を2mm以下の平均粒径のサンゴ粒体が90%以上占有する粒度分布とする造粒工程を含むことによって、粒径が小さく、かつ均一とされてミネラルの含有率が効率的に上げられる。さらに、前記混合体を発酵させているので、培土中の微生物がサンゴ粒体に蓄えられたミネラルを捕獲して、ミネラルの含有率を上げている。ここで、採取工程で採取された粒状の風化造礁サンゴ粒の含有率が2質量%未満であると、農作物等に供するミネラルが十分に含まれないこととなり、一方、5質量%を超えると、土壌中のミネラルバランスが崩れ、鉄、亜鉛、銅の吸収抑制や、害虫の多発生の要因となることがある。
したがって、化学肥料を伴わず、ミネラルの欠乏が抑えられた結果、ミネラルを豊富に含み、発育の促進に優れた稲の生育方法を提供することができる。
【0014】
また、請求項6に係る発明は、請求項4又は5に記載の稲の生育方法において、前記混入工程は、土壌面積15アールあたり80kgの割合で前記サンゴ粒体又は前記混合体を混入することを特徴としている。
請求項6に係る発明によれば、前記混入工程における前記サンゴ粒体又は前記混合体は、土壌面積15アールあたり80kgの割合で混入されることで、特にミネラルが豊富な稲が生育される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、海中に堆積した風化造礁サンゴ粒を未焼成のまま用いているので、化学肥料を伴わず、ミネラルを豊富に含み、植物及び農作物の発育の促進に優れた土壌改良剤の製造方法、並びに発育の促進に優れた稲の生育方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る土壌改良剤の製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【図2】本発明に係る土壌改良剤の製造方法の他の実施形態を示すフローチャートである。
【図3】本発明に係る稲の生育方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【図4】本発明に係る稲の生育方法の他の実施形態を示すフローチャートである。
【図5】本発明に係る稲の生育方法の実施例及び比較例を示すグラフである。
【図6】本発明に係る稲の生育方法の実施例及び比較例を示すグラフである。
【図7】本発明に係る稲の生育方法の実施例及び比較例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(土壌改良剤の製造方法)
以下、本発明に係る土壌改良剤の製造方法の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る土壌改良剤の製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。また、図2は、本発明に係る土壌改良剤の製造方法の他の実施形態を示すフローチャートである。
図1に示すように、本発明に係る土壌改良剤の製造方法は、採取工程(S1)と、混合工程(S2)とを少なくとも含む。
【0018】
採取工程(S1)は、海中に堆積した粒状の風化造礁サンゴ粒を採取する工程である。
ここで、採取工程において採取される風化造礁サンゴ粒の粒体(サンゴ粒体)は、海中に堆積した粒状の風化造礁サンゴ粒である。
造礁サンゴは、清く澄んだ塩分の濃い、温度の高い、浅い海を好んで着生し、生活条件が非常に限定されている。条件のよい着生場所さえあれば、南方地域の海中ではどこでも繁殖する。生時ポリプや共肉部の色は、赤、緑、紫、黄、燈、褐、茶などあらゆる鮮やかな色彩をしており、いわゆるサンゴの林を作っている。骨格はほとんど純白である。100mから水面までにしか生活できない造礁サンゴが、サンゴ礁では高い丘の上に隆起して聳え、また試錐の記録では、数百mの深部までも、サンゴ石灰岩からできている。
【0019】
近年、これら島礁のサンゴ石灰岩を掘り出し、山コーラルと称してカルシウム素材原料とする文献や製品が開示されているが、これは造礁サンゴを元にして生成過程を経ているものの、一旦地殻変動を受けて島礁を形成したものであり、それは石灰岩と認識すべきもので、明らかに鉱物と考えるべきものである。
風化造礁サンゴは一般に珊瑚泥と言われ、亜洋性の海底沈積物の一種で、サンゴ礁の分布する区域に限って認められる。これの生成は、サンゴ礁が波の作用で破壊されて生じた破砕物が周囲の海底に沈積したものである。これらは長年月の間に海流によって流され、その流される途中で水篩の原理によって分級されて特定の粒度のものが特定の場所に集合沈積する。細粒の泥状のものはサンゴ泥と称され、粗粒の砂状のものはサンゴ砂(コーラルサンド)と称される。つまり、粒度の細かいものほど海流によってより速く、かつ深い所に運ばれて沈積することになる。サンゴ砂は海浜から数百mの浅海に分布し、サンゴ泥の分布はそれより深く、所によっては3000m以上の深海にまで認められる。サンゴ泥の石灰分は、平均85%に達し、石灰質微生物の死殻を多量に含むほか、珪質微生物の死殻、泥土なども少量まじえる。これに対し、サンゴ砂は大部分がサンゴ礁成分と変わらず、それに同様に破砕された貝殻を一部に含む状態で沈積しており、これ以外に有孔虫の殻、石灰藻の石灰質なども含まれているが、主要成分はすべて炭酸石灰より成り立っている。
【0020】
[風化造礁サンゴ粒(サンゴ砂)の採取]
風化造礁サンゴ粒(サンゴ砂)は、主として刺胞動物門III綱花虫類3亜綱八放(八射)サンゴ類及び4亜綱六放(六射)サンゴ類によって形成されるサンゴ礁が、長年月の間に波の作用によって破砕されて生じた破砕物がさらに細かく破砕されて周囲の海底に沈積したものである。
採取の方法は、風化造礁サンゴ粒を砂利採取船が指定海域に投錨し、サンドポンプを用いて海底より吸い上げ、船上における篩網を通して一定粒度以下のものを採取し、粒度の粗いものはその場で海底に戻す方式を採用する。
【0021】
[風化造礁サンゴ粒(サンゴ砂)の加工]
採取が終わった採取船は港に帰港し、定められたヤードに堆積される。このヤードは四面が囲まれており、さらに篩別を行った後、塩分を完全に取り除くために洗浄を行う。洗浄を行った後に乾熱によって乾燥を行う。この風化造礁サンゴ粒(サンゴ砂)の乾燥方法としては、次の2つの方式が挙げられる。
【0022】
(1)未焼成風化造礁サンゴ粉
この乾燥方法は、原料(採取した風化造礁サンゴ粒)を焼成せずに殺菌を目的として温度120〜200℃で乾熱殺菌を行う方法である。風化造礁サンゴ粒は長年の間海底に堆積しており、かつ非常にポーラスな状態にあり、このポーラスな細かい空隙の中に水洗したとはいっても種々の細菌が残存している可能性があるからである。
【0023】
(2)焼成風化造礁サンゴ粉
この乾燥方法は、原料(採取した風化造礁サンゴ粒)を焼成して製品化を行う。通常有機物は250℃以上をもって燃焼する。したがって、焙焼温度を250℃以上〜600℃以下で焙焼する。これによって有機物は燃焼し灰となる。原料の主成分は炭酸カルシウムであるので、焙焼温度は600℃以下と指定することになる。これは、炭酸力ルシウムが温度600℃以上においては以下の反応を起こし分解するからである。
CaCO→CaO+CO
【0024】
ただし、600℃以上に焼成したものについては食品工場におけるpH調製剤としてのCaO(生石灰)及びCa(OH)(消石灰)としては使用できるが、これは工程中から除去または残存しないことが条件となる。
近年、カルシウム製剤の中に焙焼温度を上げCaO化した製品を活性化カルシウムと称し流通させている向きがあるが、直接このようなものを摂取すると生体粘膜に障害を与えるので注意する必要がある。
【0025】
このようにして得られたサンゴ粒体の成分は、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、リン、カリウム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ストロンチウム、モリブデン等の人体に必要なミネラルを豊富に含み、特に、カルシウムが34質量%以上、マグネシウムが1.5質量%以上含むものである。したがって、本発明に用いられるサンゴ粒体は、少なくとも、上記カルシウム及びマグネシウムの含有量を満たすサンゴ粒体であることが好ましい。
【0026】
また、混合工程(S2)は、前記サンゴ粒体を未焼成のまま、培土全質量に対して2〜5質量%の割合で混合して土壌改良剤を得る工程である。混合工程によって得られた混合体は、pHが6.5前後となるようにpH調整剤などを添加して調整される。
ここで、混合工程における培土全質量に対するサンゴ粒体の含有率が2質量%未満であると、農作物等に供するミネラルが十分に含まれないこととなり、一方、5質量%を超えると、土壌中のミネラルバランスが崩れ、鉄、亜鉛、銅の吸収抑制や、害虫の多発生の要因となることがある。
【0027】
また、前記培土としては、化学物質などで汚染されていない山土が挙げられ、堆肥を含むものであっても良く、サンゴと相性の良い微生物が吸着した珪藻土を含む土が好ましい。この珪藻土は、予め水槽などで、吸着した微生物を培養してからサンゴ粒体と混合するとより効果的である。これは、サンゴの堆肥を先に作り、良い条件の下で培養させてから他の材料と混ぜた方が、サンゴの利用に起因する微生物の増え方が早くなるからである。そして、その後、他の材料や山土に含まれる微生物やミネラルを含む栄養成分に触れたほうが、よりサンゴの特徴を出せる培養土になる。なぜなら、新たに加えた山土に含まれる微生物よりも何億年も前から存在し、サンゴと親和性がある微生物の方が厳しい環境や条件下でも働ける優れた能力を持っているからである。
【0028】
培土とサンゴ粒体との混合比(質量比)は、7:3〜9:1が好ましい。この他に堆肥を混合する場合には、培土と堆肥とサンゴ粒体との混合比(質量比)は、6:3:1が好ましい。なお、堆肥は、植物系の堆肥と動物系及び魚介類の堆肥との混合比(質量比)が、2:1であることが好ましく、動物系及び魚介類の堆肥が少ないものがより好ましい。植物系の堆肥とは、例えば、刈草、藁、米ぬか、落ち葉などであり、動物系の堆肥とは、例えば、ヤギ、鶏、牛の糞尿、骨、皮、内臓、ミミズのふんなどであり、魚介類の堆肥とは、例えば、魚の頭、骨、皮、内臓(アラ)などである。
【0029】
また、この混合工程では、低レベルの微量な放射線を発する鉱石が粉末状、又は粒状に加工されて混合されてもよい。このような鉱石としては、いわゆる「放射能泉」と呼ばれる温泉地域から産出され、低レベルの微量な放射線を発する花崗岩などが好ましい。いわゆる「放射能泉」と呼ばれる温泉地域としては、山梨県の増富温泉、鳥取県の三朝温泉、秋田県の玉川温泉、新潟県の村杉温泉などのラジウム泉が挙げられる。本発明者は、これらの地域から産出される低レベルの微量な放射線を発する花崗岩を粉末に加工したもののいわゆるホルミシス効果が前記混合工程でさらに発揮され、農作物などの生育に著しい向上があることをつきとめた。
【0030】
このようにして得られた土壌改良剤は、生息していた環境(海中)にあるものを用いているので、少なくとも、酸性雨によるミネラル分の過剰な流出はなく、サンゴ粒体に本来蓄えられたミネラル分が欠損することなく保たれている。また、採取工程において採取されたサンゴ粒体を焼成していないので、含有物が変性していない。したがって、ミネラル分の欠乏を抑え、植物及び農作物の発育の促進に優れた土壌改良剤を提供することができる。
【0031】
(他の実施形態)
また、本発明に係る土壌改良剤の製造方法の他の実施形態として、図2に示すように、採取工程(S1)が行われ、その後に混合工程(S2)が行われ、その後に発酵工程(S3)が行われてもよい。すなわち、上述のように、発酵工程をこの混合工程の後に行わない場合には、当該混合工程によって得られた混合体を土壌改良剤とする。一方、混合工程の後に発酵工程が行われた場合は、当該発酵工程を経て得られたものを土壌改良剤とする。
【0032】
ここで、発酵工程の詳細について説明する。
発酵工程としては、主に、「切り返し」が行われる。この「切り返し」は、前記混合体を移動させるなどしてかき混ぜて、好気性の微生物に酸素を供給して発酵を促進させることを目的とする作業である。
具体的には、前記混合工程において得られた混合体の水分調整を行った後、堆肥舎へ運搬する。初期段階として、まず、堆肥舎内の左右の一方の側に混合体を小山状態に形成し、野積みを行うか、堆肥舎内で2ヶ月間ほど放置する。堆肥舎は床下がコンクリートであり、床下がコンクリートでなければ、すぐに水分が地面に吸われてしまう。混合体の水分調整としては、一週間ほど雨に合わない状態で一旦野積みをし、堆肥舎内で放置することで、適正な水分量となる。但し、動物系の糞尿を混合する場合は、水分の排出が困難となるので、野積みをせず、堆肥舎内で混合する。
混合体は1m以上の高さに積む。これは分解熱の蓄積量が必要となるからである。よい発酵を進めるためには、適切な水分管理が重要である。適切な水分量の目安としては、堆肥の材料を手のひらにのせ、握りしめて水分がにじみ出てくるようでは水分が多過ぎる。堆肥の材料をずっと握りしめて、指をゆっくり拡げる。手のひらの上の土の塊にひび割れが少し入り、指で触れると塊がポロッとくずれ、バラバラと塊が壊れていく。このような状態の水分量が望ましい。
【0033】
1週間程が経過して、混合体中の微生物により発酵が始まると、混合体の温度が70〜80℃に上昇するので、最高温度から5〜10℃下がったことを契機として、堆肥舎内の左右の他方の側へ混合体を切り返す。切り返すことで、水蒸気が逃げ、徐々に水分も失われる。水分が減り過ぎるときは、発酵が緩やかになるので、水を打つ(調整しながら水をかける)。
【0034】
このとき、亜酸化窒素やメタンが発生するため、これらを吸引しないように注意を要する。切り返しを繰り返すことで、分解が進み、微生物のエサが少なくなっていく。分解する材料が減ることで少しずつ発酵温度が下がってくる。発酵温度が40℃以下になると、混合体は完熟(発酵完了)とみなすことができる。ここまでは4〜5ヶ月を要することが多いが、1年を要することもある。この間切り返しは、5〜6回であり、素材やその水分、腐熱の進み具合により10回程行ってもよい。発酵工程でも、混合体のpHが6.5前後となるようにpH調整剤などを添加して調整する。なお、本実施形態では、発酵工程において混合体のpHを調整しなくても、混合体を田畑に散布した後に、石灰などで土壌のpHを調整してもよい。田畑によって少しずつ異なった状況があるからである。
【0035】
従って、発酵工程においては、前記混合工程において堆肥が含まれている方が効率は高いが、目的としない雑菌の繁殖も伴うので、その量は目的に応じて適宜選択される。なお、この切り返しは、市販の切り返し機を用いてもよい。
このように、発酵工程を経て得られた土壌改良剤は、上述した実施形態と同様の効果を奏するだけでなく、前記混合体を発酵させているので、培土中の微生物がサンゴ粒体に蓄えられたミネラル分を捕獲して、ミネラル分の含有率を上げている。したがって、ミネラル分の欠乏を抑え、植物及び農作物の発育の促進に優れた土壌改良剤を提供することができる。
【0036】
さらに、前記採取工程と前記混合工程との間に、海中から採取した前記風化造礁サンゴ粒を、2mm以下の平均粒径のサンゴ粒体が90%以上占有する粒度となるように粉砕する造粒工程を含むことで、前記混合工程において混合される前記風化造礁サンゴ粒の粒径を小さくし、培土中の微生物との接触面積を増やすことで、効率よくミネラル分の含有率を上げた土壌改良剤を得ることができる。なお、この造粒工程は、この工程の結果として、2mm以下の平均粒径のサンゴ粒体が90%以上占有すればよい。従って、前記採取工程において、海中から採取した前記風化造礁サンゴ粒を粉砕せずに、篩で選別する工程としてもよい。
【0037】
(稲の生育方法)
以下、本発明に係る稲の生育方法の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図3は、本発明に係る稲の生育方法の一実施形態を示すフローチャートである。また、図4は、本発明に係る稲の生育方法の他の実施形態を示すフローチャートである。
図3に示すように、本発明に係る稲の生育方法は、採取工程(S11)と、造粒工程(S12)と、混入工程(S13)とを少なくとも含む。
採取工程(S11)は、海中に堆積した粒状の風化造礁サンゴ粒を採取する工程である。ここで、当該採取工程(S11)において採取される粒状の風化造礁サンゴ粒(サンゴ粒体)は、前述した土壌改良剤の製造方法の実施形態における採取工程(S1)で得られたサンゴ粒体と同様のものであるので、その説明を省略する。
【0038】
また、造粒工程(S12)は、前記採取工程で採取された前記風化造礁サンゴ粒を、2mm以下の平均粒径のサンゴ粒体が90%以上占有する粒度となるように粉砕する工程である。この平均粒径は、サンゴ粒体を粒度計や、粒度分布測定装置で計測した寸法である。
また、混入工程(S13)は、前記サンゴ粒体を未焼成のまま、耕起前の土壌に混入する工程である。
【0039】
ここで、上記造粒工程において粒径が整えられたサンゴ粒体を未焼成のまま土壌に混合するタイミングは、田圃に有機肥料を入れた後に、田圃に水を張る「水入れ」が行われるよりも前の時期であればよく、耕起(田起こし)の前である。
混入工程において混入されるサンゴ粒体は、例えば、土壌面積15アールあたり80kgの割合で混入されることが好ましい。
【0040】
(他の実施形態)
また、本発明に係る稲の生育方法の他の実施形態として、図4に示すように、採取工程(S11)が行われた後、混入工程(S12)の前に、混合工程(S13)及び発酵工程(S14)が行われてもよい。
混合工程(S13)及び発酵工程(S14)は、前述した土壌改良剤の製造方法の実施形態における混合工程(S2)及び発酵工程(S3)と同様のものであるので、その説明を省略する。
すなわち、本実施形態では、採取工程(S11)と、混合工程(S13)と、発酵工程(S14)とをこの順で行うことによって得られた混合体を、混入工程(S12)において、耕起前の土壌に混入する。
【0041】
このように、発酵工程を経て得られた混合体(土壌改良剤)を用いて生育された稲は、上述した実施形態と同様の効果を奏するだけでなく、培土中の微生物がサンゴ粒体に蓄えられたミネラル分を捕獲して、ミネラル分の含有率を上げている。したがって、化学肥料を伴わず、ミネラルの欠乏が抑えられた結果、ミネラルを豊富に含み、発育の促進に優れた稲の生育方法を提供することができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明に係る稲の生育方法の実施例について、表及び図面を参照して詳細に説明する。
まず、サンゴ粒体として、(商品名「さんご緑源」,コーラルバイオ株式会社製)を計量し、隣接する2畝の田圃(各5アール)のうち、一方の耕起前の田圃A(土壌)にサンゴ粒体を80kg/15アールの割合で均一に混入(散布)した。なお、他方の田圃B(土壌)にはサンゴ粒体を混入しなかった。
【0043】
ここで、使用したサンゴ粒体(商品名「さんご緑源」,コーラルバイオ株式会社製)は、海中に堆積した粒状の風化造礁サンゴ粒を採取し、採取された前記風化造礁サンゴ粒を2mm以下の平均粒径のサンゴ粒体が90%以上占有する粒度分布とした製品である。従って、このサンゴ粒体は、採取工程と造粒工程とを経たサンゴ粒体であると同定できる。
その後、刈り入れを終えた後に、サンゴ粒体を混入した田圃Aの土壌(土壌A)、及びサンゴ粒体を混入しなかった田圃Bの土壌(土壌B)のそれぞれから採取したサンプルについて、土壌分析を行った。試験機関(十勝農業協同組合連合会 農産化学研究所)による土壌分析結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
その後、試験対象とする上記2畝の田圃に水入れ、田植えを行い、稲が実った収穫後に、試験対象とする2畝の田圃のうち、サンゴ粒体を80kg/15アールの割合で耕起前に混入した田圃A及びサンゴ粒体を混入しなかった田圃Bのそれぞれからサンプルを採取して検証した。
表2〜6は、実施例として、田圃Aの約2m×2m角から無作為に収穫したコシヒカリ有機栽培米5株(A〜A)をサンプルとして、「小穂毎の長さ」、「小穂毎のもみ重量」、「小穂毎ののげ数」、「一次枝梗数」、及び「もみ粒数」を測定した表である。また、表7〜11は、比較例として田圃Bの約2m×2m角から無作為に収穫したコシヒカリ有機栽培米5株(B〜B)をサンプルとして、「小穂毎の長さ」、「小穂毎のもみ重量」、「小穂毎ののげ数」、「一次枝梗数」、及び「もみ粒数」を測定した表である。また、表2〜11の「穂数」、「稲穂長」、「稲穂重量」、「のげ数」、「小穂数」、及び「小穂のもみ粒数」の集計結果を表12に示す。
【0046】
ここで、本実施例における用語として、「株」、「稲穂」、「小穂群」、「もみ(籾)」、及び「のげ」は、以下を意味する。
「株」:分けつした茎のひと固まりを指すものであり、1株に複数の稲穂がつく。
「稲穂」:1つの茎についている稲の穂を指し、穂軸を中心にいくつかの小穂で構成される。
「小穂群」:穂軸から稲穂を構成する枝分かれした、一次・二次籾枝梗の小さい房の単位を指す。
「もみ(籾)」:もみ殻に包まれた状態の一粒の米を指す。
「のげ」:もみ殻についているひげ状の毛を指す。
【0047】
また、表2〜12における「小穂毎の長さ」、「小穂毎のもみ重量」、「小穂毎ののげ数」、「一次枝梗数」、及び「もみ粒数」は、以下を意味する。
「小穂毎の長さ」:もみのついている一番元の部分から最先端までの長さ
「小穂毎のもみ重量」:もみのついている一番元の節から1cm下部分で切ったときの重量
「小穂毎ののげ数」:先端にのげがついているものの数
「一次枝梗数」:稲穂あたりの一次枝梗数
「もみ粒数」:一次枝梗ごとのもみ粒数
【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
【表5】

【0052】
【表6】

【0053】
【表7】

【0054】
【表8】

【0055】
【表9】

【0056】
【表10】

【0057】
【表11】

【0058】
【表12】

【0059】
また、図5〜7は、実施例(A〜A)及び比較例(B〜B)の小穂の数と、小穂の長さ、もみ重量、及びのげ数との関係をグラフにしたものである。
以上の結果(表2〜12及び図5〜7)より、海中に堆積した粒状の風化造礁サンゴ粒を未焼成のまま、土壌に混入して育成した稲は、下記(1)〜(6)の様な考察がされた。
(1)稲穂全体の長さが伸びているが、これは穂軸だけでなく、各一次枝梗が伸びたため上部の一次枝梗の長さが反映されていると考えられる。
(2)一次枝梗数自体の差はほとんどない。(ここでは実施例によって生育された米が3%増加)
【0060】
(3)実施例によって生育された米の一次枝梗の籾数が明らかに増加している(22%増)。そのため、稲穂全体の籾数も22%増となっている。
(4)実施例によって生育された米の稲穂の重量は、比較例によって生育された米の稲穂の重量の約20%増であった。
(5)実施例の稲穂の太さが、比較例の稲穂の太さの約1.7倍程度あり、マグネシウムが多くクロロフィルが含まれていることが予想されるような青々とした色を呈している。
(6)実施例によって生育された米の方が稲穂の数が多かった。
【0061】
すなわち、海中に堆積した粒状の風化造礁サンゴ粒を未焼成のまま、土壌に混入した水田においては、他条件が同じ環境においても、一次枝梗数も籾の重量にも大きな変化は見られないが、一つの一次枝梗に付く籾数が20%以上増えることにより、一つの稲株の収量を増やしていることが推察された(収穫量が6%増であることが「豊作」の最低ラインといわれている。)。
【0062】
また、本発明によって、稲穂数も20%増加しているが、仮に分けつが増え、稲穂数も増えているとするならば、「一次枝梗あたり籾数の増加」と「稲穂数の増加」の相乗効果で、稲の収量が20%〜47%に飛躍的に上がることが示唆される。
以上、本発明について説明してきたが、本発明はこれに限定されずに、種々の変更、改良を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の稲の生育方法は、稲の生育方法に限られず、その他の農作物の生育にも好適に用いられる。
また、本発明によって製造された土壌改良剤によって効果的に生育できる他の農作物としては、例えば、プチヴェールが挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海中に堆積した粒状の風化造礁サンゴ粒を採取する採取工程と、採取した前記風化造礁サンゴ粒を未焼成のまま、培土全質量に対して2〜5質量%の割合で混合して土壌改良剤を得る混合工程とを含むことを特徴とする土壌改良剤の製造方法。
【請求項2】
海中に堆積した粒状の風化造礁サンゴ粒を採取する採取工程と、採取した前記風化造礁サンゴ粒を未焼成のまま、培土全質量に対して2〜5質量%の割合で混合して混合体を得る混合工程と、該混合体の切り返しを行って、前記混合体を発酵させて土壌改良剤を得る発酵工程とを含むことを特徴とする土壌改良剤の製造方法。
【請求項3】
前記採取工程と前記混合工程との間に、海中から採取した前記風化造礁サンゴ粒を2mm以下の平均粒径のサンゴ粒体が90%以上占有する粒度分布とする造粒工程を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の土壌改良剤の製造方法。
【請求項4】
海中に堆積した粒状の風化造礁サンゴ粒を採取する採取工程と、採取された前記風化造礁サンゴ粒を2mm以下の平均粒径のサンゴ粒体が90%以上占有する粒度分布とする造粒工程と、前記サンゴ粒体を未焼成のまま、耕起前の土壌に混入する混入工程とを含むことを特徴とする稲の生育方法。
【請求項5】
海中に堆積した粒状の風化造礁サンゴ粒を採取する採取工程と、採取された前記風化造礁サンゴ粒を2mm以下の平均粒径のサンゴ粒体が90%以上占有する粒度分布とする造粒工程と、前記サンゴ粒体を未焼成のまま、培土全質量に対して2〜5質量%の割合で混合して、所定期間切り返しを行って発酵させて混合体を得る発酵工程と、前記混合体を耕起前の土壌に混入する混入工程とを含むことを特徴とする稲の生育方法。
【請求項6】
前記混入工程は、土壌面積15アールあたり80kgの割合で前記サンゴ粒体又は前記混合体を混入することを特徴とする請求項4又は5に記載の稲の生育方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−246645(P2011−246645A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123121(P2010−123121)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(510150204)沖縄サンゴ株式会社 (1)
【出願人】(510150215)
【Fターム(参考)】