説明

圧力開放装置およびそれを用いた蓋の製造方法

【課題】ますの点検筒等に取り付けられる圧力開放可能な蓋の地表面からの突出量を抑えつつ、急激な圧力上昇時にその圧力を迅速に開放することを可能とする。
【解決手段】蓋体20と共に圧力開放可能な蓋10を構成する圧力開放装置25である。圧力開放装置25は、装置本体30と弁体40とを備える。装置本体30は、貫通孔21に挿入される外側筒状部31と、内側筒状部32と、外側筒状部31と内側筒状部32との間に架け渡された架け渡し部33と、外側筒状部31の上部から半径方向外向きに延び、蓋体20の上面に載置される環状体34とを有する。弁体40は、内側筒状部32に摺動自在に挿入された軸部41と、軸部41の上部から半径方向外向きに延び、少なくとも空気通路35の上方を覆う蓋部42とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に埋設されたますの点検筒等に被せられる圧力開放可能な蓋の一部を構成する圧力開放装置、およびそれを用いた蓋の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、宅地内の排水設備と宅地外の排水本管とをつなぐ管路において、いわゆる二重トラップが誤って形成されてしまう場合がある。二重トラップが形成されてしまうと、上流側の封水と下流側の封水との間に空気が密封される。このような状態では、管路の下流側の圧力が高まると、密封された空気の圧力が高くなり、上流側の封水は上記空気によって上流側に押し込まれる。その結果、上流側の封水が逆流し、排水設備から飛散してしまうおそれがある。
【0003】
そこで、管路に配置されたますの点検筒の蓋として、管路内の圧力を外部に開放可能な蓋を用いることが提案されている(例えば、特許文献1および2参照)。
【0004】
特許文献1に開示された空気抜き装置は、中心部に孔が形成された蓋体と、この蓋体の上面に接着された空気抜き体とを備えている。空気抜き体は、偏平状の本体部と、この本体部の中心部から下方に延びる空気通路管部とを有している。本体部の内部には、本体部の中心部から半径方向外向きに延びる一対の空気通路部が形成されている。この空気通路部は空気通路管部の内部と連通している。
【0005】
特許文献2に開示された掃除口の蓋は、左右一対の孔が形成された本体部材と、それらの孔に挿入された連通管と、連通管の上方を覆うカバー部材とを備えている。カバー部材の下面と本体部材の上面との間には、連通管の上側開口から本体部材の半径方向外向きに延びる一対の空気通路が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平09−328793号公報
【特許文献2】特開平11−172749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の空気抜き装置は、地中から地表面の近傍にまで延びる点検筒の上側に嵌め込まれるものであり、地表面から上方に突出した状態で設置される。突出量を抑えるために、上記空気抜き体は偏平状に形成されている。そのため、空気抜き体の内部に形成された空気通路部は上下幅が非常に小さく、空気通路部の流路断面積は小さくなっている。したがって、管路内の圧力が一時的に急激に上昇した場合、その圧力を瞬時に開放することは難しい。近年、局地的な集中豪雨が問題となることが多い。例えば合流式下水道において、集中豪雨によって大量の雨水が管路内に一気に流入すると、管路内の空気の圧力は一時的に急上昇してしまう。しかし、特許文献1の空気抜き装置では、そのような場合に管路内の圧力を瞬時に開放することができず、封水が逆流して宅地内の排水設備から飛散するおそれがあった。特許文献2の掃除口の蓋においても同様である。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、地表面からの突出量を抑えつつ、急激な圧力上昇時にその圧力を迅速に開放することのできる圧力開放蓋を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る圧力開放装置は、中心に貫通孔が形成された蓋体に取り付けられ、前記蓋体と共に圧力開放可能な蓋を構成する圧力開放装置である。この圧力開放装置は、前記蓋体に固定される装置本体と、弁体とを備えている。前記装置本体は、前記蓋体の前記貫通孔に挿入される外側筒状部と、前記外側筒状部の内側に設けられた内側筒状部と、前記外側筒状部と前記内側筒状部との間に空気通路を区画するように前記外側筒状部と前記内側筒状部との間に架け渡された架け渡し部と、前記外側筒状部の上部から半径方向外向きに延び、前記蓋体の上面に載置される環状体とを有している。前記弁体は、前記内側筒状部に摺動自在に挿入された軸部と、前記軸部の上部から半径方向外向きに延び、少なくとも前記空気通路の上方を覆う蓋部とを有している。
【0010】
上記圧力開放装置は、上記蓋体と共に圧力開放蓋を構成する。なお、圧力開放蓋とは、圧力を開放可能な蓋のことである。この蓋は、例えば、管路に設置されたますの点検筒等に嵌め込まれる。管路内の圧力が高まると、弁体は当該圧力を受けて浮き上がる。この際、管路内の空気は、装置本体の内側筒状部と外側筒状部との間に区画された空気通路を上方に通過し、更に、装置本体の環状体と弁体の蓋部との間を半径方向外向きに通過し、外部に放出される。管路内の圧力上昇が小さい場合または緩やかな場合には、弁体の浮上量は小さく、環状体と蓋部との間に形成される空気通路の流路断面積は比較的小さくなる。一方、管路内の圧力上昇が急激且つ大きな場合には、弁体の浮上量は大きくなり、環状体と蓋部との間に形成される空気通路の流路断面積は比較的大きくなる。そのため、上記圧力開放装置によれば、急激な圧力上昇時にその圧力を迅速に開放することができる。一方、急激な圧力上昇時以外では、弁体が上方に大きく突出することはないので、地表面からの突出量を少なく抑えることができる。
【0011】
前記蓋体の前記貫通孔は円孔であり、前記外側筒状部は円筒形状に形成されていてもよい。この場合、前記装置本体には、前記蓋体に対する前記装置本体の回転を防止する回転防止手段が設けられていることが好ましい。
【0012】
円孔は回転式の切削工具(例えば電動ドリル等)で容易に形成することができる。そのため、例えば、施工現場において、既設の密閉式の蓋に切削工具で貫通孔を形成することによって蓋体を構成し、上記圧力開放装置を用いて圧力開放蓋を容易に製作することができる。ただし、外側筒状部が円筒形状であると、装置本体に外部から大きな力が加わると、装置本体が蓋体に対して回転してしまうおそれがある。しかし、上記回転防止手段を設けることとすれば、装置本体の回転を防止することができる。
【0013】
前記回転防止手段は、前記蓋体に設けられた凹部に嵌め込まれる凸部または前記蓋体に設けられた凸部に嵌め込まれる凹部からなっていてもよい。
【0014】
このことにより、回転防止手段を比較的簡単な構成によって実現することができる。
【0015】
前記弁体の前記軸部の断面形状は、非真円形状に形成されていてもよい。
【0016】
このことにより、装置本体に対する弁体の回転が防止される。
【0017】
前記装置本体の前記外側筒状部の下部には、前記蓋体の前記貫通孔の内径よりも大きな外径を有する環状のストッパが固定されていてもよい。
【0018】
このことにより、装置本体が蓋体に対して上方に抜けてしまうことが防止される。
【0019】
前記環状体の上面には、当該上面の外周端部よりも高い内周部が設けられていてもよい。
【0020】
このことにより、弁体が開いているときに環状体の上面上に異物が侵入したとしても、その異物が上記内周部を乗り越えて管路内に入り込むことは抑制される。
【0021】
前記軸部の下部には、前記軸部の中心からの半径方向の長さが前記内側筒状部の孔の半径よりも大きなストッパが設けられていてもよい。
【0022】
このことにより、弁体が装置本体に対して上方に抜けてしまうことが防止される。
【0023】
前記圧力開放装置は、前記環状体の上面と前記蓋部の下面との間に、前記軸部の周りに周回状に配置されたシール部材を備えていてもよい。
【0024】
このことにより、弁体が閉じているときに、環状体と蓋部との間から臭気が外部に漏れることが防止される。
【0025】
前記環状体の上面または前記蓋部の下面には、前記シール部材が嵌め込まれる溝が形成され、前記シール部材の前記溝と反対側の部分には、前記溝と反対側の方に向かって展開可能に折り畳まれた弾性片が形成されていてもよい。
【0026】
このことにより、弁体が閉じられると、シール部材の弾性片が折り畳まれる。シール部材の弾性片は、展開する方向に常に弾性力を受けているので、環状体の上面または蓋部の下面とシール部材との密着性が向上する。したがって、環状体と蓋部との間から臭気が外部に漏れることは、より確実に防止される。
【0027】
本発明に係る蓋の製造方法は、前記圧力開放装置を用いて圧力開放可能な蓋を製造する方法である。本製造方法は、ますの点検筒に嵌め込まれた既設の蓋を取り外す工程と、前記蓋の中心に貫通孔を形成することによって蓋体を製作する工程と、前記貫通孔に前記圧力開放装置の前記外側筒状部を挿入し、前記装置本体を前記蓋体に接着する工程と、を備えている。
【0028】
上記製造方法によれば、既設の蓋を流用して、前述の作用効果を奏する圧力開放蓋を製造することができる。ところで、既設の点検筒に圧力開放蓋を設ける方法として、予め工場等にて所定寸法の圧力開放蓋を製造しておき、その圧力開放蓋を既設の蓋と交換する方法が考えられる。しかし、既設の蓋の寸法は様々である。そのような方法では、予め準備しておいた圧力開放蓋の寸法と既設の蓋の寸法とが一致しなければ、既設の蓋を圧力開放蓋に交換することはできない。また、そのような事態を避けるためには、寸法の異なる数多くの圧力開放蓋を施工現場に運搬しなければならず、施工業者の負担が大きい。これに対し、上記製造方法によれば、装置本体の外側筒状部が挿入できる程度の大きさの貫通孔が形成可能である限り、既設の蓋の大きさは特に限定されない。そのため、施工業者は、一種類または数種類の圧力開放装置を現場に運搬するだけで、任意の寸法の既設の点検筒に圧力開放蓋を設けることが可能となる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、地表面からの突出量を抑えつつ、急激な圧力上昇時にその圧力を迅速に開放することのできる圧力開放蓋を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】管路の構成図である。
【図2】実施形態1に係る圧力開放蓋の閉鎖状態の断面図である。
【図3】実施形態1に係る圧力開放蓋の開放状態の断面図である。
【図4】圧力開放装置の一部および蓋体の分解斜視図である。
【図5】実施形態1に係る圧力開放装置の平面図である。
【図6】実施形態1に係る圧力開放装置の側面図である。
【図7】実施形態1に係る圧力開放装置の裏面図である。
【図8】図7のVIII−VIII線断面図である。
【図9】ゴムリングの断面図である。
【図10】実施形態2に係る圧力開放装置の装置本体の平面図である。
【図11】実施形態3に係る圧力開放装置の断面図である。
【図12】実施形態4に係る圧力開放装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
<実施形態1>
図1は、宅地内の排水設備1と宅地外の排水本管2とをつなぐ管路3を示す図である。排水設備1の種類は何ら限定されないが、排水設備1の例として、例えばトイレ、洗面台、風呂等が挙げられる。排水設備1から排出される水は、いわゆる汚水として、管路3を通じて排水本管2に排出される。図示は省略するが、管路3の排水設備1側にはU字状のトラップが形成されている。本実施形態では、排水本管2はいわゆる合流式下水道であり、排水本管2には雨水と汚水とが一緒になって流れる。
【0032】
管路3には、ます5が設けられている。ます5の上部には点検筒6が接続されている。点検筒6は地中から地表に延びている。点検筒6の上部には、圧力開放蓋10が嵌め込まれている。
【0033】
図2は圧力開放蓋10の断面図である。圧力開放蓋10は、点検筒6の枠6aに嵌め込まれる。なお、点検筒6において、枠6aは必ずしも必要ではない。圧力開放蓋10は、枠6aのない点検筒6に嵌め込まれるものであってもよい。圧力開放蓋10は、蓋体20と、蓋体20に取り付けられた圧力開放装置25とからなっている。後述するように、蓋体20は、既設の密閉式の蓋の中心に貫通孔21を形成することによって製作されている。圧力開放装置25は、蓋体20と共に圧力開放蓋10を構成するものである。圧力開放装置25は、装置本体30と、弁体40と、ストッパ50とを備えている。
【0034】
装置本体30は、蓋体20に固定され、弁体40の弁座を構成するものである。装置本体30は、蓋体20の貫通孔21に挿入される外側筒状部31と、外側筒状部31の内側に設けられた内側筒状部32と、外側筒状部31と内側筒状部32との間に架け渡された架け渡し部33と、外側筒状部31の上部から半径方向外向きに延びる環状体34と、を備えている。外側筒状部31および内側筒状部32は、いずれも円筒状に形成されている。外側筒状部31の長さは、蓋体20の厚みよりも大きくなっている。架け渡し部33は、半径方向に延びる板状体からなっており、放射状に延びている(図7参照)。本実施形態では、円周方向に90度毎に配置された合計4つの架け渡し部33が設けられている。ただし、架け渡し部33の個数は4つに限定される訳ではない。隣り合う架け渡し部33の間には、上下方向に延びる空気通路35が形成されている。空気通路35は、外側筒状部31と内側筒状部32との間に区画されている。環状体34の下面34bは、蓋体20の上面20aに載置される。ここでは、環状体34の下面34bは水平面となっている。一方、環状体34の上面34aは、半径方向の外側に行くほど下がるように傾斜している。
【0035】
環状体34の下面34bと蓋体20の上面20aとは面接触しており、接着されている。また、外側筒状部31の外周面と蓋体20の貫通孔21の内周面とは、接着されている。接着剤としては、従来から周知の各種接着剤を利用することができるが、蓋体20に対する圧力開放装置25の回転を防止する観点から、粘度の高い接着剤が特に好ましい。外側筒状部31、内側筒状部32、架け渡し部33、および環状体34は、塩化ビニル等の樹脂により一体成型されている。ただし、それらの一部が別体に形成され、接着剤等を用いて事後的に組み立てられていてもよい。
【0036】
弁体40は、内側筒状部32に摺動自在に挿入された軸部41と、軸部41の上部から半径方向外向きに延びる蓋部42とを備えている。軸部41は円柱状に形成されている。ただし、軸部41は内側筒状部32に摺動自在に挿入されていれば足り、その形状は円柱状に限定されない。例えば、軸部41は筒状に形成されていてもよい。軸部41の外径は内側筒状部32の内径と略等しい。蓋部42は空気通路35を上方から覆う部材であり、環状体34とほぼ同程度の半径を有している。ただし、蓋部42は少なくとも外側筒状部31の上方を覆っていればよく、蓋部42の半径は環状体34の半径よりも小さくてもよい。蓋部42の上面には凹凸が形成されているが(図5および図6参照)、蓋部42の中心部(詳しくは、外側筒状部31の上方に位置する部分)の上面および下面は略水平方向に延び、蓋部42の外周部(言い換えると、中心部よりも外側に位置する部分)の上面および下面は、半径方向の外側に行くほど下がるように傾斜している。蓋部42が環状体34の上に載っているときに蓋部42と環状体34との間に隙間が形成されないように、蓋部42の外周部の下面は、環状体34の上面に合った形状に形成されている。
【0037】
環状体34の上面には、軸部41の中心と同心円状の溝34cが形成されている。この溝34cには、シール部材として、略環状のゴムリング36が嵌め込まれている。ゴムリング36は、蓋部42の下面と環状体34の上面との間から、管路3内の臭気が外部に漏れることを防ぐ役割を果たす。ゴムリング36の断面形状は円形、四角形等であってもよいが、本実施形態では図9に示すように、ゴムリング36は、断面が略台形状の本体部36aと、本体部36aの内周端から半径方向外向き且つ上方に延びる弾性片36bとを有している。弁体40が装置本体30の上に載っているときには、弾性片36bは弁体40によって上方から押さえつけられ、下方に折り畳まれる。一方、弁体40が浮上すると、弾性片36bは自らの弾性力により上方に向かって展開する。
【0038】
軸部41の下部には、環状のストッパ43が固定されている。ストッパ43の外径は内側筒状部32の内径よりも大きい。このストッパ43により、弁体40が装置本体30から上方に抜けてしまうことが防止される。管路3内の圧力を受けて弁体40が浮上すると、蓋部42と環状体34との間に空気通路38(図3参照)が形成される。軸部41の長さおよびストッパ43の固定位置は、弁体40が最も高い位置にまで浮上したときに空気通路38の最小流路断面積(詳しくは、外側筒状部31の上端面と蓋部42の下面との間に形成される流路の断面積)が空気通路35の総流路断面積よりも大きくなるように設定されている。
【0039】
図4に示すように、蓋体20の上側には凹部22が形成されている。装置本体30の環状体34の下側には、凸部37が設けられている。環状体34が蓋体20の上に固定された際に、凸部37は凹部22に嵌り込む。これにより、蓋体20に対する装置本体30の回転が防止される。なお、凸部37は環状体34と別体に形成され、互いに組み立てられていてもよいが、本実施形態では凸部37と環状体34との接続強度を高めるために、凸部37は環状体34と一体成型されている。凸部37の形状は特に限定されず、円柱状以外の形状であってもよい。また、凹部22は窪みに限らず、貫通孔であってもよい。凸部37および凹部22の位置も特に限定されない。本実施形態のように凹部22は貫通孔21から離れていてもよいが、貫通孔21と連続していてもよい。その場合、凸部37は、環状体34から下方に突出すると共に、外側筒状部31から半径方向外向きに突出することになる。本実施形態では凹部22は蓋体20に形成され、凸部37は環状体34に設けられている。しかし、凹部22が環状体34に形成され、凸部37が蓋体20に設けられていてもよい。凸部37および凹部22は、1組に限らず、2組以上設けられていてもよい。
【0040】
外側筒状部31の下部の外周には、螺旋溝31aが形成されている。ストッパ50は、螺旋溝50aが形成された内周面を有する環状部材からなっている。ストッパ50を外側筒状部31の下部に嵌めて回転させると、ストッパ50は環状体34側に移動する。これにより、蓋体20は装置本体30とストッパ50との間に挟まれ、蓋体20と圧力開放装置25とがしっかりと固定される。また、ストッパ50により、圧力開放装置25が上方に抜けてしまうことが防止される。
【0041】
次に、圧力開放蓋10の製造方法について説明する。前述したように、圧力開放蓋10は、貫通孔21が形成された蓋体20と、圧力開放装置25とを互いに組み立てることによって製造される。圧力開放蓋10は、予め工場等で製造され、完成された状態で施工現場に運搬するようにしてもよい。ただし、圧力開放蓋10は既設の密閉式の蓋を利用して、施工現場にて製造することも可能である。以下に説明する圧力開放蓋10の製造方法は、既設の蓋を利用する方法である。
【0042】
本製造方法では、予め工場等で製造された圧力開放装置25を施工現場に運搬する。図5は圧力開放装置25の平面図、図6は圧力開放装置25の側面図、図7は圧力開放装置25の裏面図、図8は図7のVIII−VIII線断面図である。なお、図7では、ストッパ43の図示は省略している。
【0043】
まず、予め点検筒6に嵌め込まれていた密閉式の蓋(言い換えると、孔が空いていない蓋)を点検筒6から取り外す。次に、電動ドリル等の切削工具を用いて、上記蓋の中心に貫通孔21を形成する。また、切削工具を用いて、上記蓋の上面に凹部22(図4参照)を形成する。これにより、既設の蓋から蓋体20が製作される。次に、蓋体20の上面および貫通孔21の内周面に接着剤を塗布し、外側筒状部31を貫通孔21に挿入すると共に、環状体34の凸部37を凹部22に嵌め込み、装置本体30を蓋体20に組み合わせる。次に、外側筒状部31に下方からストッパ50をねじ込む。これにより、圧力開放装置25が蓋体20に組み立てられ、圧力開放蓋10が完成する。その後は、圧力開放蓋10を点検筒6に嵌め込む。以上のようにして、既設の管路3の点検筒6に、圧力開放蓋10を事後的に設けることができる。
【0044】
次に、圧力開放蓋10の機能を説明する。管路3内の圧力が高くない場合、すなわち通常時には、弁体40は自重により装置本体30の上に載っている。これにより、圧力開放蓋1は閉じた状態となり、管路3内から外部に臭気が漏れ出ることが防止される。
【0045】
管路3内の圧力が高くなった場合、すなわち圧力上昇時には、図3に示すように、弁体40は上記圧力を受けて浮上する。これにより、圧力開放蓋10は開いた状態となり、蓋部42と環状体34との間に空気通路38が形成される。空気通路38は、軸部41を中心とした全周囲にわたって形成される。管路3内の空気は、空気通路35および空気通路38を通じて、外部に排出される。その結果、管路3内の圧力が低下する。管路3内の圧力が低下すると、弁体40を上向きに押す力が弁体40の自重よりも小さくなり、弁体40は降下し、再び装置本体30の上に載る。これにより、圧力開放蓋1は再び閉じた状態となる。
【0046】
管路3内の圧力上昇の程度が小さいときには、弁体40の浮上量は比較的小さく、空気通路38の流路断面積は小さい。一方、例えば集中豪雨時などでは、排水本管2に大量の雨水が流れ込むため、管路3内の圧力が一時的に急激に上昇する場合がある。そのような場合には、弁体40は一時的に大きく浮上し、空気通路38の流路断面積が一時的に大きくなる。そのため、管路3内の圧力は瞬時に開放される。したがって、トラップ(図示せず)内の封水が排水設備1に向かって逆流することが抑制され、封水が排水設備1から飛散することは防止される。
【0047】
以上のように、本実施形態に係る圧力開放蓋10によれば、通常時には弁体40は浮上していないので、弁体40の蓋部42と装置本体30の環状体34との間に空気通路38は形成されない。そのため、弁体40の下側に常に空気通路が確保されている従来の圧力開放可能な蓋と異なり、通常時における弁体40の上方への突出量は小さく抑えられる。一方、圧力上昇時には、弁体40はその圧力に応じた量だけ浮上し、その圧力に応じた大きさの空気通路38が形成される。例えば集中豪雨時などのように、管路3内の圧力が一時的に急激に上昇した場合には、弁体40は一時的に大きく浮上し、空気通路38の流路断面積は一時的に大きくなる。そのため、管路3内の圧力は速やかに開放されるので、封水が逆流して排水設備1から飛散することを効果的に防止することができる。
【0048】
本実施形態では、蓋体20の貫通孔21は円孔である。円孔は電動ドリル等の切削工具によって、比較的簡単に形成することができる。そのため、施工現場において、既設の密閉式の蓋から蓋体20を容易に製作することができる。ところが、貫通孔21が円孔であり、装置本体30の外側筒状部31が円筒状に形成されている場合、装置本体30に大きな力が加わると、装置本体30が蓋体20に対して回転してしまうおそれがある。しかし、本実施形態によれば、蓋体20の凹部22に装置本体30の環状体34の凸部37が嵌め込まれ、この凸部37によって、装置本体30の回転を防止する回転防止手段が構成されている。そのため、装置本体30に大きな力が加わったとしても、装置本体30の回転を防止することができる。
【0049】
なお、回転防止手段は凸部37に限られない。蓋体20の上面に凸部が設けられ、上記凸部が嵌め込まれる凹部が環状体34の下面に形成されていてもよい。また、凹凸以外の係合構造によって回転防止手段を構成することも可能である。ただし、蓋体20に設けられた凹部に嵌め込まれる凸部、または蓋体20に設けられた凸部に嵌め込まれる凹部によれば、比較的簡単な構成により回転防止手段を実現することができる。
【0050】
本実施形態によれば、装置本体30の外側筒状部31の下部にはストッパ50が固定されている。そのため、装置本体30が蓋体20から上方に向かって抜けてしまうことを防止することができる。なお、本実施形態では、ストッパ50は外側筒状部31に対してねじ込まれることによって固定されている。しかし、ストッパ50を外側筒状部31に固定する構造は、何ら限定されない。例えば、ストッパ50を外側筒状部31に対して接着等するようにしてもよい。
【0051】
本実施形態によれば、装置本体30の環状体34の上面は、半径方向の外側に行くほど下がるように傾斜している。言い換えると、環状体34の上面には、当該上面の外周端部よりも高い内周部が設けられている。そのため、弁体40が開いているときに、砂や埃等の異物が環状体34と蓋部42との間を通って管路3内に入り込むことを抑制することができる。また、環状体34の上面が傾斜していると、異物が環状体34と蓋部42との間に留まりにくくなる。そのため、環状体34と蓋部42との間に異物が挟まり、弁体40が閉じにくくなることを防止することができる。
【0052】
本実施形態によれば、弁体40の軸部41の下部には、ストッパ43が設けられている。そのため、弁体40が装置本体30から上方に向かって抜けてしまうことを防止することができる。なお、本実施形態では、ストッパ43は環状部材によって形成されていたが、弁体40の抜けを防止することができる限り、ストッパ43の具体的形状は特に限定されない。ストッパ43は、軸部41の中心からの半径方向の長さが内側筒状部32の孔32aの半径よりも大きい部材であればよい。ストッパ43は、例えば、軸部41の下部から半径方向外向きに延びるピン等であってもよい。
【0053】
本実施形態によれば、環状体34と蓋部42との間に、軸部41の周りに周回状に配置されたゴムリング36が設けられている。そのため、弁体40が閉じているときに、環状体34と蓋部42との間から臭気が外部に漏れ出ることをより確実に防止することができる。なお、本実施形態では、ゴムリング36は軸部41と同心円状に配置されているが、ゴムリング36は軸部41の周りに周回状に配置されていればよく、必ずしも軸部41と同心円状に配置されていなくてもよい。
【0054】
本実施形態によれば、環状体34の上面には、ゴムリング36が嵌め込まれる溝34cが形成されている。ゴムリング36の上側には、上方に向かって展開可能に折り畳まれた弾性片36bが形成されている。弁体40は自重により装置本体30の上に載っており、それによって圧力開放蓋10は閉じた状態となる。ところが、弁体40は樹脂製であり、圧力開放時に円滑に開くことができるように、比較的軽く形成されている。そのため、弁体40に対するゴムリング36の密着性が低くなるおそれがある。ところが、本実施形態では、ゴムリング36の弾性片36bには常時上向きの弾性力が生じるので、弁体40に対するゴムリング36の密着性は高い。したがって、弁体40が閉じているときに、環状体34と蓋部42との間から臭気が外部に漏れ出ることをより確実に防止することができる。
【0055】
本実施形態によれば、既設のます5の点検筒6に圧力開放蓋10を事後的に設けることができる。既設の点検筒6に圧力開放蓋10を設ける方法として、予め工場等にて所定寸法の圧力開放蓋10を製造しておき、その圧力開放蓋10を現場に運搬し、点検筒6に嵌め込まれた既設の蓋を上記圧力開放蓋10と交換する方法が考えられる。しかし、既設の蓋の寸法は様々である。予め準備しておいた圧力開放蓋10の寸法と既設の蓋の寸法とが一致しなければ、既設の蓋と圧力開放蓋10とを交換することはできない。そのような事態を避けるためには、寸法の異なる数多くの圧力開放蓋10を予め準備しておかなければならない。ところが、寸法の異なる数多くの圧力開放蓋を現場に運搬しなければならないとすると、施工業者の負担が大きくなる。これに対し、本実施形態に係る製造方法によれば、装置本体30の外側筒状部31が挿入できる程度の大きさの貫通孔21が形成可能である限り、既設の蓋の大きさは特に限定されない。そのため、施工業者は、一種類の圧力開放装置25を現場に運搬するだけで、任意の寸法の圧力開放蓋10を製造することができる。本実施形態によれば、既設の蓋を流用することができると共に、任意の寸法の既設の点検筒6に圧力開放蓋10を事後的に設置することが可能となる。
【0056】
<実施形態2>
前記実施形態では、弁体40の軸部41は円柱状に形成されていた。言い換えると、軸部41の断面形状は真円形状であった。しかし、軸部41の断面形状は非真円形状であってもよい。図10は、実施形態2に係る圧力開放装置25の装置本体30の平面図である。図10に示すように、内側筒状部32の孔32aは十字状に形成されている。その孔32aの形状に合うように、軸部41の断面形状も十字状に形成されている。軸部41の断面形状が非真円形状であれば、軸部41は内側筒状部32に対して回転しない。そのため、弁体40が装置本体30に対して回転してしまうことを防止することができる。なお、軸部41の断面形状は十字状に限定されない。軸部41の断面形状は他の非真円形状、例えば、楕円状、矩形状、台形状等であってもよい。
【0057】
<実施形態3>
実施形態1に係る圧力開放装置25(図8参照)では、装置本体30の環状体34の上面34aと、弁体40の蓋部42の下面42bとは、半径方向外側に行くほど下方に下がるように傾斜していた。これに対し、実施形態3に係る圧力開放装置25は、図11に示すように、環状体34の上面34aと蓋部42の下面42bとが、水平面状に形成されたものである。
【0058】
本実施形態では、環状体34の上面34aには、上方に突出する凸部34dが設けられている。凸部34dは、外周端部34eよりも高い位置にある内周部を構成している。蓋部42の下面42bには、上方に凹んだ凹部42dが設けられている。凸部34dおよび凹部42dは、軸部41と同心円状に形成されている。弁体40が閉じているときに、凸部34dは凹部42dに嵌り込んでいる。一方、弁体40が浮上したときには、凹部42dは凸部34dから外れ、蓋部42と環状体34との間に空気通路が形成される。本実施形態では、環状体34の上面34aは傾斜していないが、異物が上記空気通路を通じて管路3内に侵入することは、上記凸部34dによって阻止される。
【0059】
なお、図11ではゴムリングの図示は省略しているが、蓋部42の下面42bと環状体34の上面34aとの間にゴムリングを設けてもよいことは勿論である。蓋部42の中心部の上面は略水平方向に延び、蓋部42の外周部の上面は、半径方向の外側に行くほど下がるように傾斜している。
【0060】
本実施形態では、弁体40の軸部41と蓋部42とは別体となっており、事後的に組み立てられている。ストッパ43は軸部41と一体的に形成されている。その他の構成は実施形態1と同様であるので、説明を省略する。
【0061】
<実施形態4>
弁体40の蓋部42の形状は、前述の各実施形態の蓋部42の形状に限定されず、他に種々の形態を採ることができる。図12に示すように、本実施形態では、蓋部42は略平板状に形成されている。蓋部42の外周端部42eは、下方に突出している。装置本体30の環状体34も略平板状に形成されている。環状体34における外側筒状部31の真上の位置には、上方に突出する凸部34fが設けられている。凸部34fは、外周端部34eよりも高い位置にある内周部を構成している。本実施形態においても環状体34の上面は傾斜していないが、弁体40が開いたときに異物が管路3内に侵入することは、上記凸部34fによって阻止される。
【0062】
図12ではゴムリングの図示は省略しているが、管路3から外部に臭気が漏れないように、蓋部42と環状体34との間にゴムリングを設けてもよいことは勿論である。
【0063】
<その他の実施形態>
前記実施形態では、弁体40の軸部41の本数は1本であった。しかし、軸部41の本数は1本に限らず、2本以上であってもよい。なお、軸部41の本数が2本以上の場合には、各軸部41の断面形状が円形状であったとしても、弁体40の装置本体30に対する回転は防止される。
【0064】
前記実施形態では、圧力開放蓋10が設けられた管路3は、排水設備1と合流式の排水本管2とを接続するものであった。しかし、管路3は、分流式の下水道に接続されるものであってもよい。すなわち、圧力開放蓋10が設けられる管路3は、排水設備1と汚水本管とを接続するものであってもよい。
【0065】
圧力開放蓋10の適用対象は、ます5の点検筒6に限られない。圧力開放蓋10は、管路3を構成する各種の部材に対し適用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 排水設備
10 圧力開放蓋
20 蓋体
21 貫通孔
25 圧力開放装置
30 装置本体
31 外側筒状部
32 内側筒状部
33 架け渡し部
34 環状体
34c 溝
36 ゴムリング(シール部材)
36b 弾性片
37 凸部(回転防止手段)
40 弁体
41 軸部
42 蓋部
43 ストッパ
50 ストッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心に貫通孔が形成された蓋体に取り付けられ、前記蓋体と共に圧力開放可能な蓋を構成する圧力開放装置であって、
前記蓋体の前記貫通孔に挿入される外側筒状部と、前記外側筒状部の内側に設けられた内側筒状部と、前記外側筒状部と前記内側筒状部との間に空気通路を区画するように前記外側筒状部と前記内側筒状部との間に架け渡された架け渡し部と、前記外側筒状部の上部から半径方向外向きに延び、前記蓋体の上面に載置される環状体と、を有し、前記蓋体に固定される装置本体と、
前記内側筒状部に摺動自在に挿入された軸部と、前記軸部の上部から半径方向外向きに延び、少なくとも前記空気通路の上方を覆う蓋部と、を有する弁体と、
を備えた圧力開放装置。
【請求項2】
前記蓋体の前記貫通孔は円孔であり、前記外側筒状部は円筒形状に形成され、
前記装置本体には、前記蓋体に対する前記装置本体の回転を防止する回転防止手段が設けられている、請求項1に記載の圧力開放装置。
【請求項3】
前記回転防止手段は、前記蓋体に設けられた凹部に嵌め込まれる凸部または前記蓋体に設けられた凸部に嵌め込まれる凹部からなっている、請求項2に記載の圧力開放装置。
【請求項4】
前記弁体の前記軸部の断面形状は、非真円形状に形成されている、請求項1〜3のいずれか一つに記載の圧力開放装置。
【請求項5】
前記装置本体の前記外側筒状部の下部には、前記蓋体の前記貫通孔の内径よりも大きな外径を有する環状のストッパが固定されている、請求項1〜4のいずれか一つに記載の圧力開放装置。
【請求項6】
前記環状体の上面には、当該上面の外周端部よりも高い内周部が設けられている、請求項1〜5のいずれか一つに記載の圧力開放装置。
【請求項7】
前記軸部の下部には、前記軸部の中心からの半径方向の長さが前記内側筒状部の孔の半径よりも大きなストッパが設けられている、請求項1〜6のいずれか一つに記載の圧力開放装置。
【請求項8】
前記環状体の上面と前記蓋部の下面との間に、前記軸部の周りに周回状に配置されたシール部材を備えている、請求項1〜7のいずれか一つに記載の圧力開放装置。
【請求項9】
前記環状体の上面または前記蓋部の下面には、前記シール部材が嵌め込まれる溝が形成され、
前記シール部材の前記溝と反対側の部分には、前記溝と反対側の方に向かって展開可能に折り畳まれた弾性片が形成されている、請求項8に記載の圧力開放装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一つに記載の圧力開放装置を用いて圧力開放可能な蓋を製造する方法であって、
ますの点検筒に嵌め込まれた既設の蓋を取り外す工程と、
前記蓋の中心に貫通孔を形成することによって蓋体を製作する工程と、
前記貫通孔に前記圧力開放装置の前記外側筒状部を挿入し、前記装置本体を前記蓋体に接着する工程と、
を備えた蓋の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−87550(P2012−87550A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235777(P2010−235777)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000000505)アロン化成株式会社 (317)
【Fターム(参考)】