説明

地下足袋

【課題】中敷きを挿入しても、足を締め付けることなく快適に着用でき、特に足指の先端が足袋の奥まで挿入して高いフィット感を達成可能とする。
【解決手段】底部1と、親指側に位置する内甲部2と、小指側に位置する外甲部3とを結合して、内部に足を収納する収納空間SPを構成すると共に、内甲部2と外甲部3の後端側に、これらを係合するための係合手段4を備える地下足袋であって、収納空間SPの内、足指FGを挿入する部分である足指空間APにおいて、高さ方向に拡張した拡張空間KPを連通する。これにより、地下足袋のサイズを全体的に大きくするのでなく、長さ方向を維持しつつ、厚さ方向に余裕を持たせるようにすることで、叉割れ部分までの距離を変化させずに、足指をそのまま拡張空間に挿入できる一方で、中敷きを挿入できる空間が確保され、快適な着用が実現される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、祭り等の際に着用される地下足袋に関し、特に中敷きを挿入するのに適した地下足袋に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、祭りでは地下足袋が着用されている。足袋の生産地としては埼玉県行田市の他、徳島県が有名である。例えば、阿波踊りにおいて地下足袋で踊る踊り子の姿は日本の夏の風物詩と呼べるものであって、地下足袋なくしては阿波踊りは成立し得ない。
【0003】
地下足袋の裏にはゴムシート等の弾性部材が貼付されており、足裏を保護する。しかしながら、阿波踊りのような祭りにおいては、激しい動きが要求される上、地下足袋を長時間着用する必要があり、地面の凹凸や小石によって足裏を痛めることがある。このような問題に対して、地下足袋の底面にさらに厚いゴム板を貼付したものや、中敷きを挿入したものが提案されている(特許文献1、2)。
【0004】
しかしながら、ゴム板を貼付した地下足袋は、外観上にゴム板が表出してしまうため、見栄えが悪くなるという問題があった。また、洗濯等がし難くなる点においても不利となる。
【0005】
一方で、中敷きを挿入する構成においては、本発明者らが行った試験によれば、足袋がきつくなって快適な踊りのステップを踏むことが困難となることが判明した。すなわち、地下足袋を構成する素材は、靴下などと異なり、木綿のような伸縮性に乏しい布が用いられるため、本来的には図5に示すように、着用する足に密着するように構成されている。この状態で、足袋の底面に中敷き10を挿入すると、図6に示すように、中敷き10の厚さ分だけ足が押し上げられる結果、特に指の上面が地下足袋の内面で強く押圧され、きつくなる。特に、伸縮性のない足袋によって足指FGが締め詰められ、足指FGが前に進まなくなって足袋の隅にまで挿入できず、足袋の先端が余って遊びABが生じてしまう状態となる。このような状態は、足のフィット感が悪く、特につま先立ち等を求められる踊りにおいては、足先の感覚が不十分となって足運びの障害となるという問題があった。また、例えば阿波踊りの女踊りにおいては足袋に下駄や草履を履いて踊りを披露する必要があるところ、足指FGが奥まで挿入できないと、図7に示すように親指と人差し指が、足袋の叉割れ部分に届かない結果、下駄21の鼻緒20に親指と人差し指が達せずに着用が不安定となり、踊りや歩行に支障を来すという問題もあった。
【0006】
このような問題に対して、地下足袋のサイズが大きいものを選択して、中敷きを入れてもきつくならないようにすることが考えられる。しかしながら、単に足袋を大きくしただけでは、地下足袋着用時にぶかぶかとなって、フィット感が損なわれてしまう。また足袋のサイズが大きくなると、叉割れ部分の関係から、同様に指先部分が余ってしまい、指先の感覚が損なわれてしまう上、躓きやすくなる問題もあった。様々な踊りにおいて、踊りを美しく見せるには、足先の感覚は極めて重要である。特に阿波踊りを行う連と呼ばれるチームの内でも、有名連と呼ばれる専門家集団の間では、足先の動きを綺麗に見せたいという要求が高く、このような要求に応えることのできる地下足袋が強く求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−51801号公報
【特許文献2】特許第3922556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来のこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、中敷きを挿入しても、足を締め付けることなく快適に着用でき、特に足指の先端が足袋の奥まで挿入して高いフィット感を達成可能な地下足袋を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の側面に係る地下足袋によれば、底部1と、親指側に位置する内甲部2と、小指側に位置する外甲部3とを結合して、内部に足を収納する収納空間SPを構成すると共に、前記内甲部2と外甲部3の後端側に、これらを係合するための係合手段4を備える地下足袋であって、前記収納空間SPの内、足指FGを挿入する部分である足指空間APにおいて、高さ方向に拡張した拡張空間KPを連通することができる。これにより、地下足袋のサイズを全体的に大きくするのでなく、長さ方向を維持しつつ、厚さ方向に余裕を持たせるようにすることで、叉割れ部分までの距離を変化させずに、足指をそのまま拡張空間に挿入できる一方で、中敷きを挿入できる空間が確保され、快適な着用が実現される。この結果、足の指先が奥まで通りフィット感が高まり、指先の感覚が確実に発揮される結果、踊りにおける指先の表現を細やかに行い得る利点が得られる。
【0010】
また、第2の側面に係る地下足袋によれば、内部において、前記底部1の背面側に中敷き10を挿入可能に構成できる。これにより、中敷きを挿入して底部を一層強化し、ユーザの足裏を保護できる。
【0011】
さらに、第3の側面に係る地下足袋によれば、内部において、側面方向にも拡張空間KPを設けることができる。これにより、側面方向も拡張してより一層快適な履き心地を実現できる。
【0012】
さらにまた、第4の側面に係る地下足袋によれば、前記内甲部2及び外甲部3を構成する生地が綿を含むことができる。これにより、伸縮性に劣る生地を用いた地下足袋においても、着用時のフィット感を高めて踊り等が行い易くなる。
【0013】
さらにまた、第5の側面に係る地下足袋によれば、さらに内部において、前記底部1の背面側にインナー層を設けることもできる。これにより、中敷きを設けない状態でも足裏への肌触りを向上でき、また足裏を保護できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例に係る地下足袋に中敷きを挿入する様子を示す斜視図である。
【図2】図1の地下足袋に中敷きを挿入した状態を示す断面図である。
【図3】足指空間を拡張して拡張空間を設けた状態を示す断面図である。
【図4】図2の地下足袋の足指空間に足指を挿入した状態を示す断面図である。
【図5】従来の地下足袋に足指を挿入した状態を示す断面図である。
【図6】従来の地下足袋に中敷きを挿入した状態で、足指を挿入した状態を示す断面図である。
【図7】図6の状態で下駄を履き、鼻緒に親指と人差し指が達しない状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための地下足袋を例示するものであって、本発明は地下足袋を以下のものに特定しない。なお、特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部材の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。また、一部の実施例、実施形態において説明された内容は、他の実施例、実施形態等に利用可能なものもある。
【0016】
図1に、本発明の一実施例に係る地下足袋100に中敷き10を挿入する様子を示す斜視図を、図2に中敷き10を挿入した地下足袋100の断面図を、それぞれ示す。
(地下足袋100)
【0017】
これらの図に示す地下足袋100は、中敷き10を内部に挿入自在としている。地下足袋100は、親指側に対応する内甲部2と、残りの4本の指に対応する外甲部3と、底部1とで構成される。内甲部2と外甲部3とを縫合し、さらにその周囲を底部1に固定することで、内部に足を入れる収納空間SPが形成される。収納空間SPには、その先端に、足指FGを挿入するための足指空間APが形成される。
(係合手段4)
【0018】
一方、背部の足首近傍に位置する重ね部には、係合手段4として、紐状の掛け紐からなる係止部5及び留め金をなす鞐(こはぜ)からなる留め具6を備えている。
【0019】
地下足袋100を構成する生地は、綿やポリエステルなどで構成される。これらの素材は一般に伸縮性に劣るため、一般に中敷き等を入れるときつくなってしまう。そこで、地下足袋100の収納空間SPに、高さ方向に空間を形成する。具体的には、足指FGを挿入する部分において、高さ方向に拡張空間KPを形成している。すなわち、従来の地下足袋100であれば、図5に示すように足指FGが丁度収納できる薄型に形成されていたところ、このままでは中敷き10を挿入すると、図6に示すように足指FGの上面が押圧される結果、足指FGの先端を完全に足指空間APに収納することができず、遊びABが生じてしまう。このままでは、足指のフィット感がないため、足指の感覚が十分に発揮されず、例えば阿波踊りのように、踊り子の足運びの美しさが問われる局面においては、指先の感覚が不十分であることから不利となる。また、遊びが原因で躓くことも考えられる。
【0020】
そこで本実施例では、図3に示すように、破線で示す従来の生地の位置から、足指空間APの上面を拡張して拡張空間KPを設けている。この結果、地下足袋100に中敷き10を挿入した状態で、足指FGを足指空間APに挿入しても、図4に示すように足指FGの正面を生地が圧迫することがなく、丁度よいフィット感を得ることができる。このように、拡張空間KPの大きさは中敷き10の厚さに対応させて設計することが望ましく、これに応じて内甲部2及び外甲部3の大きさ及び形状が決定される。
【0021】
また、このように足指FGが足指空間APに完全に挿入されることで、図7に示すように下駄21等を履く際に、足指FGが鼻緒20に届かなくなる問題を回避でき、より安全かつ確実に踊りなどの動作に注力できる。
【0022】
このようにして、本実施例に係る地下足袋100によれば、伸縮し難い生地を用いた地下足袋100に中敷き10を収納しても、着用時のフィット感が高まり、踊り等の動作に最適となる。また、中敷き10によって足裏が堅固に保護され、地下足袋100を長時間着用しても疲労感を低減できる。
(中敷き10)
【0023】
中敷き10には、弾性のある部材が利用できる。例えば、エラストマー等の樹脂製とすることで、歩行時の衝撃を吸収する適度なクッション性が得られる。また耐久性を高め、長期に亘って履き心地が良く、疲労が少ない足袋とできる。あるいは、このような弾性体に代わって、ゲル状としたり、又は複数層を積層した積層体としてもよい。さらに、中敷き10の表面を平坦面とする他、周縁に縁を設けて足がフィットし易くなるようにしてもよい。加えて、中敷き10の底面の摩擦係数を大きくして、中敷き10が地下足袋100の内部で位置ずれすることを抑制することもできる。
【0024】
さらにこの例では、中敷き10はセパレート式とし、地下足袋100の収納空間SPに挿入、抜き取りを自在としている。このように中敷き10を着脱式とすることで、洗濯や手入れを容易とできる。
【0025】
以上のように、本実施例に係る地下足袋100は、サイズを全体的に大きくするのでなく、長さ方向を維持しつつ、厚さ方向に余裕を持たせた立体構造とすることで、叉割れ部分までの距離を変化させずに、足指FGをそのまま拡張空間KPに挿入できる一方で、中敷き10を挿入する空間も確保されて、快適な着用が実現される。特に足指FGが足袋の先端まで挿入されることで、フィット感を高めると共に特につま先の感覚が得られやすくなり、つま先立ちなどが容易に行えるようになる利点が得られる。
【0026】
なお以上の例では、高さ方向に拡張した拡張空間を設ける例を説明したが、この構成に限られず、例えば足の側面方向にも拡張空間を設けてもよい。特に、足の幅が大きい踊り子の場合は、足の側面においても同様に締め付けの問題が生じることがある。このような場合において、地下足袋の収納空間において側面方向に拡張することで、より一層快適な履き心地を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明に係る地下足袋は、阿波踊りなどの祭事用、又は工事現場などの作業用の地下足袋として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0028】
100…地下足袋
1…底部
2…内甲部
3…外甲部
4…係合手段
5…係止部
6…留め具
10…中敷き
20…鼻緒
21…下駄
SP…収納空間
AP…足指空間
KP…拡張空間
FG…足指
AB…遊び

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部(1)と、
親指側に位置する内甲部(2)と、
小指側に位置する外甲部(3)と
を結合して、内部に足を収納する収納空間(SP)を構成すると共に、
前記内甲部(2)と外甲部(3)の後端側に、これらを係合するための係合手段(4)を備える地下足袋であって、
前記収納空間(SP)の内、足指(FG)を挿入する部分である足指空間(AP)において、高さ方向に拡張した拡張空間(KP)を連通してなることを特徴とする地下足袋。
【請求項2】
請求項1に記載の地下足袋であって、
内部において、前記底部(1)の背面側に中敷き(10)を挿入可能に構成してなることを特徴とする地下足袋。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の地下足袋であって、
内部において、側面方向にも拡張空間(KP)を設けてなることを特徴とする地下足袋。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一に記載の地下足袋であって、
前記内甲部(2)及び外甲部(3)を構成する生地が綿を含むことを特徴とする地下足袋。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一に記載の地下足袋であって、さらに、
内部において、前記底部(1)の背面側にインナー層を設けてなることを特徴とする地下足袋。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−22066(P2013−22066A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156936(P2011−156936)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(311010626)株式会社笹倉スポーツ社 (1)
【Fターム(参考)】