説明

地中熱交換器

【課題】熱媒体を流すための三本以上の管を掘削孔内に有する地中熱交換器において、熱媒体の流れる方向が互いに逆向きとなる管同士の間のショートサーキットを抑制して熱交換効率を高める。
【解決手段】地盤に鉛直に形成された掘削孔内に挿入される地中熱交換器である。前記掘削孔内の平面中心部に配置される、管軸方向が鉛直方向に沿った中央管と、前記中央管と前記掘削孔の内周面との間に配置される複数の周囲管であって、前記周囲管の外周面を前記中央管の外周面に対向して配置され、管軸方向が鉛直方向に沿った前記複数の周囲管と、前記中央管の下方に設けられ、前記中央管の熱媒体の流路を分岐して前記周囲管毎に割り当てる分岐部と、を有する。前記周囲管を熱媒体が流れる方向は、前記中央管を熱媒体が流れる方向と逆向きである。前記周囲管と前記掘削孔の前記内周面との間の間隔の方が、前記周囲管と前記中央管との間の間隔よりも小さくなるように前記周囲管は配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
通年の温度変動の小さい地中熱を利用して建物の冷暖房等を行う地中熱利用システムが注目されている。この地中熱利用システムでは、地盤との間で採・放熱を行うべく地中に地中熱交換器が設置される。そして、例えば、夏場には地盤に放熱し、冬場には地盤から採熱する(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−256329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図1Aの概略斜視図に示すように、この地中熱交換器130は、地盤Gの掘削孔23内に鉛直に建て込まれた採放熱管としてのポリエチレン等の樹脂製U字管131を有し、U字管131の周囲の隙間P23には、砂やモルタル等の充填材27が充填されている。そして、このU字管131の一方の管を往路管132として同管132内に、水や不凍液等の熱媒体26を流し込むとともに、もう一方の管134を復路管として、同管134から、地盤Gとの間で熱交換後の熱媒体26を取り出して、ヒートポンプ等へ送出して利用する。
【0005】
かかるU字管131は、通常、掘削孔23内に往路管132及び復路管134を一組として、一組又は二組配されるが、図1Aのように二組が配置される場合には、図1Bのように往路管132と復路管134とが近接せざるを得ない。すると、同図1Bに示すように、地盤Gと熱交換後の熱媒体26が流れる復路管134から熱交換前の熱媒体26が流れる往路管132へと熱移動する所謂ショートサーキットを生じ、結果、地中熱交換器130の熱交換効率が悪くなる虞があった。
【0006】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、熱媒体を流すための三本以上の管を掘削孔内に有する地中熱交換器において、熱媒体の流れる方向が互いに逆向きとなる管同士の間のショートサーキットを抑制して熱交換効率を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために請求項1に示す発明は、
地盤に鉛直に形成された掘削孔内に挿入される地中熱交換器であって、
前記掘削孔内の平面中心部に配置される、管軸方向が鉛直方向に沿った中央管と、
前記中央管と前記掘削孔の内周面との間に配置される複数の周囲管であって、前記周囲管の外周面を前記中央管の外周面に対向して配置され、管軸方向が鉛直方向に沿った前記複数の周囲管と、
前記中央管の下方に設けられ、前記中央管の熱媒体の流路を分岐して前記周囲管毎に割り当てる分岐部と、を有し、
前記周囲管を熱媒体が流れる方向は、前記中央管を熱媒体が流れる方向と逆向きであり、
前記周囲管と前記掘削孔の前記内周面との間の間隔の方が、前記周囲管と前記中央管との間の間隔よりも小さくなるように前記周囲管は配置されていることを特徴とする。
【0008】
上記請求項1に示す発明によれば、中央管は平面中心部に配置され、また、中央管に対して熱媒体の流れる方向が逆向きの周囲管は、中央管よりも掘削孔の内周面の方に接近して配置されている。よって、中央管と周囲管との間に大きな間隔を設けることができて、その結果、中央管を流れる熱媒体と周囲管を流れる熱媒体との間のショートサーキットを抑制して、地中熱交換器の熱交換効率を高めることができる。
また、複数の周囲管は、掘削孔の内周面に接近して配置されるので、地盤との間で熱交換を行うための有効面積の拡大を図れ、このことも地中熱交換器の熱交換効率の向上に寄与する。
【0009】
請求項2に示す発明は、請求項1に記載の地中熱交換器であって、
前記周囲管は、前記掘削孔の前記内周面に接触するように配置されており、
前記掘削孔内に前記中央管、前記周囲管、及び前記分岐部が配置された状態で、前記掘削孔内には充填材が充填されていることを特徴とする。
【0010】
上記請求項2に示す発明によれば、中央管は平面中心部に配置され、中央管とは熱媒体の流れる方向が逆方向の周囲管は、中央管よりも最も離間した掘削孔の内周面に接触して配置されている。よって、全ての周囲管について、中央管と周囲管との間に最大の間隔を設けることができて、その結果、中央管を流れる熱媒体と周囲管を流れる熱媒体との間のショートサーキットをより効果的に抑制して、地中熱交換器の熱交換効率を更に高めることができる。
【0011】
請求項3に示す発明は、請求項1又は2に記載の地中熱交換器であって、
前記中央管の管軸と前記周囲管の管軸との間の距離が、前記複数の周囲管の全てについて互いに等しくなるように前記周囲管は配されていることを特徴とする。
【0012】
上記請求項3に示す発明によれば、全ての周囲管についてショートサーキットの影響を略均等に揃えることができるので、全ての周囲管について熱交換効率を揃えることができる。
【0013】
請求項4に示す発明は、請求項1乃至3の何れかに記載の地中熱交換器であって、
前記複数の周囲管は、前記掘削孔の周方向に均等ピッチで配置されていることを特徴とする。
【0014】
上記請求項4に示す発明によれば、複数の周囲管は、掘削孔の周方向に均等ピッチで配置されているので、複数の周囲管全体で、掘削孔の側方の全方向から地中熱を有効に受け止めることができて、その結果、熱交換効率の向上を図れる。
【0015】
請求項5に示す発明は、請求項1乃至4の何れかに記載の地中熱交換器であって、
前記中央管、前記複数の周囲管、及び前記分岐部は、何れも熱可塑性樹脂製であり、
前記中央管と前記分岐部とは、融着接合されており、
前記複数の周囲管と前記分岐部とは、融着接合されていることを特徴とする。
【0016】
上記請求項5に示す発明によれば、中央管と分岐部とは融着接合されているので、高度な水密状態で接合されており、また、複数の周囲管と分岐部とは融着接合されているので、高度な水密状態で接合されている。よって、地中熱交換器の防漏性を向上することができる。
【0017】
請求項6に示す発明は、請求項1乃至5の何れかに記載の地中熱交換器であって、
前記分岐部は、上部部材と、該上部部材の下面に融着接合される下部部材とを有し、
前記上部部材は、前記中央管の下側の管端部が差し込み固定される鉛直方向に沿った中央貫通孔と、前記周囲管毎にそれぞれ設けられ、対応する前記周囲管の下側の管端部が差し込み固定される鉛直方向に沿った周囲貫通孔とを有し、
前記下部部材は、前記上部部材の下面と対向する上面に、前記中央貫通孔と前記周囲貫通孔とを連通する凹部を有することを特徴とする。
【0018】
上記請求項6に示す発明によれば、中央貫通孔及び複数の周囲貫通孔が形成された上部部材と、これら中央貫通孔と各周囲貫通孔とを連通する凹部が形成された下部部材という簡単な構造で、分岐部を構成することができる。よって、地中熱交換器を安価に製造可能となる。
【0019】
請求項7に示す発明は、請求項1乃至6の何れかに記載の地中熱交換器であって、
前記中央管及び前記複数の周囲管は、何れも管軸が鉛直方向に真っ直ぐな直管であることを特徴とする。
【0020】
上記請求項7に示す発明によれば、鉛直方向の略全長に亘り、中央管と周囲管との間の間隔を略等しくできるので、ショートサーキットを全長に亘って有効に抑制可能となる。
【0021】
請求項8に示す発明は、請求項1乃至7の何れかに記載の地中熱交換器であって、
前記複数の周囲管の内径は互いに等しく、
前記周囲管の前記内径の前記複数倍の大きさよりも、前記中央管の内径は大きいことを特徴とする。
【0022】
上記請求項8に示す発明によれば、周囲管での熱媒体の流速は中央管よりも低下されるので、中央管よりも地盤に近い周囲管は、より効率的に地盤との間で熱交換を行うことができて、その結果、地中熱交換器の熱交換効率の向上を図れる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、熱媒体を流すための三本以上の管を掘削孔内に有する地中熱交換器において、熱媒体の流れる方向が互いに逆向きとなる管同士の間のショートサーキットを抑制して熱交換効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1Aは、従来の地中熱交換器130の概略斜視図であり、図1Bは、図1A中のB−B断面図である。
【図2】本実施形態に係る地中熱交換器30を用いた地中熱利用システム11の説明図である。
【図3】図3Aは、地盤Gの竪孔23を透視して見た地中熱交換器30の概略斜視図であり、図3Bは、図3A中のB−B断面図である。
【図4】継ぎ手部36の分解斜視図である。
【図5】融着接合をするためのソケット型の加熱板50及び平板状の加熱板55を示す概略斜視図である。
【図6】図6A乃至図6Cは、設置予定地に地中熱交換器30を設置する様子を示す概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
===本実施形態===
<<<地中熱交換器30について>>>
図2は、本実施形態に係る地中熱交換器30を用いた地中熱利用システム11の説明図である。図3Aは、地盤Gの竪孔23を透視して見た地中熱交換器30の概略斜視図である。また、図3Bは、図3A中のB−B断面図である。
【0026】
この地中熱利用システム11は、地盤Gとの間で熱交換を行う地中熱交換器30と、地中熱交換器30を含めた所定ルートで循環される水又は不凍液等の液状の熱媒体26からの熱を利用して、建物1の暖房のための温水や冷房のための冷水を生成するヒートポンプ15と、熱媒体26を上記所定ルートで循環するための循環ポンプ17とを有する。なお、ヒートポンプ15の構成は周知なので、その説明は省略する。
【0027】
図3A及び図3Bに示すように、地中熱交換器30は所謂「ボアホール方式」である。つまり、地中熱交換器30は、地盤Gに形成された竪孔23(掘削孔に相当)に挿入される採放熱管31を有し、また、竪孔23と採放熱管31との間の空間SP23には充填材27が充填されている。
【0028】
ここで、採放熱管31は、管軸方向が鉛直方向に沿った三本以上の単管32,34,34,34,34を有し、これらの単管32,34,34…の流路は、各下端部32d,34d,34d,34d,34d(下側の管端部に相当)に連結された継ぎ手部36により互いに連通されている。そして、これら単管32,34…のうちの1本の単管32には、ヒートポンプ15から熱媒体26が送り込まれ、これにより、当該1本の単管32は、熱媒体26を地中へ送る往路管32として機能する。一方、残りの複数の単管34,34,34,34は、地中に送られた熱媒体26を地上へ送ってヒートポンプ15へと送り返す復路管34,34,34,34として機能する。つまり、往路管32では熱媒体26は下方へと流れ、復路管34では熱媒体26は上方へと流れ、これらの流れる方向は互いに逆向きになっている。
【0029】
そして、これにより、ヒートポンプ15から採放熱管31へと送られた熱媒体26は、順次、往路管32、各復路管34の順番で流れ、これら往路管32及び各復路管34を流れている間に、熱媒体26は地盤Gの地中熱により加熱又は冷却される。そして、かかる熱交換後に、循環ポンプ17の圧力によりヒートポンプ15へ向けて送出されて、ヒートポンプ15において温水生成や冷水生成に供される。
【0030】
以下、かかる地中熱交換器30の構成について詳しく説明する。
竪孔23は、ボーリングマシンやオーガ等の掘削機により地盤Gに鉛直に掘削された平面形状が円形や多角形の孔である。この例では正円形状の孔であり、その直径は100〜200mm、深さは30〜150mである。
【0031】
図3Aに示すように、採放熱管31は、例えば高密度ポリエチレン製の3本以上の一例として5本の単管32,34,34,34,34と、5本の各単管32,34,34…をそれぞれ下端部32d,34d,34d…で連結して熱媒体26の流路の折り返し部をなす高密度ポリエチレン製の上記継ぎ手部36とを有している。そして、継ぎ手部36は、竪孔23の最深部に位置し、5本の単管32,34,34…の各上端部32u,34u,34u…は、それぞれ竪孔23の外に突出している。
【0032】
5本の単管32,34,34…は、例えば互いに同仕様の直管である。つまり、各単管32,34,34…は、外径及び内径につき互いに同径であり、鉛直方向に真っ直ぐな単管である。そして、5本の単管32,34,34…のうちの1本の単管32は、前述の往路管32として竪孔23の平面中心部(例えば図心)に配置され、残りの4本の単管34,34…は、前述の復路管34として往路管32を周囲から囲んで配置される。つまり、復路管34は、自身の外周面を往路管32の外周面に対向させつつ、往路管32と竪孔23の内周面23aとの間の位置に配置されている。また、復路管34の配置位置については、図3Bに示すように、復路管34と竪孔23の内周面23aとの間の間隔D23aの方が、復路管34と往路管32との間の間隔D32よりも小さくなるように配置されており、つまり、復路管34は、往路管32よりも竪孔23の内周面23aの方に接近して配置されている。よって、往路管32と復路管34との間に大きな間隔D32を設けることができて、その結果、往路管32を流れる熱媒体26と復路管34を流れる熱媒体26との間のショートサーキットが抑制されて、地中熱交換器30の熱交換効率が高められる。
【0033】
また、上述したように、竪孔23の内周面23aに近接配置された4本の各復路管34,34…の内径は、竪孔23の平面中心部に配置された往路管32の内径と同径になっている。そのため、地盤Gとの間で効率良く熱交換が行われる復路管34での熱媒体26の流速は低く抑えられていて、これにより、地盤Gとの間の熱交換の時間を長く確保することができて、このことも、地中熱交換器30の熱交換効率の向上に有効に寄与する。
【0034】
なお、熱交換効率向上の観点からは、望ましくは、図3Bに示すように復路管34の外周面34aが竪孔23の内周面23aに接触するように復路管34を配置すると良く、このように配置されていれば、往路管32から復路管34を最大限に離すことができて、その結果、往路管32と復路管34との間のショートサーキットを最も抑制可能となり、熱交換効率のより一層の向上を図れる。ちなみに、復路管34の全長(深さ方向の全長)に亘って復路管34が竪孔23の内周面23aに接触しているのが理想的であるが、全長のうちの一部、若しくは複数の部分が間欠的に接触している場合であっても、全体として復路管34は竪孔23の内周面23aに近接配置された状態になっていると考えられるので、その場合にも、ショートサーキットの大きな抑制効果を期待できる。
【0035】
また、往路管32の管軸と復路管34の管軸との間の距離が、全ての復路管34,34…について互いに等しくなるように各復路管34,34…が配置されていると良く、更には、竪孔23の周方向に均等ピッチで復路管34,34…が配置されていると良い。そして、前者によれば、全ての復路管34,34…についてショートサーキットの影響を略均等に揃えることができて、全ての復路管34,34…の熱交換効率を概ね揃えることができる。他方、後者によれば、4本の復路管34,34…で、竪孔23の側方の全方向から地中熱を有効に受け止めることができるので、これによっても、熱交換効率が向上される。ちなみに、この例では、復路管34,34…の本数が4本なので、図3Bに示すように、復路管34,34…は、往路管32の平面位置を図心とする正方形(二点鎖線を参照)の各頂点に位置するように配置されているが、復路管34,34…の本数が3本の場合には、正三角形、5本の場合には、正五角形の各頂点に復路管34がそれぞれ配置される。
【0036】
一方、図4の分解斜視図に示すように、継ぎ手部36は、竪孔23の内径よりも若干小径或いは同径の円柱形状の上部部材37と、上部部材37の下面37dに融着接合される同じ平面形状の円柱状の下部部材38とを有する。上部部材37の上面37uの平面中心部には、往路管32の下端部32dが差し込み固定される鉛直方向に沿った中央貫通孔H32が一つ形成されており、また、当該中央貫通孔H32の周囲を囲むように、4つの周囲貫通孔H34,H34…が鉛直方向に貫通形成されており、これら各周囲貫通孔H34,H34…には、それぞれ、対応する復路管34,34…の下端部34d,34d…が差し込み固定されている。また、下部部材38は、上部部材37の下面37dと対向する上面38uに、中央貫通孔H32と4本の各周囲貫通孔H34,H34…とを連通する平面視十文字形状の凹部38hを有する。そして、下部部材38の上面38uが上部部材37の下面37dに当接固定された状態にあっては、凹部38hの十文字形状の交点位置たる中心部に中央貫通孔H32の開口が対向するとともに、同十文字形状の四つの各端部には、それぞれ各周囲貫通孔H34,H34…の開口が一つずつ対応して対向するようになっている。そして、これにより、凹部38hは、往路管32の熱媒体26の流路を四つに分岐し、各分岐流路を、それぞれ4本の各復路管34,34…に割り当てている。
【0037】
ここで、望ましくは、単管32,34,34…と上部部材37との固定、及び上部部材37と下部部材38との固定に、融着接合を適用すると良い。融着接合とは、接合対象となる部分同士が、互いに溶融状態で当接されることにより、互いに溶け合って固化して一体不可分な状態になる接合のことであり、例えば、前者の固定の場合には、上部部材37の各貫通孔H32,H34,H34…の内周面と、対応する単管32,34,34…の下端部32d,34d,34d…の外周面との両者が、互いに溶融状態で差し込み嵌合されて全周に亘り接合され、これにより、これらの間に形成される融着接合部は、互いに溶け合って固化した一体不可分な状態になる。よって、高い強度と防漏性とを奏し得る。また、この例では、上部部材37も、各単管32,34,34…と同素材の高密度ポリエチレン製である。よって、当該融着接合部は、単管32,34,34…や上部部材37の母材とほぼ同種の成分系で形成されるので、これにより、母材並の高い強度と高い防漏性とを奏することができる。
【0038】
他方、後者の固定の場合には、上部部材37の下面37dと下部部材38の上面38uとの両者が、互いに溶融状態で突き合わされて接合されており、これにより、これらの間に形成される融着接合部も、互いに溶け合って固化した一体不可分な状態になっている。よって、当該融着接合部も、高い強度と高い防漏性とを奏する。また、上部部材37と同様に下部部材38も高密度ポリエチレン製であるので、当該融着接合部も母材並の高い強度と高い防漏性とを奏し得る。
【0039】
ところで、上述の実施形態では、竪孔23の平面中心部に位置する1本の単管32を往路管32とし、その周囲に位置する残りの4本の単管34,34…を復路管34としていたが、何等これに限るものではなく、逆にしても良い。すなわち、復路管を竪孔23の平面中心部に位置する1本の単管32に設定し、その周囲に位置する残りの4本の単管34,34…を往路管に設定して、熱媒体26の流れる方向を上述の実施形態の逆にしても良い。
【0040】
以上、本実施形態の地中熱交換器30について説明してきたが、かかる地中熱交換器30は、例えば次のようにして製造され、設置予定地の地盤Gに設置される。
先ず、工場で地中熱交換器30を製造する。すなわち、図4に示す継ぎ手部36の上部部材37の各貫通孔H32,H34,H34…に5本の単管32,34,34…を融着接合して固定し、また、これと同時並行又は相前後して下部部材38を上部部材37の下面37dに融着接合して固定する。これにより、地中熱交換器30が製造される。
【0041】
なお、前者の上部部材37と単管32,34,34…との融着接合は、図5に示すようなソケット型の加熱板50を用いて行う。この加熱板50は、上部部材37の貫通孔H32,H34,H34…に嵌合可能な外径寸法の円柱部50aと、単管32,34,34…の下端部32d,34,34…を内周側に嵌合可能な内径寸法の円筒部50bとを互いに同軸に有している。そして、上部部材37の貫通孔H32(H34)の内方に加熱板50の円柱部50aを押し込んで嵌合し、且つ同加熱板50の円筒部50bの内方に単管32(34)の下端部32d(34d)を押し込んで嵌合した状態にする。そうしたら、加熱板50の温度を、上部部材37及び単管32(34)の両者の融点以上に上昇し、両者が融解したら、加熱板50から上部部材37及び単管32(34)を外し、しかる後に、単管32(34)の下端部32d(34d)を貫通孔H32(H34)に差し込んで一定時間冷却する。そして、これを、5つの貫通孔H32,H34,H34…に対してそれぞれ行えば、上部部材37に5本の単管32,34,34…が融着接合される。
【0042】
一方、後者の上部部材37と下部部材38との融着接合は、両面55a,55aを加熱面とする平板状の加熱板55を用いて行う。すなわち、上部部材37の下面37dと下部部材38の上面38uとをそれぞれ各加熱面55a,55aに当接させる。そして、加熱板55の温度を、上部部材37及び下部部材38の両者の融点以上に上昇し、両者が融解したら、加熱板55から上部部材37及び下部部材38を離して、しかる後に、上部部材37の融解した下面37dと下部部材38の融解した上面38uとを当接して一定時間冷却する。そして、これにより、上部部材37と下部部材38とは融着接合され、以上をもって、工場での地中熱交換器30の製造が完了する。
【0043】
次に、この地中熱交換器30に係る5本の単管32,34,34…を一束として、単管32,34,34…の上端部32u,34u,34u…から、当該地中熱交換器30を適宜なリール装置でコイル状に順次巻き取っていき、そして、最後に継ぎ手部36まで巻き取ったら、巻き取り作業を終了する。ちなみに、この巻き取り作業は、前述の継ぎ手部36と単管32,34,34…との融着接合作業の前に行っても良い。そして、その場合には、巻き取り作業の後に、単管32,34,34…の下端部32d,34d,34d…に継ぎ手部36が融着接合されることになるが、その際には、単管32,34,34…の下端部32d,34d,34dのみを繰り出して全体はコイル状を維持しつつ上述の融着接合作業を行えば良い。
【0044】
そうしたら、このコイル状に巻き取られた地中熱交換器30を、図6Aの概略縦断面図に示すように設置予定地まで搬送する。ここで、この設置予定地では、上述の地中熱交換器30の製造と同時並行又は相前後して、竪孔23が掘削形成されている。この竪孔23の掘削は、例えばボーリングマシンやオーガ等の不図示の掘削機によってなされる。ちなみに、このとき、孔壁保護や削孔自体の目的で、竪孔23には、その掘削と同時並行又はその直後に、竪孔23のサイズに合ったケーシング鋼管が挿入されていても良いが、この図6Aの例では、ケーシング鋼管を使用していない。
【0045】
そうしたら、現場搬入されたコイル状の地中熱交換器30を、竪孔23の地面上に設置された一台のリール装置60に取り付ける。そして、最後に、図6Bに示すように、当該リール装置60によって、地中熱交換器30を、継ぎ手部36を先頭側として順次繰り出しながら、竪孔23の中に建て込んでいく。そして、図6Cに示すように竪孔23の底部に継ぎ手部36が到達したら、建て込みを終了する。
【0046】
次に、ケーシング鋼管を用いている場合は、竪孔23内に地中熱交換器30を留めつつ、ケーシング鋼管を竪孔23から引き抜く。そして、竪孔23内に充填材27を充填して地中熱交換器30を埋設し、これにより、地中熱交換器30の地盤Gへの設置が完了する。
【0047】
そして、以上の説明から明らかなように、このような方法によれば、地中熱交換器30は、工場において、5本の単管32,34,34…と継ぎ手部36とを具備した完成状態にまで仕上げられ、コイル状に巻き取られた状態で工場から設置予定地へと送られる。そして、設置予定地では、単に、一台のリール装置60を用いて地中熱交換器30を繰り出しながら、同予定地の竪孔23に建て込んだ後に、地中熱交換器30の周囲の隙間SP23を充填材27で埋めれば、地中熱交換器30の設置工事が完了する。よって、現場作業は大幅に軽減され、施工現場での工期を大幅に短縮可能となる。
【0048】
===その他の実施の形態===
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、かかる実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で以下に示すような変形が可能である。
【0049】
上述の実施形態では、竪孔23の平面中心部に配された中央管としての往路管32の内径と、その周囲に配置された周囲管としての4本の復路管34,34…の内径とを互いに同径にしていた。そして、これにより、地盤Gに近い周囲管34,34…での熱媒体26の流速を低く抑え、地盤Gとの間の熱交換時間を長くして熱交換効率の向上を図っていたが、周囲管34,34…において熱媒体26の流速を低く抑える作用は、上述のように中央管32の内径と周囲管34の内径とを同径にしなくても、次の条件を満足すれば、実現することができる。例えば、全ての周囲管34,34…の内径が互いに等しい場合には、周囲管34の内径の本数倍(上述の実施形態では周囲管34が4本なので4倍)の大きさよりも、中央管32の内径を大きくすれば良い。
【0050】
上述の実施形態では、周囲管34の本数を、複数の一例として4本にしていたが、何等これに限るものではなく、2本以上であれば何本でも良い。
【0051】
上述の実施形態では、往路管32及び復路管34に係る単管32,34,34…や継ぎ手部36は、高密度ポリエチレン製としていたが、その素材は何等これに限らない。例えば、通常密度のポリエチレン等の熱可塑性樹脂でも良い。ちなみに、高密度ポリエチレンとは、広義には、密度が938kg/m以上のポリエチレンであり、狭義には、密度が942kg/m以上のポリエチレンである。
【0052】
上述の実施形態では、中央管32及び周囲管34に係る単管32,34,34…として、丸パイプ状(断面正円形状)の管を例示したが、その管形状は何等これに限るものではない。例えば、断面形状が楕円等の断面非正円形状の管でも良いし、角パイプ等の断面多角形状の管でも良い。
【符号の説明】
【0053】
1 建物、
11 地中熱交換システム、15 ヒートポンプ、17 循環ポンプ、
23 竪孔(掘削孔)、23a 内周面、
26 熱媒体、27 充填材、
30 地中熱交換器、31 採放熱管、
32 往路管(中央管、単管)、
32d 下端部(下側の管端部)、32u 上端部、
34 復路管(周囲管、単管)、34a 外周面、
34d 下端部(下側の管端部)、34u 上端部、
36 継ぎ手部、37 上部部材、37d 下面、37u 上面、
38 下部部材、38h 凹部、38u 上面、
50 ソケット型の加熱板、50a 円柱部、50b 円筒部、
55 平板状の加熱板、55a 加熱面、
60 リール装置、
G 地盤、H32 中央貫通孔、H34 周囲貫通孔、
SP23 空間(隙間)、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に鉛直に形成された掘削孔内に挿入される地中熱交換器であって、
前記掘削孔内の平面中心部に配置される、管軸方向が鉛直方向に沿った中央管と、
前記中央管と前記掘削孔の内周面との間に配置される複数の周囲管であって、前記周囲管の外周面を前記中央管の外周面に対向して配置され、管軸方向が鉛直方向に沿った前記複数の周囲管と、
前記中央管の下方に設けられ、前記中央管の熱媒体の流路を分岐して前記周囲管毎に割り当てる分岐部と、を有し、
前記周囲管を熱媒体が流れる方向は、前記中央管を熱媒体が流れる方向と逆向きであり、
前記周囲管と前記掘削孔の前記内周面との間の間隔の方が、前記周囲管と前記中央管との間の間隔よりも小さくなるように前記周囲管は配置されていることを特徴とする地中熱交換器。
【請求項2】
請求項1に記載の地中熱交換器であって、
前記周囲管は、前記掘削孔の前記内周面に接触するように配置されており、
前記掘削孔内に前記中央管、前記周囲管、及び前記分岐部が配置された状態で、前記掘削孔内には充填材が充填されていることを特徴とする地中熱交換器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の地中熱交換器であって、
前記中央管の管軸と前記周囲管の管軸との間の距離が、前記複数の周囲管の全てについて互いに等しくなるように前記周囲管は配されていることを特徴とする地中熱交換器。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の地中熱交換器であって、
前記複数の周囲管は、前記掘削孔の周方向に均等ピッチで配置されていることを特徴とする地中熱交換器。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の地中熱交換器であって、
前記中央管、前記複数の周囲管、及び前記分岐部は、何れも熱可塑性樹脂製であり、
前記中央管と前記分岐部とは、融着接合されており、
前記複数の周囲管と前記分岐部とは、融着接合されていることを特徴とする地中熱交換器。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載の地中熱交換器であって、
前記分岐部は、上部部材と、該上部部材の下面に融着接合される下部部材とを有し、
前記上部部材は、前記中央管の下側の管端部が差し込み固定される鉛直方向に沿った中央貫通孔と、前記周囲管毎にそれぞれ設けられ、対応する前記周囲管の下側の管端部が差し込み固定される鉛直方向に沿った周囲貫通孔とを有し、
前記下部部材は、前記上部部材の下面と対向する上面に、前記中央貫通孔と前記周囲貫通孔とを連通する凹部を有することを特徴とする地中熱交換器。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載の地中熱交換器であって、
前記中央管及び前記複数の周囲管は、何れも管軸が鉛直方向に真っ直ぐな直管であることを特徴とする地中熱交換器。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れかに記載の地中熱交換器であって、
前記複数の周囲管の内径は互いに等しく、
前記周囲管の前記内径の前記複数倍の大きさよりも、前記中央管の内径は大きいことを特徴とする地中熱交換器。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−108655(P2013−108655A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253097(P2011−253097)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)