説明

基材内表面のプラズマ計測方法及びそれに用いる電流計測器

【課題】円筒状内部等へのプラズマ処理にあたって、簡素にかつ詳細にプラズマ状態を計測する方法とそれに用いる電流計測器を提供する。
【解決手段】基材内表面から外面に通じる孔4を設け、円筒状内表面に照射されたイオン3の一部は孔4を通過し、基材表面に平行に設置された可動プローブ5に入射し、電流計6によって電流量を計測し、基材内表面と可動プローブの間隔と前記孔の中心線から電流が計測された可動プローブの位置までの間隔との幾何学的関係から、荷電粒子による電流量および荷電粒子の可動プローブ5への入射角を計測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマを応用した成膜、イオン注入、表面清浄化、等々の基材の表面処理において、基材表面における荷電粒子の電流計測に関するものである。
【背景技術】
【0002】
円筒状部品などの基材にプラズマを用いた成膜処理については、例えば、Nuclear Instruments and Methods in physics Research B 206 (2003) 813-816に円筒内面を円筒内面に配設したリング状可動プローブによってプラズマ密度分布を測定した結果が記載されており、蒸発源から離れた円筒深部になるに従って、プラズマ密度が小さくなっている。このことは円筒内面などを成膜処理する場合、円筒深部にはプラズマが入りにくく、したがって円筒深部へのイオン照射が不十分であったり、あるいは全くできなくなったりしていることを表している。そのため、エッチング不足で基材表面の清浄化が不良となり、その後成膜した膜の密着性が悪くなったり、膜厚均一性が悪くなったりするなどが問題である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Nuclear Instruments and Methods in physicsResearch B 206 (2003) 813-816
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記問題点を解決するためには、その前に円筒内部のような内表面を有する基材の該内表面におけるプラズマ状態を把握することが必要である。
【0005】
本発明は上記プラズマ状態、(より正確には円筒内部のプラズマ密度分布の状態)を前記従来の測定器のように円筒内面にリング状可動プローブを配設する方法ではなく、例えば円筒外部に可動プローブを配設して円筒内面のプラズマ状態を簡素にかつ詳細に把握することのできる、成膜処理などの真空処理におけるプラズマ状態計測方法及びそれに用いる電流計測器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は真空プラズマによって処理する円筒内部のような内表面を有する基材の該内表面におけるプラズマ状態を測定する方法であり、該基材の内表面から外表面に通じるように荷電粒子を取り込むための孔を設けるとともに、該孔より取り込んだプラズマ中の荷電粒子が入射する可動プローブを設け、該可動プローブを可動して該可動プローブに流れる電流を測定し、基材内表面と前記可動プローブの間隔と前記孔の中心線から電流が計測された前記可動プローブの位置までの間隔との幾何学的関係から、荷電粒子による電流量および荷電粒子の前記可動プローブへの入射角を計測することを特徴としている。
【0007】
また、本発明は基材細部の基材の内表面を有する部品にも適用できるが、特に基材が円筒状であることをも特徴としている。
【0008】
また、本発明は前記基材のプラズマ状態計測の対象が真空チャンバー内で複数の基材が接近配置したものであり、相隣合う面内のプラズマであることを特徴としている。
【0009】
ここで、本願では「内表面」という場合は単に基材の内表面だけを指すのではなく、基材が密集して置かれた場合には基材の外表面も内表面と呼ぶことにする。
【0010】
また、本発明では、基材としては、実用部品に限らず、実用部品と略同一形状のダミー部材、特に実用部品と略同形状の内表面を持つダミー部材を用いてもよい。
【0011】
さらに、前記プラズマ状態計測方法を実施するものであって、前記孔を有する基材と前記可動プローブと前記可動プローブに流れる電流を計測する電流計とを具備する電流計測器も特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
プラズマ状態を簡素に、また詳細かつ正確に把握することのできる、成膜処理などの真空処理におけるプラズマ状態計測方法を提供でき、これにより、種々の処理の条件を変化させることによって電流量および入射角が一定の範囲内になるようにすれば、良好なイオン照射、表面清浄化、成膜、などの処理を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に用いる装置構成の概略図である。
【図2】(A),(B)は本発明の他の実施形態に用いる装置構成の概略図である。
【図3】(A),(B)は本発明を実施できる基材形態の例の図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一の実施形態を図1に従って説明する。図示しないが、真空チャンバー内に円筒状の基材1を置き、アルゴンガスを導入し、熱フィラメントをカソードとした電子衝撃型アーク放電を起こすと、チャンバー内にはアルゴンのプラズマ2が生成する。
【0015】
生成したプラズマ2に正の電圧を印加すると、チャンバー内に設置し、アース電位(ゼロボルト)にした円筒状の基材1の内部に、ある一定の深さまでプラズマ2が入り込む。
【0016】
プラズマ2と基材1の間には、プラズマ密度や印加電圧、等々の条件によって、ある厚さのイオンシースが形成される。プラズマ2中のイオン3はこのイオンシースにおける電界によって引き出され、基材1の内表面に照射される。
【0017】
基材1の内表面から外表面に通じる孔4を設け、円筒状内表面に照射されたイオン3の一部は孔4を通過し、基材内外表面に平行に設置された可動プローブ5を、例えば図1に示すように、図示しない昇降手段によって、下から上に向けて可動していけば、ある位置で、あるいはある範囲内でイオン3が可動プローブ5に入射し、最終的には電流計6によってイオンによる電流量が計測される。
【0018】
なお基材1及び可動プローブ5はプラズマ防壁部材8で囲っており、円筒状外表面に生成されるプラズマが可動プローブ5に影響することを防ぐことが必要である。
【0019】
図1において、円筒状基材内表面と可動プローブ5の間隔をx、孔4の中心線7から電流が計測された可動プローブ5の位置までの間隔をlとすると、イオンの基材内表面への入射角θは(1)式のようになる。
【0020】
【数1】

【0021】
可動プローブ5は紙面下から上に向かって、つまり基材である円筒状の基材1の軸方向に動かし、その方向をz軸とし、z軸と孔4の中心線との交点を座標系の原点とする。z軸上におけるイオン3の電流分布関数をI(z)とする。ここで、I(z)は、z軸上において、z~z+dzの微小領域に入射する全イオン電流がI(z)dzとなるように定義された関数とする。可動プローブ5のz軸方向の幅をd、z軸と孔4の中心線に直交する、つまり紙面に垂直な方向の幅は、イオン3の広がりを考慮して、全てのイオン3を計測することができる十分な幅を有しているものとする。そうすると、可動プローブ5で計測するイオン電流Ip(z)は、可動プローブ5の中心位置をzとすると、(2)式のようになる。
【0022】
【数2】

【0023】
ここで、電流分布関数I(z)の不定積分をJ(z)とすると、(3)式のようになる。
【0024】
【数3】

【0025】
(3)式より、両辺をzで微分すると、(4)式が得られる。
【0026】
【数4】

【0027】
(3)式を用いると、(2)式は(5)式のようになる。
【0028】
【数5】

【0029】
ここで、関数J(z)に関して、J(z+1/2d)及びJ(z-1/2d)をマクローリン展開すると、それぞれ(6)(7)式のようになる。
【0030】
【数6】

【0031】
【数7】

ただし、ここではdを十分に小さくするものとして、第2項までで近似している。
【0032】
(6)、(7)式を(5)式に代入すると、(8)式が得られる。
【0033】
【数8】

【0034】
したがって、(4)、(8)式より、(9)式が得られる。
【0035】
【数9】

【0036】
(9)式より、電流分布を表す電流分布関数I(z)は、可動プローブ5で計測するイオン電流Ip(z)を可動プローブ5のz軸方向の幅dで除したものとなり、したがって、両関数のプロファイルは全く等しいものになる。
【0037】
よって、電流分布のピーク値を与えるz軸方向の位置は、可動プローブ5で計測するイオン電流Ip(z)のピーク値を与えるz軸方向の位置と等しくなり、この値を(1)式のlに代入すれば、イオンの基材表面への入射角θを正確に計算することができる。
【0038】
イオンの質量をm、速さをvとすると、イオンの速さ、エネルギーにおける基材内表面への垂直入射成分vx、Exはそれぞれ(10)、(11)式のようになる。
【0039】
【数10】

【0040】
【数11】

【0041】
したがって、(1)式を用いてイオンの入射角θを計測すれば、(10)(11)式を用いてイオンの速さ、エネルギーにおける基材内表面への垂直入射成分vx、Exを求めることができる。
【0042】
この場合、(10)式あるいは(11)式より、イオンの入射角がほぼ垂直であるときは問題が少ないが、入射角が小さくなると、イオンの速さ、エネルギーにおける基材内表面への垂直入射成分vx、Exは小さくなる。
【0043】
そして、アルゴンイオンによる表面エッチング量が減り、基材内表面の清浄化が不十分となり、その後における成膜プロセスによって形成した膜の基材への密着性が悪くなるという不具合が発生する。
【0044】
そこで、イオンの入射角をより大きくするためにはプラズマを円筒内のより深い位置にまで導入する必要があり、その1つの方法として、プラズマ密度をより高くする方法がある。
【0045】
プラズマ密度を高くすることによって、プラズマは円筒内のより深い位置まで導入され、イオンの入射角を上述した方法によってモニターリングし、入射角が所定の範囲内に入るようにすれば、アルゴンイオンによる表面エッチング量が増え、基材内表面の清浄化が十分に行われ、その後における成膜プロセスによって形成した膜の基材への密着性が良好になるのである。
【0046】
なお、全電流量Iについては(12)式のようになる。
【0047】
【数12】

したがって、(9)式を(12)式に代入すると(13)式が得られる。
【0048】
【数13】

【0049】
(13)式より、可動プローブ5でイオン電流Ip(z)を計測すれば、全電流量Iを求めることができる。
【0050】
上記では、図1において、紙面垂直方向のある程度のイオンによる電流分布は考慮しつつも、基材1が円筒形状であることから、紙面垂直方向の入射角度については考慮しなかったが、基材形状によっては紙面垂直方向についても考慮する必要がある。
【0051】
その場合は、別途可動プローブをも紙面垂直方向に可動できるように設置し、上記同様に電流計測を行い、紙面垂直方向でピーク値を与える位置座標をyとし、(y2+z2)1/2を(1)式のzに代入すれば、イオンの基材表面への入射角θを正確に計算することができる。
【0052】
また、図1では、可動プローブ5を紙面上下方向に可動するようにしているが、これはそれに限らず、例えば紙面左右方向に可動するようにしてもよく、要は、幾何学的にイオンの入射角度が計算できるように可動させればよい。
【0053】
さらに、可動プローブ5は板状ないしブロック状のもので、形は四角形、円形、楕円形などでもよい。
【0054】
次に本発明の他の実施形態を図2(A),(B)に従って説明する。なお、図2(A)において図1と同様な部分は省略している。この場合、図2(A)に示すように、真空チャンバー内に基材を近接して配置してプラズマ処理をする場合、隣接する基材の被処理面の間隔が狭い場合である。
【0055】
この場合も、上述した円筒状の基材と同様に示すように、細部にはプラズマが全体に生成しない場合がある。この場合も図1と同様、図2(B)の被処理物11a、11bに示すように孔を設け、図1と同様にプラズマ状態を測定することができる。(この場合も上記したように細部表面を本願では内表面と称することにする。)
【0056】
また、上記した二つの実施形態では基材として円筒状内面および真空チャンバーに複数基材を近接配置した場合に処理面が細部となる基材表面について説明を行った。
ここで、円筒状は、断面が円形、四角形、六角形あるいは楕円形状など、どのような断面形状を持った基材内表面であってもよい。
【0057】
また、基材は図3の(A)、(B)に示すように、L字型アングル状基材内表面、あるいはもっとシャープな形状の基材内表面に処理するものであってもよい。本発明の範囲は、これら基材の細部などにおいて各種表面処理を正常に実施するためのプラズマ計測を行う全てを含むことは言うまでもないことである。
【0058】
また、基材によっては、図1、図2に示しているようにイオンを取り込む孔は複数あっても良く、複数箇所で本発明の方法を実施してもよいことは勿論のことである。
【0059】
なお、以上の実施形態で「基材」と称するものは実際に処理する製品(実用部品)であってもよく、実際に処理する製品と略同形状の部材(ダミー部材)を、特に製品と略同形状の内表面を持つ部材を作製しそれを用いてもよいことは前記したとおりである。
【0060】
なお、本発明の方法を用いれば基材内表面にイオン注入を行い、その後の成膜によって形成した膜の基材への密着性を高くするような場合も同様であり、イオンの注入角度が小さくなると、基材へのイオンの注入深さが浅くなり、十分な密着性を得ることが困難となる場合がある。このような場合も上記同様にイオンの入射角のモニターリングを実施し、イオンの入射角が所定範囲内になるように処理条件を決めることに利用できる。
【0061】
基材内表面に成膜を行う場合でも、イオンの入射角が小さくなると、結晶の配向性が異なってくるなど膜質の変化を生じ、不具合を生じる場合がある。したがって、このような場合も上記同様にイオンの入射角のモニターリングを実施し、イオンの入射角が所定範囲内になるように処理条件を決めることに利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、プラズマ状態(イオンの速さ、エネルギーにおける基材内表面への入射角)を把握することができ、成膜処理などの真空処理におけるプラズマ状態計測方法を提供でき、これにより、種々の処理の条件を変化させることによって電流量および入射角が一定の範囲内になるようにすれば、良好なイオン照射、表面清浄化、成膜などの処理を行うことができる真空処理に利用できる。
【符号の説明】
【0063】
1、11,11a、11b、12、13 基材
2 プラズマ
3 イオン
4 孔
5 可動プローブ
6 電流計
7 孔径の中心線
8 プラズマ防壁部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空プラズマで処理する内表面を有する基材の該内表面におけるプラズマ状態を測定する方法であって、該基材の内表面から外表面に通じるように荷電粒子を取り込むための孔を設けるとともに、該孔より取り込んだプラズマ中の荷電粒子が入射する可動プローブを設け、該可動プローブを可動して該可動プローブに流れる電流を測定し、基材内表面と前記可動プローブの間隔と前記孔の中心線から電流が計測された前記可動プローブの位置までの間隔との幾何学的関係から、荷電粒子による電流量および荷電粒子の前記可動プローブへの入射角を計測することを特徴とするプラズマ状態計測方法。
【請求項2】
前記基材が実用部品と略同一形状のダミー部品である請求項1に記載のプラズマ状態計測方法。
【請求項3】
前記基材内表面を有する基材が円筒状であることを特徴とする請求項1または2に記載のプラズマ状態計測方法。
【請求項4】
前記基材のプラズマ状態計測の対象が真空チャンバー内で複数の基材が接近配置したものであり、相隣合う面内のプラズマであることを特徴とする請求項1乃至3に記載のプラズマ状態計測方法。
【請求項5】
請求項1乃至4に記載のプラズマ状態計測方法を実施するものであって、前記孔を設けた基材と前記可動プローブと前記可動プローブに流れる電流を計測する電流計とを具備する電流計測器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−249099(P2011−249099A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120125(P2010−120125)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)