説明

塗布具

【課題】 拡径部を備えていることにより、使用者が塗布具を振って撹拌体を動かした際に、その撹拌体は拡径部と一様部の間に溜まった沈降物を保持したまま動くことになる。そのため、例えば円柱形のような一様形状の撹拌体よりも沈降物を細かく分散しにくく、インキ流通口で詰まってしまうことがあった。
【解決手段】 経時により沈降する不溶解物質を含有したインキと撹拌体を軸筒に内蔵した塗布具において、前記撹拌体の表面の最大粗さをインキ沈降物に含まれる不溶解物質の粒子径より大きくすると共に、インキ流通口の最小クリアランスより小さくした塗布具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、修正液やマーカー、化粧液のような、経時により沈降する不溶解物質を含有したインキと、インキ沈降物を分散させる為の撹拌部材を軸筒に内蔵した塗布具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
修正液やマーカー、化粧液などのような、経時により沈降する不溶解物質を含有したインキは、振動などの外力を与えずに保管しておくと徐々に不溶解物質が沈降を始める。そのためインキが分離を起こし下層部の粘度が上昇して流動性が悪くなる。さらには沈降物がハードケーキ層を形成してしまうこともある。
一般的に塗布具の弁部開口量は微少なので、不溶解物質が沈降すると先端弁部内で詰まりが発生してインキの出渋りや、最悪の場合は吐出しなくなるという問題が生じる。そこでこの様な特徴を持つインキを軸筒に内蔵した塗布具には、その軸筒内に金属製あるいは金属粉などを含有した樹脂性の撹拌体を入れている。この攪拌体の多くは、表面に凹凸を有さない一様な太さを有する円柱状の棒体で構成されている。これにより塗布具を振った際に沈降物を再分散させることが出来、塗布を行うことが出来るようになっている。
【0003】
ところが、インキ内の沈降物がハードケーキ層になった場合、撹拌体を動かしてハードケーキ層を分散させようとしても、ハードケーキ層は粘度が高く分散しにくい状態になっている。そのため、使用者が撹拌を行っても、十分にインキを撹拌出来ていないこともある。そのような状態で塗布を行った場合、インキ流通口や先端弁部付近で沈降物が詰まる可能性がある。その結果、インキの出渋りや吐出不可能などといった問題が発生する。
【0004】
そこで、このような沈降物を崩しきれないという問題を解決する為に、軸筒内に収容する円柱状の撹拌体の一端を拡径して、撹拌効率を上げることにより、なるべく少ない撹拌回数で迅速に沈降物を分散させるという提案がなされている。(実開平1−107472)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平1−107472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、拡径部を備えていることにより、使用者が塗布具を振って撹拌体を動かした際に、その撹拌体は拡径部と一様部の間に溜まった沈降物を保持したまま動くことになる。そのため、例えば円柱形のような一様形状の撹拌体よりも沈降物を細かく分散しにくく、インキ流通口で詰まってしまうことがあった。
【0007】
そこで本発明は、沈降物がハードケーキ層になって撹拌体が包まれた際でも、撹拌効率が良く、インキ流通口で詰まることがない塗布具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、経時により沈降する不溶解物質を含有したインキと撹拌体を軸筒に内蔵した塗布具において、前記撹拌体の表面の最大粗さをインキ沈降物に含まれる不溶解物質の粒子径より大きくすると共に、インキ流通口の最小クリアランスより小さくしたことを要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、経時により沈降する不溶解物質を含有したインキと撹拌体を軸筒に内蔵した塗布具において、前記撹拌体の表面の最大粗さをインキ沈降物に含まれる不溶解物質の粒子径より大きくすると共に、インキ流通口の最小クリアランスより小さくしたので、インキの沈降物が発生した際の撹拌体の撹拌効率が良い。また、最小クリアランスより小さく沈降物を分散できるので、インキ流通口で詰まることのない塗布具が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施例を示す縦断面図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】図2の要部拡大図である。
【図4】本発明の第1の実施例を示す縦断面図である。
【図5】図1の要部拡大図である。
【図6】第1の実施例において沈降物が生成した際の模式図である。
【図7】図6のA部の拡大図である。
【図8】第2の実施例において沈降物が生成した際の模式図である。
【図9】図8のB部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を実施するための形態を図1〜図3に示し説明する(第1の実施例)。 以下、塗布先部の方向を前方、軸筒の底部の方向を後方と定義する。
参照符号1は軸筒であり、その軸筒1は有底形状をなしていると共に、修正液やマーキングインキ、化粧料などの不溶解物質を含有したインキを内蔵している。本実施例ではインキを修正液とする。
修正液には顔料である酸化チタン粒子100Aと溶媒100Bが含まれており、経時によりインキ下部へと徐々に下がっていき、沈降物100を形成していく。この酸化チタン粒子100Aの径は0.3μm程度である。以下、粒子径とは顔料粒子単体の大きさを指す。また、沈降物100の中では酸化チタン粒子100A同士が結びついているため、粘度が高く流動性がなくなっている。
前記軸筒1は押圧によりインキを吐出できるように、熱可塑性樹脂を用いた可撓性を有するものである。ここで使用する熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリ塩化ビニル、ポリスチレンなどが挙げられる。尚、前記樹脂のリサイクル材料を使用してもよい。また、インキの種類によって材料は適宜使い分けることが出来る。前記軸筒の1の成形法としては、ダイレクトブロー成形、多層ブロー成形、インジェクションブロー成形、射出成形などが挙げられる。本実施例においては可撓性を持つ軸筒としたが、硬質容器にも応用できる。
また、軸筒1の後端部には、底部32が形成されており、その底部32から前方に向けて円柱状のストレート部34が形成されている。このストレート部34は、後述するキャップ21を嵌合する嵌合部ともなっている。一方、軸筒1の前端部にも円柱状のストレート部が形成されており、そのストレート部の外周面には、雄ネジ3が形成されている。さらに、前記円柱状のストレート部34のなかで最も前方方向に位置するストレート部終点35から前記雄ネジ3との間には、軸筒1の最大拡径部40が形成されているが、その最大拡径部40は徐々に拡径され、また、徐々に縮径する形状を有している。
つまり、軸筒1の形状はストレート部終点35から最大拡径部40まで拡径され、最大拡径部40から前方の軸筒1の開口部33の方向に向かって縮径し、前記雄ネジ3が形成される直前まで縮径されている(軸筒縮径終了部26)。これにより後述する撹拌体4は軸筒1の内面に沿って前方に進んでいくと、最終的に軸筒縮径終了部26と軸筒1内部の2点と接触し、塗布具軸心に対してこの2点でなす角度が前軸中筒5の方向に向くように設計されている。尚、軸筒1の形状は塗布先部8が下向きで保存されたことにより前軸中筒5内に沈降物100が発生した際の撹拌を考え、本実施例のように撹拌体4が前軸中筒5内に向き、撹拌体4が前軸中筒5内に入り込みやすい形状にするのが望ましい。
また、前記雄ネジ3には、前軸2が螺着されている。もちろん、その前軸2の内面には、雌ネジ6が形成されており、その雌ネジ6と前記雄ネジ3とが螺合している。前記雄ネジ3と雌ネジ6が螺合することによって、軸筒1を密閉すると共に、インキを密閉するようになっている。そして、その前軸2の内側には前記前軸中筒5が一体に成形されている。
【0012】
前記軸筒1の内部には沈降物100を撹拌する為の撹拌体4が内蔵されている。その撹拌体4は円柱形状をしているが、軸筒1の形状により球形などを選択してもよい。また、撹拌体4の端面を面取り、あるいは半球形に加工してもよい。材質は内蔵するインキに比べて比重が大きい金属や高比重高分子、あるいは金属粉を含有した熱可塑性樹脂でもよい。
撹拌体4の表面粗さは材質や成形方法、表面処理等によって異なるが、本実施例においては表面の最大粗さが2.92μmの冷間圧造用炭素鋼をしている。尚、表面の最大粗さはVK−8500(キーエンス社製、JIS B0601 1994に準拠)を用いて測定し、5点測定した平均値を使用している。尚、測定には50倍レンズを使用し、撮影した画像の中央部分を一辺が10μmの正方形で切り取って測定を行った。
また、前記攪拌体4の重量であるが、生成された前記沈降物100の重量に対して30パーセント以上にするのが好ましい。
【0013】
前記軸筒1の開口部33には、前述の通り内部に前軸中筒5を備える前軸2が螺合し固着するようになっているが、軸筒1と前軸2の固着方法は螺合に捉われることなく、リブを乗り越える接合などでも良い。
前記前軸2の外側には周状のキャップ嵌合用リブ7が形成されている。一方、前軸2の内部前方にはリブ41が形成されている。そのリブ41の後方端面における前軸2の内部の直径(内接円径)は、撹拌体4の直径より大きく設計しており、これにより撹拌体4にて後述するインキ流通穴37を密閉することがないようにしてある。
前軸2の前方には周状の圧入用突起15が形成されている。また、前軸2の前方にはインキを吐出する塗布先部8が形成されている。前軸中筒5内部と塗布先8との間にはインキ流通穴37が設けられている。また、そのインキ流通穴37の前方終了部付近には周状の前軸バネ座部36が設けられている。
前記塗布先部8はチップ9、芯体10、バネ11から構成されている。そのバネ11は芯体10の後方に設けたバネ座部20と前軸バネ座部36により、両端を保持されている。チップ9は芯体10とバネ11を内部に持つような配置になっている。尚、芯体10はバネ11による弾撥力を受け、チップ9と常に接触して弁構造をなしている。以下、詳細に構成を述べる。
前記チップ9は中空形状を有しており、先端吐出口12に向かって段階的に縮径している。その先端吐出口12が最も縮径されており、先端吐出口12の内部の後方には弁座部13が形成されている。また、チップ9の外側には、前記前軸2への圧入のための周状の溝14が形成されている。その周状溝14と、前記圧入用突起15が嵌合して固着している。尚、チップ9の材質は快削ステンレス鋼や洋白、真鍮など切削性のよいものが用いられている。
前記芯体10は中実形状で、先端にチップ9の先端から外部に突出した位置で保持されている塗布部16、中間部に拡径部17、後方に長く伸びた縮径部18の3つで構成されている。その拡径部17の前方には、球面状の弁部19が形成されており、後方にはバネ座部20が形成されている。
前記バネ11は、内部に芯体10の縮径部18が入り込んでおり、後端が前記前軸バネ座部36に、先端が芯体拡径部17の後方の座部20により保持されている。そして、前記芯体10の塗布部16が塗布対象物に押し当てられたときに、芯体10は前記インキ流通穴37後方へ移動する。この時、芯体10が後方に移動することで、芯体の座部20に保持されていたバネ11の先端も後方に移動する。しかし、バネ11の後端はバネ座部36に保持されたままとなる。そのため芯体10を前方に付勢する弾撥力は失わない。
尚、不使用時においては、前記バネ11の弾撥力により芯体10は前方に付勢され、チップ9内部に設けた弁座部13と芯体10に設けた弁部19が圧接することで弁が閉められている。使用時には、前記チップ9から突出した芯体10の塗布部16を紙面に押しつけることで、前記芯体10がバネ11の弾発力に抗しながらも後方に移動し、チップ9内部の弁座部13と芯体10の弁部19との圧接が解除されて弁が開くという構造をなしている。
尚、塗布先部8の構造はチップ9からボールが突出し、そのボールを後方からバネにて付勢して弁構造をなすような構造でもよい。
本実施例におけるインキ流通口の最小クリアランスは、芯体拡径部17とチップ9内面との隙間にあたる。具体的に説明すると、芯体拡径部17の外形は1.09mm、チップの内径は1.14mmになっている。即ち、本実施例における最小クリアランスは0.025mmである。尚、この最小クリアランスは弁部周辺に設定しなくてもよく、各塗布具において自由に設計できる。
【0014】
前記前軸2の前方には、キャップ21が着脱自在に取り付けられており、前記チップ9などを覆っている。即ち、そのキャップ21はチップ9の周辺部に付着したインキの乾燥を防止すると共に、不溶解物質の衣服などへの付着を防止している。そのキャップ21は一方が開口しており、内側に中筒22が設けられていると共に、この中筒22は前軸2のテーパー部23と密着することにより塗布先部8を密閉する役割を果たしている。具体的に説明すると、開口部39の周辺には同心円上にリブ24を複数個設け、このリブ24が前軸2の外側に形成された周状のリブ7を乗り越えることにより嵌合するようになっている。また、キャップ22はクリップ25を一体に成形している。
尚、キャップ25の材質については、塗布先8の保護の観点から、例えば、ポリカーボネートのような耐衝撃性が高い樹脂を用いるのが望ましい。
【0015】
上記塗布具を使用して、経時による沈降物100が発生して、その沈降物100が撹拌体4を覆った場合、使用者は塗布具全体を振って撹拌体4を動かそうとする。
その際、本実施例は撹拌体4表面の最大粗さが、インキの沈降物100に含まれる不溶解物質の粒子径より大きいので、その撹拌体4の周辺に、沈降して互いに結び付いた酸化チタン粒子100Aを、その酸化チタン粒子100Aの粒径より撹拌体4の表面最大粗さが、撹拌体4の移動の際に酸化チタン粒子100Aを引っ掛けることができる。これにより酸化チタン粒子100Aの結合物に対して引き剥がす力を与えることが出来き、その結果、十分に沈降物100を撹拌することが出来る。
また、撹拌体4の表面粗さがインキ流通口の最小クリアランスより小さい値で形成されている為、沈降物100に含まれる酸化チタン粒子100Aの結合物は、インキ流通口の最小クリアランスより小さく分割される。その結果、十分に撹拌されたインキが流通口内で詰まることがなく、吐出される。
【0016】
尚、撹拌体4の表面の最大粗さが、インキ沈降物100に含まれる不溶解物質の粒子径より小さい場合は、撹拌体4表面の凹凸が小さすぎ、酸化チタン粒子100Aを引っ掛けることが出来なくなってしまう。その為、撹拌体4の表面では沈降した酸化チタン粒子100Aの結合物を分割することが出来ず、沈降物100を撹拌する能力が極端に落ちることになる。
また、撹拌体4表面の最大粗さがインキ流通口の最小クリアランスより大きい場合は、撹拌体4表面の凹凸内にインキ流通口の最小クリアランスより大きい沈降物100を保持してしまうことになる。そのため、沈降物100をインキ流通口の最小クリアランスより小さく分割できず、塗布した際に沈降物100がインキ流通口内で詰まり、吐出不可となってしまう。
【0017】
第1の実施例で説明した塗布具を用い、内蔵する撹拌体の表面粗さの種類を変えた実施例と比較例を表1に示す。その実施例と比較例の結果(評価)を表2に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
【表2】

【0020】
次に、第2の実施例について説明する。本例における軸筒51は片方が開口している有底形状であり、修正液やマーキングインキ、化粧料などの不溶解物質を含有したインキを内蔵している。本実施例ではマーキングペンを指しており、インキ内には、粒子径が0.5μmであり、経時と共に沈降物200を生成していく顔料粒子200Aと、溶媒200Bが含まれている。第一実施例と同様、沈降物200の中では顔料粒子200A同士が結びついているため、粘度が高く流動性がなくなっている。
本実施例においては、軸筒51は硬質容器であり、材質はアルミニウムであるが、第1の実施例と同様に押圧によりインキを吐出できるように、熱可塑性樹脂を用いた可撓性を有するものであってもよい。前記熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリ塩化ビニル、ポリスチレンなどが挙げられる。また、前記樹脂のリサイクル材料を使用してもよい。インキの種類によって材料は適宜使い分けることが出来る。その樹脂の成形法としては、ダイレクトブロー成形、多層ブロー成形、インジェクションブロー成形、射出成形などが挙げられる。
前記軸筒51の形状は底部52から開口端部までほぼ一様な円柱形状をなしているが、開口端部の周辺の2ヶ所に、軸筒51を一周するカシメ加工が施されている。これは後述する前軸53と外弁54、バネ受け55の移動や脱落を防止することを目的としている。
【0021】
前記軸筒51の内部にはインキ沈降物200を撹拌する為の撹拌体56が内蔵されている。本実施例の撹拌体56は球形状をしているが、軸筒51の形状により円柱形状や、円柱形状の端面を面取り、あるいは半球形に加工した形状を選択してもよい。材質は内蔵するインキに比べて比重が大きい金属や高比重高分子、あるいは金属粉を含有した熱可塑性樹脂でもよい。
前記撹拌体56の表面粗さは、材質や成形方法、表面処理などによって異なるが、本実施例における攪拌体56の表面の最大粗さは1.80μmであり、その表面にパーカライジング加工を施した鋼球を使用している。尚、その表面の最大粗さはVK−8500(キーエンス社製、JIS B0601 1994に準拠)を用いて測定し、5点測定した平均値を使用している。尚、測定には50倍レンズを使用し、撮影した画像の中央部分を一辺が10μmの正方形で切り取って測定を行った。
また、前記攪拌体56の重量であるが、生成された前記沈降物200の重量に対して30パーセント以上にするのが好ましい。
【0022】
前記軸筒51の開口端部の内側には前述したバネ受け55が設けられている。そのバネ受け55は前述した軸筒51に施されたカシメ加工により軸筒底部52の方向に脱落することのないように固定されている。尚、バネ受け55は有底形状であるが、中心に貫通穴72が形成されており、その貫通穴の周辺に後述する中弁57との接触部64と、バネ63との接触部であるバネ受け座部65がそれぞれ形成されている。
前記バネ受け55の上部には外弁54が保持されている。その外弁54はバネ受け55に対して蓋をするような形になっている。また、外弁54自体はバネ受け55と前軸53に挟まれていると共に、それらバネ受け55と前軸53は前記軸筒51に施されたカシメ加工により固定されているため、外弁54も軸筒51に固定された状態になっている。さらに、外弁54にも中心に貫通穴73が形成されており、外弁54と中弁57とが接触する弁部58が設けられている。
前記バネ受け55と外弁54の貫通穴内には中弁57が設けられている。その中弁57は前方部にペン先59を圧入する為の圧入部60が設けられ、また、中央部には拡径された弁部62を備えている。前記弁部61にはバネ63を保持する為の座部62が形成されており、座部62より後方は段階的に縮径する形状になっている。
前記バネ63は、内部に中弁57が入り込んでおり、後端が前記バネ受け座部65に、先端が中弁57中央部に設けられた座部62により保持されている。また、バネ63により中弁57は前方に付勢されている為、中弁57の弁部61が外弁54の弁部58に密着する。これら、中弁57の弁部61と外弁54の弁部58とによって弁構造をなしている。
前記外弁54の上部にはインキ吸蔵体66が設けられている。これは弁構造が開いた際にインキがボタ落ちすることのないよう、流量を調節する目的で配置されている。そのインキ吸蔵体66の外周には前軸53が設けられている。その前軸53は中空形状であり、内部にペン先圧入部60によって保持されたペン先59が圧入されていると共に、そのペン先59は前軸53先端部から露出している。
尚、本実施例における最小クリアランスは、弁構造が開いた際の中弁57とバネ受け55との隙間であり、具体的には0.05mmに設計されている。
【0023】
前記ペン先59が塗布対象物に押し当てられたときに、そのペン先59は中弁57と共に後方へ移動する。そのため外弁54の弁部58と中弁57の弁部61は接触しなくなり、弁構造が解除されインキが流通することになる。尚、中弁57の後退に連れ、バネ受け55の貫通穴との隙間が徐々に狭くなり、インキ流通路が狭くなる。即ち、ペン先59方向に進行するインキ流通量は徐々に少なくなるように設計されている。しかし、中弁57の後方部の径はバネ受け55の貫通穴72の径より小さく設計されているが、後退時接触部67の径はバネ受け55の貫通穴72より大きく設計されている為、前記中弁57は後退時接触部67がバネ受け55に設けられている接触部64と当たるまで後退する。
この時、前記ペン先59と中弁57が後方に移動することで、中弁座部62に保持されていたバネ63の先端も後方に移動する。しかし、バネ63の後端はバネ受け座部65に保持されたままとなる。そのためペン先59と中弁57を前方に付勢する弾撥力は失わない。従って、前記ペン先59が塗布対象物から離れると、前記中弁57はバネ63の弾撥力によって前方に押し戻されることによって即座に弁構造を形成し、ペン先59へのインキの流通を阻止する。
【0024】
前記前軸53の前方には、キャップ68が着脱自在に取り付けられており、前記ペン先59と前軸53を覆っている。即ち、そのキャップ68はペン先59に付着したインキの乾燥を防止すると共に、インキが衣服などへ不用意に付着するのを防止している。そのキャップ68は一方が開口している。また、そのキャップ68は、外面と内面のどちらも前軸53に合わせた形状になっており、長手方向中心に段部69が設けられている。
また、キャップ68の内面の前記段部69より前方には、エアタイト部70が形成されており、そのエアタイト部70が前軸エアタイト部71に密着することにより、ペン先59を密閉するようになっている。
尚、キャップ68の材質については、耐溶剤性の高いユリア樹脂を使用している。しかし、この樹脂の材質は本実施例に規制されるものではなく、ペン先59の保護の観点から、例えば、ポリカーボネートのような耐衝撃性が高い樹脂を用いてもよい。
【0025】
上記塗布具を使用して、経時による沈降物200が発生して撹拌体56を覆った場合、使用者は塗布具全体を振って撹拌体56を動かそうとする。
その際、本実施例は撹拌体56表面の最大粗さが、インキの沈降物200に含まれる不溶解物質の粒子径より大きいので、その撹拌体56の周辺に沈降して互いに結び付いた顔料粒子200Aを、その顔料粒子200Aの径より大きな撹拌体56の表面最大粗さが、撹拌体56の移動の際に顔料粒子200Aを引っ掛けることができる。これにより顔料粒子200Aの結合物に対して引き剥がす力を与えることが出来き、その結果、十分に沈降物200を撹拌することが出来る。
また、インキ流通口の最小クリアランスより小さい値で撹拌体56の表面粗さが形成されている為、沈降物200に含まれる顔料粒子200Aの結合物は、インキ流通口の最小クリアランスより小さく分割される。その結果、十分に撹拌されたインキが流通口内で詰まることがなく、塗布することが出来る。
【0026】
尚、前記撹拌体56表面の最大粗さが、インキ沈降物200に含まれる不溶解物質の粒子径より小さい場合は、撹拌体56表面の凹凸が小さすぎ、顔料粒子200Aを引っ掛けることが出来なってしまう。その為、撹拌体56の表面では、沈降した顔料粒子200Aの結合物を分割することが出来ず、沈降物200を撹拌する能力が極端に落ちることになる。
また、撹拌体56表面の最大粗さがインキ流通口の最小クリアランスより大きい場合は、撹拌体56表面の凹凸内にインキ流通口の最小クリアランスより大きい沈降物を保持してしまうことになる。そのため、沈降物200をインキ流通口の最小クリアランスより小さく分割できず、塗布した際に沈降物200がインキ流通口内で詰まり、吐出不可となってしまう。
【0027】
第2の実施例で説明した塗布具を用い、内蔵する撹拌体の表面の粗さの種類を変えた実施例と比較例を表3に示す。前記実施例と比較例の結果(評価)を表4に示す。
【0028】
【表3】

【0029】
【表4】

【符号の説明】
【0030】
1 軸筒
2 前軸
3 雄ネジ
4 撹拌体
5 前軸中筒
6 雌ネジ
7 キャップ嵌合用リブ
8 塗布先部
9 チップ
10 芯体
11 バネ
12 先端吐出口
13 チップ弁座部
14 周状溝
15 圧入用突起
16 塗布部
17 拡径部
18 縮径部
19 芯体弁部
20 バネ座部
21 キャップ
22 キャップ中筒
23 前軸テーパー部
24 リブ
25 クリップ
26 軸筒縮径終了部
32 軸筒底部
33 軸筒開口部
34 ストレート部
35 ストレート部終点
36 前軸バネ座部
37 インキ流通穴
39 キャップ開口部
40 軸筒最大拡径部
41 リブ
51 軸筒
52 軸筒底部
53 前軸
54 外弁
55 バネ受け
56 撹拌体
57 中弁
58 外弁弁部
59 ペン先
60 ペン先圧入部
61 中弁弁部
62 中弁座部
63 バネ
64 接触部
65 バネ受け座部
66 インキ吸蔵体
67 後退時接触部
68 キャップ
69 キャップ段部
70 キャップエアタイト部
71 前軸エアタイト部
72 バネ受け貫通穴
73 外弁貫通穴
100 沈降物
100A 酸化チタン粒子
100B 溶媒
200 沈降物
200A 顔料粒子
200B 溶媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経時により沈降する不溶解物質を含有したインキと撹拌体を軸筒に内蔵した塗布具において、前記撹拌体の表面の最大粗さをインキ沈降物に含まれる不溶解物質の粒子径より大きくすると共に、インキ流通口の最小クリアランスより小さくした塗布具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−158094(P2012−158094A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19212(P2011−19212)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000005511)ぺんてる株式会社 (899)
【Fターム(参考)】