説明

塗料組成物およびそれを用いた絶縁電線

【課題】
耐摩耗性、耐熱性、可とう性および密着性に優れた絶縁被膜(絶縁層)を形成することが可能な塗料組成物およびそれを用いた絶縁電線を提供する。
【解決手段】
ポリアミドイミド樹脂(a)と、ポリアミドイミド樹脂(a)100質量部に対して、ビフェニル基を有するエポキシ樹脂(b)1〜90質量部と、を含有する塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗料組成物、特に、ポリアミドイミド樹脂を含む塗料組成物、当該塗料組成物による絶縁被膜(絶縁層)を形成してなる絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁電線(エナメル線)は、銅線、銅クラッド線、アルミニウム線などの導体に直接あるいは他の絶縁層を介して、電気絶縁塗料を塗布焼付けし電気絶縁皮膜(絶縁層)を形成させることで得られる。
【0003】
中でもポリアミドイミド(電気絶縁)塗料を用いたポリアミドイミド絶縁電線は、耐熱性、耐傷性が他の絶縁電線と比較し良好なことから、例えば、産業用や自動車用のモータ等に幅広く利用されている。
【0004】
絶縁電線には、十分な信頼性を確保するために、優れた耐熱性が要求される。また、近年、種々の技術分野で、モータの小型化及び軽量化への要求が強くなっており、これに伴って、モータに用いられる絶縁電線の占積率(一定空間内に占める絶縁電線密度)が高まってきている。
【0005】
これらの要求に対応するために、絶縁電線をモータなどのコアスロットに挿入する工程で、より多くの絶縁電線をコアスロット内に挿入する必要がある。この様な場合、隣接する絶縁電線間および絶縁電線とコアスロットとの摩擦などによって、絶縁電線の絶縁層に加わる機械的負荷が大きくなる場合がある。絶縁電線に対する機械的負荷が大きくなると、絶縁電線の絶縁層が損傷し、レアショートなどの不具合を引き起こし、ひいては、モータの信頼性が大きく損なわれる場合がある。
【0006】
このようなことから、絶縁電線の絶縁層が機械的負荷に耐えられるように絶縁電線の絶縁層の被膜強度を上げる試みがなされている(例えば特許文献1、2および3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−225830号公報
【特許文献2】特開平7−21849号公報
【特許文献3】特開2007−270074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の従来技術による絶縁電線は、耐傷性に優れるものの、絶縁電線の可とう性や密着性が必ずしも十分ではなく、耐熱性にも劣る場合があった。
【0009】
更に、特に、コアスロットに挿入される絶縁電線には、その挿入工程において過度の曲げや伸びが加わるため、絶縁層の耐傷性のみならず、過度の曲げや伸びに対する可とう性および絶縁層と下地(導体や他の絶縁層)との密着性の向上が要求される。
【0010】
そこで、本発明の課題は、耐熱性、耐摩耗性、可とう性および密着性に優れた絶縁被膜(絶縁層)を形成することが可能な塗料組成物を提供することを課題とする。
【0011】
また、本発明は、上記塗料組成物による絶縁層を形成してなる絶縁電線を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題に鑑み、本発明者等が鋭意検討した結果、ポリアミドイミド樹脂を含む塗料組成物において、ビフェニル基を有するエポキシ樹脂を配合することにより、絶縁被膜の耐傷性(耐摩耗性)、耐熱性(耐軟化性)、可とう性および密着性を向上させることができることを見出し、本発明に至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(4)に関する。
(1)ポリアミドイミド樹脂(a)と、ポリアミドイミド樹脂(a)100質量部に対して、1〜90質量部のビフェニル基を有するエポキシ樹脂(b)と、を含有する塗料組成物。
(2)ポリアミドイミド樹脂(a)100質量部に対して、ビフェニル基を有するエポキシ樹脂(b)5〜50質量部を含有する、(1)に記載の塗料組成物。
(3)(1)又は(2)に記載の塗料組成物を、導体上に直接又は他の絶縁層を介して、塗布した後、焼付けしてなる絶縁電線。
(4)(3)に記載の絶縁電線の表面に潤滑層を設けること、を特徴とする絶縁電線。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、耐摩耗性、耐熱性(耐軟化性)、可とう性および密着性に優れた絶縁皮膜(絶縁層)を形成することが可能な塗料組成物およびそれを用いて塗布焼付けしてなる絶縁電線が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を、実施の形態に即して詳細に説明する。
【0016】
[塗料組成物]
本発明の塗料組成物は、ポリアミドイミド樹脂(a)と、ポリアミドイミド樹脂(a)100質量部に対して、1〜90質量部のビフェニル基を有するエポキシ樹脂(b)と、を含有する事を特徴とする。以下、成分毎に説明する。
【0017】
ポリアミドイミド樹脂(a)
ポリアミドイミド樹脂(a)としては、分子内にアミド結合(−NHCO−)とイミド結合(−CO−N−CO−)を、複数有する樹脂であれば特に制限されず、通常公知のポリアミドイミド樹脂を使用することができる。
【0018】
ポリアミドイミド樹脂(a)の数平均分子量は、10,000〜50,000、特に12,000〜35,000、さらには18,000〜30,000の範囲が好ましい。数平均分子量が10,000未満の場合、得られる電気絶縁皮膜の強度及び耐熱性が十分でなくなるおそれがあり、50,000を超えると、各種溶媒に溶解させた際の塗料の粘度が高くなり、塗布焼付け作業が難しくなるおそれがある。また、本発明におけるポリアミドイミド樹脂溶液の粘度は、塗布焼付けの作業性を良好にする観点から、30℃で10〜10,000mPa・s、特に50〜10,000mPa・s、さらには50〜5,000mPa・sの範囲が好ましい。
【0019】
さらに、ポリアミドイミド樹脂(a)の含有量は、塗料組成物全体に対して、10〜50質量部、特に10〜45質量部、さらには15〜40質量部の範囲が好ましい。ポリアミドイミド樹脂(a)は、単一のものを用いても良く、複数のものを組み合わせて用いてもよい。
【0020】
ポリアミドイミド樹脂(a)の製造方法としては、特に制限されないが、例えば、以下の方法があげられる。
1)有機ポリイソシアネート化合物(a−1)とポリカルボン酸化合物(a−2)とを脱炭酸反応させる方法。
2)ポリアミノ化合物とポリカルボン酸化合物(a−2)とを脱水反応させる方法。
3)ポリアミノ化合物とトリメリット酸クロライドなどの酸クロライドを脱塩酸反応させる方法、
4)ポリアミノ化合物とポリカルボン酸化合物(a−2)とをイミド化反応させたのち、残ったカルボキシル基に有機ポリイソシアネート化合物(a−1)を脱炭酸反応させてアミド化する方法。
【0021】
これらのうち、合成後のポリアミドイミド樹脂溶液の安定性が良好である点で1)および4)の方法が好ましく、更に合成が比較的容易な点で1)の方法が好ましい。
【0022】
有機ポリイソシアネート化合物(a−1)とポリカルボン酸化合物(a−2)とを脱炭酸反応させポリアミドイミド樹脂(a)を合成する方法としては、有機ポリイソシアネート化合物(a−1)とポリカルボン酸化合物(a−2)と、を反応溶媒に溶解し、80〜200℃、好ましくは80〜150℃に加熱昇温しながら、副生する炭酸ガスを系外に除去しアミド化とイミド化の反応を行う。
【0023】
反応の進行状況は、反応途中で試料を採取し、合成物の粘度および/またはゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分子量を測定することにより、モニタリングすることができる。
【0024】
反応が終了した時点で、ポリアミドイミド樹脂(a)の合成を終了させるために、直ちに冷却するか、あるいは貯蔵安定性が更に向上する点で好ましくはメタノール、エタノール、オクタノール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ベンジルアルコールなどのアルコール類;MEKオキシムなどのオキシム類;ε−カプロラクタムなどのラクタム類をそれぞれ単独あるいは2種以上加え、未反応のイソシアネート基をブロックした後、あるいはブロックと同時に冷却するなどして反応を停止し、ポリアミドイミド樹脂(a)からなる溶液を得る。
【0025】
上記1)〜4)に代表されるポリアミドイミド樹脂(a)の合成方法に用いられる有機ポリイソシアネート化合物(a−1)としては、イソシアネート基が芳香族炭素と結合している芳香族系有機ポリイソシアネートや、イソシアネート基が脂肪族炭素と結合している脂肪族系ポリイソシアネートが挙げられる。
【0026】
芳香族系ポリイソシアネートとしては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジフェニルメタンジイソシアネート、あるいはこれらの混合物等のMDI系ポリイソシアネート;2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、あるいはこれらの混合物等のTDI系ポリイソシアネート;この他の芳香族ポリイソシアネートとして、p−フェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアナート、3,3’−ジメトキシビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、ビフェニル−3,4’−ジイソシアネ−ト、2,2’− ジエチルビフェニル− 4,4’−ジイソシアネ−ト、ナフタレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート、3,3’−ジフェニルエーテルジイソシアネートなどが挙げられる。
【0027】
脂肪族系ポリイソシアネートとしては、キシリレンジイソシアネート等の脂肪族炭素と結合しているイソシアネート基および芳香環を有する芳香脂肪族ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、ブチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート;シクロヘキサンジイソシアネート、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート等の脂環族ポリイソシアネートなどが挙げられる。
【0028】
また、これらポリイソシアネートの変性体として、カルボジイミド変性体、ヌレート変性体、ビウレット変性体、アロファネート変性体、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(クルードMDI、ポリメリックMDI)なども挙げられる。これらの有機ポリイソシアネート化合物およびそれらの変性体はそれぞれ単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
これらのうち、得られるポリアミドイミド塗料を塗布焼付けして形成される絶縁電線の絶縁皮膜の耐熱性や耐傷性が良好な点で、芳香族系ポリイソシアネートおよびその変性体が好ましく、さらにMDI系ポリイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアナート、ナフタレンジイソシアネートおよびその変性体が好ましい。また、特に、入手のし易さやコストメリットの観点から、MDI系ポリイソシアネートおよびその変性体が好ましく、特に4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートおよびその変性体が好ましい。
【0030】
ポリカルボン酸化合物(a−2)としては、トリメリット酸、トリメリット酸無水物、テトラカルボン酸二無水物(ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5,6−ピリジンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−スルホニルジフタル酸二無水物、m−タ−フェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス[4−(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス[4−(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ−[2,2,2]−オクト−7−エン−2:3:5:6−テトラカルボン酸二無水物等)、脂肪族ジカルボン酸(コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、デカン二酸、ドデカン二酸、ダイマー酸等)、芳香族ジカルボン酸(イソフタル酸、テレフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、オキシジ安息香酸等)などが挙げられる。これらは単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
これらの中で、入手のし易さやコストメリットがあり、有機ポリイソシアネート化合物(a−1)との反応のし易さ、得られる絶縁皮膜の耐熱性や耐傷性が良好な点でトリメリット酸、トリメリット酸無水物および芳香族ジカルボン酸が好ましく、更にトリメリット酸無水物が好ましい。
【0032】
ポリアミドイミド樹脂(a)を合成する際に使用できる反応溶媒又は反応終了後の希釈溶媒としては、通常公知の有機溶媒を使用することができる。例えば、n−ヘキサン、2−メチルペンタン、n−ヘプタン、n−オクタン、2,2,3−トリメチルペンタン、2,2,4−トリメチルペンタン、n−ノナン、2,2,5−トリメチルヘキサン、n−デカン、n−ドデカンなどの脂肪族炭化水素系溶剤;シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素系溶剤;キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、ブチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ペンチルベンゼン、ジペンチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、ナフタレン、テトラリン、ビフェニルなどの芳香族炭化水素系溶剤;メタノール、エタノール、2 −エチルヘキサノール、ステアリルアルコール、ベンジルアルコールなどの脂肪族アルコール系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸ブチル、ステアリン酸ブチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸ブチル、マロン酸ジエチルなどのエステル系溶剤;メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、イソホロン、アセトフェノンなどのケトン系溶剤;N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、γ−ブチロラクトン等の非プロトン系極性有機溶剤;2−メトキシエチルアセタート、2−エトキシエチルアセタートなどが挙げられる。また、ジメチルスルホキシド、石油ナフサ、コールタールナフサ、ソルベントナフサなどやこれらの混合物があげられる。これらは単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらのうち、上記1)記載の方法に用いられる有機溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、γ−ブチロラクトン等の非プロトン系極性有機溶剤が好ましい。
【0033】
また、ポリアミドイミド樹脂(a)を合成する際に、あるいは得られたポリアミドイミド樹脂溶液に、必要に応じて、触媒を添加することが出来る。触媒としては、具体的には、有機金属化合物として、オクチル酸錫、オクテン酸錫、ナフテン酸錫等の2 価の有機錫化合物、ジブチル錫ジオクトエート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジマレエート、ジブチル錫ジステアレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジバーサテート、ジブチル錫オキサイド、ジブチル錫ビス(トリエトキシシリケート)、ジブチル錫オキサイドとフタル酸エステルとの反応物等の4価の有機錫化合物、ジブチル錫ビス(アセチルアセトナート)、錫系キレート化合物の旭硝子社製EXCESTARC−501、ジルコニウムテトラキス(アセチルアセトナート)、チタンテトラキス(アセチルアセトナート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトナート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アセチルアセトンコバルト、アセチルアセトン鉄、アセチルアセトン銅、アセチルアセトンマグネシウム、アセチルアセトンビスマス、アセチルアセトンニッケル、アセチルアセトン亜鉛、アセチルアセトンマンガン等の各種金属のキレート化合物、オクチル酸鉛等の有機酸鉛塩、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラプロピルチタネート等のチタン酸エステル類、オクチル酸ビスマス、ビスマスバーサテイト等の有機ビスマス化合物、アミン化合物として、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリエチレンジアミン、ヘキサメチレンテトラミン、1,8−ジアザビシクロ〔5,4,0〕ウンデセン−7(DBU)、1,4−ジアザビシクロ〔2,2,2〕オクタン(DABCO)、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等の第3級アミン類、あるいはこれらのアミン類とカルボン酸等の塩類が挙げられる。これらは単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0034】
上で説明したようなポリアミドイミド樹脂(a)として、代表的なものは、例えば、下記一般式(I)で表される構成単位を有するポリアミドイミド樹脂である。
【0035】
【化1】


(式中、Rは、下記式(i)〜(iv)の何れかで表される2価の基を表す。
【0036】
【化2】


(式中、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基を意味し、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数1〜4のアルコキシ基を意味する。))
【0037】
ビフェニル基を有するエポキシ樹脂(b)
本発明におけるビフェニル基を有するエポキシ樹脂(b)は、ビフェニル基およびエポキシ基を有する樹脂であれば特に制限はない。反応性の点からその樹脂の末端にエポキシ基を1つ以上有しているものが好ましく、更にその樹脂の末端にエポキシ基を2つ以上有しているものが好ましく、より更に入手のし易さから、エポキシ基を含む基としてグリシジル基を有するものが好ましく、特に耐熱性の点で、ガラス転移温度が100℃以上であるものが好ましい。
【0038】
ビフェニル基を有するエポキシ樹脂(b)の含有量は、ポリアミドイミド樹脂(a)100質量部に対して、1〜90質量部が好ましく、更に5〜50質量部が好ましく、特に8〜30質量部が好ましい。ビフェニル基を有するエポキシ樹脂(b)の含有量が1質量部未満であると絶縁電線の耐熱性(耐軟化性)、密着性および耐摩耗性の改善効果が低く、90質量部を超えると絶縁電線の耐熱性(耐軟化性)が大幅に低下する可能性があり好ましくない。
【0039】
更にビフェニル基を有するエポキシ樹脂(b)の分子量(分子量分布を有する化合物である場合には、数平均分子量を意味する。)は、耐熱性の点で、8,000〜30,000、特に8,000〜20,000の範囲が好ましい。ビフェニル基を有するエポキシ樹脂(b)が分子量分布を有する場合には、その分散度(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定により算出した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比=Mw/Mn)は、ポリアミドイミド樹脂(a)との相溶性の観点から、3.0以下であることが好ましい。なお、ビフェニル基を有するエポキシ樹脂(b)の分子量測定条件は、以下の通りである。
<平均分子量の測定方法>
装置:HLC−8220(東ソー社製)
検出器:RI(示差屈折率)
展開溶媒:THF(テトラヒドロフラン)
流速:0.3ml/min
温度:40℃
【0040】
代表的なビフェニル基を有するエポキシ樹脂(b)としては、下記一般式(II)で表される基を有するエポキシ樹脂があげられる。
【0041】
【化3】

【0042】
上記式(II)中、Rは互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基又はハロゲン原子である。
【0043】
得られる絶縁電線の耐熱性や耐傷性の点から、特にビフェノール類とエピハロヒドリンとの反応によって得られるエポキシ樹脂が好ましい。
【0044】
ビフェノール類とエピハロヒドリンとの反応によって得られるエポキシ樹脂は、従来公知の方法で製造されるものが使用できる。
【0045】
具体的には、ビフェノール類とエピハロヒドリンと、場合によっては更に他のフェノール類とを反応触媒を用いて40〜120℃で反応させた後、得られた反応物から未反応のエピハロヒドリンなどの不純物を取り除き、次いで有機溶剤に溶解させアルカリ金属の水酸化物を加えて閉環反応させることにより得られる。
【0046】
ビフェノール類としては、具体的には、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラエチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラプロピル−4,4’−ジヒドロキシビフェニルなどが挙げられ、これらはそれぞれ単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0047】
エピハロヒドリンとしては、具体的には、エピクロルヒドリン、エピブロムヒドリンが挙げられ、特にエピクロルヒドリンが好ましい。なお、エピハロヒドリンの使用量は、ビフェノール類と後述する他のフェノール類のフェノール性水酸基の総モル数に対して1〜20モルが好ましく、更に3〜10モルが好ましい。
【0048】
他のフェノール類としては、具体的には、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、レゾルシン、ハイドロキノン、テトラメチルビフェノール、ジヒドロキシナフタレンなどの種々の多価フェノール類;フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂、ナフトールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂などの種々の多価フェノール樹脂類;種々のフェノール類と、ヒドロキシベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、グリオキザールなどの種々のアルデヒド類との縮合反応で得られる多価フェノール樹脂類などが挙げられる。これらはそれぞれ単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0049】
反応触媒としては、具体的には、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムブロマイドなどの第四級アンモニウム塩類;ベンジルジメチルアミン、2,4,6−(トリスジメチルアミノメチル)フェノールなどの第三級アミン類;2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾールなどのイミダゾール類;エチルトリフェニルホスホニウムアイオダイドなどのホスホニウム塩類;トリフェニルホスフィンなどのホスフィン類などを挙げることができる。これらはそれぞれ単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0050】
有機溶剤としては、具体的には、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールモノエーテル類;ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどの非プロトン性極性溶媒等の不活性有機溶媒があげられる。これらはそれぞれ単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0051】
閉環反応において使用するアルカリ金属水酸化物としては、具体的には、NaOH又はKOHを挙げることができる。
【0052】
アルカリ金属水酸化物の使用量は、閉環反応に用いる反応物中の可鹸化ハロゲン量1モル当り1〜10モルが好ましい。アルカリ金属水酸化物の使用量が1未満であると可鹸化ハロゲン量を充分に低下させることができず、またその使用量が10を超えると高分子化合物が生成するなどの副反応が増加するので好ましくない。
【0053】
その他の成分
本発明の塗料組成物には、ポリアミドイミド樹脂(a)とビフェニル基を有するエポキシ樹脂(b)の他に更に潤滑性付与剤、密着性付与剤、酸化防止剤、フィラーなどの各種の添加剤をそれぞれ単独あるいは2種以上含有することができる。
【0054】
潤滑性付与剤としては、具体的には、天然ワックス、合成ワックスなどが挙げられる。天然ワックスとしては、カルナバックス、キャンデリラワックス、木ロウ等の植物系ワックス; 蜜蝋、セラック蝋等の動物系ワックス、モンタンワックス等の鉱物系ワックスなどが挙げられる。合成ワックスとしては、ポリエステル、脂肪族アマイド、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、これらを酸化あるいは酸変性して分子中にカルボキシル基を導入したもの、これらに無水マレイン酸、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル等のビニル系モノマーを共重合したものなどで分子量10,000以下のものが挙げられる。合成ワックスの一般市販品としては、三井化学社製ハイワックスシリーズの100P、200P、400P、110P、220P、320P、420P、4202E、4052E、220MP、320MP、405MP、1105A、2203A;ヤスハラケミカル社製ネオワックスシリーズのE 、E−20、E−3、AE−3などが挙げられる。これらはそれぞれ単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0055】
潤滑性付与剤の添加量は、ポリアミドイミド樹脂(a)100質量部に対して0.5〜20質量部が好ましく、更に1〜10質量部が好ましく、特に1〜5質量部が好ましい。潤滑性付与剤の添加量が0.5質量部未満では潤滑の効果が発現しにくく、20質量部を超えるとポリアミドイミド樹脂(a)との相溶性が悪化し、また塗料組成物の貯蔵安定性が悪化し、更に得られる絶縁電線の冷媒、溶媒に対する抽出物が増加し耐冷媒性が低下する場合があるため好ましくない。
【0056】
密着性付与剤としては、具体的には、メラミンまたはその誘導体とホルムアルデヒドの反応物、そのブトキシ化またはそのメトキシ化、メラン20、メラン326B、CYMEL−300などのアミノ樹脂、2−メルカプトイミダゾリン、2−メルカプトチアゾリン、2−メルカプト−1−メチルイミダゾール、5−アミノ−1,3,4−チアジアゾール−2−チオール、2−メルカプトベンズオキサゾール、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプトベンズチアゾール、1H−1,2,4−トリアゾール−3−チオール、2−メルカプトピリジン、2−メルカプトキノリン、1,2−ナフチル(2−メルカプト)オキサゾールなどのヘテロ環状メルカプタンなどが挙げられる。
【0057】
密着性付与剤の添加量は、ポリアミドイミド樹脂(a)100質量部に対して0.01〜5質量部が好ましく、更に0.05〜3質量部が好ましい。密着性付与剤の添加量が0.01質量部未満では密着性付与剤としての効果が発現しにくく、5質量部を超えると得られる絶縁電線の冷媒、溶媒に対する抽出物が増加し耐冷媒性が低下する場合があるため好ましくない。
【0058】
酸化防止剤としては、具体的には、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4’−チオビス−(6−t−ブチル−3−メチルフェノール) 、2,2’−メチレンビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス−(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、3−ヒドロキシ−5,7−ジ−t−ブチル−フラン−2−オンとo−キシレンの反応性生物、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,3’,3'',5,5',5''−ヘキサ−t−ブチル−a,a',a''−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾールなどがその代表である。例えば、大内新興化学工業社製ノクラック200、ノクラック300、ノクラック400、ノクラック500、またはチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製イルガノックスHP2215、イルガノックスHP2225、イルガノックスHP2251、イルガノックスHP2921、イルガノックスHP2411、イルガノックスHP2341などが挙げられる。これらはそれぞれ単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0059】
酸化防止剤の添加量は、ポリアミドイミド樹脂(a)100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましく、更に0.1〜5質量部が好ましい。酸化防止剤の添加量が0.1質量部未満ではその効果が小さく、10質量部を超えると得られる絶縁皮膜(絶縁層)と導体あるいは他の絶縁層との密着性が低下する場合があるため好ましくない。
【0060】
フィラーとしては、具体的には、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、炭化ケイ素、炭化チタン、炭化ホウ素、タングステンカーバイド、窒化ホウ素、窒化ケイ素などが挙げられる。フィラーの添加量は、ポリアミドイミド樹脂(a)100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましく、更に0.1〜5質量部が好ましい。フィラーの添加量が0.1質量部未満ではその効果が小さく、10質量部を超えると得られる絶縁電線の絶縁皮膜(絶縁層)と導体あるいは他の絶縁層との密着性が低下する場合や可とう性が悪くなる場合があるため好ましくない。
【0061】
上記添加剤の合計量は、ポリアミドイミド樹脂(a)100質量部に対して、0.01〜30質量部が好ましく、さらに0.01〜20質量部が好ましい。
【0062】
[絶縁電線]
本発明の塗料組成物を、導体の表面に直接あるいは他の絶縁層を介して塗布焼付けして絶縁皮膜(絶縁層)を形成することにより、本発明の絶縁電線を得ることができる。また、本発明の塗料組成物を塗布焼付けし形成した絶縁皮膜(絶縁層)の上に、さらに他の絶縁層を設けることもできる。
【0063】
導体としては、銅、ニッケルメッキ銅、銅クラッドアルミニウム、アルミニウム、金、金メッキ等などの金属で形成された線状または板状の導線(電線)が挙げられる。電線の断面形状は、特に制限されないが、具体的には、通常多く使用される円形の丸電線や、四角形または長方形などの平角電線に好適に使用することができる。
【0064】
また、他の絶縁層としては、具体的には、ポリビニルホルマール、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエステルイミド、ポリヒダントイン、ポリアミドイミド、ポリイミドなどの各種の絶縁層が挙げられる。
【0065】
本発明の塗料組成物による絶縁皮膜(絶縁層)の形成には、従来公知のあらゆる方法を採用することができる。具体的には、導体上あるいは他の絶縁層を介してコーターロールなどを用いて塗料組成物を塗布した後、フェルト絞り方式やダイス絞り方式などにより、その塗布量を調整し、次いで該塗料を塗布した電線を250〜700℃、好ましくは250〜550℃の焼付炉の中に通し塗料組成物を焼付し絶縁皮膜を形成させる。この作業を1回あるいは複数回連続して繰り返すことにより、所望の厚さの絶縁皮膜を形成する。前記絶縁皮膜の厚さは特に限定されず、使用する電線の導体の太さや要求性能により適宜選択すればよい。導体に直接塗布または他の絶縁層を介して塗布する場合、電線の直径が0.3〜1.5mmφであれば、本発明の塗料組成物によって形成される絶縁皮膜(絶縁層)の厚さは、3〜100μmが好ましく、さらに10〜50μmが好ましい。3μm未満では絶縁性能に乏しく、100μmを超えると塗膜が厚くなりすぎ可とう性に乏しいものとなるので好ましくない。
【0066】
また、本発明の絶縁電線の表面に潤滑性を付与するために潤滑層を設けることができる。潤滑層は本発明の塗料組成物を塗布焼付けし絶縁層を有する絶縁電線を得た後で、ボビンに巻き取られる前に潤滑剤を絶縁層表面に塗布するかあるいは絶縁電線をボビンに巻き取った後、コイルやモータの加工工程前に絶縁層表面に塗布する。
【0067】
潤滑剤としては、具体的には、流動パラフィン、固形パラフィン、ポリエステルワックス、ポリオレフィンワックス、酸化型ポリオレフィンワックス、アマイドワックス、フッ素系ワックス、シリコーン系ワックス、スピンドル油、冷媒機油などが挙げられる。これらはそれぞれ単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0068】
潤滑剤の塗布方法としては、コーターロール等を用いて絶縁電線の表面に塗布した後、フェルト絞りなどによりその塗布量を調整するか、あるいは潤滑剤をフェルトに予め染み込ませておき直接塗布する。
【0069】
潤滑層を設けた潤滑性を有する絶縁電線を使用することにより、コイルやモータなどの加工時に生じる電線間あるいは電線とコアスロットとの機械的負荷を更に低減できるため絶縁皮膜の損傷を受けにくくなる。
【0070】
本発明の絶縁電線の用途は、特に制限されないが、本発明の絶縁電線は、耐熱性(耐軟化性)、耐傷性(耐摩耗性)、可とう性および密着性に優れていることから、特に、産業用や自動車用のモータ等に好適に使用することができる。
【実施例】
【0071】
以下、本発明について合成例、実施例等により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0072】
[測定条件]
平均分子量の測定方法
カラム:島津製作所社製 GPC−805D及びGPC−803D
検出器:示差屈折検出器(RID−10A)
展開溶媒:DMF(LiBr含有)
溶質濃度:0.03g/ml
標準物質:東ソー社製、ポリスチレン
流速:1.0ml/min
温度:40℃
粘度の測定条件
30℃ B型粘度計
【0073】
[合成例1] ポリアミドイミド樹脂溶液AI−1の合成
攪拌機、温度計、還流コンデンサーの付いた加熱・冷却装置付き反応容器に、N−メチル−2−ピロリドンを471g仕込み、攪拌しながら4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業社製、ミリオネートMT、分子量250)を184gおよびトリメリット酸無水物(三菱ガス化学社製、分子量192)を139g仕込んだ。次いで炭酸ガスの発生が急激にならないように加熱し、炭酸ガスを系外へ排出しながら100〜120℃で3時間反応した後、希釈溶媒としてジメチルホルムアミドを202g、封止剤としてメタノールを5gそれぞれ仕込み、混合しながら40℃以下に冷却しポリアミドイミド樹脂溶液AI−1を合成した。
【0074】
得られたポリアミドイミド樹脂溶液AI−1の30℃における粘度は、1,800mPa・s、理論樹脂固形分濃度が28質量%、還元粘度が0.39、GPC測定により算出した数平均分子量は23,800であった。
【0075】
[合成例2 ポリアミドイミド樹脂溶液AI−2の合成]
攪拌機、温度計、還流コンデンサーの付いた加熱・冷却装置付き反応容器に、N−メチル−2−ピロリドンを483g仕込み、攪拌しながら4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業社製、ミリオネートMT、分子量250)を86g、3,3’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアナート(日本ソーダ社製、分子量264)を91g、トリメリット酸無水物(三菱ガス化学社製、分子量192)を130g仕込んだ。次いで炭酸ガスの発生が急激にならないように加熱し、炭酸ガスを系外へ排出しながら100〜120℃で3時間反応した後、希釈溶媒としてジメチルホルムアミドを207g、封止剤としてメタノールを5gそれぞれ仕込み、混合しながら40℃以下に冷却しポリアミドイミド樹脂溶液AI−2を合成した。得られたポリアミドイミド樹脂溶液AI−2の30℃における粘度は、1,950mPa・s、理論樹脂固形分濃度が27質量%、還元粘度が0.42、GPC測定により算出した数平均分子量は24,400であった。
【0076】
[実施例1]
攪拌機、温度計および窒素シール管付きの混合容器内に、合成例1で得たポリアミドイミド樹脂溶液AI−1を1,000g、ビフェニル基を有するエポキシ樹脂(三菱化学社製、YX8100BH30)を47g、それぞれ仕込み、室温で1時間混合攪拌し、本発明の塗料組成物を製造した。
【0077】
[実施例2]
攪拌機、温度計および窒素シール管付きの混合容器内に、合成例1で得たポリアミドイミド樹脂溶液AI−1を1,000g、ビフェニル基を有するエポキシ樹脂(三菱化学社製、YX8100BH30)を93g、それぞれ仕込み、室温で1時間混合攪拌し、本発明の塗料組成物を製造した。
【0078】
[実施例3]
攪拌機、温度計および窒素シール管付きの混合容器内に、合成例1で得たポリアミドイミド樹脂溶液AI−1を1,000g、ビフェニル基を有するエポキシ樹脂(三菱化学社製、YX8100BH30)を186g、それぞれ仕込み、室温で1時間混合攪拌し、本発明の塗料組成物を製造した。
【0079】
[比較例1]
合成例1で得たポリアミドイミド樹脂溶液AI−1を使用した。
【0080】
[比較例2]
合成例2で得たポリアミドイミド樹脂溶液AI−2を使用した。
【0081】
[比較例3]
攪拌機、温度計、窒素シール管および加熱・冷却器付きの混合容器内に、合成例1で得たポリアミドイミド樹脂溶液AI−1を1,000g、ビスフェノールA型エポキシ樹脂である(三菱化学社製、EP−1001)を14g、それぞれ仕込み、60℃で1時間混合攪拌し塗料組成物を製造した。
【0082】
[比較例4]
攪拌機、温度計、窒素シール管および加熱・冷却器付きの混合容器内に、合成例1で得たポリアミドイミド樹脂溶液AI−1を1,000g、ビスフェノールA型エポキシ樹脂である(三菱化学社製、EP−1007)を14g、それぞれ仕込み、60℃で1時間混合攪拌し塗料組成物を製造した。
【0083】
実施例1〜3および比較例1〜4の塗料組成物を0.40mmφの銅線上に、下記に示す条件で塗布焼付けして、皮膜厚20μの絶縁電線を製造した。
【0084】
塗布、焼付条件
(1)塗布回数(ダイス配列)
8パス:0.43mmφ×1、0.44mmφ×1、0.45mmφ×1
0.46mmφ×2、0.47mmφ×3
(2)焼付け炉:横型電熱炉(炉長2.7m)
(3)炉温:475℃(入口) − 520℃(出口)
【0085】
[性能試験]
実施例1〜3および比較例1〜4で製造した絶縁電線を用いて、絶縁電線の耐軟化性、耐磨耗性、密着性、可とう性の各電線特性試験を行った。
【0086】
耐軟化性
JIS C3216−6:2011「巻線試験方法−第6部:熱的特性」JA.4耐軟化b)交差法により耐軟化性試験を行った。なお、おもりの質量は400gとした。
【0087】
耐摩耗性
JIS C3216−3:2011「巻線試験方法−第3部:機械的特性」6耐磨耗により耐摩耗性試験を行った。
【0088】
密着性
JIS C3216−3:2011「巻線試験方法−第3部:機械的特性」5.4剥離試験に準拠して密着性試験を行った。但し、二つのクランプ間の距離は250mm、張力は2Nとし、スクレーパの替わりにカッターで試験線の長さ方向に平行に1辺のみ皮膜を導体に達するまで取り除いた。密着性は、皮膜が導体から剥がれ浮いたときのねじり回数として評価した。
【0089】
可とう性
試験線を引張試験機で20%伸長した後で、JIS C3216−3:2011「巻線試験方法−第3部:機械的特性」5.1.1巻付け試験(丸線)に準拠して可とう性試験を行った。巻付け回数は10回とした。自己倍径で皮膜に導体が見えるき裂が生じた場合は、別の試験線を用いて同様の手順で2倍径の丸棒で巻付けし皮膜に導体が見えるき裂の有無を確認した。可とう性試験は皮膜に導体が見えるき裂が生じなくなる最小倍径として評価した。
【0090】
【表1】

【0091】
実施例1〜3の結果から、本発明の塗料組成物を用いて塗布焼付けし得られた絶縁電線は、耐熱性(耐軟化性)、耐摩耗性、導体との密着性および可とう性が向上することが分かる。また、ビフェニル基を有していないビスフェノール型のエポキシ樹脂を用いた比較例3および4では、耐摩耗性、密着性、および可とう性に優れているものの、耐熱性(耐軟化性)が、ポリアミドイミド樹脂のみの場合(比較例1)と比較して低下してしまうことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の塗料組成物は、耐熱性(耐軟化性)、耐傷性(耐摩耗性)、可とう性および密着性に優れた絶縁被膜(絶縁層)を形成することが可能であることから、種々の電気絶縁電線に使用することができる。特に、産業用、自動車用モータの絶縁電線として好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドイミド樹脂(a)と、
ポリアミドイミド樹脂(a)100質量部に対して、ビフェニル基を有するエポキシ樹脂(b)1〜90質量部と、を含有する塗料組成物。
【請求項2】
ポリアミドイミド樹脂(a)100質量部に対して、ビフェニル基を有するエポキシ樹脂(b)5〜50質量部を含有する、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の塗料組成物を、導体上に直接又は他の絶縁層を介して、塗布した後、焼付けしてなる絶縁電線。
【請求項4】
請求項3に記載の絶縁電線の表面に潤滑層を設けること、を特徴とする絶縁電線。

【公開番号】特開2013−18815(P2013−18815A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151082(P2011−151082)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(000103541)オート化学工業株式会社 (83)
【Fターム(参考)】