説明

塗装エンボスステンレス鋼板およびその製造方法

【課題】微細な凹凸パターンのエンボス鋼板を塗装原板とした場合であっても凸部と凹部とを高精度で塗り分けることができる、塗装エンボス鋼板の製造方法を提供すること。
【解決手段】表面に複数の微細な凸部を形成するエンボス加工が施されたエンボスステンレス鋼板を塗装原板として使用する。エンボスステンレス鋼板の表面に有色塗料を塗布した後、または有色塗膜を形成した後に、エンボスステンレス鋼板の凸部の頂面上の有色塗料または有色塗膜を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、意匠性に優れた塗装エンボスステンレス鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装鋼板は、家電製品の外板などに高い割合で採用されている。近年、家電製品に要求される意匠は、より多様化および高度化しており、塗装鋼板に求められる意匠も、より多様化および高度化している。
【0003】
塗装鋼板の意匠性を高める手段の一つとして、エンボス鋼板を塗装原板として使用することが考えられる。塗装エンボス鋼板は、家電製品だけではなく、キッチン部材や外装建材などでも採用されている。
【0004】
また、塗装鋼板の意匠性をさらに高める手段の一つとして、エンボス加工を施した鋼板(以下「エンボス鋼板」という)の凸部または凹部のみを塗装することが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。特許文献1,2には、エンボス鋼板の凸部にのみ有色塗膜を形成する塗装エンボス鋼板の製造方法が開示されている。一方、特許文献3には、エンボス鋼板の凹部にのみ有色塗膜を形成する塗装エンボス鋼板の製造方法が開示されている。特許文献3の塗装エンボス鋼板の製造方法では、凸部を形成する凸ロールおよび凹部を形成する凹ロールを用いてエンボス加工する際に、凹ロールの凸部の頂面に予め塗料を付着させておくことで、エンボス加工と凹部への塗装を同時に行っている。
【0005】
このように、エンボス鋼板の凸部または凹部のみを塗装することで、意匠性に優れるツートーンカラーの塗装エンボス鋼板を製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−201569号公報
【特許文献2】特開平11−169789号公報
【特許文献3】特開平10−166711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ツートーンカラーの塗装エンボス鋼板を製造する際に、エンボス鋼板の凸部だけに有色塗膜を形成した塗装エンボス鋼板は、使用時に最も傷付きやすい凸部の頂面に有色塗膜が形成されているため、使用時に有色塗膜が剥離して意匠が変化しやすいという問題がある。したがって、使用時の傷付きによる意匠の変化を防ぐという観点からは、エンボス鋼板の凸部のみに有色塗膜を形成した塗装エンボス鋼板よりも、エンボス鋼板の凹部のみに有色塗膜を形成した塗装エンボス鋼板の方が好ましい。
【0008】
前述の通り、エンボス鋼板の凹部のみに有色塗膜を形成する塗装エンボス鋼板の製造方法としては、特許文献3に開示されている方法がある。しかしながら、特許文献3に記載の製造方法は、主に金属サイディングを対象としたものであり、家電製品やキッチン部材で好まれる微細な凹凸パターンの塗装エンボス鋼板を製造する場合に、凸部と凹部とを高精度で塗り分けることができない。
【0009】
特許文献3に記載の塗装エンボス鋼板の製造方法では、凹ロールの凸部(塗料が付着している)を鋼板に強く押し付けるため、凹ロールの凸部と鋼板との間に存在するインクが横に漏れることがある。特許文献3に記載されているような大きな凹凸パターンの塗装エンボス鋼板(例えば、レンガタイル調の外装建材)では、インクの横漏れが発生しても外観上大きな問題とはならないかもしれない。しかしながら、微細な凹凸パターンの塗装エンボス鋼板では、インクの横漏れが発生してしまうと、凸部の頂面にも塗料が付着して意匠性が顕著に低下してしまうおそれがある。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、微細な凹凸パターンのエンボス鋼板を塗装原板とした場合であっても凸部の頂面とそれ以外の領域(凸部の側面および凹部間の領域)とを高精度で塗り分けることができる、塗装エンボス鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、エンボス鋼板の凸部の頂面以外の領域にのみ塗膜を有する塗装エンボス鋼板であって、凸部の頂面とそれ以外の領域とが高精度で塗り分けられた塗装エンボス鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、エンボス鋼板の表面に塗料を塗布した後に凸部の頂面上の塗料または塗膜を除去することで、微細な凹凸パターンのエンボス鋼板を塗装原板とした場合であっても凸部の頂面とそれ以外の領域とが高精度に塗り分けられた塗装エンボス鋼板を製造できることを見出し、さらに検討を加えて本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の塗装エンボスステンレス鋼板に関する。
[1]表面に複数の微細な凸部を形成するエンボス加工が施されたステンレス鋼板からなる基材の上に、有色塗膜を設けた塗装エンボスステンレス鋼板であって:前記凸部の頂面は、前記有色塗膜により被覆されておらず;前記凸部の側面および前記凸部間の領域は、前記有色塗膜により被覆されている、塗装エンボスステンレス鋼板。
[2]前記凸部の頂面は、平面である、[1]に記載の塗装エンボスステンレス鋼板。
[3]前記ステンレス鋼板を平面視したときの前記凸部の頂面の最大径は、100μm〜30mmの範囲内であり;前記ステンレス鋼板を平面視したときの前記凸部の頂面間の間隔は、100μm〜30mmの範囲内である、[1]または[2]に記載の塗装エンボスステンレス鋼板。
[4]前記凸部の高さは、5〜100μmの範囲内である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の塗装エンボスステンレス鋼板。
[5]JIS K5600−4−4、JIS K5600−4−5およびJIS K5600−4−6に準拠して測定および算出される前記凸部の頂面と前記有色塗膜との色差ΔEは、1以上である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の塗装エンボスステンレス鋼板。
【0014】
また、本発明は、以下の塗装エンボスステンレス鋼板の製造方法に関する。
[6]表面に複数の微細な凸部を形成するエンボス加工が施されたステンレス鋼板を準備するステップと;前記ステンレス鋼板の表面に有色塗料を塗布するステップと;前記ステンレス鋼板の表面に塗布された前記有色塗料を焼き付けてまたは硬化させて、有色塗膜を形成するステップと;前記ステンレス鋼板の凸部の頂面上に形成された前記有色塗膜を除去するステップと;を有する、塗装エンボスステンレス鋼板の製造方法。
[7]前記ステンレス鋼板の凸部の頂面上に形成された前記有色塗膜は、研磨により除去される、[6]に記載の塗装エンボスステンレス鋼板の製造方法。
[8]表面に複数の微細な凸部を形成するエンボス加工が施されたステンレス鋼板を準備するステップと;前記ステンレス鋼板の表面に有色塗料を塗布するステップと;前記ステンレス鋼板の凸部の頂面上に塗布された前記有色塗料を除去するステップと;前記ステンレス鋼板の表面に塗布された前記有色塗料を焼き付けてまたは硬化させて、有色塗膜を形成するステップと;を有する、塗装エンボスステンレス鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、微細な凹凸パターンのエンボス鋼板を塗装原板とした場合であっても凸部の頂面とそれ以外の領域とを高精度で塗り分けることができるため、意匠性に優れた塗装エンボスステンレス鋼板を提供することができる。
【0016】
本発明の塗装エンボスステンレス鋼板は、使用時に最も傷付きやすい凸部の頂面に塗膜が形成されていないため、凸部の頂面に物が接触しても塗膜剥離による意匠の変化は生じない。また、本発明の塗装エンボスステンレス鋼板は、凸部の頂面以外の領域が塗膜で被覆されているため、耐汚染性や汚れ拭取り性に優れた塗膜を形成すれば、エンボスステンレス鋼板の使用時に問題となりやすい凹部に溜まった汚れを除去しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施の形態に係る塗装エンボスステンレス鋼板の模式図
【図2】図1に示される塗装エンボスステンレス鋼板の製造過程を示す模式図
【図3】実施例1に係る塗装エンボスステンレス鋼板の研磨前後の写真
【図4】実施例2に係る塗装エンボスステンレス鋼板の研磨前後の写真
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.塗装エンボスステンレス鋼板
本発明の塗装エンボスステンレス鋼板は、エンボス加工が施されたステンレス鋼板(塗装原板)と、前記ステンレス鋼板の表面に形成された有色塗膜とを有する。本発明の塗装エンボスステンレス鋼板は、エンボスステンレス鋼板の凸部の頂面が有色塗膜により被覆されていないことを特徴とする。
【0019】
以下、本発明の塗装エンボスステンレス鋼板の各構成要素について説明する。
【0020】
[塗装原板]
塗装原板としては、表面に複数の微細な凸部を形成するエンボス加工が施されたステンレス鋼板(以下「エンボスステンレス鋼板」という)が使用される。以下、エンボスステンレス鋼板の表面のうち、凸部が形成されていない領域(凸部間の領域)を「凹部」ということがある。
【0021】
エンボス加工が施されるステンレス鋼板の鋼種や表面仕上げの種類、硬さなどは、特に限定されない。ステンレス鋼板の鋼種の例には、SUS304、SUS430、SUS316などが含まれる。また、ステンレス鋼板の表面仕上げの種類の例には、BA、2B、2D、No.4、HLなどが含まれる。
【0022】
ステンレス鋼板に施されるエンボス加工の凹凸パターン(凸部の形状および配置)は、特に限定されず、用途に応じて適宜選択されうる。凹凸パターンの例には、水玉(円)柄、多角形柄、不規則柄などが含まれる。凹凸パターンの種類に関わらず、凸部は頂面(上面)および側面を有する。たとえば、凹凸パターンが水玉柄の場合は、凸部の形状は略円柱状または略円錐台状である。後述する本発明の製造方法で本発明の塗装エンボスステンレス鋼板を製造する場合、凸部の頂面は平面であることが多い。また、複数の凸部の頂面は同一平面上に位置することが多い。すなわち、凸部の高さは同一であることが多い。なお、「凸部の頂面が平面である」とは、凸部の頂面が曲面ではないということを意味しており、平滑であることを意味しているわけではない。すなわち、凸部の頂面は、平滑であってももちろんよいが、完全に平滑でなくてもよい。たとえば、凸部の頂面には、ヘアーラインなどの研磨模様が付されていてもよい。
【0023】
後述する本発明の製造方法で製造することで、微細な凹凸パターンのエンボスステンレス鋼板を塗装原板としても、凸部と凹部とが高精度で塗り分けられた本発明の塗装エンボスステンレス鋼板を製造することができる。たとえば、エンボスステンレス鋼板を平面視したときの凸部の頂面の最大径が100μm〜30mmの範囲内であり、かつ凸部の頂面間の間隔が100μm〜30mmの範囲内であっても、凸部と凹部とが高精度で塗り分けられている。ここで「凸部の頂面の最大径」とは、例えば、平面視したときの凸部の頂面の形状が円形の場合は直径を意味し、平面視したときの凸部の頂面の形状が長方形の場合は対角線の長さを意味する。
【0024】
凸部の高さは、特に限定されず、目的に応じて適宜設定されうる。たとえば、意匠性の付与のみを意図する場合は、凸部の高さを5〜100μmの範囲内とすればよい。凸部の高さを5μm以上とすることで、凸部と凹部との塗り分けを容易にすることができる。また、意匠性の付与に加えて耐滑性などの機能も付与する場合は、例えば凸部の高さを100μmより高くすればよい。
【0025】
塗装原板となるエンボスステンレス鋼板は、耐食性および塗膜密着性を向上させる観点から、化成処理皮膜を形成されていてもよい。この場合、化成処理の種類は特に限定されない。化成処理の例には、クロメート処理、クロムフリー処理、リン酸塩処理などが含まれる。化成処理皮膜は、エンボスステンレス鋼板の表面全体に形成されていてもよいし、有色塗膜で被覆される領域にのみ形成されていてもよい。
【0026】
化成処理皮膜の膜厚は、エンボスステンレス鋼板の腐食の抑制および塗膜密着性の向上に有効な範囲内であれば特に限定されない。たとえば、クロメート皮膜の場合、全Cr換算付着量が5〜100mg/mとなるように膜厚を調整すればよい。また、クロムフリー皮膜の場合、Ti−Mo複合皮膜では10〜500mg/m、フルオロアシッド系皮膜ではフッ素換算付着量または総金属元素換算付着量が3〜100mg/mの範囲内となるように膜厚を調整すればよい。また、リン酸塩皮膜の場合、付着量が5〜500mg/mとなるように膜厚を調整すればよい。
【0027】
[有色塗膜]
有色塗膜は、有機樹脂を主成分とする、着色顔料が配合された塗膜である。有色塗膜は、1層構成であってもよいし、下塗り(プライマー)塗膜および上塗り(トップ)塗膜の2層構成であってもよいし、3層以上の構成であってもよい。
【0028】
有色塗膜は、エンボスステンレス鋼板の凸部の側面(頂面以外の面)および凹部(平坦面)を被覆しているが、凸部の頂面は被覆していない。したがって、本発明の塗装エンボスステンレス鋼板は、凸部の頂面ではステンレス鋼の色調を呈し、それ以外の領域(凸部の側面および凹部)では有色塗膜の色調を呈する。その結果、本発明の塗装エンボスステンレス鋼板は、ツートーンカラーの外観を呈する。なお、有色塗膜は、下地を完全に隠蔽している必要はなく、カラークリア塗膜であってもよい。
【0029】
なお、本発明の塗装エンボスステンレス鋼板は、少なくとも、凹部だけでなく凸部の側面も有色塗膜で被覆されている点で特許文献3に記載の塗装エンボス鋼板と異なる。
【0030】
意匠性の観点からは、凸部の頂面とそれ以外の領域(有色塗膜)との間の色差ΔEは、1以上が好ましく、2以上がより好ましい。色差ΔEが1未満の場合、目視では色調の違いを判別することが困難であり、凸部の頂面の有色塗膜を除去することによる意匠性の向上効果が十分ではない。たとえば、ΔEを2〜10程度とすることで、ステンレス鋼と同系色での繊細な色調の違いを表現することができる。また、ΔEを10以上とすることで、明確なツートーンカラーの外観を呈するインパクトのある意匠を得られる。なお、本明細書において「色差」とは、CIELAB色差式により算出される値であり、JIS K5600−4−4、JIS K5600−4−5およびJIS K5600−4−6に規定されている測色の原理、測色方法および色差の算出方法に準拠するものである。
【0031】
凸部の頂面(ステンレス鋼の色調)とそれ以外の領域(有色塗膜の色調)との色差ΔEは、市販の測色計を用いて測定することができる。エンボスステンレス鋼板の凹凸パターンによっては、測色計の最小測色面積内に凸部と凹部の両方が含まれてしまい、凸部の頂面とそれ以外の領域とを区別して測色することができないことがある。このような場合は、凸部の頂面と同視しうる未塗装のステンレス鋼板、およびそれ以外の領域と同視しうる塗装ステンレス鋼板の測色結果を用いて色差を求めればよい。すなわち、凸部の頂面を測色する代わりに、同じ鋼種で同じ表面状態のステンレス鋼板(エンボス加工が施されていない)の表面を測色する。同様に、凹部の有色塗膜を測色する代わりに、この有色塗膜と同じ塗膜を前記ステンレス鋼板の表面に形成し、形成された有色塗膜を測色する。これらの測定結果から色差を算出することで、凸部の頂面とそれ以外の領域(有色塗膜)との色差ΔEを求めることができる。
【0032】
主成分となる有機樹脂の種類は、特に限定されず、製造方法(プレコート方式またはポストコート方式)や用途などに応じて適宜選択されうる。たとえば、プレコート方式で有色塗膜を形成する場合、使用しうる樹脂の例には、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、アクリル−スチレン樹脂、スチレン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂もしくはベンゾグアナミン樹脂、およびこれらの樹脂をウレタン変性、シリコーン変性もしくはエポキシ変性した樹脂が含まれる。また、ポストコート方式で有色塗膜を形成する場合、使用しうる樹脂の例には、上述の樹脂に加え、プレコート化が困難とされているポリアミドイミド樹脂や、粉体塗装であれば塗装できる塗料化が困難なポリオレフィン樹脂などが含まれる。これらの樹脂は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
有色塗膜を着色する着色顔料の種類は、エンボスステンレス鋼板を構成するステンレス鋼と有色塗膜との間で所望の色差を得ることができれば特に限定されない。着色顔料の例には、酸化チタン、カーボンブラック、酸化クロム、酸化鉄、ベンガラ、チタンイエロー、コバルトブルー、コバルトグリーン、アニリンブラック、フタロシアニンブルーなどが含まれる。また、有色塗膜には、パール顔料や、アルミやステンレス、ニッケルなどの金属粉からなるメタリック顔料などが配合されていてもよい。
【0034】
有色塗膜には、耐食性を向上させる観点から、防錆顔料が配合されていてもよい。防錆顔料の例には、リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、リン酸亜鉛マグネシウム、リン酸マグネシウム、亜リン酸マグネシウム、シリカ、カルシウムイオン交換シリカ、リン酸ジルコニウム、トリポリリン酸2水素アルミニウム、酸化亜鉛、リンモリブデン酸亜鉛、メタホウ酸バリウムなどが含まれる。また、有色塗膜には、体質顔料が配合されていてもよい。体質顔料の例には、硫酸バリウム、酸化チタン、シリカ、炭酸カルシウムなどが含まれる。
【0035】
さらに、有色塗膜には、塗膜硬度および耐摩耗性を向上させる観点または塗膜表面に凹凸を付与し外観を向上させる観点から、鱗片状無機質添加材や無機質繊維、粒状または塊状の有機骨材、粒状または塊状の無機骨材、つや消し剤などが配合されていてもよい。鱗片状無機質添加材の例には、ガラスフレーク、硫酸バリウムフレーク、グラファイトフレーク、合成マイカフレーク、合成アルミナフレーク、シリカフレーク、雲母状酸化鉄(MIO)などが含まれる。無機質繊維の例には、チタン酸カリウム繊維、ウォラスナイト繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、アルミナシリケート繊維、シリカ繊維、ロックウール、スラグウール、ガラス繊維、炭素繊維などが含まれる。有機骨材の例には、アクリルビーズ、ポリアクリロニトリル(PAN)ビーズなどが含まれる。無機骨材、つや消し剤の例には、ガラスビース、シリカ粉などが含まれる。
【0036】
有色塗膜の膜厚は、特に限定されないが、意匠性の観点からは、凹部(平坦部)における膜厚が3μm以上であることが好ましい。凹部の膜厚を3μm以上とすることで、凸部の頂面とそれ以外の領域との色差ΔEを1以上とすることができる。また、カラークリア塗膜以外の透明性の低い有色塗膜を形成する場合に、工業製品として安定的な下地隠蔽性を実現することができる。一方、製造性の観点からは、凹部の膜厚はエンボスステンレス鋼板の凸部の高さ未満であることが好ましい。凹部の膜厚が凸部の高さ以上の場合、製造時に凸部の頂面の塗料または塗膜を除去することが困難である。また、プレコート方式で塗料を焼き付けて塗膜を形成する場合は、凹部の1層ごとの膜厚は、凸部の高さ未満であることに加えて、さらに30μm以下であることが好ましい。1層の膜厚が30μmを超える場合、塗料を焼き付ける際にワキと称される外観不良が生じやすいからである。
【0037】
以上のように、本発明の塗装エンボス鋼板ステンレス鋼板は、凸部の頂面ではステンレス鋼の色調を呈し、それ以外の領域(凸部の側面および凹部)では有色塗膜の色調を呈するため、一般的な塗装エンボスステンレス鋼板にはないインパクトのある外観を呈する。特に、本発明の塗装エンボス鋼板ステンレス鋼板は、凸部の頂面とそれ以外の領域とが高精度に塗り分けられているため、意匠性に優れている。
【0038】
本発明の塗装エンボスステンレス鋼板は、使用時に最も傷付きやすい凸部の頂面に有色塗膜が形成されていないため、凸部の頂面に物が接触しても塗膜剥離による意匠の変化は生じない。また、本発明の塗装エンボスステンレス鋼板は、凸部の頂面以外の領域が有色塗膜で被覆されているため、耐汚染性や汚れ拭取り性に優れた塗膜を形成すれば、エンボスステンレス鋼板の使用時に問題となりやすい凹部に溜まった汚れを除去しやすい。
【0039】
なお、本発明の塗装エンボスステンレス鋼板では、凸部の頂面が有色塗膜で被覆されていなければよく、凸部の頂面においてステンレス鋼が外部に露出している必要はない。たとえば、凸部の頂面は、クリア塗膜や化成処理皮膜などの色調の付与に寄与しない塗膜または皮膜で被覆されていてもよい。もちろん、ステンレス鋼は耐食性に優れているので、凸部の頂面においてステンレス鋼が外部に露出していてもよい。
【0040】
本発明の塗装エンボスステンレス鋼板は、次に説明する本発明の製造方法により製造されうる。
【0041】
2.塗装エンボスステンレス鋼板の製造方法
本発明の塗装エンボスステンレス鋼板の製造方法は、1)エンボスステンレス鋼板(塗装原板)を準備する第1のステップと、2)エンボスステンレス鋼板の表面に有色塗料を塗布する第2のステップと、3)エンボスステンレス鋼板の凸部の頂面の有色塗料または有色塗膜を除去する第3のステップとを有する。
【0042】
第3のステップにおいて凸部の頂面の有色塗膜を除去する場合は、第2のステップと第3のステップの間に第2のステップで塗布した有色塗料を焼き付ける(または硬化させる)。一方、第3のステップにおいて凸部の頂面の有色塗料を除去する場合は、第3のステップの後に鋼板表面に残っている有色塗料を焼き付ける(または硬化させる)。
【0043】
以下、本発明の製造方法の各ステップについて説明する。
【0044】
1)第1のステップ
第1のステップでは、塗装原板を準備する。前述の通り、塗装原板としては、表面に複数の微細な凸部を形成するエンボス加工が施されたステンレス鋼板(エンボスステンレス鋼板)が使用される。エンボスステンレス鋼板は、例えば、外周部に所定の凹部パターンを有する圧延ローラーを用いてステンレス鋼板を圧延することで製造されうる。
【0045】
エンボスステンレス鋼板の凸部の頂面は平面であることが好ましい。また、複数の凸部の頂面は、同一平面状に位置することが好ましい。第3のステップにおいて、凸部の頂面上の有色塗料または有色塗膜をより容易かつよりきれいに除去するためである。また、第2のステップにおいてロールコート法で有色塗料を塗布する場合は、ロール寿命の観点からも凸部の頂面は平面であることが好ましい。
【0046】
前述の通り、塗装原板となるエンボスステンレス鋼板は、化成処理皮膜を形成されていてもよい。化成処理皮膜は、公知の方法で形成されうる。たとえば、化成処理液をロールコート法、スピンコート法、スプレー法などの方法でエンボスステンレス鋼板の表面に塗布し、水洗せずに乾燥させればよい。乾燥温度および乾燥時間は、水分を蒸発させることができれば特に限定されない。生産性の観点からは、乾燥温度は到達板温で60〜150℃の範囲内が好ましく、乾燥時間は2〜10秒の範囲内が好ましい。
【0047】
2)第2のステップ
第2のステップでは、第1のステップで準備したエンボスステンレス鋼板の表面に有色塗料を塗布する。
【0048】
前述の通り、有色塗料の主成分となる有機樹脂の種類は、特に限定されず、製造方法(プレコート方式またはポストコート方式)や用途などに応じて適宜選択されうる。また、有色塗膜を着色する着色顔料の種類も、塗装原板を構成するステンレス鋼と有色塗膜との色差を十分に大きくすることができれば特に限定されない。
【0049】
有色塗料の溶剤の種類は、主成分となる有機樹脂を溶解しうる溶剤であれば、特に限定されない。使用しうる溶剤の例には、トルエン、キシレン、高沸点石油系炭化水素などの炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのエステル系溶剤;メタノール、エタノール、ブタノールなどのアルコール系溶剤;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどのエーテルアルコール系溶剤などが含まれる。これらの溶剤は、単独で用いられてもよいし、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0050】
有色塗料の塗布方法は、特に限定されず、製造方法(プレコート方式またはポストコート方式)などに応じて適宜選択されうる。塗布方法の例には、ロールコート法、フローコート法、カーテンフロー法、スプレー法、浸漬法などが含まれる。
【0051】
有色塗料の塗布量は、特に限定されないが、焼き付けた後(または硬化させた後)の凹部(平坦部)における乾燥膜厚が3μm以上となる量であることが好ましい。凹部の乾燥膜厚を3μm以上とすることで、凸部の頂面とそれ以外の領域との色差ΔEを1以上とすることができる。また、カラークリア塗膜以外の透明性の低い有色塗膜を形成する場合に、工業製品として安定的な下地隠蔽性を実現することができる。一方、製造性の観点からは、凹部における液膜(第3のステップで塗料を除去する場合)または塗膜(第3のステップで塗膜を除去する場合)の厚さが凸部の高さ未満となるように有色塗料の塗布量を調整することが好ましい。凹部の液膜または塗膜の厚さが凸部の高さ以上の場合、第3のステップにおいて凸部の頂面の有色塗料または有色塗膜を除去することが困難となる。また、プレコート方式で有色塗料を焼き付けて有色塗膜を形成する場合は、凹部の1層ごとの乾燥膜厚が30μm以下となるように有色塗料の塗布量を調整することが好ましい。1層の乾燥膜厚が30μmを超える場合、有色塗料を焼き付ける際にワキと称される外観不良が生じやすいからである。
【0052】
前述の通り、塗布された有色塗料は、第3のステップの前または後に焼き付けられる(または硬化させられる)。有色塗料の焼き付け条件(温度、時間)は、特に限定されず、有色塗料の種類に応じて適宜設定されうる。
【0053】
3)第3のステップ
第3のステップでは、エンボスステンレス鋼板の凸部の頂面の有色塗料または有色塗膜を除去する。このとき、有色塗料を焼き付けて(または硬化させて)有色塗膜を形成した後に凸部の頂面の有色塗膜を除去してもよいし、有色塗料を焼き付ける(または硬化させる)前に凸部の頂面の有色塗料を除去してもよい。後者の場合は、凸部の頂面の有色塗料を除去した後に、凸部の側面および凹部の底面に残っている有色塗料を焼き付ける(または硬化させる)。
【0054】
乾燥塗膜を形成した後に凸部の頂面の有色塗膜を除去する場合、有色塗膜の除去方法は特に限定されない。有色塗膜の除去方法の例には、研磨などによる機械的な除去、溶解などによる化学的な除去が含まれる。凸部頂面の有色塗膜を研磨除去する場合、使用可能な研磨装置の例としては、ベルト型研磨装置、ロール型研磨装置、ホイール型研磨装置、ポリッシャー型研磨装置が含まれる。有色塗膜を除去する際に所定の研磨剤を使用したり、有色塗膜を除去した後に別途再研磨したりすることにより、凸部頂面にヘアーラインなどの研磨模様を意図的に付与することもできる。
【0055】
一方、有色塗料を焼き付ける(または硬化させる)前に有色塗料を除去する場合、有色塗料の除去方法は特に限定されない。有色塗料の除去方法の例には、拭き取りによる方法、平滑な面やロールと接触させて凸部の頂面の塗料を転写させる方法、ドクターナイフなどにより凸部の頂面の塗料を削ぎ取る方法などが含まれる。
【0056】
以上の手順により、凸部の頂面はステンレス鋼の色調を呈し、それ以外の領域は有色塗膜の色調を呈する塗装エンボスステンレス鋼板を製造することができる。
【0057】
本発明の製造方法では、有色塗料を塗布した後に凸部の頂面上の有色塗料または有色塗膜を除去するため、凸部の頂面上に有色塗膜が付着することはなく、凸部の頂面とそれ以外の領域とを高精度に塗り分けることができる。
【0058】
3.実施の形態
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。ここでは、水玉柄のエンボスステンレス鋼板を塗装原板とした本発明の塗装エンボスステンレス鋼板の例を説明する。
【0059】
図1は、本発明の一実施の形態に係る塗装エンボスステンレス鋼板100を示す模式図である。図1Aは塗装エンボスステンレス鋼板100の平面図であり、図1Bは塗装エンボスステンレス鋼板100の断面図である。
【0060】
図1Aに示されるように、塗装エンボスステンレス鋼板100の表面には、円柱状の凸部110が規則正しく配列されており、凸部110の間に凹部120が存在している。図1Bに示されるように、それぞれの凸部110の高さは同一である。したがって、それぞれの凸部110の頂面は同一平面状に位置している。また、凸部110の頂面は平面である。
【0061】
図1Bに示されるように、塗装エンボスステンレス鋼板100は、塗装原板であるエンボスステンレス鋼板130と、エンボスステンレス鋼板130の表面に形成された有色塗膜140とを有する。
【0062】
エンボスステンレス鋼板130は、表面に複数の微細な凸部110を形成するエンボス加工が施されたステンレス鋼板である。前述の通り、本実施の形態の塗装エンボスステンレス鋼板100では、凸部110の形状は円柱状である。しかしながら、凸部110の頂面の面積と底面の面積は、完全に同一でなくてもよい。すなわち、凸部110の形状は円錐台状であってもよい。凸部110の直径は100μm〜5mmであり、高さは5〜100μm程度である。また、凸部110間の間隔は、500μm〜10mmである。
【0063】
有色塗膜140は、エンボスステンレス鋼板130の凸部110の側面および凹部(平坦部)120を被覆している。一方、エンボスステンレス鋼板130の凸部110の頂面は、有色塗膜140により被覆されておらず、ステンレス鋼が露出している。エンボスステンレス鋼板130の凸部110の頂面で露出しているステンレス鋼と有色塗膜140との色差ΔEが1以上となるように、有色塗膜140は着色されている。凹部120における有色塗膜140の膜厚は、3〜30μmである。
【0064】
次に、図2を参照して、塗装エンボスステンレス鋼板100の製造方法を説明する。図2A〜Cは、塗装エンボスステンレス鋼板100の製造過程を示す模式図である。
【0065】
まず、図2Aに示されるように、エンボス加工が施されて、凸部110および凹部120が形成されたエンボスステンレス鋼板130を準備する。エンボスステンレス鋼板130の表面は、化成処理を施されていてもよい。
【0066】
次に、図2Bに示されるように、エンボスステンレス鋼板130の表面に有色塗膜140を形成する。具体的には、エンボスステンレス鋼板130の表面に有色塗料を塗布し、所定の条件で焼き付ける。このとき、有色塗膜140は、エンボスステンレス鋼板130の凹部120のみだけでなく、凸部110にも形成される。
【0067】
最後に、図2Cに示されるように、エンボスステンレス鋼板130の凸部110の頂面に形成された有色塗膜140を除去する。たとえば、凸部110の頂面に形成された有色塗膜140を研磨して除去すればよい。このように研磨した場合、凸部110の頂面は平面となり、かつ凸部110の高さは同一となる。
【0068】
以上の手順により、本実施の形態の塗装エンボスステンレス鋼板100を製造することができる。
【0069】
なお、上記の説明では、有色塗料を焼き付けて有色塗膜を形成した後に凸部の頂面に形成された有色塗膜を除去したが、有色塗料を焼き付ける前に凸部の頂面に塗布された有色塗料を除去しても、本実施の形態の塗装エンボスステンレス鋼板を製造することができる。
【実施例】
【0070】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0071】
[実施例1]
塗装原板として、SUS304からなる板厚0.8mmのステンレス鋼板(BA仕上げ)にエンボス加工を施して、エンボスステンレス鋼板(スムースドットエンボス柄(特開2008−173681号公報の図2参照)、大きい凸部の直径0.9mm、小さい凸部の直径0.5mm、凸部間の間隔1.5mm、大きい凸部の高さ34μm、小さい凸部の高さ21μm)を準備した。
【0072】
エンボスステンレス鋼板の表面をアルカリ脱脂し、水洗した。エンボスステンレス鋼板の片面に、塗装前処理液(ヘキサフルオロチタン酸:50g/L、アミノメチル置換ポリビニルフェノール:75g/L、溶媒:水)を、チタン換算付着量で10mg/mとなるようにバーコーターで塗布し、100℃で乾燥させて、塗装前処理皮膜を形成した。
【0073】
エンボスステンレス鋼板の片面(塗装前処理皮膜を形成した面)に黒色塗料(FLC5000;日本ファインコーティングス株式会社)を塗布し、到達板温230℃で45秒間焼き付けて、黒色塗膜を形成した。エンボスステンレス鋼板の凹部(平坦部)における黒色塗膜の膜厚は、5μmであった。次いで、エンボスステンレス鋼板の凸部(大きい凸部および小さい凸部)の頂面の黒色塗膜を、ベルト型研磨装置(MNW−610;株式会社丸源鉄工所)を用いて研磨除去した。図3Aは、黒色塗膜を研磨する前の塗装エンボスステンレス鋼板の写真であり、図3Bは、黒色塗膜を研磨した後の塗装エンボスステンレス鋼板の写真である。
【0074】
以上の手順により、凸部の頂面は黒色塗膜で被覆されておらず、凸部の側面および凹部(平坦部)は黒色塗膜で被覆されている、本発明の塗装エンボスステンレス鋼板を作製した。図3Bの写真に示されるように、ステンレス鋼が露出している凸部の形状がきれいに揃っており、凸部の頂面とそれ以外の領域とが高精度に塗り分けられていた。
【0075】
作製した塗装エンボスステンレス鋼板の凸部(ステンレス鋼が露出)と凹部(黒色塗膜により被覆)との色差ΔEを、以下の手順により求めたところ、45であった。
【0076】
(色差の算出方法)
SUS304からなる板厚0.8mmのステンレス鋼板(BA仕上げ;エンボス加工をしていないもの)を2枚準備した。そのうちの1枚の表面を上述のベルト型研磨装置を用いて研磨した。研磨条件は、前述の黒色塗膜を研磨除去したときの条件と同一である。また、残る1枚のステンレス鋼板の表面には、膜厚5μmの黒色塗膜を形成した。黒色塗膜の形成方法は、前述の黒色塗膜を形成したときの方法と同一である。
【0077】
JIS−K5600−4−4およびJIS−K5600−4−5に準拠して、研磨後の鋼板表面および塗装後の黒色皮膜表面を分光測色計(CM−3700d;コニカミノルタ)を用いて測色した。研磨後の鋼板表面の測色結果を塗装エンボスステンレス鋼板の凸部頂面の測色結果とみなし、黒色皮膜表面の測色結果を塗装エンボスステンレス鋼板の凹部の測色結果とみなして、塗装エンボスステンレス鋼板の凸部頂面と凹部との色差をJIS−K5600−4−6に準拠して算出した。
【0078】
[実施例2]
塗装原板として、SUS430からなる板厚0.4mmのステンレス鋼板(2B仕上げ)にエンボス加工を施して、エンボスステンレス鋼板(格子柄、凸部サイズ縦5mm×横5mm、凸部間の間隔(凹部幅)0.5mm、凸部高さ70μm)を準備した。実施例1と同様の手順で、エンボスステンレス鋼板の片面に塗装前処理皮膜を形成した。
【0079】
エンボスステンレス鋼板の片面(塗装前処理皮膜を形成した面)に赤色塗料(Vニット#9000;大日本塗料株式会社)を塗布し、到達板温230℃で60秒間焼き付けて、赤色塗膜を形成した。エンボスステンレス鋼板の凹部(平坦部)における赤色塗膜の膜厚は、20μmであった。次いで、エンボスステンレス鋼板の凸部の頂面の赤色塗膜を、ロール型研磨装置(NT−100;株式会社石井表記)を用いて研磨除去した。図4Aは、赤色塗膜を研磨する前の塗装エンボスステンレス鋼板の写真であり、図4Bは、赤色塗膜を研磨した後の塗装エンボスステンレス鋼板の写真である。
【0080】
以上の手順により、凸部の頂面は赤色塗膜で被覆されておらず、凸部の側面および凹部(平坦部)は赤色塗膜で被覆されている、本発明の塗装エンボスステンレス鋼板を作製した。図4Bの写真に示されるように、ステンレス鋼が露出している凸部の形状がきれいに揃っており、凸部の頂面とそれ以外の領域とが高精度に塗り分けられていた(正方形の領域は銀色、直線状の領域は赤色である)。
【0081】
作製した塗装エンボスステンレス鋼板の凸部(ステンレス鋼が露出)と凹部(赤色塗膜により被覆)との色差ΔEを、以下の手順により求めたところ、30であった。
【0082】
(色差の算出方法)
SUS430からなる板厚0.4mmのステンレス鋼板(2B仕上げ;エンボス加工をしていないもの)を2枚準備した。そのうちの1枚の表面を上述のロール型研磨装置を用いて研磨した。研磨条件は、前述の赤色塗膜を研磨除去したときの条件と同一である。また、残る1枚のステンレス鋼板の表面には、膜厚20μmの赤色塗膜を形成した。赤色塗膜の形成方法は、前述の赤色塗膜を形成したときの方法と同一である。
【0083】
JIS−K5600−4−4およびJIS−K5600−4−5に準拠して、研磨後の鋼板表面および塗装後の赤色皮膜表面を実施例1と同じ分光測色計を用いて測色した。研磨後の鋼板表面の測色結果を塗装エンボスステンレス鋼板の凸部頂面の測色結果とみなし、赤色皮膜表面の測色結果を塗装エンボスステンレス鋼板の凹部の測色結果とみなして、塗装エンボスステンレス鋼板の凸部頂面と凹部との色差をJIS−K5600−4−6に準拠して算出した。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の塗装エンボスステンレス鋼板は、意匠性に優れており、例えば、家電製品または内装器物の外板や、キッチンの天板などに好適である。
【符号の説明】
【0085】
100 塗装エンボスステンレス鋼板
110 凸部
120 凹部
130 エンボスステンレス鋼板
140 有色塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に複数の微細な凸部を形成するエンボス加工が施されたステンレス鋼板からなる基材の上に、有色塗膜を設けた塗装エンボスステンレス鋼板であって、
前記凸部の頂面は、前記有色塗膜により被覆されておらず、
前記凸部の側面および前記凸部間の領域は、前記有色塗膜により被覆されている、
塗装エンボスステンレス鋼板。
【請求項2】
前記凸部の頂面は、平面である、請求項1に記載の塗装エンボスステンレス鋼板。
【請求項3】
前記ステンレス鋼板を平面視したときの前記凸部の頂面の最大径は、100μm〜30mmの範囲内であり、
前記ステンレス鋼板を平面視したときの前記凸部の頂面間の間隔は、100μm〜30mmの範囲内である、
請求項1に記載の塗装エンボスステンレス鋼板。
【請求項4】
前記凸部の高さは、5〜100μmの範囲内である、請求項1に記載の塗装エンボスステンレス鋼板。
【請求項5】
JIS K5600−4−4、JIS K5600−4−5およびJIS K5600−4−6に準拠して測定および算出される前記凸部の頂面と前記有色塗膜との色差ΔEは、1以上である、請求項1に記載の塗装エンボスステンレス鋼板。
【請求項6】
表面に複数の微細な凸部を形成するエンボス加工が施されたステンレス鋼板を準備するステップと、
前記ステンレス鋼板の表面に有色塗料を塗布するステップと、
前記ステンレス鋼板の表面に塗布された前記有色塗料を焼き付けてまたは硬化させて、有色塗膜を形成するステップと、
前記ステンレス鋼板の凸部の頂面上に形成された前記有色塗膜を除去するステップと、
を有する、塗装エンボスステンレス鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記ステンレス鋼板の凸部の頂面上に形成された前記有色塗膜は、研磨により除去される、請求項6に記載の塗装エンボスステンレス鋼板の製造方法。
【請求項8】
表面に複数の微細な凸部を形成するエンボス加工が施されたステンレス鋼板を準備するステップと、
前記ステンレス鋼板の表面に有色塗料を塗布するステップと、
前記ステンレス鋼板の凸部の頂面上に塗布された前記有色塗料を除去するステップと、
前記ステンレス鋼板の表面に塗布された前記有色塗料を焼き付けてまたは硬化させて、有色塗膜を形成するステップと、
を有する、塗装エンボスステンレス鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−206399(P2012−206399A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74110(P2011−74110)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【出願人】(000002222)サンウエーブ工業株式会社 (196)
【Fターム(参考)】