説明

塗装用繊維構造体及びペイントローラー

【課題】良好な塗布性能を備えた塗装用繊維構造体及びペイントローラー、特に、高粘度の塗料や、比較的粒子の大きな顔料を含有した塗料に対しても、良好な塗布性を維持できる塗装用繊維構造体及びペイントローラーの提供を図る。
【解決手段】地組織12の少なくとも一方の面に設けられた塗布用繊維層11を有し、この塗布用繊維層11が捲縮繊維を含むものである。塗布用繊維層11は、地組織12から立設された多数の特殊複合糸14を用いて構成されたものであり、特殊複合糸14は、複数本の加工糸を撚り合わせて得られたものであり、この加工糸はフィラメント17に捲縮による山17a及び谷17bを付与して製糸されたものである。この特殊複合糸14は、先端側に解撚部分20bを備える。解撚部分20は、特殊複合糸14の撚りが解除された部分であると共に、フィラメント17に対する捲縮による山17a及び谷17bが維持されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装用繊維構造体及びペイントローラーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ペイントローラー等の塗装用具においては、塗装用繊維構造体にペイントを含ませて塗布している。この塗布状態の仕上がりの良否は、塗布されるペイントに依存することが大であることは勿論、塗装用繊維構造体の構造にも大きく依存している。この塗装用繊維構造体としては、編地や織地の地組織の少なくとも一方の面に塗布用繊維層を有しており、前記塗布用繊維層としてパイルを用いたもの(特許文献1)や、カットパイルを用いたもの(特許文献2、3)が、従来より知られている。このうち、特許文献3には、地組織と、前記塗布用繊維層が捲縮繊維を含むものであり、これを解繊し、加工したものを用いることが開示されている。。
【0003】
より詳しくは、特許文献3には、製編織機にて編地を形成する際に、熱融着性捲縮繊維を含む糸をカットパイル糸として供給して、地組織の片面上に熱融着性捲縮繊維にて構成された立設繊維層を有する繊維構造体を製造する。次いで、繊維構造体のカットパイル糸を毛割機を用いて解繊した後、立設繊維層のないもう片方の面(裏面)を上側に向けて、該裏面より水を噴霧した後、熱融着性捲縮繊維の融点以上の温度で乾熱処理(熱風処理等)する。これにより、立設繊維層の内側に網状融着層が存在し、網状融着層の外側の立設繊維層の表面側にバルキーな嵩高層が存在する塗布用用繊維構造体が得られるとの開示がある。また、上記の立設繊維層の表面に、立設繊維層を構成する前記熱融着性捲縮繊維の融着による厚さ100〜1000μmの多孔質スキン層が存在している塗布用繊維構造体も開示されている。
【0004】
この特許文献3の塗布用繊維構造体は、熱捲縮した糸を用い、さらに多孔質スキン層を形成しているため、ペイントローラーによる塗布面に平滑性が出るという利点がある反面、繊維が絡み易く、顔料を比較的多く含有する防錆ペイントや、高粘度の塗料には適さないとの指摘がある。特に、顔料が、嵩高層乃至は多孔質スキン層の下方に詰まってしまうという課題が指摘されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平2−4679号公報
【特許文献2】特開2010−53502号公報
【特許文献3】特開2002−302863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、良好な塗布性能を備えた塗装用繊維構造体及びペイントローラーを提供することを課題とする。特に、高粘度の塗料や、比較的顔料含有量の多い塗料に対しても、良好な塗布性を維持できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、地組織と、前記地組織の少なくとも一方の面に設けられた塗布用繊維層とを有し、前記塗布用繊維層が捲縮繊維を含むものである塗装用繊維構造体において、前記塗布用繊維層は、前記地組織から立設された多数の特殊複合糸を用いて構成されたものであり、前記特殊複合糸は、複数本の加工糸を撚り合わせて得られたものであり、前記加工糸は、同加工糸を構成するフィラメントに捲縮による山及び谷を付与して製糸されたものであり、前記立設状態の特殊複合糸は、その少なくとも先端側に解撚部分を備えたものであり、前記解撚部分は、前記特殊複合糸の前記撚りが解除された部分であると共に、前記フィラメントに対する捲縮による山及び谷が維持されたものであることを特徴とする塗装用繊維構造体を提供することにより、上記の課題を解決する。
本発明は、前記立設状態の特殊複合糸が、その基端側の撚糸部分と、その先端側の前記解撚部分とを備えたものであり、前記撚糸部分は、前記特殊複合糸の前記撚りが維持された部分であり、前記特殊複合糸が、複数本の加工糸を撚り合わせて得られ、撚りによる凸部と凹部とを糸条方向交互に備えるものであり、前記凸部及び前記凹部は、各加工糸が互いのフィラメントの山同士及び谷同士をそれぞれ螺旋状に連ねることによって形成されているものとして実施することができる。
また、本発明は、前記加工糸には仮撚り加工において加撚時の撚り数が同じのものが使用されており、前記凸部は1m当たりの個数が当該撚り数と同一であるものとして実施することができる。
そして、本発明は、上記の塗装用繊維構造体を塗装面として塗装用ロールに取り付けたペイントローラーを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、良好な塗布性能を備えた塗装用繊維構造体及びペイントローラーを提供することができたものである。本発明に係る塗装用繊維構造体及びペイントローラーは、種々の塗料を塗布するために用いることができるが、特に、高粘度の塗料や、比較的顔料含有量の多い塗料に対しても、良好な塗布性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態に係るペイントローラーの分解斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る塗装用繊維構造体の拡大図である。
【図3】同塗装用繊維構造体に用いられる特殊複合糸を示すもので、(a)は張力のない自然な状態を示す模式図、(b)は伸張させた状態を示す模式図である。
【図4】同特殊複合糸の製造装置を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係るペイントローラの分解斜視図であり、このペイントローラーは、塗装用ロール1と、この塗装用ロール1を回動可能に支持するためのペイントローラ用の支持軸6と、軸受け用部材とを備える。支持軸6は金属製等の剛性を有する素材から構成され、この支持軸6の基端側には把手5が設けられている。支持軸6の先端側には、軸受け用部材が取り付けられる。この軸受け用部材は、2分割された筒部材2、3と、その内部に組み込まれる固定体4とから構成される。筒部材2、3は固定体4を回動可能に内包した状態で、塗装用ロール1の内部に固定される。固定体4は、支持軸1が嵌入されて、支持軸1に対して固定される。これにより、塗装用ロール1が支持軸6に回動可能に支持され、塗料を含んだ塗装用ロール1が塗布面上を回動することで、塗布面に塗料が塗布される。塗装用ロール1は、硬質の合成樹脂等の比較的剛性の高い筒状の支持体10と、この支持体10に、熱融着や接着剤などで接着された塗布用繊維構造体11とから構成されている。
【0011】
次に、この塗布用繊維構造体11について、より詳しく説明する。
この塗布用繊維構造体11は、図2に拡大して示すように、織地の地組織12の片面に立設繊維層13を有する。なお、図2の例では織地としたが、編地でも実施することができる。立設繊維層13は、多数のカットパイルを含む。このカットパイルを構成する糸は、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、アクリル系重合体、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン等々の熱可塑性合成繊維などのマルチフィラメンの特殊複合糸14から構成されている。この特殊複合糸14以外の糸を併用することも可能であるが、カットパイルの総本数の4分の1以上が特殊複合糸14であることが望ましく、より望ましくは半分以上〜全量を特殊複合糸14によって構成させる。特殊複合糸14の量が少なすぎると、本発明の効果が発揮し難いが、コストなどの関係で全量で実施することは必ずしも必須ではない。
【0012】
上記の特殊複合糸14とは異なる他の繊維の種類は特に制限されず、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、アクリル系重合体、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデンなどの捲縮または非捲縮の合成繊維、ビスコース、レーヨンなどの半合成繊維、綿、羊毛、絹などを例示でき、これらを1種または2種以上を用いることができる。他の繊維を併用して形成する場合は、両者が十分に混合分散しているようにすることが好ましいが、1本の塗装用ロール1で軸方向に複数種の性状を有する塗布体を得る場合には、均一に分散させる必要はない。
【0013】
この特殊複合糸14について図3を参照しつつさらに詳しく説明する。図3は特殊複合糸14を示すもので、(a)は張力のない自然な状態の特殊複合糸14を示す模式図であり、図1(b)は伸張させた状態の特殊複合糸を示す模式図である。
【0014】
特殊複合糸14は、複数本の加工糸を撚り合わせて得られた撚糸である。この特殊複合糸14は、その糸条表面に凸部15と凹部16とを糸条方向交互に備えている。これら凸部15及び凹部16は、特殊複合糸14の撚りによって生じたものであり、それぞれが糸条方向へ螺旋状に連なっている。
【0015】
前記加工糸は、マルチフィラメント糸に仮撚り加工を施して製糸された糸であり、特に好ましくは整流された熱可塑性樹脂のフィラメントからなる。このマルチフィラメント糸とは、複数本の合成繊維(フィラメント)を糸条方向に引き揃えて得られた糸である。また、仮撚り加工とは、マルチフィラメント糸に撚りを加える加撚処理を施した後、この撚りを解く解撚処理を施す加工方法である。この仮撚り加工が施されたマルチフィラメント糸は、各フィラメントに天然繊維調の縮れ(捲縮)が付与されることとなる。そして、捲縮が付与されたフィラメントは、波状をなすように延びており、平面視の状態で波の頂部に山を、波の底部に谷を有している。なお、このフィラメントは立体的な波状をなすように延びており、山及び谷はそれぞれ糸条周り360°の方向へ形成されている。
【0016】
前記複数本の加工糸にはそれぞれ同一条件で仮撚り加工されたものが用いられており、これら加工糸が均等に撚り合わされて1本の特殊複合糸14を形成している。各加工糸をそれぞれ構成していたフィラメント17は、互いの山17a同士及び谷17b同士がそれぞれ螺旋状に連なるように絡み合っている。そして、フィラメント17の山17a同士が螺旋状に連なることによって当該特殊複合糸14の前記凸部15が形成され、フィラメント17の谷17b同士が螺旋状に連なることによって当該特殊複合糸14の前記凹部16が形成されている。なお、各加工糸は、同一条件で仮撚り加工されたものが均等に撚り合わされたことによって芯鞘等の明確な区別を有しておらず、特殊複合糸14とした状態で各加工糸をそれぞれ1本ずつ判別することが困難となっている。
【0017】
この特殊複合糸14は、同一条件で仮撚り加工された複数の加工糸が均等に撚り合わされて得られた撚糸である。従って、従来の撚糸と同様に太さが略均一であり、糸条の断面が略真円状となるという特徴を有している。また、この特殊複合糸14は、各凸部15及び各凹部16がそれぞれ各フィラメント17の山17a同士及び谷17b同士が連なって形成されていることから、フィラメント17同士の間に隙間18を有している。このような隙間18を有していることから、特殊複合糸14は、柔らかく、同一太さの従来の撚糸に比べて軽量となるという特徴を有している。そして、この特殊複合糸14は、フィラメント17の山17a同士及び谷17b同士が連なり、かつフィラメント17同士の間に隙間18を有していることから、伸縮性を有していると共に、適度な腰の強さを有する。
【0018】
より詳しくは、特殊複合糸14に張力等が加えられたとき、まず各フィラメント17は、それぞれの山17a及び谷17bを略直線状とすることにより、伸びる。この各フィラメント17の伸びに伴い、特殊複合糸14は、各凸部15及び各凹部16がそれぞれ前記隙間18を詰めつつ伸びることにより、糸条全体が伸長する。このとき、各フィラメント17は、それぞれの山17a同士及び谷17b同士を連ねつつも、糸条周り360°の方向で立体的に絡み合っていることから、互いに対する位置ずれを抑制される。また、張力等が無くなり、糸条全体が収縮するときには、各フィラメント17がそれぞれ縮み、元の捲縮が付与された状態へと復帰することにより、糸条全体が収縮する。そして、各凸部15及び各凹部16がそれぞれ伸びることから、特殊複合糸14全体として大きな伸縮性を有する糸条となる。
【0019】
なお、従来の撚糸は、一定のテンションを加えつつ複数本の加工糸を加撚することにより製糸されている。このため、従来の撚糸においては、捲縮を付与された各フィラメントが山又は谷に係わらず絡み合い、フィラメント同士の間にほとんど隙間が形成されていない。さらに、山又は谷に係わらず絡み合った各フィラメントは、互いに拘束し合うこととなる。従って、従来の撚糸は各凸部及び各凹部でフィラメント間に隙間が無く、また各フィラメントが互いに拘束し合い伸縮しづらいことから各凸部及び各凹部で伸縮させることができず、伸縮性を全く有さない糸条となる。
【0020】
次に、特殊複合糸14の製造方法について説明する。
特殊複合糸14は、図4に示すような製造装置を用いて製造される。この製造装置においては、最も上流側(図中で上側)に第1フィードローラ21が配設されており、この第1フィードローラ21よりも下流(図中で下方)には上流側から順番に、タッチヒータ22及び第2フィードローラ23が配設されている。第1フィードローラ21及び第2フィードローラ23は、これらの間でオーバーフィード条件となるように製造装置に給糸された加工糸19を支持するものである。タッチヒータ22は、オーバーフィード条件下にある加工糸19がその内部を通過する際、内面に接触した加工糸19を加熱することにより、加工糸19の撚りを保持して特殊複合糸14とするものである。なお、このオーバーフィード条件とは、第2フィードローラ23の回転速度に比べて第1フィードローラ21の回転速度を速めることにより、第1フィードローラ21及び第2フィードローラ23の間で加工糸19を弛ませた状態とする条件をいう。また、第2フィードローラ23の側方にはドラム24及びチーズ25が設けられている。ドラム24及びチーズ25は、特殊複合糸14を製造装置外へと引き出し、同特殊複合糸14をチーズ25に巻き取ることによって回収するものである。
【0021】
この特殊複合糸14の製造において、その工程は、複数本の加工糸19を撚り合わせる撚糸工程と、撚糸工程後の加工糸19をオーバーフィード条件下で加熱してそれぞれの撚りを保持する加熱処理工程とに分けられる。
【0022】
前記撚糸工程は、前記製造装置以外の撚糸機等を用いることによって予め行われる。この撚糸工程においては、マルチフィラメント糸に仮撚り加工を施して製糸した加工糸が用いられる。この仮撚り加工においては、加撚処理時においてマルチフィラメント糸を従来の仮撚糸を得る条件に比べて強撚することが好ましい。具体的には、加撚処理としてマルチフィラメント糸を撚り数が2800〜3000t/mとなるように加撚し、この加撚による撚りを215〜230℃の条件下で加熱保持することが好ましい。これは、各フィラメントに付与される捲縮を大きなものとすることにより、各フィラメントの山同士及び谷同士を連ねやすくするためである。そして、この撚糸工程は、撚り数を60〜80t/mとして行われる。この撚り数は従来の撚糸を得る条件に比べて弱撚である。このように撚り数を弱撚に調整し、各加工糸が互いに締め付け合うことを抑制することで、加熱処理工程時に各フィラメントの山同士及び谷同士を揃えやすくしている。
【0023】
なお、当該撚糸工程において、加工糸は、4〜16本が撚糸される。また、加工糸には太さが165デシテックス(150デニール)程度のものが使用される。その結果、特殊複合糸は、その太さが660〜6670デシテックス(600〜6000デニール)となり、従来の撚糸に比べて太い糸条となる。また、加工糸は、沸騰水収縮率が8.0%以上であり、捲縮収縮率が35%以上であることが好ましい。これは、加撚処理工程の際、加工糸を加熱収縮させることにより、前記隙間18を拡げるためである。
【0024】
前記加熱処理工程は、前記撚糸工程で撚糸された複数本の加工糸19と、前記製造装置とを用いて行われる。当該加熱処理工程において、第1フィードローラ21及び第2フィードローラ23の間のオーバーフィード率は20〜100%である。換言すれば、第2フィードローラ23に対して第1フィードローラ21は、その回転速度が20〜100%速められる。オーバーフィード率が20%未満の場合、第1フィードローラ21及び第2フィードローラ23の間で加工糸19に張力が加わってしまい、各フィラメントの山同士及び谷同士が揃いにくくなる。一方、オーバーフィード率が100%を超える場合、第1フィードローラ21及び第2フィードローラ23の間で加工糸に全く張力が加わらず、各フィラメントの山同士及び谷同士を揃えることができなくなる。加えて、第1フィードローラ21及び第2フィードローラ23の間で加工糸が詰まるという不具合も生じる。
【0025】
前記タッチヒータ22は、加熱温度が220〜300℃となるように設定される。加熱温度が220℃未満の場合、前記撚糸工程で加えられた撚りが十分に保持されず、特殊複合糸を伸長させたときに各フィラメントが互いに位置ずれしてしまい、特殊複合糸が元の状態に収縮することができなくなる。一方、加熱温度が300℃を超える場合、撚りが過剰に保持され、各フィラメントが互いを拘束し合ったり、あるいはフィラメント同士が熱溶着される等の不具合が生じる。
【0026】
オーバーフィード条件下にある加工糸は、第1フィードローラ21と第2フィードローラ23とによって把持された状態で弛むことにより、タッチヒータ22の内部を転がるように大きく回転しながらゆっくり移動する。このとき、複数の加工糸は、弱撚状態にあることからその撚りが若干緩んでおり、回転等の影響により各フィラメントの山同士及び谷同士が揃えられる。そして、各フィラメントの山同士及び谷同士が揃った状態が加熱保持され、特殊複合糸14が得られる。なお、この特殊複合糸14において、前記凸部15は、1m当たりの個数が前記仮撚り加工の加撚処理でのマルチフィラメント糸の撚り数と同一となる。これは、15はフィラメントの山同士が連なって形成されたものであり、このフィラメントの山の数は仮撚り加工の加撚処理における撚り数に依存するためである。従って、特殊複合糸14において、凸部15の1m当たりの個数は、2800〜3000個である。
【0027】
次にこの特殊複合糸14を用いて、塗布用繊維構造体11を編成又は織成する。なお、特殊複合糸14以外の糸を併用することも可能であるが、カットパイルの総本数の4分の1以上が特殊複合糸14であることが望ましく、より望ましくは半分以上〜全量を特殊複合糸14によって構成させる。特殊複合糸14の量が少なすぎると、本発明の効果が発揮し難いが、コストなどの関係で全量で実施することは必ずしも必須ではない。
【0028】
本発明の塗布用繊維構造体11は、上記した特殊複合糸14を立設繊維層13に含んでいる限り、いずれの方法で製造してもよいが、製造方法の一例を示す。塗布用繊維構造体11は、製編織機、不織布製造装置などを使用して、シングル丸編地、ダブルラッセル編地、多重織物、積層不織布などの布帛を製造する際に、特殊複合糸14をパイル糸として供給し、ループパイル布帛を製造し、得られたループパイル布帛をシャーリング機に供するなどして、常法によりループパイルをカットして、カットパイルを形成する。これにより特殊複合糸14を25〜100質量%の割合で含む立設繊維層13を有する塗布用繊維構造体11を製造する。このカットパイルは、特殊複合糸14を構成しているフィラメント17同士が、その山17a及び谷17bを残した状態で分離している。また必要に応じて、公知の解繊機、毛割機、起毛装置等を用いて解繊することもできる。この解繊は、カットパイルの全高の20%以上を行なうことが適当である。カットパイルの基端側は、解繊されない撚糸状態の撚糸部分20aと、その先端側の解撚部分20bとを備えたものであり、非引張状態の長さの割合で、撚糸部分20aが0〜80%、解撚部分20bが20〜100%とすることが好ましい。より好ましくは、撚糸部分20aが50〜80%、解撚部分20bが20〜50%とし、最も好ましくは、撚糸部分20aが50〜70%、解撚部分20bが30〜50%とする。撚糸部分20aはカットパイルに弾性を与えて腰の強さを出す役割をなし、解撚部分は塗料を十分に含んで塗布する役割をなすため、これらの割合で解繊をなすことが好ましい。
【0029】
先端側の解撚部分20bは、山17a及び谷17bを残したものであるため、塗料を良好に抱き込み保持することができると共に、適度の弾性を有する。基端側の撚糸部分20aは前述のとおり伸縮性に富むことによって、適度な反発力が生じて、いわゆる腰の強さを付与することができる。従って、高粘度の塗料を塗布する場合にあっても、良好な塗布性能を継続させることができる。また、カットパイルの塗料の保持性が良好であるため、パイル密度を減少させることができる。具体的には、単糸本数で、 従来288本であったところ、本発明では180本として実施することもできるようになったものである。また、防錆塗料などの顔料含有量の多い塗料にあっても、顔料粒子がカットパイル間に詰まることなく、良好な塗布状態を継続することができるものである。
なお、本発明に係る塗布用繊維構造体11は、種々の形態の塗装部材に用いることができ、図1のペイントローラーに限らず、塗装用ブラシにも適用することができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の理解を高めるために実施例を示すが、本発明はこの実施例に限定して理解されるべきではない。
(特殊複合糸14の製造)
加工糸:ポリエステル製で264デシテックス(240デニール)/48フィラメントのマルチフィラメント糸に、ドローレシオが1.57、撚り数が2,900t/m、加撚時の加熱温度が220℃、仮撚装置内での糸の速度を100m/mの条件で仮撚り加工を施して得られた仮撚糸。
加工糸の太さ:165デシテックス(150デニール)。
加工糸の本数:5本。
撚糸工程における撚り数:70t/m
タッチヒータの温度:215〜230℃。
オーバーフィード率:20〜100%。
製造装置内での糸の速度:100m/m。
上記のような加工条件により、大きな伸縮性を有する撚糸である特殊複合糸14を得ることができた。また、この特殊複合糸14において、1m当たりの凸部の個数は、2,900個であった。
【0031】
(塗布用繊維構造体11の製造)
以上のようにして製糸された特殊複合糸14を織機で製織し、特殊複合糸14を100質量%の割合で含む繊維(カットパイル)よりなる立設繊維層立設繊維層13を有する塗布用繊維構造体11を製造し、特殊複合糸14のカットパイル糸を解繊機を用いて解繊した。カットパイルの株数(本数)は、39万本/m2であり、カットパイルの全高の約50%の範囲を解撚して解撚部分を形成し、毛丈13mmの塗布用繊維構造体11を作成した。この塗布用繊維構造体11を10に接着し、図1のペイントローラーを完成させた。
【0032】
(塗料塗布量の試験)
完成したペイントローラーによって、次の塗料塗布量の試験を行なった。その結果を表1に示す。比較例としては、ピーアイエー株式会社製の一般内外装仕上げペイントローラー「ボンパラゴン」(登録商標)毛丈13mmを用いた。塗料塗布量の試験は、表1に示す各塗料メーカーの塗料を塗布するもので、ローラーに塗料を付けて十分に均一に馴染ませて、その時点での重量(開始時重量)を測定し、常法に従い塗料を平板状の塗布面に塗装状態を確認しながら塗布する。塗装状態にかすれが生じた時点で塗布を終了し、その時点での重量(測定時重量)を測定し、上記の開始時重量との差を求め、これを塗装量とした。表1の塗装量には、3回同じ試験を行い、3回の平均値を記載した。表1の最下段において、実施例と比較例の塗料塗布量の比率を示したとおり、実施例は従来のペイントローラーに比して、良好な塗装量を実現することが確認された。
【0033】
【表1】

【符号の説明】
【0034】
10 支持体
11 塗布用繊維構造体
12 地組織
13 立設繊維層
14 特殊複合糸
15 凸部
16 凹部
17 フィラメント
17a 山
17b 谷
18 隙間
19 加工糸
20a 撚糸部分
20b 解撚部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地組織と、前記地組織の少なくとも一方の面に設けられた塗布用繊維層とを有し、前記塗布用繊維層が捲縮繊維を含むものである塗装用繊維構造体において、
前記塗布用繊維層は、
前記地組織から立設された多数の特殊複合糸を用いて構成されたものであり、
前記特殊複合糸は、複数本の加工糸を撚り合わせて得られたものであり、
前記加工糸は、同加工糸を構成するフィラメントに捲縮による山及び谷を付与して製糸されたものであり、
前記立設状態の特殊複合糸は、その少なくとも先端側に解撚部分を備えたものであり、
前記解撚部分は、前記特殊複合糸の前記撚りが解除された部分であると共に、前記フィラメントに対する捲縮による山及び谷が維持されたものであることを特徴とする塗装用繊維構造体。
【請求項2】
前記立設状態の特殊複合糸は、その基端側の撚糸部分と、その先端側の前記解撚部分とを備えたものであり、
前記撚糸部分は、前記特殊複合糸の前記撚りが維持された部分であり、
前記特殊複合糸は、複数本の加工糸を撚り合わせて得られ、撚りによる凸部と凹部とを糸条方向交互に備えるものであり、
前記凸部及び前記凹部は、各加工糸が互いのフィラメントの山同士及び谷同士をそれぞれ螺旋状に連ねることによって形成されていることを特徴とする請求項1記載の塗装用繊維構造体。
【請求項3】
前記加工糸には仮撚り加工において加撚時の撚り数が同じのものが使用されており、前記凸部は1m当たりの個数が当該撚り数と同一であることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗装用繊維構造体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の塗装具用繊維構造体が塗装面として塗装用ロールに取り付けていることを特徴とするペイントローラー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−17974(P2013−17974A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154819(P2011−154819)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000112200)ピーアイエー株式会社 (4)
【Fターム(参考)】