説明

塞栓形成用コイル

【課題】
生体管腔の所定部位に留置され、生体管腔を閉塞させる塞栓形成用コイルとしての実用的な機械的性質を備えるとともに、MRIによる撮像時にアーチファクトが生じない塞栓形成用コイルを提供する。
【解決手段】
本発明の塞栓形成用コイルは、生体管腔の所定部位に留置され、該生体管腔を閉塞させるために用いる塞栓形成用コイルであって、コイル素線がAuxPt100-x合金(X=60〜90)であり、その体積磁化率は水の体積磁化率との差(Δχ)の絶対値が15ppm以下である。特に好ましくは、X=71.5〜72である。更に、コイル素線の直径が35〜120μmであること、前記コイル素線は、伸線加工後に熱処理しないものであることも好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体管腔の所定部位に留置され、生体管腔を閉塞させる塞栓形成用コイルに係わり、更に詳しくは血管或いは血管に形成された瘤を閉塞させるための塞栓形成用コイルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、動脈瘤などに対する侵襲性の少ない治療法として、塞栓形成用体内留置具を動脈瘤内に留置する血管塞栓術が知られている。この血管塞栓術において、動脈瘤内に留置された塞栓形成用体内留置具は血液流に対する物理的な障害となるとともに、当該塞栓形成用体内留置具のまわりに血栓が形成されることによって、動脈瘤破裂の危険性を減少させることができる。ここで、動脈瘤などの血管中の所定部位に留置される塞栓形成用体内留置具として、金属材料からなる塞栓形成用コイルがある。
【0003】
かかる塞栓形成用コイルは、例えば、塞栓形成用コイルの端部に離脱可能に接続されている押出手段(誘導子)により適宜のカテーテルを介して所定部位に導入され、当該所定部位において離脱されて留置されることによりその機能を発揮する。このような塞栓形成用コイルには、以下に示す特性など種々の特性が要求される。
【0004】
(1)例えば血管や動脈瘤などの適用部位に対して過大な負荷を与ることによって血管や動脈瘤の壁面を突き破る、などの問題を生じさせることなく留置操作を行うために必要とされる高い柔軟性を有するものであること。また、例えば血管塞栓術の実施後において、経時的な形状変化によって隙間が生じ、再灌流が生じること(コンパクション)を防止するために、留置操作時において適用部位の僅かな隙間に対しても容易に押し込むことができ、単位体積当たりの塞栓形成率(所定部位における塞栓形成用コイルの占有率)を可及的に高める、という観点からも、高い柔軟性を有するものであることが必要とされる。
【0005】
(2)カテーテル内から押し出されて、一旦、所定部位に配置された後に、これを回収して位置修正する再留置操作を確実に行うことができるよう、コイル本体が無制限に伸びることを防止または抑制する機能を有するものであること、すなわち、例えばカテーテルの先端縁に引っかかるなどしてコイル本体が伸張することによって、当該コイル本体を回収することが困難となったり、適用部位を傷つけてしまうおそれがあるので、このような問題が生ずることがないような構成のものであることが要求される。
【0006】
そして、このような血管塞栓術が行われた後、瘤の増大や親血管へのコイルの逸脱がないかどうか確認するために、定期的な検査を施す必要がある。瘤の増大は、破裂につながり、親血管へのコイルの逸脱は、虚血や脳梗塞につながる。術後の検査には、血管造影、CT、MRI等を用いるが、血流を観察する点からMRIが最良である。
【0007】
MRIの原理を満たす核スピンが0以外の原子核であれば、全て画像にすることが可能であるが、医療用MRIでは、ほとんどすべての場合、水素原子1Hの信号を見ている。人体には、それを構成する水やその他の脂肪等に水素原子が多く含まれているので、1Hは至るところに存在し、1Hの信号を見ることによりその濃淡が組織を反映して画像化される。体重に対する重量%では、水素原子10%、酸素原子61%、炭素原子23%であるが、16O、12Cは核スピンが0であるので、MRIでは信号が得られない。尚、核スピンを有する炭素原子の同位体13Cを測定するMRIも原理的には可能であるが、臨床では用いられていない。
【0008】
水は弱い反磁性体であり、その体積磁化率はχv=−9.05×10-6(=−9.05ppm)である。通常の医療用MRIでは、水の検出に対して感度良く、画像に歪みの無いように調整されている。そのため、水の体積磁化率と大きく異なる物質に対しては、MRI画像のアーチファクトが大きくなって、その物質の近傍の生体部分が撮像できないといった問題を有している。特に、動脈瘤に塞栓形成用コイルを留置した場合、コイルの体積磁化率が水の体積磁化率と大きく異なると、アーチファクトの影響で動脈瘤の近傍の動脈が鮮明に撮像できない。
【0009】
特許文献1には、白金、金、銀、タンタルの何れかを80重量%以上を含む合金素線からなるコイルが開示されているが、MRI画像におけるアーチファクトについては言及されていない。また、特許文献2には、生体適合性、MRI適合性の高い金属材料として、金(Au)、白金(Pt)の二元合金について言及され、金の磁化率は負、白金の磁化率は正であり、両者を所定の比率で混合して合金化することにより非磁性化を実現することができるとの開示がある。そして、Au−28Ptの磁化率が−13ppm(Δχ=−4ppm)であることが報告されているが、金と白金の二元合金は、強さ、硬さ等といった物理的特性の点で、汎用的に種々の医療用具に適用することができないとし、金と白金とニオブ(Nb)の3元合金を提案しているのである。従って、特許文献2には、塞栓形成用コイルとして金と白金の特定比率の合金が開示されているとは言えない。尚、Au−Pt合金の磁化率については、非特許文献1に報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−097719号公報
【特許文献2】WO2010/084948A1号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Zeitschrift fur Physikalische Chemie Neue Folge,Bd.144,S.233-229(1985)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、生体管腔の所定部位に留置され、生体管腔を閉塞させる塞栓形成用コイルとしての実用的な機械的性質を備えるとともに、MRIによる撮像時にアーチファクトが生じない塞栓形成用コイルを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、前述の課題解決のために、生体管腔の所定部位に留置され、該生体管腔を閉塞させるために用いる塞栓形成用コイルであって、コイル素線がAuxPt100-x合金(X=60〜90)であり、その体積磁化率は水の体積磁化率との差(Δχ)の絶対値が15ppm以下であることを特徴とする塞栓形成用コイルを提供する。
【0014】
ここで、前記コイル素線がAuxPt100-x合金(X=70〜75)であることが好ましく、前記コイル素線がAuxPt100-x合金(X=71.5〜72)であることがより好ましい。
【0015】
また、前記コイル素線の直径が35〜120μmであること、前記コイル素線は、伸線加工後に熱処理しないものであることも好ましい。
【発明の効果】
【0016】
以上にしてなる本発明の塞栓形成用コイルは、生体管腔の所定部位に留置され、生体管腔を閉塞させる塞栓形成用コイルとしての実用的な機械的性質を備え、インゴットから所定線径のコイル素線を製造することが容易であり、そしてMRIによる撮像時にアーチファクトが生じないので、あるいはアーチファクトが抑制されるので、塞栓形成用コイルに影響されずに親血管を実用上問題がない程度に鮮明に撮像することができ、更に発熱も少ないので生体への侵襲も少ない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】Au−Pt合金における組成に対する磁化率χ(ppm)のグラフである。
【図2】MRI画像(Spin Echo)でのアーチファクト長と磁化率の関係を示すグラフである。
【図3】MRI画像(Gradient Echo)でのアーチファクト長と磁化率の関係を示すグラフである。
【図4】各種混合比のAu−Pt二元合金のインゴット試料の冠状断面MRI画像である。
【図5】各種混合比のAu−Pt二元合金のインゴット試料のMRI画像(上段がSpin Echo、下段がGradient Echo)である。
【図6】6種類のサンプルのMRI画像(Spin Echo)とアーチファクト画像である。
【図7】シリコーンゴム製(直径7mm)の動脈瘤モデルの中に各種組成の細線を充填したもののMRI画像(Spin Echo)とアーチファクト画像である。
【図8】Au−28PtとPt−8Wのコイル素線で作成した2次コイルの圧縮変位に対する圧縮荷重の変化を示すグラフである。
【図9】Au−28PtコイルとPt−8Wコイルをウサギの血管内に留置し、血管撮像に適したMRI撮像法(T2 star 撮像法)で撮像したMRI画像である。
【図10】ウサギの腹部大動脈の外膜に、シリコン製中空体にAu−28Pt合金コイルを挿入したもの(実施例)と、Pt−8W合金コイルを挿入したもの(比較例)を縫合したモデル動物を用いて取得したTOF−MRA像である。
【図11】ウサギの腹部大動脈の外膜に、シリコン製中空体にAu−28Pt合金コイルを挿入したもの(実施例)と、Pt−8W合金コイルを挿入したもの(比較例)を縫合したモデル動物を用いてデジタルサブトラクション法にて取得した血管造影結果である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の塞栓形成用コイルは、生体管腔の所定部位に留置され、生体管腔を閉塞させるために使用されるものであり、特に血管或いは血管に形成された瘤、その中で特に脳の動脈瘤を閉塞させるため使用するものであり、MRI画像を歪ませるアーチファクトの発生を生じず、あるいは大幅に低減させる組成に調合したAu−Ptの二元合金を使用して作製されている。
【0019】
AuxPt100-x合金(X=60〜90)では、α相とβ相が混合した状態である。金は展性に非常に優れた金属であり、金の含有量が多いほどコイル素線を製造する際の伸線工程で有利である。図1は、Au−Pt合金における組成に対する磁化率χ(ppm)のグラフであり、前述の非特許文献1から引用したものである。
【0020】
先ず、MRI画像でのアーチファクト長と磁化率の関係を調べた結果を図2(Spin Echo)と図3(Gradient Echo)に示す。これらは、8種類の磁化率が異なる材料で円柱型サンプルを作製し、MRI画像を取得してそれぞれアーチファクト長を計測した結果である。このグラフから、磁化率が約−9ppmでアーチファクト長が最小になることが確認できる。つまり、材料の磁化率が水の磁化率に近いほどアーチファクト長が小さく、MRI画像に歪がないことを意味する。
【0021】
次に、各種混合比のAu−Pt二元合金を作製し、そのインゴットのMRIイメージングを米国FDAから提案されているメディカルデバイスのMRI適合試験法(F2119試験)に従って評価した。作製したAu−Pt二元合金のインゴットの組成はPtが20〜80重量%の範囲である。具体的には、Ptの重量%が20、25、28、28.3、28.5、29、29.5、32、35、40、60、80である。これら各インゴット試料の冠状断面MRI画像を図4に示す。図4で左側はSpin Echo、右側はGradient Echoの画像である。図4中の各MRI画像の横にPtの割合を記載している。このMRI画像に示すようにPtの重量%が28.5−28%でアーチファクトが消えた。尚、図4中の28Yは、不純物が混入したと思われる材料を用いて作製したインゴットであり、参考にならない。図5は、Ptの重量%が0、25、28、30、60である各種混合比のAu−Pt二元合金のインゴット試料のMRI画像(上段がSpin Echo、下段がGradient Echo)である。Ptの割合が28重量%の近辺でアーチファクトが最小になることが分かる。
【0022】
水の磁化率(−9ppm)との差(Δχ)が0に近いほどアーチファクトを低減できる(あるいはアーチファクトが発生しない)ということは、周知である。そして、図2及び図3よりΔχの絶対値の値が15ppm以下になれば、アーチファクト長を数mm以内に抑制することができることが分かっている。つまり、材料の磁化率をおおよそ−24ppm<χ<+6ppmの範囲に調整すれば良いことになる。図1より、Au−Pt合金の磁化率をこの範囲になる組成は、AuxPt100-x合金(X=60〜90)となる。この数値範囲の境界には特に臨界的な意味はない。更に、AuxPt100-x合金(X=70〜75)であることが好ましく、前記コイル素線がAuxPt100-x合金(X=71.5〜72)であることがより好ましいことは、前述の図4の結果から決定した。Ptが28重量%の合金をAu−28Ptと表す。特に断りがない限り、二元合金であるのでPtの割合だけで合金の組成を表すことにする(例えば、28Pt)。
【0023】
実際には、インゴットから伸線加工によってコイル素線を製造し、それから所定直径のコイル(1次、2次)を作製し、それが生体の血管の近傍に埋め込まれたときに、コイルに影響されずに血管のMRI画像を取得できることを確かめなければなない。
【0024】
その前段階として、米国FDAメディカルデバイスMRI適合試験法の中でF2119試験(MR画像アーチファクト試験)を行い、得られたデータからデータマッピングとアーチファクト抽出の画像処理ソフトを作成して、アーチファクトを抽出して定量化した(図6参照)。ここで用いた合金は、(1)28Ptを均質化後、500℃×24hの時効処理を施した材料、(2)28Ptを均質化後、1000℃×48hの時効処理を施した材料、(3)28Ptを1000℃×48hの均質化処理を施した材料、(4)29Ptを1000℃×48hの均質化処理を施した材料、(5)28Ptの溶解のままの材料、(6)28.5Ptの溶解材のままの材料の6種類である。サンプルの配置は、図6の左側に記載してあり、そのMRI画像(Spin Echo)を中央に示し、右側にアーチファクト抽出の画像処理ソフトで処理したアーチファクト画像を、アーチファクト長を併記して示した。この結果、インゴットを均質化処理や時効処理を行ったものより、溶解材のままでその後何も処理をしない方が良好であることが分かった。
【0025】
また同様に、Ptの重量%が28.5−28%のAu−Ptの細線を作成し、市販されている動脈瘤コイル(Ptの重量%が92%のW(タングステン)8%の細線:Pt−8W)を用いて、シリコーンゴム製(直径7mm)の動脈瘤モデルの中に充填し、適合試験法の規格に従ってMRIイメージングと画像処理を行ってアーチファクトを抽出して定量化を行った(図7参照)。図7中の左側上段にサンプルの配置を示し、配置の上段左から空のシリコーンゴムのみ、Pt−8W(充填率(VER):15%)、Au−28Pt(伸線上がり、VER:15%)、下段左からPt−8W(VER:26%)、Au−28Pt(伸線上がり、VER:26%)、Au−28Pt(時効処理(TA)800℃、VER:26%)である。そして、図7中の右側上段にMRI画像(Spin Echo)、右側下段に対応するアーチファクト画像を示している。そして、図7中の左側下段にアーチファクト計測結果を一覧として示している。尚、図7中において、Au72−Pt28はAu−28Ptと、Pt92−W8はPt−8Wと同じである。
【0026】
次に、Au−28Pt合金の物性的性質を調べた。一次細線の引出し、一次コイル加工、二次コイル加工とも、特に大きな問題なく可能であることも判明した。更に、上記試作コイルと現在国内で臨床使用されている同コイル(Pt−8W)との物性的な比較検証を行った。次の表1に、本発明の材料(Au−28Pt)と市販の材料(Pt−8W)のそれぞれで測定した素線強度、1次コイル降伏力、1次コイル破断強度を示している。本発明の材料(Au−28Pt)は、市販品よりも機械的強度は若干劣るものの、塞栓形成用コイルとして十分な強度を備えている。
【0027】
【表1】

【0028】
次に、コイルの柔軟性を以下のようにして評価した。2次コイル形状を付与した本発明のコイルサンプル(組成:Au−28Pt、素線径:35μm、1次コイル径:0.25mm、2次コイル径:2.0mm)を径方向に1mm圧縮する際に要する荷重を測定した。1ピッチあたりの荷重を算出し、既存品(組成:Pt−8W、素線径:35μm、1次コイル径:0.25mm、2次コイル径:2.0mm)と比較した。Au−28Ptに関しては2つのサンプルをそれぞれ測定した。これらの測定結果を次の表2に示す。
【0029】
また、素線径と2次コイル径が異なる以下のコイルサンプルを作成した。2次コイル形状を付与した本発明のコイルサンプル(組成:Au−28Pt、素線径:45μm、1次コイル径:0.25mm、2次コイル径:2.5mm)を径方向に0.7mm圧縮する際に要する荷重を測定した。1ピッチあたりの荷重を算出し、最も柔軟な既存品(EDコイル ES(株式会社カネカ製)、組成:Pt−8W、素線径:35μm、1次コイル径:0.25mm、2次コイル径:2.5mm)と比較した。このサンプルの柔軟性の測定結果も表2にn=3に併せて示す。
【0030】
【表2】

【0031】
上記の結果、Au−28Ptの2種類のサンプル(伸線上がり、400℃TA品)のいずれも既存品よりも高い柔軟性を示すことが明らかとなった。
【0032】
Au−28Ptのφ35μm素線は既存品であるPt−8Wの35μm素線と比較して、引張強度が低いことが明らかとなっている。既存品と同程度の引張強度を示すと予想されるAu−28Pt素線径を見積もった上で、コンピューターシミュレーションにより柔軟性の推算を実施した。その結果、Au−28Ptの35μm素線の引張強度は1.25N(n=2の平均)であるのに対し、Pt−8Wの35μm素線の引張強度は2.00N(n=2の平均)である。同一材料の引張強度は素線の断面積に比例すると仮定した結果、Au−28Ptの素線径を45μmに変更することで引張強度は2.07Nになり、既存品と同等になる。この結果は、表1に示した測定値と一致する。また、Au−28PtおよびPt−8Wのそれぞれについて、素線径が35μmまたは45μmの場合における2次コイル柔軟性(1次コイル径:0.25mm、2次コイル径:3.0mm)を有限要素解析にて評価した。解析には2次コイルの1/4モデルを使用した。圧縮変位に対する圧縮荷重の変化を図8に示す。素線径を35μmから45μmに変更することで、Au−28PtおよびPt−8Wのいずれにおいても柔軟性は低下する傾向が認められた。また、同一素線径においてはAu−28Ptの方が柔軟性に優れることが分かった。本発明のコイル素線の直径を既存品の直径よりも若干太くすることによって、既存品の機械的強度と柔軟性に近似させることが可能であることが分かる。
【0033】
表2より、45μm素線径を使用したコイルサンプル(n=3)は、EDコイルESよりもわずかに柔軟性に劣る結果であり、前述のシミュレーション結果と合致することが確認された。一方、柔軟性の差はわずかであること、より太い素線を使用した既存品(EDコイル S(株式会社カネカ製)、組成:Pt8−W、素線径:45μm)が動脈瘤塞栓治療に使用されていることから、コイルサンプル(n=3)の柔軟性は臨床ニーズに十分合致すると考えられる。
【0034】
前記コイル素線の直径は、要求される物性に応じて適宜選択可能であるが、実用的にはコイル素線の直径は35〜120μmの範囲である。また、前記コイル素線は、伸線加工後に熱処理しないものであることが、製造の容易性、アーチファクトの低減の観点から好ましいが、均質化処理や時効処理は必要に応じて行えば良い。
【実施例1】
【0035】
本発明のAu−28Ptコイルをウサギの血管内に留置し、臨床において血管撮像として用いられているMRI撮像法(T2 star 撮像法)によってアーチファクト評価を行った。対象にした血管は総頸動脈の外頸・内頸分岐部において、コイルで外頸動脈を封鎖することで内頸動脈側部にコイルを留置し、実際の動脈瘤を模擬した。ウサギ自体の血管経が小さいのでコイルを約5mm(1次コイル長)に切断して細切れにしたものを計約20mm分外頸動脈に留置し起始部を結紮した。右外頸動脈には市販されているPt−8Wからなる動脈瘤コイルを用い、左外頸動脈には本発明のAu−28Ptによるコイルを用いた。アーチファクトを比較すると右外頸動脈(Pt−8Wコイル埋入)が左外頸動脈(Au−28Pt埋入)より大きくなり、アーチファクトの影響でコイル周辺の組織が黒く抜けた(図9)。
【実施例2】
【0036】
2液硬化型シリコンを用いて、内径6mm、肉厚0.3mmの球状の中空体を作製した。Au−28Pt合金の直径0.035mm素線を巻き回して作製した外径0.25mmのストレートコイルを中空体の開口部から内部に挿入した。使用したストレートコイルの数量は1本、長さは81cmである。瘤内体積と使用したストレートコイルの体積(ストレートコイルを外径0.25mmの円筒に近似)の比から算出される塞栓率は35%となった。2液硬化型シリコンから作製したシートを用いて開口部を封じたものを実施例とした。Pt−8W合金を用いた以外は実施例と同様に作製したものを比較例とした。
【0037】
ウサギ(ニュージーランドホワイト種、オス、体重3.5kg)を麻酔下で開腹し、腹部大動脈を露出させた。実施例および比較例のそれぞれを腹部大動脈の外膜に縫合固定後に閉腹し、留置を終了した。留置3日経過後、このモデル動物を用いて、静磁場強度が1.5テスラである超伝導磁石式全身用MR装置を用いて最大値投影法によりTOF−MRA像を取得した。その結果を図10に示す。また、デジタルサブトラクション法にて血管造影を実施した結果を図11に示す。
【0038】
血管造影像からは実施例及び比較例の近傍の腹部大動脈には狭窄が存在せず、良好な血流が得られていることがわかる。TOF−MRA像では比較例近傍の腹部大動脈にアーチファクトが生じている一方、実施例近傍ではアーチファクトが全く生じていない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体管腔の所定部位に留置され、該生体管腔を閉塞させるために用いる塞栓形成用コイルであって、コイル素線がAuxPt100-x合金(X=60〜90)であり、その体積磁化率は水の体積磁化率との差(Δχ)の絶対値が15ppm以下であることを特徴とする塞栓形成用コイル。
【請求項2】
前記コイル素線がAuxPt100-x合金(X=70〜75)である請求項1記載の塞栓形成用コイル。
【請求項3】
前記コイル素線がAuxPt100-x合金(X=71.5〜72)である請求項1記載の塞栓形成用コイル。
【請求項4】
前記コイル素線の直径が35〜120μmである請求項1〜3何れか1項に記載の塞栓形成用コイル。
【請求項5】
前記コイル素線は、伸線加工後に熱処理しないものである請求項1〜4何れか1項に記載の塞栓形成用コイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−106829(P2013−106829A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254809(P2011−254809)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度 独立行政法人科学技術振興機構による地域イノベーション創出総合支援事業「重点地域研究開発推進プログラム」育成研究採択課題「低侵襲脳血管内治療用デバイスの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【出願人】(304020292)国立大学法人徳島大学 (307)
【出願人】(591206108)マルホ発條工業株式会社 (6)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】