説明

塩味増強剤及びその製造方法

【課題】 減塩を目的とした時の塩味の不足を補うことを可能とする優れた塩味増強剤の提供。
【解決手段】 鮭白子の酵素分解物からなる塩味増強剤。前記酵素分解物が蛋白加水分解酵素及び/又は核酸加水分解酵素によるものである塩味増強剤。前記塩味増強剤にさらに塩基性アミノ酸、特にアルギニンを添加した塩味増強剤。さらに塩化カリウムを添加した塩味増強剤。前記塩味増強剤を弱酸性に調整した塩味増強剤。これらの製造方法、これらを用いた塩味の増強方法、及びこれらの塩味増強剤を含有する飲食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品において食塩を減らすことによる塩味の弱さや物足りなさを補うための塩味増強剤、その製造方法、それを用いた塩味の増強方法、及びそれらを含有する飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
食塩(塩化ナトリウム)は、人間にとって必要不可欠な栄養成分である。例えば、体内の水分及びpHの調整、食べ物の消化、栄養素の吸収、神経伝達等が挙げられ、その機能において重要な役割を果たす。さらに、食塩は飲食品のおいしさを左右する重要な役割を果たしている。例えば、旨味や風味の強化、食品の保存、味噌・醤油・パンなどの発酵食品の製造、練り製品やうどんのテクスチャーの付与、葉緑素を安定化させ色調を保持すること等が挙げられる。このように、人間の生活にとって欠かせない食塩であるが、その過剰摂取は、諸説あるものの高血圧、腎臓病、心臓病等の疾病を引き起こすリスクを高めると考えられている。そのため、食塩摂取量、特にナトリウム摂取量を低減化することが重要視され、強く望まれている。これは、すでに発症している疾病を治癒させるためだけでなく、健常者に対しても予防的な措置を講ずるためでもある。
食塩摂取量を低減させるためには、単に飲食品の調味や加工において食塩の使用量を減らす方法が考えられるが、上記に論じたように、食塩は食品の風味おいて重要な役割を果たしている。従って、単に食塩の使用量を減らした飲食品は、風味を損ない、味気ないものとなる。そこで、食塩を低減しても飲食品の食塩味や風味を損なわない技術の開発が強く求められている。
【0003】
従来の飲食品における食塩味や風味を損なわず、食塩を低減する減塩方法のひとつとして、それ自身が食塩味を呈する物質、即ち食塩代替物質を使用する方法がある。これに代表されるものとして、例えば塩化カリウム等のカリウム塩、塩化アンモニウム等のアンモニウム塩、塩化マグネシウム等のマグネシウム塩等が知られている。さらにグリシンエチルエステル塩酸塩、リジン塩酸塩等のアミノ酸の塩酸塩、さらに、オルニチルタウリン、オルニチル-ベータ-アラニン、グリシルリジン等の塩基性アミノ酸からなるペプチド類が知られている。これらの塩味代替物質は食塩味のほかに苦味、特有の呈味、不快味を有するといったような欠点がある。これらの塩味代替物質を用いて食塩を低減し、食塩味以外の不快な呈味を抑制する技術として、塩化カリウム、塩化アンモニウム、乳酸カルシウム、L-アスパラギン酸ナトリウム、L-グルタミン酸塩及び/又は核酸系呈味物質を特定の割合で混合してなる調味料組成物(特許文献1)、有機酸のカルシウム塩やマグネシウム塩を組み合わせた塩化カリウムの苦味抑制方法(特許文献2)等が知られている。しかし、今もなお、食塩味以外の不快な呈味、塩化ナトリウムに比べ、塩味代替物質の塩味強度が低い等の理由で消費者のニーズにあった減塩技術には到達していない。
【0004】
さらに、飲食品における食塩味や風味を損なわず、食塩を低減するもうひとつの減塩方法として、食塩味を増強させ食塩を低減しても食塩味を損なわせない物質、即ち塩味増強物質を使用する方法がある。例えば、L−アルギニン、L−アスパラギン酸及び塩化ナトリウムを組み合わせたもの(特許文献3)、分子量50,000ダルトン以下のコラーゲンを加水分解して得られるペプチド(特許文献4)、ソーマチン(特許文献5)、各種蛋白素材の蛋白加水分解物(特許文献6)、トレハロース(特許文献7)、酵母エキス(特許文献8)、蛋白質を加水分解処理及び脱アミド処理して得られるペプチド(特許文献9)、塩基性アミノ酸とクエン酸とを反応させて生成する中和塩を主成分とする呈味改良剤(特許文献10)等、数多くのものが報告されている。しかし、減塩効果、風味、経済性等の観点から考えると、未だ有効な技術、消費者のニーズにあった技術は開発されておらず、食塩を低減しても食塩味および風味を損なわない効果的な減塩技術が強く求められている。
【0005】
【特許文献1】特開平11−187841号公報
【特許文献2】特開平4−108358号公報
【特許文献3】米国特許第5145707号明細書
【特許文献4】特開昭63−3766号公報
【特許文献5】特開昭63−137658号公報
【特許文献6】特開平7−289198号公報
【特許文献7】特開平10−66540号公報
【特許文献8】特開2000−37170号公報
【特許文献9】国際公開第01/039613号パンフレット
【特許文献10】特開2003−144088号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、飲食品において食塩を減らすことによる塩味の弱さや物足りなさを補うための塩味増強剤、その製造方法、それを用いた塩味の増強方法、及びそれらを含有する飲食品を提供することを課題とする。具体的には、魚介類抽出物、特に鮭白子の酵素分解物からなる塩味増強剤、さらに塩基性アミノ酸、特にアルギニンを添加した該増強剤、これらの製造方法、及びこれらを含有する飲食品に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは減塩効果、即ち塩化ナトリウムを減量した時の味覚としての塩味の弱さ、物足りなさを補うことのできる物質を求め鋭意研究の結果、魚介類抽出物、特に鮭の白子の酵素分解物に強い塩味増強作用を見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は以下の(1)〜(11)に関する。
(1) 鮭白子の酵素分解物からなる塩味増強剤。
(2) 酵素分解物が蛋白加水分解酵素及び/又は核酸加水分解酵素により処理されたものである、(1)記載の塩味増強剤。
(3) さらに塩基性アミノ酸を添加した、(1)又は(2)記載の塩味増強剤。
(4) 塩基性アミノ酸がアルギニンである、(3)記載の塩味増強剤。
(5) さらに塩化カリウムを添加した、(1)〜(4)記載の塩味増強剤。
(6) pHを5〜8に調整した、(1)〜(5)記載の塩味増強剤。
(7) 鮭白子を酵素で処理すること、又は鮭白子を酵素で処理した後塩基性アミノ酸及び/又は塩化カリウムを組み合わせること特徴とする、(1)〜(6)記載の塩味増強剤の製造方法。
(8) 酵素処理が蛋白加水分解酵素及び/又は核酸加水分解酵素である、(7)記載の製造方法。
(9) 塩基性アミノ酸がアルギニンである、(7)又は(8)記載の製造方法。
(10) (1)〜(6)記載の塩味増強剤、又は(7)〜(9)記載の製造方法により得られた塩味増強剤を食塩を含有する食品に添加することを特徴とする、塩味の増強方法。
(11) (1)〜(6)記載の塩味増強剤、又は(7)〜(9)記載の製造方法により得られた塩味増強剤を添加した飲食品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の塩味増強剤は、食品に含まれる食塩による塩味を強く感じさせる作用を有する。したがって、本発明の塩味増強剤を用いることにより、食塩中の食塩量を減量しても、減量する前と同等の塩味を感じさせることができるので、食塩の使用量を減量することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、鮭白子の酵素分解物からなる塩味増強剤に関する。本発明における鮭としてはシロザケ、ギンザケ、ベニザケ、タイセイヨウサケ(アトランティックサーモン)、キングサーモン等のサケ類が例示される。これらサケ類の白子、即ち精巣を原料とする。この原料を酵素処理するが、酵素処理としては蛋白加水分解酵素、核酸加水分解酵素、あるいはこれらを組み合わせたものが用いられる。核酸加水分解酵素としては、分解様式によりエンドヌクレアーゼ及びエキソヌクレアーゼ、さらにDNAを分解するデオキシリボヌクレアーゼ及びRNAを分解するリボヌクレアーゼが挙げられ、それらを単独又は組み合わせて用いてもよい。食品添加用として市販されている核酸加水分解酵素としては、具体的にはヌクレアーゼ「アマノ」G(天野製薬)等が挙げられる。さらに、核酸加水分解酵素で分解した後、5’-アデニル酸デアミナーゼ活性を有するデアミザイムG(天野製薬製)を使用すると、加水分解された核酸由来成分からIMP(イノシン5’−リン酸)に由来する旨味が生成し好ましい風味が得られるため好ましい。
【0010】
蛋白質加水分解酵素としては、エンドペプチダーゼあるいはエキソペプチダーゼが挙げられ、それらを単独又は組み合わせて用いても良い。エンドペプチダーゼとしては、例えばトリプシン、キモトリプシン、ズブチリシンに代表されるセリンプロテアーゼ、ペプシンに代表されるアスパラギン酸プロテアーゼ、サーモリシンに代表される金属プロテアーゼ、パパインに代表されるシステインプロテアーゼ等が挙げられる。食品添加用として市販されているエンドペプチダーゼとしては、具体的にはアルカラーゼ(ノボザイムス製)、スミチームMP(新日本化学工業製)、ブロメラインF(天野製薬製)、オリエンターゼ20A(エイチヴィアイ製)等が挙げられる。また、食品添加用として市販されているエキソペプチダーゼ活性を有する酵素としては、フレーバーザイム(ノボザイムス製)、スミチームFP(新日本化学工業製)、アクチナーゼ(科研製薬製)等が挙げられる。また、これらの蛋白加水分解酵素を2種以上組み合わせて使用することもできる。このとき、エンドペプチダーゼとエキソペプチダーゼを組み合わせることが好ましく、具体的にはアルカラーゼ及びフレーバーザイム、あるいはオリエンターゼONS及びフレーバーザイムの組み合わせが特に好ましい。これら酵素はそれぞれに適した温度、pH条件下で、原料に1〜48時間、特に3〜24時間反応させることが好ましい。このようにして得た酵素分解物が本発明の塩味増強剤であり、これをそのまま用いることができる。なお、本発明塩味増強剤は、TNBS法による平均ペプチド鎖長が2〜3を示し、アミノ酸自動分析計によるアミノ酸分析において、特徴的なアミノ酸としてペプチド性アミノ酸中にペプチド性グリシン及びペプチド性リジンをそれぞれ5%以上、ペプチド性プロリン及びペプチド性アスパラギン酸及びペプチド性グルタミン酸をそれぞれ10%以上含有するものである。
【0011】
また、前記の方法により得られた鮭白子の酵素分解物である本発明塩味増強剤に、さらに塩基性アミノ酸を添加しても良い。この時、用いる塩基性アミノ酸としては、特にアルギニンが好ましい。アルギニンは市販のもの、あるいは常法により精製されたものを用いることができる。添加する量としては、鮭白子の酵素分解物の有効成分(鮭白子の酵素分解物のBrixから塩化ナトリウム量を引いたものを有効成分量とする)1重量部に対し0.01〜20重量部、特に0.05〜5重量部で添加するのが好ましい。さらに塩化カリウムを組み合わせても良い。塩化カリウムは市販の物を用いれば良い。添加する量としては、鮭白子の酵素分解物の有効成分1重量部に対し0.01〜50重量部、特に0.05〜10重量部で添加するのが好ましい。
【0012】
本発明の塩味増強剤は、分解物そのままのpHで用いても良いが、pHを弱酸性〜中性、具体的にはpH5〜8程度に調整することにより、より効果を発揮することができる。鮭白子の酵素分解物はほぼ中性付近のpHであるが、塩基性アミノ酸であるアルギニンなどを添加した場合pHがアルカリに傾くため、pHの調節をするのがよい。pHの調整は適当な酸、好ましくはクエン酸、酢酸、乳酸、コハク酸、フマル酸、リン酸、リンゴ酸、特に好ましくは塩酸を用いて調整すれば良い。調整時期は使用するまでに調節すればよく、原料段階、製造の途中段階、あるいは最終物が得られた後などに行うことができる。食品の多くは中性付近のpHを有するため、特別な対応をすることなく本発明の塩味増強剤を用いることができる。
【0013】
また本発明は、本発明塩味増強剤の製造方法に関する。本発明塩味増強剤の製造方法は、前記の通り鮭白子を原料とし、適当な酵素を用いて適当な条件下で処理を行うことにより、酵素分解物を得ることができる。酵素処理としては蛋白加水分解酵素、核酸加水分解酵素、あるいはこれらを組み合わせたものが用いられる。核酸加水分解酵素としては、分解様式によりエンドヌクレアーゼ及びエキソヌクレアーゼ、さらにDNAを分解するデオキシリボヌクレアーゼ及びRNAを分解するリボヌクレアーゼが挙げられ、それらを単独又は組み合わせて用いてもよい。食品添加用として市販されている核酸加水分解酵素としては、具体的にはヌクレアーゼ「アマノ」G(天野製薬)等が挙げられる。さらに、核酸加水分解酵素処理後、5’-アデニル酸デアミナーゼ活性を有するデアミザイムG(天野製薬製)を使用するとIMP(イノシン5’−リン酸)に由来する旨味が生成し好ましい風味が得られるため好ましい。蛋白質加水分解酵素としては、エンドペプチダーゼあるいはエキソペプチダーゼが挙げられ、それらを単独又は組み合わせて用いても良い。エンドペプチダーゼとしては、例えばトリプシン、キモトリプシン、ズブチリシンに代表されるセリンプロテアーゼ、ペプシンに代表されるアスパラギン酸プロテアーゼ、サーモリシンに代表される金属プロテアーゼ、パパインに代表されるシステインプロテアーゼ等が挙げられる。食品添加用として市販されているエンドペプチダーゼとしては、具体的にはアルカラーゼ(ノボザイムス製)、スミチームMP(新日本化学工業製)、ブロメラインF(天野製薬製)、オリエンターゼONS、オリエンターゼ20A(エイチヴィアイ製)等が挙げられる。また、食品添加用として市販されているエキソペプチダーゼ活性を有する酵素としては、フレーバーザイム(ノボザイムス製)、スミチームFP(新日本化学工業製)、アクチナーゼ(科研製薬製)等が挙げられる。これら酵素はそれぞれに適した温度、pH条件下で、原料に1〜48時間、特に3〜24時間反応させることが好ましい。また、これらの蛋白加水分解酵素を2種以上組み合わせて使用することもできる。この時、エンドペプチダーゼとエキソペプチダーゼを組み合わせることが好ましく、具体的にはアルカラーゼ及びフレーバーザイム、あるいはオリエンターゼONS及びフレーバーザイムの組み合わせが特に好ましい。酵素を選択する場合、完全に遊離アミノ酸に分解してしまわず、ジペプチドなどのアミノ酸2-4個のオリゴペプチドを多く生成する酵素の組み合わせが好ましく、酸性プロテアーゼよりもアルカリプロテアーゼの方が好ましい。以上のような製造方法により本発明塩味増強剤を製造することができる。このような方法で得られる酵素分解物は、アミノ酸自動分析計によるアミノ酸分析において、特徴的なアミノ酸としてペプチド性アミノ酸中にペプチド性グリシン及びペプチド性リジンをそれぞれ5%以上、ペプチド性プロリン及びペプチド性アスパラギン酸及びペプチド性グルタミン酸をそれぞれ10%以上含有するものである。さらに、この酵素分解物に前記の通り塩基性アミノ酸及び/又は塩化カリウムを加えることにより、より効果の高い塩味増強剤を製造することができる。
【0014】
また本発明は、本発明塩味増強剤を用いた塩味の増強方法に関する。前記方法により得られた本発明塩味増強剤を、食塩を含有する飲食品に添加することにより、その食品の塩味を増強することができる。添加する目安としては、添加する食品によるが、本発明の鮭白子酵素分解物の有効成分を食品中に1〜2重量%、アルギニン0.1〜1.0重量%、及び塩化カリウム0.1〜1.0重量%程度を添加すると、食品に含まれる食塩を50%減量しても減量していないものと同等の塩味を感じさせることができる。したがって、食品に含まれる食塩(塩化ナトリウム)を50%減塩したい場合は、鮭白子酵素分解物の有効成分を食品中に1〜2重量%、アルギニン0.1〜1.0重量%、及び塩化カリウム0.1〜1.0重量%を添加すればよく、これを目安に希望する減塩の程度によって本発明の塩味増強剤の量を加減すればよい。本発明の鮭白子酵素分解物の有効成分は、飲食品全体に対し0.05〜5重量%、特に0.1〜3重量%程度添加するのが好ましい。このように本発明塩味増強剤を添加することにより、減塩した飲食品の塩味を増強することが可能となる。
【0015】
また、このようにして得られた本発明の塩味増強剤を、減塩(塩化ナトリウムの減量)を目的として各種飲食品に添加することにより、減塩された飲食品が提供される。本発明の塩味増強剤はわずかに魚エキス独特の臭いがあるが、えぐみ、苦味など使用を大きく制限するような味はないので、広い範囲の飲食品に使用できる。飲食品としては、例えば鮭フレーク、辛子明太子、塩たらこ、焼魚、干物、塩辛、魚肉ソーセージ、煮魚、佃煮、缶詰等の水産加工食品、ポテトチップス、煎餅、クッキー等のスナック菓子、うどんつゆ、そばつゆ、そーめんつゆ、ラーメンスープ、ちゃんぽんスープ、パスタソース等の麺類のつゆ、おにぎり、ピラフ、チャーハン、混ぜご飯、雑炊、お茶漬け等の米飯調理品、春巻き、シュウマイ、餃子、カレー、煮物、揚げ物等の調理食品、ハンバーグ、ソーセージ、ハム、チーズ等の畜産加工品、キムチ、漬物等の野菜加工品、醤油、ソース、ドレッシング、味噌、マヨネーズ、トマトケチャップ等の調味料、コンソメスープ、お吸い物、味噌汁、ポタージュスープ等のスープ類が挙げられる。
【0016】
また、本発明の塩味増強剤は、その他公知、市販されている減塩を目的とするための各種添加剤と組み合わせて用いても良い。
【0017】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0018】
分析方法
1.食塩含量の測定
食塩含量の測定は、以下の方法に従って行った。即ち、試料を1% HClにて25倍に希釈した後30分間振とうし、ナトリウムイオンを抽出した後、抽出試料を任意の量の1%
HClにて希釈し、原子吸光光度計(日立製、Z8100)によりナトリウム含量を測定した。食塩量は、得られたナトリウム含量に2.54を乗じ算出した。
【0019】
2.塩味増強作用(塩味増強率)の測定
食塩濃度を0.49%(w/w)に調整した試料溶液の塩味強度を、尺度基準法により測定した。即ち、0.49%(w/w) 、0.625%(w/w)、0.76%(w/w)、0.955%(w/w)に調整した食塩標準溶液の塩味強度と、試料溶液の塩味強度を比較し、試料溶液の塩味強度が4点の食塩標準溶液の濃度を直線で結んだ場合、試料溶液の塩味がどのあたりに位置するかで評価した。パネルは、飲食品の調味の専門家で構成した。また試料溶液の塩味増強率は、0.49%の食塩溶液の塩味強度をどの程度増強させたかを示すため、以下の式にて算出した。
【0020】
【数1】

【実施例2】
【0021】
鮭白子を原料とした本発明塩味増強剤の製造
鮭白子(笹谷商店製)1kgをフードカッター(Dito Sama製)にて破砕後鍋に入れ、2kg加水し95℃付近で30分間加熱した。pHメーター(F-50 、堀場製作所製)で確認しながら2N HClにてpH5.0に調整した後、さらに加水し全量を3kgとした。核酸加水分解酵素であるヌクレアーゼ「アマノ」G(天野エンザイム製)1gを加えて、ウォータバスにて70℃で5時間、加水分解を行った。反応後、2N NaOHにてpH6.0に調整した後、デアミザイムG(天野エンザイム製)0.1gを加えて、50℃で24時間反応させた。さらに反応後、2N NaOHにてpH7.0に調整した後、蛋白質加水分解酵素であるアルカラーゼ(ノボザイムス製)0.36g及びフレーバーザイム(ノボザイムス製)0.18gを加えて50℃で24時間反応させた。反応後、95℃で30分間加熱して酵素を失活させ、7000回転、15分間にて遠心分離(サクマ製、50A-IV型)とろ過(アドバンテック製、NO.2ろ紙)を行い、本発明塩味増強剤である鮭白子酵素分解物約2.8kgを得た。
【0022】
本発明塩味増強剤の平均ペプチド鎖長及びアミノ酸分析
次に、得られた本発明塩味増強剤の平均ペプチド鎖長及びアミノ酸分析を行った。平均ペプチド鎖長は、TNBS(2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム)法により求めた。すなわち、任意の倍率に希釈した本発明塩味増強剤0.5mlに0.15Mホウ酸緩衝液(pH9.0)2.0ml、0.01M亜硫酸溶液0.5ml、0.1% TNBS溶液0.5mlを加えて、37℃×60分反応させた後、吸光度 420nmで測定した。酸加水分解は、6N HCl中で110℃、24時間行った。遊離アミノ酸濃度はアミノ酸自動分析装置分析計 (日立L-8500) で測定した。ペプチド鎖長は以下の式2により求めた。また、アミノ酸分析は得られた本発明塩味増強剤を高速アミノ酸分析計(日立ハイテクノロジーズ社製、L-8900)に付し分析を行った。
【0023】
【数2】

【0024】
この結果、前述の本発明塩味増強剤である鮭白子酵素分解物の全アミノ酸濃度に占める遊離アミノ酸濃度の割合は、28%であり、平均ペプチド鎖長は2.62であった。従って、本発明塩味増強剤は低分子ペプチドの混合物であることを確認された。また、アミノ酸分析により、本発明塩味増強剤の特徴的なアミノ酸としてペプチド性アミノ酸(全アミノ酸量から遊離アミノ酸量を引いたもの)中にペプチド性グルタミン酸を15.41%、ペプチド性プロリンを12.87%、ペプチド性アスパラギン酸を10.57%、ペプチド性グリシンを8.99%、ペプチド性リジンを8.91%含有するものであることが確認された。
【0025】
比較例
本発明塩味増強剤の効果を確認するために、従来技術の中で塩味増強作用の点から比較的評価の高い、蛋白質を加水分解処理及び脱アミド処理して得られる塩味増強作用を有するペプチド(WO 01/039613)を調製した。ペプチドの調製は当該特許公開公報に従った。即ち、調整豆乳蛋白質:ソヤフィット(不二製油製)31.3g、大豆蛋白質:フジプロFX(不二製油製)21.6g、小麦グルテン:A-グル-G(グリコ栄養製)29.7g、カゼイン:サンラクトS-3(太陽化学製)20.0g、乳清蛋白質:サンラクトN-2(太陽化学製)20.0g、魚ゼラチン:FGL200SP(新田ゼラチン製)23.5gをそれぞれ0.6N HClに分散させ200gとした。これらの分散液をオートクレーブにて120℃で120分間処理し、脱アミド化処理を行った。処理後、それぞれの反応液を2N NaOHにてpH8.0に調整後、加水し200gとした。アルカラーゼ1gを加え、55℃で6時間反応させた。反応後、95℃で30分間加熱して酵素を失活させ、7000回転、15分間にて遠心分離(サクマ製、50A-IV型)とろ過(アドバンテック製、NO.2ろ紙)を行い、各種蛋白素材のペプチドを得た。脱アミド化処理を行わない試料については0.6N HClの代わりに蒸留水に分散させ、オートクレーブ処理をしなかった以外は同様の処理をした。各素材と比較例の番号の対応を、以下の表1に示す。
【0026】
【表1】

【実施例3】
【0027】
本発明塩味増強剤の評価
実施例2にて作製した本発明塩味増強剤の作用を評価した。即ち、実施例2の本発明塩味増強剤のBrixから塩化ナトリウム量を引いたものを本発明塩味増強剤の有効成分量とし、有効成分が1w/w%となるように本発明塩味増強剤を添加した。なお、BrixはBrixメーター(アタゴ製、PAL-1)を用いて測定した。次に、評価液中の塩化ナトリウム濃度が0.49w/w%となるように10w/w% 塩化ナトリウム溶液を添加し調整した。さらにpH6.0になるように2N HClにて調整した後、蒸留水を加え100gとし、評価液とした。表2に各酵素分解物の有効成分量、及び評価液100gの組成を示す。この評価液を用いて、実施例1の2.に記載の尺度基準法により、本発明塩味増強剤の増強作用を評価した。
【0028】
【表2】

【0029】
この結果、本発明塩味増強剤は、0.49%の食塩溶液と比較して28%の塩味増強率を示した。また、わずかに魚エキス独特の臭いがあるものの、えぐみ、苦味など食味に影響を与えるような強い味はなかった。
実施例2の酵素分解物の製造方法のうち、デアミザイムGによる処理だけを行わず、それ以外は同様に酵素分解物を製造してみたが、デアミザイムG処理の有無により塩味増強効果には大きな差が認められなかった。
【実施例4】
【0030】
アルギニンを添加した本発明塩味増強剤の評価
WO
01/039613号公報では、さらにアルギニンを添加することにより塩味増強効果が顕著に増加することが示されている。そこで、実施例2で製造した本発明塩味増強剤、及び比較例1〜8の酵素分解物について、さらにアルギニンを添加した時の効果を確認した。即ち、各酵素分解物の有効成分が1%、アルギニンの濃度が0.35%、また塩化ナトリウム濃度が0.49%、さらにpH6.0になるように2N HClにて調整した後、蒸留水を加え100gとした評価液を作製した。また、酵素分解物を全く加えないものを対照とした。表3に各酵素分解物の有効成分量、及び評価液100gの組成を示す。これらの溶液の塩味増強作用を評価した結果を図1に示す。
【0031】
【表3】

【0032】
この結果、図1に示された通り、本発明塩味増強剤は比較例と比べて2倍以上の塩味増強率を示し、よって本発明塩味増強剤にはアルギニンと組み合わせても優れた塩味増強作用が認められた。また、本発明塩味増強剤の塩味増強作用は、脱アミド化処理の有無に関わらず、他の蛋白質素材酵素分解物(比較例)よりも顕著に高いことが示された。
上記実施例3及び4の結果より、本発明塩味増強剤はそれ単独、あるいはアルギニンと組み合わせることにより優れた塩味増強作用を示すことが確認された。
【実施例5】
【0033】
各pHにおける本発明塩味増強剤の評価
実施例2の酵素分解物について、各pHにおける効果を確認した。即ち、各酵素分解物の有効成分が2%、アルギニンの濃度が0.7%、また塩化ナトリウム濃度が0.49%、さらにpH4.0、pH5.0、pH6.0、pH7.0、pH8.0になるように2N HClにて調整した後、蒸留水を加え100gとした評価液を作製した。これらの溶液の塩味増強作用を評価した結果を図2に示す。
この結果、pH5から8において塩味増強作用を示し、特にpH5.5から6.5付近において本発明塩味増強剤の効果が最大限に発揮されることが示された。
【実施例6】
【0034】
蛋白加水酵素分解処理条件の検討
実施例2の酵素分解物について、各種蛋白加水分解条件を検討した。実施例2に従って核酸加水分解処理を行った鮭白子について、各種蛋白加水分解酵素及び条件にて処理を行い、各酵素分解物6-1から6-6を得た。得られた各酵素分解物について、各酵素分解物の有効成分が1%、アルギニンの濃度が0.35%、また塩化ナトリウム濃度が0.49%、さらにpH6.0になるように2N HClにて調整した後、蒸留水を加え100gとした評価液を作製した。各種蛋白加水分解酵素及びその処理条件を表4に、これらの溶液の塩味増強作用を評価した結果を図3にそれぞれ示す。
【0035】
【表4】

【0036】
この結果、全ての分解物において塩味増強効果が確認され、特にアルカラーゼとフレーバーザイムを組み合わせた6-2、6-3、オリエンターゼONSとフレーバーザイムを組み合わせた6-5、及びアルカラーゼのみで処理した6-8においては、実施例2の本発明塩味増強剤と同等以上の効果が認められた。本実施例の結果から、蛋白加水分解酵素は実施例6-6、6-7のような酸性条件で作用する酸性プロテアーゼよりも、中性からアルカリ性で作用するアルカリプロテアーゼを用いるほうがより効果が高い分解物が得られることがわかった。
【実施例7】
【0037】
本発明塩味増強剤を用いた食品の製造及び塩味評価
実施例2で得られた本発明塩味増強剤を添加して、食品として鮭フレークを作製した。まず表5に示す調味液1、2を作製した。本発明塩味増強剤をこの調味液に添加して用いた。本発明塩味増強剤は、アルギニン及び/又はKClを添加した後、2N HClにてpH6.0に調整して用いた。各試験区鮭フレークの食塩含量は、約2.0%となるように、無塩鮭落とし身と塩締め鮭落とし身の配合割合を加減した。調味液を鮭落とし身に満遍なく添加し、フライパン上でかき混ぜながら約15分間加熱し、水分を蒸発させることにより鮭フレークを得た。各試験区の配合及び配合時の食塩量の実測値を表6に示す。
【0038】
【表5】

(旨味調味料はグルタミン酸ナトリウム95%+核酸5%)
【0039】
【表6】

【0040】
次に、上記表6の配合の各鮭フレークの塩味を評価した。評価は、食塩濃度を約2.0%に調整した試験区鮭フレークの塩味強度を、約2.0% 、約3.5%、約4.0%に調整した標準鮭フレークの塩味強度と尺度基準法により比較した。即ち、試験区鮭フレークの塩味強度は、3点の標準鮭フレークの塩分濃度を直線で結んだ場合、試験区鮭フレークの塩味がどのあたりに位置するかで評価した。パネルは、飲食品の調味の専門家で構成した。また試料区鮭フレークの減塩率は、塩味増強剤を添加することで塩味強度を上げ、どの程度食塩が減らせるかを求めるため、以下の式3にて算出した。評価結果を表7に示す。
【0041】
【数3】

【0042】
【表7】

【0043】
この結果、表7に示される通り鮭白子酵素分解物とアルギニンを添加した試験区2は、添加していない試験区1に比べ、明らかに塩味が増強された。さらに、塩化カリウムを添加した試験区3では、より塩味増強の効果が確認された。また、本発明塩味増強剤の使用は、鮭フレークに対して塩味以外の味に大きな影響を与えないことも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明により、優れた塩味増強剤が提供され、減塩を目的とした時の塩味の不足を補うことが可能となり、風味の優れた各種減塩食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施例4における、アルギニンを添加した時の本発明塩味増強剤及び比較例の塩味増強作用を評価した結果を示す。
【図2】実施例5における、各pHに調整した時の本発明塩味増強剤の作用を評価した結果を示す。
【図3】実施例6における、各蛋白加水分解条件における本発明塩味増強剤の作用を評価した結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鮭白子の酵素分解物からなる塩味増強剤。
【請求項2】
酵素分解物が蛋白加水分解酵素及び/又は核酸加水分解酵素により処理されたものである、請求項1記載の塩味増強剤。
【請求項3】
さらに塩基性アミノ酸を添加した、請求項1又は2記載の塩味増強剤。
【請求項4】
塩基性アミノ酸がアルギニンである、請求項3記載の塩味増強剤。
【請求項5】
さらに塩化カリウムを添加した、請求項1乃至4記載の塩味増強剤。
【請求項6】
pHを5〜8に調整した、請求項1乃至5記載の塩味増強剤。
【請求項7】
鮭白子を酵素で処理すること、又は鮭白子を酵素で処理した後塩基性アミノ酸及び/又は塩化カリウムを組み合わせること特徴とする、請求項1乃至6記載の塩味増強剤の製造方法。
【請求項8】
酵素処理が蛋白加水分解酵素及び/又は核酸加水分解酵素である、請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
塩基性アミノ酸がアルギニンである、請求項7又は8記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至6記載の塩味増強剤、又は請求項7乃至9記載の製造方法により得られた塩味増強剤を食塩を含有する食品に添加することを特徴とする塩味の増強方法。
【請求項11】
請求項1乃至6記載の塩味増強剤、又は請求項7乃至9記載の製造方法により得られた塩味増強剤を添加した飲食品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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