説明

塩基配列検出方法

【目的】本発明は、操作性、定量性、感度等に優れる塩基配列の検出方法の提供を目的としている。
【構成】DMSOのような反応促進剤の存在下、標的配列と2本鎖を形成したプローブDNAをエクソヌクレアーゼIIIの作用により3’側から分解させ、生成する分解産物を検出することによる塩基配列検出方法。
【効果】本発明は、標的配列の増幅、ならびに検出において次のような利点を持つ。
1.温度制御が不要である2.反応が直線的で定量性や感度に優れる3.増幅時のコンタミネーションの影響を受けにくい4.プローブDNAの合成が容易

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、試料中に存在する特定の塩基配列(以下標的配列という)の検出方法に関するものである。プローブDNAを用いた遺伝子診断法は、遺伝的疾患や感染症の診断に有効である。検体中に目的の遺伝子が存在するか否かを見るために、検体より抽出した核酸(DNAあるいはRNA)と標識したプローブDNAとを混合し、特異的にハイブリダイズした標識体の量を測定することにより目的の遺伝子を検出する事が行われている。
【0002】
【従来技術の問題点】核酸塩基配列の相補性に基づく分析方法は、遺伝的な特徴を直接的に分析することができるため、遺伝的疾患、癌化、微生物の識別等には有力な手段である。また遺伝子を検出対象とするために、培養のような時間のかかる操作を省略できる場合も有る。しかし、検体中に目的の遺伝子量が少ない場合の検出は容易ではなく、標的遺伝子そのものあるいは検出シグナル等を増幅することが必要となる。標的遺伝子を増幅する方法のひとつにPCR(Polymerase Chain Reaction)法が知られている。PCR法はin vitroにおける核酸の増幅技術としてもっとも一般的な方法であるが、次のような問題点が指摘されている。すなわち、実施のために特別な温度調節装置が必要なこと、増幅反応が対数的に進むことから定量性に問題があること、増幅した産物によるコンタミネーションが起こり易いこと等の問題点が知られている。コンタミネーションとは以前の反応で生じた増幅産物がつぎの反応液に誤って混入する事をいい、PCRのようにDNAを数百万倍にまで増幅させる反応では混入した微量DNAも同様に増幅されるため誤った結果を与える。これは特に多数の検体を同時に扱う場合には重大な問題となる。
【0003】他方、検出シグナルを増幅する方法としてはQβレプリカーゼでシグナルRNAを増幅する方法(Bio/Technology,6,1197-1202(1988)P.M.Lizardietal.)が報告されている。しかしこの方法は増幅させる配列をレプリカーゼが認識する配列内に挿入する必要があり、その立体構造上の制約から挿入の位置や配列が制限される等の問題がある。これらの方法は検出対象となる塩基配列を増幅するものであるが、以下に述べるような分解産物を検出するシグナル増幅法も考案されている。たとえば、標的核酸にオリゴプローブDNAをハイブリダイズさせた後制限酵素処理し、切断されたプローブ断片を検出するシグナル増幅法が知られている(EP−0455517/A1)。この方法は検出感度も比較的良く、定量性があり、特別な装置を必要としない等の利点がある。しかし、この方法を遂行するにはプローブDNA以外に反応が繰り返し起こるようにするための特異的な配列を持つ第二のオリゴヌクレオチドを共存させる必要がある。また検出する部位に制限酵素切断部位が必要であるために検出部位が制限される等の欠点も持つ。
【0004】そのほかに2本鎖DNAを特異的に切断するλエクソヌクレアーゼを用いたサイクリングアッセイ法も開発されている(BioTechniques Vol.13,No.6(1992))。この方法は、オリゴヌクレオチドプローブが相補的な配列とハイブリダイズして形成された2本鎖DNAにλエクソヌクレアーゼを作用させ、プローブDNAが2本鎖を維持出来ない程度まで分解されると新たなプローブDNAと置き替わり、続いてこの新たなプローブも分解されることによりサイクリング反応が起こるというものである。この分解産物を検出する事により特定のDNA配列の有無を判定できる。この方法は原理がシンプルであり、また検出部位の配列が制限されないという点では制限酵素を用いる方法よりも有利である。しかしλエクソヌクレアーゼは、基質として5’末端がリン酸化されたプローブDNAを要求する。DNA合成機を用いてプローブDNAを化学合成した場合5’末端はリン酸化されておらず、そのため合成後改めて末端をリン酸化する必要がある。しかし、5’末端が完全にリン酸化されているのかどうかを確認することが難しいためプローブ調製の再現性の点で問題が残る。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、特殊な装置が要求される複雑な温度制御によらず、シンプルな反応系でコンタミネーションの影響を受け難い塩基配列の検出技術の提供を目的としている。また本発明は、これらの目的を達成するために検出対象となる塩基配列の制限やプローブDNA合成時の付加的な作業等をともなわない、汎用性に優れる検出技術を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため、一本鎖DNAには作用せずハイブリダイズしたプローブDNAのみを切断し、かつ塩基配列には限定されないヌクレアーゼ活性を利用したシグナル増幅法を開発し、本発明を完成した。すなわち本発明は、次の工程AとBを反応促進剤の存在下で繰り返すことによって産生されるプローブDNA分解産物を検出することを特徴とする塩基配列検出方法である。
A)標的DNAを含む検体に相補的なプローブDNAをハイブリダイズさせて2本鎖DNAを形成させる工程、B)Aで形成された2本鎖DNAにエクソヌクレアーゼIII(以下EXOと省略する)を作用させてプローブDNAを3’側から分解する工程
【0007】本発明において利用する標的DNAと相補性を持つプローブDNAは、核酸合成機を用いて化学的に合成することができる。また微生物やPCR法を利用して生物学的に増幅したDNAをプローブDNAとすることも可能である。本発明のプローブDNAの鎖長は、標的配列に対する特異性と反応時間等を考慮して約10〜100の間で設定する。プローブDNAの鎖長が短すぎると特異性やEXOの作用で断片化されたものと分離の点で問題を生じ易く、他方不必要に長いプローブDNAを用いるとEXOによる分解に時間がかかり反応のサイクル数を減らす結果につながりかねない。標的配列とホモロジーの高い配列が検体中で共存しているというような特殊な条件でなければ、15〜40塩基程度の鎖長とすれば十分な特異性で必要な反応サイクルを維持することができる。本発明で用いるプローブDNAは、たとえば5’末端のリン酸化というような特殊な処理は不要であるが、検出を容易にするためにあらかじめ標識しておくとよい。標識には、一般に核酸の標識技術として知られている方法を利用する。具体的には、ラジオアイソトープ、ビオチン、発光成分、蛍光成分、酵素、ハプテン等を例示することができる。プローブDNAは必ずしも標識される必要はなく、たとえばEXOの作用で分解され反応系に蓄積する特定の鎖長の断片の増加を追跡すれば塩基配列の検出は可能である。
【0008】これらの標識はプローブDNAの任意の位置に導入することができるが、導入位置によって検出対象が違ってくる。つまり3’側のEXOの作用でモノヌクレオチドに分解される部分を標識したときには、モノヌクレオチドが検出の対象となる。他方5’付近の短くなって標的配列から外れる部分を標識したときには、プローブDNAの断片を検出する必要が有る。EXOの酵素活性が標識によって立体障害を受ける可能性、またEXOの作用を受け2本鎖を維持できなくなって外れてくるプローブ断片のみを確実に検出することを考慮すると5’末端の標識が好ましい。
【0009】プローブDNAとしてアプリン酸、アピリミジン酸等のアベイシック部位を含むものを使用した場合は、EXOは上記の3’末端からの分解と共にこれらの部位をエンドヌクレオテックに切断する。この特性を利用すればプローブDNAの分解が3’末端のみならず複数位置で生じることになる。標識の検出にあたっては、EXOの作用を受けていない完全長のプローブDNAに由来する標識の信号と、ハイブリダイズ〜EXOによる分解を受けた産物に由来する標識の信号とを区別する必要がある。もっとも単純な方法は、両者を分子量の差に基づいて物理的に分離してしまう方法である。具体的には、液体クロマトグラフィーや電気泳動等の手法が応用できる。この他にもアポ酵素で標識しておきプローブDNAがEXOの作用で短くなったときにだけ立体障害が除去されて液相中のホロ酵素と複合化し酵素活性を発現するというCEDIA法(Clinica Chimica Acta, vol.185, 231-240 (1989))等の検出系の応用も可能と考えられる。その他、前記アベイシック部位を導入した時にはアベイシック部位を挟んで特定の組み合せからなる標識を結合させておけば更に簡便な分析系を構成することができる。標識の組み合せとしては、発光−消光標識の組み合せ、蛍光−偏光標識の組み合せ等を例示することができる。このような標識の組み合せを利用すれば、両者の物理的な距離の変化を信号の変化として追跡することができるので、均一系での分析が可能となる。
【0010】他方、本発明におけるEXOは、EXO活性を持つものであればその由来は問わない。現在のところ大腸菌由来のものが市販されているが、これに限定されるものではなく、他の微生物やあるいは遺伝子組み換えによって得られたものであっても利用することができる。
【0011】つづいて標的配列とプローブDNAのハイブリダイズについて説明する。両者はハイブリダイズ可能な条件下で接触させる。この時の条件は特に限定されないが、EXOの存在下で全ての反応を進行させることに注意を向ける必要が有る。EXOはPCR法で用いられるTaqポリメラーゼのような高い耐熱性を持たないので、EXOの活性を維持できる条件を採用しなければならない。また温度以外の緩衝液の選択やpHの設定等も、ハイブリダイズのみならずEXOの活性が十分に発現できる条件を選択すべきである。具体的な条件を例示すれば、緩衝液としてトリス−塩酸緩衝液等を用いたとき、pHは約7〜9とし、20〜45℃で反応を行わせる。特に好ましい条件としては、pH7.5〜8.5、温度は30〜40℃を示すことができる。
【0012】本発明においては、プローブDNAの使用量も反応の結果を左右する要素となる。すなわち、標的配列に対してあまりにも少量のプローブDNAしか存在しない時には十分な感度を得られなくなるおそれがある。標的配列の量をあらかじめ予想することは困難であるが、少なくとも希望する検出範囲の量に対して10倍を越える量を、好ましくは100倍以上の大過剰量でプローブDNAを用いることが高い感度を確保するうえで重要な条件となる。
【0013】本発明による塩基配列の検出方法においては、ハイブリダイズ〜EXOによる分解にいたる反応を反応促進剤の存在下で行うことが必須条件である。本発明における反応促進剤とは、標的配列とプローブDNAとのハイブリダイズを促進ししかもEXOの活性を阻害しない化合物と定義することができる。好ましい反応促進剤としては、ジメチルスルフォキシド(以下DMSOと省略する)、エチレングリコール(以下EGと省略する)、およびプロピレングリコール(以下PGと省略する)等を示すことができる。これらの反応促進剤は、反応液中で5〜50%(W/V)、好ましくは10〜30%(W/V)の濃度で用いる。
【0014】なお、実施例で反応液に添加されている牛血清アルブミン(BSA)はEXO蛋白質の安定化剤として用いるものであるのでBSA以外の蛋白であってもよく、10−500/mlの濃度で使用すればよい。またメルカプトエタノールは酸化防止剤として用いるものであるので、これ以外にジチオスレオトール(DTT)等も使用できる。
【0015】以上のような本発明に必要な各種成分は、あらかじめ組み合せた試薬の形で供給することができる。あらためて本発明による塩基配列検出用試薬の構成を次に示す。以下に示す試薬には、更に標識の検出に必要な資材や反応液を構成する緩衝剤、あるいは陰性や陽性の対照等の任意の成分を組み合せてキットの形とすることもできる。
本発明による塩基配列検出用試薬の構成:・標的配列に相補的なプローブDNA・EXO・反応促進剤
【0016】次に本発明の反応原理を述べる。本発明による反応は図1に示すようなサイクルで進行する。すなわち、まずプローブDNAが標的配列にハイブリダイズして2本鎖を形成する。このとき一般的には標的配列を含むDNAが、プローブDNAの5’末端と3’末端の方向につきでた構造となる。(もちろん標的配列がDNAの5’末端に位置している時には3’側のみがつきでた構造となる。)ついでこの2本鎖となった部分の3’側からEXOによる分解が開始され、プローブDNAがモノヌクレオチドに分解される。EXOはDNAの2本鎖部分の3’末端からしか作用できないので、標的配列を含むDNAやハイブリダイズしていない遊離のプローブDNAはEXOによる分解を受けない。EXOによるプローブDNAの分解が進行すると、標的配列とプローブDNAの間に形成された塩基対が減少し、やがて2本鎖構造を維持できなくなってプローブDNAが外れ標的配列を含むDNAはもとの1本鎖にもどる。こうして標的配列を含むDNAはもとの1本鎖となって新たなプローブDNAとハイブリダイズし、他方EXOの作用で断片化されたプローブDNAが反応液中に遊離し蓄積されるのである。この反応原理からわかるように、標的配列はDNAの3’末端に位置しないように設定しなければならない。標的配列が3’末端に位置すると、プローブDNAと同様EXOの作用によって分解されてしまい以降のハイブリダイズが不可能になってしまうためである。
【0017】本発明は特定の塩基配列が分析対象となるDNAの中に存在するかどうかを高い精度と感度で検出するための技術を提供する。本発明の分析対象は、動物、植物、細菌、酵母、糸状菌、マイコプラズマ、リケッチア、ウイルス他あらゆるものにおよぶ。またDNAとしては、ゲノミックDNAはもちろん、RNAウイルスやmRNAから誘導されたcDNAを分析対象とすることも可能である。
【0018】
【作用】本発明におけるEXOは、標的配列とハイブリダイズしたプローブDNAのみを特異的に加水分解する作用を持つ。標的配列が存在しない時にはプローブDNAの分解は起こらず、またたとえ標的配列が存在していてもプローブDNAがハイブリダイズしない限り加水分解されることはない。EXOのこのような特性により、本発明における反応液中に蓄積するプローブDNAの分解産物は直線的に増加し、定量性の高い分析が可能となるのである。本発明の反応促進剤は、標的配列とプローブDNAのハイブリダイズを促進する作用を持つ。本発明は、この反応促進剤の存在によって迅速で定量性に優れた反応系を提供することができるのである。以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。
【0019】
【実施例】
1.HBV・DNAのHBV−e抗原遺伝子の検出HBV・DNAのHBV−e抗原遺伝子のEXOによる検出を試みた。EXOには大腸菌由来のものを、反応促進剤にはDMSO、EG、およびPGを、またプローブDNAには以下示す塩基配列を持つオリゴヌクレオチドを化学合成して用いた。
塩基配列1:5'-AATGCCCCTATCTTATCAACACTTC-OH
【0020】1−a.プローブDNAの調整プローブDNAに用いたオリゴヌクレオチドは、ホスホアミダイド法によりCyclone plus DNA synthesizer(Milligen/Biosearch製、登録商標)にて合成した。合成したオリゴヌクレオチドはOligo-pakカートリッジカラム(Milligen/Biosearch製、登録商標)により精製した。得られたオリゴヌクレオチドは、γ-32PATPとT4キナーゼを用いて5’末端を32Pラベルした。ここで作成した32P標識オリゴヌクレオチドを未標識オリゴヌクレオチドと混合し、以下の実験の32P標識プローブDNAとした。なお、検出はオートラジオグラムにより行うのでその都合上 32P標識オリゴヌクレオチド量は一反応あたり約104cpmになるように添加した。
【0021】1−b.標的配列の検出32P標識したプローブDNAを、標的配列となるHBV・DNAを一部にもつM13ファージDNAと混合し、実際に本発明による反応を行わせた。具体的な反応液の組成は次に示すとおりである。
反応液の組成:標的配列(M13ファージDNA上にHBV−e抗原遺伝子領域を持つ1本鎖DNA、10fmol)
32P標識したプローブDNA、1pmol50mM Tris/HCl(pH8.0)
5mM MgCl210mM 2メルカプトエタノール50mM NaCl100μg/ml牛血清アルブミン(以下BSAと略す)
20% DMSO(あるいはEG、PG)
この反応液を37℃で10分間プレインキュベート後、EXO5U(宝酒造製)を添加し37℃で60分間反応させた。反応後10μlの停止液を添加し、65℃で5分間処理して反応を停止させた。続いて19%ポリアクリルアミドゲル(7M尿素含有)で電気泳動し、オートラジオグラフィーにより断片化したプローブDNAを検出した。結果は図2に示した。
停止液:80 %ホルムアミド15mM Tris/HCl (pH7.6)
5mMEDTA0.1%W/V BPB(Bromophenol Blue)
0.1%W/V XC−FF(Xylene Cyanol FF)
【0022】図2から明らかなように、20%のDMSO、EG、或いはPG存在下ではサイクリング反応が起こり易くなる事が分かった(レーン4,6,8)。従って、この条件下では鋳型となる標的配列の量以上のプローブDNAが分解され、その結果シグナルの増幅が起こる事が明らかとなった。なお、同様の条件でハイブリダイズ促進剤として知られているラクトース、レハロース、グルコース、サッカロース、マルトース、α-メチル−D-グルコシド、硫化ジメチル、ジメチルスルホン、硫酸ジメチル、アセトアミド、チオアセトアミド、尿素、チオ尿素、ホルムアミド、アセトン、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、硫安、スペルミジン、スペルミン、グリセリン、ジメチルホルムアミド、デンハルト溶液(0.02%フィコール、0.02%ポリビニルピロリドン、0.01%BSA)、フィコールについての実験も行ったが、反応促進効果はほとんど認められなかった。
【0023】2.DMSOの至適濃度1.と同じ条件でDMSOの濃度のみを10〜50%に変えてDMSOの至適濃度を調査した。結果は図3に示した。DMSOの濃度が10〜30%では反応の進行が認められるが、40%以上では無添加のときと同様にほとんど反応が進行しなくなることが分かった。従って、至適濃度は20%程度であることが明らかとなった。(レーン3)
【0024】3.反応促進剤の作用反応促進剤の作用を確認するために次の実験を行った。反応促進剤には20%のDMSO、EG、およびPGを用い、その他の条件は1.にしたがった。なおハイブリダイズしたDNAを同時に検出するため、反応停止液を添加後の65℃で5分間の熱処理を除き、直接ポリアクリルアミドゲルにて電気泳動をおこなった。
【0025】3−a.標的配列を含むM13ファージDNAと32P標識プローブDNAを混合し、65℃で10分加熱後37℃で10分間アニール処理を行いハイブリダイズさせた。続いてEXOを添加し37℃で60分間分解反応をおこなった。
【0026】3ーb.始めにハイブリダイズしていたプローブが分解された後、フリーとなった標的配列に新たなプローブが再びハイブリダイズして起こるサイクリング反応(図1の2ラウンド目以降の反応)を見るため、3−bの実験を行った。標的配列を含むM13ファージDNAと標識していないプローブDNAとを混合し65℃10分間加熱後37℃で10分間アニール処理を行いハイブリダイズさせた。続いてEXO、32P標識プローブDNAを添加し、37℃で60分間分解反応をおこなった。
【0027】いずれの場合も分解反応の終了後に1.と同じ様に反応液をオートラジオグラフィーにより分析した。結果を図4に示す。レーン1〜3が3−a.に、レーン4〜6が3−b.に対応している。なお図4にはDMSOの結果しか示さないが、他の反応促進剤においてもほぼ同様の実験結果を得た。反応促進剤非存在下ではアニール処理によってハイブリダイズしていたプローブDNAは分解されるが(レーン2)、2ラウンド目以降の37℃でのハイブリダイゼーションと分解反応からなるサイクリング反応が起こりにくいことがわかった(レーン5)。
【0028】3−c(実験結果は示さない).反応促進剤の作用を確認するために単にハイブリダイズに対する促進効果のみを調査した。実験として次に示す温度条件で等量の32P標識プローブDNAと標的配列のハイブリダイズに及ぼす反応促進剤の影響を観察した。反応後は1.と同様にオートラジオグラフィーにより分析した。温度条件として次の3点を調べた。
条件A:煮沸2分/65℃で10分/37℃で10分条件B:65℃で10分/37℃で10分条件C:37℃で10分反応液はハイブリダイゼーションの効率のみを見るため、32P標識プローブ50fmol、標的配列を含むM13ファージDNA(50fmol)を使用し、反応促進剤20%(DMSO、PG、またはEG)を添加した。その他の反応液の組成は実験1.と同様である。その結果、反応促進剤が存在する場合はいずれの温度条件でも十分にハイブリダイズしていたが、反応促進剤が存在しない時には温度条件にはかかわらずわずかのハイブリダイズしか確認されなかった。特に条件C(37℃で10分)では反応促進剤が無ければ痕跡程度のハイブリダイズしか観察されず、反応促進剤がハイブリダイズを促進していることが明らかとなった。以上の実験により、一定温度(37℃)の条件下での標的配列とプローブDNAのハイブリダイズの効率を添加剤が促進していることがわかった。またEXOに対しては少なくともプローブDNA分解活性を阻害しないため、図1のサイクリング反応が進行すると考えられる。
【0029】4.DMSO存在下での検出感度1.と同じ操作で検出対象となるDNA量を0〜1pmolに変化させて本発明による検出方法の感度を確認した。結果を図5に示す。10fmol程度のDNAを検出可能なことが確認された。本発明による検出方法の感度がきわめて高いことがわかる。
【0030】5.反応特異性本発明による検出方法の反応特異性を確認した。検出対象として次のようなDNAを用い、操作は1.にしたがった。結果を図6に示す。
検出対象としたDNA:・プローブDNAと相補的な配列をもつM13ファージ環状1本鎖DNA(レーン3)
・プローブDNAと同じ配列(方向性が同一であるため相補的ではない)を持つM13ファージ環状1本鎖DNA(レーン4)
・挿入配列を持たないM13ファージ1本鎖環状DNA(レーン5)
・プローブDNAと相補的な配列をもつM13直鎖状DNA(HBV−e抗原遺伝子領域を持つM13RF・DNAを制限酵素EcoRIで切断して直鎖状とし95℃で加熱処理して変性させたもの、レーン6)
・対照として、プローブDNAのみを泳動した(レーン1)、・標的配列の無い状態でEXOを反応させた(レーン2)。
図から明らかなように、プローブDNAの分解は検出対象となるDNAが標的配列を含む場合にのみ観察され(レーン3、6)、本発明による検出方法が特異的であることが確認された。データは示さないが、この他にもサケ精子DNAを対象とした場合にもプローブDNAの分解が起きないことを確認した。
【0031】
【発明の効果】本発明によれば、特別な温度制御操作をすることなく塩基配列の増幅と検出を行うことができるので自動化が容易である。また本発明による反応では、生成物の増加が直線的に進むので標的核酸の定量性に優れる。PCR法では生成物が指数的に増加するため増幅率には優れるものの反応条件を厳しく管理しても定量性には限界があるが、本発明では反応条件の管理が容易なうえ十分な定量性を維持することが可能である。本発明の利点の一つに、コンタミネーションの影響を受け難いことがあげられる。すなわち本発明ではEXOによって分解したプローブを検出するので、たとえ増幅後の核酸がコンタミネーションを起こしても増幅につながるおそれはない。PCR法では誤って増幅された配列が新たな鋳型として機能するため、特に反応初期のクロスコンタミネーションは結果に重大な影響をおよぼす。このような特性から見ても本発明の定量性が優れているということができる。更に本発明の付随的な効果として変異位置の特定に応用可能なことがあげられる。標的核酸に変異部位が存在する時は、プローブDNAとのミスマッチの位置でEXOによる分解が起こりにくくなる。したがって、分解後のプローブDNAの長さを測定する事により標的核酸上の変異の位置が限定出来得る。以上のようにこの本発明による塩基配列の検出方法は種々の利点を有するものであり、遺伝子の分析において有効な方法となることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明の反応原理を示す模式図である。
【図2】図2は本発明によるHBV−e抗原遺伝子の検出方法によって得られたオートラジオグラフィーの結果を示す模式図である。
レーン1,3,5,7: 標的配列非存在下に反応させた。
レーン2,4,6,8: 標的配列(10fmol)存在下反応させた。
レーン1,2: 添加剤を加えない条件下反応させた。
レーン3,4: 添加剤としてDMSO(20%)を加えて反応させた。
レーン5,6: 添加剤としてPG(20%)を加えて反応させた。
レーン7,8: 添加剤としてEG(20%)を加えて反応させた。
【図3】図3はDMSO濃度を変化させて至適濃度を調査したオートラジオグラフィーの結果を示す模式図である。
レーン1:DMSOを添加せず反応させた。
レーン2:10%DMSO存在下反応させた。
レーン3:20%DMSO存在下反応させた。
レーン4:30%DMSO存在下反応させた。
レーン5:40%DMSO存在下反応させた。
レーン6:50%DMSO存在下反応させた。
【図4】図4は、反応促進剤の作用を調査したオートラジオグラフィーの結果を示す模式図である。レーン1〜3が3−a.に、レーン4〜6が3−b.に対応している。
レーン1,4:プローブDNAのみ。
レーン2,5:DMSOを添加しない。
レーン3,6:20%DMSOを添加した。
レーン1,2,3:32P標識プローブをはじめから添加しEXO処理した。
レーン4,5,6:未標識プローブをハイブリダイズさせた後、EXOと32P標識プローブを添加した。
【図5】図5は標的配列の濃度を変化させて感度を調査したオートラジオグラフィーの結果を示す模式図である。
レーン1:標的配列を含むDNAを添加せず、反応させた。
レーン2:標的配列を含むDNAを1pmol添加し反応させた。
レーン3:標的配列を含むDNAを100fmol添加し反応させた。
レーン4:標的配列を含むDNAを10fmol添加し反応させた。
レーン5:標的配列を含むDNAを1fmol添加し反応させた。
【図6】図6は検出対象となるDNAを変化させて特異性を調査したオートラジオグラフィーの結果を示す模式図である。
レーン1:プローブDNAのみ。
レーン2:標的配列を含むDNAを添加せず反応させた。
レーン3:プローブDNAと相補的な配列をもつM13ファージ環状1本鎖DNA。
レーン4:プローブDNAと同じ配列(相補的ではない)をもつM13ファージ環状1本鎖DNA。
レーン5:挿入配列を持たないM13ファージ1本鎖環状DNA。
レーン6:プローブDNAと相補的な配列をもつ二本鎖直鎖状のDNA。

【特許請求の範囲】
【請求項1】次の工程AとBを反応促進剤の存在下で繰り返すことによって産生されるプローブDNA分解産物を検出することを特徴とする塩基配列検出方法。
A)標的DNAを含む検体に相補的なプローブDNAをハイブリダイズさせて2本鎖DNAを形成させる工程、B)Aで形成された2本鎖DNAにエクソヌクレアーゼIIIを作用させてプローブDNAを3’側から分解する工程
【請求項2】プローブDNAを予想される標的DNAの量に対して過剰量で用いることを特徴とする請求項1の塩基配列検出方法。
【請求項3】反応促進剤が、ジメチルスルフォキシド、エチレングリコール、およびプロピレングリコールからなる群から選ばれる請求項1の塩基配列検出方法。
【請求項4】標的DNAに相補的なプローブDNAの5’末端が標識されていることを特徴とする請求項1の塩基配列検出方法。
【請求項5】標的DNAが逆転写酵素によってRNAから誘導されたcDNAであることを特徴とする請求項1の塩基配列検出方法。
【請求項6】標的DNAに相補的なプローブDNA、エクソヌクレアーゼIII、および反応促進剤とで構成されることを特徴とする塩基配列検出用試薬。
【請求項7】反応促進剤が、ジメチルスルフォキシド、エチレングリコール、およびプロピレングリコールからなる群から選ばれる請求項6の塩基配列検出用試薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開平6−327499
【公開日】平成6年(1994)11月29日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−142745
【出願日】平成5年(1993)5月21日
【出願人】(000120456)栄研化学株式会社 (67)
【出願人】(000002956)田辺製薬株式会社 (225)