説明

変倍光学装置

【課題】 ズーム式双眼鏡など変倍機能を有する光学装置の光学特性の改善、軽量化、変倍操作の迅速化。
【解決手段】 対物レンズ7と接眼レンズ3との間の光軸上に、この光軸に沿って移動可能に変倍レンズ4を介装した光学装置において、前記変倍レンズが高倍率域にあるときの光学特性を調節する調節レンズ5を設ける。前記調節レンズは、その光軸上の位置と、光路から退避した位置とのいずれかの位置に選択的に移動できるように支持する。前記調節レンズの位置は、変倍レンズの位置を調節する変倍機構に連動して、変倍レンズが高倍率域にあるときに調節レンズが光軸上の位置に、変倍レンズが低倍率域にあるときに調節レンズが前記退避位置に、それぞれ移動するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、いわゆるズーム式の双眼鏡やフィールドスコープなどとして適用可能な変倍光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
双眼鏡を例にとると、一般に倍率が固定された方式の双眼鏡と、倍率を変化させることのできる方式、いわゆるズーム式の双眼鏡とがある。
【0003】
ズーム式の双眼鏡では、例えば特許文献1に示されるように、その変化する倍率にかかわらず良好な光学性能が得られるように、固定倍率の双眼鏡に比較して多数のレンズが設けられる。また、ピント位置を変化させることなく光学系の倍率を変化させる必要から複雑なレンズ移動機構が設けられる。
【0004】
【特許文献1】特開平10−246858
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
こうした従来のズーム式の双眼鏡は、その構成上、固定倍率の双眼鏡に比較して像が暗い、視界が狭い、あるいは光学系の収差補正が不十分で鮮明な画像が得られないなど、光学性能で劣るものになりがちである。
【0006】
また、ズーム式双眼鏡では最低倍率と最高倍率の両端の倍率のいずれかで使用されることが多いのであるが、レンズ移動機構が複雑であることから、この倍率両端間でのズーム操作が迅速に行えないという操作性上の問題もある。
【0007】
さらに、レンズが多く、複雑なレンズ移動機構を必要とすることから、固定倍率方式の双眼鏡に比較して高価で重量が嵩むものとなり、光学性能の点で有利な対物口径の大きな双眼鏡を実用化しにくいという問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、対物レンズと接眼レンズとの間の光軸上に、この光軸に沿って移動可能に変倍レンズを介装した変倍光学装置において、
前記変倍レンズが所定の倍率域にあるときの光学特性を調節する調節レンズと、
前記調節レンズを、前記光軸上の位置と、前記光軸から退避した位置とのいずれかの位置に選択的に移動及び保持する調節レンズ支持機構と、
前記調節レンズ支持機構を、前記変倍レンズの位置を調節する変倍機構に連動して、変倍レンズが前記所定の倍率域にあるときに前記調節レンズを前記光軸上の位置に、前記変倍レンズが前記以外の倍率域にあるときに前記調節レンズを前記退避位置に、それぞれ移動させる連動機構
とを備えたことを特徴とする変倍光学装置である。
【0009】
請求項2の発明は、前記請求項1の発明において、その調節レンズ支持機構を、
前記光軸と平行にかつ光路と干渉しない位置に設けた調節レンズ軸と、
前記調節レンズを保持すると共に、前記調節レンズ軸に回転可能に支持されて前記調節レンズを前記光軸上の位置及び光軸から退避した位置に回転移動させる調節レンズ枠と、
前記調節レンズ枠を前記光軸上の位置または光軸から退避した位置のいずれかの位置に選択的に付勢するバネ機構と
を備えてなるものとしたことを特徴とする変倍光学装置である。
【0010】
請求項3の発明は、前記請求項2の発明において、その変倍機構を、接眼レンズの周囲に回転可能かつ軸方向移動不能に設けた回転筒と、この回転筒の回転運動を光軸に沿った軸方向運動に変換して前記変倍レンズに伝達するカム機構とを備えてなるものとすると共に、
前記連動機構を、前記回転筒の回転に基づき、その回転方向に応じて前記調節レンズ支持枠を光軸上の位置または光軸から退避した位置のいずれかの位置に移動させるように構成したことを特徴とする変倍光学装置である。
【0011】
請求項4の発明は、前記各発明において、その調節レンズとして、前記対物レンズの焦点距離を拡大する凹レンズを設けると共に、この調節レンズを所定の高倍率域にあるときにのみ光軸上に位置するように前記連動機構を構成したことを特徴とする変倍光学装置である。
【0012】
請求項5の発明は、前記各発明において、その変倍光学装置を、前記対物レンズと調節レンズとの間にプリズムを介装した光学系を左眼用と右眼用の1対備えてなる双眼鏡として構成したことを特徴とする変倍光学装置である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1以下の各発明によれば、予め定めた所定の倍率域でのみ調節レンズを光軸上に位置させ、それ以外の倍率域では調節レンズを光路と干渉しない退避位置に位置させるようにしたので、倍率域に応じたレンズ特性を調節レンズの有無に応じて最適化することができる。したがって、従来のズーム式双眼鏡のように、常時同一のレンズ群を使用し、この同一のレンズ群を移動させることによって倍率を変化させるようにしたものに比較して、より少ないレンズ数で良好な光学特性を得ながらも幅広い倍率に対応することができる。
【0014】
また、この発明では倍率を変化させるにあたって複雑なレンズ移動は不要であるので、変倍機構の構造を簡潔にすることができ、これにより変倍の操作を迅速に行うことが可能になる。また、変倍機構が簡潔であってレンズ数を少なくできることから、この発明による変倍光学装置は従来のものに比較して低コストかつ軽量にすることができる。さらにこのことから、より大型の光学装置、例えば対物口径のより大きなズーム式双眼鏡を実用に供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明による変倍光学装置をズーム式双眼鏡として構成した実施形態につき図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1はこの実施形態の双眼鏡の縦断面図である。ただしこの図は説明のための断面図であるので、光軸または中心線を含む断面のみならず主要構造部を示すのに適した部分を含む不規則な断面により描いてある。
【0017】
図1において、1は双眼鏡の中心軸、2aは使用者の右眼にて使用される右側鏡筒、2bは同じく左眼にて使用される左側鏡筒である。説明の便宜上、右側鏡筒2aは低倍率時の状態を、左側鏡筒2bは高倍率時の状態をそれぞれ表わすように描いてある。また、図1以下の各図面および以下の説明において、右側鏡筒2aに関わる部位にはその符号に添え字aを、左側鏡筒2bに関わる部位にはその符号に添え字bを、それぞれ付して示してある。
【0018】
<基本的構成> まずこの双眼鏡の基本的な構成について説明する。この双眼鏡は、鏡筒2a(2b)の対物側に設けた対物レンズ7a(7b)からの像をポロプリズムタイプのプリズム6a(6b)により正立像に変換して接眼側に設けた接眼レンズ3a(3b)に入射して結像させる。対物レンズ7a(7b)と接眼レンズ3a(3b)は共に2枚のレンズを貼り合わせて1群2枚構成の凸レンズとして構成されている。ピント調節は対物レンズ7a(7b)をその光軸方向に進退させることにより行う。このピント調節機構では左右鏡筒2aと2bとを連結する中心軸1に設けたピント調節リングにより左右の対物レンズ7aと7bを同時に進退させるようにしている。このようないわゆるセンターフォーカス方式のピント調節機構や、中心軸1を介して左右の鏡筒2aと2bとを屈曲可能に連結することで眼幅調節ができるようにした構成については従来から知られているものと同様であってこの発明の特徴とするところではないのでその詳しい説明は省略する。
【0019】
プリズム6a(6b)と接眼レンズ3a(3b)との間には光軸方向に進退可能なように凸レンズからなる変倍レンズ4a(4b)を設けてある。この変倍レンズ4a(4b)と接眼レンズ3a(3b)との間の間隔を、使用者により操作される変倍機構を介して調節することにより接眼側の焦点距離を変化させて基本的な変倍作用つまりズーミングを行わせる。
【0020】
プリズム6a(6b)と変倍レンズ4a(4b)との間には調節レンズ5a(5b)を設けてある。この調節レンズ5a(5b)は、調節レンズ支持機構を介して、プリズム6a(6b)を透過してきた対物レンズ7a(7b)からの光軸とレンズ光軸が一致する位置(以下「光軸位置」という。)、または対物レンズ7a(7b)からの光路と干渉しない位置(以下「退避位置」という。)の何れかの位置をとるように、光軸横断方向に移動可能なように支持してある。この実施形態では、この調節レンズ5a(5b)を凹レンズで構成し、変倍レンズ4a(4b)が予め定めた高倍率の位置にあるとき、例えば図1で左側の鏡筒2bにて示されるように接眼レンズ3bに近接して接眼側の焦点距離が短くなっている状態のときには前記光軸位置に位置し、それ以外の倍率域では前記退避位置に位置するようにしている。これにより、前記高倍率域での対物側の焦点距離を大きくして、変倍レンズ4a(4b)のみに依存することなく大きな変倍率(ズーム比)が得られるようにしている。
【0021】
次に、上述したような動作を行わせるための各機構部分の詳細について説明する。
【0022】
<変倍機構の詳細> まず変倍レンズ4a(4b)を移動させるための変倍機構について説明する。この変倍機構は、使用者による回転筒21aの回転操作を光軸に沿った直線運動に変換して変倍レンズ4a(4b)に伝える機能を担っている。このように回転運動をその回転中心線に沿った直線運動に変換する機構は種々のものが知られているが、ここでは長穴とピンとを係合させた構成のカム機構を適用したものを例示する。
【0023】
この変倍機構は、鏡筒2a(2b)の接眼側端部に直円筒状に形成した接眼円筒部8a(8b)、その周囲に回転可能に嵌合した回転筒21a(21b)、前記接眼円筒部8a(8b)の内側に回転可能に嵌合したカム筒14a(14b)、及び前記カム筒14a(14b)の内側に回転及び軸方向摺動可能に嵌合した変倍レンズ枠12a(12b)を主たる構成要素とする。
【0024】
接眼円筒部8a(8b)の開放端には、接眼レンズ3a(3b)を保持した接眼レンズ枠11a(11b)がネジ込みにより取り付けてあり、この接眼レンズ枠11a(11b)と、接眼円筒部8a(8b)の基部に取り付けた板ベルトガイド24a(24b)との間に挟持することにより、回転筒21a(21b)をその軸方向への移動を規制しつつ回転可能に支持している。
【0025】
図2にも示したように、接眼円筒部8a(8b)には、接眼レンズ3a(3b)に近接した開放端部近傍に円周方向に沿って長穴からなる横溝9a(9b)を備えると共に、そのやや下方の中間部に、軸方向に沿って長穴からなる縦溝10a(10b)を備える。前記縦溝10a(10b)の軸方向の長さは変倍レンズ4a(4b)の所要移動量に対応するように決めてある。
【0026】
カム筒14a(14b)には、前記縦溝10a(10b)に対応する軸方向長さ及び位置を有する傾斜した長穴からなるカム溝15a(15b)を備える。このカム溝15a(15b)の円周方向の長さは、前記横溝9a(9b)の円周方向の長さに対応している。
【0027】
カム筒14a(14b)の上部外周には、前記横溝9a(9b)に係合するカム筒案内ピン17a(17b)が植え込まれている。このカム筒案内ピン17a(17b)は、横溝9a(9b)を貫通して、回転筒21a(21b)の内周面に軸方向に形成した内側縦溝22a(22b)に係合している。この構成に基づき、横溝9a(9b)によって許容される円周方向長さに相当する角度だけ、回転筒21a(21b)を接眼円筒部8a(8b)の周りに回転させることが可能となり、かつその回転はカム筒14a(14b)に伝えられる。
【0028】
変倍レンズ枠12a(12b)の外周には変倍レンズ枠案内ピン13a(13b)が植え込まれている。この変倍レンズ枠案内ピン13a(13b)は、カム筒14a(14b)のカム溝15a(15b)を貫通して接眼円筒部8a(8b)の縦溝10a(10b)に係合している。
【0029】
図2は、接眼側から見て図1の回転筒21a(21b)を前記カム筒案内ピン17a(17b)と横溝9a(9b)との係合において許容される範囲内で、時計方向に止まるところまで回した状態を表しており、このとき変倍レンズ枠案内ピン13a(13b)は縦溝10a(10b)及びカム溝15a(15b)の対物側の端部に位置している。この状態は変倍レンズ4a(4b)についての最小倍率位置となる。
【0030】
この状態から回転筒21a(21b)を反時計方向に回転させると、このときのカム筒14a(14b)の回転に伴い、傾斜したカム溝15a(15b)との係合により変倍レンズ枠案内ピン13a(13b)に接眼レンズ3a(3b)に接近する方向に向かう軸方向の推力が作用する。変倍レンズ枠案内ピン13a(13b)は前記推力を受けて縦溝10a(10b)に沿って前記方向つまり高倍率側に変倍レンズ4a(4b)を移動させる。
【0031】
回転筒21a(21b)を、カム筒案内ピン17a(17b)と横溝9a(9b)との係合において許容される範囲内で反時計方向に止まるところまで回した状態では、このとき変倍レンズ案内枠ピン13a(13b)は縦溝10a(10b)及びカム溝15a(15b)の接眼側の端部にそれぞれ位置している。この状態が変倍レンズ4a(4b)についての最大倍率位置となる。
【0032】
前記最大倍率の位置から回転筒21a(21b)を時計方向に回転させれば、前記と逆方向の作用により変倍レンズ4a(4b)は倍率減少方向に移動する。このようにして、回転筒21a(21b)の回転操作を行うことにより、変倍レンズ4a(4b)をその最小倍率位置から最大倍率位置まで連続的に移動させることができる。なお、この変倍機構は、本発明との関係においては請求項3の記載に対応する。
【0033】
図3と図4は前記変倍機構を左右で連動させるための構成の一例を示している。左右の回転筒21a、21bにはそれぞれの外周部に軸方向のツメかかり溝23a、23bを形成してある。このツメかかり溝23a、23bには、それぞれ板ベルト25の両端部に設けた右側ツメ26aと左側ツメ26bが係合する。板ベルト25は例えばバネ鋼等の可撓性を有する板状材料からなる。この板ベルト25は、左右の鏡筒2aと2bとにわたって、回転筒21aおよび21bのほぼ接線方向に沿った一連の溝を形成する板ベルトガイド24a、24bに収装してある。板ベルト25は前記板ベルトガイド24a、24bの溝に沿って進退することで左右の回転筒21a、21bの回転を相互に伝達する。したがって、一方の回転筒21aを操作することで他方の回転筒21bも同期的に作動してそれぞれの変倍機構が同一の倍率に設定される。
【0034】
<調節レンズ支持機構の詳細> 次に調節レンズ支持機構について説明する。この実施形態の調節レンズ支持機構は、図1に示したように、鏡筒2a(2b)内に光軸と平行にかつ光路と干渉しない位置に設けた調節レンズ軸20a(20b)、調節レンズ5a(5b)を保持すると共に、前記調節レンズ軸20a(20b)に回転可能に支持されて前記調節レンズ5a(5b)を光軸位置または退避位置に回転移動させる調節レンズ枠18a(18b)、及び前記調節レンズ枠18a(18b)を前記光軸位置または退避位置のいずれかの位置に選択的に付勢するバネ機構を主たる構成要素とする。
【0035】
図5と図6は、前記調節レンズ支持機構を接眼側から見た構造を示している。図5は調節レンズ5a(5b)が退避位置にある状態を、図6は同じく光軸位置にある状態をそれぞれ示している。調節レンズ枠18a(18b)は、調節レンズ軸20a(20b)に対してスナップリング等により抜け止めしてあるので軸方向には移動することなく、調節レンズ軸20a(20b)の周りに回転運動のみを行う。その回転運動の範囲は、前述したように調節レンズ5a(5b)が光路と干渉しない退避位置(図5)と、光軸が一致する光軸位置(図6)との間である。調節レンズ5a(5b)は、前記2つの何れかの位置を選択的にとるようにバネ機構により付勢される。
【0036】
バネ機構は、図5または図6に示したように、コイルの両端を腕部として延設したいわゆるネジリバネからなるバネ27a(27b)を備え、前記ネジリバネの一方の腕の端部を鏡筒2a(2b)に設けた固定穴28a(28b)に固定し、他方の腕の端部を調節レンズ枠18a(18b)に設けた穴19a(19b)に固定してなる。
【0037】
このバネ機構では、前述したように調節レンズ5a(5b)が退避位置または光軸位置の何れかの位置を選択的にとるように、つまり調節レンズ枠18a(18b)が前記何れかの位置に付勢されるように前記バネ27a(27b)の張力が作用する構成としてある。より具体的には、調節レンズ軸20a(20b)の中心と調節レンズ枠の穴19a(19b)の中心とを結ぶ線分を想定したとき、バネ固定穴28a(28b)を、調節レンズ枠18a(18b)が退避位置にあるときの前記線分と光軸位置にあるときの前記線分との中間域に位置するように設けてある。このような設定に基づき、調節レンズ枠18a(18b)がその回転範囲内で揺動するとき、調節レンズ軸20a(20b)の中心と前記固定穴28a(28b)の中心とを結ぶ線分を境界として、調節レンズ枠の穴19a(19b)が前記境界線よりも退避位置側に移動すると、バネ27a(27b)の張力は、調節レンズ軸20a(20b)を中心として調節レンズ枠18a(18b)を退避位置方向(図で反時計方向)に回転させるモーメントを生じる。これとは反対に、調節レンズ枠の穴19a(19b)が前記境界線よりも光軸位置側に移動すると、バネ27a(27b)の張力は、調節レンズ軸20a(20b)を中心として調節レンズ枠18a(18b)を光軸位置方向(図で時計方向)に回転させるモーメントを生じる。このような作用により、調節レンズ5a(5b)及び調節レンズ枠20a(20b)は、退避位置または光軸位置の何れかの位置に選択的に付勢される。なお、この調節レンズ支持機構は、本発明との関係においては請求項2の記載に対応する。
【0038】
<連動機構の詳細> この双眼鏡では、前述した調節レンズ支持機構を変倍機構と連動するようにしてある。次にこのための連動機構の構成例について説明する。この連動機構は、図1または図5、図6に示したように、カム筒14a(14b)の対物側の端面から軸方向に延設した突起部16a(16b)と、この突起部と係合するように調節レンズ枠18a(18b)の一側面に形成した溝カム部とを主たる構成要素とする。
【0039】
前記突起部16a(16b)と溝カム部とは、前記バネ27a(27b)の張力に抗して、回転筒21a(21b)及びカム筒14a(14b)が最小倍率の回転位置にあるとき(図5参照)には調節レンズ枠18a(18b)を退避位置に保持し、最大倍率の回転位置にあるとき(図6参照)には調節レンズ枠18a(18b)を光軸位置に保持している。いま調節レンズ枠18a(18b)が前記光軸位置に保持された状態から変倍機構を低倍率方向に操作すると、このときのカム筒14a(14b)の回転に伴い、調節レンズ枠18a(18b)は退避位置方向へと回転する。このときの回転量が前述した境界線を超えると調節レンズ枠18a(18b)はバネ27a(27b)の張力に基づき、速やかに退避位置へと付勢される。これに対して、調節レンズ枠18a(18b)が退避位置に保持された状態から変倍機構を高倍率方向に操作すると、このときのカム筒14a(14b)の回転に伴い、調節レンズ枠18a(18b)は光軸位置方向へと回転する。このときの回転量が前記境界線を超えると調節レンズ枠18a(18b)はバネ27a(27b)の張力に基づき、速やかに光軸位置へと付勢される。このようにして、調節レンズ5a(5b)は、変倍機構と連動して高倍率域では光軸位置へ、低倍率域では退避位置へと選択的に位置決めされる。この連動機構は、本発明との関係においては請求項3の記載に対応する。
【0040】
<実施形態による効果> この実施形態によれば、前述した本発明による効果に加えて次のような効果が得られる。
【0041】
第1には、前記調節レンズ5a(5b)の光軸上での位置決めを高精度でできると共に、その位置変化を迅速に行わせることができる。すなわち、この実施形態では光軸と平行に設けた調節レンズ軸20a(20b)の周りに調節レンズ枠18a(18b)を回転させるようにしたことから、対物−接眼レンズ間の光軸と調節レンズ5a(5b)の光軸とが交錯してしまうような不都合を回避して、それぞれの光軸を正確に一致させることができる。また、このように回転運動するように支持した調節レンズ枠18a(18b)を光軸位置または退避位置にバネ機構を介して付勢するようにしたので、構造が簡潔であって調節レンズの迅速な移動操作が可能である。
【0042】
第2には、前記変倍機構の操作を調節レンズ5a(5b)に伝達する連動機構の構成を簡潔にできると共に、その作動性をより確実にすることができる。すなわち、この実施形態では変倍レンズ4a(4b)を回転筒21a(21b)の操作によって光軸方向に移動させるようにしたうえで、この回転筒21a(21b)の回転に基づいて前記調節レンズ枠18a(18b)を回転させるようにしている。この場合、運動の伝達が回転運動同士でなされるので、連動機構として複雑な構成のものを適用することなく確実な作動性を得ることが可能になる。
【0043】
第3には、この実施形態の構成によれば無理なく高倍率が得られると共に倍率の変更操作をより迅速に行えるという効果が得られる。すなわち、この実施形態では、調節レンズ5a(5b)として凹レンズを設けたことにより、高倍率域での対物レンズ7a(7b)の焦点距離を拡大することができる。この場合、レンズの移動のみによって高い倍率を得る従来のものに比べて光学系全体でのレンズの数および倍率変更時のレンズ移動量を共に少なくできるので高倍率でありながら良好な光学特性を得やすく、また調節レンズ5a(5b)を挿入することで高倍率にできるので低倍率から高倍率への変更がより迅速にできる。
【0044】
第4には、すでに述べたところであるが、ズーム式双眼鏡のコストおよび重量を軽減してその有用性をより高められるという効果が得られる。すなわち、この実施形態によれば、変倍光学系として従来よりも少ないレンズ数で高い倍率が得られ、変倍のための機構も簡略にできるので、コストを低減できると共に重量を軽減できる。特に軽量化は手持ちで使用されることが多い双眼鏡の実用性向上に大きく貢献する。また一般に高価で小型のものに限定されがちなズーム式双眼鏡の低価格化または大型化が可能になる。
【0045】
なお、実施形態としては双眼鏡への適用例を示したが、この発明は双眼鏡に限られることなく、たとえば望遠鏡やフィールドスコープなどの単眼構成の光学装置にも適用可能であることはいうまでもない。
【0046】
また、実施形態では変倍光学系の高倍率域で凹レンズからなる調節レンズを挿入する構成を例示したが、調節レンズの種類やその挿入倍率域は任意に定めることができ、換言すると本発明によれば幅広い目的ないし用途において変倍光学系の最適化を図ることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】この発明による変倍光学装置を双眼鏡として構成した実施形態の縦断面図。
【図2】図1の実施形態の変倍機構の説明図。
【図3】図1の実施形態の回転筒部分の第1の状態を表す横断面図。
【図4】図1の実施形態の回転筒部分の第2の状態を表す横断面図。
【図5】図1の実施形態の調節レンズ部分の第1の状態を表す横断面図。
【図6】図1の実施形態の調節レンズ部分の第2の状態を表す横断面図。
【符号の説明】
【0048】
1 双眼鏡の中心軸、
2a 右側鏡筒(低倍率時)、
2b 左側鏡筒(高倍率時)
3a,3b 接眼レンズ、
4a,4b 変倍レンズ、
5a,5b 調節レンズ、
6a,6b プリズム、
7a,7b 対物レンズ、
8a,8b 接眼円筒部、
9a,9b 接眼円筒部の横溝、
10a,10b 接眼円筒部の縦溝、
11a,11b 接眼レンズ枠、
12a,12b 変倍レンズ枠、
13a,13b 変倍レンズ枠案内ピン、
14a,14b カム筒、
15a,15b カム筒のカム溝、
16a,16b カム筒の突起部、
17a,17b カム筒案内ピン、
18a,18b 調節レンズ枠、
19a,19b 調節レンズ枠の穴、
20a,20b 調節レンズ軸、
21a,21b 回転筒、
22a,22b 回転筒の内側縦溝、
23a,23b 回転筒のツメかかり溝、
24a,24b 板ベルトガイド、
25 板ベルト
26a,26b 板ベルトのツメ、
27a,27b バネ、
28a,28b バネの固定穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対物レンズと接眼レンズとの間の光軸上に、この光軸に沿って移動可能に変倍レンズを介装した変倍光学装置において、
前記変倍レンズが所定の倍率域にあるときの光学特性を調節する調節レンズと、
前記調節レンズを、前記光軸上の位置と、前記光軸から退避した位置とのいずれかの位置に選択的に移動及び保持する調節レンズ支持機構と、
前記調節レンズ支持機構を、前記変倍レンズの位置を調節する変倍機構に連動して、変倍レンズが前記所定の倍率域にあるときには前記調節レンズが前記光軸上の位置に、変倍レンズが前記以外の倍率域にあるときには前記調節レンズを前記退避位置に、それぞれ移動させる連動機構
とを備えたことを特徴とする変倍光学装置。
【請求項2】
前記調節レンズ支持機構は、前記光軸と平行にかつ光路と干渉しない位置に設けた調節レンズ軸と、
前記調節レンズを保持すると共に、前記調節レンズ軸に回転可能に支持されて前記調節レンズを前記光軸上の位置及び光軸から退避した位置に回転移動させる調節レンズ枠と、
前記調節レンズ枠を前記光軸上の位置または光軸から退避した位置のいずれかの位置に選択的に付勢するバネ機構と
を備えてなることを特徴とする請求項1に記載の変倍光学装置。
【請求項3】
前記変倍機構は、接眼レンズの周囲に回転可能かつ軸方向移動不能に設けた回転筒と、この回転筒の回転運動を光軸に沿った軸方向運動に変換して前記変倍レンズに伝達するカム機構とを備えてなると共に、
前記連動機構は、前記回転筒の回転に基づき、その回転方向に応じて前記調節レンズ支持枠を光軸上の位置または光軸から退避した位置のいずれかの位置に移動させるように構成したことを特徴とする請求項2に記載の変倍光学装置。
【請求項4】
前記調節レンズとして、前記対物レンズの焦点距離を拡大する凹レンズを設けると共に、この調節レンズを所定の高倍率域にあるときにのみ光軸上に位置するように前記連動機構を構成したことを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の変倍光学装置。
【請求項5】
前記変倍光学装置は、前記対物レンズと調節レンズとの間にプリズムを介装した光学系を左眼用と右眼用の1対備えてなる双眼鏡として構成してあることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の変倍光学装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate