説明

変形推測方法

【課題】被加工物に溶融凝固加工を施して加工生産物と成す際の、加工生産物の変形を推測する変形推測方法を提供すること。
【解決手段】この変形推測方法は、被加工物において、溶融凝固加工によって溶融凝固部が形成される溶融凝固部14aa(形成領域)と、溶融凝固加工によって溶融凝固部14aaが形成されない非形成領域14abとを分離して認識する第一ステップと、溶融凝固部14aaは直交異方性を有するハニカムコア材によって形成されたものとする一方で、非形成領域14abは等方性を有する無垢材によって形成されたものと置換する第二ステップと、第二ステップにおいて置換したモデルによって、被加工物に溶融凝固加工を施した加工生産物の変形を算出する第三ステップと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物に溶融凝固加工を施して加工生産物と成す際の、加工生産物の変形を推測する変形推測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両のボディを構成する鉄道車両構体は、複数のステンレス鋼板部材といった金属板部材を接合して構成される(例えば、下記特許文献1参照)。鉄道車両は多品種少量生産であることから、鉄道車両構体も多品種少量生産になっている。従って、鉄道車両構体を構成する金属板部材の形状も、多くの種類を少量ずつ生産することが求められている。
【0003】
一般的に金属板部材を所定の形状にしようとすれば、母材となる加工前の金属板を所定の形状に切り出して、その切り出した金属板に塑性加工を施して金属板部材を形成することになる。少量多品種生産の鉄道車両構体では、プレス加工によって金属板部材を大量生産することは不向きであることから、プレス金型が不要なレーザフォーミング加工といった溶融凝固加工によって部品を塑性変形させ、金属板部材とすることが有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−25785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、特に鉄道車両構体のように少量多品種生産を行う場合に、構成物としての金属板部材をレーザフォーミング加工といった溶融凝固加工によって形成することは好ましいものである。しかしながら、レーザフォーミング加工は、その加工による変形後の金属板部材の形状を予測し難いものである。
【0006】
そこで、レーザフォーミング加工といった溶融凝固加工によって、被加工物に溶融凝固加工を施して加工生産物と成す際に、加工生産物の変形を推測することが求められている。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、被加工物に溶融凝固加工を施して加工生産物と成す際の、加工生産物の変形を推測する変形推測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明に係る変形推測方法は、被加工物に溶融凝固加工を施して加工生産物と成す際の、前記加工生産物の変形を推測する変形推測方法であって、被加工物において、溶融凝固加工によって溶融凝固部が形成される形成領域と、溶融凝固加工によって溶融凝固部が形成されない非形成領域とを分離して認識する第一ステップと、前記形成領域は直交異方性を有するハニカムコア材によって形成されたものとする一方で、前記非形成領域は等方性を有する無垢材によって形成されたものと置換する第二ステップと、前記第二ステップにおいて置換したモデルによって、前記被加工物に溶融凝固加工を施した加工生産物の変形を算出する第三ステップと、を備える。
【0009】
本発明によれば、溶融凝固加工によって形成される溶融凝固部を形成領域として認識する一方で、溶融凝固部が形成されない部分を非形成領域として分離認識するので、加工生産物を複合構造物として認識することができる。更に、形成領域はハニカムコア材によって形成されたものとする一方で、非形成領域は無垢材によって形成されたものとするように置換するので、変形挙動を解析し,変形を算出することが可能となる。
【0010】
好ましくは、前記被加工物は金属板であり、前記溶融凝固加工はレーザ加工である。溶融凝固加工としてレーザ加工を用いているので、溶融凝固部を確実に柱状晶となすことができる。被加工物が金属板であるので、その一部に溶融凝固部である柱状晶が形成された場合の、加工生産物の変形予測を精度良く実行することが可能となる。
【0011】
好ましくは、前記第二ステップにおいて、前記溶融凝固部の柱状晶に応じて、対応させる前記ハニカムコア材の大きさおよび方向を追従させる。柱状晶は,溶融凝固部の溶け込み深さと冷却速度に応じて、溶融凝固開始端面から最終凝固点の方向に向かって成長する形で形成される。従って、溶融凝固部の柱状晶に応じて、対応させるハニカムコア材の大きさおよび方向を追従させることで、加工生産物の変形予測をより精度良く実行することが可能となる。
【0012】
好ましくは、前記被加工物を厚み方向に分割し、分割したそれぞれの部分において前記溶融凝固部に対応する前記ハニカムコア材を設定する。被加工物を厚み方向に分割することで、溶融凝固部の柱状晶に対応したハニカムコア材の置換設定がより正確なものとなり、加工生産物の変形予測をより精度良く実行することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、被加工物に溶融凝固加工を施して加工生産物と成す際の、加工生産物の変形を推測する変形推測方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態である変形推測方法を検証するための実験装置を示す概略図である。
【図2】図1に用いる被加工物であるステンレス鋼板に、レーザ加工を施した後の加工生産物の態様を模式的に示す図である。
【図3】図2に示す加工生産物を厚み方向に分割する状態を示す図である。
【図4】図2のA−A断面を示す図である。
【図5】図2のB−B断面を示す図である。
【図6】図3のC−C矢視を示す図である。
【図7】加工生産物の変形態様を示す図である。
【図8】ハニカムコア材を模式的に示す図である。
【図9】ハニカムコア材の変形態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0016】
本発明の実施形態である変形推測方法は、被加工物に溶融凝固加工を施して加工生産物と成す際の、加工生産物の変形を推測する変形推測方法である。本実施形態では、被加工物としてステンレス鋼板を用いる。溶融凝固加工はレーザ加工である。本実施形態の変形推測方法は、第一ステップと、第二ステップと、第三ステップとを備える。
【0017】
第一ステップでは、被加工物において、溶融凝固加工によって溶融凝固部が形成される形成領域と、溶融凝固加工によって溶融凝固部が形成されない非形成領域とを分離して認識する。第二ステップでは、形成領域は直交異方性を有するハニカムコア材によって形成されたものとする一方で、非形成領域は等方性を有する無垢材によって形成されたものと置換する。第三ステップでは、第二ステップにおいて置換したモデルによって、被加工物に溶融凝固加工を施した加工生産物の変形を算出する。
【0018】
このように、溶融凝固加工によって形成される溶融凝固部を形成領域として認識する一方で、溶融凝固部が形成されない部分を非形成領域として分離認識するので、加工生産物を複合構造物として認識することができる。更に、形成領域はハニカムコア材によって形成されたものとする一方で、非形成領域は無垢材によって形成されたものとするように置換するので、変形挙動を解析し,変形を算出することが可能となる。
【0019】
また、溶融凝固加工としてレーザ加工を用いているので、溶融凝固部を確実に柱状晶となすことができる。被加工物が金属板であるので、その一部に溶融凝固部である柱状晶が形成された場合の、加工生産物の変形予測を精度良く実行することが可能となる。
【0020】
また、第二ステップにおいて、溶融凝固部の柱状晶に応じて、対応させるハニカムコア材の大きさおよび方向を追従させる。柱状晶は,溶融凝固部の溶け込み深さと冷却速度に応じて、溶融凝固開始端面から最終凝固点の方向に向かって成長する形で形成される。従って、溶融凝固部の柱状晶に応じて、対応させるハニカムコア材の大きさおよび方向を追従させることで、加工生産物の変形予測をより精度良く実行することが可能となる。
【0021】
また、被加工物を厚み方向に分割し、分割したそれぞれの部分において溶融凝固部に対応するハニカムコア材を設定する。被加工物を厚み方向に分割することで、溶融凝固部の溶け込み深さに対応したハニカムコア材の置換設定がより正確なものとなり、加工生産物の変形予測をより精度良く実行することが可能となる。
【0022】
本実施形態の有効性を検証するため、実際に被加工物としてステンレス鋼板を準備し、レーザ加工を施して変形させ、その変形を予測した例を説明する。
【0023】
実験装置の概要を図1に示す。図1は、本発明の実施形態である変形推測方法を検証するための実験装置を示す概略図である。レーザ装置10は、発振波長940nm、最大出力6kW、連続発振のダイレクトダイオードレーザを用いている。レーザ装置10では、焦点距離130mmの集光光学装置を用いている。試験体である被加工物14の表面に集光し、スキャニング方向D1に沿って走査した。半値幅でのビーム集光形状は、矩形で3.5mm×0.5mmである。実験ではレーザ出力を4.0kWとした。アシストガスノズル12は,レーザ照射部の雰囲気を調整するためのアシストガスを供給するノズルである。なお,アシストガスにはArを用い,レーザ照射部に30L/minの流量で供給した。被加工物14は両端を自由端で保持できる装置(図示せず)に装着し、試験体の中央部に4.0m/minの走査速度で1回のみレーザを走査し、溶融凝固部を形成した。なお、レーザ照射後は試験体固定治具に30秒間保持したのち取り外している。
【0024】
試験体である被加工物14は、鉄道車両で多く用いられているステンレス鋼板SUS304である。形状は、幅170mm、長さ150mm、板厚1.0mmとした。
【0025】
レーザ走査後の試験体である加工生産物14aのレーザ走査方向の変形、それに直行する方向の変形を把握した。図2は、図1に用いる被加工物であるステンレス鋼板に、レーザ加工を施した後の加工生産物の態様を模式的に示す図である。図3は、図2に示す加工生産物を厚み方向に分割する状態を示す図である。図2及び図3に示すように、図1に示した装置構成によって、被加工物14にレーザフォーミング加工を施し、溶融凝固部14aa(形成領域)を形成した。溶融凝固部14aaが形成されない残余の領域は、金属無垢材のままの非形成領域14abである。
このように溶融凝固部14aaを形成した影響を把握するため、レーザ走査後の試験体である加工生産物14aを、レーザ走査方向と直交する方向に切断した溶融凝固部14aaの断面を横断面(断面A−A)、レーザ走査方向と平行方向に切断した溶融凝固部14aaの断面を縦断面(断面B−B)とした(図2参照)。また、試験体表面から一定の深さまで研磨した面をスライス面(矢視C−C)とした(図3参照)。
【0026】
図2及び図3に示すそれらの断面から、溶融凝固形状と柱状晶を観察した。なお、観察面は鏡面状態まで研磨仕上げを行い、王水塩化第二銅アンモニウム溶液でエッチングし、光学顕微鏡で金属組織を観察した。
【0027】
レーザ走査方向と直行する方向に切断した溶融凝固部14aa断面の横断面(断面A−A)を図4に示す。図4に示されるように、溶融凝固形状は半楕円形であり、柱状晶は被加工物14の溶融凝固開始端面14acから最終凝固点14adの方向に向かって成長している。
【0028】
レーザ走査方向と平行な方向に切断した溶融凝固部14aa断面の縦断面(断面B−B)を図5に示す。図5に示されるように、試験体板厚方向には均一な柱状晶を観察でき、その成長は、レーザ走査方向に約5度傾いている。
【0029】
試験体表面から一定の深さまで研磨したスライス面(矢視C−C)を図6に示す。母材である被形成領域14abと溶融凝固部14aaが平滑になる深さまで研磨し、溶融凝固部14aaの表層を観察した。図6に示されるように、レーザ走査線に対して左右対称で、溶融凝固部14aaの幅方向両端から中心に向かう漣状の柱状晶が観察できる。その方向はレーザ走査方向に約5度の傾きがある。溶融凝固部14aaの中央は、図4及び図5からもわかるように、柱状晶を真上から見た状態になっている。
【0030】
図7に示すように、レーザ走査後の試験体は、全体に鞍型に変形している。レーザ走査方向と直交する方向は、レーザ照射による溶融凝固部14aaを中心にレーザ照射面側において谷型に折れ曲がるように変形している。また、レーザ走査方向には、レーザ照射面の裏面側遠方に中心がある円弧のように変形している。
【0031】
当初本発明者らは、図4〜6に示すように柱状晶の成長方向に熱歪みが生じ、これを解析することで変形量や変形方向が予測できると考えた。しかしながら、当初の予測に反して試験体は図7に示すようにカップリングを伴い、鞍型に変形することがわかった。金属組織からこの変形を予測することは難しく、また定式化も容易でないと考えた。
【0032】
一方で本発明者らは、図4〜6に示すように、柱状晶の成長方向やその大きさが一定であること、また変形挙動が、軽量構造体に用いる蜂の巣状の構造体、ヘキサゴナルハニカムパネルのコア材(ハニカムコア材、図8参照)と類似性があることを見いだした。図9に示すように、六角柱が密接したハニカムコアの両端に曲げモーメントを与え面外変形させると鞍型に変形する。このようなカップリングを伴ったハニカムコアの変形挙動は、力学的に解析することが可能であり、上述したような置換により、ステンレス鋼板にレーザ加工を施した場合の変形挙動を予測することが可能となる。
【0033】
このように、レーザ加工による溶融凝固部14aaを直行異方性のあるハニカムコアに置き換え、未溶融の母材部分である被形成領域14abを等方的な無垢材に置き換えれば、メルトレーザフォーミングによる変形挙動を予測することができる。
【0034】
ステンレス鋼板にメルトレーザフォーミングを行った結果、溶融凝固部14aaの柱状晶は被加工物14の溶融凝固開始端面14acから最終凝固点14adの方向に向かって成長し、その方向に沿った歪みが生じ、全体に鞍型に変形する。本発明者らは、そこにハニカムコアの変形挙動との類似性を見出し、メルトレーザフォーミングによる変形挙動を予測できることを見出したものである。
【0035】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、前述した各具体例が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0036】
10:レーザ装置
12:アシストガスノズル
14:被加工物
14a:加工生産物
14aa:溶融凝固部
14ab:被形成領域
14ac:溶融凝固開始端面
14ad:最終凝固点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物に溶融凝固加工を施して加工生産物と成す際の、前記加工生産物の変形を推測する変形推測方法であって、
被加工物において、溶融凝固加工によって溶融凝固部が形成される形成領域と、溶融凝固加工によって溶融凝固部が形成されない非形成領域とを分離して認識する第一ステップと、
前記形成領域は直交異方性を有するハニカムコア材によって形成されたものとする一方で、前記非形成領域は等方性を有する無垢材によって形成されたものと置換する第二ステップと、
前記第二ステップにおいて置換したモデルによって、前記被加工物に溶融凝固加工を施した加工生産物の変形を算出する第三ステップと、を備える変形推測方法。
【請求項2】
前記被加工物は金属板であり、前記溶融凝固加工はレーザ加工であることを特徴とする請求項1に記載の変形推測方法。
【請求項3】
前記第二ステップにおいて、前記溶融凝固部の柱状晶に応じて、対応させる前記ハニカムコア材の大きさおよび方向を追従させることを特徴とする請求項2に記載の変形推測方法。
【請求項4】
前記被加工物を厚み方向に分割し、分割したそれぞれの部分において前記溶融凝固部に対応する前記ハニカムコア材を設定することを特徴とする請求項3に記載の変形推測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図8】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−176421(P2012−176421A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40106(P2011−40106)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000003377)東急車輛製造株式会社 (332)
【Fターム(参考)】